ぺんぺんのマジカル大冒険!
 トリのような影が夜空を飛んでいました。
 まあ大変!
 キラキラ星がお空から落っこちてきます。
 影はまだキラキラ星に気づいていないみたい。
 ああっ、もう影とキラキラ星がぶつかってしまいそう!
「きゃ〜っ!」
 ごっつんこ!
 ビックリした影は手に持っていた大切なモノを手放して、それはどこか遠くへクルクル飛んでいってしまいました。
 そして、影も別の場所にクルクル飛ばされて、やがては海に落っこちてしまいました。
 影はもうどこにいってしまったのかわかりません。
 とっても心配、影は大丈夫なのでしょうか?

 世界のどこかにあるペンギノン王国。
 その国ではペンギンたちが楽しく暮らしています。
 ペンギノン王国の食いしんぼう、ぺんぺんは今日もお菓子ばっかり食べています。
「甘くて冷たくておいしいぺーん」
 みんなはぺんぺんがなにを食べているかわかるかな?
 口の周りにあま〜いクリームをいっぱいつけて、どうやらアイスクリームを食べているみたい。
 そこへやってきたのは、みんなのアイドル、アデリーヌちゃんです。
「そんなにお菓子ばっかり食べていると、ぷくぷく太って、そのうち体が風船になってどこか遠くへ飛んでいっちゃうんだから」
「がび〜ん!」
 ぺんぺんはショックを受けました。
 お菓子ばっかり食べていると風船になってしまうなんて、今までだれも教えてくれませんでした。風船になって遠くへ行ってしまったら、ともだちと会えなくなってしまいます。
「それはイヤだぺん」
「うふふ、ジョーダンよ」
「なんだジョーダンぺんね、安心したぺん」
 そう言ってぺんぺんは再びアイスクリームを食べはじめました。まったく反省していないみたい。
 あきれ顔のアデリーヌ。
「お菓子ばっかり食べていないで、ほかになにかすることはないの?」
「食べているときと寝ているときが1番しあわせだぺん」
「はぁ……なにか夢とかないの?」
 夢?
 それは叶えてみたいこと。
 夢を持つのはとても大切なことです。
 けれど、ぺんぺんったら。
「お菓子にいっぱい囲まれ暮らしたいぺーん!」
 それを聞いたアデリーヌはプイっと背中を向けて帰ってしまいました。
 きっとアデリーヌが言いたかったことは、そういうことではなかったのでしょう。
 みんなはアデリーヌの気持ちがわかるかな?
 どうやらぺんぺんはわかっていないみたい。
 首をかしげてしまっています。
「なにがなんだかわからないぺん」
 理由はわからないけど、アデリーヌが帰ってしまって、ぺんぺんはちょっぴりションボリ。
 でも、アイスクリームを食べる手は止まりません。
 ひとりぼっちになって、ぺんぺんは考えます。
 夢ってなんだろう?
 夜、眠っているときにみる夢?
 ううん、そうではありません。
 でも、ぺんぺんは将来の夢と、夜みる夢が頭のなかでゴチャゴチャ。
 空を見上げると、青い海が広がっていました。
「あの空を泳いでみたいぺん」
 まるで夢のようなお話ですが、ぺんぺんはホンキです。
 そんなぺんぺんの独り言を聞いていたペンギンがいました。ツンツンした黄色い羽を頭につけたギンギンです。
 ギンギンはいつもサングラスをかけていて、荒っぽい性格をしているから、みんなからこわがられているペンギンです。
「空を泳ぎたいなんてバカだなぁ、ムリに決まってるだろ」
「ムリじゃないぺん、がんばればできるぺん」
「おまえは海を泳ぐのだって苦手なクセに、空なんてもっと泳げるはずがないじゃないか」
 たしかにぺんぺんは泳ぐのがあまり得意ではありません。
 高い岩場から海に飛び込むことだって、こわいからしたくありません。
 みんなが海で泳いだり、高い場所から海に飛んで込んであそんでいるときも、ぺんぺんはいつもお菓子ばっかり食べています。
 今だってお菓子を食べてばっかり。
「お菓子ばっかり食べてると丸々太ってボールになっちまうぞ」
「がびーん!」
 ぺんぺんはショックを受けました。
 もしもボールになってしまったら、なげられたり、けっとばされたり、とってもイタイ。考えるだけでも、こわくなってしまいます。
「そんなのイヤだぺん」
「だったらそのお菓子オレがもらってやるよ」
 食べかけのアイスクリームも、隠し持っていたポテチも、み〜んなギンギンに取られてしまいました。
「返してぺーん!」
「空を飛べるようになったら返してやるよ。そんなのムリに決まってるけどな!」
 ぺんぺんのことをギンギンはバカにしながら、大きな笑い声を出して帰ってしまいました。
 バカにされてもぺんぺんは気にしません。
 でも、お菓子を取られてしまったのは、とってもショック。
「がんばって空を泳ぐぺん!」
 ぺんぺんの心が燃えています。こんなこと、滅多にないことです。
 さてさて、ぺんぺんはどうやってお空を泳ぐのでしょうか?

