第5話 愛の心
 真ちゃんの一言で我に返った愛は、辺りを見回し玉藻先生を探している。俺も一緒になって辺りを見回すが見つからない……てゆーか逃げ足が速いな。
 愛は唇を噛み締め少し悔しそうな表情をしている。……その表情、何か妙に色っぽいぞ愛! ……じゃなかった、今はそんなことよりも玉藻先生を見つけなくてはいけない、それが俺の使命だ! !
 と勝手に燃えている俺に校内放送が水を注しやがった。
《本日の学校の授業は中止となりましたので、生徒の皆様は速やかに下校しましょう》
 この放送が流れた瞬間、大半の生徒たちが喜びの歓声を上げた。なぜって、みんな学校めんどいんでしょ、たぶん。
 放送が流れた後、すぐに真ちゃんと椎凪がどこに行こうした。それを確認した俺は二人に声をかける。
「どこ行くんだよ?」
 椎凪が髪の毛をふわりとかき上げながら答えた。
「今の放送聞いたでしょ、帰るんだよ」
「あの、僕も帰ろうかと思って」
 なんだと二人とも、この緊急事態に生徒会役員が帰ってどうする、学校はどうなる、俺らの使命は、誇りは……何てこと俺も思ってないけど、会議まだ終わってないわけだし。ねぇ?
 愛は帰ろうとした二人を見つめてこう言った。
「……おつかれ」
 これは『さよなら』を意味する言葉である。すなわち愛は二人が帰宅することを許可したわけだ。で許可を得た二人はそそくさと帰って行った。……俺も帰りたいんですけど?
 愛は俺のことを見つめ低い声で、ちょっと極道の女風に俺に聞いてきた。
「直樹はどうする?」
 この質問は要するに『帰るのか?』という意味だ……普通は。だが今の『帰るのか?』は=『お前も帰るんじゃないだろうな?』と脅しをかけていると俺は解釈した。要するに、『まだ仕事が残ってるから帰るな!』ということなのだろう。それを確認するために俺は宙の方を向くと、宙は小さくコクリと首を曲げた。宙は俺の心を読んでちゃんと頷いてくれたようだ。
 そして、俺はさりげな〜く、
「まだ、仕事残ってるし俺は残るけど愛も残るだろ?」
「当たり前だ」
 愛の表情が少し和らいだ良かった。……と思った瞬間、宙のヤローがとんでもない一言を抜かしやがった。
「……ワタシは帰る」
図ったな宙! !(ガン○ム風に)。てゆーか、俺一人を残して自分は帰るって寸法か! !
二人とも帰るとマズイから俺を生贄に捧げたわけだな! !
「……ごめんね愛」
 こう言った宙の瞳は少し潤んだ今にも泣き出しそうな表情で愛を見つめている。……作戦だ。作戦に違いない。しかも、その作戦に愛は見事に引っかかってるし。
「案ずるな宙、後のことは私と直樹に任せて早く帰れ」
「……ぁりがとぅ愛」
 そう言い残して宙は逃げやがった。……ふっ、とんだ茶番だぜみたいな。
 さて、残ったのは俺と愛だけだ。――これから何をするかが問題だ。まぁ普通に考えて、先生たちの所に行って今後の予定について話して、玉藻先生を取っ捕まえて、いろんなことを白状させて、それから……。
「何してるんだ早く行くぞ」
 俺が試行錯誤してると愛のお声がかかった。で気付いたらもうだいぶ前を歩いてたりして。
「どこ行くんだ?」
「先生方の所だ」
 やっぱ考えることは一緒か。フィーリングカップルって感じだな。何が?
