第1節 ― 雪の匂い
薫る湯煙が幻想へ誘い、乳白色の温泉に肩まで浸かる女の後ろ姿。
茶髪を頭の上で結わき、うなじから伸びる後れ毛が色香を醸し出している。
湯の中で女は立ち上がった。その色香に比べ、思いのほか若い。くびれた腰から、張りのあるヒップにかけての柔らかな曲線を水玉が跳ねた。
少女が振り返る。
桜色に火照った肌に乗る豊かな胸が揺れ、股間の茂みから滴が零れ落ちていた。
黒く大きな瞳の奥に炎を宿す。
その視線の先に映る白く巨大な影。白く長い毛に全身を包まれた霊長類のような生物。プロレスラーのような巨躯[キョク]、手や足は人間に比べ長く大きいようだ。この怪物を見た者は一目でこう称するだろう――雪男。
雪男の股間から生えた赤黒い男根は、すでに限界まで張り詰め腕のように力強く、太い血管を浮き上がらせながら天に向いている。
まだ完全に二足歩行に適用していないのか、雪男はがに股で地面に拳を付きながら、ゴリラのごとく少女に向かって突進してきた。このまま押し倒されでもしたら、華奢な少女の躰[カラダ]はひとたまりもない。ぶつかったときの衝撃は車の衝突に匹敵するだろう。
だが、少女はただの少女にあらず。
〈不死鳥〉の通り名を持つTS[トラブルシューター]華艶[カエン]なのだ。
猪突猛進してくる雪男の躰を軽やかに躱[カワ]し、華艶は手のひらに意識を集中させる。
血が沸き立つような感覚。
「炎翔破![エンショウハ]」
華艶の手に乗った野球ボールほどの炎玉[エンギョク]が投げられた。
炎術[エンジュツ]使い〈不死鳥〉の華艶の必殺技だ。
白く長い毛に炎は引火し、雪男の躰は刹那にして火だるまと化した。
灼熱に身を焦がされ、炎に映る怪物の影は耐えかね湯船に飛び込んだ。
水飛沫[シブキ]が火山のように噴き出し、焼け落ちた黒い灰が乳白色の湯に浮かぶ。
地面から伸びるスレンダーな脚から続く裸体を露わにする華艶は、湯に逃げ込んだ雪男を冷ややかに見下していた。
「とっとと出てきてくんない? あたしが湯冷めしちゃうんだけど?」
「グォォォォォン!」
牙を剥き出しにして雪男は雄叫[オタケ]びをあげた。
生臭い口臭が辺りに漂い、華艶はしかめっ面で鼻を摘んだ。
「くっさー、なに喰ってんの……って女か」
東北地方に位置するとある温泉町で、雪男騒ぎが出たのは1ヶ月ほど前。話を聞くと昔から、この地方では雪男の目撃談や伝説があるらしく、若い女が姿を消したり死骸となって発見される事件が過去にも起きていたらしい。けれど近年ではそういったこともなく、平穏と住民たちは毎日を過ごしていた。と、華艶に話してくれた。
今回の事件は、野外露天風呂で若い女が忽然と姿を消すところからはじまり、のちに雪男の目撃者が現れた。
近頃は世の中も荒んできたというか、当初、温泉組合は雪男を生け捕りにして、観光に役立てようと考えていたらしい。だが、すでに被害者も出てしまっていることから、隠蔽に勤める道を選び、警察も〝たまたま連続失踪〟事件として動いているらしい。
年寄りの多い経営者たちは伝説や迷信を畏[オソ]れる者が多く、そう言った点からも雪男抹殺を選んだ理由かもしれない。
田舎町の温泉組合はプロではなく、アマのTSに依頼をした。それが女子校生の華艶だったのだ。理由は依頼料が格安な上に、ド田舎にわざわざ来てくれる都会の〝腕利き〟が他にいなかったのも理由だろう。
華艶は温泉に浸かる雪男を睨み付け、石床に胡座[アグラ]をかいて座った。「寒いんだけど、とっととお湯から出てきて、あたしに殺されてくんない?」
「グアァァァン!」
雪男が咆[ホ]えた。けれど、温泉から上がろうとは決してしない。身を焼かれた恐怖が脳に根付いてしまったのだろう。
「寒い……仕方ない」
華艶は脚をM字に開き秘所を露にすると、中指と人差し指で秘裂[ヒレツ]を広げた。
飢えている雪男の濁[ニゴ]った眼が、オナニーをはじめた華艶の秘所[ヒショ]に釘付けにされる。
皮を被ったクリを中指の先で刺激しながら、鼻から熱い吐息漏らす華艶は舌舐めずりで雪男を誘う。
「寒いから、あなたの熱くてぶっといので暖めて……」
先ほどまですっかり萎縮[イシュク]していた男根が猛[タケ]っていた。瑞々[ミズミズ]しく肉付きもいい女を犯したくてうずうずしている。
華艶は溢れる愛液[アイエキ]を秘所に塗りたくった。膣口が卑猥[ヒワイ]に収縮して、指を呑み込みしゃぶり付く。
ヌレた指が抜かれ、両手で愛液が糸を引くヒダがを左右に広げた。
女のすべてが露わになった。
包皮[ホウヒ]の下から小粒の真珠にも似た勃起したクリトリスが覗き、その下には小さく穴の開いた尿口まで、さらにヒクつく肛門の陰。恥じらいもなく露わにされた。
ついに雪男は堪らなくなり湯船から飛び出し華艶に襲いかかった。
華艶は細くも引き締まった腕で雪男を抱き、繊細な指先を焼けた背中に這わせた。
「グォォォォォッ!」
痛みと快楽の絶妙な遊戯[ユウギ]。
前戯[ゼンギ]もなしに雪男は巨大な男根[ダンコン]を狭い入り口から、一気に子宮口まで突き入れた。
「ッ!」
険しい顔を一瞬見せた華艶だったが、すぐに妖艶[ヨウエン]とした笑みを浮かべ、雪男の首元に顔を沈めた。
雪男の男根は華艶がこれまで経験した誰よりも大きく太く、まるで拳を出し入れされているようだ。
愛の欠片もない性欲を満たすための行為に雪男は耽[フケ]っている。
乱暴に腰を動かし、巨大なカリが膣内を抉り掻き回しながら、何度も何度も子宮を突き上げる。
決して上手とは言えないが、デカイだけあってどんな下手クソなヤリ方でも、刺激的な部分を突いてくれる。
「もっと、もっと……あたしを本気にさせて!」
華艶の躰に流れる血が煮えたぎる。額から汗が噴き出し、半開きになった唇から垂れた唾液を手の甲で拭う。表情は恍惚として、意識は乳白色の霧に呑み込まれる。
「あン……ひぃひぃ……アッ……あぁン、ふあぁぁッ!」
呼吸をするだけ喘ぎ声が漏れてしまう。
湯から上がり濡れていた雪男の身体から蒸気が噴き出す。
華艶の指の爪が雪男の背中に喰い込んだ。
「出る……出ちゃう!!」
膣が痙攣[ケイレン]して収縮すると共に潮を噴いた。
同時に巨根[キョコン]から吐き出された大量の白濁[ハクダク]の汁が膣内を汚[ケガ]した。
刹那[セツナ]、絡み合う二人の躰は激しく燃え上がった。
比喩[ヒユ]ではない。紅蓮[グレン]の炎が突如として二人を包み込んだのだ。
