スズキシンドローム
 10月31日といえばハロウィン。
 魔界や死者の国から、いっぱいのお友だちが人間界にやってきます。

 パーティーの醍醐味といったら、もちろん乱交です!
 貞操を捨てるためにみんな必至になってガンバルのです。

 夢魔のリルちゃんも一人前のオトナになるため、
 ママの言いつけで人間界にいくことになりました。

「夢魔が一人前のオトナになるためには、オトコかオンナを選ばなきゃいけなのよ」
 ママはこう言いました。

 お子様の夢魔には性別がありません。

 立派なオトナになるためには、
 好きな人を見つけて恋をしなければいけません。

 恋をした夢魔はそのドキドキによって、
 体がオトコかオンナに変化して一人前になるのです。

 まだお子様のリルちゃんは、
 パパの趣味でスカートをはかされていますが、
 体は無性のツルペタです。

「ボクこのままがいいなァ」
 なんてボヤくリルちゃんにママはきびしく叱ります。

「ちゃんと貞操を捨ててくるまで晩ご飯抜きです!」

 そんなわけでリルちゃんは仕方なく人間界にやってきました。

 はじめての人間界で右も左もわからないリルちゃん。
 どうやら道に迷って人間の町にやってきてしまったようです。

 町にはハロウィンの仮装をしたお子様たちがいっぱい。
 それを見たリルちゃんは呟きます。

「ケッ、子供だましの仮装」

 どうやらリルちゃんは、人間のハロウィンをバカらしく思っているらしいです。

 ぐぅ〜。

 リルちゃんのお腹が泣きました。

「お腹すいたァ」

 貞操を捨てるまで晩ご飯抜きです。
 きっと晩ご飯だけじゃなくて、
 明日も明後日も、ずっとご飯抜きです。

 どうしよう?

 悩んだリルちゃんは自分の可愛さを最大限に利用して、
 オトナから食べ物をもらう作戦を思いつきました。

 一軒家のおうちの前に立ったリルちゃんはドアをコンコン。

「こんばんわ♪」

 しーん。

 ブリッコの顔を作って待ちかまえていましたが、
 そんなリルちゃんの努力を台無しにしておうちの人は出てきません。

 コンコン。

 再びドアをノックしましたが、
 やっぱり無反応。

 でも、おうちの電気はついていて、
 中からは楽しそうなおしゃべりと美味しそうな匂いがしてくるのです。

 コンコン!

「こんなカワイイ子を野ざらしにして、お前らそれでも人間かっ!」
 リルちゃんはドアを殴る蹴るの実力行使にでました。

 すると、すぐにオジサンがドアを開けてくれました。

「うっせえんだよクソガキがっ!」

 なんだかよくわかりませんが、
 オジサンは怒っています。

 リルちゃんは笑顔を作っていいました。
「トリック・オア・トリート! お菓子くれなきゃイタズラしちゃうぞっ!」

 笑顔も仕草も完璧でした。
 しかし、オジサンは怒ったまま。

「てめぇにやる菓子なんかねえよ!」
 そう言ってドアをバタンと閉められてしまいました。

 傷ついたリルちゃんは、
 冷たくなった心を温めるために灯油とマッチを取り出しました。

 灯油をおうちの周りにまいて、
 マッチで火をつけました。

「人間どもめっ、地獄の炎に焼かれ泣き叫ぶがいい!」

 一気におうちが火の海つつまれます。
 中からはオトナやコドモの悲鳴が聞こえてきました。

 欧州ではハロウィンの時期になると放火事件が多発します。
 みなさんも「トリック・オア・トリート」と言われたら、
 ちゃんと子供にお菓子をあげてましょう。

 燃え上がる灯火を見てもリルちゃんの心は晴れません。
 そして、ついにリルちゃんは泣きながら、その場を逃げ出してしまいました。

 すっかり傷心したリルちゃんは、
 町の外れにある墓地までやってきました。

 リルちゃんが墓場の片隅にうずくまって泣いていると、
 芳しいかおりの腐乱死体が声をかけてきました。

「お嬢ちゃんどうしたんだい?」

 声をかけてくれたのはゾンビさん。
 ハロウィンのためにはるばる暗い土の底から這い出してきたのです。

 悲しんでいる自分に声をかけてくれたゾンビさんに、
 リルちゃんは心をときめかせました。

「はみ出たはらわた、ゲッソリ痩せた顔、そして飛び出たつぶらな瞳……ステキ♪」

 すっかりリルちゃんはゾンビさんに心を奪われてしまいました。

 これはリルちゃんにとって初めての恋でした。
 意識がクラクラ〜するのもきっと恋のせいです。
 決して腐臭がきつすぎるためなんかじゃありません。

 しかし、次の瞬間!

 ドーン!

 ゾンビ大破裂!!

