第4話_氷境の霊竜ヴァッファート

《1》

 とても幼いユーリは今日もベッドから窓の外の景色を眺めていた。
 遠い遠い夕焼けの向うへ羽ばたく鳥たちの群れ。
 ユーリは哀しい顔をしてベッドに潜った。
 小さくユーリは咳き込んだ。
 大きな屋敷の小さな牢獄。
 メイドが部屋のドアをノックして入ってきた。
「ユーリ様、お薬の時間です」
「いらない」
 ユーリはベッドに潜ったまま答えた。
 薬を持って近寄って来ようとするメイド。
「お薬を飲みませんとご病気も治りませんよ」
「うるさい、出てけ!」
 ユーリは枕を投げてメイドの顔面にぶつけた。
 仕方なくメイドは薬を置いて部屋を出て行ってしまった。
 小さく咳き込むユーリ。でも、薬を飲む気にはなれなかった。
 ベッドに潜って何もしない時間が過ぎていく。
 窓がガタガタと音を立てた。風だろうか?
「愛してるよユーリ!」
 窓を開けてアーヤが飛び込んできた。
「おにいたん!」
 今までがウソのようにユーリは笑顔でアーヤを迎えた。
 アーヤは大量の紙袋を持っていた。紙袋には美少女のイラストが描かれている。外で持って歩くには勇気が必要だ。
「今日もたくさんおみやげ買ってきたよ。ユーリが気に入るものがあるといいなぁ」
「おにいたん今度はどこに行って来たのぉ?」
 アーヤは旅に出るのが好きで、いつもいろいろなとこに行ってはおみやげを持って帰ってくる。それは物であったり話であったり、ユーリはいつもそのおみやげを楽しみにしていた。
 楽しそうな顔をしてユーリは紙袋の中身を調べている。
「今度の旅もいろいろなところに行って来たよ。中でもメイドカフェというところでは実に有意義な時間が過ごせたね」
「メイドカフェ?」
「メイドさんが接客してくれるカフェなんだ。おにぎりを目の前で握ってくれたり、ケチャップで絵を描いてくれるサービスもあるんだよ」
「……メイドならウチにもいると思うけど」
「それは違うよユーリ。あの店にはオタクのロマンがあるんだぁっ!」
 ギュッと拳を握って瞳の奥に炎を宿したアーヤ。
 アーヤは次々と紙袋から戦利品を取り出してベッドの上に並べはじめた。
 ほとんど同人誌だった。しかもほとんどBL系。
「お、おにいたん……これって……?」
 同人誌の中身を読んだユーリの鼻からツーッと赤い液体が流れた。
「ああ、それはボクの個人的なおみやげだよ。ユーリのおみやげはこっち」
 そう言いながらユーリは紙袋から衣装を取り出した。
 それを見たユーリは首を傾げた。
「水着?」
「違うよ、これはブルマと言ってね、女子が運動のときに着る神秘かつ伝統の衣装なんだ。残念なことに今ではその風習も忘れられ絶滅の危機に……」
 ブルマを握り締めながら熱く語るアーヤの姿は間違いなく変態だ。
 いきなりアーヤがユーリに襲い掛かった。
「さあ、お着替えの時間だよ!」
「イヤっ、おにいたん恥ずかしい」
「嗚呼、恥らうユーリもカワイイよ」
「お着替えなら自分でする!」
「自分で着替えるのもボクが着替えさすのも同じだよ♪」
 あきらかに違います。
 ユーリは顔を真っ赤にさせながら脱がされそうな服を死守する。
「恥ずかしいよぉ」
「わかった、ユーリ独りに恥ずかしい思いはさせないよ。ボクも脱ごう!」
「脱がないで!」
 でもアーヤは神業で一瞬にして服を脱ぎ捨ててしまった。
 股間の布をゆらゆらさせながら仁王立ちするアーヤ。
「どうだい? たまにはデザインを変えてみようと思ってね」
 ヒョウ柄のふんどし
 ブハーッ!
 ユーリは鼻血が噴射させた。
「大丈夫かいユーリ! そんなに体液を垂れ流したらまた体に障るよ!」
「……もう十分弱ってる」
 変態の兄がいる限り、いつも貧血に悩まされる。
 急にアーヤが悲しそうな顔をした。
「ごめんねユーリ、こんな兄で……」
「どうしたのおにいたん?」
「ユーリのことを愛してるのにね、どうも空回りしてしまう。押し売りの愛は本当の愛じゃない、本当に相手のことを想うなら自分の気持ちを抑えなきゃいけないこともあるんだ」
「わからないよぉ」
「もう少しユーリが大人になればわかるときも来るさ」
「ユーリ大人だよ、キャッシュカードも一人で使えるし、マネーロンダリングも得意だよ」
 マネーロンダリングとは汚れた金の出所を隠して、合法的で綺麗な金ですよと騙す行為である。子供のやることじゃねぇ!
 アーヤはティッシュでユーリの鼻血を拭いた。
「もともと体が弱いのに、ボクがいたらいつまで経っても良くならないね」
「おにいたんがいてくれたらユーリ元気だよ!」
「あはは、ありがとう。でもボクなんかいないほうがいいのかもしれない、この家にとっても。家督だってシーナが継げばいいし、ユーリだっているんだし」
「ユーリ、シィ兄きら~い」
「そんなこと言っちゃダメだよ。あいつはちょっと性格が破綻しているところがあるけど、本当は優しいヤツなんだ。それに人を嫌うのはよくないよ、憎しみは誰も幸せにできないからね」
 アーヤはユーリの頭を優しく撫でた。
 でもユーリは不満そうに唇を尖らせていた。
「ユーリわかんなぁ~い。シィ兄なんてバナナの皮で滑って死ねばいいのに」
「ダメだよ、死を簡単に口にしちゃ」
「ふん、みんな死ねばいいのに。ユーリだってもうすぐ死ぬんでしょ、知ってるんだから」
「そんなことないよ、すぐに元気になるさ」
「そうやってみんなユーリにウソつくんだもん、みんなキライ!」
「絶対元気になるよ、必ず、必ず……必ずね」
 その言葉はまるでなにか自分に言い聞かせているようだった。
 思いつめたようなアーヤの横顔。
 どの想い出ものっぺらぼうのお兄様の顔。なぜその横顔だけは覚えている。しかし、それが本当にお兄様の顔だったのか、もしかしたら想像が作り出した産物かもしれない。
 アーヤは近くにあった薬を見つけたようだった。
「ちゃんとクスリを飲まなきゃダメじゃないか」
「飲みたくないんだもん」
「仕方がないなぁ、ワガママなお姫様なんだから」
 そう言ってアーヤは薬を口に含むと、ユーリにキスをしようとした。
 ブハーッ!
 今日も元気に鼻血ブー。

