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IF〜魔法使いになったら〜 |
みなさんこんにちわ。え〜と、あたしの名前は珠瀬那々美(たませななみ)と言います。 あたしは読書が好きですが、こういった文章を書くのは今回が初めてで、だいぶ戸惑っています。ですけど、どうしても文章にして残して置きたいことがあたしの身に起こったので、ここに書きたいと思います。 みなさんは、テレビやマンガのヒーローに憧れたことってありますか? あたしはあります。実はあたし、初めて公表しちゃいますけど、魔法使いに憧れていました。 本気で憧れてたので人に言うのが恥ずかしかったのですが、言っちゃいました。だって、これを言わないと話が進まないんですもの。 実はあたし、ある日突然魔法使い≠ノなっちゃたんです。 夢の中にあたしはいました。でも、夢の中にいる間はそこが夢だなんて、ちっとも思いませんでした。それが夢だと気づいたのは夢が覚めてからです。 そこには茶色いウサギがいます。でも、このウサギ普通のウサギじゃありません。身長は耳まで入れるとあたしより高かったし、水色のジャケットにシルクハット、それにステッキまで持っていました。 絶対変ですよね。でも、夢を見ているときは変だなんて思いませんでした。そのウサギに対して何の疑問も抱かなかったんです。 ウサギはあたしの顔を見ると話しかけてきました。それも流暢な日本語でですよ。ウサギなのに変ですよね。あっ、見た目からして変ですね。 「やあ、こんにちは」 「こんにちわ」 何であたしはウサギと挨拶なんてしてるんでしょうね。それも平然とですよ。 「キミさ、世の中ってつまんないなぁ〜って思ったことない?」 「え〜と、楽しいですよ」 「ふ〜ん。ボクにしてみれば世の中なんて、ウサギかそうでないかの二つに分けられるんだけど、キミどっち?」 「あたしはウサギじゃありません」 今思うとちょっと変な会話ですね。でもこの後のウサギ質問があたしの運命を大きく変えてしまったんです。 「じゃあさ、こんな分け方もできるよね。魔法使いかそうでないか。キミはどっちだい?」 「あたしは、魔法使いにはなりたいですけど……」 「世の中の全ては二つに分けられるのに、なぜキミは迷うんだい?」 「あたし魔法使いになります」 「じゃあ、今からキミも魔法使いの方だね」 ジジジジジ……という警報みたいな音が夢の世界に響きました。するとウサギは二本足でぴょんぴょん跳ねてどこかに消えてしまいました。 あたしはウサギを追いかけて走りましたが、気づいたらベッドの上。つまり夢が覚めちゃったわけです。 けたたましい音でうるさく鳴く目覚まし時計を止めて、あたしはまたベッドの中に潜りました。ベッドの中はあったかくて出たくないんですよね。でも、今日は学校のある日なんです。 あたし、高校二年生であと数ヶ月もすれば三年生なんです。憂鬱で仕方ありません。 進路はいちおう大学進学っていうことになってるんですけど、何か先生とか友達に流されてそうなっちゃっただけで、どこの大学か決めてないし、本当に大学に行くのかもわかりません。 それから、今日は学校に行きたくない理由がちゃんとあるんです。今日って二月一四日なんです。みなさん、この日が何の日かご存知ですよね? そうなんですバレンタインデーです。 日本では恋する乙女たちが好きな人にチョコをあげる日ってことになってますよね。実はあたしも恋する乙女なんてのになっちゃってチョコを用意しました。それも本命チョコって言われるやつです。 バレンタインデーにチョコをあげるのも初めてだし、手作りチョコなんて初めて作りました。で、笑ってください、できたチョコレートの形――ハート型です。恥ずかしいくらいベターな形ですけど、だってそれ以外思いつかなかったんですよ。 でも、チョコレートは用意したんですけど、渡す勇気がなくって。直接じゃなくてもいいんですよ、あのひとのバッグの中にこっそり入れたりでも。 あ〜っ、でもあたしにはムリ。絶対ムリ、ムリ、ムリ、ムリ、ムリ! そんなわけで、学校行きたくないんです。 ベッドの中であたしがうずくまっているとあ母さんが心配して見に来ちゃいました。あたし、学校無遅刻無欠席なんですよね。