XとYの場合
   少年の場合

 学年が1つあがって、クラスの顔ぶれも変わった。
 前のクラスの顔ぶれもいるけど、ちょっと心許なくてソワソワする。
 ふっと、となりを見ると彼女がいる。
 山之内美鈴(やまのうちみずす)さん。前の顔ぶれ以外で、はじめに名前を覚えたクラスメート。
 彼女はいつも遠くを見ている。ちょっと冷めた視線で、クラスメートとの会話も事務的だ。僕はまだそんな事務的な会話すら交わしたことがない。
 彼女が消しゴムを落とした。しかも僕のすぐ近く。
 どうしようか僕は悩んだ。拾ってあげるべきか、でも僕なんかに消しゴムを触られたら迷惑じゃないだろうか。このまま知らんぷりをしよう。悪意があるように思われないように、消しゴムが落ちたことすら気づいていないフリ。
 彼女は消しゴムを拾おうと、イスに座ったまま腰を曲げて手を伸ばしてきた。
 そして、彼女が消しゴムを拾って体を戻そうとした瞬間、ふわっと良い匂いがした。
 きっと髪の毛の匂いだ。
 まるでそれは媚薬のように、僕の頭が真っ白になったかと思うと、急に真っ赤になって全身が燃えるように熱くなった。
 胸が苦しくって、思わずあそこまで硬くなってしまって。
 そして、僕は気づいてなかった。呆然と彼女を見てしまっていたことに。
 消しゴムを拾って顔をあげた彼女と目が合って、はじめて僕はハッとしたんだ。彼女は平静な顔だったけど、僕がどんな顔をしていたか考えるだけで恐ろしい。
 とにかく恥ずかしくて恥ずかしくて、教科書と向き合って彼女を頭から消そうとした。
 でも考えれば考えるほど苦しくなって、あそこまで苦しくなってくる。
 折り曲がったまま勃起したあそこが痛くて堪らない。直したいけど、周りにひとがいるのに手を入れて直すなんて、バレたら大変だ。横の席のひとにちょっと股間を見られたら、膨らんでることなんて丸わかりだ。横には山之内さんだっているんだ。
 彼女に勃起してるとこなんて見られたら絶対に嫌われる。変態扱いされるに決まってる。まだ新しいクラスになったばかりなのに、ずっと変態として見られるなんて僕には堪えられない。
 もしも彼女が別の生徒にも僕が勃起してたって話したら?
 あっという間に、クラス中から変態扱いされてしまう。
 僕は足を組んでなんとか膨らみを誤魔化そうとした。
 ダメだ、ぜんぜん勃起が治まらない。
 もう痛くて我慢もできない。この締め付けのせいで、よけいに勃起が促されている気がする。ポジションさえ直せたら勃起が治まるかもしれない。
 僕は決断して、周りの様子をうかがった。後ろや前からは見られないハズ。左の女子は黒板を見ている。
 そのまま右に視線を動かしたとき、彼女と目が合ってしまった!
 慌てすぎた僕は身動きを止めてしまって、2秒くらいは目が合ったままだったと思う。
 彼女はなぜか笑った。冷笑、失笑、ほくそ笑んだのか、小さい笑いの意味はなんだかわからなかった。もしかして勃起に気づかれたのだろうか?
 勃起に気づかれたと思うと、息もできないほど苦しくて、あそこも痛すぎて死にそうだった。
 もうダメだと思っていたとき、天の助けだ、チャイムが鳴った。
 号令で授業が終わると、僕は一目散にトイレに走った。もう周りなんか見えない。勃起にも気づかれちゃいけない。
 トイレにはだれもいなかった。あそこを直すだけなら、小便のフリでもよかったけど、僕は我慢できなかった。
 個室に飛び込んで、焦りながらカギを閉めた。
 ズボンとトランクスを下ろして開放してやると、飛び跳ねて起き上がったペニスが腹を打った。
 尿道口から汁が出てる。
 堪らず僕はシコった。
 いつもよりも硬くて大きいのがわかる。
 ちょっと触っただけなのに、もうイキそうだ。
 こんなに早くイクなんて!
「うっ」
 便器に出そうとしたのに、いろんなとこに飛び散った。
 最悪だ。
 丸めたトイレットペーパーを丸めながら掃除をする。虚しすぎるし、なんでこんなことしてしまったんだろうと後悔しかない。
 臭いだってする。絶対にバレる。勃起がバレるよりも大問題だ。
 僕はトイレットペーパーを流すと、人の気配を確かめてから個室を飛び出した。

