Special

お年玉スペシャル

飛んで火にいる夏の虫

 夏だ!

 海だ!

 水着美女だ!!

 ――ではなく。

 極寒も極寒、冬の大寒波が日本列島を襲っていた。

「寒い、ありえん異常気象だ」

 こたつに潜る直樹の足元から、もっとこたつの奥に潜っていたアイがニョキっと顔を出した。

「ダーリン♪」

「うわっ! なんで、そんなところから出てくんだよ!」

「神出鬼没が今年の抱負なんだよん!」

「今年も何も、アイは前から神出鬼没だろ」

 直樹とアイの馴れ初めを語るのはダルイので、一言だけ説明しよう。仔悪魔アイはカップイラーメンの中から『呼ばれて飛び出てちゃちゃちゃちゃ~ん♪』だったのだ。

 とりあえず直樹はアイを『うおりゃーーー!』と投げ飛ばした。そのとき、チラリンとアイちゃんのスカートの中身が!?

 あ、くまだ!

 今日もばっちりクマさんプリントだった。何が?

「あぅ、いきなり投げ飛ばすなんて酷いよぉ」

「おまえ以外のレディーにはそんなことしないから安心しろ」

「それってどーゆー意味?」

「そーゆー意味」

「もぉ!」

「牛のまね上手いな」

「ムカッ!」

 アイちゃんのドロップキックが直樹の顔面にぶっ飛ぶ!

 が、これまで幾度と繰り広げられた直樹VSアイの中で直樹は着実にアイ対策法を身に着けていた。今では目をつぶってもアイの攻撃をかわせてしまう。

 ヒラリ、ハラリとこたつに入りながら直樹が上半身を動かす。すると、あら不思議、障子に穴が一つ二つと開いていく。

「おまえなぁ、年末に張り替えたばっかりなんだから、正月早々穴あけるなよ」

「ダーリンが避けるのが悪いんだよ」

「避けなきゃ死ぬだろ」

 アイの攻撃は10万馬力だったり、じゃなかったり、とにかく人間外の怪力の持ち主だ。こないだなんて、お向かいの山田さんちの塀を蹴りで穴を開けたばかりだ。ちなみに近くにコンクリート塗りたての立て札があったりなかったりしちゃったりして。

 不毛な争いに終焉を告げるべく、直樹が湯飲みにお茶を注いだ。

「まあ、こたつに入って頭を冷やせ。茶とみかんがあるぞ」

 こたつに入って頭を冷やすのは熱伝導の法則上不可能だが、心の熱――闘志は冷めるだろう。

 アイは直樹に勧められたままこたつに入って、勧められたままにお茶を飲む。

 そんなこんなで直樹VSアイのバトルはいっつも通りに休戦状態になる。

 一息つこう直樹がお茶を口に含んだ刹那。

 モゾモゾっとこたつの中――ていうか直樹の股間の辺りからニョキっと頭が出た。

 ドバァーッとお茶を噴出す直樹。

「なんでベル先生が!?」

 直樹の股間の辺りから顔を出したのは、奇人変人教師――鈴鳴ベルだった。

「空間移送の出口がたまたまここだったのよ」

 たまたまって、物凄いたまたまだ。

「だからって俺の股間から出てくることないじゃないっスか」

「だ~か~ら~、たまたまよ」

「そこ強調しなくていいんで、俺の股間近くでしゃべるのやめてくれませんか?」

「そうね」

 爬虫類っぽい動きで直樹の身体のラインに沿ってベルが這い上がる。

 そんでもって、目と目が合うトキメク瞬間。

 直樹の眼前に迫ったベル顔は、そこで止まって動かない。

 ドキドキと心臓が部屋いっぱいに鳴り響く。っていうのは言い過ぎで、直樹の脳内に鳴り響いた。

 巨乳!!

 たわわな巨乳が直樹の胸板にどっしりと2つ乗っている。

「せ、先生……ベル先生……胸当たってます」

 この発言が直樹の命取りになった。

「ダーリンのえっち!!」

 グーチョキパーのグーが直樹の頬をえぐった。この瞬間、直樹の脳内では劇画調でアイにぶん殴られる映像が上映されていた。

「ぐはーっ!」

 直樹の口から大量の変な汁が飛び散った。

 そんな最中、殴られる直樹なんて知ったこっちゃない感じで、ベルが完全にこたつから這い出た。

「直樹もアイちゃんも早とちりよ」

 ベルは上着の首元に手を突っ込んだ。手は胸元でモゾモゾと動き、まずは一個目を取り出した。

「胸が当たってたんじゃなくてこれよ」

 と胸元から取り出したるは〝餅〟だった。

 二つ目を取り出したところで、普段ならツッコミ役が『なんでそんなところから餅が!』みたいなツッコミを入れるのだが、生憎ツッコミ役は軽い脳震盪でダウンしていた。

 美女と白衣と餅。共通点がありそうでない組み合わせだ。

 しかし!!

