〈それ〉は激しく飛んだのです――突然に。
 柔らかな白い翼が紅く染まり、やがて黒く染まっていったのです。
 そして、〈それ〉は空高く舞い上がったのです。
 抜け落ちる羽根は木の葉に変わり、地面に落ちた木の葉から芽がでました。
 その芽は成長し、小さな小さな白い花を咲かせました。
 地面は雪のように真っ白になって、その中心から水色の染みが広がっていき、大空になりました。
 蒼い空は鮮やかな夕焼けに染まり、灰色の雲海を呼び起こすと、雷鳴が辺りに轟き、黒い鳥たちが甲高く鳴きながら東の空に飛んでいきました。
 雨が降ってきました。
 紅い雨が激しく降り注ぎ、紅い海が果てしなく続いています。
 広がる海の底から泡が沸き起こり、水面に上がった泡は大きく弾けて、その中から赤ん坊たちが産声を上げながら生まれました。
 赤ん坊は白と黒の翼を持つ2種類の人種に分かれていて、眠りながら翼をはためかせ天に昇っていきます。
 しかし、赤ん坊全てが天に昇れるわけではありません。
 天から裁きの槍が雨のように激しく降り注ぎ、黒い翼を持つ赤ん坊たちを全員、地の底に串刺しにしてしまいました。
 天に昇れた白い翼を持つ赤ん坊は悲しみを覚え、黄金のラッパを吹きました。
 美しくも儚いメロディーによって地面に刺さる赤ん坊たちから流れ出る血から華が咲きました。
 蕾は一斉に花開き、その中から羽根を持った妖精が生まれました。
 妖精はみんな武器を持っていて、白い翼を持つ赤ん坊たちを皆殺しにしました。
 そして、妖精たちは種になって地面に堕ちました。
 でも、種から芽が出ることは永遠にないでしょう。
 だって、誰も種に愛を注いでくれないから。
 世界になにも残りませんでした。
 いつか醒めるまで、眠りにつくことにします。
 そう、これでおしまい。

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