《2》

 魔導学院の廊下をユーリは鼻の下を掻きながら歩いていた。
「(今朝は豪快にベッドを濡らしちゃったなぁ。洗濯するのめんどくさくてそのままにしちゃったけど、殺害現場に間違われなきゃいいけど。うん、でもお兄様の夢で目覚められるなんて、今日はいいことありそう♪)」
 さっそくユーリにとっていいことが起きた。
 空色ドレスがふあふあしながら近づいてくる――ローゼンクロイツだ。
「ローゼンクロイツ様、おはようございます!」
「やあ、おはよう(ふあふあ)」
 ローゼンクロイツは目をつぶりながらあいさつした。半分寝てるのかもしれない。
 そんな無防備なローゼンククロイツの顔をユーリがじーっと見つめる。
「顔になにかついていますよ?」
 ローゼンクロイツの口元にほくろのようについている物体。
 ユーリはそれを摘んで取ろうとすると、ツーッと糸を引いた。
 思わず青ざめるユーリ。
「キモッ、なにこれ」
 焦ってユーリは手を振って謎の物体を払おうとするが取れない。しかも臭い!
 ローゼンクロイツは淡々と。
「納豆だね(ふにふに)」
「な、納豆って、無理やり誰かに食べさせられる拷問を受けたんですか、許せません!」
「違うよ、ボクの朝は納豆ではじまるんだ(ふにふに)」
「えっ」
 カルチャーショック!
 でも、ユーリちゃんに忠誠心はそんなことじゃ揺らぎません。
「(ローゼンクロイツ様が納豆好きだったなんて、よりによってあんな腐った物を……でも、貴方が好きと言うのなら、アタシも好きになって見せる!)」
 ユーリは手についていた納豆の粒をパクッと口に入れた。
「まずぅ」
 ユーリはすぐに姿を隠し、物陰からは『うぇ~』という効果音が聴こえてきた。なにをしているかなんて、それはヒロインの保身にかかわるので書けません。
 少々ゲッソリしたユーリが戻ってきた。
 もうそこにはローゼンクロイツの姿はなかった。そして、微かに残るローゼンクロイツの残り香。
 ユーリはハッとした。
「そう言えば……(この香りってローゼンサーガ。そんなまさか、だって髪型も違ったし、アタシの顔面蹴りやがったし、思い出すだけでも腹が立つ。でも、納豆好きっていうのが引っかかる)」
「そう言えばなんなのだ?」
 背後から低い女の声がして、ユーリは驚いたまま飛び退いた。
「カ、カーシャ先生(すごい、気配がまったくしなかった)」
「こんばんわユーリ」
「まだ早朝ですよ」
「妾にとっては常に夜。決して明けることのないこの世界なのだ、ふふっ」
「意味がわかりません。では、授業がありますので失礼します」
 さっさと別れを告げて立ち去ろうとしたユーリの首根っこをグイッとカーシャに掴まれた。
「待て、話がある」
「なんですか?」
 嫌そうにユーリは尋ねた。この人に関わるとロクなことがない。最近だんだんと理解してきた。
「あのほれ薬はもう使ったのか?」
「え……まあ……その……(あはは、思い出したくもない)」
「使っていないのならそれでいいのだ(うむ、どうやら間に合ったようだな)」
「なにかあるんでしょうか?」
「うむ、実はな……あれは惚れ薬ではなく、破局薬だったらしいのだ(エヘッ、カーシャちゃんのうっかりさん、ふふっ)」
「あはは、そーですかー(シネ!)」
 やっぱりロクなことがない。
 あの〝ロロアの林檎〟にはこんな話があるらしい。
「遥か古の時代、あの楽園に住んでいた男女が、〝ロロアの林檎〟をめぐって離婚したという伝承がある。それ以来、あの林檎には呪いがかかり、カップルを破局させる力があるらしいのだ」
 カーシャいわくそういうことらしい。
 これ以上関わっても時間の無駄だと判断して、ユーリは今度こそ立ち去ろうとした。
 だが、また呼び止められてしまった。
「まだ話がある」
「なんですか、授業があるんですけど?(てゆか、あんたも教師だろ)」
「サキュバスの力を取り戻したくはないか?」
「えっ?」
 失われたサキュバスの力。ついでに魔法まで使えなくなって、ユーリがどんなに苦労したことか……。
 クラウス魔導学院には、魔導士を育成する学科や、魔法を使えずとも歴史や研究をする学科、魔導具の技術者になる学科など、魔導に関する学科がいくつもある。ユーリが入れられた学科は、あまり魔法実習のない学科だったが、それでも魔法実習は必修科目。魔法の実習があるたびに、仮病を使って休むのもだんだん辛くなっていたところだった。
 サキュバスの力さえ取り戻せば、狙った相手を誘惑しまくり、貢がせるなんて朝飯前だ。
「本当に取り戻せるんですか!」
「さて、それはわからん」
「期待して損した(もう絶対こんな女の言葉に躍らせれないようにしよう)」
「だが試す価値はある(ふふっ)」
 惚れ薬のこともあるし、もう騙されないと思いつつも、本当に力を取り戻せたらと思うと、ユーリの心は激しく揺れた。
「方法を教えてください」
 頼むとカーシャは手でオッケーマークを作った。いや、金を要求しているだけだった。
「格安の一〇〇〇ラウルで情報を売ってやろう」
「……金か」
「まだ惚れ薬の代金も貰っておらんぞ」
「それは失敗だったんだからタダでしょ。むしろ、失敗したんだから損害賠償としてこちらがお金を請求したいところです。というわけで、情報と交換ということで賠償はしないでおきましょう」
 どっちも金に汚いです。
 カーシャはため息を吐いた。
「貧乏人のお前から金を取るのも哀れだ。半額に負けてやろう」
「(アタシに向かって貧乏人って、しかも半額って結局取るのかよ)力を取り戻せたら払うということにしましょう」
「仕方あるまい、それで手を打とう」
 カーシャは胸の谷間からメモを取り出してユーリに渡した。
「ここに詳しく書き出しておいた、感謝するがよい」
「感謝しませんが、力を取り戻せたらお金をお支払いいたします」
「さて、そろそろ妾は朝のホームルームにでも行くか」
「……アタシも早く行かなきゃ。さようなら!」
「うむ」
 二人が別れようとしたところで、誰かがカーシャの前に立ちはだかった。
「ご機嫌いかがかなカーシャ先生?」
 魔導具をジャラジャラ身に着けた黒魔導教員ファウストだった。
「こんばんわファウスト(チッ、朝からついていないな)」
「今日こそはカーシャ先生に貸した一〇〇〇ラウルを返していただきたいのですが?」
「そんな金、借りた覚えなどない!(絶対認めてなるものか、ふふっ)」
「覚えがなくともここに契約書がありますよ(まったく強情な女だ)」
 契約書が風もないのに揺れ、その中から強烈なプレッシャーが感じられた。ファウストの得意技は召喚、契約書の中から凶暴な怪物を呼び出すつもりだ。
 カーシャの手がすばやく動く。
「マギ・ファイア!」
 いきなり攻撃魔法をぶっ放した。
「シャドウイート!」
 ファウストの前に現れた暗黒の穴が炎を飲み込んだ。
 そして、あざ笑うファウスト。
「カーシャ先生、いつもやることが単純なのですよ。それにこの契約書は煉獄の劫火でも焼けはしませんよ、クククッ」
「いや、お前を焼こうとしたのだ」
 なんか朝っぱらから魔法対決がはじまっちゃいましたよ。しかも、校内で。しかも、教師同士で。
 こんな人たちに関わっていたら損をする。
 ユーリはなにも見なかったことにして教室に急いだ。
「遅刻遅刻ぅ♪」
 スキップスキップらんらんらん♪

《3》

 ガイアの北極と南極に位置する大陸の名を、北ウーラティアと南ウーラティアという。このウーラティアという名のついた地方がサーベ大陸にはある。アステア王国のあるウーラティア地方は過ごしやすい気候の地域で、極寒の地ウーラティアの名にふさわしくないように思える。
 では、なぜそのような名がついているのか?
 諸説ある話の中でも有力とされているのは、グラーシュ山脈と呼ばれる極寒の地の存在だ。
 気象学的にはありえないが、グラーシュ山脈一帯のみが極寒で、周りの地域はいたって正常な気候なのである。まるで冷房の効いた部屋から、炎天下の外に出たような感覚だ。その特殊な気候を可能とするのがマナストーンの存在だ。
 万物すべてに宿るエネルギー、マナ。それが多く集まるとマナフレアという目に見える形になり、さらにマナを凝縮させて結晶化したものがマナストーンと呼ばれる。一握りのマナストーンですら、それは都市一つを吹き飛ばす武器となる。もっと巨大な物となれば、天変地異すら起こすことができるのだ。
 そのマナストーンがグラーシュ山脈のどこかにあるのではないかと云われている。
 クラウス魔導学院の遠足という名の地獄の校外実習でも訪れるグラーシュ山脈。そんな死と隣り合わせの極寒の地にユーリは来ていた。
「……しまった、一人で来るんじゃなかった」
 さっそく帰ろうとしているユーリ。
 まだまだ入り口付近にも関わらず十分に寒い。もっと奥に踏み込んだらもっと寒い。さらにもっと踏み込んだらもっともっと寒い。
「とにかく寒い!(ビビちゃんにコート貸してもらったけど、こんな装備じゃ凍え死ねるかも)」
 なんでこんな場所にやって来たかというと、カーシャからもらったメモにこう書かれていたのだ。
 ――グラーシュ山脈に棲んでいるヴァッファートに会いに行け。
 それだけかいっ!
 本当にカーシャのことを信じていいのか、いや……信じちゃいけない。
「うん、帰ろ♪」
 帰ろうと体を一八〇度回転させると、ユーリの目に見覚えのある二人が映った。
「あっ、ローゼンクロイツ様とその下僕!」
「下僕じゃないから」
 ルーファスは嫌そうに呟いた。
 傍らにいたローゼンクロイツはワザとらしく驚いた表情をしていた。
「ルーファスってボクの下僕だったのかい(ふにゃ)」
「そんなわけないでしょ」
「……知ってるよ(ふっ)」
 苦笑するローゼンクロイツ。あきらかにからわかれただけだ。
 どうしてこんな場所に二人がいるのだろうか?
「あのぉ、お二人はなぜここにいるんですか?(まさか、ローゼンクロイツ様とアタシの愛の絆)」
 ローゼンクロイツはきょとんをした顔をしてルーファスを見る。
「どうしているの?(ふあふあ)」
 ワザとなのか、ワザとなのか……それともマジなのか?
 ルーファスは呆れた顔で答える。
「君はカーシャと出席日数の取引したんでしょ」
「そうだったね、出席日数を改ざんしてやるからヴァッファートに会って来いって言われたんだった(ふにふに)」
「そして私はなぜだか知らないけど、とにかく行けってカーシャに命令されたんだ。ユーリはどうしてここにいるの?」
「アタシもヴァッファートに会いに行くんです。もしかして、カーシャ先生はアタシのためにお二人を寄こした……」
 ここまで言って三人の声が重なった。
「ないですね」&「ないない」&「ないよ(ふっ)」
 三人ともカーシャの命令でヴァッファートに会いに行くらしい。ちゃんとした目的があるユーリは覗いて、二人は会いに行くこと自体にはなんの意味があるのだろうか?
 ユーリは自分の唇を触りながら考えはじめた。
「実はアタシ、ルーファスのせいでノースに召喚された際、魔法などの力を使えなくなってしまったんです。その力を取り戻すためにカーシャ先生にヴァッファートに会い行くように指示されたのですが、もしかしたらカーシャ先生には別の思惑が……(ないハズがない)」
 なにか思惑があるとしても、こっちは出席日数がかかっている。
「別に魔女がどんな思惑を抱いていようとボクには関係ないよ(ふあふあ)」
 こっちも行かないわけには行かなかった。
「私もカーシャに命令されちゃったから、反抗するとあとが怖い。しかも寄りによってこの山なんて……(カーシャとはじめて遭った場所だもんね)」
 ものすっごいドンヨリした顔をするルーファス。そんな顔をしながらもルーファスは行く。
 ユーリは難しい顔をしてルーファスを見つめる。
「ルーファスとカーシャ先生はどういった関係なんですか?(ただの教師と生徒の関係には見えない。もっと深い関係のように思えるけど)」
「えーっと、まあ、その、腐れ縁を結んだ関係というか……」
「まさかお母さんですか!」
「違うし!」
 断固否定。
 今はこれ以上聞いても答えてくれそうにない。
「話したくないならいいです(前にルーファスを操ったときに、たしかに感じたカーシャのマナ)」
 ユーリは疑惑の眼差しでルーファスを見つめ続けているが、それを払拭するように彼は気合を入れて拳を上げた。
「よーし、がんばって行こう!」
 そして、すでにローゼンクロイツは先を歩いていた。ものすごいマイペースです。
 ユーリは駆け足でローゼンクロイツのあとを追う。
「ローゼンクロイツ様、待ってくださいよぉ!」
 持つとか待たないとかの次元を無視して、ローゼンクロイツは歩き続ける。
 広がる銀色の雪原。三人の足跡が雪の上に残る。
 すでにもうだいぶ寒いが、まだ生物の生存圏である。グラーシュ山脈全体の平均気温は零下二〇度以下と云われ、最低は零下五〇~六〇度らしい。だいたい南極と北極に匹敵する寒さだ。
 グラーシュ山脈周辺は外の地域と温度差が激しいため、隔離された空間に特殊な生態系を持っている。どこの自然界でも同じだが、生物はその場所に適用する能力を持っている。そのわかりやすい例が擬態と言って、生物は周りの風景に溶け込む模様や形をしている。雪原などでは白い毛並みの動物が多い。
 三人が歩く前方の崖をぴょんぴょん登る物体を発見。
 白く長い毛と先の分かれた枝のような角。
 ルーファスは懐かしそうに指差した。
「ほら見てよグラーシュシロシカだよ。懐かしいな、クラウスにツーショット写真撮ってもらったっけ」
「クラウスってアステア国王の名前と同じですね(イケメンだったなぁ)」
 ユーリが鍛冶対決騒動のことを思い出していると、ルーファスはサラッと言い放つ。
「だって私と同級生だよ、ローゼンクロイツと私はかなり長い付き合いだし」
「あはは……マジですかっ!(まさか国王とマブダチだったなんて、侮れないルーファス。まさか普段の使えない感じは演技で、その招待は公儀隠密。あの冴えないグルグル眼鏡は正体を隠すため……ないな)」
 あっさり妄想を否定した。
 だんだんと奥に進むと寒さは厳しく、山らしく道も斜めに傾きはじめていた。
 ユーリは自分の体を抱いて寒さに耐えていた。
「これからもっと寒くなるんでしょうか、死ねる気満々なんですが?」
 ユーリがビビに借りたのは秋物コートだった。零下二〇度なんか非対応だ。
 ローゼンクロイツは白い毛皮を首に巻いている程度で、ルーファスはそれほど厚着ではない。なのにまったく寒そうにしていない。
 子供は風の子という問題ではないのかあきらかだ!
 ルーファスはポケットから何か取り出して、不思議そうな顔をしてユーリに尋ねる。
「これ使ってないの?」
「なんですかこれ?」
「クラウス魔導学院購買部オリジナル商品、使い捨てカイロだよ。太陽神アウロの力がどーとかこーとかで、どんな寒さでもへっちゃらだよ」
「……早く出せよ!」
 ユーリちゃんのグーパンチ炸裂!
 ルーファスの鼻血が雪を鮮やかに彩った。
 さっそく説明書を読んだユーリは、背を向けておへその下にカイロを貼った。この場所に貼ることによって、全身がぽっかぽかになる仕様らしい。
「嗚呼、春のような心地よさ(まるでお兄様の温もりのよう)」
 そんな幸せ気分のユーリは迫り来る危機にまったく気づいていなかった。
 遠くを眺めていたローゼンクロイツがボソッと呟く。
「……雪崩(ふにふに)」
 波というよりもはや壁。巨大な雪崩が三人を呑み込もうとしていた。
 すぐさまローゼンクロイツは持っていた日傘を開いて盾にした。
 慌てたルーファスはとりあえず盆踊り。
 ユーリは雪の壁に満面の笑み。
「あはは、絶対死ぬし」
 ズザァァァァーーーッン
 雪崩はすべてを呑み込んでしまった。

