第1章001_01
 教室で弁当を食うことにした俺は弁当箱を机の上にババーンと置いて、今日は独り寂しく昼食を食おうとした……。
 ぐあっ!?
【渉】「箸がねえ!」
 思わず声に出して叫んじまった。
 クラス中の視線を集めちまって恥ずかしい。
 本当はここで泣きながら廊下に飛び出したいところだが、そんなことことをしたら後でもっと恥ずかしいことになるからやめておこう。
 よし、冷静になって考えるんだ俺。
 超天才的な頭脳をフル回転させて考えろ、考えろ、考えろ……。
 俺は超天才じゃねえ!!
 しまった、迂闊だった。
 俺は凡人だったんだ。
 よし、凡人は凡人なりに考えろ、考えろ、考えろ……。
 思いつかねえよ!!
 購買に行って箸を恵んでもらうか……。
 いや、あそこのオバサンはケチだから無理だ。
 じゃあ、購買でなんか買って箸を手に入れるか?
 いや、それは金がもったいない。
 しかたない、最終手段を取るしかないな。
 食わねえ!
 昼食なんて食ってやるか!
 一食くらい抜いても死にはしないのだ。
 これぞグッドアイディア!
 ぎゅるるるるぅ〜〜〜。
 わおっ、俺の腹って正直。
 くそぉ、腹が鳴りやがった。
 腹が鳴るとよけいに腹が減るじゃねえか。
 だが、俺は食わないと決めたんだ。
 男はこれと決めたら絶対にそれを最後まで突き通すもんさ。
 ぎゅるるるるぅ〜〜〜。
 ……俺の腹のバカヤロー(泣)
【明日香】「これ使う?」
 俺が顔を前に向けるとそこには女神様……じゃなかった、桜井が立っているではありませんか?
 しかも、その手には割り箸を持っているじゃないですか?
 もしや、それを俺にくれると言うのですか!?
【明日香】「使うの使わないの?」
【渉】「あ、いや、えっと」
 なにテンパってんだ俺。
 俺ってばしっかりしろよぉ。
【明日香】「使わないのね」
 少し怒った顔をした桜井は俺に背中を向けて立ち去ろうとした。
 このチャンスを逃しては末代までの根性なしだ。
【渉】「その箸くれよ」
 俺が声を掛けると足を止めた桜井が数秒の間を置いて振り返った。
【明日香】「じゃあ、あげる」
【渉】「サンキュな桜井。つーか、おまえは箸なくて平気なのかよ?」
【明日香】「フォークで食べる」
 桜井は言葉少なげに立ち去ろうとした。
 だが、ここで逃がすわけにはいかない。
 せっかくの桜井と話すチャンスなんだ!
【渉】「あのさ、なんで俺なんかに箸くれたの?」
【明日香】「別に……」
 やっぱり桜井は言葉少なげに立ち去ろうとした。
 やっぱ俺のこと嫌いなのか?
 嫌いだから早く立ち去ろうとするのか?
 いや、嫌いな奴に箸なんかくれるか?
 もしかして俺のこと……なんてモーソーはやめておこう。
 桜井が俺のこと好きなはずないもんな。
 きっと俺のことが哀れすぎて箸をくれる気になったんだろう。
 でも……。
 俺はもう一度、桜井の背中に声を掛けることにした。
【渉】「桜井!」
【明日香】「まだなんかあるの?」
 ぐあっ!?
 振り返った桜井はいきなし不機嫌な顔でガン飛ばしてきたし。
 やっぱ、ウザイって思われたかな。
 俺としたことが恋愛パラメーターをわざわざマイナスにしちまった。
【明日香】「言いたいことあるなら早く言って」
【渉】「あのさ、一緒に飯食おうぜ」
【明日香】「あたしたちそんな関係じゃないでしょ? ろくにしゃべったこともないのに」
 ぐわっ!! すんげえ冷たい言い方された。
 痛恨の一撃を食らった気分だ。
 確かに桜井と必要以上にしゃべったことないさ。
 今日だって電車で一緒になったのにしゃべんなかったしさ。
 どーせ、俺と桜井の関係なんてそんなもんさ……ケッ。
【渉】「冗談だから間に受けるなよ」
【明日香】「いいよ、別に」
 ……なんですとーっ!?
