第4話 サラセニアだよプリティミュー!

《1》

 ホウジュ区は巨大な都市なので、いろんなサービス業なんかが充実している。
 ミユはサービス業のお店が立ち並ぶ路を走っていた。
 そのサービス業とは風俗店、アダルトショップ!
 アインの自宅が近くにあるので、どーしてもこの路を通らなきゃいけないのだ。
 なのでミユはいつも駆け抜けることにしている。
 だが、しかし!!
 今日に限って走ってる途中で頭痛と吐き気が!
「な、なに……この臭い?」
 ミユは口と鼻を押さえながら辺りを見回した。
 バーコードハゲ!
 青ヒゲじょりじょり!
 スネ毛ボンバー!
 ミユは異様な光景を見てしまった。
 バニーちゃんの姿をした中年男たちの集団。
 股間のモッコリが放送コードギリギリですね!
 謎の変態女装オヤジたちが客引きをしていた。しかも、この腐った果実のような臭い。どうやらオヤジたちの香水らしい。
 ミユは看板を棒読みする。
「新装開店、オカマクラブ熟れた果実」
 熟れすぎて腐っている。店の名前を考えた奴の脳ミソも腐ってるハズだ。
 こんな店に誰が来るもんかっ!
 なんてミユは思ったが、ところがドッコイ!
 魔法に掛かったように男たちが店に吸い寄せられている。
 マニアだ、全国にマニアが店に集まってるに違いない。
 と、いうわけでミユは見なかったことにした。
「さーってと、早くアインのとこ行かなくちゃ!」
 逃げるように、というか、あからさまにミユはこの場から逃げた。

 唐突なセリフからはじまった。
「そういうわけだからバイト君、消えたオッサンたちの救出をするんだ」
 説明ゼロだった。
 アインはミユと顔を合わせた瞬間、いきなりそんなことを言った。
 あまりの意味不明さにミユは数秒間フリーズ。
 そこへワトソン君が補足説明をしてくれた。
「ここ数日、ホウジュ区獅子舞町で行方不明者が多発してるにゃ。その人たちを探して欲しいにゃー」
「あたしが何で?」
 今までも『何で?』と思えることをしてきたけど、今回はさらに摩訶不思議だ。
 だって今まではアインの私利私欲(趣味)のために働かせれてきた。なのに今回は人命救出?
 まるでこれじゃ正義の味方みたいじゃないかっ!
 ミユは慌ててアインのおでこに手を当てた。
「大丈夫、熱あるんじゃないの!?」
「熱なんかないよ」
「ま、まさか……偽者!」
 アインが偽者説浮上。
 さっとミユはアインから離れた。
「ワトソン君、このアインは絶対偽者よ!」
「偽者じゃないにゃー」
「はっ!? まさかワトソン君まで偽者!?」
 ミユピンチ!
 だが、ここでアインの思わぬ発言。
「バイト君こそ熱があるんじゃないのかい?」
 さらにワトソン君の発言。
「今日のミユは可笑しいにゃー。まさか偽者にゃ!?」
 しまった、そっちかっ!
 ミユのほうが偽者だったのかぁぁぁぁっ!!
 突然、ミユが低く笑いはじめた。
「ふふふふ、バレてしまっては正体を明かさないわけには……ぶっ!?」
 ミユ(偽)が何者かに後頭部を殴られた。
 殴ったのは――もう1人のミユ(新)だ!
 そして、アインが叫ぶ。
「ボクのフィギュアがーっ!!」
 ミユ(新)がミユ(偽)を殴るときに使用した鈍器が、アインのコレクションの1つだったのだ。
 アインショック!!
 ワトソン君はミユ(新)とミユ(偽)を見比べて傾げている。
「どっちが本物にゃ?」
 ミユ(新)は気絶しているミユ(偽)の胸倉を掴んだ。
「これのどこがあたしなのよ! こんなアゴ青くないし、スネ毛ボーボーじゃないし、そもそもどう見たってこれ男でしょ!」
 思わぬ指摘でアインとワトソン君ショック!!
 ……まったく気づかなかった。
「ボ、ボクの目を欺くなんて……」
「本物のミユと変わらないにゃー」
 まだ信じられないアイン&ワトソン君。
 そして、ミユ(本物)がボソッと。
「二人ともシネ」
 アインの手にはミユの自爆スイッチが握られていた。
「あはは、どーやら本物のバイト君のようだね。でも、確実な証拠を得るためにボタンを押してみようかな」
「やめてくださいお願いします」
 ちょー真面目な顔でミユは棒読みした。
 アインだったらマジで押しかねないような気がする。
 なんとか阻止するためにワトソン君が冷静に言う。
「ここで爆発したらアインの大事なフィギュアも吹っ飛ぶにゃー」
「それもそうだね」
 アイン納得。
 てか、フィギュアがぶっ飛ぶ前に、アインの体がぶっ飛ぶ。
 さてと、ひと段落したところで、問題はこの気絶しているミユ(偽)のことだ。
 アインはマジックハンドを使ってミユ(偽)の体を調べはじめた。
「ふむ、どうやら胸は詰め物らしいね。股間にも蛇口型の排泄器官があることから、これは……男だ!」
 ミユは呆れていた。
「だから言ってるじゃん」
 問題はそんなことじゃなくて、この女装男が何者で、いったい何の目的だったのか、そこが重要ではないのか?
 しかし、そんな答えなどすでにアインの頭脳は解決していた。
「こいつはボクの大事なコレクションを狙っていたんだ。そうに違いない!」
 いつもミユは思う。
 本当にこのクソガキは天才科学者なのだろうか?
 とりあえずこの女装男は縛り上げ、あとで警察に届けることで一件落着……したのか?
 アインの切り替えは早かった。
「さて、そういうわけだからバイト君。さっきも説明したけれど、いざ出動だよ!」
「はっ?」
 ミユには理解不能だった。なぜって、その説明とはミユ(偽)にしたものだったからだ。てゆか、ミユ(偽)にした話も説明になってなかった。
 ワトソン君がミユの苦悩をキャッチして説明してくれた。
「獅子舞町で失踪者が多発してるにゃ。それを救出するのが今回の任務だにゃー」
「あたしが何で?」
 デジャブー!
 だが、先ほどと同じ展開にはならなかった。
 アインがめんどくさそうに捕捉をする。
「失踪者の中に原画家が混ざっていてね、彼がいないと『ときめけ』の発売日が延期になるんだ……最悪、発売すらできなくなるかもしれない」
「ときめけってなに?」
「ときめけを知らないなんて、キミは人生を5パーセント損失しているよ。ときめけと言えば、『闘神菊地さんのメリケンサック拳勇伝(けんゆうでん)』の略じゃないか、超人気格闘恋愛シミュレーションだよ」
 ちなみにこの部屋の棚にもそのフィギュアが飾られていた。
 七三分けの眼鏡サラリーマンのムキムキ筋肉フィギュア。と、その傍らに並ぶ総勢8人の女性キャラ――全員攻略可能だ!
 とにかく今回もアインの私利私欲(ワガママ)のためにミユは働くらしい。
 ホウジュ区獅子舞町といえば、アインの研究所のすぐ近くで、そういえばミユはここに来る前通った道だ。
 そして、ミユはある重大なことを思い出してしまった。
「あ、そういえば……ここに来る途中、オカマのお店が新しくできてたような……」
 散らばっていたパズルのピースが合体する。
 そう、まさに床に散らばっているグルグル巻きの女装オヤジ。このオッサンと失踪事件が結びついてしまった。
 アインはパソコン画面を眺めていた。いつの間にか作った線グラフだ。
「ふむ、あの店が開店した時期と、失踪者事件が起きはじめたのは同時期だね。イコール、このコスプレマニアは、調査を開始しようとしたボクたちに向けられた刺客ということになるね」
 そこまでわかったら、あの店に乗り込むしかない――もちろんミユが。