《4》

 暗闇。
 瞳を開けた感覚はあるのに視界は真っ暗。
 体も金縛りにあったように動かない。
 ユーリの意識は夢の中にいるように、少しぼんやりとしていた。
「(雪に埋もれちゃったのかな、誰にも発見されずに衰弱死なんて老人の孤独死みたいでイヤだなぁ)」
 カイロのせいか寒くはない。
 物音が聞こえた。
 雪の中にいるにしてはとてもクリアな音質。まるでドアを開けるような音。
 そして、誰かの声が聞こえた。
「あーっ!」
「(……ルーファス?)」
 急に世界に光が差し込んだ。
 ユーリの目に飛び込んできたのは鼻血だった。
 ルーファスの姿はどこにも見えない。まだ暗闇はすべて明けず、隙間から光が差し込んでくる感じだ。
 ノックの音が聴こえたような気がする。
「すみません起きてくださーい!」
 またルーファスの声だ。やっぱりルーファスが近くにいる。
 もっと強いノックの音。
「あの、起きてもらえませんか!」
「(アタシ起きてるし。あれ、声がでない……まさか幽体離脱)」
 ユーリはハッとした。意識があるのに体が動かない。しかもルーファスはユーリが起きないと思っているらしい。この情報を整理して導き出された回答は幽体離脱!
 いきなりユーリの体が揺れた。
 ルーファスの声が聞こえる。
「……開かない……開いてよ!」
 開く?
 辺りは急に白い煙に包まれた。その向こう側に映るルーファスの影。
「なんか不味いことしちゃったぁ?!」
 やっとルーファスの姿が見えた。
 でも向うはまだ煙でこちらが見えていないらしい。
 不意に伸ばされたルーファスの手をユーリは止めようとした。
「(そこ胸だし、触っちゃダメ!)」
 でも、声もでないし体も動かない。
 ズボッと自分の体にルーファスの手が呑み込まれた感覚がユーリを襲う。
「(なにっ)」
「ぎゃー!」
 叫び声をあげてルーファスは手を抜こうとしている。
 ユーリにはまったくなにが起きているのかわからなかった。そして、体からエネルギーがどんどん吸われていく感覚。
 急に動かなかった体が飛び起きてルーファスの襟首に掴みかかった。
「貴様、なにをしておるのだ!(えっ、なに、アタシの声じゃないし、体が勝手に動いてる)」
 パニック状態のユーリ。
 なにかが可笑しい。
 ルーファスは相手の体に手を突っ込んだまま慌てている。
「あ、あの、その手が抜けないんですけど……?」
「妾の寝込みを襲うとは許せんぞ!(妾ってなに妾って てゆか、このルーファス若くない?)」
「ご、ごめんなさい。悪気があったわけじゃないんだけど、そのなんていうか」
 不可抗力
「とにかく妾の胸から手を……手を……(ヤバイ、意識が飛びそう)」
 ルーファスにマナが吸われている。
 慌ててルーファスは手を抜こうと頑張った。
「ごめんなさい今抜きますから!」
 力を込めるとズボッと手が抜けて、ルーファスは反動で尻餅をついた。
 しかし、体内マナを吸われた体の衰弱は収まらない。
 ユーリの体が勝手に動いて柩の中から這い出た。違う、ユーリの体じゃない。
「(違う、これアタシじゃない。誰だからわからないけど、誰かの体の中に入っちゃったのかも!)」
 謎の女の体はドロドロに溶けかかっていた。まるで溶けたアイスクリームだ。
「妾のマナ……返して……もらうぞ!(わかった、この声カーシャだ!)」
 ルーファスに襲い掛かる――全裸のカーシャ!
 鼻血ブー!
 ルーファスの鼻血がカーシャにかかり、ドロドロの身体に混ざり合ってしまった。
「妾の身体に……不純物が……(キモッ!)」
 カーシャはそのまま倒れこむようにルーファスと重なった。
 そして、ブチュ~っとキッス!
 ルーファスとカーシャの唇が重なった。
 その感覚はユーリにも伝わっていた。
「(……ア、アタシのファーストキス!!!11)」
 口を通してルーファスからカーシャにマナが流れ込む。奪われたマナを接吻で取り返す気だ。
 しかし、カーシャは途中で口を離した。
「駄目だ……接吻だけでは完全ではない(あはは、あははは……)」
 ユーリちゃんは壊れていた。
 多少はマナを取り返し、ドロドロだったカーシャの体は固形化していた。
 こっちの被害者も放心状態だった。
 鼻血を垂れ流しているルーファスの免疫ゼロ!
 放心しているルーファスの頬をカーシャが引っぱたいた。
「おい、目を覚まさんか!(あはは、これが夢だったらいいのに)」
「うっ! 覚ましましたから、もう手とか構えないでください」
 カーシャの手は二発目を構えていた。
「うむ、目を覚ましたならよかろう。さて、妾の裸を見た代金を払ってもらおうか、接吻はサービスだ(やっぱりなんでも金か)」
「はぁ?」
「ウソだ(ウソかよっ!)」
「あのぉ、とにかく服を着てもらえませんか?」
「ダメだ(体が動かないせいでよくわからないけど、豊満な谷間だけは見える)」
「はぁ」
 ルーファスの目はいろんなところを行ったり来たり。目のやり場に困る。なのに相手は服を着ることを拒否。
 なぜ?
「貴様が妾から奪ったマナを取り戻すため、今から性交渉をする(シネ!)」
「はぁ?」
「聞こえんかったか? 今から妾は貴様とセック(それ以上言ったらヌッコロス!)」
「あーあーあーあー 聞こえましたからそれ以上は言わなくていいですから!」
「なら話は早い。ヤルぞ(これってまさかアタシの貞操の危機)」
「ちょ、待った!」
 明らかにルーファスは腰が引けていた。
 全裸のカーシャは爆乳を揺らしてルーファスに近づいてくる。
「なにを待てと言うのだ? 元はと言えば、貴様が妾の眠りを覚ましたのが悪いのだぞ?(眠りを覚ましたって、どういうことなんだろう?)」
「あの、私たち知り合ったばかりですしー」
「妾の名前はカーシャだ。以上自己紹介終わり。これでいいな?(やっぱりカーシャなんだ)」
「よくないし!」
 声を張って抵抗。
「ならば仕方ない。妾の名前はカーシャ、この城の主だ。過去の大戦で敗北し、この柩で静養していた。おそらく百年……いや、千年か、よくわからんが、貴様が妾の眠りを覚ますまで、妾は気持ちよく眠りに落ちていたのだ……わかるか安眠を妨害された妾の気持ちが?(どういうこと、カーシャって何者なの?)」
「わかります、人に起こされると寝覚めが悪いですよねー」
「ならば、ヤルぞ?(ヤルな!)」
「だ、だからそれは……」
「まさか……チェリーボーイか!(そんなことどうでもいいし!)」
「そ、そーゆーことじゃなくて、知り合ったばかりの女性とそういう関係を持つのは、従順なガイア聖教の信者としては……ダメかなぁって」
「うるさい、とにかく妾のマナを返してもらうぞ(止めなきゃ、でも体が自由にならない)」
「ちょちょちょ、やっぱりダメですってば!」
 ルーファス逃亡。
 なんかこうなったら逃げるしかない。
「こら待て!(追わなくていいし!)」
「待てません!」
 必死に逃げるルーファス。なんか肉食獣に言われる草食動物。
 急に全力で走ろうとしたカーシャが眩暈を起こした。
 そのままユーリの視界も真っ暗に――。