 この餅はもちろんただの餅じゃない。なんせベルの胸元から出てきた餅だ。それだけでもプレミアが〝つき〟そうだ。餅だけに〝つく〟なんちゃって。

「ベル姐、その御餅なんなの?」

「よくぞ聞いてくれたわ!」

 張り切って声を張り上げるベルは餅を両手で餅を高く掲げた。

「この餅はもちろんただの餅じゃないわ。制作費が国家予算に匹敵する画期的な餅なのよ!」

 国家予算って、そんな予算どこから……みたいなツッコミを入れる人物は、まだまだ脳震盪でダウンしていた。

 二つの餅はドスンとこたつの上に置かれた。アイはまじまじと餅を見つめるが、どーみてもただの餅だ。円形のつきたてほやほやの餅は、白く瑞々しく口に入れたときの柔らかな感触が容易に想像できる。ただそれだけの餅だった――見た目は。

 白衣のポケットから包丁を取り出したベルが、華麗な腕裁きで餅を切り餅に変身させる。

 餅が切り餅になっただけで、やっぱりただの餅にしか見えない。

 脳震盪から復活したナオキが頭をクルクル回しながら起き上がった。

「今日は長いトンネルが見えたぞ」

 それっていわゆる臨死体験である。

 微妙にお気づきの方もいらっしゃるかもしれませんが、ナ・オ・キに起き上がったときに変身している。

 こたつの上に置かれた切り餅がナオキの目に入る。

「うまそうな餅だな」

 餅に手を伸ばし、パクリとナオキの口の中にモチモチした餅が飛び込んだ。

「食べちゃだめよ!!」

 叫んだのはベルだ。しかも、鬼……じゃなくって悪魔の形相。

 ベルがナオキに飛び掛ったときは、時すでに遅し。

 ゴクンと部屋に音が響いた。

「吐くのよ、吐きなさい、吐け!」

 ベルはナオキの胸倉を掴み、力いっぱい揺さぶった。しかし、喉に詰まった餅ならまだしも、胃の中に到達した餅は振った程度じゃ出ない。

 ナオキから吐き出させようと必死になっていたベルだが、苦労は途方に終わり、ナオキ胸倉を掴みながら力なく項垂れた。

「餅が……あたくしの研究の成果が……」

「たかが餅で……」

 とナオキは一瞬だけ思ったが、それも本当に一瞬のこと。

 頭の中に響き渡るベルの言葉。

 ――研究の成果。

「ぐわっ!? 私になにを喰わせた!」

 いや、自分で喰ったのだが。

「あたくしの研究の成果中の成果。それはお肌をモチモチにさせる『餅肌餅』なのよ!」

 ネーミングセンスはいつもどおり月並みだが、ベルの発明は本物だ。たま~に副作用とかがあったりするが。

 効果はすぐに表れた。

「な、なんだこれは?」

 と立ち上がったナオキの肌は白く輝き、瑞々しさとモチモチ感を備え始めた。しかも、それだけではない。ただでさえ巨乳だった胸がボヨヨーンとバスト100センチ超えの爆乳になり、ヒップもドドーンと大きく突き出した。ナイスバディ!

 肉体改造を終えたナオキが突如、胸を抑えてうずくまった。

「く、苦しい」

「どうしたのナオキちゃん?」

 うずくまるナオキにすぐさまベルが駆け寄った。

 ナオキを心配してではなく、

「研究の失敗かしら?」

 自分の発明の心配だった。

「胸が大きくなったら、胸が苦しい。着替えてくる」

 だそうです。

 立ち上がったナオキは、胸をぶるんぶるん揺らしながら部屋を出て行った。

 着れる上着を探した結果、伸縮自在のセーターしか着れるものがなく、仕方なくナオキは素肌にセーター1枚を着てアイとベルのいる部屋に戻ることにした。

 爆乳がゆっさゆっさ揺れて、セーターと擦れてこそばゆいが、ナオキは根性でそれを乗り切った。

 部屋に戻ったナオキが目の当たりにしたのは!?

 次回に続く!!

 なんてことはなく。

 ナオキは目の当たりにしたものとは?

 身体にぴったりと張り付いたピチピチの服を着たグラマー美女!

 美女?

 美少女?

 身体にふさわしくない童顔の顔――アイだった。

「アタクシの研究成果がぁぁぁぁぁっ……」

 部屋の隅では黒い影を落とすベル。

 部屋に立ち込める焦げた醤油に香り。

 なぜかそこには火鉢のセットが置かれ、なにかを焼いた痕跡が残っていた。

 そして、小柄な身体にミスマッチな爆乳を備えたアイ。

 どうやら餅を食ったらしい。

 しかしなぜ?