 教職員たちはあれやこれやと会議をしていた。
 その場に俺たちが入って行くと直ぐに静かになった。これは愛の力だ、愛のバックにある権力の力と言った方が正しいかもしれないが……お金って恐い。
 愛は辺りを見回して誰かを探している。たぶん玉藻先生のことを探しているんだけど、いないみたいだねぇ〜。こういう時はこの人に聞け、玉藻先生研究の第一人者(いつからだ!?)の古典教師の聖明先生に聞くのがいいと思うってことで俺は聖明先生に近づき聞いてみた。
「あの、玉藻先生はどうしたんですか?」
「玉藻先生なら腹痛で帰られましたよ。私の術が効いたみたいですね、ククッ」
 地味な攻撃だなぁ〜。じゃなくって、この言葉を俺の横で聞いていた愛の表情が明らかに恐い、かる〜くキレてるに違いない。が彼女は決してキレても大声で怒鳴ったり、周りに当たったりはしない、ただちょっと回りの空気が冷たくなるだけ……それが凄く恐い。
 この後、俺らは職員会議に参加して、あれこれ今後の日程や連絡網の内容とかを決めることになった。その間ここを仕切っていたのは愛だった。教職員を差し置いて一生徒がこの場を仕切るのは少し変だと思われるかもしれないが、この学校の生徒会の権力は凄まじいものがある、まぁ愛の力なんだけど。
 この学校で一番の権力者は学園長で次が愛、だけどこの場には学園長はいない、てゆーかいつもいない、顔なんて一度も見たことないしみたいな、かなり謎な人物でうちの学校七不思議の一つなんだよな。で学園長の変わりに愛がここを仕切ってるってわけ。
 会議は一時間ほどで終わった、長かった。だって俺やることなかったし、ただずーっとぼーっとじーっとしてただけだから。
 会議が終わると直ぐに次の仕事、『玉藻先生探し』が待っていた。が直ぐに行き詰まった。人生はこんなもんさ。
「直樹、玉藻先生の家知っているか?」
「知らない、だけどさぁ教員名簿とかで調べればわかるんじゃないの?」
「さっき、調べようとしたが玉藻に関する資料が一切なかった」
 さすが愛、仕事が速いなっていうか、資料がないってどういうことだよ、教員名簿とかに住所書いてないわけ?
「どういうことだよ?」
「さぁな、トップシークレットなのかもな」
「……この学校ならありえる」
 『トップシークレット』この学校なら十分ありえる話だ。この学校は秘密多いし、教職員みんな変だし、学園長は謎の人だし、危ない噂もよく耳にするし、障らぬ神に祟り無しってこともある。
「で、どうやって見つけるの?」
「私に考えがある」
 そう言って愛はポケットからケータイを取り出しどこかに電話をかけた。
「…私だが…うちの学校の玉藻を見つけ出して欲しい…あぁ…」
 愛はケータイのボタンを押してポケットに戻した。いったい愛はどこに電話かけてたんだ、気になる。
「少し、時間がかかると思うから近くのファミレスでも行くとするか?」
 学校近くにあるファミレスは俺らの行きつけだ。時間をつぶしたり話をするのにちょうどいい。金持ちの愛がファミレス!? と思うかもしれないがファミレスに行かない方が変だと愛は言う。愛いわくだが、『普通に友達と付き合ってればファミレスとかゲーセンに行ったするのが必然だろ?』ってことらしい、普通の高校生の友達と付き合う上で一緒に帰りに高級レストラン行こうっていう方が確かに変だけどな。
 ……じゃなくって、
「愛どこに電話かけてたんだ?」
「私の家で雇っている特殊部隊だ」
「ふ〜ん」
 俺は『ふ〜ん』としか答えられなかった。だって特殊部隊を家で雇ってるって話がズバ抜けて空の上の話だろ、そんな感覚わかんねぇーよって感じだよ、一般高校生には。
 あぁそうだった、ファミレス行くんだった。
「ちょっと待ってて自転車取って来っから」
「私も行く」
 俺と愛は自転車置き場に行って俺の愛車を取りに行った。
「直樹は何で私と友達になったんだ?」
