Episode 16 / 56

月光の機体と空飛ぶ乗り物

Chapter 1|黄砂に舞う羽根|16

この章の目次
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黄砂に舞う羽根 第16節 約12分

《16》

 月光が鋼色の機体に反射する。

 けたたましい爆音を静かな夜に鳴り響かせながら、巨大な鉄の塊が砂煙を上げなら空に舞い上がる。

 魔導を動力源とし、巨大なエンジンに膨大なエネルギー送り込む。

 全長は三五〇メートル以上もの巨体が宙に浮いた。

 シュラ帝國が世界に誇る、世界最大級の飛空挺〈キュプロクス〉が、夜空を支配しようとしている。

 幾つものライトを灯台の光のように撒き散らし、〈キュプロクス〉が天へ天へと昇っていく。

 風が少し強い。

 まるで風が唸り声をあげているようだ。

 〈キュプロクス〉が目指す航路は、夜空に燦然と輝く巨星――エヴァのもとへ。

 艦内では慌ただしく兵士たちが動いていた。

 武器の整備から小型飛空機の整備に時間を追われ、ひとりの〝少女〟を捕獲するために万全の準備が進められていた。

 皇帝ルオの前での失態は許されない。それは死に直結するからだ。それゆえ、兵士たちの士気は高まり、〝少女〟捕獲の準備は万全に万全を期した。

 艦内のほぼ中心部にある広い司令室では、皇帝ルオが艦長の椅子――つまりルオの特等席に脚を組んで座っていた。

「ライザ、どうするつもりなんだい?」

 ルオは斜め上を見上げて、不機嫌そうなライザに尋ねた。

「アタクシといたしましては、捕獲を第一優先事項、それができなければ破壊を推奨いたしますわ」

「破壊は勿体ないね」

 まったくそのとおりだとライザは思っていた。破壊と口にはしたが、ライザはエヴァを破壊する気など毛頭ない。

「では、人型エネルギープラント捕獲のために、〝黒い翼〟を投入いたします」

「朕は参謀ではないから、君の好きなようにやってくれればいい」

「御意のままに」

 ルオに軽く頭を下げたライザは、前方の席にいるオペレーターに命令を下した。

「〝黒の翼〟に出動の命令をなさい」

 それだけを言った。そう、すでに作戦は決まっていたのだ。〝黒の翼〟を投入することは最初から決まっており、艦内ではそれに沿って準備が進められていたのだ。

 シュラ帝國のエースパイロットで構成された、小型飛空機の精鋭部隊が〝黒の翼〟である。彼らの任務は常に戦闘の最前線に立つことであり、空での仕事を一手に引き受けるスペシャリスト集団でもある。〝黒の翼〟は常に模範でなければならないのだ。

 〝黒い翼〟の名のとおり、黒い翼を持つプロペラ型飛空機の周りには、黒尽くめの服に身を包む隊員たちが出動の要請を待っていた。

 格納庫で待機していた〝黒の翼〟部隊長に通達が下る。

 通信機を口元から下げた部隊長が、すぐさま隊員たちに指示を下す。

 隊員たちが慌ただしく動き、格納庫になんともいえぬ緊張感が走る。

 月明かりの下での作戦は困難を極める。その困難さと危険さは昼間の比ではない。それでも彼らは行く。ある者は愛する者のため、ある者は名誉や誇りのため、ある者は己のために空を翔け巡る。

 飛空機を運ぶための昇降口が開かれ、一機目の飛空機が飛空挺上部の発着場にエレベーターで運ばれていく。

 開かれた昇降口の先は闇だった。暗い夜空が広がっている。星々の煌きだけでは心もとない。それでも機械制御のエレベーターは上へと向かう。

 長く伸びる甲板の上から観える星はいつもよりも騒がしく輝いていた。

 ――二一時ちょうど作戦開始。

 プロペラが高速で回転し、助走をつけた飛空機が夜空へ飛び立った。

 後に続けと次々と黒い機体が空に飛び立つ。

 六機の黒い機体が群れをつくり、魔鳥のごとく夜空を舞う。

 星よりも、美しく輝く月下の〝少女〟――エヴァ。彼女は未だ夢現であった。

 〝黒い翼〟が近づいてくるのに気づいているのかいないのか。エヴァの瞳は遠くを見据えていた。

 六機の雲に映る黒い魔鳥の影が迷いなく、船を導く灯台のように輝くエヴァに向かって飛んでいく。

 〝黒の翼〟に課せられた任務は、エヴァの破壊に非ず捕獲だ。だが、どうやって宙に浮かぶものをプロペラ型飛空機が捕獲するのか?