「ギャァァァァァッ!!」
雪男の咆哮[ホウコウ]が木霊[コダマ]する。
炎の中で揺らめく華艶は妖々[ヨウヨウ]と微笑を湛え、雪男の背中に喰い込ませた爪によりいっそう力を込めた。
「逃がさないから」
「ガァァァァッ!!」
「もっと激しく、もっと!」
業火[ゴウカ]に包まれながら、華艶はよがりオーガニズムに達していた。
男の精を吸い尽くそうと動く膣の中で、男根は無惨に収縮していく。
熱い炎に包まれながら、華艶は常人では達し得ない快楽に酔いしれる。
高温で焼かれた雪男の躰はすでに灰と化し、抱きしめていた華艶の腕の中で脆[モロ]くも崩壊し、熱によって灰は天に舞い上がった。
躰を包み込んでいた炎は徐々に熄[キ]え、無傷で瑞々しい華艶の肌が露になる。その顔は快楽に溺れ、瞳が甘く蕩[トロ]けた表情をしていたが――。
「あー気持ちよかった」
火が消えた華艶は冷めてしまった。まるで男のような変わり身だ。
「さてと、もう一度湯船に浸かってから出よっと」
乳白色の湯に浸かる華艶の頭上に灰色の雪が降ってきた。
石の床には怨念を描いたように灰が模様を象っていた。
第2節 ― 白い影
――雪男を退治したその日の夜。
宴会場から部屋に戻った華艶は上機嫌で床に就いた。
報酬は安かったが、趣味でこの仕事をしている華艶には関係ない。もともと土日の休日を利用して、静養目的でこの依頼を引き受けたのだ。
雪男を退治して、報酬は明日もらうことになり、ついでこの温泉町で仕える旅館のタダ券ももらえることになった。タダと言っても二人一組2泊3日のケチ臭いものだが、それでも華艶はウキウキ気分で誰と来ようかと胸を弾ませていた。
布団の中で目をつぶりニヤニヤしていた華艶の表情が、徐々に曇り不機嫌そうな顔に変化していく。
脳裏に次々と浮かぶ男の顔。
ホストばっかり頭に浮かぶ。
彼氏がいない。
中学生の時代の淡[アワ]い恋愛以来、華艶には彼氏がいなかった。
遊び相手ならいくらでもいるが、温泉町でしっぽり静養旅行なんてしてくれる彼がいなかったのだ。
落ち込みを通り越し、怒りも通り越し、笑えて来た華艶は、枕に顔をうずめて無理やり寝ようとした。
しばらく静かにしていると、部屋のドアが強烈に連続して叩かれた。
ふとんから起きた華艶は裸体で、近くに掛けてあった浴衣を羽織り、帯を締めながらドアに向かっていった。
覗き穴から廊下の様子を伺うと、そこにはこの旅館の仲居が血相を変えてドアを叩いていた。緊急事態なのはすぐにわかった。問題はなにが起きたのかだ。
ロックを解除してドアを開けてやると、仲居は眼をぎょっとしながら華艶の両肩に掴みかかり、釣り上げられた魚のように口をパクパクさせた。
「あが……あの……たたた、大変なんです……だから呼んで来いって!」
「落ち着いて話してくれる?」
華艶は至[イタ]って冷静だった。同じように騒いでしまっては、相手がより取り乱すだけだ。
「だから、あの、怪物が仕返しに来たんです!」
「どこにいるの案内して!」
「正面ロビーから……」
「あっ!?」
仲居は極度の緊張のためか、失神して倒れてしまった。
「正面ロビーって礼儀正しい客人だこと」
気を失った仲居をその場に残し、華艶は廊下を駆けた。
怪物が仕返しに来たということは、単純に考えててあの雪男の仲間がやって来たに違いない。
「ゴリラ園が開けそう」
ボソッと呟いた。
不測の事態に備えてエレベーターを素通りし、階段を駆け下りる途中で華艶の耳に女性に悲鳴が届いた。
1階のロビーに着く前に華艶は2階のフロアに飛び出した。
最初に眼に入ってきたのは、浴衣姿で全身氷付けになっていた女性客の姿。人間が一瞬にして凍らされてしまっていたのだ。
「あたしの天敵現るって感じ?」
華艶が炎なら、相手は氷。
廊下の先に目を見張ると白い着物姿の女が背を向けていた。その女を取り巻く白い吹雪が、人外[ジンガイ]の鬼気[キキ]を放っている。
謎の女を確認した華艶はすぐさま口を結んで階段に引き返し身を隠した。
「……なにアレ。てゆか、だから今日は客は入れるなって忠告したのに」
口を結んだのに、自然と声が出てしまっていた。
氷付けにされた旅館客を哀れに思ったのも刹那、思考を巡らせあの怪女[カイジョ]の対策を練る。
仕返しだとしたら、雪男を殺したのが誰か知られていなくても、華艶も報復を受けるひとりだ。
――殺られる前に殺れ。
華艶は2階廊下を走り怪女のあとを全速力で追うことにした。
T字路に差し掛かったところで、華艶は危険を感知し瞬時に伏せた。
頭上を通り抜ける吹雪。
背筋が凍り付いた。
「ありえんし」
床に伏せながら顔を上げた先に立つ白装束[シロショウゾク]の女。顔色は蒼白く、切れ長の目の奥の眼差しは氷のように冷たい。
焦りながらも華艶は爽やかに笑った。
「あー、雪女さんで?」
「そうよ。わたしの子供を殺した人間を探しているの」
「息子さんって、どんな方ですか?」
「雪だまのように可愛らしい子よ」
この雪の結晶のように端整[タンセイ]な顔立ちをした雪女から、あの毛の長いゴリラのような生物が生まれるだろうか?
そんなことを考えている場合じゃない。
腕立て伏せの体勢から一気に立ち上がり、華艶は拳に炎を宿してアッパーカットを炸裂させる。
「昇焔拳![ショウエンケン]」
炎の拳で顎[アゴ]を抉られた雪女の顔は氷が溶解したように崩れ、鼻から下の顔が消失し水を滴らせた。
全身を襲う痛烈な悪寒。
華艶は敵に背を向け全速力で逃げ出した。その背中に襲い掛かる吹雪は、廊下を凍らせ館内を氷の世界へと変貌させる。
「冗談じゃない、あんな理不尽な攻撃されたら近づけやしない!」
愚痴をこぼした華艶の前方で客室のドアが開かれた。
すぐさま華艶は客室の中に飛び込み、男を押し飛ばしてドアを閉めた。
廊下を凍らす吹雪がドアの前を抜けていく。
間一髪で身を凍らせずに済んだ。
華艶に押し飛ばされて尻餅をついた男はきょとんとしてなにも言わない。
「ごめんね、緊急事態なの」
「あ、ああ」
目が点になった男の視線は、華艶の着崩れた浴衣からこぼれた片方の乳房しか見てなかった。乳首が陰になっているのが惜しい。
男の視線に気づき華艶はすぐに衿[エリ]を直し、男の顔面を蹴り上げた。
最後に男の見たものは裾の奥に垣間見た華艶の秘所だった。華艶のヌードを見て顔面を蹴られ気を失うのは、相当な対価と言えるだろうか?
