闇の鼓動
 アルティエル暦一〇一八年ランバード王国――。
 ランバード王国では早朝から国全体が騒がしく、兵士たちの活気で満ち満ちていた。
「バーンズ軍団長、出陣の準備は整ったか?」
「はっ、準備は整いいつでも出陣できます」
ランバード王の言葉にこう答えたのは恰幅のガッシリしていることが鎧に上からでもわかる今年四十六歳を迎えた、この国切っての剣の使い手バーンズ軍団長その人である。
 兵たちは馬の手綱をしっかりと握り締めいつでも出陣の準備は整っている。ランバード王はそれに満足した。
「そうかでは、兵士たちに出兵を伝えよ」
「しかし、ランバード王、王自らが出陣するなど……」
バーンズ軍団長は言葉を途中で詰まらせた。
「お主の言いたいことはわかる、しかし、王が城に引きこもっていては兵士に示しが付かん。命の重さは兵も王も変わらぬ」
王のこの平等の精神は国民全員に伝わっており、そのことにより王は国民の絶大の信頼と信望を集めていた。
「しかし……」
バーンズ軍団長はまたも言葉を詰まらせた。バーンズも王の考えはわかっている、わかっているからこそ今までこのお方に長年仕えてきたのだ。
 王は前国王が早くに亡くなったため王に即位するのが早かった。そのため王は今年でまだ二〇歳になられたばかり、それに今は……。
「戦いではつねに先陣を切ることでこそ英雄アベルの血を引し、我がランバード家のつとめだ」
「しかし、今はセリス様の御出産を間近に控えた大事な時期、やはり王は城に留まれた方がよろしいのでは?」
バーンズはついに自分の気持ちを言葉として紡ぎ出した。
「もう、何も言うな」
「はっ……」
王の言葉にバーンズはこれ以降何も言わなかった。言わなかったのではない、言えなかったのだ。
 王は天を仰ぎ、一呼吸を付くと、馬の手綱を強く握り締め馬に合図送った。
「さぁ、いざ行かん!!」
王の掛け声とともに軍勢が一歩一歩大地を踏みしめ歩き出した。多くの軍勢が動き出す様は圧巻としか言いようがない。
 こうして、王とその率いる軍隊は不死皇帝との戦に出陣して行ったのだ。

 この世界には二大国家と呼ばれる強大な力を持つランバード王国とシオゥル帝国という国があった。
 両国は聖戦と呼ばれる大魔王カオスとの戦争以前には、血で血を洗う戦争をしていたものの聖戦が始まってすぐに二つの国は条約を結び連合軍として大魔王カオスと戦ったのだった。
 しかし、大魔王の力は強大であり、シオゥル帝国は滅亡の一途を辿ってしまった。
 そして、聖戦が終わった後も帝国は再建されることなく、その名前を歴史に残すのみとなったのだが――。今から三〇〇年ほど前突如現れた不死皇帝と名乗る男がシオゥル帝国を復活させたのだ。
 そしてまたシオゥル帝国は聖戦以前のような侵略戦争を始めたのだった。
 しかし、以前の帝国と変わっていたことがある。それは国が死んでいるということ、言葉を言い変えるならば亡霊やアンデッドの住む国なのだ。この亡霊たちは過去の聖戦により死んで逝った者たちだと言われている。
 アンデッドはまだしも亡霊たちは普通の攻撃では死なない、そのため魔法などで倒していくのだが、倒しても倒してきりが無い、なぜなら不死皇帝との戦いで死んで逝った見方の兵士たちはすぐにアンデッドや亡霊に姿を変え、不死皇帝の配下となってしまうからだ。
 不死皇帝はその名の通り死の無い皇帝で切り刻れようが、炎で焼かれようが再び現世に蘇ってくる。
 そのため不死皇帝の侵略戦争は着々と世界を制圧していったのだが、しかし、不死皇帝の軍にも弱点があった。
 その弱点とはある一定の範囲から外には軍は攻め入ってこないということだった。その弱点を利用して人々は範囲外に逃げるように移住していった。
 しかし、不死皇帝の軍は年々範囲外にもその魔の手を伸ばして来ている。いや、範囲が広がっているのに違いない、不死皇帝の力が月日をおうごとに強くなっているということなのだろう。
 そして今その魔の手がランバード王国に伸びようとしていた。

 ランバード王率いる軍がこの場所に辿り着いたのは城を出て三日目の晩のことであった。
 もう辺りは暗闇に包まれ大地を照らす月の光を身体全身で感じることができた
 緑溢れる草原がどこまでも広がっている。近くに建物や民家もなく戦争をするにはもってこいの場所だった。
 この平原はかつて大魔王カオスと七英雄との最後の戦いで、山や谷だった場所がまっ平らな平地となったと伝説では言われている。
 王はここで不死皇帝の軍隊を向かえ打つことにした。
 突然冷たい風が辺りを吹き荒れたかと思うと、チリン、チリンという小さな鈴の音が……?
