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真 隠された物語 |
瞼の裏が眩しい。 「起きろ花咲、起きろ!」 男の声。親しみのある声だった。 瞳を開けた花咲の目の前には克哉の顔があった。 「お父……様?」 いったいなにが起きたのか? 起き上がった花咲は辺りの風景を眺めた。 似ていた。 しかし、どことなく違う。 自然が息吹いている。 開かれた平野を囲うような不自然な丘。 鳥居がぽつんとあり、その先には洞窟が見える。 花咲は不思議そうな顔をして克哉の顔を見つめた。 「ここは何時[いつ]でしょうか?」 「俺もついさっき目覚めたばかりで、鳥居と祠はもう調べたんだが、帰ってきたら居なかったはずの花咲が居て……時間を越えたらしいことはわかるんだが。あの鳥居やけに新しかったぞ」 風を切る音が聞こえ、克哉の足下の地面を矢が穿った。 驚いた克哉と花咲が矢の放たれた方向を見ると、そこには角の生えた女の影が見えた。 「おめぇらなにもんだ!」 その声を花咲は知っていた。 「起点が変わったんです。これからはじまる未来の起点が違うものになったんですお父様!」 「ん? なんのこと言ってるんだ?」 「起点が違うということは、繰り返してないんです!」 矢を構えた女が近づいてくる。 「おめぇら、なぁにごちゃごちゃしゃべってる」 元気そうなるりあを花咲は嬉しそうに指差した。 「ここには屋敷もない、盗賊もいない、るりあさんは自由なんです!」 刹那、風を切るような音が聞こえた。それは矢ではなく鳴き声だった。 小さな蛇が牙を剥いて花咲の足に噛み付こうとしている! 矢が放たれた。 射貫かれた蛇は呆気なく死んだ。 「ありがとうございます」 お礼を言って頭を下げ、顔を上げたときに花咲は異変に気づいた。 「丘がなくなってる。大蛇が円を描くような小高い丘がなくなってる!」 「そげなもん、はじめからねぇよ。おかしな奴だな」 不審そうな口ぶりでるりあはぼそりと呟いた。 るりあは花咲の顔をまじまじと覗き込んだ。 「おめぇ、おらたちと同じ鬼の血を引いてんだろ?」 「わかりますか?」 「わがるとも。こっちの男は人間くせぇな」 克哉は苦笑いを浮かべた。 「悪かったな普通の人間で。こいつは俺の子供で花咲だ。俺は克哉」 るりあも名乗ろうとして、ふとおかしなことに気づいたようだ。 「なんでおらの名前知ってんだ?」 花咲が先ほど指を差して呼んだのだ。 意味深に、少し意地悪そうな、まるで悪ガキのような笑みを克哉は浮かべた。 「そりゃ、花咲はお前さんの遠い親戚だからだよ」 「はぁ? おらの親戚だぁ?」 るりあは顔をぐいっと近づけ、鼻と鼻がぶつかりそうな距離で、克哉の瞳を覗き込んだ。 「嘘付いてるようには見えねぇな、人間のくせに」 「人間のくせってのは余計だろう」 克哉は人なつっこく笑った。 なぜか花咲も笑った。 「お父様は嘘が下手ですから、嘘をつくと鼻が動くんです。覚えておくと損はありませんよ」 「俺が嘘をつくと鼻が動くだと? ないない、そんの嘘っぱちだ」 克哉の鼻が小刻みに膨らんだ。 腹を抱えてるりあがげらげら笑う。 「ほんとだ、おもしれぇな、ぐははははっ!」 上機嫌になったるりあは弓を背負って、少し歩き出し手招きをした。 「気に入ったからついてこい。うめぇもんでも喰わせてやる」 「はい!」 花咲は元気よく駆け出そうとした。 その腕を引いて克哉が引き止め、そっと耳打ちをする。 「なあ、大人になったるりあってえらいべっぴんだな」 「お父様ったら!」 花咲は克哉の頬をひねってから、るりあのあとを追って駆け出した。 「いてて。おい待てよ、俺を置いてくなよ」 世界は澄み渡っていた。 天から降り注ぐ陽の光の下に、無邪気な笑い声が木霊した。 新たな未来はここからはじまるのだ。 隠された物語(完) あやかしの棲む家専用掲示板【別窓】 |
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