第4話_おしゃれ泥棒大作戦
 ここは国立博物館の近くにある裏路地。ここにある人影は3つ、ハルカ、カーシャ、そしてネコ? ……ではなくこれはルーファスがネコのきぐるみを着ているのだが、どうしてこんなことになったかというと……。
 裏路地にルーファスの声が響いた。
「なんで私がこんなものを着なきゃいけないの?」
「作戦の一環だ(ネコ……ふふ)」
 とまぁカーシャちゃんの説明だとこの一言なので読者もルーファス、そして頭の上に『……?』のマークが飛んでしまっているハルカもわからないと思うので、ここは代表としてハルカに作戦の全容についてカーシャちゃんに質問してもらいましょう。
「あ、あの質問いいですか?(なぜネコ!!)」
「なんだ、言ってみろ(……ふふ……にゃんこ)」
「どういう作戦なんですか?(ネコがポイントなの!?)」
 腕を組んだカーシャの瞳が光った。
「説明しよう。まず、私とハルカはここで待機、ルーファスはきぐるみを来て写本を取って逃走! 完璧な作戦だ」
 直ぐにルーファが突っ掛かる。
「……だから、何できぐるみなの!(しかもネコって)」
「おまえが言ったのだろ、顔がバレバレだと(……ネコは私の趣味だが……うさぎでも良かったのだが……ふふ)」
「「…………(それでか!!)」」
 二人は心の中でそう叫んだが口には出さなかった。しかも作戦ってほどのものでもないだろ。
 カーシャは右手で博物館の方角をビシッと指差し言う。
「それではルーファス行ってこい(さぁはばたくのだルーファス)」
「…………」
 ルーファスはヤダって言おうとしたが、……あのときのことが頭を過ぎったのでしぶしぶ博物館に向かって歩き出した。ってあのときのことって何だ!
 博物館まではちょっと歩かなくてはいけない……ネコのきぐるみで。
「(みんな私のことを変な目で見ている)」
 ネコ(ルーファス)のことを見ない者はいなかった。……すれ違う人、路地の向こうにいる人、ここにいる全ての人が不思議そうな顔をして見ている。しかも変な眼差しで……。
 そんな中のひとりの男の子がルーファスの背後にこっそりと近づいて来た。こっそりなのでルーファスは気付く余地も無い。男の子は『ニカッ』と子悪魔の微笑みを浮かべると、ルーファスの背中目掛けてドロップキックをかましてきやがった。蹴りをいきなりくらったルーファスはアイザック・ニュートン(リンゴが地面に落ちるのを見て引力を発見した人)の運動の三法則に従って、地面にバタン! とコケた、じつに呆気ない、何の変哲もないコケ方だった。
「……(痛い)」
「あははは、まぬけ!!」
 ガキはそう言って走り去って行った。こういうガキってテーマパークに行くといる。きぐるみを見るとキックとかパンチとかしてくるヤツ。
 ルーファスは何事もなかったように立ち上がり、何事もないように歩き出しこう思った。
「(こんなコケた姿知り合いに見らたれたら、恥ずかしいよね。よかったきぐるみ着てて)」
 ルーファスよく考えろ! きぐるみを着てなかったら蹴られなかっただろ?
 そんなこんなでルーファスは博物館の前まで来た。
「……(ついに来てしまった)」
 博物館の入り口にはいかにも強そうですよ~って感じのガードマンが二人立っている。しかも、その二人はものすご~く不信の眼差しでネコ(ルーファス)を見ている。
「(ヤバイ、怖い目で見てるよ)」
 ルーファスは思いついた、自分にクイックの魔法をかけて走れGO・GO・GO! 作戦を。ちなみにクイックとは3分間の間だけ身体能力を上げて通常の2倍近くのスピードで動くことのできる魔法で、かけられた本人のマナを消費する。
 ルーファスは自らにクイックをかけると、ヨ~イ、ドン! のポーズを決めた。すると、どっかの誰かが『ヨーイ、ドン!』と言ってくれたので、それを合図にルーファスは全速力で走り出した。
 ルーファスはガードマンの間を瞬く間に通り抜け、博物館の中に入った。しかし、中に入ったからといって安心して足を止めてはいけない。
 なぜなら、詳しく説明すると、ルーファスの50m走(追っかけられたとき)のタイムは6.85秒、そして、先ほどのガードマン(入り口)とルーファスとの距離は3m、このことからこのような数式が立てられる、50÷6.85×2(距離÷タイム×クイック使用)=14.598・・・、すなわち、1秒間に約15m走れることになるので、ガードマンを抜けることは余裕だが、時速に換算すると約53kmといったところなので目で見ることは余裕でできる、ようするに中に侵入したことがバレバレなのだ。
「(はぁ、はぁ……中に入れれば後は客のフリをして」
 ルーファスの考えはあまい。理由は上で説明してとおりで、不審者が博物館の中に入ったことはもう気付かれている。しかも、致命的な誤算がある。ネコのきぐるみを着ている時点で普通の客のフリはできない。あたりまえですけど。
 案の定、ネコ(ルーファス)の周りにガードマンたちが押し寄せて来た。
「(……何でガードマンが!?)」
 それはルーファスがあからさまに不審者だからだ。
「(やばい……逃げるぞ!)」
 ルーファスはガードマンたちの静止の手を掻い潜った。二人のガードマンはルーファスを捕まえようと挟み撃ち作戦を実行したが、ルーファスがスルっと二人の間を抜けたもんだから互いに頭をぶつけて転倒、全治3時間の怪我を負った。
 ルーファスはそんなことお構いなしに次々とガードマンたちの静止を振り切って写本を目指す。その姿はさながらプロのフットボール選手のようだった。
 がしかし、ルーファスの快進撃はここまでだった。クイックが切れたのだ。その拍子に、突然切れたクイックにルーファスの身体能力がついていけず、しかもそれが全力で走っている最中だったからさぁ大変!? ルーファスは身体のバランスを崩しつんのめって、超高速回転連続でんぐり返しを5回転決めた。そのでんぐり返しの姿はプロの運動選手並だった。
 ルーファスは実は運動神経がそこそこ良い、だが彼が魔導学園に通っていたころの体育の成績は最悪だった。それはなぜか……?
 ルーファスは華麗なでんぐり返しを見事に決め、そのままの勢いで立ち上がろうとした。ここまでは完璧だった、しかもネコのきぐるみを着てここまでやるとはじつにすばらしい……だが、不幸は突然訪れる。
 白い壁がルーファスの前に突然現れた。そして、ごん! というリアルな音とともにルーファスは頭を強打し、後ろにバタンと倒れた拍子にまた、ごん! というリアルな音が……これは痛そうだ。
 これがルーファスの体育の成績を下げていた理由だった。途中までは完璧なのだが、なぜか途中で不幸が訪れる。
「……(痛い、でもよかったきぐるみ着てて、着てなかったら気絶してたよ)」
 と心の中で思ったルーファスはむくりと立ち上がった。そして、後ろを見るとガードマンがすげー形相で追いかけてくるのが見えた。
「(ヤバイ、早く写本を手に入れなくちゃ……?)」
 ルーファスはここである重大な作戦ミスに気が付いてしまった。……写本って何処だ!
 この博物館はこの国で一番広い、名前の上に国立が付くだけのことがあるだけに広い(なんとなく国立って格式がありそうでしょ……なんとなくだけど)、その広さは……、……? ……とにかく広いったら広いの!!(ルーファス曰く、この国のコロセウム×2(二階建てだから)くらいの広さかなぁ、らしい)
 写本はどこだと考えていたら、何時の間にかルーファスはガードマンに取り囲まれていた。
「(もう一度、クイックで)」
 と思ったが彼にはもうそんな力は残っていなかった。クイックには欠点がある、クイックは一時的に身体能力を2倍に高めてくれるが、疲れも2倍だったりする。ルーファスの息はもうすでに上がっていて2度目のクイックはつらい。しかもきぐるみを着ていると呼吸がしにくい、もうひとつおまけにきぐるみは通気性が悪く中は熱い。
「(もうダメだ……おとなしく捕まろう)」
 ネコがゆっくりと両手を上げ終わると、一斉にガードマンたちが押し寄せて来て腕を掴まれ、そのまま引きずられるように事務室に連行された。呆気ない、呆気ない幕切れだった。

