ネットカフェの個室に入ったミドリは、リクライニングチェアに深く腰掛けた。
「ううっ、飲み過ぎたぁ~。終電逃したぁ~」
ハイネックのカットソーの裾を両手で持ち上げて、お酒で膨らんだお腹とおへそを出した。
「あついー」
顔が火照った色をしている。
瞳を閉じると飲み会の光景が蘇る。
「あのバカ……相変わらずバカだったなぁ」
幼なじみの〝あいつ〟。
久しぶりに会ったけど、変わっていなかった――〝あいつ〟もミドリも。
「……バカ」
関係も昔のまま。
ミドリは巨乳を揺らしながら、暴れて髪の毛をグシャグシャにした。
「あーっ、もうなに考えてんだろ」
そして、哀しげな顔をして吐息を漏らした。
「わたしってそんなに子供っぽい? そんなに魅力ない? 背が小さいのは認めるけど」
…………。
沈黙。
隣の部屋から笑い声が急に聞こえて、ミドリはビクッと体をさせた。
朝まではまだ時間がある。
目は冴えていて眠くない。
とりあえずパソコンをすることにした。
検索サイトでお気に入りサイトを検索する。
久しぶりにトップからEnterを経由して入った。
ギャラリーが更新されている。
イラストを開いたミドリはニヤっとした。
ディスプレイに映し出されたのは、二人組の男子が半裸でイケナイことをしている画像。
しばらくジーッと画面を凝視。
今、このときッ!
ミドリの脳内ではストーリーが目まぐるしく妄想されている。
「……そうだよね、やっぱり」
何かしらの納得をしたようだ。
ギャラリーを見終わったミドリは、このサイトのお絵かき掲示板を開く。
ひとの書き込みまで隈無く目を通し、ときおり噴きそうになりながら笑う。
マウスを握り直したミドリは投稿する絵を描くことにした。
「ペンタブないから描きづらい」
と、つぶきながらも、綺麗に円を引けていることから、マウスでも描き慣れているらしい。
絵を描きはじめてからしばらくすると、なぜかミドリの呼吸が荒くなってきた。
「はぁ……はぁ……」
熱を帯びた息が断続的に吐き出される。
マウスを握る手はいつしか止まり、左は股の間に挟まれていた。
股間を押さえると同時にスカートが捲られ、ニーソックスとスカート裾の距離が広がる。
白くむっちりとした太股には、ニーソックスが少しずり落ちた痕が残っていた。
「んっ……ふ……」
食い込むショーツ。
中指がムッとする割れ目の中に呑み込まれ、押すように動かされている。
熱気がもたらす湿り気とはべつに、指先がネチッと濡れた。
「んっ……んんっ……んふ……」
もうマウスを握っていられなかった。
ニット素材に浮かぶ巨乳のシルエット。
胸を握るように揉むと、そのシルエットがありありと浮かぶ。
「あう……うう……」
すぐ隣の個室にはだれかいるのに、それでも止まらない。
手はいつの間にか、服の中へ、ショーツの中へ。
ラブジュースが中指に絡みつく。
勃起したクリを包皮の上から押すように刺激する。
ショーツから片足を抜いた。
「んっ……んんっ!」
声を押し殺そうと必死に口を縛る。
いつの間にか脱いでいた靴。つま先がピンと伸びる。
「んっ!」
満ちていた潮がゆるやかに引いていく。
「はあ……はあ……」
高鳴る心臓の鼓動で胸が苦しい。
少しずつ整えられていく呼吸。
瞳を閉じていたミドリはゆっくりと――。
「きゃ――!?」
叫ぼうとして口が塞がれた。
毛むくじゃらの大きな手。
眼を見開いたミドリの目の前にいる特に頭が幸薄そうなオヤジ。銀縁の四角いメガネが、さらにイケてない感を醸し出している。
ミドリの理解の範疇を超えている出来事。
オナニーをして、ぐったりしながら現実に戻ろうとしたら、非現実の出来事が待ち受けていた。
いつの間にオヤジが個室に?