 俺は愛の突然の質問にちょっとビックリ仰天した。
「さぁあ? 気付いたら一緒にいた」
 俺は正直に答えた。『気付いたら一緒にいた』、そう、気付いたらいつの間にか一緒にいた。
 最初に俺が愛と出合ったのは入学式の時だった、入学式でも愛はすっげー目立ってたというより浮いてた。この学校って制服着用のはずなのに何故か愛はゴスロリだった。正直愛の第一印象は『何だコイツ』だった。
「直樹は私の事どう思う?」
「はぁ!?」
 何かこの雰囲気変だぞ。
「高校入るまで友達なんて呼べる奴いなかったから、みんな私に頭下げて、持てはやして自分より下だったと思う。別に私はあの家に生まれたくて生まれたわけじゃないのに……」
 ちょっと俺の想像してた雰囲気とは違うがこれはこれで重い……。
「最初会った時は『何だコイツ』って正直思ったけど、付き合ってみると案外普通でいい奴だった」
「……そうか」
 愛の顔が少しほころんだ。
 程なくして俺の自転車が置いてある場所まで付いた。
「後ろ乗っていいか?」
「でも、リムジンとか呼べば?」
「駄目か?」
「別にいいけど」
 愛が自転車の後ろに乗せてくれなんて初めてのことだったから正直驚いた。だって、電話一本でリムジンかヘリが直ぐ来るのに俺の自転車の荷台に乗せてくれって。普段一緒に帰る時はリムジンとかは呼ばないまでも途中までは歩いて行くでしょっていうか、ゴスロリ服に自転車の荷台は似合わないでしょっていうか……俺かなり取り乱してないか?
 俺が自転車にまたぐと愛は自転車の荷台に横に腰掛けた。
「しっかり掴まって」
「掴まってって何にだ?」
「俺でも何でも」
 愛の両腕が俺の腰に回った。そして、愛の頭が背中に当たったのが分かった。
「これでいいか、自転車の後ろに乗るのはこれが初めてだからな」
「じゃあ行くぞしっかり掴まってろ」
 俺はゆっくり丁重にペダルを漕いだ。荷台って案外お尻とかが痛くて、しかもまたいで乗るならまだいいけど横に座られるとバランスが悪い、つまり今の状況はかなり悪い。俺は思わず『またいで乗ってくんない』と言いたかったが愛にはこっちの乗り方の方が絵的にいいと俺的に思ったから言わなかった。てゆーか、後ろに立ってもらうのが一番漕ぐ方としてはいいんだけど。
 学校を出ると目の前には坂道が存在する、後ろに人を乗せて上るのは不可能だ。だが俺は突き進んだ。だが、かなりキツイ、坂の中腹まではまだ良かった、が後半戦が辛い、人を後ろに乗せている上に立ち漕ぎもできない。てゆーか普段はここの坂自転車降りて登ってんだよって感じで死ぬかと思った。
「だいじょぶか、降りるか?」
「はぁ、はぁ…大丈夫…心配ない……」
 明らかに俺が嘘を言っていうのは明白だった。
 だが、ついに俺は坂を登り切った。足はパンパンだが爽快感が吹き荒れる。三二.一九五キロメートルなんて目じゃないねって感じだけど、実際はあっちの方が辛いと思う。
 あとの道は楽だった、ファミレスまで直ぐについた。
 ファミレスの自転車置き場に自転車を置いた時の俺の体力は正直限界だった。この時、俺が言える最後の遺言に近い言葉は、
「早く中入ろ」
 だった。

 店内の中はいつもより混雑していた。なぜって学生が、うちの学校の生徒が学校早く終わったからってこんなとこで溜まりやがって……まぁ人のこと言えないけどな。
 俺らは直ぐに席に付くことができた。結構混雑してるのに待たされなかったのはラッキーかそれとも何かの力が働いたためか……? 力についてはあえて詳しく言わない。所詮俺は一般人さ。
 席に付いた俺は直ぐに呼び出しボタンを押した、メニューは頭の中に入っているのですぐに決まる。
 すぐにウェイトレスが来た。この人とは結構顔馴染みっていうか、ここで働いている人とはシェフ以外は顔馴染みだと思う。
「今日は何にするの?」
 ウェイトレスは俺らには他の客より気さくに声を掛ける。