その上、新たな悲劇に見舞われたら不幸中の不幸だ。
客室のドアが開けられた。と同時に、猛烈な吹雪が部屋の中に吹き込んだ。
ドア先で男はそのまま氷付けにされてしまった。
華艶の姿はすでにない。
部屋の奥から吹き込む冷たい夜風。
いち早く華艶は窓から逃げ出していたのだ。
2階の窓から飛び降りた華艶は難なく黒土の上に着地し、止まることなく走って逃げた。
黒土に霜が降りる。
冷たい風が吹き荒れ、突然降ってきた雪が視界を覆った。
「逃がさないわよ」
夜に響く冷徹な声。
猛吹雪が華艶を襲う。
生あるものを刹那にして凍り付かせる極寒の風。
辺りに湯気が立ちこめ、湯気は瞬時に細氷[サイヒョウ]となって吹き荒れる。その中心にいるのは華艶。彼女の発する熱によって、吹雪から身を守っているのだ。
だが、その脊髄[セキズイ]反射的な自己防衛機能が仇[アダ]となる。
「……見えない」
と、華艶はごちた。
吹雪は水蒸気と化し視界を奪う。
近くに敵がいることはわかる。邪悪ともいうべき妖々と氣[キ]が肌を突き刺す。
だが、まるで吹雪そのものが意志を持つかのように、何十何百の敵に囲まれてしまったごとく、本物を見極めることは困難だった。
視界を閉ざされた華艶は同時に身動きも封じられている。無闇に動くことは危険を招く、ゆえに行動を封じられているも同じ。敵が仕掛けてくるのを待ち、それで敵の位置を補足するか。戦いを優位に進めるには敵の背後を取るのが鉄則だ。
違う!
白い世界に突如として正面から氷の刃が現れた。
投げ槍ごとく向かってくる氷の刃に向かって華艶が構える。
「炎翔破!」
投げられた炎玉。
華艶の放った炎では相殺[ソウサイ]にすら至らなかった。
氷の刃は多少は勢いを失ったものの、炎を放ったのはすでに1メートルとない距離だった。躱す猶予[ユウヨ]もない。
「い……つぅー」
華艶は氷の刃を素手で受けていた。
まるで剃刀[カミソリ]を掴んだように、氷の刃を握る手からは鮮血が滴り落ちた。
やがて刃は華艶の手の中で蒸発して熄えた。
血を流したはずの手には傷一つなかった。雪の上に墜[オ]ちた血も吹雪に消され、本当に怪我をしたのかわからない。
「ねぇ、隠れてないで出てきてくんない?」
華艶の呼びかけに応じて吹雪を熄[ヤ]んだ。
月明かりの照らす雪原に立つ白い女。
「炎術士の女、お前だね……わたしの可愛い子を殺したのは?」
「火災事故です」
しれっと抜かす華艶の態度に雪女は表情一つ変えなかった。だが、この氷結した空気が雪の女の感情を物語っている。
「火に焼かれ死ぬなどおぞましい。我が子がどんな恐怖のうちに死したか、お前にもその恐怖を味合わせてやるわ」
「お生憎様[アイニクサマ]、あたし自慢じゃないけど〈不死鳥〉なの。死の恐怖なんて感じないしー」
「誰が殺すと言った?」
「へっ?」
「お前には生き地獄を味合わせてくれようぞ」
氷の微笑を雪女が浮かべた。
危険を感じた華艶は逃げようとした。が、足がいうことを聞かない。足下を見ると氷が這うように足に絡みついていた。
「こんなもの溶か……ッ!?」
風のように近づいてきた雪女に唇を奪われた!?
見た目には舌を絡ませる熱い接吻[セップン]。実際は全身を凍らすほどに冷たいものだった。
雪女の口から華艶の口を通して冷気が吹き込まれた。
まさに躰の芯から凍る。
華艶は眼を剥いたまま氷の彫刻と化してしまった。
身を潜めていた白い影が闇の中から群れを成して這[ハイ]い出てきた。それは雪男たちであった。
雪男たちは彫刻と化した華艶を担ぎ上げ運び出す。
再び吹きはじめた吹雪が世界を呑み込んだ。
すぐに吹雪は熄んだが、その場に華艶や雪女の姿はない。雪男たちの痕跡すらもすべて積もった雪によって消されてしまった。
華艶の行方を追う術は消されたのだ。
第3節 ― 雪の匂い
強烈な振動によって華艶は洞窟で目覚めた。
乱暴に揺さぶられる躰。それは子宮を押し上げられる振動だった。
強姦[ゴウカン]されていることに気づき華艶は眉間[ミケン]に皺[シワ]を寄せた。
「あのさぁ~、もっと優しく扱ってくんない?」
手首は腰の後ろに回され氷の手錠で拘束されている。両足は2匹の雪男に掴まれビクとも動かない。上半身も同様に押さえつけられ、牛タンのような舌で唾を塗りたくられている。悪臭が漂ってくる。
異形の巨根が糸を引きながら出し挿れされる様は自然と華艶の目に入った。濁った液体が黒い巨根にこびり付いている。愛液より白濁したそれはザーメンに違いなかった。すでに中だしされていることは確実だ。
さらに白濁のそれには朱が混ざっていた。乱暴に扱われた膣内はヒリヒリと痛み、膣口は無理やり挿入され裂かれてしまったようだ。その痛みもすぐに消えた。
「あたしだから平気だけど、他の娘[コ]だったらとっくに使いもんにならなくなってるし」
シルエットは人に似ていても相手は怪物。それも1匹ではなく何匹も、暗がりの中にはまだ数え切れない影が蠢[ウゴメ]いている。
被害者は華艶がはじめてではない。これまで何人もの女がこうやって犯され、壊され、殺され、喰われてきたに違いない。泣き叫んでも救われることなく、気を失えた者は幸運だっただろう。
そんなモノに犯されながらも華艶は冷静だった。
「1匹ぶっ殺したくらいじゃなんの解決にもなってなかったわけね。今まとめて相手してあげるから……」
血液が煮えたぎる感覚――がしない!?
華艶は焦った。酷く焦りを覚えたのに冷や汗すら流れない。
雪男の群れが道を開け、洞窟の奥から雪女が姿を現した。
「無駄よ」
「あたしになにしたの!」
雪女に飛びかかろうにも雪男の馬鹿力がそれを許さない。
不気味な微笑みを見せる雪女。
「〈氷の接吻〉をされたあなたの躰の内には、まだわたしの冷気が残っているのよ。今のあなたは炎を使えないただの下等[カトウ]な人間に成り果てたのよ、ふふふふっ」
「なんでそんな都合良すぎな技使えんのよ!」
「炎術士は太古からの天敵。対処する技などいくらでも持ち合わせているわ」
「なにそれズルイし。あたしそっちに対抗する技とか教えてもらったことないし!」
「それは不幸だったわね。けれど、これからあなたがされることを考えれば不幸のうちにも入らないかしら」
雪女が目配せすると待機していた雪男も華艶に飛びかかってきた。
「ちょっ、せめて一匹ずつ……うぐっ!」
叫んだ華艶の口に臭い巨根がぶち込まれた。まるで拳を突っ込まれたように顎が動かない。
「うっ……うぐぐ……ッ」
喉[ノド]の奥を疲れるたびにむせ返るが、口を塞がれているために鼻からむせてしまう。鼻水が飛び散り涙を流す無様な顔を晒してしまった。
怒りがこみ上げてくるが抵抗ができない。
体中を這うねっとりとした舌は悪寒をもたらし、擦り付けられる長い毛はこそばゆく、やがて麻痺した躰はそれを快楽として受け入れる。
口の中を掻き回していた巨根がより堅く大きく膨張した瞬間、牡汁がぶちまけられた。
ドピュッ! ドピュピュゥゥゥッ! ゴボゴボ……。
巨根のコルクで口を閉められ、大量のザーメンは無理矢理流し込まれ、むせ返って鼻からも垂れ流された。
口内も鼻孔も牡の臭いで犯された。
ヌプッと口から巨根が抜かれると華艶はすぐに咳き込んだ。
「ゴホッ……うえっ……げぇぇ……」
濃くてドロリとしたザーメンが口から垂れる。吐いても吐いても止まらず、口の周りは泡だらけになってしまった。
華艶の瞳は憔悴仕切っているように見えるが、まだその心は折られていない。
「……ぶっ殺……ぜ……殺す!」
強がる華艶だが、密壺[ミツツボ]から溢れ出す愛液は止められず、雪男の腰はより激しく動かされた。
今は快楽に覚えるわけにはいかない。華艶は歯を食い縛った。
華艶の躰は痙攣を続けていた。断続した快感が全身を走る。意識をしっかりと持っていなければ墜ちてしまいそうだった。
先走り汁を垂らす亀頭[キトウ]が躰に擦りつけられる。それだけで華艶の背は反り返った。
勃起した乳首は舐め続けられ、常にヒリヒリと痛みが伴う。
膣内で暴れ狂っていた巨根がぴたりと動きを止めた。
ドビュビュビュッ!
