
失名の神と呪われし王女
まず読むなら、この巡礼譚から。
名を失った王女セーレと、沈黙の記録者フロウが、神々の断絶と祈りの痕跡をたどる長編。
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まず読むなら、この巡礼譚から。
名を失った王女セーレと、沈黙の記録者フロウが、神々の断絶と祈りの痕跡をたどる長編。

霧と煤煙の街で、探偵は“偽られた記録”を暴く
蒸気と霧の街で起こる事件の背後には、いつも“記録の偽装”がある。 西方大陸ヴァルテリア。 その中心にそびえる巨大産業都市、ヴェルム=クロウ。 煤煙と霧に包まれたこの街では、蒸気機関、高架鉄道、記録機械、契約文書が人々の暮らしを支配している。 霧燈通り十三番地、黒鴉館。 その二階に事務所を構える探偵レオン=クラウスは、助手であり記録者でもあるミラベル・ワトリアとともに、偽造された契約書、存在しない死亡記録、消えた神名、記録院の密室に隠された“偽装記録”を暴いていく。 これは、ミステリー専門の観測神格イル=ヴァスによって記録される、ローゼンサーガ西方大陸の探偵譚である。

失われた名は、潮に沈み、いつか海から還ってくる
ネル=エル諸海域では、本名をそのまま海へ持ち込んではならない。 海は名を流し、ほどき、時には奪う場所である。 だから航海者たちは、本名とは別に《潮名》を持つ。 それは偽名ではなく、海と交わるために魂の輪郭を少しだけ揺らす、航海のための祈りだった。 少女航海士ルカ=ネリスは、海から還ってくる名を読む力を持つ少女である。 彼女は小さな白い名札船《ナミル=レイ》に乗り、真珠港都市メルナ=レイを起点に、島々と潮流を渡っていく。

花咲く死体、獣の祈り、死ねなかった供物――南方の島で、命は赦しではなく変異として芽吹く。
島々を巡る医師/治療者リオ=サルヴァは、死体に花が咲く港ルクナ=サリオで、ひとりの少女マヤ=ルクと出会う。彼女は神に捧げられた供物だった。だが、死ななかった。花と獣の徴を宿して戻ってきた少女は、救われた者なのか、呪われた者なのか、それとも生命樹神サルヴァ=ティアの根に触れてしまった者なのか。

書かれし者よ。綴られぬものを継げ。
南の記録圏から来た少女エリス=ヴェルナは、北方大陸シェリグラートへ向かう白霧陸峡で、ひとつの異質な祈りと出会う。 そこでは、名は石に刻まれず、紙にも写されない。契約は雪上に一瞬だけ浮かぶ霜紋として結ばれ、記録は風の匂い、氷の音、霧の流れとして受け継がれる。アウレオンの記録官として「書くこと」を学んできたエリスは、北の地で初めて、“書かないこと”もまた祈りであると知っていく。

役を持たぬ少女は、面を持たぬ皇女に、この世にない役を彫る。
東方大陸エイシャ=ノワ。 そこでは、人は名前だけでは社会に存在できない。 家に属する者は、生まれ持った家と世帯の面である〈生面〉を持つ。 職に就く者は〈職面〉を持ち、宮廷に仕える者はさらに格式ある〈官面〉〈祭面〉〈武面〉を持つ。 仮面とは装飾ではない。戸籍であり、資格であり、神前で認められた「この世での役割」である。 若き面師イロハ=ナギは、帝都カミザの片隅にある無認可工房で働く中級面師。 彼女はかつて戦争孤児であり、生まれた家の面も、職の面も、祈るための面も持たない“仮面籍の外側”の子どもだった。 そんな彼女を救ったのは、資格を剥奪された元宮廷面師ロウセツ=カガミ。 彼はイロハに新たな生面を与えた。 だがその面――未在生面《ナギノオモテ》は、本来この国に存在してはならない禁忌の面だった。

帰りたいと願う名は、帰れぬ大陸で呼び直される。
外界の少女ノア=リントベルは、嵐の夜、黒い海を越えて魔大陸メギド=ノクスへ流れ着く。 そこは、外界の地図では「魔族の国」と記される場所だった。 角を持つ者、翼を持つ者、尾を持つ者、種族名を失った者、戸籍から消された者、神殿から追放された者、滅びた国の末裔、名を記録できない者たちが暮らす大陸。 けれど、ノアが最初に出会った少女リィゼ=ノルカは、彼女にこう告げる。 「魔族ってのは、種族名じゃない。ここに来るしかなかった連中が、まとめて名乗った名前だよ」

死者は、どの名で眠りたいのか。
葬送都市ネム=レクス。 そこは、死者の名を記録し、葬り、眠らせるために築かれた霊域都市である。 都市そのものが巨大な墓地であり、神殿であり、記録院であり、法廷でもある。 ここでは死者をすぐに裁かない。まず記録する。 そして、どの名で眠らせるか、どの記録を閉じるか、どの名を伏せるかが決められる。 若き死者名記録官リシェ=ベルレインは、死者の遺品や墓碑、葬送札に触れることで、その者の最後に呼ばれた名、最後に呼びたかった名を聞き取る資質を持つ。 冷静で真面目な記録官でありながら、彼女は死者にも生者にも踏み込みすぎるほど情が深い。 ある日、都市外縁の空白墓地で、“空欄の棺”事件が発生する。 葬送札には名がない。 棺の内側には、削られたような傷だけが残っている。 灰化許可院に保管されていたはずの記録灰も、封印されたまま消えていた。 リシェはそこで、ひとりの少年の死者と出会う。 彼は死者である。 けれど、死者名簿には載っていない。 死因も、生前名も、死亡地も、葬送記録もわからない。 リシェは彼を正式な死者名簿には記録できなかった。 それでも、調査帳の余白に仮の名を記す。

