第1章003_01
 食い物センサーオン!!
 現在教室で飯食ってるやつらで俺になんか恵んでくれそうな神サマは……?
 誰だ、誰なら俺にくれる?
 そんな心優しい女神サマは……桜井!
 ……はないな。
 桜井が俺に食べ物を恵んでくれるわけないな。
 いや、微妙かもしれん。
 いやいや、やっぱ無理かも。
 ここはダメもとで……ダメなままってオチがありそうだな。
 あっ、桜井と飯食ってる雪乃なら恵んでくれるかも……。
 俺は営業スマイルを浮かべながら雪乃のもとに向かった。
【渉】「よっ、雪乃サマ」
【雪乃】「あら、麻生君。食べ物ならあげないわよ」
 ぐはっ!!
 いきなりの攻撃かよ!
【渉】「なんで俺の目的を見破ってんだよ!」
【雪乃】「だって、さっき大きな声で叫んでたじゃない」
【明日香】「……ばか」
 ぐわっ!
 桜井からも攻撃かよ!
 そうさ、どーせ俺はバカでマヌケで救いようのないドジさ……。
 でもさ、一言だけ言わせてくれ!
【渉】「食べ物を恵んでくれ」
 俺は雪乃の弁当に入っているエビフライを凝視しながら言った。
 すると、雪乃はすぐにエビフライを箸で挟んで俺の口元に……。
【雪乃】「渉クン、あ〜んして、あ〜ん」
【渉】「あ〜ん」
 な、なんと、俺の口に入る寸前のエビフライが急ターンした。
【雪乃】「なんちゃって」
 パクッとエビフライは雪乃のお口の中へ……。
 ひ、ひどい……弄ばれた。
【渉】「性格悪いぞ」
【雪乃】「あら、そう」
 雪乃は笑って済ませた。
 ダメだ、雪乃は俺に食べもんをくれる気ナッシングだな。
 となると……桜井か。
【渉】「桜井……くれ」
【雪乃】「あらら、昼間から明日香をくれだなんて……えっちだわ」
【明日香】「……不潔」
【渉】「っておまえらどーいう思考回路してんだよ! 俺は桜井に食べ物をくれって言ってんだよ」
【明日香】「ヤダ」
 即答!
 反撃を無効化するような即答攻撃。
 だが、ここはあえて反撃で食い下がるぞ。
【渉】「そこをなんとかさ。だってよ、桜井ってコンビニで買ったサンドイッチとサラダじゃん。サンドイッチなんか分けやすいと思うんだよなぁ」
【明日香】「ヤダって言ってるでしょ、麻生って耳悪いの?」
【渉】「サンドイッチひとつでいいからさ」
【明日香】「イ〜ヤ!」
【渉】「ハム一切れ!」
【明日香】「しつこい男ってキライ!」
 ぐわぁっん!!
 好感度が下がったな……。
 俺としたことがなんたる失態。
 もうダメだ。
 いろんな意味でダメで、俺は床に手を付いて項垂れた。
【雪乃】「明日香の一言が胸に刺さったのかしら。しょうがないわね、可哀想な麻生君にエビフライ一本恵んであげようかしら」
【渉】「マジですか雪乃サマ!?」
 俺は勢いよく立ち上がってキラキラ光る瞳で雪乃を見つめた。
【雪乃】「渉クン、あ〜んして、あ〜ん」
【渉】「そうやって、また俺のことを騙すつもりじゃないだろうな!」
【雪乃】「そんなこと言ってるとあげないわよ」
【渉】「疑った俺が悪かったです、快くご馳走になります」
 って言ってる先からエビフライが雪乃のお口へ!!
【渉】「テメェ!」
 そうはさせるか!
 そのエビフライは俺のもんだ!
 どうにかして雪乃の口に入る前に俺の口へ!
 俺は雪乃の口に向かっているエビフライに向かって食いついた。
 ……目を丸くする雪乃。
 そこ横では明日香も口をポカンと開けて、俺も驚いた表情をした。
 エビフライには食らい付くことには成功したが……この唇に伝わる柔らかい感触は……!?
【渉】「あぁぁぁぁぁっ!!」
 俺は慌てて雪乃の唇から自分の唇を離した。
【渉】「ご、ご、ご、ごめん! ワザとじゃないんだ、不可抗力っていうか、物弾みっていうか、偶然っていうか……」
【明日香】「麻生のえっち、ばか、不潔、死ね!」
 ……桜井からの罵声もよく耳に入らないほど俺はパニクっていた。
 事故とはいえ、俺は雪乃とキスをしてしまったのだ。
 しかも、二人がエビフライをくわえたままという微妙なシチエーションで。
【渉】「だからね、ちょっと触れただけだから……。別に狙ってやったわけじゃないしさ。とにかくごめん」
【雪乃】「いいのよ、そんなに謝らなくても、事故なんだし」
 雪乃は何事もなかったようにお澄まし顔で微笑んでいた。
 その笑みの奥では腸煮えくり返ってるんですか、もしかして!?
 これから夜道は背中に気をつけた方がいいでしょうか?
 確か雪乃って神社の娘だったと思ったんですけど、呪とかかけられちゃうんでしょうか?
 つーか、殺される?
【渉】「ごめん、怒らないでくれ、呪わないでくれ、殺さないでくれ」
【雪乃】「大丈夫よ、怒ってなんかないから。それに麻生君とキスするの2度目だし」
【渉】「なんですとーっ!?」
 この発言には横にいた桜井も開いた口が塞がらない様子だった。
【雪乃】「あら、覚えてないの? 私のファーストキスの相手は麻生君なんだけどなぁ」
 知りません、覚えてません、記憶に御座いません!
【渉】「ジョーダンだよな?」
【雪乃】「まあ、物心付く前だからキスの数に入れなくてもいいけど」
【渉】「いつどこで、どのようなシチエーションで俺たちキスしたんだよ!」
【雪乃】「神社の境内で麻生君の方からキスしてきて、大きくなったら結婚しようってね。小さい頃のいい想い出ってやつかしらね」
 ……いや、全く記憶にないんですけど。
 そう、雪乃と俺は幼馴染で、俺が引っ越しをして離れ離れになったわけだが、高校である意味運命的再開。
 雪乃との小さい頃の思い出って、なぜだか記憶が抜け落ちてるところが多くて……。
【渉】「マジでそんな約束したのかよ?」
【雪乃】「ええ、したわ。でも、小さい頃のそんな約束なんてジョーダンみたいなものだから、気にすることでもないわね」
【渉】「そ、そうだよな」
【明日香】「でも、今の雪乃とのキスは時効になんないかんね」
【渉】「あれは事故だって。な、雪乃?」
【雪乃】「あら、ワザとだと思った」
【明日香】「サイテー」
【渉】「いや、違うから。そんな冗談いらないから、雪乃も俺のことからかうのよしてくれよ」
【雪乃】「からかってなんかないわ。だって、あの時……麻生君ったら、私の口の中に舌を……」
【明日香】「不潔、不潔、不潔、麻生死ね!」
 ショック!
 無罪の罪でショック!
 桜井にマジで死ねとか言われたし……。
 もう立ち直れねえ。
 ……ふっ。
 俺はズタボロに傷ついた胸を労わりながら自分の席に戻った。
 そして、机に突っ伏して泣いた。
 俺って青春!


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