盆踊り
先日、おれは二十年近く帰っていなかった実家の敷居を跨いだ。

都会は時間の流れが速いのに、田舎の風景は何も変わっていない。
だが、両親は見ないうちに老け込んでおり、父の白髪混じりの禿頭が年月を感じさせた。
実家を飛び出して上京したおれも、今では結婚して妻と二人の子供がいる身だ。
お盆の時期、実家近くの神社の境内では祭りが催されている。
祭りなんて興味ないと言った息子を実家に残し、妻と娘を連れて来たのだが――いつの間にかはぐれておれ一人になっていた。
別におれがいなくたって困ることはないだろう。
思い耽りながら歩いていると、見覚えのある後ろ姿が!?
驚いたおれは人混みをかき分けて、浴衣を着たその後ろ姿を追いかけた。
あと少しで手が届きそうなのに――。

「ちょっとそこの君!」

声を掛けたが、気づいていないのか、振り向くこともなく歩いて行ってしまう。
いつの間にか祭り太鼓が遠くに聞える林に迷い込んでしまっていた。
そこでついにおれは相手の肩を掴むことができた。
振り返った少女。
声が出せないほど驚いているおれに少女は笑いかけた。
懐かしい笑顔だった。
しかし、そんなことがあるはずがない。
昔と変わらぬ十五歳の少女。
おれは無意識のうちに呟いた。

「……ナツ」

中学を卒業してすぐに実家を飛び出した。
長い間、彼女のことだけが気がかりだった。
少女は首を横に振った。

「あたしの名前はナツキだよ。リョウスケさんでしょ? お母さんからいっぱい話聞いてるよ」
「もしかしてナツ……ナツコさんの娘さん?」

そうか、おれの知らないうちに結婚して、こんな可愛い娘まで、何だか感慨深いな。

「それにしても、おれだってよくわかったなぁ」
「昔とぜんぜん変わらないよ」
「昔と?」
「……ほら、ええっと写真で見たの」

もう二十年近く経っているのに、おれはそんなに変わらないだろうか。
ナツにこんな大きな娘がいるなんて、おれよりも早く結婚したってことだよな。
本当に何も知らなかった。
瓜二つの少女を見ていると、昔の思い出が次々と頭に浮かぶ。
今はどうしているのだろうか、ナツのことだからきっと幸せに暮しているのだろう。

「ところでお母さんは元気にしてるのか?」
「……死んじゃった」
「えっ?」
「もう……だいぶ前に」

おれは本当に何も知らずに過ごして来たんだな。
とても衝撃を受けたが、目の前の少女を見ていると衝撃も和らぐ。
あまりにも目の前の少女がナツに似ていたからかもしれない。
まだナツが生きているような気すらした。
当時、おれとナツは付き合っていたわけじゃなかった。
そういうことを確認したことはなかったが、きっと両思いだったに違いない。
おれはナツのことが好きだった。
家を飛び出す計画もあいつだけには前々から話していた。
最後の日、一緒に行こうとも誘ったが、あいつは最後まで首を縦には振らなかった。
過去に思いを巡らせていると、少女がおれの手を握った。
そして、いきなりキスをされた。
驚きはしたが拒まなかった。
それどころか、忘れかけていた熱いものが、体の内から沸き上がってきた。
目の前にいる少女はナツキ。
ナツコじゃないのはわかっている。
でも、ずっとこうしたかった。
おれは欲望を抑えることができず、舌と舌を激しく絡ませた。
理性などそこになかった。
まるで童貞が初めてのセックスで焦り先走るような、そんな荒々しさでおれは『ナツ』を押し倒していた。
生涯もっとも愛した女と結ばれる幸せ。
胸が高鳴り、痛いほどに男根が膨れあがり、何もしなくても気持ち良さが全身を満たしてくれる。
おれは無我夢中でナツの浴衣を脱がせた。
まるで本当に童貞のような焦りようだ。
しかし、本当に好きな相手を前にして冷静な感情が保てるだろうか。
今まで抱いてきた女とのセックスは何だったのかと思えてしまう。
まるで青春が帰って来たような、いや青春時代にも味わったことのない高揚感。
はだけた浴衣から溢れたお椀型の胸。
おれはその胸を包み込むように触りながら、ナツの首筋に唇を滑らせた。
懐かしい香り。
いつかのあの香り。
やわらかな風に乗って運ばれてきた、ナツの髪の香り。
おれはそのままナツの肌に唇を這わせ、鎖骨からさらに下へ移動し、つんと尖った乳頭に吸い付いた。
まるで赤子のように無心で吸い付いた。

