第12話 可学狂師
 セイシュンまっ逆さまのみんな! 今週の見所をばっちり紹介していくぜ! てか今週ってなんだよ!?
 世界征服をしちゃっおうと思ってる俺’は今はうちで家族団らんしてるのか? してないのか?
 そんなことは置いといて――。俺に銃口を向ける玉藻先生、『直樹くん、美味しく料理してアゲルわよぉん』……これって、まさに絶体絶命って感じ?
 このままでは世界は、むしろ俺の人生は、どうなってしまうのかぁ〜っ!?
 第一二話『可学狂師』、可学狂師大暴れで世界崩壊。コレ、テストに出すからメモっとけ。
 ――なんてことが頭を過ぎってしまった。
 だって、こんな銃でどうしろってんだ?
「先生ここは示談でどうにかならないでしょうか? 例えば、学校近くにある美味しいって有名なケーキ屋さんで先生が気が済むまでおごりますから」
「あらん、お店を買ってくれるならいいわよぉん」
「それは無理」
「そんなことはわかってるわ。でもこの状況はまさに一色触発。背中を合わせて五歩歩きバン! っていうのはどうかしらん?」
「映画とかでガンマンがよくやってるやつですね」
「じゃあ始めましょうか」
 俺と玉藻先生は背中を合わせた。
「じゃあ数えるわよ」
 やばいぞ。どうする俺が先に撃っても負けじゃないかこの勝負?
「一、二、直樹の負けよぉん」
 玉藻先生はズルをして突然後ろを振り返り俺に銃を向けようとしたに違いない。だが、そんなことだと思ってた俺はとっくに勝負を放棄して安全な場所に逃げていた。
「先生の負けです」
 俺は取り合えず銃の引き金を引いた。ビーム光線が玉藻先生に直撃し先生は倒れた。
 ……普通の人に撃ったらどうなるんだ? まさか死んじゃったとか?
 先生に駆け寄り脈を計る。脈拍正常、呼吸正常、問題なし! だと思う。きっぱり言うが俺は医者じゃないから断言はできない。
 とりあえずどうする? まさに自問自答。自分の道は自分で切り開け!
 ……普通に考えて運ぶか。
「よいしょっと……うあっ!」
 バタン! と俺は腹から倒れ潰れた。……玉藻先生ってこんなに重いのか?
「どう考えてもありえない重さだ」
 玉藻先生を仰向けに寝かせると白衣のポケットを調べた。――財布・手帳・ドライヤー・スプーン・扇風機・石油ストーブetc.etc.……なんじゃこりゃ!?
 白衣に入るはずの無い物が出てくる出てくる。玉藻先生って四次元ポケットも発明していたのか!? とりあえず戻しとこ。
「ううん……あん……」
「先生!?」
「ああん……もう朝かしらん?」
「夕方です」
「あらん、夕食の準備しなくちゃね。直樹も食べてく?」
「……先生だいじょぶなんスか?」
 やった俺が相手の心配するのも変だが、だいじょぶなのか?
「直樹さっき私に撃った銃は何のかしら?」
「明日のなんたら銃でおかしくなった愛を治すための銃ですけど」
「なるほどね……それでわたしも治ったわけねぇん」
「はい?」
「わたしもナオキちゃんにあの銃で撃たれてたのよねぇん」
 つまり、そーゆーことだったのか。なんとなく納得だな。
「正常に戻られた玉藻先生にお願いがあるのですが」
「何かしら?」
「もうひとりの俺が変になったのは明らかに先生のせいですよね? 戻してください」
「わたしのせいなのかしらん……それも一理あるかもしれないわねぇん。わたしがクスリを飲ませたあとナオキちゃんは変になったような。つまりわたしのせいなのかしら?」
「クスリってなんですか?」
「つまり、あれがこうなって、そうなって、あれとあれが結合したわけね。納得だわ」
「ひとりで納得しないでください」
「行くわよ」
「はっ!?」
「着いてきなさい」
 玉藻先生は立ち上がるといつものモデル歩きで軽やかに歩いていってしまった。四次元ポケットの秘密を知った今ではなんであんなに普通に歩けるのかが不思議でしかたない。あれが可学の力なのか?
 さっさと歩いていてしまう玉藻先生のあとをついて行くとそこには、空を飛びそうな物体が……。
「これって飛行機とかですか?」
「ステルス戦闘機をわたしが改造して作ったステルス戦闘機改Ver.一.〇〇よ」
「ステルスですか!?」
「従来のステルスとは動力源が根本的に違って熱を全く出さないし、空気の流れにも一切影響を出さないわ。つまりこの戦闘機を確認できるのは肉眼だけってことね」
 この戦闘機で何をしようとしていたのかはあえて聞かない。世の中には聞いてはいけないことばっかりだ。
「早く乗り込みなさい、私は前に乗るから直樹は後ろよぉん」
 無言で俺は戦闘機に乗り込んだ。……玉藻先生ってこれ操縦できるのか?