 この手の任務は他に類を見ないと思いきや、〝黒の翼〟はこれまでに数多くの捕獲作戦を成功させていた。

 〝黒の翼〟のターゲットは必ずしも人や機械だけではない。中には宙を泳ぐ空魚や、巨鳥、空竜などもいた。この手の作戦をさせたら、〝黒の翼〟に優る飛空部隊はいないだろう。だが、今回の作戦は今まででもっとも困難が予想された。

 〈キュプロクス〉艦内の司令室にいるライザが、オペレーターに向かって喚くように指示を出す。

「無傷で捕獲するのよ!」

 そう、〝無傷〟で――という言葉が今回の作戦を困難なものにさせていた。しかも、相手はあくまで〝生物〟ではなく、〝機械〟なのだ。生物であれば、麻酔弾で眠らせることもできるが、姿形がいくらヒトに似ていようと機械に麻酔弾が効くはずがない。

 宙でじっとしているエヴァに近づいた〝黒い翼〟は、陣形を崩さぬまま減速する。

 エヴァに動きは見られない。逃げることもなく、戦う気配もなく、魂が抜けてしまっているようだ。

 黒い機体を操縦する部隊長が通信機を通して仲間に指示を出す。

《魔導ネット発射!》

 これを合図に六機の飛空機がエヴァを取り囲み、機体の先端から七色に輝く捕獲ネットを六機同時に発射した。

 輝く捕獲ネットは蜘蛛の巣のように広がりエヴァの身体を捕らえ張り付く。

 現代科学技術と〝失われし科学技術〟のアンバランスな融合。プロペラ機が超科学の粋を使っているのだ。

 伸縮自在の魔導ネットは見事エヴァを捕獲して捕らえた。

 エヴァはなんの抵抗もしなかった。それゆえに作戦がスムーズに進んだのだ。

 並んで飛ぶ六機の飛空機の先端から垂れ下がる六本の紐の先には、七色に輝く魔導ネットに包まれ毛糸玉のようになってしまっているエヴァがいる。あとはエヴァを〈キュプロクス〉まで運べば、作戦のほとんどが終了する。だがしかし、エヴァは空竜などとは違い麻酔弾によって眠らされていない。ただ、夢現なだけ。

 自由の象徴である翼を無理やり丸められ、身動き一つできないエヴァが、やっと目を大きく開けた。

 魔導ネットを破り白い翼が出た、紅い翼が出た。万が一、空竜が目を覚まし暴れても破れないはずの魔導ネットが破られた。紅白の翼から零れる煌きが、魔導ネットの力を中和させてしまったのだ。