だから心配されちゃったみたいです。 コンコンと部屋のドアを叩く音がして、ドア越しにお母さんが声をかけてきました。 「那々美、どうしたの? 起きているなら返事をしなさい」 「はぁ〜い」 「どうして朝食を食べに来ないの? 具合でも悪いの?」 「別にぃ〜」 「別にじゃないでしょ、顔を見せなさい」 だるい身体を動かし、仕方なくあたしはベッドから這い起きてドアをちょっとだけ開けて顔を見せました。 あたしの顔を見たお母さんは驚いた表情をしました。 「那々美! どうしたの顔が赤いわよ」 すぐにお母さんはあたしのおでこに手を当てて熱を測りました。すると、またお母さんは驚いた表情をしました。 「すごい熱、今日は学校を休んで寝てなさい」 「ううん、学校行く」 「寝てなさい!」 「風邪とかじゃないから大丈夫」 「大丈夫ってあなた――」 お母さんの言葉が終わらないうちにあたしはドアをバタンと閉めてしまいました。だって、本当に風邪とかじゃなかったんです。 好きな人のことをベッドの中で考えてたら、身体が火照ってきちゃって……恥ずかしいことに顔が真っ赤になっちゃったんです。なんか情けないなあたし。 学校に行くのは嫌だったけど、今までの学校生活を優等生ちゃんとして過ごしてきたので、そのプライドを守るためだけに学校に行くことを決意。 パジャマから制服のブレザーに着替えるんですけど、毎朝めんどくだいですよね。だから、『自動的に制服に着替えられないかなぁ〜』なんて思ったんです。そしたら――。 「あれっ!? あたし何時の間に着替えたんだろ?」 パジャマが制服に変わってたんです。そのときのあたしは『寝ぼけてたのかなぁ〜』って思ったんですけど、これが魔法だったんですよね。 制服に着替え終わったあたしは眼鏡を探します。いつもの行事なんですけど、この日に限って眼鏡が見当たらない。たしか、いつもどおり机の上に置いといたんですけど、無かったんですよね。 「あっれ〜、おかしいなぁ。どっか別の場所に置いたっけ?」 どこを探してないんですよね。 「こんなとき魔法が使えたら、はい、このと〜り手の中に眼鏡が……!?」 あたしは目を疑いました。たしかに目は悪いですけど、こんなことが起きるなんてありえません。眼鏡が手の中にあるんです。 「うっそだ〜」 何が嘘なんでしょうね。思わず言ってしまったのでわかりません。 ここであたしは今朝見た夢を思い出しました。でも、まさか魔法が使えるようになったなんて、普通は信じられませんよね。 「な〜んちゃってね。ナイナイナイ、あり得ないよねぇ〜」 自分を落ち着かせるように言いましたが、事実眼鏡は手の中に突然現れたわけですし、ちょっと試しにあることをやってみました。 「テレビよ〜、つけ!」 ――つきました。テレビの電源が入っちゃいました。驚きです。 テレビを見ながらあたしは思わず固まってしまいました。身体は止まってますけど、頭の中はパニック状態です。 だって、魔法使いですよ。魔法が使えるようになっちゃったんですよ。 「どうしよう、どうしたらいいの!? 大金持ちとかも魔法でなれるのかな?」 魔法ならなんでもできるかもしれません、けど、大金持ちっていうのは叶えようとしませんでした。 あたしって結構小心者で、もし、本当になんでも叶っちゃったら……って考えると、恐くなります。だから、魔法を使わないことに決めました。 実際、なんでもできるようになると、恐くて何もできませんでした。でも、本当はちょっとだけ大金持ちになろうとも考えましたよ。 「使わない、使わない、使わない」 念仏でも唱えるようにあたしは自分に言い聞かせます。魔法使いなんてなるんじゃなかったって本気で思いました。厄介なことになっちゃいましたよね。 でも、本当に魔法使いになってしまったのか半信半疑、でも、魔法を使うのは自分的に禁止したので魔法は使いません。それに魔法があんなに簡単に使えるなんて、魔法を使うごとに寿命が減ったり、デメリットがあると嫌なので絶対使わないと再度自分の心に確認です。 地球爆発を魔法で叶えたら、わたしにどんな不幸が起こるのかと考えるとぞっとします。って地球が爆発したらあたしも死にますね。そーか、魔法でどうにかすれば死なないかも知れませんね。 時計を見ると、だいぶ時間が過ぎてました。