第14話_ガイアストーン発見に涙?
「これがガイアストーンか(なんがスゲエ)」
 自然の物理法則ではありえない。その全長はヒイロの背よりも高く、二メートル半くらいだろうか。菱形をした半透明の物質が地面に立ち、煌く粒子を霧のように撒き散らしながら回転している。
 ヒイロたちは大空洞をあとにし、入り組んだ迷路のような洞窟を進み、別の大きな空洞でガイアストーンをついに見つけたのだった。
 呆然と立ち尽くすヒイロを押しのけ、華那汰が惹かれるようにしてガイアストーンに触れた。
 手を通して流れ来るエネルギーは、華那汰の心を揺さぶり、大きな力を前に華那汰は怯えるように手を離してしまった。
「な、なに、よくわからないけど、力があたしの身体に流れ込んできて……(そのあと、またエネルギーが吸い取られるような)」
 後ろによろめきながら華那汰は地面にへたり込んでしまった。
「なにも心配はいらないわ(……たぶん)」
 ミサはまったく畏れたふうもなく、そっとガイアストーンに触れた。
 大量のエネルギーが弾丸のように連続して身体に流れ込んでくる。少し口元を苦しいものに変えながらも、ミサは引くことなくガイアストーンに触れ続けた。
 ミサの脚が微かに崩れた。
 体内のエネルギーが吸われる。
 その間にも、ガイアストーンから攻撃のようなエネルギーが身体の中に飛び込んでくる。
 地面が地響きを立てながら揺れた。
 砂埃とともに、小さな岩の破片が天井から剥がれ落ちて来る。
 エネルギー波は風となり、ミサのスカートや髪を大きく揺らす。
 ――二つのイメージ。
 靄のかかったような二つのイメージがミサの脳裏に浮かぶ。それは可能性だった。クラスチェンジの可能性。
「(……マジシャン……クレリック……)」
 突如ミサの身体が激しい閃光を放った。
 視界は白い輝きに奪われ、目を閉じても白い残像が残る。
 ゆっくりと華那汰が目を開けると、そこにはガイアストーンから手を離し、立ち尽くしているミサの姿があった。
 見た目ではなにも変わったように見えない。ミサは前のミサとなんの変化していないように思える。クラスチェンジは失敗してしまったのだろうか?
「華ちゃん、次はあなたの番よ」
 ミサは今まで以上に妖しく微笑み、なにかを考えるよう口元に手を当てて華那汰たちに背を向けた。後姿が妖しく震えている。こ、怖い。
「次は俺様の番だろ!」
 今までずーっと物陰に身を潜めていたヒイロが飛び出してきた。
「俺様、俺様、次は俺様が強くなる番だ!」
「あたしの番って月詠先輩が言ったんだから、あたしがやる!(なんかこいつに先越されるのヤダ)」
 二人はもみ合いになり、ヒイロの手が伸びる、華那汰の拳が飛ぶ。
 モニュ♪
 華那汰フリーズ。
 伸ばされたヒイロの手は、華那汰の小さな胸の膨らみを鷲づかみにしていた。
「えっち、痴漢、変態!」
 ズゴーン!
 華那汰のグーパンチが飛んだ。
 嗚呼、三途の川が見える。
 ヒイロは頬が抉られ、吹っ飛んだ彼の身体は夜空の星となり、新たな星座が生まれたのだった。
 キラリーン♪
「ぐはっ……殴ることないだろ(貧乳は触ったうちに入らん)」
 地面に潰れた蛙のように這いつくばるヒイロの心の声が聞こえたら、今度は確実にこの世から滅殺させられていただろう。
 ガイアストーンの前に立った華那汰は、そのまま畏れることなく手でそっと触れた。
 流れ込んでくるエネルギーと、出て行くエネルギー。ミックスジュースみたいに、二つのエネルギーが混ざり合う瞬間だった。
 足元がふら付く。
 それを堪えた先で、地面が唸り声を上げ揺れた。
 華那汰の髪の毛がエネルギー波によって暴れ、ミニスカートが舞い上がりチラリン♪
 今日は純白だ。だが、喜ぶ男はここにはいない。ヒイロは息絶え絶えで地面に這いつくばっている。
 華那汰の脳裏に浮かぶイメージ。それは長く細い線。いくつもの線が交差するイメージ。まるでそれは路のようだった。
「(なんなの、この、頭に流れ込んでくる映像は……あみだくじ!?)」
 そう、それはあみだくじだった。しかし、なぜにあみだくじ?