ホースから出る水のように大量のザーメンが膣[ナカ]で流動した。
巨根が抜かれると、締まりのない穴からゴボゴボとザーメンが溢れた。
ザーメンはケツの穴まで伝ってから地面に垂れる。
華艶の周りでオナニーをしていた雪男の巨根が震えた。
ドピュ!
それを合図に無数の巨根からスプリンクラーのようにザーメンが降り注いだ。
ドビュドビュビュドビュビュビュッ!!
濃くて粘りけのあるザーメンは垂れずに華艶の柔肌[ヤワハダ]に張り付く。全身から臭い立つ牡の香り。
華艶の眼前に張りちぎれんばかりの亀頭が向けられた。
慌てて華艶は眼を瞑[ツブ]ったが間に合わない。
顔中にザーメンをぶちまけられ、眼の中にまで白濁で犯され、片目は完全に開けられなくなってしまった。
「はぁ……はぁはぁ……」
ぐったりとする華艶。そんな華艶にも容赦しない。
雪男たちは華艶を四つんばいにさせた。
下から華艶を抱く雪男がまずヴァギナに巨根をぶち込んだ。さらに後ろからはアナルに亀頭が押し当てられていた。
「やめ……入らない……痛いぶっ殺す!」
ギチギチとまるで音が聞こえるように、悲鳴をあげるアナルが拡張されていく。切られた痛みが頭の天辺まで抜け、滲んだ血が玉となって恥丘[チキュウ]の茂みに吸い込まれる。
挿入時は悶[モダ]えるほどの痛さだったアナルも、やがて快楽に変わろうとしていた。
こんなにも乱暴に扱われ、それでもいつか順応してしまう己の躰を華艶は呪った。これこそが最大の武器なのに、今はそれが逆に仇となっていた。
〈不死鳥〉の華艶と呼ばれる由縁。
ズダズタに裂かれたアナルはすでに〝完治〟して巨大なモノを受け入れている。
今このとき、華艶を下から抱いている雪男の爪が、興奮のあまり華艶の背中に食い込み血が流れた。だが――。
楽しむように戯[タワム]れを見守っていた雪女が目を見張った。
「傷が消えていく……人間とは思えぬ治癒能力」
それこそが華艶最大の武器。尋常ならざる自然治癒能力。ゆえに乱暴に強姦され、躰を壊されようとも、すぐに再生して順応してしまうのだ。
雪女は嗤[ワラ]った。
「良い玩具[ガング]を手に入れたわ。これさえあれば我が子たちの底知れぬ性欲も少しは満たされる」
「あひっ……すこ……少しってのは……ひぃ……心外だけど……玩具[オモチャ]なんかに……ならないし!」
「まだ威勢の良いこと。それでなくてはつまらないけれど」
「ぶっ……ッ!」
再び華艶の口は巨根に塞がれた。
3つの穴を同時に犯され、思考は痴呆状態に陥り脳が蕩けてしまいそうだった。こうなってくると視線も定まらず、白目と黒目が目まぐるしく回る。
すでに力の入らないところに直腸を抉られ、躰の芯を抜かれたようにぐたりとしてしまう。全身の栓が緩んでしまい、涙が自然と溢れ、鼻からは鼻水とザーメンの混ざった汁が垂れ、さらに尿意までが襲ってくる。
耐える術などなかった。黄金の液がジョボジョボ……と垂れ流れ、雪男の毛むくじゃら股間に吸い込まれた。
微かに残る思考は恥辱[チジョク]で埋め尽くされ、紅潮[コウチョウ]してさらに感じてしまう己に嫌悪感を抱かずにいられない。
このままでは最後に残った一握りの理性まで崩壊してしまいそうだ。
膣内で巨根が激しく動かされた。
子宮口を強烈に突きザーメンが注ぎ込まれた。もはや華艶には感覚がない。出されている感覚もなく、抜かれた瞬間もわからなかった。ただ、膣口からはドップリと白濁汁が垂れる。
口に突っ込まれていた巨根からも大量に発射された。
華艶はやむを得なく呑み込もうとしたが、それもかなわずむせ返ってしまう。見る影もなく顔がグシャグシャに歪む。
体中にかけられたザーメンがオイルマッサージのように塗りたくられる。
何が何だかわからない。
アナルをズゴズゴと突かれまくれ、股間から潮を噴いてしまった。
白目を剥いて痙攣する華艶をさらに壊さんとアナルが抉られる。
「ひゃっ……ほひっ……はひ……ふぐぐ……あぁぁッ!」
口から唾液とザーメンを垂れ流しながら、さらに華艶は絶頂を迎えた。
直腸に怒濤[ドトウ]の勢いで溜まりに堪っていた濃厚ザーメンが流し込まれた。
「おひ……おひりでイクぅッ!!」
華艶の躰が狂ったように跳ね上がり続けた。
アナルから抜かれた巨根はピクピクと震えて、まだ汁をドピュドピュと迸[ホトバシ]らせ華艶のケツにかかった。
痙攣する華艶は崩れ墜ち、アナルから沸き立つようにゴポゴポと白濁液を吐き出した。
その白濁した液に腸液が混ざった物が出た瞬間!
ブシャッ!!
ブリッ、ブリリリリリぃッ!
