嵐が来る!
 突然ぶるぶると身震いをしたクィンは険しい表情を浮かべ黙り込んでしまった。
「…………」
 傍らで相棒を心配そうに見つめるジェイク。
「どうかしたかクィン?」
「いや、ちょっと悪寒が……」
「オカン……? ママでも恋しいのか?」
「そのオカンじゃなくて、寒気の方ですよ」
 そう言い終わるとクィンは、また、うつむき加減になって黙り込んでしまった。ジェイクのギャグは確かに寒かったが、うつむき加減になるほどは寒くない。

ぶるぶる!

 突然またクィンがぶるぶると身震いをした。まるで局地型地震が起きたような震え方だった、揺れの大きさは中震といったところであろうか?
「だいじょぶか? 風邪でも引いたか?」
「熱は無いと思いますが……さっきから悪寒と頭痛が……」

ぶるぶる!

 今度の震えは今まで以上のものだった。震度はマグニチュード6、烈震だ!
「ホントにだいじょぶか?」
 クィンの目は完全に据わっている。獣の目だ!!
 獣と化したクィンは遠く彼方から来る何かを鋭い目つきで睨んでいる。
「……来る……ヤツが、ヤツが来る!!」
「ヤツ……?」
 ジェイクが首を傾げた瞬間、ヤツは来た!!

「クィ〜〜〜ン、愛してるよーーー!!」

 左目に包帯を巻き眼鏡を掛けている白衣の男。
「な、何だ!?」
 突然の登場と出来事にジェイクは声を荒げた。
 クィンたちの前に当然現れた男はクィンに抱きつきそのまま押し倒してしまった。いったいこの男は何者なのか!?
「や、やめてください、みんな見ているでしょう」
 いつの間にかクィンとクィンに抱きついた男の周りには人だかりができていた。ご婦人方が目を輝かせながら見ている。
 白衣の男は満面の笑みを浮かべてクィンを見ている。その眼差しは妖々甘美な恋人を愛でる眼差しだった。もしや変質者か!?
 その時、男の口から衝撃の新事実がっ!!
「いーじゃないか、親子なんだから」
「お、親子ぉーーーー!?」
 ジェイクはあごがぼ〜んをしてしまった。
 クィンの親子だと名乗った白衣の男はクィンと密着していた身体を離し立ち上がると、白衣を正して親指と人差し指をピキーンと伸ばしジェイクを指差した。
「これはこれは申し遅れた。ボクの名前はメフィスト、職業は医者、好きなものはクィン、好きな言葉はクィン、好きな食べ物はクィン」
「食べ物……?」
「だって食べちゃいたいくらいカワイイだろぉ〜」
 メフィストは完全に危ない人だった。ジェイクの危険物リストワーストワンにメフィストの名が書かれたことは言うまでもない。
「変態」
 クィンがボソッと呟いた。
「何? パパ大好き……そうかそうか……」
 メフィストはそーとーお耳が遠いようだ。耳鼻科に行くことを椎称する。
「そんなこと言ってない、言ってない……(失笑)」
 クィンの視線は斜め−45度右下の地面に歩くアリに注がれメフィストとは決して視線を合わせようとはしていない。このパパはかなり嫌われているらしい。
「あはは、そんなに照れなくてもいいんだよぉ〜」
「照れてないし……(死)」
 勘違いヤローのメフィストにクィンの毒電波が放たれたが、自己中のメフィストに効かなかった。
「あの……ちょっといいですか?」
 静かな戦いが始まったような、始まっていないようなところにジェイクは口を挟んだ。命知らずだ。
「メフィストさんは何でここに来たんですか?」
「聞きたいかい?」