 星よりも、月よりも、世界に昼をもたらす太陽よりも、エヴァは力強く燦然と輝いた。

 あまりに眩しすぎる輝きは、エヴァを包んでいた魔導ネットを、煌く炎によって燃やしてしまった。

 燃えがる炎の中でエヴァは巨大な翼を力いっぱい広げた。

 〝黒い翼〟の一機を光の柱が下から突き上げるように貫いた。

 夜空に儚い爆発音が響き渡る。

 エヴァの身体から幾つもの光の筋が放たれ、無差別に世界を照らし、上空で火炎の華が咲き乱れる。

 六機の機体は、花火のように儚くも美しく散った。

 〈キュクロプス〉の司令室で、〝黒の翼〟が壊滅させられたことを聞いたライザは、苦い顔をして皇帝の顔をちらりと覗きこんだ。

 ルオは素っ気無い表情をしていた。

「やっぱり駄目だったようだね。君も無理だとわかっていたのだろう?」

「はい、わかっておりました」

 〝無傷〟でエヴァを捕らえるなど無謀だった。それはライザも十分承知していた。だが、そうとわかっていても、彼女はエヴァを無傷で捕らえたかったのだ。

 前の席に座っているオペレーターが後ろを振り返った。

「ターゲットがカメラの撮影可能圏内に入りました」

「すぐさまスクリーンに映像を出しなさい」

 ライザが指示を出すと、前方の巨大スクリーンに白一色の映像が映し出された。スクリーンの故障かと思われたが、すぐに白はその大きさを縮め、闇に浮かぶ光球を映し出した。エヴァの身体は光の膜――球体状のバリアによって優しく包まれていた。

 オペレーターが激しく振り切られたメーターの針を見て叫んだ。

「測定不能のエネルギー反応を検出!」

 魔導師でもあるライザは背中に冷たいものを感じた。本能がなにかを恐れている。そして、彼女は発狂するように声をあげた。

「最大出力で防御フィールドを張りなさい!」

 スクリーンを見ていたライザは眼を見開いて言葉を詰まらせる。

 皇帝ルオは不気味に笑う。

「来るよ」

 ルオは畏れてなどいない。彼は心から楽しんでいた。危機的な状況の中に彼は至福を感じるのだ。

 夜空に浮かぶ光の玉は膨張し、縮んだ。

 エネルギーの集束。

 そして、放出。

 巨大なエネルギー光線がエヴァから放たれた。

 轟々と唸る光線は大気を燃やし、よりいっそう輝きを増して〈キュプロクス〉の真横を掠め、全長三五〇メートルを超す巨艦を激しく揺らした。そう、巨大な光の光線は〈キュプロクス〉を外れたのだ。

 だが、それだけでは終わらなかった。

 巨大な光線は輝きを増しながら〈キュプロクス〉の横を抜け、地上に向かって降り注ぐ。その先には巨大都市クーロンがあった。今、巨大な光は巨大都市を呑み込もうとしていたのだ。

 街に住む人々は、誰もが空を見上げ慌てふためいた。――巨大隕石が振って来る。そうとしか思えない巨大な光だった。

 空飛び乗り物を求めるアレンはリリスとともに、坑道入り口がある空き地の近くに来ていた。

「本当に空飛び乗り物なんてあんのかよ?」

「わしを信じておらぬのか?」

「ぜんぜん信じられないね。あんたって得体が知れないし、目的がハッキリしねえんだよ」

「得体が知れないのはお主とて同じことじゃ。お主はなぜ行くのじゃ?」

 どうしてアレンはエヴァのもとに行こうとしているのか?

「そんなの俺の勝手だろ」

「じゃったら、わしもわしの勝手じゃ。あの子の封印を解いたのも、お主に力を貸すのも、わしの勝手じゃ」

 舗装されていない乾いた道を進み、空き地の入り口までやって来たアレンは、顔を少し出して空き地のようすを窺った。

 地下遺跡でエヴァが見つかってもなお、坑道の入り口は帝國の兵士によって守られていた。だが、前よりは数がぐんと少なくなっている。これなら大暴れはしなくて済みそうだ。

 〈グングニール〉を構えたアレンが、リリスをこの場に残して空き地の中に飛び込んだ。

 アレンに気づいた兵士が小型マシンバルカンをいち早く撃った。

 夜の静寂に銃声の華々しい音が乱れる。

 兵士の誰かが大声をあげた。

「指名手配リストに載っている〝少年〟だ!」

 すでにアレンは帝國の指名手配リストに名を連ねていたのだ。しかも、この〝少年〟を生け捕りをした者には、七〇万イェンもの賞金が懸けられていた。三万イェンあれば、困ることなく一年間暮らせる額だということから、七〇万イェンがいかに高額かということがわかるだろう。そして、この賞金を懸けたのはもちろんライザだ。