 エンジンがかけられたみたいだが無音だ。ホントにこれって飛ぶのか!?
《直樹聞こえる?》
 どっかに取り付けられてると思われるスピーカーから玉藻先生の声が聞こえた。
「ひとつだけ質問していいですか? 地下からどうやって、むしろ滑走路が見当たらないんですけど?」
《上に向かって滑走するわよぉん》
「はっ?」
 上を見上げると天井が左右に開かれ、四角い筒のような道が現れた。その先には微かだが小さな白い点が見える。外に違いない。ってまさか!?
「先生っ上に向かって滑走って!?」
《行くわぉん! !》
 戦闘機は壁に向かって走り出し、壁に当たる寸前にどういう操縦をしたのかはわからないが九〇度傾き壁を登り始めた。九〇度に助走する戦闘機なんて聞いたことないぞ!?
 四角い筒の中を走り抜け住宅街の真ん中から戦闘機が飛び立った。ありえない、住宅街から戦闘機が飛び出す光景なんて。
《ナオキちゃんがどこにいるか教えなさい》
「俺んちにいると思いますけど」
《そういうことは早く言いなさい》
 早く言いなさいって……どこだよここ!? 地面がないじゃん。海だよ海!
《思ったよりスピードが出るみたいねぇん》
「思ったよりもって、ここどこですか?」
《太平洋に決まってるじゃない。しかたないから世界一周するわよぉん》
 動力源が根本的に違うとかいうせいかどうだかしらないが、どんどん無音で加速していく戦闘機。そして、加速に加速を重ねた結果信じられない出来事が!?
「先生ここって?」 
《宇宙よ》
 暗い空間に光輝く星々と美しい惑星。宇宙の真理が俺たち待っている。……じゃなくって!
「見えばわかります。なんで戦闘機が宇宙に行けるんですか!?」
《普通は重力の関係で真っ直ぐ飛んでいるつもりでも丸い地球の上をグルグルと回るんだけど、どうやら重力を無視して本当に真っ直ぐ飛んだ見たいねぇん》
 なんでこんな人がうちの高校の先生なんかしてんだ? こんな簡単に宇宙に行けるなんて世界中の科学者が失業するぞ。てゆーか、宇宙に行くためには重力を突破するだけの力が必要でそれだけの力を一気に出すと人間なんてベチョって感じで……考えるな……これは可学の力だ。そう可学の力ね。
《直樹、緊急事態よ!》
「これ以上に何があるんスか?」
《異星人よ》
 異星人ね。はいはい、異星人ですね。普通じゃん異星人なんて、この状況、ここ最近のことを考えたら異星人なんて一番現実味があるじゃん。
 ゴォォォン! ! 機体が大きく揺れた。明らかに攻撃を受けた。だからどうしたってんだ、こっちには○○学園狂師四天王、学校最強の可学狂師が付いてんだ。
《直樹青いボタンを押して!》
「イエッサー」
 青いボタンをポチっと押すと、戦闘機のサイドから何かがシュキィィィンと飛び出した。
《今はオート照準になってるけど、もちろんマニュアルで落すわよねぇん? 手前のハンドルを操作して撃つのよぉん》
「ゲーセンで磨いた腕を見せますよ! !」
 異星人の戦闘機は全部で五機。完全に周りを囲まれている。だが楽勝だ!
 敵戦闘機をギリギリまで引き付ける。敵のビームが発射されるが玉藻先生は避けない。
《ちょっとだけ揺れるわよぉん》
 ゴォォォン! ! 機体は大きく揺れるが損傷はない。強行突破だ。
 俺はハンドルを強く握り締め照準を敵戦闘機に合わせる。もらった! !
「見えるぞ、私のも敵が見える! !」
 親指でハンドルに付けられたボタンを押した。
 ビームが敵の戦闘機を爆撃し、無音の世界で大爆発が起こり、その爆発の中をステルス改が飛び抜ける。
 爆発を抜けた所で敵の戦闘機が待ち受けていた。
「はかったなシャ○!」
《横を抜けるわよぉん》
 ステルス改は敵戦闘機二機の横を抜け、抜けたっていうか抜け切れずに当たりながら後ろに回り、そのまま下から上に旋廻して敵戦闘機の腹に回った。
「撃つべし撃つべし撃つべし! !」
 ビームで敵戦闘機二機を撃墜。残るは二機だ。
《直樹、前方から巨大戦艦が一隻くるわよぉん》
 前方に現れた巨大戦艦。あんなのスター○ォーズとかで見たことあるぞ!
