海の砂
 放課後、ともだちたちと海に行こうって約束したのに、気付いたらわたしだけ。
 みんな急に用事ができたからって。
 いっしょに行くはずだったユーコからはこんなメールが来た。

『がんばって!』

 ……だって。
 なにをがんばればいいんだか。

 わたしひとりになっちゃったし、海に行くのやめようとしていたら、アイツからこんなメールが来た。

『何かおみやげ買って来いよ、“海の砂”とかでいいからさ』

 “海の砂”じゃなくて、“星の砂”でしょ。
 そんなの間違えるのアイツらしいけど。

 あ〜あ、なんかホントあったまくる。
 おみやげ買って来いだなんて、しかも命令口調。
 何様のつもりなんだろ、ホント。

 だって、海に行こうって最初に言い出したのだってアイツなんだよ。
 それなのにアイツったら、「すっかり忘れてた」だって。
 もぉ、信じられない。

 でも、気付いたら星の砂を手にしていたわたし。

 ホントに買っちゃったはいいけど……。
 なんか渡しずらいな。

 わたしは星の砂を持ったまま、砂浜まで歩いてきた。

 太陽が海の向こうに沈んでいく。
 海水浴場から離れているせいかな、誰もいなくてなんだか寂しい。
 夏だっていうのに、なんだか今日の海風は冷たいし。

 急にわたしは思い立って、カバンからノートとペンを出した。
 少し破ったノートの切れ端に文字を書いて、星の砂が入ってる小瓶に詰め込んだ。

 そして、その小瓶を海に向かって投げ込もうとしたとき――。

「おい、なにやってんだよ?」
「えっ!?」

 驚いて振り返るとアイツが立っていた。
 小瓶はわたしの手を離れて海の中。

「今、なに投げたんだよ?」
「……アンタのおみやげ」
「はぁ? なんで海に投げんだよ、ったく」

 アイツは学生服のまま、海の中に飛び込もうとした。
 それを必至に止めるわたし。

「いいってば!」
「よくないだろ、オレのおみやげだろ!」
「もういいってば!」
「よくないって言ってんだろ!」
「もぉ、うるさいなぁ。いいったらいいのっ!!」

 わたしが怒りながらアイツの腕をぎゅっと握ると、やっとあきらめてくれたみたい。
 だけど、二人ともクツまで海に浸かっちゃって、もう靴下までビショビショ。

 そしたら、アイツったら、

「おまえのせいだぞ」

 だって。

「なんでわたしのせいなの?」
「おまえが“海の砂”海に投げるからいけないんだろ」

 思わずわたしは笑ってしまった。
 だって、また“海の砂”なんて言うんだもん。

「なに笑ってんだよ?」
「別にぃ〜」
「なんだよ、教えろよ」
「や〜だ」
「だったら“海の砂”投げた理由教えろよ」

 それは……。

「ひ〜みつ!」

 わたしは笑いながら砂浜を駆け出した。
 だって、それはわたしだけのヒミツ。

 小瓶に詰めたわたしのおっきな想い。
 今はまだわたしの胸にそっとしまっておこう。
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