第2話_少女「椛」
 学校からの帰り道、未空は同じクラスの月夜霊尊と一緒に歩いていた。
 未空と尊は仲のいい友達なのだが、二人は学校では一緒にいることが少なく二人が友達であることを知る者はあまりいない。
 二人で歩いている時も会話は特にない。本当に友達なのか疑ってしまいそうになるが、二人の関係はこうやって成り立っていた。
 尊が前方を指差した。そこにいたのは道路の上でうずくまっている小さな少女だった。そして、少女は千早と呼ばれる貫頭衣を着て、下には切袴と呼ばれる短めの袴を紅色に染めたものを穿いていた。――巫女装束である
「小さい子供だな。どうしたんだろうか?」
 尊のしゃべり方は少し男口調なところがある。
 二人が少女に近づくと、少女は肩をヒクヒクと揺らして泣いていた。少女の見た目は幼く、だいたい八歳くらいだろうか?
「どうしたんだ、迷子か?」
 尊が声をかけたが少女は何も言わずにただ身体を震わせながら泣いていた。
 少し困った表情をする尊と、無表情で何をするでもなくただ立っているだけの未空。
「泣いていては何もわからない。まずは立って話をしよう」
 少女は尊に言われるまま立ち上がりはしたが、その手は未だ目元に押さえつけられ、肩がヒクヒクと動いている。
「あ、あのね。……お兄ちゃんを探してたの……それで……見つからなくて……迷子になっちゃって」
 兄とはぐれて迷子になってしまった小さい女の子。――よくありそうな話だ。だが、未空の一言がそれを変えた。
「この子、人間じゃないかもしれない」
 尊が眉を潜め未空を見るが、尊はすぐに少女に視線を戻す。不思議な発言をした未空よりも人間でないと言われた少女の方が気になるのだ。
 少女は依然泣き止むことなく、そこに人間でないというレッテルを未空に貼られてしまった。普通は泣いている少女に『人間じゃない』なんて言わないし、そもそも人間ではないとはどういうことなのか? 幽霊か何かとでも未空は言いたいのか? 非科学的だ。
 もし、この少女が幽霊だと言うならば、よく話で聞くような触ろうとしても手が身体をすり抜けたりするのだろうか? いや、そんなことが起こるわけがない。
 尊は泣いている少女を慰めようとして身体に触れようとしたのだが、その時、驚くべき現象が起きてしまった。尊の手が少女の肩をすり抜けたのだ。
 不快な顔をして尊は未空の顔をゆっくりと見た。すると今度は未空がゆっくりと少女の肩に手を乗せた。するとどうだろう、今度はちゃんと少女の肩に手が乗ったではないか!? いったい何が起きたのか――手がすり抜けたのは幻だったのだろうか。
 未空は少女の顔を覗き込むようにして、やさしい笑顔で聞いた。
「名前はなんていうの?」
 泣いていた少女はゆっくりと目から手を離し上目遣いで、
「……椛(もみじ)」
 と言うとすぐに視線を落とした。
「あなたは何?」
「…………」
 未空の質問に少女は戸惑い視線を深く下げた。
 未空の質問はもちろん名前は聞いているのではない。名前ならもう聞いた――未空が尋ねているのは、人間ではない少女に対して何者であるかということだ。彼女は完全に少女が人間でないことを確信したのだ。
 少女は首を横に振る。
「……わからないの。椛はね、椛って名前とお兄ちゃんを探してたことしか覚えてないの」
 ただの迷子ではなく、記憶喪失でもあるらしい。しかも、未空は人間ではないと思っている。本格的にただ事ではないようだ。
 腕組みをする尊と、また何もせずにただ立っている未空。そして、再び泣き出した少女のもとにある人物が近づいてきた。
「どうしたんですか月夜霊さん、星川さん。この子泣いているみたいですけど?」
 この場に居合わせたのは買い物袋を両手に持った葵城悠樹だった。制服のまま夕食の材料を買って家に帰るところでちょうど未空たちと出くわしたのだ。
「この子記憶喪失みたいなんだ」
「それと人間じゃない」
 二人の言葉に悠樹は心底戸惑った。記憶喪失だというだけでも大事だと思うのに、未空の口からは確かに『人間じゃない』と聴こえた。
 目の前で泣いている少女を人間じゃないと紹介されたら普通は戸惑うし、悠樹はそういう話は信じない。目の前の少女が幽霊だと誰に言われても信じないし、超高性能ロボットだと言われてもきっと信じない。悠樹は一般的に認知しがたい事柄に関しては一切信用しないのだ。
「人間じゃないってどういうことでしょうか?」
「人間外の存在ってこと」