 恐ろしいくらいの汗を掻きながらユーリは柩から飛び起きた。
「……ハァハァ(なに今の……全部夢?)」
 目を覚ましたその場所はどこかの部屋だった。
 見覚えのある部屋。
「ここって……さっきの場所じゃん」
 今見ていた夢と同じ場所にいた。
 ユーリはよっこらせと柩から這い出た。
 ピンクの壁紙、可愛らしいぬいぐるみの群れ、まるで幼いお姫様のような部屋だった。
「(なのにベッドが柩って)」
 趣味が破綻している。
 ユーリは辺りをじっくり観察した。
「(さっきの夢ってなんだったんだろう。偶然見たにしては出来すぎてるし、この部屋に残った思念……だとすると現実にあったことになるわけで、この部屋はカーシャの部屋?)」
 ぬいぐるみの中でなにかが動いた。
 ガサゴソ、ガサゴソ。
「誰かいるの?」
「ウキーッ!」
 ぬいぐるみ中から白いサルが飛び出した。
「本物のサル」
 グラーシュ山脈にのみ生息する珍獣ホワイキー。専門家やマニアだったら目から鱗のご対面だが、そんな知識ユーリにはなかった。ちなみクラウス国王はマニアらしい。
 部屋を飛び出したホワイキーをユーリが追う。
 かなりすばしっこいサルだ。まったく追いつけない。
 追いかけているうちにこの場所がかなり巨大な城らしいことがわかった。
 ホワイキーを追っていると、王の間らしい場所に辿り着いてしまった。
 玉座に続くレッドカーペット。その玉座の後ろには巨大な肖像画が掛けられていた。
「カーシャ?(でも今と雰囲気が違う。この絵のカーシャは金髪で蒼い眼だけど、アタシが知ってるのは黒髪で黒い眼だし)」
 気配を感じた。
 ユーリが振り向くと物陰にホワイキーがいた。
「ちょっと待っておさるさん!」
 待ってくれなかった。
 ホワイキーは姿を消してしまったが、その場所には缶詰などの保存食が置かれていた。
「(おさるさんがアタシにくれたのかな?)」
 でも缶切りがないので開かない!
「(プルトップ式にしてよ)」
 缶詰のほかにも缶ジュースもあった。コーンポタージュだ。
 とりあえずコンポタだけ飲むことにした。
「あ~、あったか~い」
 すっかりマッタリしていると、また気配がした。
 急いで振り向く。
 ホワイキーがこっちを見ている。
「そこで待っておさるさん!」
「ウッキー!」
 待ってくれなかった。
 ユーリはホワイキーを全速力で追いかけた。
 そして、長い長い廊下を走らされてやってきたのは――。
「この装置は……?」
 井戸のような穴。真っ白い光の渦が水のように満たされている。
「(古代の転送装置。いくつもあるけど、どこに通じてるんだろ?)」
 井戸のような転送装置は〈旅水〉と呼ばれ、世界の各地に遺跡として残っている。
 その〈旅水〉がこの部屋にはいくつもあった。まるでモグラ叩きのような光景だ。
 いつの間にかホワイキーはユーリの傍らにいた。
「ウキキー!」
「もしかしてここに案内してくれたの?」
「ウキー!」
「でもどこに通じてるのかわからない。文字が書いてあるんだけど、ぜんぜん知らない文字だし。ヴァッファートのところに行きたいんだけどわかる?」
「ウッキー!」
 ホワイキーは〈旅水〉の一つを選び、その前で呼ぶように飛び跳ねた。
「そこに入ればいいの?」
「ウッキー♪」
「ありがとね、おさるさん♪」
 ユーリはホワイキーを信じて〈旅水〉の中に飛び込んだ。
 光の玉が飛沫を上げ、光の波紋の中にユーリは消えたのだった。