 あれこれぺんぺんは考えました。
 でも、あまりむずかしく考えるのは得意ではありません。
 だから思いついたことをとにかくやってみることにしました。
 ぺんぺんは突然、全速力で走り出しました。でも、あんまり早くは走れません。
 そして、勢いをつけてぺんぺんはジャンプしました。でも、あまり高くは飛べませんでした。
 それどころか、ぺんぺんは着地にしっぱいして転んでしまいました。
「いたいぺーん」
 どうやら大失敗みたい。
 つぎにぺんぺんはおうちから、おおきなパラソルを持ってきました。
 パラソルを広げて、高いところからジャンプしようと考えたのですが、ぺんぺんは高いところが好きではありません。
 ためしてみる前に失敗です。けれど、もしも高いところから飛んでいたら、大けがしてしまっていたでしょう。
 ぺんぺんはトリさんたちのことを思い出しました。
 トリは羽を使って大空を自由に飛ぶことができます。
 だから、ぺんぺんも羽があればいいと気づいたのです。
 さっそく羽を作ろうとぺんぺんは材料を集めてきました。
 ぺんぺんが集めたのは、いっぱいの落ち葉でした。
 風に揺られてひらひら落ちる木の葉。
 羽毛に見立てた落ち葉をノリでペタペタ貼り付けて、大きな羽を作ろうと思ったのです。
 手をノリでベトベトにしながら、ようやく落ち葉の羽が完成しました。
 さっそくぺんぺんは手に持って羽ばたきました。
 しかし、なんということでしょう。
 せっかく作った羽がボロボロと壊れていきます。
 落ち葉の羽はとても弱く、力を入れて羽ばたこうとすると、すぐに壊れてしまうのです。
 ぺんぺんはガッカリしました。
 そこへギンギンがやってきました。
「おい、空を飛べたか?」
「ダメだぺん。でもまだまだあきらめないぺん」
 今日のぺんぺんはいつも違います。失敗してもめげません。
 そんなぺんぺんをみて、はげますどころか、ギンギンはひどいことを言います。
「バカだな、いくらがんばったってムリムリ。この世で空を自由に飛べるのはトリたちだけなんだ」
「そんなことないぺん。サンタさんのソリを引っぱるトナカイさんだって空を走ってるぺん」
「そう言われみれば……けどおまえじゃムリだな。オレにできないことをおまえができるはずない」
「できるぺん!」
 さっそくぺんぺんはギンギンがみている横で、自分の体よりもおおきな紙を広げました。
 ぺんぺんは折り紙でトリを作るつもりなのです。そうです、人間の世界では紙ヒコーキと呼ばれているものです。
 人間の世界でも、ヒコーキが発明される前から、紙ヒコーキはありました。もちろんそのときは別の名前で呼ばれていました。
 ペンギノン王国にはヒコーキはありませんが、空を飛ぶ紙ヒコーキのような折り紙があるのです。
 空飛ぶ折り紙を折ったぺんぺんは、さっそくそれに乗ってみました。
 でも、紙はぺんぺんの重さにたえられなくて、グシャリとつぶれてしまいました。
 ギンギンは腹を抱えて笑っています。
「ぎゃはははは、本当にバカだな。もしも潰れない折り紙だったとしても、だれが飛ばすんだよ?」
 そうです、紙ヒコーキはだれかが投げなくては飛ばないのです。
 こんな大きな折り紙、いったいだれが投げられるのでしょうか?