 俺の中で桜井の言葉リピートオンしたが、確かに桜井は言ったよな?
【渉】「今なんて言った?」
【明日香】「麻生って耳悪いの? 一緒に食べてもいいって言ったんだけど」
 ああ、神様仏様、桜井様……今の言葉はモーソーではないのですね。
 生きててよかったって実感した。
 つーか、これからも頑張って生きていこうって思った。
 よし、ここはヤマシイ……じゃなかった、嬉しい気持ちを悟られないように普段ど〜りに対応せねば。
【渉】「じゃあ一緒に食おうぜ」
【明日香】「あたしたちあっちで食べてるから、麻生が来て」
 なんだか口調が冷たい。
 わからん、わからんぞ。
 一緒に食事してもいいって言いながら、口調が冷たいってどういうことだよ?
 誰か説明してくれよ?
 まあ、とにかく一緒に昼食をとるミッションに成功したわけだから、俺的には恋愛パラメーターが上がったように思えるのだが……?
 なんだかんだで俺は桜井とランチタイムに成功!
 だが、まだ二人っきりとは言えない。
 そこには大きな障壁――桜井友人Aが!?
【雪乃】「あら、麻生君、こんにちは」
【渉】「よっ、桜井友人A」
 しまった!?
 ついうっかり頭の中の呼び名で呼んでしまった……いきなし印象マイナス。
【雪乃】「友人A……もう1学期も終わるのに、私の名前を覚えてないのね」
 緩やかで優しい口調なのに目が笑ってねえ!
 マズイ、ターゲットを落とすにはその周辺からっていうのは基本だろ!
 俺としたことが作戦ミスだ。
【渉】「えっと……冬田冬実……じゃなくって……」
 ヤヴァイぞ、マジで名前わかんねぇ!
 って横を見ると桜井が俺のこと呆れた顔して見てるし!
【明日香】「人の名前間違えるなんて……麻生ってサイテー」
【渉】「いや、冗談だ。俺はちゃんとこいつの名前を覚えてるぞ……」
 覚えてねえよ!
【雪乃】「ちゃんと麻生君は私の名前が“神楽雪乃”だってことぐらい知ってるわよね」
 神楽は俺のことをチラッと見てウィンクした。
 もしかして神楽は俺のことをフォローしてくれたのか?
 だったら、グッジョブ神楽!
【渉】「ああ、神楽の名前なんて知ってた知ってた。3年の始業式初日から知ってたぜ」
【明日香】「ふ〜ん」
【渉】「その口調は疑ってるだろ。実は俺と神楽は桜井の知らないところで、大の仲良しさんだったりするんだぞ。なっ神楽?」
【雪乃】「ええ、明日香の知らないところで私と麻生は大の仲良しさんなのよ」
 意外と神楽ノリがいいぞ!
【明日香】「ウソばっかり。どうして麻生なんかに話合わせるの?」
【雪乃】「あら、私と麻生君は大の仲良しさんよ。そうね麻生君は覚えてないみただけど……残念ね」
【明日香】「だから、作り話はいいよ。こんなヤツに構うことないんだから」
【雪乃】「別に作り話をしているつもりはないのよ。例えば、麻生君が野犬に襲われてズボン持ってかれちゃった事件とか……」
【渉】「……神楽雪乃……雪乃……ああっ!?」
 封印されし俺の記憶が勝手にこじ開けられた。
【渉】「キサマ、神社の娘か!?」
【雪乃】「あら、やっと思い出した麻生君?」
【渉】「雪乃か雪乃か、キサマ猫被ってんじゃねえよ、おまえってそんなキャラじゃなかっただろおうが!」
【雪乃】「小さな頃の話よ」
【明日香】「……もしかして二人って知り合いだったの?」
 なぜだか桜井の視線が痛い。
 もしかして桜井は俺と雪乃の関係を誤解してるんじゃ?