 二機の敵戦闘機は巨大戦艦へと逃げ帰っていく。だが、ここで逃がすか! !
「先生、秘密兵器とかはあるんですか!》
《赤いボタンを押すとおもしろい事が起こるわよぉん》
 赤いボタンを力強く押すと巨大ビーム砲とでもいうべきものが発射された。すっげぇ、この戦闘機のどこからこんなビームが出たんだ?
 波動砲っていうか、ソーラレイっていうか、とにかく発射されたビーム砲は巨大戦艦に当たった。
 空気の無い宇宙で無音の大爆発をする巨大戦艦。白い世界が辺りを包み込み思わず目をつぶる。BGMは『G線上のアリア』ってとこだな。
 儚いな……なんで俺はこんなところで宇宙人と戦ってんだ?
 爆発は治まることを知らずどんどん広がっていく。
「先生ヤバイんじゃないですか?》
《やっぱりこのビームは連鎖を重ねて巨大な爆発を巻き起こすみたいね。いいレポートがかけそうだわぁん。全速力で逃げるわよぉん》
 爆発は止まることを知らず、この日、銀河の一つが宇宙から消滅した。世界では人々の知らないところですっごいことが起こっているのだ……。

 数分後、無事帰宅した俺はステルス改で俺んちの自宅の屋根に着陸した。だいぶ無駄なことをしたような気がする。なんで宇宙人と戦わなきゃいけなかったんだ?
 自宅では俺が出て行った時と何も変わってなかった。俺’は縛られてすねてるし、母さんと妹は星川と楽しくおしゃべりしてるし、でも俺と玉藻先生が部屋に入った瞬間空気はがらっと変わる。
「あらん、ナオキちゃん。縛られちゃって、わたしがお仕置きするまでもないかしらん?」
「そのようすだと、元に戻ったようだな妖狐先生」
 緊迫した空気が二人の間だけに流れる。決してこの家では他には伝染しない。俺の母親は場の空気を無視する女だ。
「あらまあ、玉藻先生。直樹がいつもお世話になっております。そうだ玉藻先生もうちで夕飯どうですか?」
「あらん、それはありがたいわぁん。今日の夕飯何にしようか迷ってたとこなのよねぇん」
 おかしくないかこの展開。今までのことに比べれば普通か……。
「お兄ちゃんお帰り〜、今日の夕食はみんなでお鍋だって」
 きゃはきゃはって感じで俺に回し蹴りをかます妹の遊羅。家族のスキンシップだ。
 回し蹴りを受け止めデコピンで遊羅に応戦する。
 デコピンを喰らった遊羅は必要以上にぶっ飛び、フローリングの床を滑る。
「遊羅吹っ飛び過ぎ。しかもパンツ丸見えだぞ。白だな」
「えっ、うそ?」
 遊羅は自分で確認した。
「ホントだ白だ」
 そこかよっ! 自分のパンツの色ぐらい覚えとけ。
 そうだ、それよりも具だ、鍋の具は何だ? じゃなかった。夕食よりもここに来た当初の目的を忘れてはいませんか?
「あのぉ〜玉藻先生? 俺’に飲ませたクスリ……」
「あらん、すっかり忘れてたわぁん」
 そう言って玉藻先生は白衣手を突っ込むと、
「あれでもない、これでもない」
 と言いながらわけのわからないものを出しまくって部屋を埋め尽くすと、最後にクスリの入った子瓶を取り出した。おまえはドラ○もんかっ! !
「このクスリを飲めば恐らく、あれがああなって、それがそーなって、胃の中でペプシンとおもしろい化学反応をしてくれて消化吸収、血中を巡り巡って……」
「先生、わけわかんないせつめいはいいですから俺’に早く飲ませちゃってください」
「そうねぇん。実験を始めましょうか」
 玉藻先生はクスリの入った子瓶のフタを開けると俺’に圧倒的な威圧感と恐怖感で差し迫った。
「妖狐先生、ちょっと待った。話せばわかる、そんなクスリ飲めるか、飲むかっ……うぐっ」
 瓶ごと口に突っ込まれた俺’の姿は無残だ。惨い、惨い……微妙な玉藻先生の復讐か?
 俺’ののど元がゴクンと動いた。THE ENDだな。
 クスリの瓶がカポッと口から抜かれると同時に俺’はバタンとフローリングの床に倒れた。死んだか?


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