いくらオナニーに熱中していたからとはいえ、個室にだれかが入ってくればわかる。それもこんな近距離に。
近くにいるのに、オヤジは気配をさせなかった。
気配ではなく、代わりにしたのは寒気。
ミドリは視線をオヤジの足下に向けながら青ざめていた。
正確には、足なんてないので、足下とは言えない。
ニヤッと笑うオヤジ。
「気づきましたかお嬢ちゃん?」
オヤジは囁いた。
現在の科学では証明できない存在。
それが幽霊だ!
「浮遊霊で童貞の田中と申します」
「んぐんぐ!」
「成仏できずに早10年、セックスがしたいという一心で物体に触れるようにまでなり、ついに今日めでたく童貞を卒業させていただこうと思います」
「んぐぐーっ!」
すでにパンツを下ろしたオヤジの股間はマックスモード。
童貞のクセに、モノだけは一流だった。
「では、筆下ろしお願いします」
いざ挿入!
オヤジは腰を振る、腰を揺らす、腰を突き出す。
だが、どうにもこうにもスルッと入らない。
「おのれぇぇぇ、修行不足のせいでここぞというときにチンコが物体を擦り抜けてしまう」
ご立派な肉棒は、その役目を果たさずに、マン肉に触れることも叶わず空振り。
ミドリは抵抗しようとするが、体が金縛りにあって動けない。
声は出るが、怖くて声が出せない。
オヤジへの恐怖ではない。
ここで声を張り上げて、もしも男が様子を見に来たら?
群がってきた男どもはどんな視線をミドリに向ける?
得意の妄想が恥辱される私を脳内で展開させる。
じわぁあと濡れた。
オヤジは童貞は童貞らしく、肉棒に手を添えた。
ぬぷっ。
息を呑んでミドリは眼を見開く。
「いやっ、リアルでは処女なの!」
声が出た。
その声を自分で聞いてミドリは強ばった。
声はきっと隣の個室まで響いている。
ミドリは目をつぶった。
ギジジジジ……
肉を食い破るように肉棒が侵入してくる。
ミドリは強く目をつぶった。
現実から目を逸らしたい。
いつも妄想の中で〝あいつ〟にヤられた。いやって言ってるのに強引に。クンニされてる間に、こっちもその気になっちゃって……。
今日はクンニもなしで、いきなり襲われちゃったけど、ちゃんと濡れちゃってる。
耳元で息づかいが聞こえる。今日はいつもよりも激しい。荒々しくて息が上がってるみたい。
ブタみたいな声を出してるけど、それも可愛く思えてしまう。
しかし、現実ではマジでブタみたいなオヤジが、ブタっ腹を揺らしながらブヒブヒ鼻息を立てて腰を振っている。
向こうから襲ってきたクセにぎこちない腰使いの〝あいつ〟。
二人ともはじめて同士。
童貞オヤジの筆下ろしと、妄想女のロストバージン。
「んっ……ああっ……ああン!」
ニット素材の上から胸を揉みくちゃにされてミドリは喘いだ。
「はじめてなのに……あうっ……どんどん気持ちよく……ああっ、やン!」
痛みの朱は愛が流してくれる。
愛液の海に溺れる肉棒。
「これがオマンコなのか! 気持ちよすぎる、風俗やオナホに浮気しないで童貞を守り抜いた価値があった!」
「わたしも…ああっ…うれしいよ…んっ…と……大好きな……あぅ…と結ばれて……ああン!」
「おれも好きだ……イクぞ、イクぞ、イクぞーっ、中に出すからな、おれの最後の愛を受け取ってくれ!」
「ああああああああっ!」
昇天!
安らかな顔をしてオヤジが逝く。
ぐったりとしたミドリは、そのまま意識が深く落ちていった。
「くしゅん!」
自分のくしゃみで目を覚ましたミドリ。
半裸の自分を見て驚く。
「あれ……オナニーして寝落ち?」
ちょっと飲み過ぎたせいか、記憶が曖昧だ。
ドロッとしたものが、漏れた気がしてミドリは自分の股間に手をやった。
「え……なにこれ?」
ドロリとしたジェル状のなにか。
ここに霊能力がいたら、こう言うだろう。
それはエクトプラズムです!
おわり