町で出会った少女
 僕はその日、ひとりの少女と出逢いました。
 その少女は人通りの少ない町の広場にポツンとひとりで座り、青い空をただ眺めていました。
 僕が少女の横を通り過ぎようとすると、少女は僕の顔を見つめて静かに微笑みました。
 なぜ微笑みかけられたのかはわかりません。
 ただ、その笑みはとても人懐っこい猫のような表情で、僕の心はなんだか安らぐ感じがしました。
 あどけない少女は着ている服も猫を思わせる服装です。
 尖った耳のような黒い帽子、首周りや手首に付いたファーは猫の毛並みを連想させます。
 黒いストッキングに包まれた脚は細くも、猫のように軽々と塀を飛び越えてしまいそうで、可愛らしいデザインの両端に鈴の付いた小さなマントと一緒に見ると、この子が鈴の音を鳴らしながら屋根から屋根へと飛び回る映像が頭に浮かびました。
 そう、この子はとても不思議な雰囲気を持った少女です。
 この子を見ているうちに周りの背景は溶け、この子だけが浮かんで見えてくるようです。
 そして、僕は少女の瞳の中に吸い込まれていくのです。
 ――ふと、我に返った僕は少女の腰の辺りで動く白くて長細いものを見ました。
 それがすぐに尻尾だとわかりました。
 そうか、この子は獣人の少女なのか……。
 だから不思議な雰囲気を持っていたのだと納得すると、僕は少女に微笑みかけてこの場を後にしました。

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