その下劣な音はもはや華艶の耳に届かない。
爆発して汚物がそこら中に飛び散った。
臭いという臭いが洞窟内に蔓延する。
牡の汗臭さ、イカ臭さに発酵したような臭い、さらに汚物が臭い立つ。
極めつけに華艶は無意識のうちに嘔吐[オウト]してしまった。
ゴミ溜めより劣るこの場所で、骨抜きにされて華艶に群がる雪男ども。まだまだ満足していない雪男どもが、雄叫びをあげながら影で蠢いていた。
第4節 ― 雪の匂い
冷水に投げ込まれ華艶は刹那に目を覚ました。
自分の身になにが起きたか理解できない。
口から泡を吐き出しながら、手足をバタつかせ水中でもがき苦しむ。
パニックと凍えた躰のせいで水面に上がれない。
突然、華艶の腰がグイッと引っ張られた。縄だ、華艶の腰には縄が結びつけられていた。
氷上に穿[ウガ]たれた穴から華艶が釣り上げられた。
口腔[コウコウ]からゴボッ水を吐いた華艶は氷上に投げ捨てられた。
東の雲が青緑に輝いていた。いつの間にか夜が明けていたようだ。夜通し犯され続けていたと思うと華艶はゾッとした。幸いなのは記憶を失っていること、逆に言えば記憶を失うほどの仕打ちを受けたことを意味した。
濡れた丸裸の躰を自ら華艶は抱きかかえた。
おそらくここは凍った湖だろう。
敵は一人だけ。華艶に結びつけられた縄を持つ雪男だけだ。
逃げるなら今かもしれない。
だが、華艶の血は煮えたぎっていた。
華艶の躰から立ち上る湯気。
すでに力は取り戻したようだ。
恥辱を受けたことを決して忘れない。今すぐにでも復讐してやりたい。ここで逃げずに雪男どもを根絶やしにする。
体勢を整え直すなど、怒りでそこまで頭が回らなかった。
華艶は意識が朦朧[モウロウ]としたフリをして、縄で引きずられるまま身を任せた。
再び連れてこられた洞窟。
すぐに華艶は変化に気づいた。
前にこの場所に連れてこられたときは、強烈な寒さが渦巻いていたような気がする。
そう、雪女がいないのだ。
洞窟内はまだ強烈な汚臭が残っていた。その臭いがさらに華艶の怒りを高める。
ぐったりとしたフリをした華艶が地面に投げられた。
瞬時に群がってくる雪男ども。すでに股間の剛直[ゴウチョク]は先走り汁を垂らしている。
まだ濡れていない秘所にいきなり巨根がぶち込まれた。
華艶は声を押し殺し歯を食いしばった。
乳首を巻き取るように舐められ、尻の穴にも舌をねじ込んでくる。
溢れ出す愛液。
「んふ……あぁン……」
華艶は熱い息を鼻から漏らしながら、自ら進んで左右にあった巨根を両手で握りしめた。手が回らないほど太いそれをシゴキ、顔の前に突き出された巨根を舐め回す。
毛だらけでマリモのような玉を口に含み、唾液を塗り込みながらガチガチな竿を舐め回す。
肉棒の血管が激しく脈打っているのが、舌で感じることができた。
裏筋を舌の先で弄[モテアソ]び、クラゲのように傘を開いたカリにも吸い付いた。
いきり勃った剛直は連続して先走り汁をピュピュと噴き上げている。舌でされただけでこの雪男は限界だった。
鈴口[スズグチ]を刺激する前に、華艶の眼前を大量のザーメンが迸[ホトバシ]っていった。
膣[ナカ]を犯していた雪男が体位を変えた。挿入したまま華艶の両太ももを持ち上げ、立ち上がって腰を振った。華艶はブリッチの体勢を取らされ、眼前には別の雪男のケツの穴が見え、左右の手は巨根を握らされた。
華艶の口に巨根がぶち込まれ無理矢理突かれた。
辺りに立ちこめる水蒸気。
熱気の霧が視界を奪いはじめていた。
欲望のまま快楽に耽る雪男どもは異変など目もくれなかった。
華艶は自らも腰を動かした。
うねり狂う膣が巨根を咥えて離さない。
ドビュビュビュ!
前から犯してした雪男が中出ししても、華艶は腰を振り続け、ついに絶頂を迎えた。
「ギャァァァガガッ!」
口腔を犯していた雪男が悶絶[モンゼツ]して昏倒[コントウ]した。その股間から噴き出る血のシャワー。
そして、一気に辺りは紅蓮の炎に呑み込まれた。
次々とあがる絶命の叫び。
暴れ狂うシルエットが炎に映る。
陽炎[カゲロウ]のように立ち上がる女の影。
「うえっ……勢い余って噛み切っちゃった。キモッ、キモイ、キモイし!」
華艶は口から肉塊[ニクカイ]を吐き出し、何度も何度も入念に唾を吐いた。
そして、口を手の甲で拭うと一息ついた。
「ふぅ、キモかった」
その場にただ独り立つ華艶。
艶やかな裸体を晒すその足下には、無数の焼け焦げた残骸が積み上がっていた。
「まだ口ん中鉄っぽい味するし。あたしアブノーマルで猟奇的な人間じゃないのに……あーキモチワルぅ~」
足下の惨事を引き起こした本人では言葉に説得力がない。この光景は十分に猟奇的だ。
「さーてと、次は~っ……雪女をヌッコロス!」
が、居場所がわからない!
「しまったというかしまった。う~ん、どうするあたし?」
頭を抱えて華艶はしゃがみ込んでしまった。
ここで華艶は自分がすっぽんぽんだということを再確認して、ハッとしながら立ち上がった。
特異体質のおかげで寒くはないが、ポンはまずいポンは。エロと変態はまた別の話、華艶だって羞恥心や良識くらい持ち合わせている。
再び華艶は頭を抱えてうずくまった。
「あ゛~っ道がわからん」
洞窟を一歩外に出たら、道と呼べる道すらない。勘だけで旅館に帰れるはずもなく、村里に着けるかどうかもあやしい。しかもポンでうろちょとしなければならないなんて……。
「最悪だ」
ケータイもない、サイフもない、服すらない。
「こうなったら……外に出ない! よし、ここで待ち構えてあげるから、ドンと来い雪女!」
と、ファイティングポーズを取るも、冷たい風が洞窟に吹き込んだのみ。
めげずに華艶は構え続けて微動だにしない。
……時間だけが過ぎる。
3分もせずに華艶は痺れを切らした。
「ったく、とっとと来てよ。あたしがバカっぽく見えるジャン!」
作戦変更。
華艶は洞窟の奥に進むことにした。
まだ雪男が残っている可能性もある。
黒い残骸は思いのほか遠くまで続いていた。地獄の業火は怒濤の勢いで燃え広がったらしい。肉の焼けた臭いが鼻の奥にツンとくる。
洞窟の奥はいくつかの空洞に分かれ、それが個々の部屋として活用されているようだった。
1つの部屋に足を踏み込んだとき、華艶は思わず顔を背けてしまった。
積み上げられた髑髏[ドクロ]の山。人間の物だということは一目でわかった。おそらくほとんどは女の物だろう。そして、中には子供の骨と思われる小さな頭蓋骨[ズガイコツ]も転がっていた。
「世の中弱肉強食ってのは認めるけどさ、犯して壊れたら喰うっていうのはどーかと思うんだけどな」
「そんなもの人間の価値観でしょう?」
極寒の風が吹き込んできた。
華艶は振り返ると、そこには吹雪を宿した雪女の姿。凝視できないほど冷たい眼をしていた。
しかし、並の精神ではない華艶は〝その眼〟を見据えた。
「あー、やっぱ怒ってる? 我が子を丸焦げにされたら、そりゃ怒るよね。でもさ、あたしからしたら〝女〟に害を成す怪物でしかないわけだしー」
「人間こそが害虫よ」
「違う種族同士で言い合ってもわかり合えないと思うから、もっと単純な動機でいいんじゃない?」
「復讐」