 とりあえず店の前まで来た2人と1匹。物陰に隠れながら店を監視。
 相変わらず満員御礼ってな感じで、次々と男たちが誘われるように店に入って行く。
 そして、この腐った果実のような臭い!
 すぐにアインはこの臭いを化学分析した。
「一種のフェロモンだね。男性を惹きつける作用と幻覚を魅せる作用があるらしい」
 男性のみに効き目が現れる臭い。
 だからミユは平気なのだ!
 だから猫のワトソン君も平気なのだ!
 だからアイン――にミユは目を向けた。
「そう言えばそうだ、まだあの話に決着ついてない!」
「ボクにどんな話があるって言うんだい? 給料の交渉なら無駄だよ」
「違くて、アインがおん――」
「あーっ!!」
 急にアインが叫んだ。
 アインが見たのはあの店に入っていくとある男。
「あれはときめけのシナリオライターじゃないか!!」
 原画家とシナリオライターいなくなったら全滅。
 アインは思わず飛び出していた。
 そして、捕まった。
 怖い女装オヤジに連行され店の奥へ消えて行くアイン。
 ミユは見なかったことにした。
「さーてと、家に帰ってマンガでもようかなぁ」
 帰ろうとするミユの脚にワトソン君がしがみついた。
「待つにゃー、アインを助けるにゃー!」
「起爆スイッチのない今、あたしに怖いものはない! そんなわけでさよならぁ〜」
 と、帰ろうとした矢先だった。
 一眼レフカメラを持ってあの店に近づく少女の姿。ミユはその少女を物陰からじーっと観察した。
 ミユはその少女の名を口にする。
「メグちゃんだ」
 プリティミューの追っかけメガネっ娘で、ミユの学校の後輩でものあるメグだ。
 でもどうしてこんなところへ?
 まさか、ミユの後を尾行してきたのか?
 メグは女装のオッサンとなにやら会話していた。
「失踪事件とこの店が関係することはわかってるんです!」
 強い口調でメグは変態女装オヤジに詰め寄っていた。
 ミューの追っかけばかりフューチャーされるメグだが、実はいろんな事件の追っかけカメラっ娘だったりするのだ。
 しばらくミユが観察を続けていると――あ、メグが捕まった。
 アインに続いてメグまでもが、店の奥に連れ去られてしまった。
 こうなってしまっては良心の呵責とかで、放っても置けなくなってしまったミユ。
 仕方なく救出に動き出すミユだったが、どうやって店に侵入するのか?
 ミユはこれでも思春期真っ盛りの女子中学生。あんな如何わしい店に出入りできるハズがない。
 ミユはじーっとワトソン君を見つめた。
「ワトソン君がんばって」
「にゃ!?」
「ワトソン君がお店に侵入して、あたしを手引きして裏口から入れてくれるとか、そういう作戦でいこうよ、ね?」
「おいらはムリだにゃー!」
「ワトソン君なら平気、水を被れば人間になれるんでしょ?」
「あんな店イヤだにゃー!!」
 駆け出して逃げるワトソン君。
 ミユはしっぽを掴もうとしたが、まんまと逃亡されてしまった。
 1人残されたミユ。
 すぐ近くには毒蛾の巣窟。
 バーコードハゲ!
 青ヒゲじょりじょり!
 スネ毛ボンバー!
 あんな地獄に正面から突っ込む勇気も根性もない。
 とりあえずミユは裏口に向かった。
 従業員用の裏口。
 ミユは念のためドアノブに手を――。
「あ、開いた」
 開いてしまった。
 店内に入った途端に鼻の奥を攻撃してくる刺激臭。あの腐った果物のような臭いだ。
 忍び足でミユは店内を捜索。
 ミユは地下に続く階段を発見した!
 怪しい臭いがプンプンする地下だ。
 階段を下りると目の前に立ちふさがったドア。
 ミユはそのドアを開けた!
 すると!
 なんとトイレだった。
「は?」
 思わずミユの口から漏れた。
 しかも、運が悪いことにトイレで女装オヤジがう○こ中だった。
 股を開いて便座に座っているオヤジと目が合ってしまった。股間にモザイクを入れないと放送禁止になってしまう。
 眼を剥いて固まっていたオヤジが急に叫ぶ。
「キャー痴漢よ!」
「はっ?」
 痴漢=自分という公式が理解できなかった。
 むしろ女装したオッサンのほうが痴漢でしょ? みたいな。
 どうして、どうして、と思いながらミユは逃げた。
 騒ぎはどうやら大きくなってしまったらしく、痴漢騒ぎでそこら中に女装したオッサーンが溢れ出した。
 ミユは必死で逃げた。
 そして、ミユは再び地下への階段を見つけた。明らかにこの店の構造は可笑しい。
 今度はバスルームかと思いながらもミユは階段を下りた。
 地下室に下りると、すぐに鉄格子の牢屋が目に入った。中にはたくさんの男が捕らえられている。そんな中で浮いている二人の存在。
「バイト君、早く助けてくれないかな?」
 アインだった。
 そして、もう1人はメグ。
「センパイ、どうしてこんなところに!?」
 その質問をミユは軽くスルー。
 すぐにミユはみんなを牢屋から助けようとするが、鍵がないのでどーにもならない。
 ミユが困っていると後ろから気配がした。
 すぐにメグが叫んだ。
「センパイ危ない!」
「はい?」
 と、ミユが後ろを振り向くと、そこにはなんと……スク水姿のオヤジが立っていた!
 股間からはみ出してる未処理のお毛毛が(ry
 その姿を見たミユは精神的痛恨の一撃を受けて気を失ってしまった。