 俺と雪乃の関係は断じて桜井が思っているような関係じゃないぞ、って俺が勝手にモーソーしてるだけか。
【雪乃】「小学2年生まで麻生君とは仲良しさんだったのよ」
【渉】「つーか、同じ学校通ってるのに約2年と1学期間気づかなかったなんて……」
 ……いや、俺は何を恐れている?
 雪乃と仲がよかった覚えがあるんだが……記憶が曖昧で……なにか重大なことを忘れているような?
 まあいいか、桜井の親友が俺の知り合いだったってことで、俺と桜井の関係はググッと近づいた感じだ。
【渉】「まあ、とにかく三人仲良く昼食にしようぜ」
 ランチでもしながら会話を弾ませることに俺はした。
 桜井の昼食は手作り弁当じゃなくってコンビニ弁当だった。
【渉】「桜井って買い弁なんだ」
【明日香】「……別にいいじゃん、なんでも」
【渉】「桜井ってさ、なんでイチイチ突っかかるような口調で俺に話すわけ? 俺って桜井に嫌われてるのか?」
【明日香】「別に……」
【雪乃】「明日香は男子全員に冷たいから、麻生君が特別嫌われてるわけじゃないと思うわよ。ね、明日香?」
【明日香】「……こんな男あたし嫌い」
【渉】「はぁ!?」
 もういい加減わけわかんねえ!
 だったら、一緒に昼食OKすんなよ。
【雪乃】「大丈夫だから麻生君。明日香はこの世にいる男全員が嫌いだから、特別麻生君が嫌いってわけじゃないのよ」
【渉】「でもさ、男が嫌いなら俺となんで食事なんてする気になったんだよ?」
【明日香】「気まぐれ」
【雪乃】「明日香は男全員が嫌いだけど、その中にもランキングが存在しているのよ。そうね、麻生君はそんなに嫌いじゃない位置にいるんじゃないかしら?」
 それって喜ぶべきことなのか?
 桜井ってホント意味わかんねえ女だよ。
 最初は美少女だと思って気になってただけだけどさ、ずっと見てるうちにわけわかんねえ女だなぁって思って……いつの間にか桜井のこと考える時間が多くなって……。
 夜も桜井のこと考えちまって……それで……あ〜んなことやそ〜んなことをモーソーの中で……。
【明日香】「麻生ってば変な顔してなに考えてんの?」
【渉】「いや、その、特になにも……」
【雪乃】「もしかして、えっちなこととか考えてたのかしら?」
 グサッ!!
 胸をナイフで直撃された。
 しかも、雪乃は悪戯な笑みを静かに浮かべてやがる。
【明日香】「やっぱり男ってサイテー」
【渉】「うわっ、すんげえ誤解だって。雪乃が変なこと言うからだろ!」
【雪乃】「でも図星だったんでしょ?」
【渉】「図星だったけど……じゃなくって図星じゃないけど……とにかく誤解さてちまっただろ」
【雪乃】「渉は小さい頃からなんの成長もしてないのね」
【渉】「雪乃はなんか雰囲気が180度変わったよな」
【雪乃】「大人になったのよ」
 ガキの頃の雪乃の記憶しかない俺から見ればホント大人になったよな。
 雪乃は周りの奴らに比べても大人だよな。
 ちっこい桜井と一緒にいたら特にそう見えるぜ。
 って、いつの間にか桜井が不機嫌そうな顔してるし!?
 どこで桜井の地雷を踏んだんだよ?
 桜井が不機嫌になるきっかけがわかんねえよ。
 あ、もしかして!?
 桜井って会話に入れないとすぐに拗ねるタイプなのか?
【渉】「どうしたんだよ桜井? 機嫌悪そうな顔しちゃってさ?」
【明日香】「別に……いつもこんな顔だし」
【渉】「そんな顔してると可愛い顔が台無しだぜ?」
 ――しばらくの間があった。
 そして、桜井は俺の顔を思いっきり睨んだのだ。
 だから意味わかんねえって……。
 この後、俺たち3人は適当な会話をしながら昼休みを過ごした。
 戦歴を分析すると、俺と雪乃の会話を8としたら、桜井と直接言葉を交わしたのは2ってとこだな。
 この数字が多いか少ないのかは、俺にはよくわからん。
 まあ、とにかくいつもよりは話せたな。


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