《5》

 なんかだとっても晴れ渡っている青空。
 白い山脈が地平線の彼方まで連なっている。
 山頂は天候もよく、広く平坦な地面にうっすら雪が積もっている程度だった。
 遠く王都アステアを見守る白銀のドラゴン。
 純白の霊竜ヴァッファート。
 龍族の中でも多くの知識と強大な魔力を持つ者たちをグレートドラゴンと云い、時として信仰の対象になることもある。
 ヴァッファートもまた、古くからこの地方で信仰され、アステア王国の国旗や国歌にもなっている。
 柔らかな羽毛が風に靡いた。
 静かに振り返るヴァファッート。その鳥のような瞳に少女の姿が映った。
「誰だ?」
 魔力のこもった玲瓏な声はまるで女性のようだ。
「ユーリ・シャルル・ドゥ・オーデンブルグと申します」
「ハーデスから召喚されたなんちゃってサキュバスの……オカマか」
「……オカマじゃないし! てか、なんで知ってるの」
「この国で起こったことは風の噂で届く。王都の三丁目に住んでいるトンヌラさんちの今夜の晩御飯もわかるぞよ」
 そんなのわかる必要ないし!
 ヴァッファートは首を伸ばして顔をユーリに近づけた。
「して、わしになぜ会いに来た?」
「それもわかってるんじゃ?」
「そんなの知るか」
 くだらないことばっかり風の噂で届くらしい。
「(なんかムカツク)カーシャにとりあえずここに来いと言われて来たのですが?」
「えっ、カーシャちゃんのおつかい? そうなったらそうって早く言いなさいよぉん♪」
 テ、テンションが急に変わった。
 ヴァッファートはどこからかコタツと出して、ついでに暖かいお茶と菓子まで用意してくれた。
「ここまでの道のり大変だったでしょう、ゆっくり休んでちょうだいねぇん」
「あ、はい……どうもありがとうございます(なにこの変わり様、このドラゴン威厳のカケラもない)」
 ユーリはお茶菓子のドラ焼きに手をつけた。
「……これって」
 稲妻が落ちたような衝撃。
「ももやのドラ焼きですね!」
「さすがオカマ少年だわ、その味がわかるなんてなかなかの通ねぇん!」
「オカマオカマって言わないでください、周りにはヒミツにしてますので(こんなドラゴンにケンカ売っても勝てないから売らないけど)」
「別にオカマでもいいじゃな~い、アタイだってオカマよぉん」
 マジですかーっ!
「はっ?」
「アタイがオカマだって言うのはいちようヒミツだけど。まさか王国の守護神とまで言われているアタイがカマだなんて、そんなの知られたら暴動が起きちゃうものね。だから、ここだけのヒ・ミ・ツよぉん!」
 なんかすっごいヒミツを知ってしまったようです。口が裂けても他言無用ですよ。
 急にユーリが真剣な顔をした。
「ところで……」
「ところでぇん?」
「このドラ焼きって自分で買ってるんですか?」
 疑問だ、かなりの疑問点だ。ももやと言えば王都アステアでも人気の和菓子屋だ。ドデカイ変態ドラゴンが店に現れたら邪魔でしょうがない。
 果たして真相は!
「お茶のみ友達のローゼンちゃんがいつもおみやげでくれるのよぉん」
「ローゼンちゃんって……?」
「クリスチャン・ローゼンクロイツ。聖眼の使い手にして、王都でも三本の指に入る魔導士だけど、ちょっぴり電波なのが玉にキズねぇん」
「……ボクは電波じゃないよ(ふあふあ)」
 いつの間にかローゼンクロイツがコタツに入っていた。
 ビックリ驚天のユーリ。
「いつの間に」
「オカマ少年のトークあたりから(ふにふに)」
「……マジですかっ!」
 ユーリちゃんショック!
 バレた……ついにバレた……愛しい人にまでヒミツがバレた。
 ローゼンクロイツは無関心な感じでボソッと。
「知ってたよ(ふあふあ)」
「なにがですか?」
「男の子なの(ふっ)」
 ニヤッとローゼンクロイツはして、すぐに何事もなかったように無表情に戻った。
 ユーリちゃんショック!
 でも、ショックも一周してしまうとどーでもよくなる。
「あはは、知ってたんですかー。ローゼンクロイツ様のことですから、出会ったときから気づいてた感じですねー」
 そして、急に真顔でローゼンクロイツに詰め寄った。
「でも絶対に他言無用ですからね!」
「……それはどうかな(ふっ)」
 邪悪な笑みを浮かべるローゼンクロイツ。すぐにそのまま言葉を続ける。
「……ウソ(ふっ)」
 完全にユーリは弄ばれていた。
「いいです、ローゼンクロイツ様に弄ばれるなら本望です。でも他言無用にしてくださいね」
「わかってるよ(ふにふに)」
「ならアタシもローゼンクロイツ様のヒミツを守りますから」
「なに?(ふにゃ)」
「薔薇仮面ってローゼンクロイツ様ですよね?」
「知らない(ふあふあ)」
 鉄壁のポーカーフェイス。
 ユーリはそっぽを向いてコッソリ舌打ち。
「チッ(でもやっぱり本当にローゼンクロイツ様じゃない可能性もあるけど。髪の色からして違うわけだし)」
 自分の顔をじーっと見つめているヴァッファートにユーリは気づいた。
「(舌打ちしたのバレた?)アタシの顔になにか付いていますか?」
「アナタの顔が彼に似てるのよねぇん」
「アタシに似てるということは絶世美形ですね」
 ユーリの口は大真面目にそんなことを吐ける口だ。
 そして、ヴァッファートはその名を口にした。
「彼はインキュバスだったわ、アタイに名乗った名前はアーヤ」
 その名を聞いてユーリは言葉を失い、なぜか涙がこぼれそうになった。
 サキュバスとインキュバスは同族である。同じ種族でも女をサキュバス、男をインキュバスと云う。ユーリも正確にはインキュバスである。
 インキュバスのアーヤ。そしてユーリに似ている。人違いのはずがなかった。
「お兄様と、お兄様と会ったことがあるんですか!」
「はじめて彼と出逢ったのは数年前だったわね。弟の命を救うために旅をしていると言っていたわ。それでアタイを尋ねて来たのだけれど、残念ながらアタイの手には負えなかったわぁん」
「弟の命……アタシのこと?」
 幼少期の記憶。病弱で死の病に苦しんでいた日々。アーヤは旅好きでいつもどこかに出かけていた。
 アーヤはたくさんのおみやげを持って帰ってくる。そして、旅の話を楽しそうにしてくれた。だから、幼いユーリは気づいていなかった。
「幼いころのアタシはたしかに死の病にかかっていました。お兄様はアタシの病気を治すために旅をしていたんですね、そんなこと一言も言わなかったのに」
 その優しさを知ってユーリは瞳を潤ませ微笑んだ。
 しかし、ユーリには疑問があった。
「実は、お兄様は行方不明なんです。そして、いつから行方不明になったのか、アタシの病気がいつ治ったのか、まったく記憶にないんです。大好きなはずのお兄様の顔すら思えだせなくなってしまったんです。ずっと不思議でしょうがなかった」
 それはすべて繋がっているのだろうか?
 ヴァッファートは真剣な眼差しで話を聞いていた。そして、ユーリをさらに驚かせる一言を発したのだった。
「彼には先日も逢ったわよ」
 涙を振り払いながらユーリは相手に飛び掛る勢いだった。
「先日っていつですか、お兄様はお兄様は元気だったんですか!」
「たしか三日ほど前だったかしらぁん?」
「そんな最近ですか、だったらまだこの国いるかもしれないってことですよね?(そんな近くにいたなんて……逢いたい)」
 衝撃的だった。
 そんなに近くにいながら逢えないなんて……。
 ヴァッファートは沈痛そうな顔をしていた。
「元気だったかという問いなのだけれど……(これは言うべきなのかしら?)」
「お兄様になにかあったんですか!(正直に言わないとヌッコロス)」
「彼は変わり果ててしまっていたわ。別人かと思うほどだったわね」
「どういうことですか、お兄様になにがあったんですか」
「彼の肌は病的なまでに蒼白く、髪も色が抜け落ちて白く、瞳もくすんだ灰色だったわ。そしてアタイも質問したの、貴公の美しさはいずこへ逝ってしまったのかと。そしたら彼は笑ってなにも答えてくれなかったわ。ただ『弟の命を救うことができました』とだけ……」
「アタシのせいで……」
 きっとアーヤはユーリを助けるために〝何か〟を失ってしまったのだろう。
 その想いはユーリにとって重たいものだった。大切な人から〝何か〟を奪うことは本意ではない。
「(それならアタシが死んだほうがマシだった……)」
 いつも自分中心のユーリがそう思えたこと、胸の奥でトキメキが輝きはじめていた。
 突然、ヴァッファートが顔を上げた。
「何者じゃ!」
 オカマモードではなくマジモード。
 次の瞬間、ヴァッファートの顔面で巨大な爆発が起きた。
 硝煙と雪煙に映る二つのシルエット。
「貴様には何の怨みもないが、二五パーセントオフで受けてしまった依頼だ。覚悟しろ!」
 謎のシルエットから大量の暗器が飛び出した。
 果たしてこのシルエットの正体はっ!