 こんなことを未空に言われても困るだけだ。悠樹は助けを求めるようにして尊に顔を向けた。
「月夜霊さんもそう思っているんですか?」
「未空がそう言うなら、そうなんだきっと……」
 二人にこう言われてはどうしょうもない。これが輝や武だったら強く反論できたかもしれない。しかし、この二人に対してはしなかった――輝や武以外には自分を押さえて接してしまうのだ。
 このままこうしていても仕方が無いので、悠樹はケータイで警察を呼び、この少女の身柄を引き取ってもらおうと考えた。
「ケータイで警察の方を呼びますから、この子の身柄を引き取ってもらいましょう」
 そう言って悠樹はケータイをポケットから取り出した。

 自宅近くにある本屋でマンガ雑誌を読んだりなどして時間を潰した輝は、自宅マンションへの道を自転車を漕いで急いだ。
 マンションに着いた輝は駐輪場に自転車を置き、階段を駆け上がる。輝の部屋は209号室である。
 自宅のドアを勢いよく開けて輝はダイニングのソファーまで走る。家に帰ったらソファーの上に寝転んで『疲れたぁ〜』と言うのが日課なのだ。
 が、しかし、輝の足は急に止まり、フローリングの床を勢いよく滑って、腹からズッコケた。
「痛ーっ!」
 叫び声を上げて床の上でうずくまる輝を物珍しい目で見る人たちと呆れ顔の悠樹。
「大丈夫か輝?」
 微妙に上から悠樹に見下されているように感じの輝は、バッと起き上がってソファーに座っていた三人の女の子に人差し指をバシッと突きつけた。
「何でいんの?」
 ソファーに座っていたのは未空と尊と輝の知らない少女――椛だった。
 なぜか輝は三人に向かって防御ポーズを取って明らかに取り乱していた。
「何で星川さんと月夜霊さんと……誰この子? ま、まさか悠樹、かわいいからって誘拐して来たのか!? ……ロリコンじゃないかなと前々から思っていたが、まさか少女誘拐なんて……」
 悠樹の手がすばやく動いた。
「アホだろおまえ」
 言葉と同時にバシッと輝の後頭部に悠樹の平手打ちが炸裂した。思わず輝はコケそうになる。
 そんな光景を見た椛はお腹を抱えて大きな口で笑い、未空と尊は学校では見たことのない悠樹に少し驚き戸惑いを覚えた。
 笑われてしまった輝は自分を殴った葵城に飛びかかったが、すんなり交わされてしまった。
 それを見てまた大笑いをする椛。
「あははは、このお兄ちゃんおもしろい!」
 再び笑われてしまった輝は笑っている少女を見て、最初の疑問を思い出した。
「だからこの子何?」
 そうなのだ、輝にとっては皆目見当もつかない、この少女はいったいどこの誰で何者なのか、もしかして……。
「もしかして本当に誘拐して来たのかっ!」
 勝手な想像でショックを受ける輝。再び動く悠樹のスナップを利かせた手。
「いてっ!」
「だから違うと言ってるだろう。この子は道端で迷子になっているところを月夜霊さんと星川さんに発見されて……」
「じゃあなんでウチにいんだよ?」
「たまたま通りかかった俺が警察に電話しようとしたら、星川さんがどうせ人間じゃないから警察に電話しても無駄だっていうから、仕方なく家が近かったウチに連れて来ることになったんだ」
 今の話を聞いてひとつだけ輝の頭に引っかかる言葉があった。
「……今、人間じゃないって言わなかったか?」
「星川さんが言うにはこの子は人間じゃないらしいんだが……」
 悠樹は信じていないが、未空に強く言われて尊にも説得されて仕方なく家に連れて来たのだ。
「この子人間じゃないの? ってことは超高性能アンドロイドか」
 そう言いながら輝は椛の腕を持って何度も上げ下げした。
「よくできてるなぁ〜、まるで人間みたいじゃん」
 輝は完全に椛のことをロボットだと認識した。
「やめてよ、椛はロボットじゃないもん」
 輝の腕を振り払った椛は顔を膨らませて、続いて未空が小さく呟いた。
「真堂くん、その子ロボットじゃないから乱暴に扱わないで」
「これアンドロイドじゃないの? じゃあ何?」
 質問された未空は何もかも見透かしてしまいそうな瞳で輝を見据えた。
「真堂くんは超自然的存在って信じる?」
「超自然的存在?」
「妖精とか精霊のことよ。この子もきっとそう」
「マジで!? すんげぇじゃん。小さい頃から妖怪とかと会ってみたかったんだよな」
 未空は妖精とか精霊という例えをしたのに、なぜか輝の頭の中では妖怪と認識された。妖精と妖怪ではイメージが違うと思うが?