「私はいつもの」
「俺はナポリタンといつもの」
「わかりました」
 ウェイトレスは軽く頭を下げて直ぐに厨房に行った(たぶん厨房、そこまで詳しく知らないからな)。ウェイトレスはあえてメニューを繰り返したりはしない、いつものとナポリタンじゃそんなことする必要もないのだろう。
「愛はなに飲む?」
「オレンジジュース」
「わかった」
 俺は席を立ちドリンクバーに飲み物を取りに行った。
 紅茶好きの俺だがあえてファミレスでは飲まない。なぜって?……ファミレスって言ったらこれでしょ。
 俺はグラスと取ると、メロンソーダをグラスの一/三に入れ、ホワイトソーダを少しにオレンジジュースも入れてみた。俺はファミレスに来るといつもこれをやる、つまり色んな飲み物をミックスするってこと。
 俺はストローを取りグラスに挿しカウンターの上にジュースを入れたグラスを置いておく、次にもう一個グラスを取って今度は氷を入れてからオレンジジュースを入れてストローを突き刺す。はいこれで完了、俺は二つのグラスを持って席に戻った。
 席に戻ると料理がすでに運ばれていた。普通ならこの速さはありえない、きっと何かの力が働いたに違いない。だが、俺は深くは考えない、きっと真実を知ってしまったら暗殺されるかもしれない。
「はい、オレンジジュース」
 愛はオレンジジュースを受け取ると直ぐにストローに口を付けた。実は俺は唇フェチだったりする。
 俺は席に付き料理に手を付けた。
 テーブルの上には山のような料理が置いてある。これが俺と愛のいつものだったりする。
 俺が頼んだのは、飲み物とナポリタンスパゲッティー・カルボナーラスパゲッティー・ガーリックトースト・シーフードサラダ・ソーセージピザ・チョコレートケーキ・ミルフィーユ、まぁ今日はこれでも少ない方だ。
 マナが頼んだのはデザート全種と飲み物……これには大食いの俺もビックリする、てゆーかどこにいってるんだカロリーは? スタイル良すぎだぞ愛。
 もくもく食べ続ける俺に愛が声を掛けてきた。
「直樹は私のこと好きか?」
「はぶっ! !」
 ……スパゲッティーが鼻から出かかった。
「好きって何が!?」
「私は直樹のこと嫌いじゃない」
「はぁ!?」
 俺の頭は混乱するばかりだ。○ダパニ、メ○パニ、メダ○ニ、メダパ○。って感じ。
「部活に最近顔を見せないがどうしたんだ?」
 部活っていうのはポプソン部(ポピュラーソング部)のことで愛と俺はその部活に所属している。
「最近は、ちょっと忙しくて出てなかったな」
「昨日は部会するから来いって行言ったろ?」
「あぁ、昨日は……」
 昨日はいろいろあって学校を休むハメになった。部会のことなんかホントにすっかり忘れてた。忘却の彼方って感じだった。
「ごめん、マジで忘れてた。昨日はいろいろあって」
「もう、一人のナオキとか言ってたな」
「そう、そうなんだ、その俺’が! !」
「俺’?」
「もうひとりのナオキのこと。そいつがさぁ」
 俺は突然水を得た魚のようにしゃべりだした。
 が俺がこれから、エンジン全開で飛ばして行くよってときに邪魔が入った。
「はははは〜っ、直樹♂、今朝の決着をつけようではないか! !」
 外から店内にスピーカーの音が鳴り響く。
 俺のことを『直樹♂』って呼ぶのはヤツしかいない。食事くらいゆっくりさせろよ。俺はまだデザートを食ってない! !
 だが、そんなことなど向こうはお構いなしだ。
「早く出て来い、直樹♂! !」
 俺は仕方なく席を立ち外に出ることにした。これ以上バカデカイ声で叫ばれたらファミレスに来てる人に迷惑だろ。仕方ない俺が出て行くしかない。
「愛、ちょっと待ってろ」
「私も行く」
 俺と愛はまだ食べ途中だから、そのままにしといてって言って店の外に出た。


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