第2話_エクストリーム部活動!

《1》

「それでは生徒会執行部の会議をはじめる」
 舞桜の第一声ではじまろうとした会議に、いきなり夏希からツッコミが入った。
「本当にココが生徒会室なんだよねえ?(だって……)」
「何か問題でもあるのか? リラックスできるように中流階級の茶の間を再現してもたのだが」
 いやぁ〜畳に好い香りがするなぁ。
 ほら、テレビなんかも置いてあって――ブラウン管の(笑)。
 お茶菓子のお煎餅が美味しそう。
「しかも掘りごたつね」
 という菊乃の補足。
 どの辺りが中流家庭なのだろうか?
 いくら地デジの認知度が100パー近いのに、対応機器の普及率は3割程度だったりするにも関わらず、家電業界はなぜか未だに高いテレビを売りつけようとしていて、貧乏人はテレビを見るなということなのかという勝手な被害妄想を抱きつつも、茶の間というか、リビングくらいにはブラウン管じゃなくて地デジ対応のテレビくらいあ……ないかもぉ。
 実にその点は中流家庭の現状を再現していると言ってもいいだろう、うん!
 しかし!!
 コタツなんて今時あまり家庭にないだろう。
 それを言ってしまうとコタツ信者たちのバッシングに遭うわけだが。
 でもみんなよく聴け、K県在住のPN『ししゃもにゃんをししゃもにゃんさん≠チて呼ばないで』さんのご家庭では、冬場になると三台ものコタツが現役で可動しているのだ!
 というわけで、ここは百歩譲って中流家庭にコタツはあるとしても、掘りごたつなんてあるわけないだろぉ〜。
 だがしかし!
 PNししゃもにゃん(以下略)さんの家には掘りごたつがあるのだ!!
 まあ、そんな感じの生徒会室。今は冬ではないので掘りごたつの掛け布団はありません。掘りごたつって移動できなから邪魔ですね!(でも、普通のテーブルとして使えるんだよ)
 今さら部屋のことを言っても仕方がなさそうなので、その辺りの問題はさらりと流された。
 再び舞桜が会議を進めようとする。
「では自己紹介からはじめよう。私の名は天道舞桜。古の魔王の生まれ変わりだ。座右の銘は『我が輩の辞書に不可能の文字はない』だ」
 誰もあそこにツッコミを入れないのは仕様だ。
 次に舞桜は夏希に目配せをした。
「あ、あたしの番? ええっと、岸夏希って言います。一生懸命頑張りますから、よろしくお願いします」
 夏希は菊乃と雪弥に視線を送った。先に口を開いたのは雪弥だった。
「僕の名前は鷹山雪弥。みんなと仕事ができて楽しく思ってるよ。魅神とは同じ中学だったんだ、三年連続で同じクラスで……な、魅神?」
「…………」
 狐面は視線を伏せるように下に向けられた。
 いっこうにしゃべろうとしない菊乃に変わって雪弥が話し出す。
「彼女の名前は魅神菊乃。実は僕の――」
 ドン!