《6》

 謎のシルエット壱号ジャドは飛刀、手裏剣、ダイナマイトを投げた。もちろんすべて通販購入だ。
 なぜかヴァッファートと戦いをおっぱじめてしまったジャド。
 なにがなんだかわからずユーリは呆然としてしまった。
「どういうこと」
「説明しよう!」
 と、言ったのはシルエット弐号アインだった。
「このセリフ言ってみたかったんですよねぇ!」
 説明そっちのけでアインは嬉しそうにはしゃいでいた。
 その姿を見てさらにユーリは呆然とした。
「なにその格好?」
 アインはいつもと異質な存在になっていた。頑丈そうなプロテクターを装備した姿は、まるでフルアーマーのロボットのようだ。頭についたV字のアンテナがチャームポイントっぽい。
「えと、この格好は父の趣味娯楽なんです。父は幼いころから正義の味方に憧れていたらしくて、ついにこんな物まで自分で造ってわたしに着せる始末で(最初のころは恥ずかしかったんですけど、これも正義のためです!)」
 正義の味方のベクトルが特撮ヒーローだ。
 そんな話はどーでもよくって、なんでジャドがヴァッファートと戦ってるんですか?
 アインはハッとして説明をはじめる。
「そうでした、説明しようでした。えと、守秘義務に関わるので詳しくは他言無用なんですけど、とある人の依頼でこのような状況になってしまいました。あ、わたしもシャドウクロウに入ったのでよろしくです」
 ペコリと頭を下げたアイン。
 ぜんぜん具体的に状況がわからない。
 わかるのは仕事でヴァッファートと戦ってるということだ。
 ここでユーリちゃんからアインちゃんにツッコミ。
「正義の味方が国の守護者と戦っていいわけ?」
「あぅ……なかなか痛いところを疾風突きですねユーリさん。でも、正義の味方だってお金が必要なんです、うちの父が客を選ぶもので……」
 背景には家庭事情があるようだ。
 ジャドとヴァッファートの戦いは熾烈を極めているように見えるが、実際は一人相撲。
 次から次へと隠し持っていた暗器を炸裂させるジャドだが、ヴァッファートは余裕でかわし、吹雪を吐き、めんどくさいときはそっぽを向きながら手で叩く。
「わしに戦いを挑むとは勇者か、それとも救いようのない愚者か」
「さすがは神に近し者と呼ばれる龍族。では、これならどうだ――対戦車ミサイル!」
「愚かな」
 冷血なヴァッファートの声が響き。
 ミサイルは氷結して砕け散った。
 唖然とするジャド。
「今のは魔導か、呪文を唱えずとも強大な魔法を使えるとは……」
 現在主流になっている魔法は、古代魔導ライラが派生したレイラ・アイラ・マイラである。
 ライラとは別名〝神々の詩〟と呼ばれ、詩を詠むことに魔法を発動させる。つまり詠唱に手間がかかることになるが、威力は絶大であり使える者も限られる。現在では詩の多くが失われている。
 その手間を簡略化して、呪文の名を呼ぶことによって発動できるのがレイラとアイラだ。威力はライラに及ばないが、練習さえすえれば比較的誰でも使えるようになる。レイラは攻撃系、アイラは補助系、マイラはその他のものに分類される。
 そして、レイラ・アイラよりもレベルの低い魔法は、名を呼ぶこともせずに使用することが可能だ。そのほとんどは、指先から出した炎でランプに火をつける、女の子のスカートを風でめくる、実用的ではあるが威力はほとんどないのが一般的だ。
 しかし、同じ魔法でも使用者によって威力が異なる。一般的に魔力と云われるが、いかにマナと上手に付き合い、マナを効率よく使用できるか、それが魔力の違いとなる。
 つまり長ったらしい説明を踏まえると、ヴァッファートは魔力が高いので、呪文を詠唱しなくてもスゴイんです!
 戦いに苦戦するジャドの傍らでは三人がコタツで団らんしていた。
 ローゼンクロイツは無関心なマイペースなので、すでにコタツでうたた寝をしている。
 アインもすっかりお菓子を食べながらマッタリ。
 ユーリはローゼンクロイツの寝顔を見ながらニヤニヤ。
「アインちゃん、やっぱりローゼンクロイツ様は寝顔も素敵だよね」
「はい、ローゼン様の趣味は昼寝ですから、歩きながら寝ることも可能です。何度も盗撮させていただきました」
「ケータイがあれば写メ撮るのに。アインちゃんはケータイ持ってないの?」
「ごめんなさい、お金がかかるから持たせてもらえないんです。親にはムリを言って魔導学院に通わせてもらってますかので、本当に親不孝な娘でごめんなさい!」
「別に親不孝ではないと思うけれど。ほら、だってクラウス魔導学院と言ったら名門校だよ」
「でも卒業できるか心配なのです。代々ウチは魔導士なんか一人もいませんし、わたしだって普通の小学校を卒業して、それまで使ったこともなかった魔導の勉強をして、滑り込みでクラウス魔導学院に入学できたんです。そう、すべてはローゼン様への愛なのです!」
 一般家庭の生まれで、魔導なんか使ったこともなかったアインが、努力と根性で入学できたのは、クラウス魔導学院に語り継がれる奇跡の一つだ。ちなみにルーファスの入学も奇跡とされている。
 こんな感じですっかり団らんモードの三人。
 だが、ユーリは重大なことに気づいてしまった。
 そうだ、ジャドがヴァッファートと戦っているのだ。
「そうだ、ルーファスどこ行ったの?」
 そっちだった。
 ローゼンクロイツが寝言でムニャムニャ囁く。
「……はぐれたよ(ふにゃふにゃ)」
 きっと死んだね!
 ユーリはルーファスという存在を根本的になかったことにした。
「あはは、本当にももやのドラ焼きは美味しいよね!」
「あのお店はチョコ苺大福もお勧めですよ」
「今度食べに行こうね♪」
「はい!」
 もはやジャドとヴァッファートのことすら忘却の彼方だった。
 存在を忘れられてたまるかーっ!
 みたいな感じで急にヴァッファートが咆哮をあげて暴れだした。
 周りを顧みずに暴れるヴァッファートのせいで、地面が激しく悲鳴をあげ、雪煙が大量に舞い上げられる。
 暴れ狂うヴァッファートを見てジャドが一言。
「俺がケツを触ったから怒ったのかっ!」
 真顔のジャドにたいしてムクッと起きたローゼンクロイツが否定。
「……違うよ(ふあふあ)。キミは龍族の逆鱗に触れたんだ(ふにふに)」
 逆鱗とは龍族の躰を覆う鱗の中でただ一つ逆さに生えた鱗のこと。一般的にはアゴの下にあるが、ヴァッファートはケツのあたりにあったらしい。この逆鱗を触れられたドラゴンは我を忘れて暴れ狂うと云う。
 まさにこれって急展開!
 いきなりピンチが全員に降りかかってしまった。
 でも、やっぱり団らんはやめません!
 ユーリは冷めた視線をジャドに送った。
「貴方も子供じゃないんですから、自己責任ですからね。どうぞ独りでヴァッファートの怒りを静めてください」
 戦うことを放棄。
 ローゼンクロイツとアインも二人でうたた寝をしていた。
 ジャド四面楚歌!
「生憎俺は親からも子供として育てられたことはない。本気で戦うしかないようだな」
 やっぱり今まで本気じゃなかったのか!
 通販攻撃はやっぱり本気じゃなかったのかっ
 常に肌を隠していたジャドが片腕を捲り上げて〝蒼い肌〟を露にした。
 マナフレアがジャドの周りに発生する。
「今ここに暗黒の守護者イーマの力を解放する――宿え暗黒蛇炎!」
 暗黒の炎が蛇のようにジャドの腕に巻きついた。
 さらにジャドは残る腕をローブに突っ込み横笛を取り出した。
 これはまさか……蛇+笛=蛇遣いだ!
 笛がメロディーを奏ではじめると、蛇炎は激しく燃え上がりながらヴァッファートを呑み込もうとした。
 ヴァッファートの口が大きく開けられ、猛烈な吹雪が吐き出される。
 すべてを焼き尽くす劫火とすべてを凍らせる吹雪が激突した。
 せめぎ合う二つの力。急激な気圧変化が起き、竜巻が巻き上げた雪は瞬時に蒸発して空気爆発が起きた。
 さらに強い風がすべてを薙ぎ払う。
 轟々と鼓膜を揺らす風の叫び。
 晴れ渡る世界の下でジャドとヴァッファートは無言で対峙した。
 今の攻撃は五分と五分。しかし、まだ戦いははじまったばかりだった。
 さらなる大技を繰り出そうとジャドは笛を構え――。
「笛がない」
 さっきの爆風で横笛をなくしてしまったのだ。
「しかし、常に冷戦沈着、奥の手は持てるだけ持つのがプロ!」
 ジャドは縦笛を取り出した。
 が、ヴァッファートがフ~ッと息を吐くと、縦笛が飛んでいってしまった。
「クソッ、なかなかやるな。だが俺は暗殺一家の末っ子、勝つための手段ならば卑怯なくらい持っている!」
 ジャドはハーモニカを装備した。スタンド付きなので、身体と固定して手放しできる優れもの、通販の商品だ!
 まるでハエでも叩くようにヴァッファートはジャドを払った。
 パシッ!
「あれ~~~っ」
 ジャドは雪山を転落して行った。
 ご愁傷様です♪
 その光景をコタツの中にもぐって見守っていたユーリ。
「はじめて魔法を使ったところ見たと思ったら、あっさりやられちゃった」
 ジャドは戦闘力ではなく性格に欠陥があったようだ。
 まだまだご乱心のヴァッファート。
 果たしてこのオカマドラゴンを鎮めることはできのか!
 そして、ついにローゼンクロイツがコタツから覚醒した。
「仕方ないね、ボクがやるよ」
 目を疑うほどのマナフレアがローゼンクロイツの体を包み込む。
 変化が起ころうとしていた。
 ローゼンクロイツのエメラルドグリーンの瞳に六芒星が映る。
 ユーリは自分の目を疑った。
「まさか……その姿は!」
 いったいローゼンクロイツになにが起こったのかっ!