ヤバイです、遅刻ですよ。今まで遅刻したことなかったのに。 学校まで歩いて一五分。学校が始まるまで一〇分。走れば間に合いますけど、体力の自信のなさなら人に誇れますよ。そんなこと誇りになりませんね、ごめんなさい。 部屋を飛び出し、家も飛び出すあたし。命をかけて走りましたよ。体育の時間だってこんなに真剣に走ったことはありません。 ぜ〜は〜、ぜ〜は〜、肩で息をしながら必死であたしは走りました。そして、どうにか学校について、チャイムと同時に自分の席に着席。バタンとそのまま机に突っ伏しました。 「死ぬぅ〜」 このときのあたし、絶対死相を浮かべてました。 わたしの横から誰かが声をかけているようです。意識が朦朧としていて誰かわかりません。 「な……さん、だいじょ……」 あたしは声のする方向を死にそうな顔で見上げました。そしてら、そこにはあの人がいたんです! 「那々美、大丈夫か?」 なんとあたしに声をかけていたのは、鳴海愛(なるみまな)さま。あたしの好きな人です。しかも、実は女性なんですよね。 あの、あたしはノーマルですよ。でも、愛さまだけは別格なんです。美人だし、かっこいいし、生徒会長もしてるんですよ。 この愛さまは、うちの学校の女子生徒の憧れの的なんです。毎年女子生徒からたくさんのチョコをもらっているし、普段から『きゃ〜、愛さま〜っ!』って言われてますし。 あたしも愛さまみたいにならたらなぁ〜って思います。でも、魔法はダメです。 愛さまっていつもゴスロリで学校に来るんです。いちようこの学校って制服あるんですけど、愛さまは着なくてもいいみたいです。それというのも愛さまのご実家ってちょ〜お金持ちで、愛さまの後ろには大きな力がいつも渦巻いてるんですよね。 「那々美、大丈夫か? 保健室に私が運んでやってもいいぞ」 愛さまの口調って、男性口調なんですけど、そこがまた痺れるんですよね。ハスキーな声で、文化祭では歌も歌ったんですけど、それがまたよくって、もう、あたしは愛さまのトリコです。愛さまにだったら、この身を捧げてもいいです。ってちょっとあたしバカですかね? 「愛さま、あたしなら大丈夫ですから心配しないでください。あ、先生も来たみたいですし、愛さまも席についた方がいいんじゃないですか?」 「ああ、そうしよう」 はあ、ラッキーです。愛さまと朝からしゃべれるなんて、恍惚に浸ってしまいます。 白衣を着たナイスバディな女の人が教室に入って来ました。この人、うちの担任の玉藻妖狐(たまもようこ)先生です。かなり変わってます。 変わり者の多いこの学校ですが、玉藻先生はかなり変わってます。だって、学校を吹っ飛ばして消滅させたんですよ。……噂ですけど。 去年の一二月、朝学校に行ったら、学校が消失してるんです。あのときは本当に驚きました。どうやら玉藻先生が実験に失敗して学校を吹っ飛ばしたらしいんですけど、本当のところはわかりません。 玉藻先生は科学教師なんですけど、自分では可学°ウ師って言っていて、その可学っていうのは何でも可能にする学問だそうです。その可学の実験をするために、学校のどこかに秘密の研究所をつくって、日夜生徒相手に怪しげ実験に耽っているそうです。 モデル歩きで教壇に立った玉藻先生の胸がたわわに揺れました。無駄に豊満な胸ですが、あたしもちょっとくらい分けて欲しいですね。 「みんなぁ〜ん、おはよう。今日も元気に適当にがんばりましょうねぇん」 毎朝毎朝、玉藻先生の適当なあいさつひとことで朝のホームルームは終わるんですけど、今日はもう少し話が続きました。 「みなさんもご存知、今日はなんとバレンタインでしょ? だからあたしはみんなのためにあるものを作ったんだけど、いるかしらぁん?」 玉藻先生は白衣のポケットから綺麗にラッピングされた何かを取り出して、高らかに言いました。 「じゃじゃ〜ん、これはなんと食べた相手が自分のことを好きになってしまうチョコレートよぉん。今日はなんとこれを限定二〇個、定価消費税込みで一万円であなたたちにご奉仕するわよぉん。欲しい人はあとで職員室に買いに来るように、以上」 学校で商売するなんて、あり得ない。こんなことを思う前に普通なら、あんなチョコレートこの世にあるわけがないと思うのが普通かもしれないけど、玉藻先生なら作れちゃうんだよね。