 ギンギンはおかしくってたまりません。
 もう笑いがとまらなくて、おなかを押さえたまま地面を転がっています。
 そこへアデリーヌがやってきました。
「そんなに笑うことないでしょう。ぺんぺんはこんなにがんばっているのよ」
 実はアデリーヌ、ぺんぺんのやってきたことを、こっそり見守っていたのです。
 すっかり落ち込んでしまったぺんぺん。
「もうダメだぺん」
 アデリーヌはぺんぺんにやさしい声をかけます。
「ギンギンにいくら笑われたって気にしちゃダメよ。ねえ、知ってる?」
「なんだぺん?」
「わたしたちペンギンのご先祖さまは、大空を羽ばたくトリだったのよ」
「え〜っ!」
 とってもぺんぺんはビックリしました。
 でも、ギンギンはそんな話、信じようとしません。
「ぺんぺんのバカがうつったんだな。オレたちペンギンがトリのわけないだろ」
「本当よ、わたしたちペンギンはトリだったんだから」
「オレたちとトリのどこが似てるんだよ?」
 ペンギンには空を飛ぶ翼だってありません。
 聞かれたアデリーヌはちょっと困ってしまいました。
「う〜ん、クチバシが似てるでしょう? ほら、足だってどこか似ている気がしない?」
 でもやっぱりギンギンは信じられません。
「トリは海の中を自由に泳げないだろ、逆にオレたちは空を飛べないんだ。ぜんぜん違うじゃないか。イヌとネコのほうがまだ似てるな」
「でも……」
 アデリーヌは言葉につまってしまいました。
 みんなはアデリーヌの言葉を信じることができるかな?
 ぺんぺんは信じました。
「ぺんぺんはアデリーヌちゃんのこと信じるぺん」
「ありがとうぺんぺん。きっと努力すればペンギンだって空を自由に飛ぶことができると思うの」
「でも、どうしてペンギンは飛べなくなったぺん?」
「さあ、それはカミサマがお決めになったことだから」
 また横でギンギンが腹を抱えて笑いだしました。
「カミサマなんて信じてるのかよ。そんなのいるわけないだろ、バカだなぁ」
 本当にカミサマがいるのか、それはわかりません。
 けど、信じることがきっと大切なのです。
 信じ続ければきっと夢だって叶います。
 ぺんぺんは思いつきました。
「そうだぺん、カミサマに会えば飛べるようにしてもらえるぺん!」
 それを聞いたギンギンは、あきれてしまって、もう笑うことすらしませんでした。
「バカバカ、本当におまえバカだ。いないもんをどうやって探すんだよ?」
「カミサマは絶対いるぺん」
 こうしてぺんぺんはカミサマを探して旅に出るのでした。

 ぺんぺんの冒険がはじまりました。
 とは言っても、じつはご近所さんをグルッと回るだけでした。
 どうやらカミサマはご近所にはいないようです。
 そんなにはやく見つかったら、ギンギンだってカミサマがいないなんて言わないでしょう。
 もうすこし遠くまで、ぺんぺんはカミサマを探しに行くことにしました。
 しばらく歩いたところで、ぐぅ〜とおなかがなってしまいました。
「お菓子食べたいぺん」
 でも、お菓子はギンギンに取られてしまっています。
 おなかをすかせて歩いていると、ぺんぺんは地面に落ちているクルクルキャンディーを見つけました。
「今から3秒以内に拾えば3秒ルールが適用されるぺん!」
 急いでぺんぺんはクルクルキャンディーを拾いました。
 いくら3秒以内に拾っても、やっぱりドロでよごれていて、食べられそうにありませんでした。
 食い意地がはってしても、おなかを壊すのはぺんぺんだってイヤです。
「洗えばきっと食べれるぺん」
 さっそくぺんぺんは近くの海に向かいました。
 塩水でサッササと洗って、ドロはきれいに洗い落とせました。少し塩味になっちゃうけど、そのくらいは気にしません。
 さっそくクルクルキャンディーを食べようとすると、そこへ怖そうなヒョウアザラシがやってきました。
「おい、うまそうなもん持ってるな。俺様にくれよ」
 まるでギンギンみたいです。
 でも、ヒョウアザラシのほうが体も大きく、迫力がぜんぜん違います。
 このヒョウアザラシは、このあたりでも有名なギャングです。
 ギャングとはとっても悪いことをしている集まりです。
 いつの間にかぺんぺんはの周りには、たくさんのヒョウアザラシたちが集まっていました。
 ここはヒョウアザラシギャングの縄張りだったのです。
 悪いギャングたちが、なにもしないでぺんぺんを帰してくれるわけがありません。
 このまま捕まってしまえば、きっとこわくていたい目にあわされてしまいます。
 ぺんぺんはブルブルふるえ上がりました。
 ノッシノッシと大きな体でヒョウアザラシがせまってきます。
 こわくてぺんぺんはその場を動けません。
 そのときでした!