「そっ、そっちは雪男を殺された復讐で、こっちはあたしがされた仕打ちってことで――」
華艶が先に仕掛けた。
「炎翔破!」
投げられた炎玉は刹那に吹雪が掻き消してしまった。
吹雪はそのまま華艶に襲いかかる。
「勝てないかも、炎壁![エンヘキ]」
炎の壁は盾となり華艶の周りをくるんだ。
吹雪は完全に防御したが、この技には弱点がある。
「どこ!?」
そう、炎が邪魔で敵が見えないのだ。
炎の壁から青白い手が生えた。いや、雪女の手が炎壁を越えようとしているのだ。
「グロイ!」
思わず華艶の口を突いて出た。
半ば溶けかけた雪女の顔がぬぅっと現れた。そのまま雪女は炎壁を超えてしまった。
「この程度の炎など熱くも痒くもないわ」
溶けていた雪女の躰が復元していく。させるものかと華艶が仕掛ける。
「いけ、この、ふざけんな!」
連続して3つの炎が投げられた。必殺技を叫ばなくても炎は出せる。アレは単なる気合いとやる気の問題なのだ。
炎はすべてヒットしたが、瞬く間に雪女の躰は復元した。
「すぐには殺さないわ……」
洞窟内の壁が一気に凍り付いた。
華艶はハッとしたが間に合わない。足が凍り付き地面と結合してしまった。
まだ動く手を振ろうとしたが、雪女に手首を掴まれ、その部分から凍り付いてしまった。
華艶は全身を燃え上がらせようしたとき、雪女の唇が迫ってきた。またここで口を奪われたら二の舞だ。必死で口を結んだ。
重なった唇から雪女が舌を執拗[ヒツヨウ]にねじ込んでくる。
華艶の口の広がる冷気。このままでは全身が凍るのは時間の問題だった。
必死な抵抗を見せる華艶。
大量の蒸気が立ち上る。
雪女は冷笑を魅せる。
「無駄な足掻[アガ]きを……」
「ひっ!」
突然、華艶の股間を襲った冷たさ。
華艶の膣に雪女の指が突っ込まれていた。
蒸気が一気に氷結して細氷となって散った。
失われていく炎の力。
「あたしになにを!?」
躰が凍える。
雪女は膣の中を掻き回しながら答える。
「氣の流れの一部を凍らせたのよ。もうあなたは自分の意志で動くことができない。加えて炎術士の力も封じられたわ。炎術士に対抗する術はいくつもあるのよ」
「ズルイ!」
華艶の言葉を聞き流して雪女は白装束を脱ぎはじめた。
思わず華艶は叫ぶ。
「あたしはエロゲのヒロインかっ!」
もう察しはついていた。
再び恥辱がはじまるのだ……。
第5節 ― 雪の匂い
雪のような柔肌。
白装束を来ているときはもっと痩せて見えたが、脱いでみるとその妖艶な躰に眼を奪われる。
つきたての餅のように柔らかそうで、たわわな乳房は今にも食らいつきたくなる。同様に脂の乗った大きな尻は、後ろから犯りたいと男なら誰もが願望を抱くだろう。
身動きのできない華艶はされるがままの運命が待ち受けていた。
雪女の舌が華艶の首筋を這う。ゾクゾクとした感覚が全身を駆けめぐり、それが快感となってしまう。
「んふぁっ……」
思わず鼻から吐息が漏れてしまった。
華艶はすぐに口を結んで冷静になろうと勤めた。だが、冷静になろうとすればするほど、淫らな感情が芽生えてしまう。
雪女は華艶にとってはじめての〝女〟だった。
イケナイことをしているような気がして、その背徳感が心臓を激しく脈打たせる。
心臓が高鳴りすぎて胸が苦しい。そんな自分が恥ずかしくて、恥ずかしいからこそ躰が疼[ウズ]く。
華艶の足の付け根から愛液が流れる。
その愛液を太ももにソフトタッチしながら雪女が指ですくった。
「まだ前戯もはじまったばかりなのに、垂れるほど感じているのね」
「生理現象だし!」
強がるの口の中に、雪女は指先についた愛液を突っ込んだ。
愛液は雪女の躰に触れたことによって、シャーベットのようになっていたが、華艶の口の中に入ると粘液に戻り舌に絡みついてくる。
雪女の指は華艶の口の中を弄んだ。
舌に触れようとする指から逃れようと舌を動かすが、その動きが逆に指を絡めるようになってしまう。拒否しようと動かせば動かすほど相手の思惑にハマッてしまう。
まるで男のモノをしゃぶっているような錯覚。想像しないほうが無理というものだった。
愛液が溢れてしまう。
嘲笑[アザワラ]う雪女。
「またこんなに濡らして、挿れて欲しくて堪らないのでしょう?」
「生理現象って言ってるでしょ!」
「強情な子だこと」
雪女の指先が華艶の背筋を撫でた。
「は、はうっ!」
震えた声が漏れてしまった。
そのまま雪女の指先は華艶の首筋を触り、乳輪の周りに円を描きながらソフトタッチを続けた。
「ひっ……あっ……ああ……やめ……ンふっ!」
呼吸が乱される。
さざ波のように、緩やかな快感がこそばゆい。
もっと強い快感が欲しい。そこじゃなくて、直接して欲しい。
華艶の勃起した乳首に雪女の唇が近づく。そのまま強く吸って欲しかった。
だが、雪女は乳首を前にして急に止まってしまった。
堪らず華艶は叫んだ。
「吸って! 舌でこねくり回して!」
「嫌よ」
冷たくサディスティックな声。
拒否されたことによって、華艶は一時的な冷静さを取り戻し、自分の発言が急に恥ずかしくなって、苦しいくらいに心臓が高鳴ってしまった。
恥ずかしさは愛液に変わり、糸を引きながら地面に零れるほど大量に垂らしてしまう。
口先を窄[スボ]めた雪女はふぅーと息を乳首に吹きかけた。
「はひぃ」
冷たい息をかけられただけなのに声が出てしまった。
もうまるで全身が性感帯になってしまったように敏感になりすぎている。
人外のテクニックは緩やかだが、確実に快楽を蓄積させていた。
雪女の指先が腹を触っても、尻を撫でてても、内股を触れられたときにはついに潮を噴いてしまった。
止まることのない潮を雪女は両手ですくった。
手の器の中でシャーベットができあがる。
「煌々として美味しそうなかき氷だわ。あなたに食べさてあげるわね」
有無を言わさず愛液のシャーベットは華艶の口の中に押し込まれた。
口の中に広がるほんのりとした塩気。吐き出そうとしたが、口を手で塞がれ仕方なく嚥下[エンカ]した。
冷笑を浮かべる雪女。
敗北感で華艶の心は折れてしまいそうだ。
再び雪女はソフトタッチで華艶の全身を弄ぶ。
歯痒い。
こんな指だけのテクニックで潮吹きをしてしまったなんて。直接されたらと考えると、人間同士では味わえない快楽が待っているかもしれない。
雪女の指がどこを触っているかもわからなくなってきた。どこを触られても全身で感じてしまう。膣[ナカ]がキュンとして、欲しくて欲しくて堪らない。
いつしか華艶の瞳から鋭さが失われ、目は蕩けて垂れ下がり、半開きの口からは唾液が垂れ流れたまま。
雪女は華艶の太ももを両手で包み込みながら撫で、そのまま凍り付く足まで移動した。
氷がギギギと音を立てたかと思うと、雪女は氷を砕きながら華艶の足と地面を強引に引き剥がしてしまった。下手をすれば足ごと砕かれていたところだ。
地面からは剥がされたとはいえ、足が凍ったままの華艶はバランスを崩して立っていられなかった。
這って逃げることは可能になったが、今の華艶には自ら動く気力も体力も快楽によって奪われている。
それに無理に動けばいつ凍った手足が砕けるとも限らない。
雪女は華艶の氷の手を優しく握りしめ頬ずりをした。