……あっ、そう考えると、あたしの魔法もそんなにすごくないことに感じてきたな。玉藻先生の可学より、あたしの魔法の方が現実的かも。 あ、ちなみに、玉藻先生の作ったチョコレートは玉藻先生が職員室に戻ってから五分で売り切れたそうです。しかも、限定二〇個って言ってたのに、実際は五〇個あったみたいですよ。 朝のホームルームも終わり、すぐに一時間目がはじまります。一時間目って朝のホームルームが終わってから五分で始まるんですよ、短いですよね。普通の授業の間は一〇分休みが入るんですけど、一時間目の前は五分。しかも、今日の一時間目は体育。 五分でどうやって着替えろって言うんでしょうか? でも、文句を言ってないで着替えないと授業に遅刻します。 ここである重大な事実に気がつきました。なんと、体操着を忘れてしまったんです。しかも、バッグも忘れてます。 かなり迷いました、魔法を使うか。でも、使っちゃいました。このくらいなら大目に見てもいいですよね。 誰も見てないうちにバッグをあたしの部屋から教室の床に瞬間移動させました。近くに結構人がいたのでドキドキしましたが、どうにかなりました。でも、あとで考えると誰もいないところに行って、魔法で体操着に着替えれば済みましたよね。あたしってバカですね。 更衣室ってあるんですけど、時間がないのでみなさん教室で着替えます。もちろん下着姿になんてなりませんよ、うまくワイシャツを着たままで着替えるんです。あ、うちの学校の女子生徒ってブラウスじゃなくってワイシャツ着てる子の方が多いんです。 ブラウス着ていると男子たちにお嬢様とか言われてからかわれるんです。ヒドイと思いませんか……実はあたしも被害者だったりします。 体操着をワイシャツの上から着て、そのあとでワイシャツを脱いで体操着の首のところから抜くんです。体操着の下はハーフパンツなんですけど、冬はジャージです。そのジャージをスカートを穿きながら穿いて、スカートを脱ぐ。で、ジャージの上を着て完璧です。 あたしは体操着に着替えるの早い方なんですけど、制服の上からジャージを着る人には負けます。でも、それってズルですよね。それに制服のまま汗とかかいたら嫌じゃないですか、ってそういう人は真剣に体育の授業受けないから汗かかないんですね。 体操着に着替え終わったあたしは体育館に走っていきます。廊下を走るなってよく言いますけど、走らないと遅刻するので走ります。でも、走るの苦手なので小走りです。 チャイムと同時に体育館に駆け込んでギリギリセーフ。毎週こんな感じです。 チャイムはもう鳴り止んだんですけど、生徒の集まりが遅いんですよね。体育教師のベルバラこと伊原尚美(いばらなおみ)先生は毎週張り切ってるんですけどね。 あっ、ベルバラっていうあだ名は、この先生の髪の毛の色と髪型が某ベルバラに登場するオスカルに似ているからそう呼ばれているんです。確かに顔は綺麗なんですけど、言動がちょっと……。 「カワイイぞマナぁ〜、いつ見てもそのジャージ姿が魅力的だ」 ね、変でしょ。しかも、愛さまに平気でハグハグするんですよ。でも、愛さまはちゃんと避けるのでバルバラはいつも宙を掴みます。 愛さまのジャージ姿はいつ見ても素敵です。いつものゴスロリとのギャップがなんとも言えず、一部マニアでは好評です。 あたしが愛さまのジャージ姿に見とれていると、いつの間にか全員集合したみたいです。 今日の授業はバスケットボールだそうです。ベルバラは本当はフェイシングが得意なのでフェイシングをやりたいそうですが、残念ながらフェイシングは授業のカリキュラムに入っていません。 前に言いましたけど、あたしって運動が得意じゃないんです。つまり運動オンチってやつですね。特に球技は苦手で、できることなら休みたいです。 バスケットをするにあたって、まずはチーム分けです。ここであたしの運が試されます。愛さまと同じチームになれるかのチャンスです! がしかし、運命って時として皮肉なものです。なんとわたし愛さまの敵になってしまいました。ショックです。 たかが三分の一の確立だったのに、なんてあたしは不幸なんでしょうか。わたしは愛さまと戦うなんてできません。そんなことできません! 恨めしそうな目で愛さまのチームを見つめるあたし。