「ンッ……あン……」

ナツの口から甘くせつない声が漏れる。
おれは舌の先を尖らせ、乳首を何度も弾くように弄んだ。
その度にナツは小さく控えめな声を漏らした。
おれが胸を弄ぶのをやめて、ふとナツの顔を覗くと、彼女は顔を紅潮させて恥ずかしそうにしていた。
そんなナツの表情が溜まらなくおれの感情を高ぶらせた。
我慢できなかった。
おれの男根はビクッと何度も震え、挿れる前から果ててしまいそうだった。
ナツはパンツをはいておらず、しっとりと下半身を濡らしていた。
おれはズボンとトランクスを脱ぎ捨て、亀頭を固く閉じたナツの割れ目に軽く押し当てた。

「挿れるよ」

ナツは無言のまま小さく頷いた。
ゆっくりと腰を沈めようとおれがしたとき――。

「うっ」

尿道をこみ上げてくる感覚。
大量の精液が噴き出した。
まだ挿れてもいないのに出してしまった。
まるでこれでは本当に初めてみたいだ。
ナツは顔にも掛ってしまった精液を手で拭いながら、悪戯っぽい顔で笑った。

「リョウちゃんってば……まだ大丈夫でしょ。ねえ、来て」

ナツの言うとおり、おれの男根は十代のそれのように、まだ元気に勃っていた。
気持ちだって萎んでいない。

「今度こそ挿れるよ」

ナツはにっこりと微笑んだ。
おれは手を添えながら慎重にナツの中に……。
すごくきつい。
ナツの表情を伺おうとすると、彼女はおれの背中に腕を回して、強く抱きしめて来た。
おれの耳元でナツが囁く。

「大丈夫だから、お願い」

狭い膣内に締め付けられておれの男根も痛かった。
ゆっくりと、少しずつおれとナツは交わりを強くする。
そして、ついにおれとナツは最後まで結ばれた。
おれは自然と呟いていた。

「お前のことが大好きだ」
「あたしもだよ、リョウちゃん」

まるで夢のようだった。
おれたちは何度も愛を確認しながら絶頂に達した。
一生分の愛を今このときに注ぎ込み。
失われた時間を埋めるように。
おれたちは愛し合った……。

――気がつくと、おれは満点の星空の下で眼を覚ました。
いつの間にか寝ていたらしい。
おれは辺りを見渡して彼女を探した。
人影一つない静かな夜。
おれは服をちゃんと着ていて、ベルトもしっかりと締めている。
まさか全部……夢だったのか?
ふとTシャツに目をやると、赤黒い染みついていた。
いろいろと不思議に思いながら祭りに戻ると、初老の夫婦に声をかけられた。
おれはすぐにそれがナツの両親だとわかった。
軽い挨拶をして、おれはあの話を切り出すことにした。

「ナツが亡くなったこと今日知りました。とても残念ですが、でもナツに娘さんがいると知って少し安堵しました」

おれの言葉に二人は顔を見合わせて怪訝な顔をした。
そして、こう言ったのだ。

「ナツコに娘なんているはずがない。ナツコが死んだのはリョウくんがいなくなってすぐだから」

おれは愕然とした。
ナツは二十年近く前に死んでいたのだ。
では、おれが出会った少女は何者だったのだろうか?

すべてはおれの胸だけに仕舞われることになった。
たとえ夢だったとしても、あの少女との出逢いはおれの心に空いていた穴を埋めてくれたような気がする。

――ありがとう、ナツ。

 おわり


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