 急に菊乃がテーブルに両手を叩きつけた。
 明らかに怒りが見えた。
 鷹山は口をつぐんで、しばらく間を置いてから横に視線を向けた。
「次はゴリラさんの番だよね?」
 茶の間にゴリラ。バナナを美味しそうに食べていた。
 夢中でババナを頬張るゴリラに変わって舞桜が説明する。
「彼女はゴリ子さんだ。歳は定かではないのだが、群れの中では一番の美人だっ――」
「ちょっと待てーッ!」
 部屋のふすまを開けて飛び込んできた謎の人影。
 あっ、ゴリラに初キッスを奪われ、童貞まで喪失しそうになったハルキ君だ(棒読み)。
「ゴリラなんかに生徒会できるわけないだろ、オレ様が正式な生徒会役員だろばーか!」
 ハルキに集まっていた視線が一気に伏せられた。
 舞桜が一つ咳払いをした。
「コホン、さて、それでは今日の議題を発表する」
「てめぇらムシすんなよ!」
 喚くハルキを完全無視。
 舞桜は話を進める。
「学園に必要不可欠なモノがこの学園にはまだない。そう、部活だ!」
「おい、ムシすんなって言ってんだろ、ばーかばーかばーか!」
「有名校には優秀な部活がある。本校も部活動に力を入れ、世界征服の礎にしたいと思っている」
「ばーかばーか、世界征服なんて子供っぽいこと言ってんじゃねーよ。男のロマンは正義のヒーローだろ!」
「まずは生徒諸君に新設したい部活のアンケートを取ろうと思う、意義がある者は?」
「ハイハイハイ、ハ〜イ! オレ様の意義を聞けぇ〜ッ!」
「では、ないようなので細かい仕事は事務に任せよう」
「いい加減にしろよ舞桜!」
 ついにプッツンしたハルキが舞桜に飛びかかろうとしたのだが――眉間に切っ先。刀を握っているのはもちろん舞桜。しかもハルキと目線を合わせない徹底したシカト。
 凍り付くハルキ。
「…………(落ち着けオレ様、動かなければ死なない。ゆっくりゆっくり後ろに下がれば……)」
 ツーッと眉間から一筋の血が垂れた。
 顔面蒼白になったハルキは焦って飛び退いた。
「いでーっ、てめぇ殺す気かっ、覚えてろよばーかばーかばか!」
 赤い液体をぴゅーっとしながら、心の汗を流すハルキは部屋を逃げ出していった。
 ハルキが出て行ったあと、雪弥が仕方なさそうに、
「出て行っちゃったね、ハルキ」
「うむ、ゴリ子さんにフラれたくらいで情けない」
 事務的に舞桜が答えた。
 そう言えばあんなにもハルキにご執心だったゴリ子さん、今はバナナが恋人らしい。
 バナナのほうが立派そうだもんね!(何が?)

《2》

 舞桜の『部費はいくらでも出してやる』発言を受けて、生徒たちは部活の新設に躍起になっていた。
 どんな部活動でも舞桜は認める方針だが、ただし帰宅部に関しては部費の支給をするべきか論議の最中だ。
 そんなわけだから、ありとあらゆる部活動が展開されることとなった。
 今日はそんな数々の部活を視察することになっている。
 二手くらいに分かれて、山のようにある部活を回ろうとなったのだが、ゴリ子さんはバナナに夢中で言うことを聞いてくれないし、菊乃は雪弥と回ることを拒否して、三手に分かれることになった。
 もちろん夏希は半強制的に舞桜と回ることになってしまった。
 学園生活がはじまって数日、夏希の近くにはいつも舞桜がいる。いくら夏希が逃げても追ってくるし見つかる。疲れ切ってそろそろ逃げる気力もなくなってきた。
 しかし、夏希はどーしても舞桜から離れたかった。
 なぜって、そりゃ〜命の危険を感じるからに決まってるじゃありませんか!
 今のところ直接的な暴力や嫌がらせは受けていない。が、舞桜と一緒にいると、いつもどこからか殺意の眼差しで見られてしまうのだ。きっと舞桜の熱狂的なファンに違いない。
 そう、夏希は嫉妬の嵐に晒されているのだ。
 舞桜と一緒にいなければそんなことにならないで済むだろうか?
 いや、たぶん無理だろう。
 舞桜が夏希のことを想っている限り、いくら距離を置いていても嫉妬される。むしろ舞桜から離れた瞬間に刺されかねない。なんだかんだ言って、舞桜の近くにいたほうがファンは抑制されるので安全なのだ。
 舞桜は部活のリストを開いた。
「ふむ、まずはどの部活から視察をするか?」
 横からリストを覗き込む夏希。
「う〜んっと(何コレ、まともな部活がない)」
 剣術部はまだマシなほうとして、魔術部や超能力部、科学捜査部や爆弾処理部という方向性なアレな部活まである。
 ちなみに舞桜の持ってるリストにはないが、デブ、小デブ、おデブ、株などの投資系、ラブなどの恋愛系まであるらしい。
 その中に、ただ一つまともな名前があった。
「ミステリーサークルだ……でも名前が重複してるよ?」
 夏希が尋ねると舞桜は首を横尾に振った。
「ミステリーサークルは三つあるのだ。一つは興味がなかったのでリストにないが、一つは地上に巨大な魔法陣を描く部活、もう一つは部員もミステリー、活動場所もミステリー、活動実体もミステリーで実に興味をそそられる」
「は?」
 てっきりミステリー小説とかの研究部かと思っていた。
 それにしてもまともな部活がない。
 これでは熱い青春を学生諸君が送れないではないか!