《2》

 と、いうわけで――。
「バイト君まで捕まったら意味ないじゃないか」
 明らかなアインのグチ。
 さらにこっちからも攻撃される。
「どうしてセンパイがいるんですか?」
 しつこいメグからの質問。
 もちろん質問の答えを正直に言うわけにはいかない。メグにプリティミューだってバレたら大変だ。かと言ってウソで誤魔化してもメンドクサイことになりそうだ。
 なので完全シカト。
「センパイ、わたしの話聞いてるんですか?」
「そんなことよりここを脱出する方法を考えなきゃね!」
 ミユはメグと目を合わせない。絶対に合わせない。合わせないっていうか、見えていないつもり。
 アインはため息を漏らした。
「脱出できるならボクがとっくにやっているよ」
 他の男たちもあきらめモードだった。
 かなり巨大な牢屋だ。中にいるのはざっと4、50人。それでもまだまだ余裕のある牢屋だ。
 これだけの人数が集まっても脱出不可能なのだ。
 ミユは牢屋の外を見渡した。牢屋の見張りにはスク水のオッサン1人だ。さっきはワキ毛ボンバーとモッコリ股間と以下略で気絶してしまったが、もう気絶するほどのインパクトは感じない。だって後姿しか見えないもん。ただ、ケツに食い込む水着が目の毒だ。
 スク水オヤジは何も持っていない。牢屋の鍵はどこにあるのだろうか?
「この牢屋の鍵ってどこにあるの?」
 ミユが牢屋の住人たちに尋ねると、コソコソ話で伝わってきた。牢屋の鍵はあのスク水オヤジが持っているらしい――股間に入れて。
 最悪だ。
 股間に入ってる鍵なんて触りたくもない。
 さらに脱出は困難になった。
 時間だけが過ぎていく。
 だんだんと焦りの色が濃くするアイン。
「早くしないとアニメがはじまっちゃうよ」
「どーせ録画してるんでしょ」
「オンタイムで観ることに意義があるんだよ。録画はあくまで保存用さ」
「はいはい」
 ミユにはどーでもいいことだった。
 アニメの心配なんかより、今は自分の身が心配だ。
 男たちはなぜ集められたのか?
 牢屋の次のステップがあるハズだ。
 さらに時間は過ぎていく。
 アニメを見逃したアインはショックのあまり隅っこで丸くなっている。ミユは励ます気にもなれなかった。
 またさらに時間が過ぎた。
 牢屋番をしているスク水オヤジに異変が!
 豪快ないびきを掻いて寝やがった。
 そんな爆睡状態のスク水オヤジに天誅が下った。
「にゃー!」
 という掛け声と共に、空手チョップでスク水オヤジが気絶させられた。
 そして、スク水オヤジを倒した人影がミユたちの前に姿を現した。
「ひょっとこ仮面ただいま参上にゃー!」
 その姿を見てミユは凍りついた。
 真っ赤なフンドシ姿の変態が立っていた。
 しかも、ひょっとこのお面まで被っている変態だ。おまけにお面のおでこにはペンで『Ζ』と書かれている。
 ひょっと仮面を見るメグの瞳は輝いていた。
「かっこいい!」
 ヒドイ美的感覚だった。
 メグはもうひょっとこ仮面のトリコだった。
「お尻にフンドシが食い込んでるところが萌え〜。ところでなんで頭にゼットの文字が書かれているんですか!」
「ゼットじゃないにゃー、ゼータだにゃ。正式名称は猫又戦士Ζひょっとこ仮面だにゃ!」
「素晴らしいネーミングですね!」
 ――どこがだよ。なんてミユは思ったが、触れると怪我をしそうだったので、その話題には触れないことにした。
 落ち込んでいたハズのアインが、牢屋越しにひょっとこ仮面の前に立った。
「遅いよ、ワトソン君。ここの鍵はそこにいるスク水が股間に隠しているらしいよ」
「ワトソン君じゃないにゃー、ひょっとこ仮面だにゃー!」
 語尾がもろにワトソン君です。
 が、ここは百歩譲ってその話題には触れないであげよう。
 ワトソン君……じゃなかった、ひょっとこ仮面はさっそく鍵を探すことにした。
 なんの躊躇もなしにスク水の股間に手を突っ込み、それを掴んで引っ張った!
「ぎゃー!」
 気絶していたハズのスク水オヤジが絶叫してまた気絶した。今度は口から泡を吐いている。
「間違えたにゃー」
 なんて言いながら笑って誤魔化すひょっとこ仮面。でも、笑顔は隠れて見えません。
 今度こそ本当のカギを見つけて取り出した。
「在ったにゃー」
 さっそくそのカギを使って牢屋を開けると、みんな一斉に逃げた――牢屋の奥に。
 ひょっとこ仮面と微妙な距離を保ちつつミユが言う。
「3メートル以内に近づかないで」
「どうしてにゃ?」
「そんな手で近づかないで、早く洗って、むしろ切断して」
「なんでにゃ?」
 理解してないひょっとこ仮面はミユに近づこうとした。
 ミユが拳を握る。
「近づくなって言ってんだろシネ!」
 怒りの鉄拳がひょっとこ仮面の顔面をぶっ飛ばした。
 サイボーグだったりするミユのパンチは殺人パンチだ。
 さよならひょっとこ仮面!
 ぶっ倒れるフンドシ青年と割れて床に転がるお面。早くも素顔が露になってしまったが、殴られた衝撃で見るも無残な顔になっていて、どこの誰だかわかんない状態だった。
 ボロボロで、大きく晴れ上がったフンドシ青年の顔を見ながら、メグは首を傾げていた。
「どこかで見たことあるような……?」
 でも思い出す前にミユに腕を引っ張られた。
「早く逃げるよ」
 そんなこんなでフンドシ青年は放置で大脱走がはじまったのだった。