 岩場の影からギンギンがあらわれたのです。
 ギンギンはじょうずに岩場をピョンピョンとんで、ぺんぺんのそばまでやってきました。
「おい、さっさと逃げるぞ!」
 ギンギンはぺんぺんのことを引っぱって逃げ出しました。
 まさかギンギンに助けてもらうなんて、ぺんぺんもビックリひとみをまん丸にしています。
「どうしてギンギンがいるぺん?」
「べ、べつにおまえが心配になってついてきたんじゃないからな」
 本当はどうなのでしょうか?
 なぜギンギンはぺんぺんのあとを、ついてきたのでしょうか?
 ギンギンは運動神経も抜群で逃げ足もはやいのですが、ぺんぺんはモタモタして足がじょうずに動きません。
 すぐにヒョウアザラシたちに追いつかれてしまい、岩場の行き止まりに追い詰められてしまいました。
 大変です、もう逃げ場はありません。
 そんなときでした。
 岩場の影から小さなペンギンが現れました。
「弱い者イジメはやめなさい!」
 女の子のペンギンです。アデリーヌではないようです。もっと小柄のペンギンです。
 ヒョウアザラシがこわい顔をしてその女の子をにらんでいます。
「おまえ、どこのだれだ!」
「どこのだれかと聞かれたら、名乗ってあげようあたしの名前。フェアリーペンギンのアイドル、まほう使いドロシーちゃんよ!」
 それを聞いたぺんぺんはおめめをキラキラ。
「まほう使いかっこいいぺーん!」
「そんなのウソに決まってるだろ」
 と、ギンギンはぺんぺんの頭をゴツンをなぐりました。
「いたいぺ〜ん」
 ドロシーは本当にまほう使いなのでしょうか?
 それはまだわかりません。
 だって、まほうをみせる前にギャングたちにとらえられてしまったからです。
「いや〜ん、つかまちゃった。だれか助けてー!」
 助けてにきたのに、助けてほしいだねんて、元も子もありません。
 このスキに、ギンギンはぺんぺんとコッソリ逃げようとしましたが、ぺんぺんがモタモタしている間に、ヒョウアザラシに気づかれてしまいました。
「逃げられると思うなよ!」
 とってもおおきな声でこわいです。
 このときばかりは、ギンギンもふるえ上がってしまいました。
 ヒョウアザラシはこわい肉食動物です。
 もしかしたらぺんぺんたちは晩ごはんにされてしまうかもしれません。
 ぺんぺんはとってもかなしくなりました。
 もう大好きなお菓子も食べられなくなるかもしれません。
 お菓子はギンギンに取られてしまいました。
 もっとたくさんお菓子を食べておけばと後悔しました。
 ここでぺんぺんはあることに気づきました。
「そう言えばお菓子持ってるぺん」
 そうです、拾ったクルクルキャンディーがあるではありませんか。
 ぺんぺんはクルクルキャンディーを食べようとしました。
 そのとき、ドロシーがさけんだのです。
「食べちゃダメ! それあたしが落としたまほうの杖!」
 まほうの杖とは、まほう使いがまほうを使うときに使う杖です。
 でも、ぺんぺんが持っているのは、どうみてもお菓子でした。
 けれど、ぺんぺんはすぐに信じました。
「すごいぺん、これがあればぺんぺんもまほう使いになれるぺん!」
 ぺんぺんはクルクルキャンディーをひとふりして、おねがいごとを言いました。
「空をびゅーんと泳ぎたいぺん!」
 するとどうでしょう。
 ぺんぺんの体が宙に浮き、びゅーんと遠くへ飛んでいってしまいました。
 こうしてぺんぺんは夜空のお星さまになったとさ。
 残されたギンギンとドロシーはその後、どうなってしまったのかわかりません。

 おしまい。



「って、ちょっと待てよ!」
 ギンギンがさけびました。
 ついでにドロシーもさけびました。
「ちゃんとあたしたちのこと助けなさいよ!」
 すると、ぺんぺんが世界を一周して戻ってきました。
「こ、こわかったぺん。もう空を泳ぐなんてこりごりだぺん」
 ぺんぺんはガクガクブルブルです。
 あきれてしまったヒョウアザラシたちですが、気を取り直してぺんぺんたちに、おそいかかってきました。
 とってもこわい思いをしたぺんぺんは、もうヒョウアザラシなんてこわくありません。
 ぺんぺんはクルクルキャンディーをひとふりして言いました。