「椛妖怪じゃないもん!」
 怒った椛は輝の胸の辺りを叩くが力が弱いので痛くも痒くもない。そんな椛も見ていると輝はどうしてもからかいたくなってくる。
「じゃあなんだよ?」
 そう言いながら輝は椛のほっぺたを両手でつまんで引っ張り戻したりして遊んでいる。輝は椛に相当な興味を惹かれたのだ。
「痛いからやめてよぉ」
「妖怪も痛覚があるのか、大発見だ」
「だから椛は妖怪じゃないもん」
「だから、じゃあなんだよおまえ?」
「……わからない」
 急に椛は声のトーンを下げてうつむいてしまった。そして、肩をヒクヒクさせ始め、目には薄っすらと涙が浮かんでいる。
 すぐに鋭い刺のような声で尊のツッコミが入る。尊は人の痛いところを攻撃するのが得意だったりする。
「真堂、泣かせたな」
「なんだよ、オレのせいかよコレ?」
「椛は記憶喪失らしい」
 これは尊が言ったのだが、なぜか輝の攻撃の矛先は悠樹に向けられる。
「そういうことは先に言えよ!」
「なんで俺なんだ!?」
 まったくだ。なんで悠樹なのだろうか? 答えは輝が未空と尊のことをまだよく知らないので、絡みづらいのだ。
 実は輝は未空と尊を前にして、いっぱいいっぱいだったりした。テンションが空回りして、そろそろ息抜きをしないと窒息しそうだった。
 その時、天の救いか、家のチャイムが鳴った。すぐさま輝が反応する。
「オレ出て来る」
 素早く玄関に移動した輝はドアを開けた。するとそこに立っていたのは段ボール箱だった――いや、違った。
「なんだよ、綾乃かよ。って何その段ボール箱?」
 家を尋ねて来たのは隣に住んでいる輝とは腐れ縁の涼宮綾乃だった。その腕には段ボール箱が抱えられていた。
「ママの実家から今年もまたパイナップルが送られて来たからおすそ分け」
 昔から輝の家と綾乃の家は家族ぐるみで交流があり、おすそ分けを貰ったり、輝の両親がいなくなってからは夕飯のおかずもよく届けてもらっていた。
「おすそ分けって、ただ家族で食い切れないだけだろ」
 鋭い家庭事情へのツッコミをされて、図星だった綾乃は強引に段ボール箱を輝に手渡した。
「そんなこと言わないで黙って受け取んなさいよ……あれ?」
 綾乃はあること気が付いてしまった。玄関に靴が異様に多い――しかもさっきから部屋の奥から話し声が漏れてくる。
 輝に試練の時が訪れてしまった。
「誰か来てるの?」
 ここで未空と尊、それに謎の少女がいることがバレたら大変なことになる。なんで尊と未空まで≠「るのかと尋ねられてしまい、そんなことを尋ねられても輝自身、二人がウチに来てるなんて信じられない出来事だし、椛のことが知れたら絶対話に首を突っ込んで来たがるに違いないのは綾乃の性格を熟知している輝にはわかる。
 どうしてもここで綾乃を帰さなくてはいけない。
「ちょっと知り合いが来ててさ。パイナップルありがと、じゃ」
 慌てた様子で輝はダンボール箱で綾乃をドアの外へ押し出そうとする。
「何よ!? 何慌ててるの、怪しすぎるわよ」
「怪しくなんかない」
「じゃあ、知り合いって誰よ?」
 段ボール箱に押される綾乃は負けじと肘と肩でダンボールごと輝を部屋の中へ押し込もうとする。
「知り合いだって言ってるだろ!」
「だから!」
 二人が騒いでいると部屋の奥から悠樹が現れた。
「何やってるんだよ二人とも?」
 声に気づいて悠樹の顔を見た綾乃はすごく皮肉たっぷりに言った。
「皇子様ご機嫌麗しゅう御座います」
「だから何でいつもおまえは俺に突っかかって来るんだよ」
 輝と綾乃は幼馴染である。そして、悠樹は輝と古くからの友人である。よって自動的に三人は腐れ縁だったりした。それも三人の腐れ縁は幼稚園からのだ。
「だって学校で皇子なんて言われて実はいい気になってるの知ってるんだから。だから皇子って呼んであげてるんじゃない」
「だから何で突っかかって来るんだよ? 昔はそうじゃなかっただろ、中学は入ってから急にそんな態度取るようになって……俺が何かしたか?」
「別に何もしてないけど……」
 急に口ごもってしまった。綾乃は何かを隠していた――中学の時から。
「本当に俺は何もしてないのか? 何かしてるんだったら謝るから……」
「別に何もしてないよ……悠樹は……ただ、アタシが……」
 うつむき声が小さかった綾乃は急に顔を上げて元気よく話し始めた。
「それよりも〜、誰が来てるの?」
「言うな悠樹……ぐふっ」
 綾乃の肘が輝の腹にクリティカルヒットした。
「誰が来てるか教えて?」