「バーンズ軍隊長、神官たちに呪文の詠唱を始めるように伝えろ!」
王の声からは緊張と緊迫が感じられた。
「はっ」
バーンズは手短に敬礼をして、すぐに神官部隊に聖魔法の詠唱をするように指示をした。
「神官部隊、呪文詠唱始め!!」
神官たちは手にもったロッドを両手で天に掲げ、一斉に呪文の詠唱を始めた。すると、また鈴の音が――今度は先ほどより音が大きくなっている。
「来たか……」
そう呟いた王の目線の先には、青白い炎が暗闇の中にぽつん、そしてまたぽつんと、徐々に増えていった。青白い光と月の光によって、暗闇の先にあるモノがはっきりと見えてきた。アンデッド兵だ!
「打てぇー!!」
王の張り上げた声と同時に神官たちの身体から光のレーザーがアンデッド兵めがけて発射された。轟音とともに辺りに砂煙が立ち込める。しかし、砂煙の向こうからはまた鈴の音が――。
「し、死の行進だ!!」
誰かが叫び声を上げた。兵士たちがこれを合図に一斉にざわめき始めた。
「静まれぇーっ!!」
バーンズ軍団長の怒号が辺りを静まり返した。そしてすぐに言葉を続けた。
「神官は魔法の詠唱をすぐの始め、剣士はアンデッド兵を向かい打つ準備をしろっ!!」
兵士たちはすぐさま攻撃の準備をした。そして、徐々に砂煙が治まっていき向こう側が見えてきた。そこにはアンデッド兵が何事も無かったように仲間のアンデッドの残骸を踏みつけながらこちらに攻め入って来るではないか!
「打てぇー、打て、打てぇい!!」
王の声が木霊すると同時に次々とアンデッドたちが残骸と化していく。しかし、アンデッド兵たちは次から次へと行進してくる、それも足音も立てずに――。聞こえて来る音は兵士の足並みに揃えた鈴の音だけであった。これが人々の間で噂として恐れられる『死の行進』だ。
「……くっ」
王は唇を噛み締め、そしてバーンズにこう告げた。
「バーンズ軍団長、死の行進は不死皇帝を倒さぬ限り続くと聞いた……あとはまかせたぞ!」
そう言ってランバード王はアンデッド兵に一人立ち向かって行った。
「王に続けぇー!!」
バーンズ軍団長の声を合図にランバード兵とアンデッド兵が一斉に敵に向かって走り出した。そして、瞬く間に激しい殺し合いが始まった。
 ランバード王はアンデッド兵を次々になぎ倒していき、ついには不死皇帝の前まで辿り付くことができた。
「よくここまで来た、褒めて使わそうぞ」
ランバード王が顔を上げるとそこには巨大な身体にボロボロのローブを纏っている不死皇帝が宙に浮かんでいた。不死皇帝の身体はもう骨しか残っておらず、腰から下の骨はもう無く、頭には二本の角、額には赤い宝石が埋め込まれていて、目の奥から赤くゆらめく光がランバードを見つめていた。
 ランバード王は剣の切っ先を不死皇帝に向けた。
「アベルの血に架けてお前を成敗する」
「面白い、さぁ私を楽しませてくれ」
「ウォーっ!!」
ランバードは大地を強く蹴り不死皇帝めがけて飛翔した。
「受けてみよ我が秘剣」
ランバードの持っていた剣が激しい光を放った。その光はランバード兵たち、そしてバーンズの目にも届いた。
「……ランバード王」
バーンズはそう呟くと再び剣を構えアンデッド兵に向かって行った。
 ランバードは大剣を強く握り締め直し、不死皇帝の頭上めがけて振り下ろした。
「その程度の攻撃片手で十分ぞ」
不死皇帝は右手を挙げ、まるでハエでも追い払うかのようにランバードを手の甲で軽く叩いた。ランバードの身体は宙を舞い地面に激しく叩きつけられた。
「うぐっ……」
ランバードが不意に手を口やると、手は紅い血で見る見る染まっていった。
「英雄アベルの血も大したことの無い」
「それはどうかな?」
ランバードは剣を地面に突き立てながらよろめきゆっくりと立ち上がった。そして不死皇帝に向かってこう言った。
「自分の右手を見てみろ」
「何?」
不死皇帝が右手を挙げて自分の顔の前まで持ってくると、あるはずの右手が無い。いや右手だけではなく、指の先から肩の付け根までが消滅してしまっていた。
「気づいたか?」
「いつの間に!?」
「お前の弱点は骸骨であることだ。痛覚がないため相手の攻撃がどの程度の力を持っているのかわからんのだろう」
「……あの時の攻撃がこれほどのものだったとは、アベルの血は凄まじいものだ。しかしその身体では」
不死皇帝は言葉の途中でいきなり襲い掛かって来た!