そこであたしはあることに気がつきました。見上宙(みかみそら)さん。 愛さまと仲のよい見上さんという方がいるんですけど、どういうわけか、愛さまと見上さんって一緒になることが多いんです。席替えも毎回近くだし、今回だってくじ引きでチーム分けしたんですよ。絶対裏があります。 そう言えば、見上さんが超能力者だって噂を聞いたことがあります、っていうか学校全体に蔓延している噂なんですけどね。まさか、その超能力を使って……!? 超能力なんてズルイです。あ、あたしも魔法で……ダメです、いけません、魔法は使わないって決めたんです。 そうです、何ごとも正々堂々とです。あたしも正々堂々と全力で愛さまと戦います。愛さまの胸を借りて体当たりでがんばります。 ですが、いざ試合がはじまると何もできなくて。コートの隅っこであたふたしちゃってます。いつものことなんですけどね。 完全に戦力外って感じですね。あたしってなんで運動できないんだろう。ちょっと虚しいな。 試合はあたし抜きでどんどん進んで行きます。うちのチームは佐藤美咲(さとうみさき)さんが張り切ってがんばってますし、あたしなんていなくてもいいですよね。 あたしがぼーっとして適当に辺りを見回していると、ある人と目が合ってしまいました。見上さんです、見上さんと目が合いました。 あたしの他に戦力外の人、見つけちゃいました。見上さんもあたしと対極のコートの隅でぼーっとしてます。しかも体育座りで試合を完全放棄です。 あたしと目の合った見上さんは不適な笑みを浮かべました。ちょっとあたしをバカにしているような笑みです。自分だって戦力外なのに。 訂正します。見上さんはこの後活躍しました。 あたしと目の合った後、見上さんは突然立ち上がるとボールを見ました。その見方が尋常じゃない感じなんです。まるで、ボールに念を送っているような感じなんです。 佐藤さんが持っていたボールが突然上空に上がりました。佐藤さんが投げたのではなく、ふあふあ〜っと勝手に宙に浮かんだんです。その瞬間あたしは見ました。見上さんが不敵な笑みを浮かべるのをこの目でしっかりと。 宙に浮かんだボールは見上さんの腕に吸い込まれるようにして、飛んでいきました。超能力です、絶対これって超能力です。って毎回思います。 見上さんってたまにみんなの前で不思議な能力を使うんですよね。でも、誰も本人には確かめないんです。実際には確かめた人がいるらしんですけど、その人は謎の不慮の事故にあったとかで、その噂が流れてからは誰も見上さんの超能力は見て見ぬふりをしています。 ボールを取った見上さんは、ボールを転がしました。そう、そうの姿はまさにボーリング。バスケでこんなことする人はじめて見ました。 地面を転がるボールはまるで意志を持っているように人々の間を抜けて行きます。絶対見上さんが遠隔操作してるんですけどね。 そして、ボールは突如高く舞い上がり、ゴールのリングに吸い込まれていきました。反則だと思うんですけど、超能力を使ったら反則ってルールないですよね。 今のゴールでうちのチームと愛さまチームが同点に並びました。そう考えると、やっぱり今の反則だと思います。超能力で同点に並ぶなんてズルですよ。 あたしも見てるだけじゃなくって、何かをしなきゃという衝動に駆られました。あたしだってきっと何かできる。ファイトあたし! 意気込んで歩き出したあたしですが、何をしていいのかあたふたです。困りましたやっぱり何もできません。 敵がこちらにドリブルしてきても遠くに逃げちゃうし、ボールが飛んできても避けてしまいます。あたしって役立たず。てゆーかお荷物? 「珠瀬さんボール!」 佐藤さんの声がしたなぁ〜と思ったら、大変です眼前までボールが迫ってきているじゃありませんか! 「あわわぁ〜!」 飛んできたボールを偶然にもキャッチしちゃいました。ミラクルですね。でも、これからどうしたらいいんでしょうか? 「あのぉ〜、これからあたしは何をすればいいんでしょうか?」 「珠瀬さんシュート!」 佐藤さんが叫びます。どうやらあたし、敵のゴール下に突っ立ってたみたいです。でも、あたしシュートなんてしたことなですよ。 「ああっ、愛さま!」 あられもない声を出してすいません。だって、気づいたら愛さまがあたしの前にいるんですもの。 