「お星さまがふってくるぺん!」
 すると空からこんぺいとうみたいな星粒がふってきて、ヒョウアザラシたちの頭にチクチクささりました。小さくてもとってもイタイです。
 さらに逃げようとしたヒョウアザラシは、地面に落ちていた星粒をふんづけてしまい、またイタイ目にあってしまいました。
「いたた、いたた、もうかんべんしてくれよ」
 ヒョウアザラシたちは涙目になってしまいました。
 空から落ちてくるキラキラ星をみたドロシーも、トラウマを思い出して涙目です。
 きっとドロシーはドロシーで、ここに来るまでの間に大冒険があったに違いありません。
 たとえば、なにもみえない夜の海で、海流にのみこまれて死にかけるとか。
 さらにサメやシャチに追いかけ回されて死にかけるとか。
 あくまでたとえ話ですが……。
 ぺんぺんはヒョウアザラシたちを、ゆるしてあげようと思いました。
「もうわるいことしちゃダメぺんよ?」
「もうわるいことしねぇよ、俺様たちがわるかった」
 どうやらヒョウアザラシたちも反省したようです。きっとギャング団も解散することでしょう。
 しかし、ほっとしたのもつかの間。
 なんと反省したはずのヒョウアザラシが、ぺんぺんのスキをみておそいかかってきたのです。
「あぶないぺんぺん!」
 おそわれそうになったぺんぺんをギンギンが押し飛ばしました。
 ヒョウアザラシのするどいキバが、ギンギンにかみつこうとしています!
 ぺんぺんはクルクルキャンディーをひとふりして言いました。
「ヒョウアザラシさんたち、みんなびゅーんぺん!」
 すると、ヒョウアザラシたちの体が宙に浮き、びゅーんと遠い空へ飛んでいってしまいました。
 こうしてヒョウアザラシたちは夜空のお星さま、ギャンググスターになったとさ。
 大活躍をしたぺんぺんは、たくさんがんばったので、おなかがすいてしまいました。
 なのでぺんぺんはクルクルキャンディーを、ひとくちで食べてしまいました。
「ガリガリ、おいしいぺーん」
 それをみたドロシーは顔が真っ青です。
「ああああっ! あたしのまほうの杖ぇぇぇぇっ!!」
「ごめんぺ〜ん。けど、おしかったぺん」
 おいしければよかったというものではありません。
 ドロシーはガックリ肩を落としてしまいましたが、ぺんぺんをおこる気にはなれませんでした。だって、なにはともあれ、ぺんぺんは命の恩人なのですから。
「食べてしまったものはしょうがいないわ。スティックさえあれば、アメなんて作り直せるんだから」
 棒だけになってしまったまほうの杖を、ドロシーは返してもらいました。
 そして、ドロシーはお別れを告げました。
「それではお世話になりました。アタシは仕事があるので先を急ぎます」
 ペコリと頭を下げていこうとするドロシーを、ギンギンが呼び止めました。
「おまえいったいなにものなんだよ?」
「あたし? あたしはサンタさんの諜報部員よ。簡単にいうと、サンタさんからプレゼントもらえるよい子を、1年をかけて調べる仕事をしている……っていうのはココだけのヒミツね」
 こうして今度こそドロシーはいこうとしましたが、ふと振り返ったのです。
「そうそう、ぺんぺんは今日はとっても良いおこないをしたわ。きっとサンタさんからプレゼントがもらえるわよ」
「やったぺん!」
 けれど、その横ではギンギンがスネた顔をしていました。
「どーせオレは今年もプレゼントなんてもらえないんだ」
「さあ、それはどうかしら?」
 ドロシーはギンギンに笑いかけました。
 そして、ドロシーはまほうを使ってびゅーんと……飛べませんでした。
「食べられちゃったから、まほうがつかえないんだった」
 恥ずかしそうな顔をしてドロシーはぺんぺんたちに手をふると、ぴょこぴょこと歩きながら去ってしまいました。
 そうだ、ぺんぺんは空を飛んだのですから、お菓子を返してもらえるはずです。
「ぺんぺんのお菓子返して欲しいぺん」
「もう全部食べちまったよ」
「がび〜ん!」
 こうしてぺんぺんの大冒険を幕を閉じたのでした。

 ほんとにおしまい。

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