「ベル先生、いったいなにがあったのだ?」

 ナオキが尋ねると、壁を見つめていたベルが暗い顔をして振り返った。

「ちょっと目を話したうちに、アイちゃんが残っていた餅肌餅を全部磯辺焼きにして食べちゃったのよ!」

 わざわざ聞くまでもなかった説明だった。

「ダ、ダーリンどうしよぉ!?」

 泣きながら、ついでにゆっさゆっささせながらアイはナオキに抱きついた。

「私に泣き付かれてもないもできん。ベル先生に泣きつけ」

「ベル姐どうにかしてよぉぉぉぉ……うっ!」

 手を伸ばし助けを請うアイだが、ちょっぴり様子が変だ。片手はベル、片手は自分のお腹を押さえていた。

 ぎゅるるるるぅ~。

「……お腹イタイ」

 餅の食べすぎだった。

 お腹を押さえたアイはトイレへ向かって爆走。

 ドドドドドドドドッと駆けてった。

 ――数分して水の流れる音が聞こえ、すぐにアイが戻ってきた。

 姿を現したアイを見て、ベルが眼をむいて驚いた。

「失敗だわぁん!!」

 なんと、アイの姿はいつもどおりのツルペタ童顔仔悪魔少女に戻ってしまっていた。

 落ち込むベルだが、すぐに頭脳をフル回転させた。脳内に駆け巡る公式の洪水。

 謎は全て解けた!

「わかったわ、餅肌餅が完全に体内に吸収される前に排出されたのが原因ね」

 月並みな答えだった。

 しかし、奇才の本領はここからだ。

「腹痛を起こした要因は、醤油との化学反応を起こしたせいね。あたくしの計算では、餅肌餅が体内に完全吸収させるために要する時間は約30秒だったはずだけれど、その計算が狂った要素はつきたての餅じゃなかったためね。ついてから1分経つたびに1秒ずつの誤差が生じる計算だとすると合点がいくわ」

 この計算がどのような経由で導き出されたかはベルのみが知るだ。

 ベルの独り言を聞いていたナオキが尋ねる。

「で、あの餅はいつついた餅なのだ?」

「ざっと7、8年前かしらね」

「それにしてはモチモチだったが?」

「レンジでチンしたのよ」

「な、なんかお腹の調子が悪くなってきた気が……」

 ぎゅるるるるぅ~。

 奇怪な音を立てた腹を押さえながらナオキがトイレへ爆走した。

 ――数分後、ゲッソリしたナオキが部屋に戻ってきた。もちろん爆乳は元の巨乳に戻ってしまっている。

 トイレから戻ってきたナオキは思う。

 ――醤油がどうとか、化学反応がどうとかじゃない。カビてたんだ。

 だが、そんなベルの計算を否定するような発言は絶対しない。

 気を取り直したナオキは、落ち着きを取り戻すためにこたつの中に入った。すると、アイがナオキにそっとお茶を出す。

「ダーリン、これでも飲んで元気出して」

「ああ」

 お茶を飲んだナオキの口から重いため息が出る。

「はぁ、これでどうにか話にオチがついて一件落着か。でもこんなオチでいいのか?」

「おーっほほほほ!」

 突然高笑いをはじめるベル。

「オチならあたくしの任せておきなさい! 取って置きのお年玉を用意したわ!!」

 ナオキの背筋に嫌な予感が走り、アイにはドキドキわくわくが走った。

「じゃあ、とっておきのお年玉をプレゼントするわよぉん!!」

 声を張り上げてベルがポケットから取り出したリモコンのスイッチをオン。

 世界に名だたる天体観測所がいっせいに空に輝く物体を捕らえた。その物体はあっという間に大気圏を突き破り、それが彗星ではなく金色の玉だと目視できた瞬間!

 グゴォォォォォォォォォォン!!

 地響きと閃光が世界を包んだ。

 その日、某○○市はとある住宅を中心に消失した。

 お年玉……なんちゃってw

「なんちゃってじゃな~い!」

 こたつで眠っていた直樹が飛び起きた。

「どうしたのダーリン?」

 心配そうな顔をして、こたつの中から――っていうか直樹の股間辺りから頭を出したアイ。

「なんでそんなとこから顔出すんだよ!」

「なんでって……」

 顔を真っ赤にして恥らうアイ。

「そこでなぜ恥らう」

「だってぇ……」

「もういい、聞かなかったことにするつーか、そんなことより嫌な夢見た。せっかくの初夢が台無しだ」

「どんな初夢を見たのぉ?」

「こたつの中からベル先生が餅がどうとかとうかって、それでお年玉が……」

「あたくしがどうかしたかしら?」

「うわっ!?」

 こたつの中――っていうか直樹の股間あたりからベルの頭が出た。

 よっこらせとこたつの中から這い出たベルは自分の上着に手を突っ込んで、胸のあたりで手をモゾモゾさせた。嫌な予感が直樹を襲った。

 ちゃちゃちゃちゃ~ん♪

 ベルが服の中から取り出したのは2つのお餅だった。

 それを見た直樹の顔が恐怖に染まった。

「ま、まさかそれって餅肌餅じゃないですよね?」

「あら、よくわかったわね。直樹はいつからエスパーになったのかしら?」

「……うわぁ~ん!」

 直樹は泣きながらどこか遠くへ遠くへ逃亡した。

 その後、某○○市がど~なったかは知らん。

 チャンチャン♪