 牢屋から逃げ出した男どもの大行進!
 なんかものスッゴイ数の軍勢なので、次々と現れる変態どもを踏み付け蹴散らしていく。
 これなら逃げるのも簡単かもしれない!
 なんて思っていた矢先、腐った果実のような臭いがあたりに立ち込めた。
 男たちの足が止まり、次々とバタバタ気絶してしまった。
 残ったのはミユ、メグ、アイン。
 気づけば店内までやって来てしまっていた。
 客は誰一人いない。
 女装した変態さんたちもいなかった。
 腐臭がさらに強くなった。
 気配を感じてミユは振り返った。そして、見なかったことにした。
「ちょっとちゃんとこっち見なさいよぉン!」
 見てはいけない物体が野太い声で叫んだ。
 チューリップみたいなスカートを穿いた巨体のオヤジ。標準装備の青ヒゲもバッチリだ。
 うん、バニーとかスク水に比べたらぜんぜん平気♪
 どうやら臭いの発生源はこの変態らしい。だとしたら、この変態を倒したら一件落着になりそうだ。
「というわけでバイト君、がんばってくれたまえ」
 メガネを拭きながら軽く言いやがったアイン。本気でミユは殴ってやろうとしたが、ここはグッとグッと抑えた。
 アインは簡単に言ってくれたが、問題はそんなに簡単じゃない。
 ここでの大問題はアインじゃないほうのメガネッ子――そう、メグだ。
 あくまでミユは普通の女子中学生を通さなければならない。
 そんなこんなで戸惑ってる間に、全身黒タイツの戦闘員まで現れた。
「ふむ、やはりジョーカーの仕業だったらしいね」
 そう分析したアインはソファに座ってゆっくりしていた。しかもどこから見つけてきたのか、飲み物まで勝手に飲んでるし!
「むふふ、そうよ、アタイはジョーカーのアイドル怪人サラセニアぁンちゃんよぉン♪」
 怪人というとか変人だ。
 ついでにアイドルじゃなくてゲテモノ。
 雑魚戦闘員が襲い掛かってきた。
 ミユは仕方なく変身しないで戦うことにした。
 10万倍馬力のパンチで戦闘員をボッコボッコにする。黒戦闘員くらいなら変身しなくても大丈夫。
 人間とは思えないパワーをメグの前で披露しちゃってるが、このくらいなら学校で十分見られちゃってる。
 最近はパワーをセーブすることに慣れてきたミユだが、それでもクラスメートを病院送りにしてしまう事件を起こしてしまっている。
 バスケットの授業でボールを破裂させたときは、爆弾騒ぎになっちゃって大変だったりした。
 学校でのミユはそりゃもう浮きっぱなし。
 ぶっちゃけもうプリティミューってバレたほうが楽かも。学校で危険人物扱いされて友達がいなくなるより、変身ヒロインとして騒がれたほうが精神的苦悩が少なくて済む。
 そうだ、メグが見ているこの場所で変身してしまえば!!
 もう迷いなんてない。ミユはプリティミューに変身しようとした――のだが。
「あれ……ない?」
 ミユはポケットというポケットに手を突っ込んだ。
「ない!?」
 叫ぶミユ。
 変身アイテムのケータイがない!
 そうだ、牢屋に入れられたときに取り上げられたんだった。
 ちなみにアインも高機能ランドセルと四次元白衣を取り上げられている。
 ミユは戦闘を忘れて探し物をしている間に、なんとメグとアインが捕まっていた。
 サラセニアぁンは勝ち誇った笑いを発する。
「むふふふ、アンタもおとなしく捕まりなさぁーい!」
 人質を捕られてしまった今、無理に抵抗したらヒドイことになりそうだ。
 青ヒゲで頬擦りとか、濃厚なキッスとか、ここで言えない内容とか!
 ミユが抵抗をやめて敵に投降しようとしたそのとき、店の裏から新たな変態が乱入して来た。
「ひょっとこ仮面再び参上にゃー!」
 フンドシ青年再び現る。
 しかも、割れたハズのお面が修復されている。
 ひょっとこ仮面はアインを捕らえている戦闘員に飛び蹴りを食らわした。さらにそのまま床に落ちた!
「にゃー!!」
 ひょっとこ仮面肋骨強打。
 負傷したひょっとこ仮面は動けない。
 だが、名誉の負傷の甲斐もあって、アインが敵の魔の手から逃げ出せた。
 だが、代わりにひょっとこ仮面が捕まった。
 だが、混乱に便乗してメグが逃げていた。
 1匹……じゃなかった、1人が捕まって2人が逃げられた計算だ。
 捕まったワトソン君の心配より、アインは自分のことが大事だった。
「ワトソン君、ボクのランドセルと白衣は?」
「ワトソン君じゃないにゃー、ひょっとこ仮面だにゃ。アインの7つ道具はないけど、ミユのケータイは見つけて来たにゃ」
 アインの7つ道具?
 えっ?
 それって、つまり高機能ランドセルと四次元白衣のほかに、5つなんかスゴイ道具があるってこと?
 しかし、そこは一切スルーだった。
 ひょっとこ仮面はフンドシの中に手を突っ込み、取り出したケータイをミユに投げた。
「受け取るにゃー」
 力のこもったミユの拳。
「んなもん使えるかぁーっ!」
 メガトンパーンチ!!
 はい、ケータイ粉々です。
 ミユのパンチでケータイは見事に粉砕してしまった。
 その事態を把握したミユは青い顔をした。
「ヤバッ!!」
 いまさら後悔しても遅いです。
 本当は不本意だけどしょうがない。ミユはこう叫んだ。
「アイン、メグを連れて逃げて!」
「めんどくさいよバイト君」
 うはっ、いきなりアイン拒否。
 メグさえいなければ、どーにかなるかもしれないのに!!
 そのメグがいない!?
 いつの間にかメグは姿を消していた。一足早く逃げたのかもしれない。
 もしかしてチャンスが巡って来た?
 今こそミユのパワーを発揮するときだ!
 でも、変身はできません。
 人質無視でミユは戦闘開始!
 パンチ、キック、パンチラ見えても気にしません。
 次々と戦闘員が倒れていく中、ひょっとこ仮面を捕らえている戦闘員が叫ぶ。
「キーッ!」
 なんか怒ってるようだ。たぶん『動くな、この人質がどうなってもいいのか?』みたいな感じだと思われる。
 ひょっとこ仮面が叫ぶ。
「おいらのことは気にせず戦うにゃー!」
 男気だ。そのフンドシも男気だ。
 ということで、人質の命をかるーく無視してミユは戦い続けた。
 そしたら見事にひょっとこ仮面がぶん殴られた。
「にゃ!」
 ミユはかまわず戦い続けた。
 そしたらひょっとこ仮面にボディブロー。
「にゃ!!」
 ミユはそれでも戦った。
 そしたらひょっとこ仮面の顔面にパンチ!
 ひょっとお面がぶっ飛んだ。その下から現れた顔は……やっぱりワトソン君(人間バージョン)。
「にゃー! やっぱり助けてにゃー!」
 急に弱気だ。
 すでに戦闘員はワトソン君を捕らえている1人。
 そして、自称アイドル怪人サラセニアぁンが残っていた。
「むふふ、ただの学生じゃなわいねぇン」
 はい、本当はプリティミューです。
 ついにサラセニアぁンが動く。
 な、なんとサラセニアぁンは自らのスカートをめくり上げた!
 痴漢だ、変態だ、露出狂だ!!
 サラセニアぁンの股間から生えている巨大なアレ。
 ミユはアレを見て凍りついた。
「お、大きい……」
 ミユに向けられた巨大なアレ。
 もう逃げることもできない。
 どうするミユ!!