 小さな小さな心もとない声が事務室に微かに響いた。
「ごめんなさい、もうしません」
 ルーファスはガードマンに深々と頭を下げた。するとガードマンは意外にあっさり許してくれた。
「まぁ、博物館を走り回っていただけだから、今回は許しますけど、次回からは気をつけるように」
「本当に申し訳ありませんでした」
 確かにルーファスはネコのきぐるみを着て博物館内を走り回って、客やガードマンに迷惑をかけただけで、そんなことはこの博物館では同じようなことを”子供”がよくするので厳重注意だけで済ませてもらえた。
「”子供”みたいな真似はもうしないで下さいよ」
 ガードマンは子供のところを強調した。
「はい、以後気をつけます(良かったこれだけで済んで)」
「じゃあもう行っていいから」
 ルーファスはガードマンに一礼をして部屋を出て行こうとドアノブに手をかけたら、ドアが勝手に開いた。自動ドアではない向こう側から誰かが開けたのだ。
「(あ、ドアが勝手に)」
 ゴン! という音がした。
「いった~っ」
 ルーファスは思わず頭を押えながら、しゃがみ込んだ。
「た、大変です!! ライラの写本が何者かによって盗まれました」
 ルーファスのことは無視だった。
「何だって、今行く!」
 ルーファスのことはやっぱり無視だった。
 ガードマンはルーファスのことなどお構いなしに何処かに行ってしまった。残されたルーファスは少し寂しい気持ちがした。
「ライラの写本が盗まれたのか……(疲れたから家に帰って寝よ)」