スマホに届いた通知は、神話黙示録のはじまりだった。
東京近郊の地方中核都市、神狭市。 駅前には広告ビジョンが光り、学生たちはスマホを見ながら改札を抜け、SNSでは都市伝説アプリ《AVIS》の噂が広がっていた。 「このアプリを入れると神が見える」 「夜中の三時に通知が来る」 「契約を許可すると願いが叶う」 「拒否すると名前が消える」 星綴高等学園に通う天瀬ユウリは、神話や都市伝説、創作考察が好きな普通の高校生だった。 神を本気で信じているわけではない。 けれど、神話の奥にある“まだ決まっていない部分”を見ることだけは、昔からやめられなかった。 ある朝、ユウリのスマホに入っていた神話辞典アプリが勝手に更新される。 《AVIS-System 起動》 《未確定名の観測者を確認》 《神話構文解析を開始します》 それ以来、ユウリは現実の街に重なる神話構文を見るようになる。 駅の改札に神名が浮かび、学校の黒板に存在しない星図が走り、SNSのトレンド欄に誰も知らない神の名が流れる。

境務ギルドは、問題児を解決しない
元神鎖の傭兵ガルドを中心に、問題児たちが灰色の依頼へ向き合う連作。

偽りの名で戦った少女は、真実の名で英雄となる。
月神ムーミストに守護された聖都メミス。 白い防壁、丘の上の月神殿、豊かな農地、羊の群れ、ブドウとオリーブの畑――そこは誰の目にも、神に愛された美しい都市国家に見えた。 だが、その白さは嘘を隠すための白だった。 若き魔導士アレクは、四〇年に一度現れる怪物レ=ザービ=トゥルドを討つ精鋭戦士《ラーザァー》の候補として選ばれる。 ラーザァーとは、聖都を守る月神の戦士。だがその実態は、ムーミストの神血〈血の雫〉を身に宿し、人間の身体と名を神殿制度に差し出す危険な儀式でもあった。

むかしむかしで終わらなかった、名の残響を語りましょう。
夜の底に、ひとりの語り部がいる。 名を語れば死が一夜遠ざかり、 物語を閉じれば世界の終わりが少しだけ近づく。 彼女の名は、リラ=ファブラ。 後の世では、千夜を語った姫の名で呼ばれたかもしれない。 あるいは、どの本にも正しく記されなかったかもしれない。 けれど彼女は今も、神話になるほど大きくはなく、記録に残るほど正しくもなかった小さな物語たちを拾い集めている。 赤い頭巾をかぶった少女は、狼に喰われるはずだった名を守った。 海の娘は、泡になって消えるはずだった声を、潮の名として残した。 灰かぶりの娘は、炉辺に埋もれた自分の名を拾い直した。 雪のような肌の姫は、棺に記された死者の名から生を取り戻した。 百年眠った王国では、止められた未来を読み解く若者が茨の奥へ向かった。 飢えた森へ入った兄妹は、パン屑の道を失いながらも、名を焼く家から帰ろうとした。 そして最後の夜、開かずの記録室に閉じ込められた花嫁たちの名が、ひとつずつ呼び戻される。 これは、後の世で童話としてやさしく語り直された物語の、さらに古い残響である。 物語は、失われた名を完全には救えない。 けれど、語る者がいるかぎり、失われた名は完全には沈まない。

薔薇の咎と王冠の誓い
シリーズ中核となる本編。

男装の魔導士が残した物語
ローゼン・サーガ世界の別角度を描く、読み切りやすい中編作品。

サーガの原点に触れる短編。
白い騎士と蒼い姫君の関係から、シリーズの情緒を味わえる作品。
「失名の神と呪われし王女」より、失われた名、記録、仮面、祈りの断絶を背負う主要人物たち。
呪われし王女/名を記す旅人
ルナリア王国の王女。
失われた王家の血を引き、黒豹へと変わる呪いを背負いながら、忘れられた神々と奪われた名を追って旅を続ける。胸の結晶とルクスブレードは、彼女の祈りと記録に呼応する。
沈黙の記録者/元祈祷騎士
セーレに同行する静かな記録者。
黒革の手帳を携え、言葉よりも行動で彼女を支える。夜には梟の姿を取り、沈黙と月の信仰に結びついた呪いの系譜を背負っている。
記録体/小さな観測者
ルクスブレードに宿る記録装置のような存在。
祈りと記名に反応し、セーレたちの旅を小さな観測者として見守る。神話と構文の隙間を翻訳する、物語の緩衝材。
断絶神格の貌/構造の使者
物語の深層に現れる、断絶神格の一つの貌。
名、記録、記憶の境界を揺らし、セーレたちに観測不能な問いを突きつける。味方とも敵とも言い切れない神秘的な存在。
語られざる仮面の神/名を奪う者
仮面によって名を管理し、奪う存在。
白、銀、黒白の仮面をまとう中性的な神格であり、信仰圏とフロウの過去に深く関わる。沈黙の奥に、語られなかった祈りを隠している。
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