過去の伝説
 世界に文明が色付きはじめた頃であった――。
 燦然と夜空に輝く尾を引く星に乗って、世界に災いをもたらす者がこの世界に舞い降りた。
 星に乗ってきた災いは、自らを大魔王カオスと名乗り、この世界に侵略戦争を仕掛けてきた。
 世界は大魔王カオスによって暗黒の渦に飲み込まれようとしていた。その大魔王カオスに戦いを挑んだ国があった。
 大魔王カオスが現れる前まで戦争をしていたランバード王国とシオゥル帝国は一時休戦の条約に調印し、力を合わせ大魔王カオスに戦いを挑んだのだが、大魔王の力は強大であり人々は長い戦いの間に心身ともに傷ついていった。
 多くの命が失われ、人々の劣勢は明らかであった。
 ――大魔王との戦いは数十年もの長い年月を経てもなおも続き、人々は大魔王の侵略に立ち向かう術を徐々に失しない、魔王の配下である魔物の恐怖に脅える日々を過ごしていた。それでも、人々は希望を捨てることはなかった。
 当時ランバードの第一王子であったアベルは国王の反対を押し切り、戦場に自らの軍隊を率いて最前線で戦い、多くの戦果挙げて魔王軍を恐れさせた。人々はそんな彼のことを救世主と崇め称えたのだった。
 そして、アベル・ランバード二五回目の合戦の時、彼は魔王軍四天王の暗黒騎士ヤクシャと一戦を交えることになった。
 アベルとヤクシャの戦いは三日三晩の間続き、最後はアベルの渾身の一撃により、ヤクシャは息の根を引き取った。
 しかし、ヤクシャの振るう暗黒剣で負わされた傷口は神官の回復魔法でも塞がらぬ呪いの剣技によるもので、傷が深まらぬように現状を維持することで精一杯だった。
 そして、アベルは戦いの後、出血多量で意識を失い死の淵を彷徨った。
 アベルが倒れたという痛手は戦力の大幅な減少を意味し、アベルの率いた軍隊は大魔王軍による猛攻撃に遭い、已む無く軍隊を引き上げることとなった。
 死の淵を彷徨っていたアベルの魂魄は、聖天使アルティエルの導きによって一命を救われ、再び現世に戻された。
 その際、アルティエルはアベルの魂魄を現世に戻すのと代わりにアベルに条件を出した。
 その条件とは世界各地に未だ眠る英雄の力を持った五人を探し出しなさいということだった。
 再び生を得たアベルは世界各地を旅して、一年という月日を経てついに五人の英雄を探し出すことができた。
 そして、アベルとアルティエルを加えた七人の英雄はアルティエルの守護のもと魔王軍を次々と倒していき、ついに大魔王カオスとの死闘を迎えることになったのだ。
 しかし、大魔王の力の前では英雄たちの力など取るに足らないものであった。
 そこで七英雄の一人、天才発明家ダイダロスはパンドラボックスという邪悪なモノを封じ込めることのできる箱を発明し、大魔王カオスをこの箱に閉じ込めることを考案した。
 七英雄は大魔王との死闘の末、見事大魔王カオスをパンドラボックスに閉じ込めることに成功した……かのように思えたのだが、パンドラボックスに閉じ込められたのは大魔王カオスの肉体だけで魂魄はこの世界に残ってしまった。
 アベルと聖天使アルティエルは自らの命を投げ出し最後の力を振り絞り、大魔王カオスを倒そうとしたのだが、負けじと大魔王も最後の力を振り絞りそれに抵抗した。
 そのため聖と魔の強大な力がぶつかり合い時空を歪め、大魔王カオスは聖天使アルティエルを道連れに時空の彼方へと飛ばされてしまった。
 ……これによって長い戦いは終結を迎えた。
 しかし、この戦いでアベルはその命を落とし、人々は七英雄と聖天使アルティエルを称え、そしてアベルの死を悲しんだ。
 君主を失った大魔王の配下であったモンスターや悪魔たちは忽然とその姿を消してしまい、多くの人々が安息の日々を迎える時代が来た。
 そして、月日は流れ――今ここに新たな伝説が初まりを迎えようとしていた。


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