ワールド
 世界は全て、夜よりも、黒よりも、何よりも、暗い闇だった。それは間違った表現。――ここは無に呑み込まれた世界。


 けれど青年はここにいた。

 無の中に青年と少女はいた。自分のカタチすら確認することすら叶わない無の中で――。

 二人は確かにここにいる。そう想うから、願うから、互いに感じるから。


 風も、音も、時間すら無い世界での自身の認識。心で想うこと、それが自身の確認。


 周りと自分が違うことに気づいた瞬間、青年の世界が広がった。

 光踊る空、風の靡く世界で花が咲き乱れ、小川がせせらぎ流れ、世界が華開いた。五感全てが世界を確認した。

 多くの生物たちが姿を現し歌ってる。笑ってる。生きている。活気に満ち溢れて零れてしまいそうなくらいに……。


 ペンタグラムを映し出す、綺麗なエメラルドグリーンの瞳が青年を覗いてた。

「これがあなたの世界?」

この世界に相応しい歌うような鈴の声。世界が一層輝き彩られた。


 戸惑いを覚える青年。ここが本当に還るべき世界なのか、否か……。


 想うことによる想像による創造。


「わからない。ここが還るところなのか?」

戸惑い、迷い続ける青年に白い翼の生えた少女は哀しそうに呟いた。

「黒い翼はまだ白くはならないのね」


 いつの間にか青年の背中に生えた黒い翼。闇のように暗い漆黒の翼は白には還れない。


 燃え上がる世界。紅蓮の炎が世界を包み、燃やし、溶かし、黒に変えていく――。

 崩れ落ち、崩壊していく世界。――これが望み?

 世界が壊れ、地面すら、空さえも壊れた。


 再び堕ちていく青年。どこまでも、どこまでも終わり無き闇の中を――。

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