   少女の場合

 授業がぜんぜん頭に入らない。
 黒板を見ながら先生の話を聞いてるフリ。
 ちょっとだけ横を見ると、彼がいる。
 祐斗(ゆうと)君。きっと彼は私の名前すら知らないと思う。けど、私は入学したときから、ずっと彼のことが気になってた。
 そんな彼と同じクラスになって、席まで横になるなんて、こんな不幸なことはない。
 だって授業の間は、ずっと彼が横にいて、なにも手に付かなくなっちゃう。休み時間だって彼はあんまり席を立たないし、私だって別に用事がないから席に座ったまま。学校にいる間はずっと苦痛。ちょっと楽になるのは男女別の体育の時間くらい。
 でもこないだ、遠目から体育をしている体操着姿の彼を見たら、居ても立ってもいられなくて、体調が悪いフリをして保険室に行ってしまった。
 もう私は限界だった。この想いを昇華させないと、彼に殺されてしまう。
 ああっ、字だって書き間違えてしまうし。焦りながら消しゴムを取ろうとしたとき、手に当たった弾みで消しゴムが落ちてしまった。
 最悪。
 彼のすぐ近くに落ちてる。
 こんな状態で彼に近づいたら、私絶対に死ぬ。
 消しゴムなんてなくても生きていける。ノートだってあとで書き直せばいい。
 でもでも、もしも彼に消しゴムを拾われて手渡しをされて、そのときに彼の手がちょっとでも私の手に触れたら、死ぬ。
 早く拾わなきゃ!
 できるだけ早く慌てずに私は消しゴムを拾い上げた。
 ……顔を上げた瞬間に彼と目が合った!
 ダメダメダメっ、もう死ぬ。
 お願いだから顔赤くならないで!
 私は教科書を見るフリをしてうつむいた。
 背筋がビクッとした。
 漏らしちゃった。
 えっちな汁がお尻のほうまで垂れて、パンツまで濡れちゃってる。
 我慢できない。バレないよね、きっとバレないよね。
 私は股間に手を挟んで、息を殺しながらクリを布越しに触りはじめた。
 教室でオナニーしちゃってる。こんな変態なことしちゃダメなのに、我慢できないんだもん。
 周りにバレたら転校しなきゃいけないのに、手が止まらない。近くに彼がいると思うと、おかしくなりそう。
 変態女だってバレたら、彼に嫌われるかもしれないけど、彼のせいでオナニーしちゃってる。
 全部彼が悪いんだから。彼のせいなんだから。彼が私をこんな変態にしたんだ。
 私はふと視線を横に向けた。
 彼と目が合った!
 股間には手を挟んだまま。
 けっこう長く目が合ってた気がする。
 思わず私は笑ってしまった。人間、困り果てると笑ってしまう。
 オナニーしてるのバレたかな。でも股間に手を挟んでるくらいなら、オナニーなんて思われないかも。それでもバレてたら。
 苦しい。
 思いっきり息をしたら喘いでしまいそう。
 もう限界。
 よかったチャイム!
 授業が終わると私はトイレに駆け込んだ。
 個室のカギを閉めて、壁に寄りかかりながらパンツを下ろした。
 糸引いちゃってる。
 生理もまだ先だし油断してた。パンツを濡らしたまま放課後まで過ごさなきゃいけないなんて。毎日おりものシートないともうダメかも。
 クリがちょっと顔を出してる。オナニーのしすぎで大きくなっちゃったのかも。困る。
 私はえっちな汁を指先につけてクリを触った。
 声を殺さないとバレちゃう!
「うっ……ンっ!」
 息をするとどうしても喘いじゃう。
 イキたいイキたい、イキたいよぉぉぉっ!
 膝が震えてもう立ってられない。
「あっ……」
 イク。
「ンっああっ……」
 私は必死に口を押さえて声を隠そうとした。
 下半身から広がった快感が全身を満たしてくれる感じ。頭がバカになりそう。
 気持ちいい。
「はぁ……はぁ……」
 快感の余韻はまだ残ってるけど、パンツきれいにしないと。
 垂れちゃったえっちな汁で、もうベトベト。
 拭いても意味あるのかな?
 私は処理したトイレットペーパーを水に流すとトイレをあとにした。
 そして、息をつきながらトイレを出て左右を見渡した私は、なんと同じくトイレから出てきた――彼と目が合ってしまった!
 背筋がゾクッとした。
 あ、また漏らしちゃった。

 おしまい


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