愛さまはあたしからボールを奪おうと襲い掛かってきました。ああ、このまま襲われたい……じゃなかった。あたしは正々堂々と愛さまと一騎打ちです。 とにかくシュートです。ここはシュートしかないです。もしかして、今のあたしってちょっぴりカッコいいですか? 一心不乱であたしはジャンプしてシュートしました。かなり高く飛び上がって、ダンクシュート……ダンクシュート? 場の空気が一瞬にして固まりました。 あたしの手はリングにぶら下がって、足はぶらぶら。ボールは見事リングに入って地面に落ちました。 ちょっと冷静になって考えましょう。 あたしは運動オンチで、背も高くなければ、ジャンプ力なんてないですよ。でも、今ゴールリングにぶらさがってますよね。――やっちゃいました。 魔法です。魔法使っちゃったんです、きっと。 下を見ると愛さまがあたしのことを見つめていました。 「玉藻の実験台にされたのか?」 愛さまのお優しいお言葉です。 ……問題はそんなことじゃないですね。確かにこの学校で奇々怪々な出来事が起こった場合の原因は大抵玉藻先生にあります。ですけど、これは……。 「偶然です、偶然!」 かなり苦しい言い訳をしてしまいました。偶然のわけないじゃないですか。あたしの言葉にみなさん沈黙です。 こう言う場合は、話をはぐらかせて逃げた方がいいと思うんですけど、どんな話をしたらいいんでしょうか? そうですね、そうです。まずはここから降りましょう。降りてから言い訳をしましょうね。 ……降りれません。ちょっと高いですよ。運動オンチのあたしが降りられるわけないじゃないですか!? 地面が遠く感じます。手も痺れてきました。目からちょっぴり涙も溢れてきています。これって絶体絶命ってやつですよね。 「助けてください。降りれません……誰か助けてください!」 叫んでました。恐怖から我を忘れて叫んでました。そんなあたしに愛さまはお温かい笑顔をくださいました。 「私が受け止めてやるからジャンプをするんだ」 愛さまの腕が大きく広げられ、あたしを受け止める準備OKです。でも、愛さまの胸に飛び込むなんて、あたし、あたし、恥ずかしくってできません。 「どうしたんだ? 早く私の胸に飛び込んで来い」 飛び込んで来いって言われても、困ります。できません、あたしにはできません。愛さまの胸に飛び込むなんて恐れ多いことできません。 あたしが躊躇している間に、体力の限界ってやつが来ちゃったみたいです。汗で手が滑りそうです。もう、ダメです落ちます。死にます。絶対あたしドジだから頭打って死んじゃいます。 「ああ……もうダメです 思わず目をつぶり、手を滑らせ床に落下するあたし。ビルの屋上から落下する気分ってこんな感じなのでしょうか? 妙な浮遊感、そして、やわらかく温かい胸の中……思わずハグハグ……じゃなくって胸の中? あたしがゆっくりと目を開けると、そこには笑顔の愛さまのお顔が。眩し過ぎます。ダメです、そんなに見つめられたらあたし可笑しくなっちゃいます。 「大丈夫か珠瀬、顔が赤いぞ」 そんな直球で言わないでください。だって、愛さまがあたしのことを見つめるから。 心配した愛さまのお顔があたしの顔を間ぢかで覗き込んできます。 柔らかそうな紅い唇が急接近。ヤバイです、変な想像をしてしまいました。 ダメです、限界です。もう、愛さまに嫌われてもいいから、その唇を奪いたい。……なんてことできるわけないじゃないですか。でも、限界です。 意識が遠退き、あたしは気を失ってしまいました。恥ずかしいことに昇天しちゃいました。 目が覚めるとそこは……。 「うわぁっ!」 素っ頓狂な声をあげてしまってすいません。だって、また愛さまのお顔があったんですもの。 「すまない、脅かしてしまって」 愛さまのお顔が離れてきます。そして、どんどん愛さまの顔がぼやけて……夢の中、じゃなくって、眼鏡がない!? 「眼鏡は? 眼鏡はどこ!?」 「ああ、眼鏡ならそこに」 眼鏡を見つけて立ち上がったあたしの頭から何かがぼとっと落ちました。濡れたタオルです。 「あの、これって?」 「熱があったみたいなので、それで冷やしてしたんだ」 「ごめんさない、心配をかけてしまって」 どうやら、愛さまがあたしを保健室まで運んでくれて、ずっと付き添っていてくれたらしいです。