「ふっ、莫迦めが!」
ランバードは輝く大剣を力いっぱい横に振り払った。
「何!?」
不死皇帝の身体は二つに分かれ、そこに空かさずランバードは大剣を下から上に振り上げた。不死皇帝の身体は粉々の砂と化し、また動き出すことはなかった。
 アンデッド兵の動きが一斉に止まった。
「ふぅ……回復呪文ぐらい使える」
ランバードは一息を付き辺りを見回した。するとそこには目を覆いたくなる悲惨な光景が広がっていた。
「……!!」
ランバードは言葉を失った。自分が不死皇帝との戦いにだけ集中していた間にこんな事が……! 辺りに広がる光景は紅い血の海と肉塊と残骸でできた島……。
「うわぁーーーーっ!!」
ランバードは血の海に膝を付き腹の底から大声を出した。今まで幾つもの戦を経験してきた、しかしこんなおぞましい光景は初めてだ。
 ランバードは意外にもすぐに立ち上がった。まだ生きている仲間を早く見つけ出さなくては――。
 彼は生きている仲間を探し続けた、そして数人であったが生存者を見つけ出すことができた。しかし、ランバードが一番会いたい、せめて亡骸だけでも探し出したい人物は一向に見つからなかった。
 ランバードはそろそろ帰還命令を出そうと諦めたそのとき微かだが聞きなれた声が聞こえた。
「ラン…バ…お……」
「バーンズか! どこだ?」
「ラン……ド…う」
肉塊の中から声が聞こえる。
「ここか、ここにいるんだな」
ランバードは死骸を無我夢中で掻き分け、やっとの思いでバーンズを見つけ出した。
「ランバード王、よくぞご無事で」
「お前こそ、よく無事であった……ん? もしかしてお前」
「戦いの途中、目をやられてしまいました。しかし、ランバード王の気配は見えなくともすぐにわかりました」
ランバード王は涙を流し天に感謝の意を込めた。そして、
「さぁ帰ろう、みんなが待っている」
 結局、生存者は一〇〇人ほど見つかったのだが、最初にここに来た時の数に比べると一/一〇〇程度に減少してしまっていた。見つかった生存者たちは皆重症であったが生き残った神官やランバードの回復呪文により傷を癒やし元気を取り戻すことができた。しかし、バーンズの目だけは元に戻らなかった。
「やはり並の回復呪文では駄目か……だが、城に戻ればきっと良くなる、それまでの辛抱だ」
 そして、ランバード王たちはようやく帰路につき始めた……。

 ランバード王宮では、王が旅立ってすぐにセリス王妃の陣痛が始まり、無事元気な男の子が生まれていた。
 そして次の日、ランバード城内にある宮殿では、生まれたばかりの王子が王妃に抱かれ、多くの人が集まる中神聖な儀式を執り行おうとしていた。
 白ひげに白髪の老人の水読み士と呼ばれる神官が人々の前に姿を現し軽く会釈をした。
「おほん、あーそれではこれから命名の儀を始める」
『命名の儀』とは王家に子供が生まれた時にその名前を決めるとても重要かつ神聖な儀式である。
 水読み士の老人は水鏡に銀の水差しで聖水を注ぎ入れると呪文を唱え始めた。
「Ykes wn nknk yNRPA」
水鏡は優しい光を解き放ち、辺りは白の世界に包まれた。そして、世界が元の色に戻ると水鏡の中にある名前が映し出された。『エノク』という文字が――。
 それを見取った水読み士は声高らかにその名を読み上げた。
「神のお告げにより名が決まった、王子の名はエノクじゃ!!」
ここに集まっていた人々から喜びの歓声が上がった。
「宴だ! 宴だ!」
人々は王子の誕生と王の帰還の宴の準備をして、王の帰還をまだか、まだかと待ちわびた。
 そして王が旅立って五日目の夜を迎えた。夜空は満天の星が空いっぱいに散らばり、瞬き輝いている。今宵の月はちょうど満月であった。
 王妃は王の帰りを今か今かとテラスに出て満天の星空に思いを募らせていた。そんな時、空に輝く一筋の光が、そしてまた、そしてまた、幾つも幾つもの光の筋が――。
 これは流星群に違いないと王妃は思った。話には聞いていたけれど、この目で見たのは初めて……王妃は急いで流れる星たちに願いを込めた。