「ねえサッカー部とか野球部とか普通のはないの?」
 不安になった夏希が尋ねると、
「私が興味のない部活はほかの者が回っている筈だ」
 あるにはあるということがわかった。ちょっとほっとした。
 リストの中には文字からでは内容のわからない部活もいくつかあった。
 夏希はその部活の名前を指さした。
「ねえ、このテンモン部ってなに?」
 文字の音だけを聞いたら『天文部』だと思うが、リストには『天門部』と書いてあった。
「うむ、その部活は古に封印された天の門を探しだし、その扉を開けることを目的としているらしい」
「……う、うん(意味わかんない)」
 なんとなく返事はしたが理解不能。
 いくらどんな部活でも認めると舞桜が言ったものの、あまりにもよくわからん部活が多い。
「なんでもかんでも部活って認めちゃうんじゃなくって、まともなヤツだけ残したほうがぁ〜……(いいんじゃなかなぁって思うんだけど)」
 控えめな感じで夏希は提案した。
 そして、いきなり拒否。
「それはできない」
「なんで?」
「どの部活からどんな優秀な人材が生まれるとも限らん。ありきたりのモノからでは、なかなか秀でた才能とは生まれないモノだよ。私は一人でも多くのAHOの一員となる者が生まれることを願っているのだよ」
「アホ?」
「アンチ・ヒーロー・オーガニゼーション――反勇者組織の略に決まっているではないか」
 ここは触れるべきか流すべきか、なんだか触れると大やけどしそうだ。
 夏希は舞桜と付き合うようになってわかったことがある。
 天道舞桜は誇大妄想に取り憑かれているのだ。
 例えば、昨日の昼休みのこと、学園施設内にはいろいろなレストラン街があるのだが、そこで夏希が舞桜と食事をとっていたときのこと。
 ――殺し屋がいる!
 と舞桜が突然叫んだのだ。
 当然のごとく店内は騒然となったわけだが、実際は殺し屋なんて存在してなかった――舞桜の脳内を除いて。
 よくよく話を聞いてみると、殺し屋の正体はナプキンだったらしい。そこだけ聞くと意味不明だが、もっと掘り下げて訊くとこういうことらしい。
 レース付きのナプキンを眺める→レースがメイド服に見えてくる→そのメイドは銃器やナイフを携帯している→どうやらお屋敷にメイドとして潜入している→職業は殺し屋。
 そして、『殺し屋がいる!』ということになってしまったらしい。
 そんなわけだからイチイチ舞桜の発言を掘り下げないことに夏希はした。
 たしかにちょっと……というか、だいぶ舞桜は変わり者ではある。けれど、自称魔王の生まれ変わりの割りには、悪者ではない(いきなりキスをしてくるという悪癖はあるが)。だから夏希は今も舞桜の近くにいるのかもしれない。
 校内を歩いていると、廊下の向こうから女子生徒が走ってきた。
「助けてー!」
 そして、叫びながら通り過ぎた。
 夏希が『へ?』という顔をしていると、すぐに頭に角を生やした鬼が女子生徒を追って、
「悪い子はいねぇーか!」
 と、叫びながら目の前を過ぎ去っていった。
 思わず夏希は呟く。
「なに今の?」
 返事は思わぬ人から返ってきた。
「エクストリーム・鬼ごっこ部だよ」
 夏希は驚いて声の主を見た。
 いつの間にか夏希の真横には長身の男子生徒の胸板が――ちょっと顔を見上げると雪弥だった。
「鬼の扮装をした生徒が無作為に生徒たちを追い回すという部活らしいよ。さっきこれに似たエクストリーム・ストーキング部を見てきたけど、恐怖度指数はあちらが上だったね」
 そんな部活まであるのか……大丈夫かこの学園。
 夏希は舞桜が意味不明なことを言ったら極力絡まないが、雪弥だったら大丈夫だろうと質問したのが間違いの幕開けだった。
「ところでエクストリームってなに?」
「エクストリームスポーツを知らないのかい!?」
「知らないから訊いてるんだけど(そんなに驚くことなの?)」
「エクストリームスポーツというのは、極限の状況下で行なわれる究極のスポーツのことだよ。人生誰もが一度は競技に参加していると思っていたけれど、まさか未経験者かい!?」
 眼を丸くして驚く雪弥の横では舞桜まで驚きの表情をしていた。
「夏希は地球外生命体だったのか!」
 はっ?