「聞きたくない……(▼д▼)」

 クィンがまたボソッと呟いた。
「そうか聞きたくてたまらないか、じゃあ聞かせてあげようじゃないか。――そうあれは、とても寒い夜の事だった。ボクがまだ幼かったころ、お隣りさんのゴンザレスさんがぎっくり腰で倒れて霊柩車で運ばれたんだ……」
 この時がチャンスと見計らったクィンはジェイクの腕を強く掴んだ。
「行きますよ!」
「はぁ!?」
「走るんですよ、早く!」
「えっ!?」
「逃げるんですよ!」
 メフィストが回想に浸ってる間にジェイクとクィンはその場から逃げ出した!
「後ろを振り返らず、ただひたすら走ってください、そうしないとあのひとからは逃げ切れませんから」
「なんで、逃げなきゃいけないんだよ」
 ジェイクは少しメフィストの話の続きが気になっていた。なんせお隣りさんのゴンザレスさんが霊柩車で運ばれたなんて、どんなオチが待っているのかドキドキだ。
「あのひとが嫌で僕は家を飛び出したんです」
 クィンの言葉からは切実さと憎しみがにじみ出ていた。たしかにあんなパパ〜ンは嫌だ。
「たしかに俺がクィンだったら同じ事してた……」
 と思いつつも、一家に一台あんなのがいたら楽しいだろーなぁ〜、なんてのんきに考えているジェイクだった。

ぶるぶる!

 クィンの身体がまた震えた。マグニチュード7以上、激震だ!!
「来た!」
「待てぇ〜〜〜!!」
 二人の後ろをメフィストがすごい形相で追いかけて来た!
 ジェイクは見てはいけないものを見てしまった。
「なんじゃありゃ〜〜!!」
 そんなおまえの顔のほうが『なんじゃありゃ〜』なだったりする。
「前だけ見てください!」
「いや、だってアイツ空飛んでるぞ」
「気のせいです!」
 気のせいではなかった。たしかにメフィストは空を飛んでいる。物理の法則を無視した行為だ。
「待っておくれ〜〜〜、愛しのクィン!!」
「……待たない」
 当たり前だ。
「待たないと愛の鞭が飛ぶぞ」
 そう言うとメフィストは手にエネルギーをためはじめた。

「やばいぞ、何か手にためてるぞ」
「気のせいです!」
「気のせいって、ほら見ろよ」
「じゃあたぶん気のせいです!」
 気のせいではなかった。

シューーーン! ドーン!!

 二人の走り抜ける真横の建物が脆くも崩れ去って逝った。
「打ってきたぞアイツ!!」
「気のせいです!」
「だって、横の建て物が……」
「目の錯覚です!」
「もういい!」
 メフィストは新たな攻撃に備えてエネルギーを溜め始めている。
「何で、そんなにボクから逃げようとするんだい?」
「嫌いだから……」
「聞こえないな……何て言ったんだい?」
 後ろを追いかけて来ていたハズのメフィストが突如二人の前に姿を現した。トリックだ!!
「もう、お遊びの終わりだよ」
「何だコイツ、瞬間移動でもできるのか!?」
「眼鏡かけたほうがいいですよ」
 エネルギーを貯めた手がクィンに向けられた。こいつ殺る気だ!!
「どうしてクィンはボクの事をそんなになんでも否定したがるんだい?」
「嫌いだから」
「ふっ……ふっ……ははは〜っ、仕方ない」
 そう言うとメフィストの手に貯められていたエネルギーが、ごぉ、という音を立てながら増大して行く。メフィストは息子もろともこの地域一帯を吹っ飛ばす気だった。完全にイッちゃてる。
「仕方ありません、貴方にはここで死んでもらいます」
 クィンもそれに負けじと究極呪文の詠唱を始めた。クィンは父親を倒すためだけに世界を崩壊させる気だった。コッチもイッていた。
 飛んだ災難に巻き込まれたジェイクの顔は血の気を失い蒼ざめていく。
「おまえら俺も殺す気かよ!」
「ジェイクは黙っていてください」
「は〜っははははっ、クィン、それでこそボクの息子だよぉ〜(LOVE)」
「…………」
 この二人を止めることは誰にもできなかった。
 『親が親なら息子も息子だ』……とジェイクは思いましたがそれを口に出したらどーなることやら、で心に留めて置くことにしました。

 この後、クィンとメフィストの戦いは三日三晩続き、この辺り一帯直径5kmは火の海に包まれたそうです。後に、この事件は未来に語り継がれ『火の3日間』として伝説になりました。
 事件の後、飛んだ巻き沿いを喰らってしまって町を破壊されてしまった住人に騒ぎを起こした3人が命を狙われるハメになったことは言うまでもありません。ちゃんちゃん♪

 おしまい


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