「美しい手をしているのね。今すぐに砕いてやりたいわ……でもあとの楽しみにしましょう」
なにか言い返す気力も華艶にはない。口から出るのは発情して乱れる呼吸音。
「はァッ……ひぃぃぃ……ふぅふぅあぁぁぁっン!」
通常ならば寒さで感覚が麻痺しているところだが、雪女の魔性の力なのか、全身をソフトタッチされた余韻[ヨイン]は強烈に残り、断続的な快感が華艶を狂わせる。
次になにかされたら確実に墜ちる。
雪女は自らの股をまさぐりはじめた。掻き混ぜるような激しさで指を突っ込みオナニーをはじめたのだ。
「あぁン……今から……はぅ……もっと気持ちよくさせて……アァァァァァッ!!」
なんと歓喜の叫びをあげた雪女のヴァギナから氷柱[ツララ]が生えた。いや、氷でできた男根と称したほうが正しいかもしれない。それはまるで双頭[ソウトウ]ディルドのように雪女の膣[ナカ]から生えていた。
力なく横たわっている華艶の股を押し開き、雪女は覆い被さるようにしてディルドを膣口に押し当てた。
まだ挿れない。
秘裂をなぞり続ける。
すでに受け入れる準備ができている華艶のヴァギナは、ヒダが開き膣口がヒクヒク伸縮を繰り返している。挿れようと思わなくとも、すぐに挿さってしまいそうだ。
雪女は腰をゆっくりとスライドさせながら焦らし続ける。さらに手は華艶の乳房などを優しくなぞりながらも、やはり乳首には決して触れない。
冷たいディルドが窄まった菊門キクモンに押し当てられた。だが――挿れない。
焦らし続けられ華艶は気が狂いそうだった。
「ひぃひぃっ……もう挿れて!」
「嫌よ」
「挿れろッ!」
「口の利き方も知らないのね、この雌奴隷は」
奴隷とまで言われ、そこまで墜ちているのだと実感する。けれど、奴隷と言われようとなんと言われようと、今はただ欲しかった。
「お願いします挿れてください!」
「どこに挿れて欲しいかはっきり言いなさい」
「あたしのグチョグチョマ○コに何でもいいから挿れてくださいお願いします!」
「嫌よ」
なんというサディストか。ここまで華艶に言わせておきながら、なおも拒み続ける。
もう理性という理性が華艶の中で崩壊した。
「マ○コに挿いれて! そのデッカイのでいっぱい突いてメチャクチャにして、もういっぱいいっぱいマ○コにしてーッ!!」
「……いいわ、たっぷりしてあげる!」
挿れるとなったら躊躇[チュウチョ]なく一気に奥まで突いてきた。
子宮が激しく痛んだが、それすらも倒錯した快楽へと誘った。
乳首を痛いくらいに摘まれ乳房をこねくりまわされる。
今までとは一変した荒々しさ。
氷のディルドは愛液を凍らせて、雪女が激しく腰を動かすと、ジャリジャリと膣内で擦り合わされる。
「きゃあはふぅあぁぁぁッ!」
膣壁を痛いほどに擦られ、冷たさも痛みとなる。だが、それが今の華艶には気持ちよく、自らでは自由の効かない躰が激しく痙攣する。
膣内でディルドが膨れあがっているのがわかる。それは華艶の垂らした愛液の量そのもの。氷のディルドは愛液に包まれ、氷の層を増やし大きく育っているのだ。
「ふぁぁぁッ……ふふふぁぁぁ~ッ!」
弓なりに仰け反りながら華艶は絶頂に達してしまった。
一瞬ぐったりとする華艶だが、すぐに激しい快感が襲いで気が狂う。
「もうらめぇ……死んじゃうぅぅぅ~!」
「死んでしまえばいいわ」
「イクッまたイクぅ!」
涎[ヨダレ]を垂れ流しながら華艶は白目を剥いた。気を失いそうになるが、すぐに子宮を突かれ目が覚める。
氷のディルドはまだ成長を続け、膣道を拡張していく。
もう咥えきれなくなってきたディルドに腹を破かれそうだった。
なのに雪女は責めることをやめない。そうだ、このまま本当に殺す気なのだ。生かしておく理由などない。
雪女の舌が口の中に入ってきた。拒否することなく華艶は受け入れた。
舌と舌が絡み合い、長く引いた糸が凍り付く。
華艶の躰に霜が降りはじめていた。
ヴァギナから漏れる血すらも凍り付く。
それでも華艶は貪り食うように雪女の舌を吸った。
「んんっ、んはっ……はぅあ!」
激しいディープキスをしながらも雪女は腰を動かすことに手を抜かない。
ズンスンと子宮の奥まで響き、躰の芯から凍らされる。
片手は乳房や乳首をこね回しながら、残る手は菊門に伸ばされようとしていた。
冷たい指が華艶の直腸を犯した。それも一気に3本だ。
「ひゃぁぁぁン! またイクっぅぅぅッ!」
プッシャァァァァ!!
激しく潮を噴き上げながら華艶は何度目かの絶頂に狂った。
痙攣する華艶は白目を剥いたまま舌をだらりと出した。
死と快楽の狭間を彷徨う華艶。
雪女は狂気の形相で嗤っていた。
「いいわ、もっとよ、何度でも殺してあげるわ!」
騎乗位の体勢で雪女は腰を激しく上下させた。
すでに雪女も相当の快楽に達しており、恍惚[コウコツ]として表情で目を瞑りながら天を仰いだ。
痙攣すら止まり微動だにしない華艶。
すでに半身以上が凍りに包まれてしまっていたのだが――。
華艶の躰から微かに立ち昇る湯気。
狂ったように腰を動かす雪女はまだ気づかない。
ディルドを咥えていた華艶の膣が収縮した。
次の瞬間、蒸気が辺りを包み込んだ!
「なにっ!?」
驚く雪女の表情すら白い煙によって隠された。
華艶の躰が溶けていく。
眼を剥く雪女の躰を紅蓮の炎を呑み込んだ。
「キャァァァァァッ!!」
金切り声をあげながら雪女は逃げようとした。
だが、華艶は恐ろしいほどの艶笑[エンショウ]を浮かべながら、雪女の躰を強く抱きしめた。
「跡形もなく溶かして、あ・げ・る♪」
華艶の胸の中で雪女はドロドロに溶解していく。
「許さぬぞーっ!!」
そして、最期の言葉を残して雪女は蒸気となって跡形もなく消えてしまった。
華艶を身に纏[マト]っていた炎もやがて熄え、その足下には水溜まりが残った。
「まだ水が残ってるし……なんてゆか、すごい怨念というか。でも、うん、全部作戦通り。誰がなんというと作戦通りなんだからね!」
誰に言っているかはわからないが、とにかく口に出して強く主張する華艶。
最初から華艶はこれを狙って……いたのか?
「結果オーライで助かったけど、報酬上げてもらわないと割に合わない仕事だったし」
すでに結果オーライと認めてしまった。
華艶は自らの手足を見た。
まだ青白く凍傷が残っているが、大量のエネルギーを生産したときに、一時的に治癒能力も高められだいぶよくなっていた。
「さーってと、帰って温泉に入りたい……あ゛ーッ!」
叫んで頭を抱えて蹲[ウズクマ]る華艶。
――帰り道がわからない。
しかもポンだ。
ショックで落ち込む華艶は気づいていなかった。
空気が氷結しはじめている。
足下の水溜まりから突き出た〝手〟が華艶の足首を掴んだ!
「なっ!」
驚く華艶は瞬時に立ち上がって、蹴り上げ〝手〟を振り払った。
引き千切られた〝手〟が地面に落ちる。まさしくその〝手〟は雪女のモノだ。
焦る華艶。背筋が凍る思いだった。
水溜まりから這い出てくるように復活を遂げる雪女。
もうダメだ。
「あはは、ありえなーい」
全力逃走!
第6節 ― 雪の匂い
ポンのまま華艶は洞窟を飛び出した。
右も左もわからない。わからなくてもいい、とにかく逃げろ!