そんな迷惑を愛さまにかけるなんて、あたしって罪なひと。 眼鏡を掛けて、ようやく落ち着きました。眼鏡掛けてないと挙動不審になっちゃうんですよね。 落ち着きを取り直したと思ったら、愛さまがあたしのことを見つめてるじゃないですか!? 「眼鏡もいいけど、素顔の方が可愛いな」 「えっ?」 「珠瀬の眼鏡を掛けてない顔はじめてみたけど、その方が素敵だな」 「素敵!?」 愛さまに素敵だなんて言われるなんて、絶対今日中に地球爆発しますよ。でも、うれしいです。 「コンタクトにはしないのか?」 「眼鏡の方が楽ですから」 「そうか」 愛さまはちょっと残念そうな顔をしていましたけど、これでいいんです。眼鏡を取ったあたしの顔は愛さまだけのものです。コンタクトなんかにしたらいろんな人に見られちゃうじゃないですか。 愛さまがあたしの素顔を見て、『素敵』って言ったことはあたしの胸に大事にしまっておきます。 愛さまは何かを思い出したように、ベッドの下に置いてあったバッグを持ち上げました。それってあたしのバッグじゃないですか? 「目が覚めたら、早退した方がいいと思って持って来たのだが、余計なお世話だったか?」 「いいえ、もう帰ります。体調悪いみたいですから、帰ることにします」 「その方が私もいいと思う。まだ顔がだいぶ赤いみたいだしな」 それは愛さまと保健室で二人っきりだからです。あ〜んなことや、こ〜んなこと想像しちゃって……ってなに考えてるのあたしったら、バカみたい。 バッグを愛さまから受け取った時、あることに気がつきました。そう、朝、バッグに入れてきたもの。 「あの、愛さま」 「ん?」 あたしはバッグの中に大切に入れてあったものを愛さまに手渡しました。勇気がいりましたが、勢いです。 「これ、受け取ってください」 わたしが差し出したのはバレンタインデーチョコレート。心臓バグバグで身体が熱いです。 愛さまはにこやかに笑ってくれました。 「ありがとう」 愛さまがあたしの差し出したチョコを手に取った瞬間、愛さまの指先があたしの指先にちょっぴり触れました。身体に電撃が走ったみたいにゾクゾクってしました。 「ここで食べてもいいかな?」 「は、はい」 なんであたし『はい』なんて答えちゃったんだろう。だって、ここで開けられたら……。 時すでに遅し、あたしの顔は真っ赤になって吹っ飛ぶ寸前です。だって、チョコの形が、チョコの形がハート型なんだもん。しかも、『愛してます』ってホイップチョコで書いてあるし。自爆です。 ハート型のチョコを見た愛さまは少し笑を浮かべました。てゆーか、愛さまに笑われた!? もう、恥ずかしくって、生きて行けないです。 ああ、そしてチョコレートが愛さまのお口の中に……色っぽいです。 「うん、おいしい」 おいしいって、溶かして固めて、ホイップしただけですよ。 もうダメです。恥ずかしすぎて、また、意識が……。 「大丈夫か!? 顔がさっきよりも赤いぞ!」 慌てたようすの愛さまがあたしの顔を覗き込もうとして、足を滑らせて、そのままあたしの身体を……。 ……頭が真っ白になりました。だって、だって、愛さまの柔らかい唇が、あたしの唇に重なって……。 「す、すまない!?」 愛さまは飛び上がり、目を丸くしました。こんな愛さまの表情を見たのは初めてです。だって、いつもクールな表情ばっかりで。この表情はあたしだけのものなんですよね。 保健室に沈黙が流れました。 少ししてあたしは正気を取り戻し、ことの重大さに困惑。 だって、キスですよ。憧れの愛さまとキス。それもあたしのファーストキスを奪われました。 もう、何がなんだか……絶対今日で宇宙は滅びます。 あたしは顔を真っ赤にして保健室を飛び出しました。 恥ずかしさもあるけど、それよりもうれしさでいっぱいです。だって奇跡が起こったんですよ。……もしかして、魔法のチカラ? 違います。魔法のチカラなんかじゃないですよね、きっと。でも、どっちでもいいんですけどね。これはあたしの大切な思い出ですから。 とにかく誰でもいいから、素敵な思い出ありがとうv あたしのファーストキスはチョコの味。なんちゃってね。 ツイン’ズ総合掲示板【別窓】 |
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