「言ってはいけない悠樹……ぐはっ」
 綾乃の回し蹴りが輝の背中に炸裂した。その際アングルによってはミニスカの中が見えてしまっていたに違いないが、残念なことに誰にも見えなかった。
「悠樹早く教えて!」
「本当に言っていいのか? 輝は……」
「いいから教えてよ」
「月夜霊さんと星川さんと女の子が……」
「マジで!? 星川さんが来てるの? ……訳アリね」
 と言って綾乃は靴を脱ぎ捨ててダイニングに走っていってしまった。
 ダイニングに駆け込んで来た綾乃は、三人が座るソファーの前で止まって腕組みをして考え込み、行き成り指差し尊を指名した。
「月夜霊さん、事情説明!」
「事情とは何のだ?」
「まず、月夜霊さんと星川さんがここにいる理由と……そこの誰?」
 綾乃の目に飛び込んで来たのは巫女装束を着た童女――椛だった。
「この子は椛。記憶喪失で迷子になっているところに出くわしてここに連れて来た」
 話を聞いていた綾乃の肩を後ろから来た輝が叩いた。
「しかも、妖怪だ」
 まだ、輝の中では妖怪ということになっている。
「確かに格好は現代風じゃないわね。座敷わらし?」
 綾乃の中でも椛は妖怪にされてしまった。
 綾乃もまた椛が人間ではないことを信じた――それが悠樹には不思議でたまらなかった。どうしてここにいるみんなはそんな話を信じるんだろうか……。
 綾乃は椛をまじまじと見て、
「で、この子どうするの?」
 至極最もな質問だった。ここに連れて来たのもそのことについて話し合うためだ。しかし、そのことについての話は一向に進んでいなかった。
 輝が自宅に帰って来るまで椛をどうするか話してはいたが、悠樹は警察に連絡した方がいいと言い、それを未空と尊に止められていて時間が過ぎてしまった。
 もし、警察に連絡しても人間でない椛の対処はできないだろうから、記憶喪失で親の行方がわからないとされて、児童養護施設に送られてしまうだろうというのが未空の言い分だった。
「は〜い、意見があるんだけど……」
 綾乃が勢いよく手を挙げ答えた。
「まず、椛ちゃんの記憶を取り戻すことが先決で、その間誰かの家で預かるのがいいと思うんだけど?」
「はぁ?」
 輝は口を空けて綾乃のことを見た。これは『どこの誰が預かるんだよ』と言う意思表示である。
「アタシが思うに輝の家が適役だと思うんだけど、どうかなみんな?」
「ちょっと待てよ、なんでウチなんだよ!?」
「だって、輝んち両親いないからいいじゃん。ね、悠樹はいいよね?」
「確かにこの家で預かるのが一番リスクが少なく、いろんな人に迷惑をかけなくて済むと思う」
「ちょっと待てよ悠樹。ここは俺んちなんだから決定権はオレにあるんだぞ」
 輝としては椛のことをほっては置けないが、自分の家で面倒を看るとなると話は別である。しかし、綾乃は絶対この家に預けようとしている。
「輝く〜ん、日本は民主主義の国だから多数決で決めましょう。輝んちでいいと思う人は挙手して」
 輝以外のみんな謀った≠謔、に一斉に手を上げた。この瞬間輝は思った――悪の策略だ。
「じゃあ、多数決に基づいて輝の家で椛ちゃんを預かってもらいましょう。ハイ拍手、パチパチパチぃ〜」
 笑顔で拍手をする綾乃。輝は何か納得いかない。
「少数意見の尊重はどうしたんだ? オレの意見が尊重されないなんて民主主義じゃない!」
「あら、多数決で決まったんだから文句言わない。ほら、椛ちゃんだって」
 輝が下を見ると椛が潤んだ目で輝のことを見つめていた。その表情を見て激マブだと思ってしまった輝は負けた。
「しょうがない。責任を持って悠樹が面倒を看るから安心しろ」
「……結局俺か」
 ああ、無情だ。いつも悠樹は輝から大変な役回りを回される。これはきっと輝と付き合っている以上、一生続くに違いない。
 何も言わず悠樹はこの場から消えようとした。
「どうしたんだ悠樹?」
 輝が声をかけると、冷めた目で振り向き、
「夕食の準備するけど、月夜霊さんと星川さんはパスタですが食べていきますか?」
「そうだな、まだ椛について話し合うこともあるだろうから夕食を食べながら話そう。未空はどうする、帰るか?」
「あたしも残る」
「じゃあ、五人前ですね」
 悠樹は、この家で家事を全部するのは宿命なんだと思うことにした。
「皇子様、一人前追加ね」
 悠樹が振り向くとそこには人差し指を立てた綾乃が立っていた。
「……六人前」