「どうか……皆が無事に帰って来ますように」

 同じ時間、ランバード王もこの流星群を見ていた。
「バーンズ、凄いぞ。こんなのを見たの……」
ランバードは言葉を詰まらせた。それを察したバーンズは、
「私の分までその目にしかと焼き付けて下さい」
「すまぬな」
 ランバードがうつむいていると兵士たちがざわめき出した。
「おい、あれを見ろ!」
兵士の一人が大声を上げた。ランバードはその兵士が指差す方向を見た。そこには、他の流れ星より一層輝く流れ星が。
「…………っ」
ランバードは驚きの余り息を呑んだ。それは流れ星の輝きではない、その大きさに――いや違う、大きいのではない、近いのだ。
「ここに落ちてくるのではないだろうな?」
次の瞬間流れ星はもう地上と一〇メートルほどの距離のところにあった。しかし、それ以上は落ちてこなかった。
「どういうことだ……?」
流れ星の光は徐々に治まっていき、ランバードやその他ここにいた兵士はすぐにわかった。――これは流れ星じゃない。
「な、何なんだあれは?」
兵士の一人が言った。そしてもう一人の兵士は、
「星の海に浮かぶ船」
形は海を行き来する船とは違い、金属らしい鉱物できた見たこともない形をしているが、宇宙から飛んできたことには間違いはなさそうだ。
 ランバードはある文献で読んだ記憶を呼び起こした。
「……星の船?」
古の時代、人々は星の船に乗って、星々を行き来していたという。実際にこの星にはいろいろな亜人たちがおり、それらの人々は違う星から来たという説もある。
「これは『星の船』に違いない」
「さすがはアベルの末裔、博識だな」
重厚感、そして威圧感のある声がどこからともなく聞こえてきた。
「どこだ、出て来い!」
ランバードは辺りを見回した。すると、星の船の扉らしきものが開き、中から赤黒い煙が出てきて、それはまるで生きているかのような奇怪な動きをしながら形を作っていった。やがてその煙は邪神と呼ぶにふさわしいおぞましい顔の形を作った。
「アベルの末裔、逢えて光栄だ」
「キサマ何者だ!」
ランバードは身を乗り出し大声を出した。バーンズはただならぬ邪気を感じランバード王を自分の後ろにすぐさま押し込んだ。
「ランバード王、こやつ並のモンスターなど足元にも及ばない邪気の持ち主、お気を付け下さい」
「当たり前だ。我が名は大魔王カオスなり」
「まさか……!」
ランバードは自分の耳を疑った。そしてこの名前を聞いた数名の兵士が恐怖のあまり我を忘れて発狂しながら、走り出した。
「うるさい!」
カオスの重い声がするとともに発狂した兵士の身体は黒い炎に包まれていた火に包まれた兵士は
「ははは、あはははは……」
と笑い狂気の顔をしたまま死んで逝った。
「許さん!」
ランバードはカオスに向かって斬りかかった。
「ランバード王助太刀します!」
ここにいた全ての者がランバードの後に続いた。しかし、結果は悲惨なものであった。兵士たちは黒い炎に焼かれ次々に死んでいった。
 剣を地面に付き、顔を曇らせながらも鋭い眼光で大魔王カオスを睨みつけるランバードは、そのまま目線を外さずにバーンズに声をかけた。
「バーンズ無事か?」
「はい、何とか……」
「どうやら私たち二人だけになってしまったようだ」
さっきまで一〇〇名ほどいた兵士もたった数秒いや一瞬の間に皆殺されてしまった。
 邪悪な笑みを浮かべる大魔王カオスは突然取引を持ちかけてきた。
「大魔王カオスに刃向かうなど無謀だ、我と取引をせぬか?」
「取引だと?」
「ランバード王、耳を傾けてはなりません」
「わかっている!」
「まぁ、そんなことを言うな。我は我が肉体を取り戻すためこの世界に再び舞い降りた。鍵はどこだ? 渡せば命を助けてやっても良いぞ」
「鍵など知らん」
「惚けても無駄だ、鍵はランバード王家の王が代々守ると聞いているが?」
「鍵を探すなら私を倒してからだぁーーーっ!!」
ランバード王は魔王に再び斬りかかった。