 あみだくじのスタート地点は①番と②番の二つだけ。それは可能性。クラスチェンジの可能性だった。
 なんでも一番が好きな華那汰が選んだのはもちろん①番!
 眩い閃光が世界に拡散する。
 静まり返る白。
 やがて光は治まり、光の世界から生まれたように華那汰は立ち惚けてした。
 ミサ同様、華那汰にも見た目の変化はない。
 手のひらや、肘や腕、華那汰は自分の体中を見回したが、自分でもその変化を知ることはできなかった。
 気づくと音も無く気配も無く、華那汰の前に微笑むミサが立っていた。
「おめでとう、華ちゃんのクラスは〈子供は風の子〉レベル10よ」
「はいっ?(〈子供は風の子〉ていったいなに?)」
「もう一度言うわね、〈子供は風の子〉レベル10よ」
「だから、それってなんですか?」
 前のクラス〈爆走少女〉のほうがなんとなくわかりやすかった。
「そのクラスの特徴は風邪を引かないことよ(ふふ……他の特徴もあるけれど、それは自分で見つけたほうがいいかしらね)」
 風邪を引かないから〈子供は風の子〉。とってもわかりやすいクラスだ。
 唖然とする華那汰の後ろのほうで、なにかが微かに動いた。――地面に這いつくばるヒイロの手だった。
「こ、今度こそ、俺様の番だな(真打ちはやっぱ最後でカッコよく決めないとな)」
 爬虫類のように動いてヒイロはガイアストーンに近づいた。待ち望んだ瞬間にしてはカッコ悪い。
 ズタボロにされたプロレスラーのように、リングサイドに立つ仲間にターッチ!
 した瞬間だった。
 ガイアストーンにヒイロが触れた瞬間、彼の身体は宙を舞っていた。華那汰にさっき殴られたときよりも滞空時間が長い。
 ドスン!
 背中から地面に落ちたヒイロが咳き込む。
「げほげほっ、な、なんだよ!?」
 急いで立ち上がったヒイロは、今度はちゃんと立ってガイアストーンに触れようとした。
 ガイアストーンに手が迫った瞬間、バチバチッと冬場の静電気のようものが手に感じられた。それでもヒイロは手を引っ込めることなく、ガイアストーンに力強く触れた。
 ヒイロの髪の毛が逆立ち、大波に流されるようにヒイロは後退させられてしまった。ガイアストーンに嫌われた!?
 地面に尻餅を付くヒイロの横にはミサが静かに立っていた。
「やっぱりレベルが足らないのね」
「どういうことだよ?」
「ヒイロくんはレベルが低すぎてクラスチェンジができないのよ」
「そんなわけねえよ!」
「そんなわけあるわ。だってヒイロ君のレベル、〈アリ遣い〉レベル7だもの。クラスチェンジにはレベルが10必要らしいの」
 やっとの思いでたどり着いたガイアストーン。念願の想いが叶ってクラスチェンジができると思ったのに。人生の困難、挫折、希望。
 人生の荒波に揉まれ、呑まれ、沈みながら歩んできたヒイロの人生。再び大きな荒波が立ちはだかったのだ。
 ヒイロの瞳を曇らす心の汗。
「俺様は俺様は、絶対強くなるんだ! うぁ~ん!(大金持ちになってみんなを見返してやるんだーい!)」
 ショックを受けたヒイロは、心の汗をボトボト目から流しながら、この場を去っていった。後姿がとっても情けない。
 人生の荒波を乗り越えろヒイロ!
 お前ならできる……たぶん。

 つづく


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