 少し疲れた気分だ。輝と綾乃は絶対料理を手伝わない――むしろできないのを知っているので、尊と未空のどちらかが手伝ってくれないかと淡い期待を抱いてみる。
「あたしはできないから」
 未空に先手を打たれた。悠樹の心を見透かすような的を射る一言。だが、天は悠樹の味方だった。
「食べるだけでは悪いから、私が手伝う」
 尊はソファーから立ち上がって悠樹のもとへ近づいていった。悠樹は本当にうれしかった。
「ありがとう、助かるよ」
 そう言うと悠樹は輝を軽く睨んだ。睨まれた輝は不思議な顔をする。そして、悠樹と尊はキッチンに向かった。
 キッチンとダイニングはカウンター越しに吹き抜けになっている。
 悠樹は冷蔵庫から材料を出して並べると少し考え込んでしまった。手伝ってもらえるのはうれしかったのだが、実際料理を始めようとすると独りの方が手際よくできるのではないかと思えてきた。
「月夜霊さんは……」
 尊も悠樹が思っていることを察したらしく、
「……私は簡単なスープを作るから」
「あ、そうですか。材料は冷蔵庫にあるのを勝手に使ってください」
 尊は冷蔵工の中を物色しながら、呟くように言った。
「月夜霊さんじゃなくて尊でいいから」
「えっ、あの何で?」
「それと、言葉使いももっと気軽でいい。……無理してるように見えるから」
 無理をしているわけではなかった。しかし、そうなってしまうのだ。
 悠樹が小さい頃から彼の両親は仲が悪く、中学生になる前に両親は別れ新しい母親が来た。それから悠樹は自然と良い子≠フ自分を演じるようになったのだ。
「尊さん、僕……俺は別に無理してないですから」
 悠樹は尊に自分の心を見透かされてしまったような衝撃的な感覚を受けた。だから、このひとの前では良い子≠演じていても意味がないと思ったのだが、うまくいかなかった。
「すまない変なことを言ってしまって、逆に気を使わせてしまった」
「そんなことないから、尊さんも俺のこと悠樹でいいから」
 その時、ダイニングから輝が声をかけてきた。
「飯まだぁ〜!」
「アホかおまえは、そんなに早くできるわけないだろ」
 悠樹に言うことは当たり前のことで、そんなこと輝もわかっていて言ったのだが、自分の置かれている状況から逃れたかったのだ。
 夕食の準備のため悠樹と尊は台所へいってしまい、残された輝は三人の女性に囲まれていた。普通の女性ならウハウハの状況だが、ここにいる女性陣ではそうもいかなかない。みなちょっと個性派だ。
 悠樹たちがいなくなってから綾乃は椛と遊び始めて、輝はソファーでぼんやり座っている未空と会話をしようと試みたのだが、話すことが無くてすぐに会話は終了してしまったのだ。
 仕方なく輝はテレビを見て時間が過ぎるのを待つことにした。
 テレビをつけると椛が急にテレビ画面の前に釘付けになってはしゃぎ出した。
 そんなこんなで時間が過ぎていき、食事の用意もでき、食事をしながら椛のことについて話し合うことにした。
 テーブルの上に並べられたスパゲティーと野菜スープを口に運びながら、この場を仕切っているのは綾乃だった。
「さっき椛ちゃんと話していたりしてわかったポイントは三つ、記憶喪失、お兄ちゃんを探している、人間じゃない。この三点を踏まえて明日から調査ってことで」
 スパゲティーを食べるのに集中していた輝がその手を止め、思わずぼやいた。
「はぁ!? 調査って何するんだよ。それに明日はせっかくの休日じゃん」
 明日・明後日は土日で休日だった。
 フォークを持っていた綾乃の手がすばやく動き、前方に座っていた輝の顔の前に突きつけられた。フォークが凶器と化して輝の顔数センチ前で止まっている。
「輝は強制参加ね、あと悠樹も」
 少しドスの聞いた声で言う綾乃に輝も悠樹も何も言わず反論しなかった。
 尊はスープをひと口飲んだ後、
「私は、土日は用事があるから無理だ」
 続いて未空も、
「あたしも無理」
 二人とも断ったが、綾乃はこの二人には無理強いはしない。輝と悠樹が特別なのだ。
 口にいっぱいスパゲティーを頬張りながら輝が綾乃に質問する。
「それで調査って何すんだよ?」
「それを今から話し合うんじゃない」
 確かにそのために設けられた食事会ではある。
 尊が椛にやさしく聞いた。
「何か覚えていることは?」
 首を横に振る椛。
「自分の名前とお兄ちゃんを探してることと……」
 椛は何かを一生懸命思い出そうとしているようだった。
「それから、それから……キツネ」
 一同は不思議な顔をしたが、その中で悠樹と輝は――特に輝は『キツネ』という単語に何か引っかかるものを感じた。