背中に悪寒が走る。
確実に後ろから恐怖が迫ってきている。
それも今までにないくらい怒っていらっしゃる。
真後ろに雪女が迫っているせいで、目の前は猛吹雪で視界を閉ざされてしまっている。
勝てないことは十分にわかったので、とにかく逃げるしかない。
華艶の眼前に木が突然現れた。すぐに横に道を取るがこっちにも木。どうやら林に迷い込んでしまったらしい。
「もぉどーしてこんなにツイてないわけ!!」
叫んだ瞬間、真後ろから氷柱が飛んできた。
慌てて伏せると氷柱は木に突き刺さった。完全に狩人に狙われる野ウサギちゃんだ。
無我夢中で華艶は逃げる。
とにかく逃げる、必死で逃げる、逃げる以外に道がない。
またも華艶の行く手を塞ぐなにかが突然現れた。
壁だ、木でできた塀が横に長く続いていた。
「あはは、追い詰められちゃったかも」
吹雪が強く壁の高さが把握できない。
壁を調べると小さな穴が開いているのがわかった。
「盗撮かっ!」
そうだ、これは盗撮のために開けられた穴。つまり、この先にあるのは女湯だ。
華艶は塀をよじ登ろうとジャンプした――が、以外に高い。
そんなことをしている間に後ろからは氷柱攻撃が!
目隠しをされた状態で敵の攻撃を躱すようなもの。紙一重で華艶は氷柱を躱したが、飛んでくる氷柱は1本や2本ではなかった。
「死ぬし!」
当然、向こうも殺す気だ。
氷柱が飛んでくるせいで塀を登る隙もない。無理に登ろうとしようものなら――。
「いっ!」
氷柱が華艶の脇腹を掠った。
突然、吹雪が熄んだ。
そして、現れる雪女の姿。
「もう逃げ場はないわよ。今度は躰を切り裂いて確実に息の根を止めてやるわ」
「逃げ場ならあるもーん!」
と、ニッコリ笑って華艶は塀に刺さった氷柱を足場に塀を登りはじめた。
「逃がすかッ!」
氷柱が飛んでくる前に塀を登り切った華艶だったが、落ちた。
見事に崖を転落してしまった。
塀は切り立った崖の上に設置されていたのだ。
岩に激突しながら華艶は頭を抱えて底まで転がり落ちてしまった。
「……死ぬ」
全身血だらけになりながら華艶は立ち上がった。
辺りを見回すとやはり温泉だった。
しかも、華艶と目が合った女性客のグループが唖然としている。
血だらけなだけでも引くのに、打ち身や捻挫、目にも見える痛々しい青痣が悲惨だ。
「えーっと、逃げたほうがいいかも」
変人丸出し自分からではなく、天空から舞い降りてくる雪女からだ。
「死ねーッ!」
天から振ってくる氷柱の雨を華艶は飛び込み前転で避けた。死ぬほど躰に応える。
華艶は片足を引きずりながら走った。
とりあえず建物の中に逃げ込み、後先のことはその場で考えるしかない。
いち早く逃げた女性客たちを追うように華艶は脱衣所に飛び込もうと――。
「うはっなんで閉めるの!?」
目の前で扉が閉められ鍵を掛けられた。
血だらけの華艶は誰が見ても要注意人物だ。閉め出されても不思議ではない。
扉はガラス製だ、蹴破れば壊せる。
しかし、華艶は振り返って体勢を整えた。
「炎翔破!」
炎の玉が雪女に向かって飛ばされた。
――しまった外れた。
炎の玉は雪女に躱され、虚しく遠く崖に消えた。
焦る華艶と冷たい雪女の目が合ってしまった。
雪女が手のひらを華艶に向け、そこから渦巻く吹雪が発生する。
扇状に広がる吹雪に逃げ場を失った華艶は瞬時に防壁を張る。
「炎壁!」
地面から巨大な炎壁が天に伸びた。
吹雪は燃え揺る炎壁に相殺され、水蒸気となって掻き消された。
蒸気の霧に隠れて華艶が全速力で駆けた。
「焔龍昇華![エンリュウショウカ]」
霧の向こうか龍の咆吼[ホウコウ]が聞こえた刹那、蜷局[トグロ]を巻く巨大な炎が雪女の躰を丸呑みした。
「ギャァァァァッ!!」
まるでそれは炎が生を受けた龍の化身。
悲痛な叫びをあげ、雪女の躰が炎の中で溶解していく。
おぞましく溶けゆくその姿。
だが、これで終わるはずない。
雪女を包んでいた炎は勢いを失い、静かに鎮火していく。
「これで終わりか女?」
何事もなかったように涼やかに艶やかに、雪女はその場で凛としていた。
が、急に雪女の顔がおぞましき般若の形相に変貌した。
裂けた口の奥で鋭い牙が妖光を放った。
「死ねェェェェッ!!」
襲いかかってくる雪女。
臆することなく立ち向かった華艶は、猛烈なタックルを喰らわせ、そのまま雪女の躰を押し続けた。
怒りによって冷気を増している雪女に触れた華艶の躰が凍傷を起こす。それでも華艶は雪女の躰を押し続け、一気に力を込めて再度、全体重を掛けて猛烈なタックルを喰らわせた。
押し飛ばされてバランスを崩す雪女の背後には温泉が!
雪女が落ちた衝撃で上がった水飛沫が刹那に凍り付いてしまった。
「……やった」
深いため息を吐いた華艶の全身からドっと力が抜ける。
目の前にはスケートリンクのように凍ってしまった温泉。そして、そこから突き出た雪女の手首がもがくように動いている。
雪女の落ちた温泉は瞬時に凍り付き、雪女の身体を呑み込み封じ込めてしまったのだ。
氷上に突き出た手はまだ動いている。だが、雪女自身が冷気を発し続ける限り、自分の力では出られないはず。生きたまま氷の中で一生を過ごすのだ。
華艶が床に座り込んで休んでいると、騒ぎで駆けつけた旅館のマネージャーが姿を現した。
「大丈夫ですか!」
「ぜんぜんへーきでーす」
全身の傷や凍傷はすでに驚異的な復元力で再生をはじめていた。〈不死鳥〉の通り名は伊達ではない。
雪女はすでに氷の牢に入れられたが、マネージャーはそんなことは知らずに取り乱している。
「雪女がまた出たらしく、私は見てないのですが、慌てたお客様がロビーに……もうどうしていいのか!」
「あー、その雪女はすぐそこに……」
華艶は凍る付けになった温泉を指差した。
そこから突き出た動く手を見たマネージャーは眼をぎょっとさせて腰を抜かした。
「あ、あああ、あ、あれは、なんですか!?」
「雪女はそこで氷付け。たぶん、出て来れないと思うけど。雪女があんな目に合わされるなんて、屈辱でしょうね」
冷笑を浮かべた華艶の表情は、雪女よりも冷ややかだ。
「本当に出て来られないんでしょうね!」
「だから、観光とかに役立てたらどう? 世界初、氷付けになった雪女」
「えっ?」
「ほら、氷から突き出て動いてる手なんて、臨場感たっぷりだと思うけど」
「そ、そうですね、それいい考えですよ!!」
商魂[ショウコン]に火が点いたのか、怯えていたマネージャーは覇気を出して立ち上がった。
疲れた華艶は部屋に戻ろうと歩き出したが、ふと足を止めてマネージャーに顔を向けた。
「ギャラの上乗せしてね」
「ぜんぜんオッケーです」
「あと、旅館のタダ券3人1組2泊3日にしてよね」
「わかりました」
こうして、温泉町の怪物騒動に終止符が打たれた。
そして、華艶は自分の部屋に戻りながら、女友達二人の顔を思い浮かべるのだった。
さらにあることを思い出す。
「あ゛ーっポンのまま!」
-了-