 まただ、また舞桜の意味不明発言だ。
 あきらかに自分に振られた話題なのでスルーできない。仕方なく夏希は尋ねた。
「どういうこと?」
「この星に最近やって来たから未経験者なのだろう?」
「はい?」
「地球のエクストリームスポーツはやってことがなくとも、君の星ではやったことがあるだろう?」
「だから、あたしは生まれも育ちも地球なんだけど」
 ダメだ……舞桜と話をしているラチがあかない。
 夏希は雪弥に助け船の要請を出した。
「エクストリームスポーツってどんな内容なの?」
「そうだね、身近なところでは、駆け込み乗車、満員電車、不倫、ピンポンダッシュ、信号無視、最近ではアイロニングが有名だね」
 エクストリーム・アイロニング(アイロン掛け)とは、どんな場所でも、どんな状況下でも、とにかくカッコ良くアイロン掛けをするエクストリームスポーツである。例:自転車に乗りながらアイロン掛け。
「…………」
 思わず夏希は無言になった。思考もちょっと停止した。
 最後の砦、生徒会の良識、メンバーの中で自分以外で普通だと思っていた雪弥に夏希は裏切られて……ショック!
 よくよく考えるまでもなく、あんな生徒会選挙を勝ち抜いた人物が普通のハズないじゃないか。ただのイケメンが爽やかな顔をしたままジャングルを抜けれるわけないじゃないか。やっぱり雪弥も可笑しい人なんだ!
 さらに雪弥のこんな発言。
「実は僕も日本エクストリームスポーツ委員会のメンバーなんだ」
 そこに乗っかる舞桜。
「そう言えば私の父上もメンバーだったな」
「違うよ、君の父上は日本の委員会じゃなくて世界のほうだよ」
「ふむ、そうだったか。別に私にはどちらでもいいことだが」
 世界規模の委員会なのか……。
 雪弥は何かを感じたのか、廊下の向こうに眼をやった。
「彼もエクストリームスポーツの達人だよ」
 まだ廊下には誰の影も見えない。
 彼とはいったい誰のことなのだろうか。
 そのときだった!

《3》

「見つけたぞ舞桜! オレ様も部活作ったから覚悟しろよ!」
 廊下の向こうからバカが……じゃなくて、バカデカイ声で叫んだハルキ。
 夏希は不思議な顔をした。
「邪道くんがエクストリームスポーツの達人?(何の?)」
 邪道じゃなくて覇道です。
 雪弥が説明してくれた。
「彼はエクストリーム・借金、リアル鬼ごっこ、リアルかくれんぼ、そしてエクストリーム・貧乏の達人だよ」
 どれもあまり楽しそうじゃない競技だ。むしろ好んでやりたくない。
「貧乏で悪かったなこのブルジョワどもめ!」
 ハルキは怒った様子で近づいてきた。
「お前らに貧乏の苦しさがわかってたまるか。誕生日プレゼントもらった一〇円ガムを、大事に一週間かみ続けてたのに、ある日起きたら髪の毛にくっついてた苦しみがお前らにわかるのか!」
 わかんねーよ。ガムなんて一日ですら噛んでらんねーよ。K県在住のししゃもにゃんは同じガムを六時間くらいなら噛んでられるらしいがなっ!