 ちなみにトッシュに懸けられている懸賞金は、生け捕りならば一〇〇万イェン。死亡した場合は半額の五〇万イェンである。

 兵士たちはチャンスを逃さまいと必死になっていた。

 目の前にいる〝少年〟を生け捕りにしなけらばならない。だが、無傷というのは条件に含まれていない。兵士たちは銃で〝少年〟の足元を狙った。

 アレンは地面の上で躍らせれた。

「糞野郎どもが!」

 〈グングニール〉が吼える寸前だった。老婆リリスが風のように地面を滑り移動し、戦渦の真っ只中に立った。

「お眠り、童子たち」

 温かい風が吹き荒れた。

 その風は春の薫りを運び、花の蜜のような甘い香りで場を満たした。

 甘い香りは夢への誘い。

 小型マシンバルカンの音が静かな小雨になり、やがて止んだ。

 バタンと一人目の兵士が倒れたのを皮切りに、二人、三人――と兵士が次々と深い眠りに堕ちていく。

 その中でアレンもまた、目を両手で力いっぱい擦っていたが、プツンと糸が切れて背中から地面に倒れた。

 いびきをかいて大の字になって眠るアレンの頬にリリスが平手打ちをした。

「お主まで眠ってどうするのじゃ!」

 それは仕方あるまい。リリスの魔導によって眠りに堕ちたものは、ちょっとやそっとでは目を覚まさない。もしかしたら一生目を覚まさないこともある。それはリリス次第なのだ。