《3》

 なんと、サラセニアぁンの股間には大砲が付いたいたのだ!
「むふふ、このメガ粒子砲でズッコンバッコンしちゃうわよぉン!」
 ミユの立ってる位置はもろ射程範囲内。しかも近距離すぎる。サイボーグにされちゃってるミユも避けられるハズがない。
 こんなピンチのときに、都合よく出てきてくれたひょっとこ仮面も捕まっている。
 もうミユたちを助けてくれるキャラはいないのか!?
「天が呼ぶ、地が呼ぶ、人が呼ぶ、悪を倒せと私を呼ぶ……」
 誰かの声が響き渡った。
「私は正義の魔女っ娘、天に代わってお仕置きよ!」
 物陰から紅髪[アカガミ]のセクシー美女が現れた!
 魔女っ娘を自称してるクセに、魔女っぽいのは三角帽子と悪魔の羽が生えた杖。
 衣装は紅いラインの入った黒くて水着っぽいボディスーツ。ダイナマイトボディが強調され、Gカップの巨乳が揺れていた。
 それを見たミユが胸を押さえて呟く。
「……負けた」
 ミユはDカップだった。しかもシリコン樹脂。
 突如、現れた魔女っ娘は魔法を唱えた。
「マジカルシュート!」
 杖から放たれた光の弾が戦闘員にヒットして、捕まっていたワトソン君が助かった。
 ずっとオレンジジュースを飲んで、くつろいでいたアインが飛び上がった。
「魔導少女マジカルメグじゃないか!」
 マジカル……メグ?
 ミユはマジカルメグの顔をまじまじと見た。典型的な綺麗形の顔で、ボディもダイナイマイト。知り合いのカメラっ娘メグとは似ても似つかないセクシー美女だ。
 興奮気味のアインはさらに説明を続けた。
「マジカルメグと言えば、半年前に突如現れたリアルヒロインで、一部の熱狂的なファンから支持されてフィギュア化、さらにはネットで漫画になるほどの人気だよ。プリティミューはその2番煎じ、亜種ってとこだね」
 プリティミューの生みの親はあんたでしょ。それを2番煎じ扱いって……。
 マジカルメグはミユの顔を向けた。
「プリティミュー、ここは引きなさい」
 なんか正体バレてるし!
 今回の怪人はなんか強そうだ――股間のアレが特に。だからマジカルメグの言うとおり逃げちゃったほうがいいかもしれない。ミユは逃げる気満々だった。
 だが、アインが反対した。
「それはできないね。プリティミューにはジョーカー怪人をフィギュア化する崇高な使命がるんだ。そして、世界で1つだけのレアフィギュアがボクのコレクションに加わるんだ!」
「そんなくだらないことのためにミューは戦っているのか……」
 マジカルメグは吐き捨てるように言った。
「そんな不純な者たちに戦いは任せられない。ジョーカーは私が壊滅させる!」
 声を張り上げながらメグはサラセニアぁンに襲い掛かった。
 放置されていたサラセニアぁンは怒っていた。
「いきなり現れてアタイより目立ってるんじゃないわよ、メガ粒子砲発射!」
 サラセニアぁンの股間から巨大な光の柱が放たれた。
 杖を構えたマジカルメグ。
「Mフィールド!」
 大爆発が起きた。
 眼が焼けるような閃光の直後、鼓膜が破れるほどの轟音が響いた。
 誰かが咳き込む声が聞こえた。
 辺りは煙に包まれ、なにが起きているのかまったくわからない。
 ミユは夜の街を眺めた。
「あはは、獅子舞町は夜も賑やかよねぇ〜」
 ――さっきの爆発で店が完全にぶっ飛んでいた。
 すぐにマジカルメグの真後ろの隠れたミユ、アインはかすり傷程度で済んだのだ。
 サラセニアぁンの姿はなかった。
 焼けた果実の残り香と、金色の粉が舞っていた。
 マジカルメグは辺りを見渡して言う。
「怪人は倒したわ」
 それだけ言ってマジカルメグは姿を消してしまった。
 残されたアインは瓦礫の山に立って叫んだ。
「ボクのフィギュアがぁっ!!」
 サラセニアぁンをフィギュア化できなかったことが、かなりーりショックだったらしい。
 もうひとつアインにはショックなことがあった。
「ときめけがぁっ!!」
 原画家とシナリオライターも瓦礫の下に埋もれていた。
 それはさて置き、ミユはあることに気づいた。
「ワトソン君がいない?」
 さよならワトソン君、きっと瓦礫の山の中で死ん(ry
 落ち込みながらアインは帰る準備をしていた。
「ワトソン君ならお腹が空いたら帰ってくるさ。それよりも警察が来たらメンドクサイから帰るよ」
 もうすでに繁華街の住人たちが野次馬を作っている。ケータイで写メ&動画を撮られまくりだ。テレビより先にネットで垂れ流される。
 ミユは顔を隠しながらさっさと逃げることにした。