《7》

 風に靡いて逆立つ深紅の髪。
 薔薇が咲き誇るような真紅のドレス。
 白銀の雪に咲いた一輪の華――薔薇の君ローゼンクロイツ。
 その姿はまさしく薔薇仮面だった。しかも今日は素顔の出血大サービスだ。
 ユーリは眼を輝かせて歓喜した。
「やっぱり薔薇仮面はローゼンクロイツ様だったのですね!」
 すぐそばにいたアインもアッサリ認めた。
「そうですよ」
「えっ、アインちゃんも知ってたの?」
「はい、ローゼンクロイツ様とわたしのヒミツだったんですけど、これからはユーリさんもヒミツを共有する仲間ですね!」
「ヒミツを共有するってなんか嬉しいかも」
 顔をニヤニヤさせるユーリはローゼンクロイツに熱視線を贈った。
「ローゼンクロウイツ様、がんばってくださぁい!」
「がんばらないよ(ふあふあ)」
 そんな感じがアンタらしいです!
 暴れ狂うヴァッファートと薔薇の君ローゼンクロイツの戦いがはじまろうとしていた。
 ――と、その前にアインが口を挟む。
「説明しよう! 紅薔薇モードになったローゼン様は、髪もドレスも薔薇色に染まり、普段の三倍の性能を発揮できるのです!」
 ローゼンクロイツが雪の上を滑るように駆けた。
 ヴァッファートのブレスがローゼンクロイツを呑み込まんとする。
 持っていた日傘を開いて吹雪を防いだローゼンクロイツがすかさず呪文を唱える。
「マギ・フラッシュ!」
 眼を潰すほどの閃光が辺りを呑み込んだ。
 白く塗りつぶされた世界でさらにローゼンクロイツの声が響く。
「ライトチェーン!」
 拘束魔法ライトチェーン。手から光の鎖を放って対象物を捕捉するアイラだ。
 色の戻った世界でローゼンクロイツは光の鎖を握っていた。その先には全身を固定されたヴァッファートの姿。
 地獄の底から沸き上がるような咆哮が響く。
 鎖を解き放とう暴れ狂うヴァッファート。その巨大な体躯の力を小柄なローゼンクロイツが抑えていた。
 涼しい顔して片手でローゼンクロイツは鎖を握る。実は怪力の持ち主さんだったに違いない!
 ローゼンクロイツがボソッと呟く。
「……ダメだね(ふにふに)」
 刹那、ヴァッファートを包んでいた鎖が砕け散って光の粒が舞った。
 鋭い爪がローゼンクイツに振り下ろされる。
 まったく動じないローゼンクロイツは逃げも隠れもしない。
「ライララライラ、宿れ光よライトセイバー!(ふにふに)」
 折りたたまれていた日傘に光が宿り、それは闇を斬り裂く〈光の剣〉と化した。
 〈光の剣〉が爪を受けた!
 力のこもったヴァッファートの腕が震える。
 そして、ローゼンクロイツの口元が微笑んだ。
「……キミはキレてるほうが弱い(ふっ)」
 爪を薙ぎ払いローゼンクロイツがヴァッファートの腕を駆け登った。
 ローゼンクロイツはヴァッファートの臀部まで辿り着き、そこで〈光の剣〉を突き刺そうとした。
「お灸を据えなきゃね、怒りを静めるツボだよ(ふあふあ)」
 〈光の剣〉が振り下ろされる瞬間、ローゼンクロイツがパタッと倒れた。
 思わずユーリは声をあげる。
「ローゼンクロイツ様」
 そして、アインが自信満々に説明する。
「説明しよう! 紅薔薇モードは体内マナと体力を多く消費するため、いきなり眠くなっちゃうのです。しかもローゼン様は寒いの苦手ですから、いつも以上に消耗が激しかったんでしょうね!」
 つまり昼寝しちゃったのだ。
 ニッコリ笑顔のユーリちゃん。
「あはは、それってアタシたちのピンチを意味してるんじゃないの?(ヤバイ、とてつもなくヤバイ。戦力の二人がやられてしまった今、戦えるのは……)」
 ユーリはアインの片をポンと叩いた。
「アインちゃんがんばれ、応援してるぞ♪」
「がんばります!」
 あっさりノッてくれて助かります♪
 フルアーマー装備のアインはヴァッファートに向かって腕を構えた。
「ロケットパーンチ!」
 うはっ、手が飛んだ
 超高速でぶっ飛んだパンチはヴァッファートの体にポンっと当たって、ストンと地面に落ちた。
 すげー無傷!
 どー見てもノーダメージ!
 飛ばしたパンチの下から本当の手を出してアインは頭を掻いた。
「えへへ、わたしじゃ力不足のようです。正義の魂(ソウル)が足らなくてごめんなさい!」
 頭を下げたアインに問答無用の不意打ち。
 ヴァッファートの手がパシッとアインを叩いた。
「あれ~~~っ!」
 アインは崖下に転落した。
 ご愁傷様です♪
 ユーリは胸の前で拳を強く握り締めた。
「みんなの死はムダにしないから!」
 ウソ泣きをして逃走しようとするユーリ。
 が、いつの間にか周りは氷の壁によって囲まれてしまっていた。絶対に逃がす気ゼロだ。
「あはは、どうするアタシ?」
 こうなったらこれしかない。
 ユーリは指を組んで天に祈りを捧げた。
「オーデンブルグ家の家訓、最後はとにかく神頼み!(嗚呼、お兄様……どうかアタシをお救いください)」
 祈りは天に届いたのか、奇跡が起きた。
 東の空に輝く一点の光。
 それはだんだん大きくなって隕石のごとくヴァッファートの顔面に激突。
 鼻血ブッファッート!
 雪を真っ赤にしながらヴァッファートはその巨体を横転させた。
 そして、こっちも雪にボトボト鼻血を垂らしていた。
「死ぬ、死ぬ、死ぬかと思ったーっ」
 顔面蒼白のルーファスだった。
 ちょっぴりユーリはムッとしていた。
「遅いですよ役立たず! さっさとこの事態を打開してください、そうしたら許してあげます(ピンチに現れるなんて……ルーファスにときめいた自分が悔しい)」
「えっ、事態ってどのような感じの事態なのかぁ?」
「そこにいるヴァッファートの怒りを静めてください、役立たずのへっぽこ魔導士」
 そこにいると言われてルーファスははじめて気づいたようだ。
「うわっ!(なんかデカイ毛玉が倒れてる)」
 腰を抜かしてルーファスは尻餅をついた。
 でも、よーく見るとヴァッファートはピクリとも動かない。
 ルーファスはそ~っと近づいて観察した。
「気絶してるみたいだけど。なんか一件落着してるみたいだよ? それよりも聞いてよ、私はあれから(・・・・)大変だったんだから!」
 あれからとは、つまり雪崩に呑まれてみんなとはぐれてしまったあとだ。
 ルーファスは自らの恐怖体験を語りはじめた。
「実はね気が付いたら雪の中に埋もれていていきなり生死の境を彷徨って、そんな私を助けてくれたのはオオカミだったんだ。でもヤツらは私を食料にするために掘り起こしたらしくって、私はそりゃもう必死で逃げたよ。お尻に名誉の負傷をしたりしてね、傷跡見るかい?」
「見ません!」
「それから私はどうにかオオカミの群れから逃げたんだけど、力尽きて倒れてしまったんだ。そしたら血の匂いを嗅ぎつけてシロクマがやって来てね、もう少しで食べられそうになったんだ。そんな私を助けてくれたのはシロクマよりも大きな怪鳥だったんだ。どうやらその怪鳥は母親だったらしく、子供が待つ巣まで連れて行かれちゃってね。必死で小鳥と戦ったよ。小鳥って言っても私と同じくらいあるんだけどね。そのとき一死を報いて羽根を一本抜いてやったんだ、見るかい?」
「見ねぇーよ!」
「それでね、どうにか巣からは逃げ出したというか転落したんだけどさ、落ちた場所が地獄の底まで続いてそうなクレバスでさ、しかもその中には未知の触手が繁殖してて、体の自由は奪われるし消化液で溶かされそうになるし、本当に大変だったんだ。ほら、魔導衣のこことか溶けてるからよく見てよ?」
「知るかボケッ!」
「ついに私の人生もここで終わるんだと思ったとき、謎の人影が触手をバッサバッサ倒して私を救ってくれたんだ。そして、お礼も言う前にその人影は姿を消してしまったんだけど……あの後姿はサルみたいだったんだよね。きっと見間違いだと思うけど」
「そんな眼なんて腐ってしまえ!」
「――で、今に至るわけさ」
 一番重要な話が抜けてます!
 なんで空から降ってきたのか、それは闇に葬られたのだった。
 そんな話に夢中になっていたせいで、二人はヴァッファートが静かに起き上がったことに気づいていなかった。
 その鋭い爪は静かに振り下ろされた。
 大きく眼を見開いたユーリ。
「そんな……」
 ユーリの手は黒い血で濡れていた。
 ルーファスは優しく微笑んで、そのままユーリにもたれかかって二人は雪の上に倒れてしまった。
 背中を抉る深い傷。
 ルーファスはユーリをかばって傷を負ったのだ。
「イヤーーーッ」
 ユーリの叫びが木霊した。
 大粒の涙を流してユーリは慟哭した。
 心の底から震える身体。
 瞼の瞑ると浮かび上がる残像。それはルーファスが最期に浮かべた微笑。その微笑にユーリは兄の温もりを重ね合わせた。
 マナフレアがユーリを包む。
 ゆらりとユーリは立ち上がった。
「許さないんだから、絶対に許さないんだから……」
 涙を振り払ったユーリを中心に突風が巻き上がった。
 ヴァッファートが牙を見せて口を開いた。
「メギ・ド・ホワイトブレス!」
 今までの増して強烈な吹雪を吐いたヴァッファート。それは最上級形の攻撃魔法。
 ユーリはそれを向かい討った。
「ラヴソウルヴァニッシュ!」
 ――憎しみは誰も幸せにできないからね。
 聖母の胸に抱かれるような温かな光がすべてを呑み込んだ。
 ユーリが放ったのは攻撃魔法レイラではなかった。他を傷つけるものすべてを包み込む優しさ。
 そして、ヴァッファートからも怒りが昇華され、柔和な顔つきになった。
「あらぁん、なにがあったのかしらぁん?」
 まったく記憶にございません状態。
 ユーリの全身からからふっと力が抜け、膝から崩れて雪の上にへたり込んだ。
「……ルーファス……他人を庇って死ぬなんて……バカだよ」
 もういくら呼んでもルーファスは帰って……。
「……勝手に殺さないでよ……早く治療してくれないかな……本当に死ぬんだけど」
 ルーファスは雪に顔を突っ込んだまま虫の息だった。
「ルーファス生きてたの!」
「だから……早く……治療を……」
 ユーリの瞳が輝いた。
「待って、今……ラヴヒール!」
 声が木霊しただけだった。
 もう一回!
「ラヴヒール!」
 声がむなしく木霊しただけだった。
 めげずにもう一回!
「ラヴヒール、ピコ・ラヴヒール、ラギ・ラヴヒール、マギ・ラヴヒール、メギ・ラヴヒール!」
 し~ん。
 ニッコリ笑顔のユーリちゃん。
「あはは、また魔法使えなくなっちゃった♪」
 バタッとルーファスは力尽きた。
 さよならルーちゃん、君の勇姿は忘れないからぁ!
 このまま放置すると本当にご臨終なので、ヴァッファートが救いの手を差し伸べた。
「そんな傷、ツバでもかけときゃ治るわよぉん」
 ドバッとヴァッファートはツバをルーファスに吐きかけた。全身ベトベトです。
 しかし、本当に傷口が塞がってるじゃないですかっ!
 実は霊竜ヴァッファートの体液には傷を癒す力があるのだ。
 ユーリはほっと胸を撫で下ろしながらも、冷淡の顔をしてルーファスの腹を蹴っ飛ばした。
「ほら、傷も治ったんですからさっさと立ってください」
「病人を少しは労わるって気持ちを持とうよ」
「アタシに口答えですか、いいご身分ですね……ヌッコロシますよ?」
「ごめんんさい、すぐに立ち上がります!(怖い、このユーリ怖いよぉ)」
 ルーファスはシャキッと立ち上がった。
 それとほぼ同時に雪に中から水色の影がムクっと立ち上がった。
「ふにゃ~、よく寝た(ふにゃふにゃ)」
 今頃目覚めたローゼンクロイツだった。
 ユーリはローゼンクロイツに抱きつこうと駆け寄った。
 そのとき!
「は、は……はくしゅん!(ふにゃ)」
 もともと凍った大地なのに、一瞬にしてもっと身も心も凍りついてしまった。
 ネコミミ!
 ふにふにしっぽ!
 にゃんにゃんローゼンクロイツ!
「にゃー!」
 〈猫還り〉してしまったローゼンクロイツの体から、ねこしゃんのぬいぐるみが次々と放出される。
 ルーファスが叫ぶ。
「あれは〈ねこしゃん大行進〉だ!」
 フィーバー状態のねこしゃんは、物にぶつかると『にゃ~ん』と鳴いて爆発を起こす。つまり、一匹が爆発と連鎖なんかしちゃったりして、あっという間に大惨事。
 周りを囲っていた氷の壁が崩壊する。
 次々と巻き起こる大爆発。
 雪煙が視界を完全に閉ざした。
 そして、耳を澄ますと聴こえてくる豪雪が崩れる音。
 ユーリの足元が沈んだ。
「あはは、なんかヤバそうですね!」
 ドゴゴゴゴゴゴォォォォォ!!
 嗚呼、山頂崩壊♪
「大丈夫カ小娘ッ!」
 謎の影が土石流に呑まれようとしていたユーリをお姫様抱っこした。
 ユーリの瞳に映る黒頭巾。
「セバスちゃん!」
「待タセタナ小娘!」
「来るの遅いシネ!(ありがとうセバスちゃん)」
「……あっ」
 なんか素の声が漏れた。
 見事に足を踏み外した黒子。
 黒子はユーリを安全な場所に投げ飛ばし、自分は雪崩に流されてしまった。
「小娘受ケ取レ!」
 ユーリに文明の利器が投げ渡された。
「アタシのケータイ!」
 そして、黒子とセバス人形は雪崩の中に消えたのだった。
 涙をかみ締めるユーリ。
「……ケータイじゃなくて通帳投げてよ。この役立たず!」
 その声はどこまでもどこまでも山脈にやまびこしたのだった。