 リリスによって眠りから覚まされたアレンは、眠気眼の夢心地で魂が抜けてしまっているようだった。夢の世界はそれほどまでに魅惑的だったのである。

「もう肉喰えねえ……腹いっぱい……」

 どんな夢を見ていたのかは想像ができた。

「しっかりするのじゃ!」

 呆れたリリスは、もう一度強くアレンの頬を打った。

「痛ぇっ!? なにすんだよ!」

「あの程度の魔導に魅了どうするのじゃ」

「あんたが悪いんだろ、無差別に眠らせるんじゃねえよ!」

「五月蝿い小僧じゃ。ささ、先を急ぐぞよ」

「自分勝手な女」

「お主も自分勝手な――」

 ――女。と言おうとしたときだった。輝きはリリスの口をつぐませた。

 空の上でなにかが一際輝いている。

 アレンは見た。流れ星が堕ちてくる。いや、違う。エネルギーの塊が飛来してくる。

 強風が吹き荒れ、物が上空へ吸い込まれるようにして舞い上がる。

 人の身体が持ち上げられ、看板が上空を飛び、外に干してあった洗濯物は一つ残らず空に吸い込まれた。

 光が世界を包み込む。

 目は開けられるはずがない。目を開いてしまったら、その眼は一生使い物にならなくなってしまう。

 アレンは反射的に眼を閉じて、地面に這いつくばった。

 その中でただひとりリリスだけが全てを見定めた。

 クーロンに飛来してくるエネルギーの塊は、流れ星のように長い尾を夜空に描き、大気を燃やし輝きを増した。

 その輝きは〝失われし科学技術〟の最悪の恐怖――魔導砲の光に似ていた。

 古の戦いで使用された魔導砲の光は世界の大半を焼き、今もなお世界にその爪痕を残す。クーロン一帯に広がる砂漠地帯も、その戦いの名残だった。

「外れたようじゃな。じゃが、砂の雨が降るぞよ」

 リリスが呟いた次の瞬間、巨大なエネルギーの塊がもっともクーロン上空に近づいた。

 そして、尾を引く輝きはクーロンの遥か先の砂漠地帯に激突し、世界を昼に変えて巨大な茸雲に姿を変えるとともに、世界に砂の雨を降らせた。

 空から降り注ぐ砂は真っ黒に焦げており、クーロンの街はたちまち黒一色になってしまった。

 砂を払いながら立ち上がったアレンは、すぐさまリリスの首元に掴みかかった。

「あんた、なんであんなもんの封印を解いたんだよ! 今のとんでもねえ攻撃はあいつの仕業だろ!」

「心を持つ者には、自由に生きる権利があるじゃろう?」

「はぁ?」

「例えヒトの創り出した生命であろうと、自由に生きる権利はあるじゃろう?」

「はぁ?」

「強い者が生き残る。それが自然の摂理じゃろう?」

「意味不明」

 自分の首元を掴んでいるアレンの手をそっと外したリリスは、それ以上はなにも言わず歩き出した。

「おい、待てよ!」

 リリスは返事を返さなかった。

 小声でぶつくさ言いながら、アレンは仕方なくリリスについて坑道の中に入った。

 オレンジ色のライトは、そのほとんどが壊れており、坑道の中はほとんど闇に近かった。

 リリスの足音を追うようにアレンは歩き、やがて前方に白い輝きが見えてきた。その輝きは白銀の部屋から発せられているものだった。そう、リリスがアレンを連れてきた場所は、エヴァが封印されていたあの部屋だったのだ。

 部屋の中心にはエヴァが眠っていた円柱状のケースがだけがあった。

「マジでここに空飛ぶ乗り物があんのかよ?」

 アレンは半信半疑だった。

 艶やかにリリスは微笑んだ。

「この部屋ではない。この先の部屋じゃ」

 この先の部屋?

 扉は今アレンたちが入って来た扉しか見当たらない。それに部屋には切れ目すら入っていないのだ。そのどこに扉など隠されていようか。だが、部屋の中心にあるケースも最初は床の下に隠されていたのだ。

 なにも見当たらない壁にリリスの手が触れると、切れ目一つ入っていなかった壁に線が入り、扉のように左右に開けた。その先には別の部屋があるようだ。

 別の部屋に移動するリリスに続いてアレンもその部屋に入った。が、ここもなにもない白銀の箱だった。きっと、この部屋に物も全て収納されてしまっているのだろう。

 リリスはまた壁に触れ、別の部屋への入り口を開いた。次の部屋にもなにもない。これと同じことを三回繰り返し、ようやくリリスの足が止まった。

「ここじゃ」

 やはり、この部屋にもなにもない。だが、もうアレンはなにも言わなかった。

 しゃがみ込んだリリスが床を叩いて小声でなにかを呟くと、床に切れ目が走り、床の下からなにかがせり上がってきた。

 それはスクーターに似ていた。しかし、タイヤがない。車体の下部は平らにできていた。

 タイヤのないスクーターを見て、アレンはすぐに理解した。

「空飛ぶから、タイヤはいらないのか」

「そうじゃ。わかったら、さっさと乗るのじゃ」

「マジで飛ぶのかよ?」

「さあて?」

「なんだよ、その返事は?」

「わしがこのエアバイクに最後に乗ったのは……?」

 途方もないくらい前だったことは確かだ。

 ちょっと嫌な顔しながらも、アレンはリリスに促されてスクーターに乗った。しかし、エンジンの掛け方がわからない。そもそもエンジンというものがあるのかも怪しい。

「エンジンはどうやって掛けんだよ?」

「わしの声に反応する」

 そう言ってから、リリスはエアバイクに向かって小声で囁きかけた。すると、エアバイクがアレンを乗せたまま少し浮いた。

 音もなく浮いたエアバイクを見て満足そうにリリスは頷き、言葉を続けた。

「バイクの乗り方はわかるじゃろ?」

「前に一回だけ乗ったことある」

「それなら心配ないの……?」

 宙に浮いていたエアバイクが力なく床に落ちていく。

「なんだよ、飛ばねえじゃねえか!」

「可笑しいの……やはり、整備もせんと放っておいたのが悪かったようじゃ」

 ガン!

 リリスの足がエアバイクの尻を蹴った。すると、エアバイクが再び宙に浮きはじめてでないか!?

「直ったようじゃ、早う行け」

「空から俺が落ちたらあんたのせいだかんな」

 エアバイクが強い風を巻き起こした。

 アレンが頭に乗せていたゴーグルを目に装着する。

「そんじゃ、行ってくるわ」

 エアバイクが床の上を滑るように走り去り、リリスは子供の背中を見守るような母の眼差しでアレンを見送った。