 博物館内は大騒ぎになっていて、出口では荷物検査が行われていた。
「(大変なことになってるなぁ)」
 そんなことを思いつつルーファスは出口で荷物検査を受けていた。ルーファスは手ぶらだったのですぐに通してもらえた(ちなみにネコのきぐるみは没収された)。
 博物館を出たルーファスはあることを思い出した。
「(そうだ、裏路地で待機してるって言ってたっけ)」
 ルーファスは裏路地に向かった。がしかし、そこには二人の姿はなく、変わりにあったのは『うさぎの人形』と手紙。手紙にはこう書かれてあった。『お前の家で待ってるぞ』と、筆跡と言葉使いからしてカーシャに違いない。
「(ひどいよ先に帰るなんて)」
 なんてことを考えていたらすぐに家に着いてしまった。で家のドアを開けると、
「おかえりなさ~い!」
 とハルカの元気な声が、ルーファスは内心ちょっとムカッときたが、たぶん帰ろうと言い出したのはカーシャなので怒るのであればカーシャだ。
 ルーファスは家の中に入るとすぐさまカーシャを探した。ですぐに見つかった(そんなデカイ家ではないので)。
「なんだ、無事だったのかへっぽこ」
 カーシャは呼んでいた本をパタンと閉じると紅茶の入ったコップを片手に優雅に手を振ってきた。
「…………(死)」
 この時、ルーファスは何度目かのカーシャに対して殺意が沸いた。だがルーファスはそれを心に留めた。なぜって、カーシャが怖いから。
「ルーファスもそこに座って紅茶でも飲め」
 ルーファスはカーシャに勧められるままにソファーに座ると、すぐにハルカがルーファスのために入れた紅茶を可愛らしい『うさしゃん(うさぎさん)』のティーカップに入れて銀色のトレイに乗せて持って現れた。
「はい、ルーファス紅茶」
 微笑みながらハルカはルーファスにティーカップを渡した。
「……ありがとう」
 ルーファスはティーカップを受け取る瞬間、ある事を思った。
「(あんなティーカップうちにあったっけ? ……しかも、うさぎって……うさぎ?)」
 ティーカップを受け取るとルーファスは紅茶を一口飲み『はぁ』と深くため息をついた。
 カーシャも紅茶をひとくち口に含み、それを飲み込むと話を切り出した。
「ルーファス今日はご苦労だったな」
「ご苦労だったって何にも見てなかったでしょ」
 ハルカが首を振った。
「ううん、見てたよ、ルーファスがガードマンに追いかけられてたの(あれはなかなかの見ものだったなぁ)」
 ルーファスは驚いた表情を浮かべた。
「えっ(何でハルカが知ってるの?)」
 とのルーファスの疑問についてカーシャちゃんがわかりやすく説明してくれました。
「これを見ろルーファス」
 カーシャは今まで読んでいた本の表紙をルーファスに見せた。
「(この表紙に書いてある古代文字は……)」
「おまえがガードマンに追いかけられている隙にこれを盗ってきた(悪いなルーファス、囮にした)」
「それって、ライラの写本じゃないか!?(なんでここにって)……ライラの写本を盗んだのってカーシャたちだったのか」
「その通りだ」
「ルーファスのおかげで簡単に盗めたよ(ちょっと悪い気もしたけど)」
 ルーファスは唖然としてしまった。そして、微妙にキレた。
「もういい寝る! はいはい、ソファー空けて」
 ルーファスは二人を『しっし』と追い払い、ソファーにバタンと倒れ込んだと同時に静かな寝息が……。
「疲れたのだな(精神的に)」
 カーシャは毛布を持ってきてルーファスの身体にそっとかけてあげた。カーシャもいいとこあるじゃん。
 こうしてルーファスだけの長い1日が終わった……Zzzz。

 そんな感じで、いろんな謎を残しつつ、この物語はまだまだ続いたりする……。

 つづく


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