 未空が急に呟いた。
「椛ちゃんの服装、巫女装束よね?」
 この言葉を聞いた輝の頭の中では何かが思い出されようとしていた。巫女装束と言えば神社が思い浮かべられる。そして、輝は武との会話を思い出して、飛び上がりながら声をあげてしまった。
「そうだ!」
 全員の視線が輝に集まった。
「……いや、何でもない」
 普段は何でもかんでも思いついたことは口に出して言ってしまう輝だが、この時は言わなかった。今は椛について少しでも情報が欲しいが、確信の薄い情報では周りを混乱させてしまう。
 少し怒ったような表情をする綾乃。
「もぉ、何でもないなら大きな声上げないでよ、ビックリしたじゃない!」
「すまん。ちょっと別のことで思い出したことあって……」
 未空がさっき言おうとしていた話を続けた。
「巫女装束と言えば神社だと思うんだけど、この辺りに神社はある?」
 輝は瞬時に小春神社の名前が浮かんだが、答えたのは悠樹だった。
「この辺りにある神社と言えば……この前火事のあった小春神社が一番近い」
「じゃあ、明日は小春神社に行くってことで決定ね」
 話の進行、及び決定権はこの場では綾乃にあるようだ。

 話し合いと夕食も終わり、尊と未空は帰ることになり、悠樹は二人を送っていくと申し出たが断られてしまった。
 悠樹にしてみれば、夜になれば女性を家まで送っていくのが当たり前のことだと思っているのだが、高校生にもなって夜は危ないからなどと心配するなんて小さい子供じゃないんだからと笑われてしまう。
 それでも、悠樹はキャラ的に女性を家まで送っていかなければ気が済まなかった。それで結局、悠樹は二人を駅まで送っていくことになった。
 輝の自宅からは駅がそれなりに近くにあり、デパートや駅前商店街があったり、朝方まで営業している店が多くあるので、駅までの道は車や人の往来があり、コンビニなどの前には柄のよくない人たちがたむろっていたりする。だから悠樹はどうしても駅まで送ると言ったのだ。
 星が瞬く夜空をぼーっと眺めながら未空は前を歩き、その後ろを悠樹と尊が並んで歩いていた。
「尊さんは、どうして俺が無理してるって思ったんですか?」
「人間の心なんて簡単に読めるものだし、まだ出会って間もないが学校での悠樹とあの場所での悠樹は雰囲気が全然違っていたよ」
「俺は他人の気持ちなんて理解したいけど全然理解できない」
「私も人間の気持ちなんて理解できない。でも、なんとなくだが伝わってくる」
 ――やがて、駅前の広場を抜けて駅ビルに入る前で悠樹は二人と別れることにした。
「二人とも気をつけて」
「葵城くん、さよなら」
「ありがとう悠樹、送ってくれて」
 そう言って二人は駅の中に入っていった。
 片手を上げて二人をしばらくの間見つめていた悠樹は、踵を返して自宅への帰路に着いた。

 未空と尊がいなくなった輝宅では、綾乃が本性を現そうとしていた。
「椛ちゃん、ちょ〜カワイイ!」
 声を上げる綾乃。ソファーの上にちょこんと座っていた椛に魔の手が忍び寄るまでもなく、飛び掛かる!
 ガフッと綾乃は椛を押し倒した。もうこれで椛は綾乃の餌食だ。
 顔を真っ赤にする椛の顔見て、喜色満面の笑みを浮かべる綾乃。綾乃は小さくてかわいい子供を見ると襲いたくなってしまうアブナイ人なのだ。
 椛に襲いかかった綾乃を白い目で輝は見ているが止めようとはしなかった。
「犯罪行為だぞ、それ」
「だって、カワイイんだもん」
 ぎゅぅっと抱きしめられている椛は少し苦しそうな表情をしているが、綾乃の猛攻の前には声が出なかった。
 ハグハグしながら綾乃は自分の頬を椛にスリスリしている。
「柔らかくてスベスベェ〜」
「うぐぅ〜……やめてよ、ねえ」
 ぽあんとした桜色の頬をした椛が少し潤んだ目で、しかも上目遣いで綾乃を見つめるが、それが綾乃の感情をさらに刺激してしまった。
「カワイイ、カワイイ、もうカワイイ〜っ!」
「あうぅ〜……」
 椛はノックアウト寸前だ。だが、綾乃の攻撃はさらに続く。
 クラスでも一番の大きいバスト(自称)を誇っていたりする綾乃の胸には今、椛の顔が押し付けられている。そんなわけで椛は呼吸ができなかったりする。
「うぐ、うぐぅ〜……うっ」
 椛の身体から力が抜けた。自分の世界に入っている綾乃はそんなことには気づきもしない。
 ふと椛に視線をやった輝の表情が変わり、慌てたようすで綾乃を吹っ飛ばして椛を救出した。