 勝手に雪弥はハルキ家の借金事情を話しはじめた。
「彼の一族は膨大な借金を抱えていてね。噂では小さな国くらいの国家予算は超えるとかで、返す目処なんてないらしいよ。彼も相当な達人だけど、もっとすごいの本家の長男に生まれた彼のいとこさ」
 ハルキとは昔からの知り合いらしい舞桜だが、初耳だったことがあった。
「ほぅ、貴様にいとこがいたとは初耳だ」
「いちゃ悪いかよ。本家に関わると厄介だからあんま会ったことないし、あいつはオレ様のライバルだから会いたくもねーよ」
「ふむ、ライバルとはなんだ?」
「オレ様の夢は勇者になること、あいつの夢は魔王になることなんだと」
 舞桜は微笑んだ。
「なかなか面白い、魔王とな。そいつの名前は?」
「覇道ヒイロだよ」
「覚えておこう(ヒーローなのに魔王を目指しているのか。真物ならいつか会うことがあるかもしれないな)」
 勇者とか魔王とか魔王とか、なんですか人気職業なんですか?
 あまりにも目指している者の数が高くありません?
 そうそう、そう言えば新しい部活がどうかって話はどこ行ったんですかハルキさん?
「おっ、忘れるとこだったぜ。オレ様新しい部活作ったからな、名付けてアンチ舞桜部だ!」
 敵対対象を名指しですか(笑)
 舞桜はクルッと背を向けて歩き出した。
「さて、部活の視察をせねばな」
「おいコラッ、逃げんのかバカ野郎!」
 ハルキの罵声に舞桜は微かだが眉をピクッと動かした。
「逃げるだと……私がか?」
 振り返った舞桜。その表情はいつもと変わらない。しかし、どこか違う。
 舞桜はどこからか出した刀を抜いた。
「決闘の申し込みと受け取って良いのか、邪道?」
「おう、決闘でもなんでもしてやるよ!」
 威勢よく声を張ったが、ハルキの腰は完全に引けていた。
 なんでこんな展開になってしまったのか理解に苦しむ。だが、ケンカが起っていると言うことは確からしい。
 夏希は不安そうな顔をして、助けを雪弥に求めた。
「とめないと……」
「大丈夫だ、天道は強いから手加減もできるから(さて、覇道の一族がどこまでやるか、お手並み拝見といこうかな)」
 微かだが雪弥は不適に嗤った。だが、それを見た者はいない。
 ハルキは握った拳に汗を掻いている。その表情を舞桜は見とった。
「大胆は勇気を、臆病は恐怖を……それで私に勝つつもりか邪道?」
「うっせぇ!(正面からいったら絶対オレ様が負ける……わけねーけど、万が一っていう可能性もあるからな)オレ様からケンカ売ったんだから、勝負の方法も決めていいよな?」
「好きにしろ」
「エクストリーム・貧乏話で勝負だ!」
 なんだそれーッ!
「その勝負受けた」
 受けるのかーッ!
 どう考えても読んで字のごとくの競技だ。ちょ〜〜〜〜っお金持ちの舞桜に勝ち目などあるのか?
 雪弥はなぜかため息を落とした。
「ふぅ。僕は視察の続きがあるから行くよ(とんだ見込み違いだったな)」
 歩き去ろうとする雪弥に困った顔で手を伸ばす夏希。
「ちょっと鷹山くん!(……残されたあたしにどうしろと)」
 さあ?
 どうしましょう?