 獅子舞町オカマクラブ大爆発の翌日、何食わぬ顔でミユが学校に登校した。
 運良く、ニュースではミユやアインの映像は流れていなかった。
 ただ、フンドシ姿の変態が警察に連行されたらしい。
 今日はなんの事件も起こさずに学校が終りそうだ。
 あとは帰るだけってところで、誰かに声を掛けられた。
「センパイ!」
 振り向くとメグがいた。
「ああ、よかった無事だったんだ」
 ミユはちょっとほっとした。
「はい、1人で逃げちゃってごめんなさい。センパイは大丈夫だったんですか、ニュースで爆発事故見ましたよ?」
「うん、なんか正義のヒロインみたいのが現れて助けてくれたんだけど……」
 ミユはメグの顔をまじまじと見つめた。
 やっぱり違う。
 あっちのメグとこっちのメグは似ても似つかない。姿かたちも違うし、まったくの別人に見える。
 メグはメガネの奥で瞳を輝かさせた。
「ヒロインってプリティミューですか!?」
「え、その……」
「残念です、センパイがミューだって証拠をつかめたかもしれないのに……」
「だからね、何回も言ってるけど、あたしプリティミューじゃないし。あたしのこと助けてくれたのは魔導少女マジカルなんとかっていう人だし」
「え〜、ミューじゃないんですかぁ〜」
 それにしてもあの魔導少女マジカルメグっていったい何者なのだろうか?
 ミユが考えるよりもアインのほうが詳しそうだ。
 校門まで歩いてくると、そんなアインがグッドタイミングで現れた。真っ赤なオープンカーで乗り付けやがった。
「バイト君、大変な事件が起きてるよ」
「どんな事件?」
「獅子舞町で昨日の怪人が大量発生してるんだ」
 昨日の怪人=オカマ怪人
 それが大量発生!?
 地獄絵図ですね!
 さっそくミユは車に乗り込んだ。だってアインが起爆スイッチを握ってるんですもの。
 この件についてまたメグにしつこく質問されると思ったが、いつの間にかメグの姿は消えていた。スムーズに現場に向かえそうだ。

 獅子舞町はお祭り騒ぎだった。
 まだ陽の昇る明るい時間帯なので、そこいらのお店の営業時間でないけど、このまま騒ぎが続いたら今日は臨時休業だ。
 すでにコマンドポリスが出動して、報道陣もわんさかいて、野次馬の数もすんごいことになっている。
 とりあえずそんな様子を離れたところから、ミユとアインはカーナビでニュースの生中継を見ていた。
 ミユはその映像を見て青い顔をした。
 地面からサラセニアぁンが生えていた。
 まるで植物のように生えていた。
 アスファルトの地面を突き破る根性を見せて生えていた。
 そりゃもう強くたくましく生えてますとも!
 上空から枯葉剤をまいてやれ!
 コマンドポリスは臭い対策でガスマスク着用している。武器は火炎放射器だ。
 サラセニアぁンの身体から、緑の触手がたくさん伸びている。焼いても焼いても生えてくる。そんな感じだからコマンドポリスは近づけなかった。
 強力な武器の使用は市街地なので許可が降りづらい。ミサイルで一掃したいが、建物を壊したら補償しなくてはいけない。
 アインは『ふむ』と納得したようだった。
「どうやら植物型怪人だったらしいね。これだけ数が多いと、ミサイルで爆撃したいところだけど、政府が許可を出すまでには時間が掛かりそうだ」
 そこで臨時ニュースが飛び込んできた。
《帝都政府は獅子舞町2丁目にBフィールドを発動すると発表しました》
 その発表を受けてアインは少し嫌そうな顔をした。
「不味いね、結界師たちが来るよ。さっさと現場に潜り込んだほうが良さそうだね」
 その意味をミユも理解している。
 Bフィールドとは結界のことである。結界が張られてしまうと、その中に誰も出入りができなきなくなる。つまりミユも入れなくなってしまう。
 アインはミユにケータイを手渡した。
「新しいケータイだよ。全部倒す必要はないからね、1匹だけフィギュアにしたらいいから」
「はいはい、がんばりまーす」
 言葉から滲み出す頑張る度ゼロ。
 さっそく車を降りて現場に向かおうとしたミユをアインが引き止める。
「ちょっと待ちたまえ」
「なんで?」
「テレビを見ればわかるよ」
 Bフィールドが発動されていた。
 これでもう誰も中に入れない。結果が解かれるのは不測の事態が起きた場合と、戦闘が終って敵が一掃された場合だ。
 ミユはラッキーと内心思っていた。
「これじゃあ、な〜んにもできないよね。ってことであたし帰るから、んじゃねぇ〜」
「ダメだよ帰っちゃ」
「なんで? だって中に入れないんだからあたしのできることないもん」
