住宅街から空を見上げると、町を覆いつくさんばかりの曇天が広がっていた。
辺りに湿気が立ちこめ、今にも一雨降りそうな天気だった。
灰色の空から明日香は同じ色のアスファルトに目を落とした。
「イヤな天気……」
思わず口から零れ出てしまった。
制服に着替えて、通学鞄を持って、玄関をくぐり、道路に出た。
――それなのに足が止まってしまった。
雨のにおいがした。泥の混じったような嫌な臭い。それは町の臭いだった。
「みんな……」
みんな汚れている。町も人も自分自身も。この世界に穢れていないものなんてない。
明日香は踵を返して家の中に戻った。
玄関から続く廊下は凍てついている。この家全体が冷め切ってしまっている。
みんな各々の事情で家を後にした。
母は外に男を作り、そのまま消息を絶った。
兄はそんな母に嫌気をさし、ここぞとばかりに一人暮らしのチャンスを得た。
父はもともと家庭より仕事を大事にする人で、母が出て行ったこともさして気にもせず、家にも帰って来ない
家でひとりになった明日香の世話をするために、家政婦が呼ばれたが、明日香はそれをすぐに追い払ってしまったのだ。
自分の部屋に戻った明日香はジャケットを脱ぎ捨てると、ベッドに仰向けになりって天井を仰いだ。そして、身体をくねらすように動かしながら、スカートからワイシャツの裾を出し、ボタンを3つ外して首元を緩めた。
はだけた白いワイシャツの隙間から、淡いブルーのレース下着に包まれた膨らみが覗いた。
憂鬱だ。
小窓の外に見える曇り空もそう語っている。
髪の毛をかき上げ、素早く立ち上がった明日香は、乱暴にカーテンを閉めた。
「見たくない」
みんな見たくない。汚れたものなんて見たくもない。
ベッドに勢いよく飛び込み顔を埋めた明日香は、ぎゅっと爪を立ててシーツを握り締めた。
震えていた明日香の全身から、やがて力が抜けていき、しばらくの間、身動きひとつしなかった。
静かに呼吸を整え始めた明日香の手が、ゆっくりとシーツとお腹の間に差し込まれ、そのまま下腹部まで滑り落ちる。
秘所まで滑り落ちた指先が、コットンの上から割れ目を縦に撫でた。
「んぅ……」
鼻先から熱い息が漏れる。
膝を立て、明日香はお尻を突き上げた。
細い中指が割れ目を感じながら上下に動く。最初は優しくゆっくりと割れ目をなぞり、やがてその動きは早くなる。目を閉じて、感覚を研ぎ澄ませ、手淫に浸る。
淫らで汚らわしい行為。でも、やめられない。どうせ自分は穢れているのだからと、開き直って自分を言い聞かせる。
明日香の手はいつの間にか硬く充血した小さな突起を撫でていた。
指先で弄びながら突起を刺激する。そのたびに明日香は身体をびくつかせ、甘い息を吐いては腰を揺らす。この状態になれば、もう外部のモノは何も見えなくなってしまう。明日香は完全に自分の世界に陶酔していた。
指を少し下に滑らすと、布の上からでも湿っているのがわかった。そこにそのまま指を埋めた。薄布ごと膣に押し入れる。
「あふぅ……」
布に包まれた指の感触が膣に伝わり、淫らな汁が染み出してくる。
欲しい、もっと欲しい。もっと奥まで突き入れたい。
明日香は腰に手を滑らせて、パンツに手を掛けると、腰を振りながらゆっくりと下にずらす。その間も、残った片方の手は股をまさぐり続けている。
パンツから片脚を抜いたところで、それ以上パンツを脱ぐことはしなかった。両足を抜くのがめんどくさい。そんなことに手間を取りたくなかった。
鋭い快感に酔いしれながら薄毛を掻き分け、充血した突起を指先で擦りながら刺激してやる。
次第に脚が大きく開いていき、突き出された尻が大きく揺れる。
鼻から熱い息が抜け、呼吸が荒々しくなる。
指先を汚すねっとりとした液体は止まることなく零れ続け、溢れてしまった液体が太ももを這う
「はふぅ……あふぅ……
指先は誘われるように深みへ没していく。
中指が膣に入った。
入り口に少し中指を差し込み、ゆっくりと出し入れをする。それ以上、奥に指を挿れたことはなかった。もし間違って、まだ男のモノを知らない奥に指を挿れてしまったら大変だ。でも、いつか今に物足りなさを感じて、より強い快楽を求めてしまうのではないか、それが明日香には心配だった。
どんどん堕ちていく気分がする。
自らの行為で堕ちていく。
快楽を求め、淫らな行為をする自分が、穢れていないと言えるだろうか。
――この世界に穢れていないものなんてない。
「ふあぅ……」
求めてなにが悪いのだろうか。
明日香は赴くままに指を動かし、身体をくねらせ、尻を上下に振った。
股に挟まれたのとは別の手は、行き場を求めて胸元を伸ばされていた。
小ぶりな胸の膨らみをワイシャツの上からこねるように揉みしだく。それと同時に指先はワイシャツの上からでもわかるほど尖がった部分を刺激した。
突起した乳首はより硬く尖り、明日香はそこを指で摘んで引っ張って遊ぶ。
夢心地の明日香は口を閉じることも忘れ、半開きになった紅唇の端からぬらぬらした唾液が顎に伝わる。
胸は布の下で激しく形を変え、淫らに動く下半身からは大量の滴が零れる。
熱気のこもる部屋の外の町並みは曇天に覆いつくされ、しとしとと降り始めた雨粒が大地を湿らせてした。
シーツにも雨粒が落ちた。
太腿を伝って落ちたそれはシーツに染みを作る。
次第に雨脚は強さを増し、染みの数が増えていく。
「はぁ……はぁはぁ……」
部屋の外は大雨だった。その音は部屋の中まで響く。しかし、明日香の耳にはまったく入らない。
息遣いと共に切れ切れの声で快楽を訴えるよがり自分自身の声も、今の明日香の耳には届いていなかった。
左手で胸を揉み、右手の中指で膣の中を刺激する。
中指でザラザラした襞に潜むポイントを探し、そこを押したりしながら刺激してやる。
ひどい寒気が全身を遅い、明日香は我に返った。
「だめっ!」
その時にはすでに遅かった。
凄まじい尿意が襲い、それを止めようと努力はしたが、緩みきった下半身ではどうすることもできなかった。
股の間から黄色い滴が連続して零れ落ち、純白のシーツを汚してしまった。
尿失禁してしまったのだ。
シーツに水溜りを作ってしまい、明日香は自己嫌悪に陥りながらも、すぐに動くことはできなかった。
明日香の全身は弛緩し、倦怠感で身体を動かすのも気だるい。
「……サイテー」
と呟きながらも、素早く動いてシーツの処理をするでもなく、少しだけ身体を起こしてシーツに広がる染みを見続けていた。
気がつけば制服のスカートも尿やねっとりした液で汚れてしまっていた。
「粗大ゴミに出そうかな」
ベッドも服も自分も、全部捨ててしまおう。
汚れたものは捨ててしまえばいい。
明日香は何かを思い出したように、含み笑いをした。
「だから、あたしも捨てられたのか」
目を閉じた明日香は、達し得なかった快楽を求めて、また穢れた股座に手を伸ばすのだった。
おわり