 ハッキリ言って夏希にはどうすることもできなだろう。ここはあまり巻き添えを食わないように、そーっと見守るのが得策っぽい。
 ハルキがビシッとバシッと先制攻撃を仕掛けた。
「オレ様から行くぞ!」
「掛ってこい」
「自分の髪と雑草を一緒に炒めて喰おうとしたことがてめぇにあるか! 異臭で死にそうになるんだぞ!」
 あー、髪の毛を燃やすと臭いよね……って、オイ!(ノリツッコミ)
 衝撃発言に固まっていた夏希だったが、どうにか口を開いてクエスチョン。
「なんで髪の毛?」
「オレ様はオレ様は……ビーフンってヤツを一度でいいから食べてみたかったんだ。世界三大珍味と呼ばれるビーフンをな!」
 三つのどれと勘違いしてるんだよ……。
 しかもなんか舞桜も勘違い。
「ビーフン……そんな珍味があったとは初耳だな。私も食したことのない食材だ」
 舞桜はきっとハルキとは違う意味で食べたことがないのだが、勘違いの連鎖は続く。
「けっ、てめぇも食ったことねーのかよ。金持ちのクセしてたいしたことねぇーんだな(舞桜も食ったことねぇってどんだけ高級なんだよ、チクショー)」
 だから、違うから。
 金持ちと貧乏の間に挟まれた中流家庭の夏希。
「ビーフンだったらいつもで食べさせてあげるけどぉ」
「本当かっ!」(舞桜)&「マジかっ!」(ハルキ)
 二人の驚きの声が重なった。
 あまりの衝撃だったのか、ハルキは打ち震えながら眼をギョッとさせながら、汗をだらんだらん滝のように流している。
「て、てめぇいったい何もんだ!(舞桜ですら食ったことねぇビーフンを……)」
「えっ……別に……(何者とか言われても困るんだけど)」
 口ごもる夏希の体が突然舞桜に抱き寄せられた。
「私の婚約者だ!」
 そーゆーことを聞いてんじゃありませんよーっ。
 ハルキはハッとした。
「そうか……てめぇらグルだな。二人してハメる気だな!」
 その解答に達した解答式を公開して欲しいのですが?
 グルだと思われるのは舞桜の態度がアレなので仕方がないとして、ハメるって何を?
 舞桜が怪訝な顔をする。
「グルとは失敬な。勝負は私とお前の一対一だ」
 話が若干噛み合ってないように思えますよー、っと。
 ハルキは再びハッとした。
「しまった、それが作戦だったんだな汚い野郎め。貧乏話でオレ様に勝てないと踏んだてめぇは、話をそらしてうやむやにするつもりだったんだろ!」
「この私が決闘を放棄するわけがなかろう。それにいつ私が負けると決まったのだ?」
 財力の差で圧倒的不利かと(一般的には勝ち組みですが)。
 舞桜は鼻で笑う。
「ふっ、いいだろう。私の話を聞くがよい!」
 ハルキと夏希は息を呑んだ。どんな貧乏トークが繰り出されるんどあろうか、この舞桜の口から?
「これを見よ!」
 と、言って取り出したのは五円玉……じゃないなぁ。
「これは寛永通宝という江戸時代に流通していたコインだ。一文銭の銭≠ニはつまり円の一〇〇分の一である。円よりも安い、これこそ貧乏に相応しいではないかっ!」
 はっ?
 が、思いのほかハルキはダメージを受けたようだ。
「なぬーっ!? くっ……一円よりも安い通貨があること知らなかったオレ様は、セレブだったのかッ!!」
 違うから安心して♪
 あまりのある意味壮絶な戦いを前にして、夏希は唖然としてしまっていた。
「(……この人たちっていったい)」
 BA・KA!
 舞桜の常識知らずは今にはじまったことではないが、常識とかってレベルじゃないぞ。
 敗北感たっぷりで床に手と膝をつけてうなだれるハルキ。
 敗者に手を差し伸べる舞桜。
「挫折とは成功への茨の道だ。勇気を捨てず信じて歩み続けることが大切なのだよ、さあ立ちたまえ」
 差し伸ばされた手をバチーン!
 っと、叩いてハルキは立ち上がった。
「チクショー覚えてろよばーか!」
 今日も心の汗を流してランナウェイ。
 負けるなハルキ!
 頑張れハルキ!
 そんなわけで、どうやら勝負は舞桜が勝ったようだ。
 さーってと、そろそろ本題に戻らなきゃね。
 えっ、みんな本題を忘れちゃったの?
 やだなぁ〜、本題っていうのは……。
「探したわ、天道さん」
 ゾッとするようなダークボイス。その場にいつの間にか立っていた菊乃。まるで怨霊ですね!
 菊乃は言葉を続ける。
「屋上で化け物が暴れているわよ」
 ……はい?