「Bフィールドは地表のみに効果があるんだ。下水道を通っていけば中に入れるよ」
「へぇー、そーなんだー」
 嫌そうにミユは言った。
 ご丁寧にすぐ近くにマンホールがあった。
 下水道には雨水などが通る道と汚水が通る道がある。
 ミユがマンホールのフタを開けた。ちょっと臭うが汚水っぽい感じではない。
 嫌そうな顔でミユはアインを見つめた。
「マジで行かなきゃダメ?」
「それがキミの仕事だからね」
「はいはい」
 ――起爆スイッチさえなければ……。そんなことを思いながら、ミユはマンホールを降りることにした。
 のに、アインが声を掛けてきた。
「そうだ、バイト君」
「なんですか!!」
 ちょっとミユは怒ってるらしい。
「これは仮説なんだけど、本体がどこかにいる可能性があるよ」
「はい?」
「バイト君も知っての通り、ジョーカー怪人はハイブリッドなんだ」
 ぶっちゃけミユは知りませんでした!
 アインは話を続けていた。
「つまり今回の怪人はサラセニアとの合成人間ということになるね」
「先生、サラセニアってなんですかぁ?」
「食虫植物の一種だよ。筒状の葉に虫を落とし、溶かして栄養を吸収するんだ。そのセラセニアというのはね、1つの根からいくつかの筒状の葉を作る。つまり、現在地表に出ているのは葉の可能性があるってことさ」
 早い話、根っこを倒さないと無限増殖するかもよってことである。
 あんなキモイ物が増殖し続けたら……考えただけで身震いする。
 起爆スイッチやバイト料に関係なく、ミユは絶対に倒す決意をした。
 さっそくプリティミューに変身して下水に降りた。
 かなりデカイ下水に降りたらしく、川のように流れる下水の脇に人の通る道が確保されている。
「あれ、どっちに行けばいんだっけ?」
 はい、おめでとうございます――迷子です。
 下水道で迷子になってしまったミュー。
 しばらく歩いていると、水の流れる以外の物音が聞こえた。
 ミューは急いでそっちに向かった。
 思わずミューは足を止めてしまった。
 そして、見なかったことにして回れ180度。
「ちょっと待ちなさいよぉン!」
 なんか聞き覚えのある声。そこにいたのはサラセニアぁンだった。
 しかも、なんかワラワラいますよ。
 さすがに勝てないのでミューが逃げることにした。その視線の先に現れる黒い影。
「さすがはプリティミューね。貴女もここに本体があると思ってきたのね?」
 魔導少女マジカルメグだった。
 ところで1つツッコミたいところがあるのだが……マジカルメグって少女≠竄ネいやん!
 すでに戦闘モードに入ったマジカルメグ。
 なんかいかにも魔法です、って感じのエネルギー体を飛ばしまくって、マジカルメグが次々とサラセニアぁンを倒していく。
 だが、倒しても倒してもすぐに新しいのが生えてくる。
 で、なんか知らんうちにメグが触手に捕まって宙吊りにされていた。
 ずっとクールだったマジカルメグが崩壊した。
「いやぁ〜っ、早く助けてくださぁ〜い」
 涙をボロボロ流しながらマジカルメグは情けない声を出した。
 ……呆気にとられるミュー。
 触手は貪るようにマジカルメグの身体に巻き付き、バストが締め上げられて強調された。
 バストアップ効果だ!!
 マジカルメグは地面に落ちた自分の杖に手を伸ばして訴えた。
「その杖を私に……」
 ミューは言われた通りに杖を拾って、メグに向かって投げた――次の瞬間、触手がミューの身体を弾き飛ばした。
 ドボーン!
 下水に堕ちたミュー。
 さらに次の瞬間、マジカルメグは呪文を唱えていた。
「フレイムロード!」
 火焔がサラセニぁンたちを焼き払い、炎の道の先をマジカルメグが指差した。
「あれが本体よ、プリティミュー!」
 えっ、いつの間にかクールモード?
 確かにそこにいたサラセニアぁンは周りと違っていた。バーコードハゲなのだ!!
 ミューは下水から這い上がって駆けた。ドロドロの水に濡れた姿が一部のマニアに萌えだ。
 萌えメーター全快!
「マジカルハンマー・フィギュアチェンジ!」
「あぁン♪」
 キモイ声を上げてサラセニアぁンはフィギュアになった。
 すると、周りのサラセニアぁンが次々と枯れてしまったではないか!
 残ったのは腐った果実のような残り臭い。
 マジカルメグはもう完全にクールなお姉さんに戻っていた。
「今日のところは礼を言う……ありがとうプリティミュー」
 そう言ってすぐにマジカルメグは姿を消してしまった。
 残されたミューは数秒間じっとしていて、急にハッとして叫んだ。
「ここどこなのよぉ〜!」
 はい、おめでとうございます――迷子です。

