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| 隠された真実 |
目を開けると木でできている天井が目に入った。 「ここは……?」 目を覚ましたエノクはベッドから起き出して辺りを見回した。 部屋は質素というか、寂しい感じが見受けられた。部屋は小さく、壁には自分の剣が立て掛けてあって、自分が今まで眠っていたベッドとその横に置かれた小さなタンス、それくらいしか家具はない。 「う〜ん」 エノクは腕組みをして頭を傾げた。 たしか自分は船の上から落ちて……それから? それからどうなったんだろう、誰かに助けてもらったっぽいけど? ここに居ても何もわからないから、家の中を詮索してみよう。そう思ったエノクは部屋のドアノブに手をかけようとしたその時、ドアが勝手に開きエノクの顔面に直撃した。 「痛っ!」 「だ、大丈夫ですかっ!?」 鼻を押さえてうずくまるエノクが上を見上げると、シスター服を着た凄く慌てた様子の若い女の子が目に入った。 「誰?」 「あ、あの、その私ですか!?」 「あの、あなたがぼくのことを助けてくれたんですか?」 「え、あの、名前ですか、じゃなくって、助けたかでしたっけ、え〜と、な、なんですか?」 「質問したのはぼくなんだけどな」 「ご、ごめんなさい。私ドジでまぬけで、取り得なんて一つも無い人間なんです」 目の前のシスターは何度何度も頭を下げて謝っている。 「あ、あの別にあなたは何も謝らなくても、その、あの、本当に頭を上げてください」 そう言ってエノクまでも頭を何度も下げた。 二人ともが頭を下げあって、慌てふためいてしまっている光景はとても滑稽だった。 しばらくしてエノクの顔がはっとした表情を浮かべ、目を丸くした。 「あっ、そうだ!! アイオンは!?」 突然大声を上げたエノクに驚きシスターは目を丸くして頭を下げる動きを止めてしまった。 「あ、あの、どうしたんですか? アイオンって人の名前ですよね、その人がどうかしたんですか?」 「ぼくはアイオンと一緒に船旅をしていたんだけど、モンスターに襲われてしまって船が沈没してしまったんだ。それでぼくは海に投げ出されて、気付いたらここで目が覚めて……アイオンはどうなったんだろう?」 エノクは何かを思いながらゆっくりと歩き、ベッドに腰を下ろした。 アイオンはどうなったんだろう、アイオンは無事なのか? ぼくはアイオンと逸れてしまって、どうしたらいいんだろう。そんなことが次から次へとエノクの頭の中を過ぎっては蓄積されていった。 「あの〜」 「……!?」 突然の声に驚き前を見るとそこには不安そうな表情をしたシスターの顔がエノクの目に入った。 「大丈夫ですか? あの、私にできることがあれば」 エノクは笑顔で横に首を振った。 「ごめん心配させちゃって。それよりも、ぼくのことを助けてくれたのはあなたですよね」 「助けただなんて、私はただ海岸に倒れていたあなたをここまで運んで来ただけで……」 シスターはこう言いながら顔を真っ赤にした。きっと、照れているのに違いない。 「ありがとうございました。ぼくの名前はエノクと言います」 「あ、あの私の名前はイリスと言います。この島に住んでいるのはお爺様と私だけで、お爺様も私も神に仕える身です。と言ってもまだ私は半人前でいつもドジばっかりで……」 「島に住んでいるのが二人だけって言ったけど?」 「この小島は、アトラス大陸の東に位置するパララスという港町から海上一〇キロメートル離れた場所にある地図にも載らないくらいの小さな島です」 アトラス大陸の東に位置するパララスという港町はエノクらが乗っていた船の行き先地であった町の名前だ。 「もう、ひとつ質問していいですか?」 「なんでしょうか?」 「どうしてあなたとお爺様はこの島に?」 この質問にイリスは表情を曇らせうつむいた。 「それが……」 「あ、あの、言いたくないのなら」 イリスは顔を上げた。 「私のお爺様は聖アルティエル様の伝承について研究をしていたんです。そして、今伝承されている歴史とは違う真の歴史を突き止めたんです。それを公の場で発表したために、お爺様はうそつき呼ばわりされ、教会から弾圧を受けてしまってこの島に逃げてきたんです」 「真の歴史?」 「その話は気にしないでください、きっと言っても信じてもらえないから」 「でも、話だけでも……」 「いいんです。