「ランバード王!!」
バーンズの静止にも耳を傾けずランバードは大剣を振りかざした。
 大魔王カオスはそんなランバードのことをせせら笑った。
「ハハハ、ならば死ぬが良い」
カオスの顔を模っていた煙はたちまちカオスの手の形に変わりランバードを八つ裂きにしようとした。
「くっ……駄目か」
ランバードが死の覚悟をした瞬間、彼はバーンズに突き飛ばされた。それによってランバードは一命を取り留めたのだがバーンズの身体は八つ裂きにされ、ランバードが駆け寄った時には血だらけでもう息をしていなかった。
「よくも……よくも、バーンズ……くそぉーーーっ!!!」
ランバードはバーンズを抱きかかえ歯を食いしばった。
「鍵のありかを話す気になったか?」
「キサマに鍵は渡さん、鍵を渡せば多くの命が奪われる」
「そうか仕方ない。では……死ねぇー!」
狂気の相をしたカオスの顔がランバードに襲い掛かる。
「死ぬのはキサマだ……」
ランバードはバーンズをゆっくりと地面に下ろし、カオスを睨み付けた。
 そして、大剣を構えると全エネルギーを大剣に集中させた。すると、ランバードの身体は黄金のオーラに包まれ、剣もまた黄金の輝きを放っていた。その光によってカオスは一瞬怯んだ。
「まさか、まさかその輝きは!? アベル!!」
「滅びよカオス!!」
ランバードの剣はカオスを捕らえた。
「我は煙なり、剣ごときで……何!?」
剣から放たれる黄金の光によってカオスの顔を形作っていた赤黒い煙が徐々に消滅していく。
「ぎゃぁぁぁーーーっ!!!」
煙はカオスの断末魔の悲鳴と共に完全に消えた。
「終わったのか?」
「少し油断したが次は本気でいく」
ランバードは星の船の方を振り向いた。何とそこにはあの煙が!
「ふははは、あの程度の攻撃で死んだとでも思ったか?」
煙は星の船から止まることなく大量に出てきた。そしてついに全ての煙が出きったときその煙が形作ったモノは?
「……これが大魔王カオス」
大魔王カオスの全身は余りにも巨大なものであった。その全長は約四〇メートルほどでこの大きさはキングドラゴンに匹敵する大きさだ。
「鍵はどこだ……と言いたいところだがどうやらお前は持っていないらしい」
「何故わかる?」
ランバードは首をめいいっぱい上に曲げてカオスに問いただした。
「おまえからはあの忌々しい箱の波動は感じられん、戦ってよくわかった。おまえが持っていないということは城だな」
「知らん」
「まぁ良いおまえを八つ裂きにしたあとにゆっくりと探させてもらうとしよう」
カオスの鋭い爪がまるで生きているかのように伸び、ランバードに襲い掛かる。ランバードは剣で応戦するが計八本の爪相手ではさすがのランバードでも苦戦を強いられる。
「我は遊んでいるにすぎんぞ」
「じゃあこっちも遊びだ」
「そんな強がりをどのくらい言っていられるか」
「キサマを殺すまでだ!」
カオスの爪は容赦なく襲い掛かる、蛇のようにくねくねと曲がりながら四方八方から攻撃をしてくる。
 ランバードの身体は徐々に傷つけられていき、着ている甲冑などとうの昔に砕かれ、今では着ている服が血で真っ赤に染まっている
 そんなランバードを見ながらカオスは不敵な笑みを浮かべまるで楽しんでいるとしか思えない。
 ランバードの身体は突き刺され、足を突き刺され、腕を突き刺され、腹を突き刺され、
「これで終わりだ……」
カオスに低い声とともにランバードの胸に鋭い爪が突き刺さった。
「ぐふっ……げほっ」
ランバードの口から大量の血が大地に零れた。瞳は虚ろでもう人形のようになってしまった。
 肩の力、全身の力が抜け人形の瞳から涙が、涙が零れ落ちた。
「……セリス」
爪が身体から抜かれ、彼の身体はまるで糸の切れた操り人形のように地面に崩れ落ちた。しかし、彼は剣を決して手放そうとはしなかった、英雄アベルの血を引く者の誇りとして――。


アルティエル戦記専用掲示板【別窓】
■ サイトトップ > ノベル > アルティエル戦記 > 闇の鼓動 ▲ページトップ