《4》

 現場に急行してみての感想。
「わ〜っ、すごーいCG」
 以上、現実逃避した一年A組岸夏希さん(一五歳)の生前の言葉でした。
 って、まだ死んでな〜い!
 が、死ぬのも早々遅くはないかもしれない。
 すぐ近くにいた菊乃がざっと説明する。
「召喚部が見事、召喚に成功したらしいわ(こんなに可愛らしい子を呼んじゃって、うふふ)」
 夏希は壊れた笑いを発する。
「あはは〜、成功って言うかこれって失敗じゃ?」
 それに同意する舞桜。
「ふむ、確かに失敗だな。どうみてもチワワが混ざっている」
「そこ!?」
 思わず夏希ちゃんツッコミ。
 さて、それでは今週のゲストに登場してもらいましょう!
 ガルルルルルルゥッ!
 野犬に似た威嚇。いや、野犬よりも遙かに恐ろしく、猛威に満ちた唸り声だった。
 人間の身長を越えるほどの体躯。
 それはまるで黒狗のような形をした化け物。
 三つ首を備えたキメラ。
 嗚呼、まさにギリシア神話に描かれる地獄の番犬ケルベロス。
 でも首が一本チワワだけどなッ!
 何の手違いか一本だけ混ざっちゃったチワワは、クリクリの瞳を潤ませながらプルプル震えている。そのだけ見たら、かわいい……けど、全体像を見るとグロだけどね♪
 まだ三本とも同じ狗のほうがマシだ。
 筋骨隆々の黒いボディと、いかにも凶暴そうなフェイス。そこにチワワが混ざっていたら、逆に異様で気持ち悪い。
 でも、そんな異形が菊乃はお気に召したようで。
「素敵だわ、うふふ。毛と肉を引き剥がして片方の目玉を抉ったらもっと素敵なのに」
 ヤル気か? 実行する気か? 殺っちゃう気かっ!
 菊乃の殺気を感じたのかチワワはプルプルしている。
 くぅ〜ん。
 可愛らしい声で鳴きやがる。でも首から下がミスマッチだけどな!
 だが、菊乃は戦闘の意思を示そうとしなかった。
「わたしは視察の続きがあるから、せいぜい頑張ることね天道さん」
 ……押し付けられた!?
 音もなく立ち去ってしまった菊乃。今回出番これだけ!?
 舞桜は、
「ふむ」
 とだけ呟いた。
 こんな悠長に構えている場合ではない。なぜってすでに召喚部員は病院送りにされちゃっているのだ。
 屋上に残っているのはケルちゃん一匹と、舞桜と夏希だけ。
 さて、先にケルちゃんの餌食になるのはどっちかな♪
 ケルちゃんは喉を鳴らしていつでも喉を噛み切り準備万端である。一方の舞桜は夏希を背中に隠し、腕組みをしながら悠長に考え事していた。
「まずは犬小屋の建設とトイレのしつけが必要だな。エサはやはりドックフードか……」
 飼う気ですか?
 うん、食費がいっぱい掛りそうだね♪
 じゃないだろーっ!
 モンスターを仲間にしたり、悪魔を使役しちゃたりするゲームとかあるけど、普通は化け物の類を飼わんだろ。
 そう言ったゲームの場合、モンスターを弱らせてみたり、トークでどうにかするのだが、話し合いは無理そうだ。
 だってケルちゃんヤル気満々!
 鋭い牙の覗く口から涎を垂らしながらケルベロスが飛びかかってきた。
 舞桜は白鞘から刀を抜いた。
「夏希、私より前に出るな。魔王とザコモンスターの格の違いを見せてやろう!」
 地面を蹴り上げて舞桜が刀を振るう。
 狙うはもちろんチワワ!