「何してるんだよ! 椛が死んだらどうすんだよ、巨乳バカ!」
「巨乳バカって何よ! 好きで巨乳やってるわけ……あっ」
 この時初めて綾乃は椛が死にそうになっていたことに気づき、輝の身体を遥か遠くへぶっ飛ばして、椛の身体を抱きかかえた。
「だいじょうぶ椛ちゃん、どうしてこんな……」
 やったのは綾乃だ。自覚が少し足りない。
 ゆっくりと椛は目を開けて綾乃の瞳を見つめて……。急に怯えた表情をして逃げた。
「お姉ちゃん怖いよぉ」
 ぶるぶる震えてしまっている椛は輝の後ろに隠れて、輝の服を強く掴んで、顔だけを出して綾乃のことをじーっと見ている。
 綾乃はショックを受けた。こんなかわいい女の子に嫌われるなんてありえないと思った。――明らかに非があるにも関わらず。
 かわいい娘に恐れの眼差しで見られているなんて綾乃には耐えられないことだった。
「ごめんね椛ちゃん。お姉ちゃんが悪かったから……だから、だから、一緒にお風呂に入って全部水に流しましょう」
 輝はそれは違うだろうと思ったが、今さっき綾乃の攻撃を受けてぶっ飛ばされたばかりなので、その気持ちは心に留めて置くことにした。
 気持ちを切り替えた綾乃は、猛ダッシュで輝をぶっ飛ばして椛を抱きかかえて掻っ攫うと、お風呂場へと消えていってしまった。
 フローリングの床の上で腹ばいになって倒れている輝は、二人が消えていった方向へと手を伸ばし、どっちにしてもぶっ飛ばされたと思い力尽きた。
 輝がもう動くのもだるくて床の上で寝そべっていてしばらくすると、お風呂から出てきた綾乃に蹴飛ばされた。
「何やってるの、こんなところで?」
「別にぃ〜」
「それよりも、お風呂入って気づいたんだけど、椛ちゃんの服が無いんだけど? しょうがないから同じ服着せちゃったけど……」
 綾乃の言う通り、椛はお風呂に入る前と同じ格好をしていた。付け加えると綾乃も当然服は自分のウチにあるので同じ格好をしている。
「服がないから、どうしたんだよ?」
「明日椛ちゃんの服も買いにいこうかなぁ〜って思ってね。ほらだって、こんな格好じゃ目立つでしょ?」
 巫女装束を着ている子供なんて街中には普通いない。
 服を買いにいくのはいいとして、輝には気になる点がひとつだけあった。
「誰がお金出すの?」
 しばらく考えて綾乃はポンと手を叩いた。
「皇子様はお金持ちだから大丈夫でしょ」
 皇子様とは当然悠樹のことを指している。実は悠樹の家はお金持ちで、悠樹の銀行口座には親から毎月多額のお金が振り込まれている。その金で好き勝手にやれということなのだ。
 ちょうどいいところに悠樹が帰宅して来た。
「ただいま」
 そう言いながらダイニングに入って来た悠樹のことを綾乃が懇願の熱い眼差しで見つめた。
「皇子様ぁ〜、綾乃お願いがあるんだけどぉ」
 ちょ〜猫撫で声&ブリッ子モードで綾乃は悠樹に接近して、顔と顔を間近に寄せた。
 急にそんなことをされても悠樹は冷めた表情をしていた。綾乃敗北。
「お願いって何?」
「椛ちゃんにお洋服買ってあげたいんだけど、私たち一般人はお金がないから」
「それって皮肉か? でも、まあいい。俺も服のことはこのままの格好じゃまずいと思っていたから買うよ」
「よっし! ほら、椛ちゃんも皇子様にありがとうして」
 綾乃に命じられるまま椛は悠樹に駆け寄って抱きつき、上目遣いで一言。
「お兄ちゃんありがとぉ」
 この行動はお風呂で綾乃に仕込まれたものだ。綾乃は最初っから悠樹に金を出させるつもりだったのだ。
 抱きつかれた悠樹は少し顔を赤くした。小さい女の子と接する機会があまりない悠樹は、小さい子供に抱きつかれるなんて初めての経験だった。
 顔を赤らめてしまった悠樹を見て、綾乃はしてやったりとニヤリと笑みを浮かべた。悠樹をからかうのが楽しくてしょうがないのだ。
 特にもうすることもなく満足した綾乃は自宅に帰ることにした。
「じゃあアタシ帰るから、椛ちゃんのこと頼んだわよ」
 玄関まで三人は綾乃のことを見送った。
 玄関を出る直前綾乃が、
「明日はアタシの気分でここに迎えに来るからよろしく」
 輝と悠樹に何も言わせずガチャっと玄関のドアが閉められた。世界は綾乃中心に回っていた。

 夜は更けて、家の中は寝静まっていた。
 輝と悠樹は各々の部屋で眠り、椛はどこで眠るのかと話し合った結果、今は使われていない輝の両親の寝室で寝ることになった。
 椛はダブルベッドに入りながら天井をじーっと見つめていた。