《8》

 まったりお茶を飲んでくつろいでいるカーシャの目の前に、テーブルが崩壊する勢いでクーラーボックスが叩き置かれた。
「シネ!」
 叩き置いた張本人の第一声はそれだった。
 カーシャはめんどさそうにユーリに目を向けた。
「妾に向かってシネとはいい度胸をしておるな」
「シネ!」
 それ以外の言葉を忘れてしまったようだった。
 カーシャの目の前には白いマスクした一団がずらーっと並んでいた。被害者の会のみなさんだ。
 どっかの誰かさんのくだらないおつかいのせいで、み~んな風邪をひいてしまったのだ。
 ユーリはカーシャの胸倉を掴もうとしたが、爆乳が眼に入って手を引っ込めた。でも怒りは治まっていない。
「コレのせいで、どれだけ死に掛けたと思ってるんですか。サキュバスの力を取り戻すなんて大嘘じゃないですか!(コロス、今日こそは絶対にヌッコロス)」
「そんなこと言ったか……まったく記憶にないな(認めたが最後、ウソは死ぬまでつき続ける……ふふっ)」
「このアマがっ!」
 ブチ切れたユーリがカーシャを殺そうとしたのを、ジャドがそっと止めた。
「やめろ……俺が殺る」
 おまえがやるんかい!
 血の雨が降る寸前、ルーファスとアインが慌てて止めに入った。
「待った、ちょっと待った。暴力沙汰はよくないよ、平和的に解決しよう!」
「そうですよ、みんな無事に帰還できたんですから。それにジャドさん、わたしたちは報酬をもらえるから別に怒らなくてもぉ」
 ユーリはルーファスの胸倉を掴み、ジャドはアインの胸倉を掴んだ。
「「よくねぇーよ!」」
 ステレオ再生。
 仲間割れをしている四人をほっといて、ウキウキ気分でカーシャはクーラーボックスをオープン!
「なんじゃこりゃー!」
 カーシャの眼に飛び込んできた無残な光景。
 ユーリはニヤッと笑った。
「お気に召しましたでしょうかカーシャ先生♪」
「なんだこれは、溶けてしまっているではないかっ!」
「全部ヴァッファートから聞きましたよ……カキ氷ですってね!」
「妾の妾のカキ氷が……(カーシャちゃんちょっぴり傷心、ふふっ)」
 クーラーボックスの中に入っていたのは溶けた氷だった。
 どうやらカーシャは無性にカキ氷が食べたくなって、下々の者どもに極上の氷を採りに行かせたらしい。
 しかもあの場所は危険だったりするので、保険かけて複数に採りに行かせて『一匹くらい死んでもいっか』みたいな打算をしていたに違いない。
 ちなみにジャドとアインは依頼内容をちょっぴり勘違いしていて、『ヴァッファートから取って来い』というカーシャの発言を、ヴァッファートを倒して財宝かなにかを奪って来るのかと思っていたらしい。
 とにかくカーシャの野望は見事に打ち砕かれたのだった。
 マスク軍団は卑劣な魔女を討ち果たしたのだ。
 だが――。
「ルーファス妾に謝れ!」
 カーシャに言われてルーファスは土下座した。
「ごめんなさい、私は止めたんだよ嫌がらせはよくないって。ごめんなさい、ごめんなさい、どうか許してくださいカーシャ様!」
 この主従関係だけは絶対のようだ。
 呆れてしまったユーリ。
「もう行こう(なんか百年の恋も冷める感じ)」
 ジャドもすっかり怒りが冷めてしまった。主にルーファスの情けない姿を見て。
「そうだな。では……キャベツ!」
 いきなりジャドはカーシャにキャベツを投げつけた。
「妾にキャベツを投げつけおって、なにをするのだ!」
「俺の国の風習ですよ。とりあえずうっぷんが溜まったときはキャベツを投げつけるんです」
 そーなんだ。と思った全員はキャベツを手にとってカーシャに投げつけた。
「「「キャベツ!」」」
 キャベツまみれになったカーシャが喚く。
「おのれ許さんぞ(食べ物を粗末するともったいないオバケが出るのだぞ、妾は信じてないがな……ふふっ)」
 もはや誰も聞く耳を持っていない。
 ルーファスは土下座したままなので、キャベツの怨みは彼の土下座で許してもらうってことで♪
 さーってと、そろそろ用も済んだので部屋を出ようとしたとき、今までふにふにしていたローゼンクロイツに異変が!
「はくしゅん!(にゃ)」
 青ざめた四人はカーシャとローゼンクロイツを残して部屋の外に飛び出した。
 ジャドが日曜大工セットでドアに木を打ちつけて塞いだ。
「これはサービスだ」
「ジャド、グッジョブ!」
 ユーリは爽やか笑顔。
 その笑顔とは対照的にドアの向うからは悲痛な叫び声が聞こえていた。
「いやぁぁぁぁん!」
 みんなそろって聞こえないフリ。
 ユーリは少しはしゃいだようすでみんなの顔を見つめた。
「ねえ、今からスイーツ食べに行きませんか、ビビちゃんも誘って♪」
 スイーツと聞きつけてビビがユーリの目の前ににょきっと現れた。
「こんにちわんわん! あたしのこと呼んだぁ?」
「はい、ビビちゃんも一緒にスイーツ食べに行きましょう。もちろんルーファスのおごりで」
「私のおごりなの?」
 声は不満そうだが、顔はニッコリ笑顔だった。
 アインも瞳をキラキラ。
「わたしもご馳走になってよろしいんですか!」
 ユーリは大きくうなずいた。
「うん、あとでローゼンクロイツ様も呼ぼうね。ジャドも来るでしょ?」
「いや、俺は仕事がある。では、さらばだ!」
 いつものようにハトやら紙ふぶきを撒き散らしてジャドは姿を消した。
 ユーリはちょっと残念そうな顔をしたが、すぐに笑顔でビビとアインの腕を掴んで引っ張った。
「早く行きましょう。ところでビビちゃんのケータイの番号教えてくれませんか?」
「あたしケータイ持ってないんだ。持ってると親が二十四時間連絡してくるから」
「アインは持ってないんだよね?」
「はい、ごめんなさいです」
「じゃあ……ルーファスの聞いてあげる」
「私も持ってないよ。めんどくさいし、周りも持ってない人多いから。ローゼンクロイツも持ってないしね」
「あはは、そーなんですかー」
 笑いながらユーリはケータイを真っ二つにした。
 前の友達のメモリーは諸事情から全部デリートしていた。だからケータイのメモリーはほとんど空だった。だから新しい友達を登録しようと思っていたのに……。
 みんな持ってないんだってさ!
 ここでユーリはハッとした。
「……しまったセバスちゃんとも連絡取れなくなった」
 さよならケータイ。
 さよならセバスちゃん。
 やっぱり二人はいつまで経っても逢えない運命なのでした。
 でも、今のユーリは心の底から笑っていた。
「(嗚呼、お兄様。ユーリはとっても幸せです、新しい友達もいるし、新しい環境にも慣れてきました)」
 新しい世界に羽ばたいたユーリには輝く未来が待っている。
 ユーリの胸に宿った気持ちが未来を切り開くのだ。
「またサキュバスの力も失っちゃったけど、愛しい人たちのために力を使えたら、人は決して後悔なんてしませんよね。あのとき使った力が最後だったとしても、アタシは後悔しませんから、だってルーファスも助かったんだし。あ、これは浮気じゃありませんからね、アタシが世界で一番愛してるのはお兄様ですから♪)」
 今日も世界が愛に満ち溢れ、みんなが幸せに暮らせますように♪

 おしまい♪


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