 だが、チワワの前に現れる別の首が舞桜に食いかかろうと迫る。
 柳のようにしなやかに身を躱し、舞桜は一刀をケルAの首に強打させた。
「峰打ちだ」
 言葉のとおり、ケルAの首は落とされることなく、ぐったりとうなだれて気絶した。
 一本の首が気を失っても残る二つがあれば体を動かせるのだろう。ケルベロスは唸り声をあげなら後退する。
 怪物を前にしてまったく動じず立ち向かう舞桜を見て夏希が、
「(変態だ!)」
 あまりにも普通のことをして処理する姿勢が、もはや変態としか思えない。
 しかもペットにしようとしているところが変態アップだ。
 舞桜は刀を構え直した。
「あまりおいたが過ぎるようならしつけが必要だな」
 ケルBは威嚇するように血の気の多い眼で舞桜を睨んでいる。
 チワワは怯えるように丸瞳をうるうるさせて今にも泣きそうだ。
 舞桜が駆ける。
 ケルベロスも全速力で走り舞桜と激突するかに思われた。
「なっ!」
 小さく声を漏らした舞桜。その頭上を飛び越えたケルベロス。
 狙いは舞桜の後ろだ!
「そうはさせるかっ!」
 すぐに舞桜は身を翻して夏希に元に走ったが間に合わない。
 闇に続く大口を前にして恐怖した夏希は体が固まったように動けない。
「(死ぬ!)」
 声にも出せずそう思った瞬間だった。
 ドーン!
 突如起った爆発で辺りは爆煙に包まれた。
 煙に映った爆乳のシルエット。
「ハ〜イ、エブリバディ。ちょうどいい実験体が暴れてるって言うから来てやったわよぉん!」
 セクシーボイスの持ち主は……誰?
 マジで誰ですか?
 新キャラの登場ですか?
 煙が徐々に晴れ、その白衣のナイスバディを確認して夏希が叫ぶ。
「鈴鳴先生!」
「オーイエス! 学園のマドンナ先生可学教師にして、あんたらの担任の鈴鳴ベルティーチャーよぉん!」
 新キャラじゃなくて二度目の登場ですね。
 爆乳を揺らしながらベルは方にバズーカ砲を担いでいた。これをぶっ放しやがったのだ。一歩間違えば夏希も巻き込まれていた。
 砲撃を受けたケルベロスは舌をベロリンしながら地面の上で痙攣している。
 ベルはハイヒールの踵でケルベロスをグリグリする。
「なかなかキュートなゲテモノねぇん」
 夏希以外全員の美的センスが可笑しいです。この珍獣のどこかいいんですか、チワワですか!
 とりあえずこれでお約束の召喚失敗騒動も解決したわけだ。
 と思ったのもつかの間、なんとチワワが起き上がり、仲間になりたそうにこちらを見ている!
 くぅ〜ん。
 潤んだ瞳のチワワに見つめられ、ぽわ〜んとした空気でその場が和やかになった刹那!
 一変して凶暴な形相になったチワワがベルに牙を剥いた。
「アタクシに牙向けてるんじゃないわよ」
 スカートから伸びるベルの長い脚がチワワのアゴを蹴り上げた。
 一発KO!
 きっと、チワワの顔は敵を欺く擬態だったのだろう。敵が油断したところで、本性を現して真の力を発揮する予定が、あっけなくベルの蹴りで泡を吹いて気絶してしまった。哀れだ。
 舞桜が『うむ』と声を漏らした。
「首輪が必要なようだな」
 まだ飼う気なのか……。
 もうなんだか夏希はどっと疲れてしまった。
「(みんなのノリについてけない)」
 仕方ない。周りがみんな変態変人なんだもの。
 何かを思い出したようにベルがポンと手を叩いた。
「あぁん、そうだったわぁん。これからアタクシのインポータントな話があるから、臨時生徒会会議やるわよ。生徒会室にハリーアップなさぁい!」
 勝手に話を進めるベルに夏希は素朴な疑問が湧いた。
「どうして鈴鳴先生が生徒会の仕事に関わってくるんですか?」
「だってアタクシ生徒会の顧問ですもの!」
「えっ?(顧問なんていたんだ)」
 知らなかったよ〜ん!
 生徒会が発足してから、そんな話一度も出ていなかったのだ。というか、顧問とかいなくても舞桜がどんどん話を進めていた。
 そんなわけで、ホントかウソか、次回話は急展開を迎えるのだった!(というテキトーな前振り)


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