……それよりもお腹空いていませんか?」 どのくらい自分が意識を失っていたかはわからないけど、たしかにお腹は空いていたのでエノクはお腹に手を当てコクリと頷いた。 イリスはニッコリと微笑みエノクを別の部屋へと案内した。 「こちらへどうぞ」 イリスに連れられるまま部屋の外に出たエノクは辺りを見回した。廊下は短く、部屋数も少なく家全体を見通せた。 エノクが食卓に着くと、イリスが料理を運んで来てくれた。 「ごめんなさい、食料が少なくてこんなものしかなくって」 テーブルの上に並べられた料理は具の入っていないスープと一切れのパンだけだった。それを見たエノクの顔は迂闊にも曇りの表情を浮かべてしまった。 表情を曇らせてしまったエノクを見てイリスは、 「ごめんなさい、ごめんなさい」 と何度も頭を下げて謝った。 「あ、あ、謝らなくていいから、助けてもらって食事までご馳走になるんだから、頭をさげなきゃいけないのはぼくのほうだよ」 「本当にごめんなさい」 「だから謝らなくていいから」 そう言ってエノクはパンを口に運びスープを一口スプーンに取って飲んだ。口の中に入れたパンは固く、スープは味など全くと言っていいほどなく、お世辞にもおいしいとは言えなかった。 それでもエノクは嫌な顔を浮かべずに奇麗に料理を平らげた。決して満腹になったわけではないがエノクは満足した。そして、イリスの顔を見た。 「ごちそうさまでした。ところでイリスは食べないの?」 「私は後で食べますから。それよりもお爺様に夕飯を運ばないと」 そう言ってイリスは、エノクが料理を平らげて空になったお皿を台所に運び、新たにパンとスープをトレイに乗せてやって来た。 「私はお爺様に夕食を運んで来ますから、エノクさんは部屋に戻って休んでいてください」 「あの、ぼくも付いて行っていいですか? イリスのお爺様にもご挨拶したいし」 「そうですか、ここに来てからの初めての客人なのでお爺様も喜ぶと思います。部屋まで案内します、付いてきてください」 イリスの祖父がいる部屋はこの家の一番奥の部屋だった。 イリスによってドアが開かれたドアの先には、白髪の老人がベッドに横たわって静かに目を閉じていた。 「お爺様、夕食をお持ちしました」 声を聞いた老人は目を開け、ゆっくりと身体を起こした。 「すまないなイリス、お前にいつも面倒ばかり診てもらって」 「お爺様、海岸で気を失っていたあの人が目を覚ましたんですよ」 「初めましてエノクといいます」 「おお、良かった目を覚ましになったか。わしの名はモーリシド、以前はパララスという港町の教会で神父をしていたんだがな、今じゃこんなに落ちぶれてしまっ……ゴホッゴホッ」 「お爺様、大丈夫ですか!」 イリスはすぐにモーリシドに駆け寄り、背中を擦ってあげると、モーリシドの顔つきは和らいでいった。 「すなまいな……、もう、わしも長くないのかもしれんな」 老人の身体は枯れてしまったように細く、見た目からも衰弱が伺える。しかし、声からはしっかりと芯の強さが感じられる。 「お爺様、そんなことおっしゃらないでください」 そう言いながらイリスは片手に持っていた食事をトレイごとモーリシドに手渡した。 「ありがとうイリス。もう下がっていいよ」 軽く頭を下げ部屋を出て行こうとしたイリスに続いてエノクも部屋を出て行こうとしたのだが、そんな彼をモーリシド老人は呼び止めた。 「エノク、君はここに残ってくれないか?」 「えっ!?」 モーリシドの言葉にエノクは驚いたのだが、それよりも驚いたのはイリスだった。がイリスは何も言わずにエノクにお辞儀をして何処かに行ってしまった。 部屋に残されたエノクは、自分がなぜ呼び止められたのか見当もつかずにただ黙り込んでしまった。 沈黙のあとモーリシドのほうが口を開いた。 「まあ、そこに立ってらんでここに置いてある椅子に腰を掛けなさい」 老人のか細くなってしまった指の先には背もたれの無い小さな椅子がある。エノクは言われるままにその椅子に腰を掛けて話しはじめた。 「あの、なんでしょうか?」 「頼みがあるんだが聞いてくれるか?」 老人の真剣な眼差しを目の前にしてエノクの顔つきも変わった。 「話してみてくれますか?」 「わしは今夜死ぬ」 「なんですって!?」 衝撃の言葉を耳したエノクは思わず椅子から立ち上がり声を荒げてしまった。 