 ベッドに入ってからもうだいぶ時間が経ったはずだが、まだ眠れない。それどころか目が冴えてしまっている。
 自分が何者かわからない不安。いろいろなことが頭を駆け巡る。
 椛という名前とお兄ちゃんを探していたことは覚えていた。それと、未空に人間じゃないと言われたこと――確かに自分でも自分が人間じゃないことはなんとなくわかる。けれど、人間じゃない自分は何者なのか、それが思い出せずにいた。
 暗く静かな部屋で椛は居ても立っても居られなくなり、ベッドから飛び起きた。
 枕をしっかりと抱きしめて、部屋の外へ静かに物音を立てずにゆっくりと出た。
 廊下は暗く、恐ろしいほど静かだった。
 椛は静かに廊下を歩き、とあるドアの前で立ち止まり、ドアノブに手をかけてゆっくりと回した。
 ドアが開き椛は中へそっと入っていった。
 部屋の中はこの家の中で一番掃除や片づけが行き届き、もともとは輝の妹の部屋だった場所。今はもう完全に悠樹の私物が置かれて彼の部屋に模様替えされていた。
 静かに近づいて来た人の気配に悠樹は気づき目を覚ました。
「椛ちゃん……眠れないの?」
「うん」
 不安そうな顔をして椛はうなずいた。
 しばらく考えた悠樹であったが、掛け布団を持ち上げて椛を招き入れた。
「おいで、いっしょに寝よう」
 椛は言われるままに布団の中に入っていった。
 布団の中は悠樹の体温で暖められとても心地よかった。椛の不安は徐々に溶かされていく。
「ねえ、お兄ちゃん」
「お兄ちゃんって言われると恥ずかしいから悠樹って呼んでくれるかな? それと輝も輝でいいと思うよ」
「悠樹、あのね、人間じゃない椛にやさしくしてくれてありがと」
「……うん」
 椛は悠樹に擦り寄ると目をつぶり眠りについた。
 悠樹は椛が人間じゃないなんて信じているわけではないが、信じていないわけでもない。ただ、どちらにしても証拠がなく、椛という存在は確かに今ここにいる。悠樹にとって椛がなんであろうと別にどうでもいいことだった。
 悠樹はすぐ傍で眠る少女のことを少し考えてから眠りに落ちた。

 深夜遅くまたしても小春市内の住宅から火が昇った。何の前触れもなく業火が家を包み込んだのだ。
 深夜ということと突然火が上がったということもあり、近隣住民はまだ火事に気づいていなかった。
 そんな中、燃え上がる炎をひとり見つめる者がいた。――星川未空。
 未空はいったいここで何をしていたのか?
 燃え上がる炎を無表情な顔で見つめる未空。その表情からは何を考えているのか全くわからない。
 やがて、家の中から住人が死相を浮かべながら逃げ出してきた。
 家の中から逃げ出して来たひとりの若者が叫び声をあげた。
「誰か助けてくれ!!」
 家は轟々と燃え上がり近隣の住人も家を飛び出して来た。
 大勢の人々が集まり、未空はその人ごみに紛れてこの場を後にしようとした。
 火事に遭った住人のひとりの若者が、集まった人々にこう言っているのが微かに聴こえてきた。
「狐が、狐を見たんだよ」
 その声は心底怯えきっているように聴こえた。
 だがもう未空は振り向きもせず足早にこの場から離れていった。
 火事の現場を離れて未空はある場所に向かっているのだ。その場所とは小春神社。火事の現場からそんなには離れていない。
 徒歩なのでだいぶ時間がかかってしまったが、未空は鳥居をくぐり小春神社の境内に足を踏み入れた。
 大きな神社ではない。入った瞬間に全体が見渡せる。
 昔はこの神社はもっと広かった。だが徐々に狭くなり、今では人が訪れることなど滅多になかった。
 神社の神が宿っていたとされる御神木である大きな楓。昔は秋になると紅葉して、美しい葉は見ものであったが、今は老樹となり紅葉するもなくなり、いつしか人々はこの楓のことを忘れてしまっていた。
 その御神木であった楓の面影は今はもうない。火事で焼けてしまったのだ。
 火事で焼けたことによって、そう言えばそんな木もあったと近隣住民に思い出されたのは、実に哀しいことだった。
 黒く焼け焦げてもなおそこに立ち続ける大木。近々切り倒されることが決まったが、誰も反対する者はいない。
 未空は焼けてしまった大木にそっと触れた。
「……復讐」
 焼け焦げてしまった大木に触れながら、未空はゆっくりと空を見上げた。
「空は昔と変わらないのに、地上の移り変わりは早いのね」
 空には星が綺麗に浮かんでいた。


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