 いきなりソンビさんが肉片をばらまきながら大爆発してしまいました。
 きっと腐敗して体の中にガスが溜まっていたのです。

 ゾンビさんの血肉を顔たっぷりにパックしたリルちゃんは傷心です。
 初恋はほろ苦いはらわたの味になりました。

 大失恋をしたリルちゃんは、生きる希望もなくして墓場を歩きはじめました。
 すると希望の光があっちからやってきました。

 墓場にぼわんと浮き上がる謎の発光体。
 カボチャ頭がチャーミングなジャックランたんでした。

「お嬢ちゃんどうしたん?」
「恋人のゾンビさんが目の前で大爆発しちゃったの」
「それはおもしいことが起きたね」
「うん、死ぬほどおかしかったんだけど、リルは空気の読める子だから笑うの我慢したの」
「リルちゃんは良い子なんだなぁ」

 そんな感じで意気投合した二人は夜の町に繰り出すことにしました。

 しかし、そんな二人に悲劇が起きたのです!

 曲がり角からいきなり飛び出してきたトラック。
 迷わずリルちゃんはジャックランたんを押し飛ばしました。

 グチャ。

 トラックにひかれてジャックランたんは頭を爆発させました。
 でも、もともと頭の中は空っぽなので、脳ミソは飛び散りませんでした。

「ジャックランた〜ん!」
 リルちゃんは泣き叫びました。

 短時間の間に大切なひとを二人も亡くしてしまいました。
 リルちゃんの心を思うと胸が痛みます。

「どうして爆発しちゃったの……」

 なんでこうなってしまったのかリルちゃんにはわかりません。
 ただただ悲しさだけが募ります。

 そこへ空から舞い降りた紳士が声をかけてきました。
「どうしたのかねお嬢ちゃん?」

 リルちゃんが振り返ると、
 そこには八重歯がチャーミングなドラキュラ伯爵が立っていました。

 ドラキュラ伯爵は甘い言葉を囁きリルちゃんを癒してくれました。
 そして、ホテルに直行です。

 はじめての経験にリルちゃんはドキドキです。
 でも、ちゃんと準備はしてきました。

 リルちゃんは滋養強壮剤をドラキュラ伯爵に手渡しました。
「一気に飲み干してね♪」

 ドラキュラ伯爵はこころよく受け取り、
 なんのためらいもなく一気の飲み干しました。

 そして、悲劇が起きたのです!

「ううっ、苦しい……」

 急にドラキュラ伯爵はのどを押さえて、
 白目を剥きながら絶命してしまいました。

 部屋に漂うニンニクの香りが眼にしみます。

 リルちゃんは大泣きをしながら部屋を飛び出しました。

「どうして、どうしてみんなリルを置いて先に逝ってしまうの!」

 もう恋なんてしない。
 恋なんてしてもつらいだけ。

 そう誓ったリルちゃんだったのですが、
 出逢いは突然起りました。

 前も見ずに走っていたリルちゃんは大男にぶつかってしまいました。
 見上げるとそこにいたのは、頭に刺さったボルトがファッショナブルなフランケンでした。

 リルちゃんは一目で恋に落ちました。

「頭の縫い跡がステキ……いっぽんいっぽん糸を抜きたい!」

 こうして二人はあっという間に恋に落ちました。

 ピュアなリルちゃんはフランケンとの初デートのために手作り弁当を用意しました。
 体が爆発するほど美味しい手榴弾の特別弁当です。

 ドーン!

 手榴弾を食べたフランケンは口から煙を吐きましたが無傷でした。

 次にリルちゃんはフランケンを走るタンクローリーの前に突き飛ばしました。
 すると、タンクローリーは大爆発して、燃え上がる炎の中からフランケンが無事生還。

 これは本物だとリルちゃんは思いました。
 強くて逞しい男の中の男。
 自分を残して先に逝ってしまうこともないでしょう。

 さっそくリルちゃんはフランケンとベッドインすることにしました。

「うがーっ!」
 滋養強壮剤を飲まされたフランケンは精力絶倫です。

 心の準備はしていたつもりでしたが、
 今になってリルちゃんは急にドキドキしてきました。

 フランケンの筋肉モリモリを見ていると胸がキュンとしてしまいます。

 そして、ドキドキが最高潮に達したとき、
 ついにリルちゃんの体はオトナへの成長を遂げるのでした。

 お尻がキュンと引き締まって、
 胸も急に大きくなってバストは100センチを越えてしまいました。

 急な変化を目の当たりにしたフランケンが叫びます。

「うがーっ!」

 そして、フランケンは部屋を飛び出して逃げてしまったのです。

 なんだかわからないうちにリルちゃんの恋は終わってしまいました。

 傷心のリルちゃんは自殺をしようとバスルームに駆け込もうとしました。
 その途中、鏡に映った自分の姿を見てリルちゃんは眼を丸くしました。

「ステキ♪」

 そこに映っていたのは筋肉隆々の漢(おとこ)の中の漢でした。
 そうです、なんとリルちゃんオトナの漢になったのです。

 こうして立派なゲイとなったリルちゃんは、
 夢魔としてオトコを食って食いまくるのでした。


 おしまい♪

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