 ――秘密結社ジョーカー帝都支部。
 今日はいつもと様子が違った。
 怪人たちがあまりに不甲斐ないため、ゲル大佐が寝込んでしまったらしい。
 ち○こがあってもなくても、両生類でもダメだった。
 通信装置のあるいつもの部屋では、戦闘員たちが胡坐を掻いて怠けていた。
 そこへ現れた謎の男。
「あの〜、ゲル大佐の髪を散髪に来たのですが……ゲル大佐はどちらに?」
 ボソボソと弱々しい口調。顔も青白く見るからに病弱そうだ。
 しかし、その男は鋭い武器を持っていた。
 なんと両手が巨大な金属ハサミなのだ。
 この男の正体はカマキリ怪人マンティスシザーだった!
 戦闘員がマンティスシザーに挨拶をする。
「キーッ!」
「あの〜、キーッじゃわからないので日本語でお願いできないでしょうか?」
「キーッ!」
「ごめんなさい、自分で探します。お手数をお掛けしました」
 心の底から申し訳なさそうに頭を下げ、マンティスシザーは姿を消した。
 それと入れ替わりで部屋に入ってきたゲル大佐。
「おい、マンティスシザーはまだ来ないのか!」
「キーッ!」
「なに、今来ただと? どうして自分の元へ連れて来んのだ!」
 ゲル大佐は巨乳を揺らしながら怒り、戦闘員の股間を蹴り上げた。
「キーッ!」
 悲鳴もやっぱり『キーッ!』だった。

 次回の怪人はさっきの彼なのか!?
 果たして他の怪人が登場しちゃうのかっ!
 結局、魔導少女マジカルメグの正体もわからなかったよ!!

 てゆか、フンドシ仮面(誤字)はあれからどうなったの……?

 おしまい


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