「本来はもう死んでいてもおかしくないんだがな、死神が君が来るまで待ってくれると約束してくれた」 「死神って? それよりもあなたはぼくがここに来ることを知っていたんですか?」 驚きの話のあまり、理解に苦しむエノクは頭が熱くなってしまって、なにがなんだかわからなくなってしまった。 「死神が三日前わしの前に姿を現してな、普通の人間には《視る》ことはできないんらしいんだが、わしには《視え》てしまってな。わしはイリスを残して死ねんと言ってやったんだ、そうしたら死神の奴が君がこの島に流れ着くことを教えてくれてな、死神は君にイリスのことを任せてはどうかと言ってな、わしがこの話を君にするまで寿命を延ばしてくれたんだ」 「話がさっぱり見えてきません。それに死神というのは寿命を延ばしてくれるんですか? ぼくは死神というのは無慈悲な存在だと思っていました」 「死神という存在は慈悲深い存在だ。そして、死神は寿命をまっとうした者の魂を狩るものであり、不慮の事故で死んだ者の魂を狩る事はしない、あくまで自然の摂理に基づき死んだ者の魂を狩る」 「死神についてはわかりましたが、ぼくにイリスを頼むというのはどういうことですか?」 「イリスにはわし以外の身寄りがないんでな、わしが死んだら君にイリスを任せてたいと思ってな」 「こ、困ります。ぼくは大魔王カオスを倒すために旅をしているんです」 この言葉を聞いたモーリシドの目が大きく見開かれた。 「なんと、カオスを倒しに行くと?」 「だから、そんな危険な旅にイリスを連れて行くなんて」 「ならば、イリスの判断に任せるしかないな。わしが死んだあとイリスに事情を話した上で旅に同行するか聞いてみてくれ、それでイリスがついて行くと言ったならば、連れて行ってくれんか?」 「わかりました。お約束します」 「そうか……安心とまではいかんが、少しは気が楽になった」 そう言う老人の顔はほころび笑みを浮かべ、目からは一筋の涙が頬を滑り落ちた。 しばらくの間沈黙があり、場の空気をコロっと変えるように老人が話を始めた。 「そうだ、七英雄の真の伝説を聞いてみたいと思わんか?」 「ぜひ、聞かせて頂けませんか?」 老人は食事に手をつけ、パンを口に運び飲み込むと、 「食事が終わったら聞かせてあげよう」 と言って食事が終わるまで口を開かなかった。 エノクは天井を眺めたり、壁を眺めたりしていると食事を終えたモーリシドが声を掛けた。 「それでは、七英雄の真の伝説について簡潔に言おう」 エノクは息を飲みモーリシドの次の言葉を待っている。 「七英雄の伝説には語られてはいないが、英雄はもう一人いた」 「もうひとり?」 「そうだ、七英雄は名前の通り全部で七人いる。今人々に伝承されている伝説では聖アルティエル様を加えて七人となっているがそれは間違いだ、七英雄はアルティエル様を加えなくとも七人いた」 「まさか、そんな!?」 この話を聞いたエノクは、とてもそんなこと信じられないと思った。七英雄の伝説については本でなんども読んだことがあるし、なによりも七英雄本人で傀儡子シモンからもいろいろと話を聞いている。 驚くエノクの顔を見てモーリシドはうれしいそうに笑った。 「やはり、驚いているようだな」 「当たり前です、だって……」 だってぼくはシモン先生から直接話を聞いたんだとエノクは思ったが、エノクはシモン先生から聞いた話をよく思い出した。そういえば、シモン先生の話はたまになにかちぐはぐになってつじつまが合わなくなることがよくあった。あの時は昔のことなのでよく覚えていないのだろうと思って聞き流していたが、もしかして、何かを隠していたのかもしれない。 「ここからの話は今まで誰にも話したことがなかったんだが、聞きたいか?」 「ぜひ、お願いします」 「わしは七英雄に伝説に以前から疑問を持っていた。七英雄の伝説はところどころ抜けている箇所があって、時には話がちぐはぐになっているところがある。教会や研究者の話では古い話だから、そういうこともあるだろうと簡単に済ませれているが、わしは違った。それでわしは研究を重ねてもうひとり英雄がいたことを突き止めた」 この時のエノクはモーリシドの話に興味を奪われすぎ、身を乗り出しベッドにまで手を突いて聞いているが、モーリシドはそんなことには気も止めず、なおも話を淡々と続けた。 「それでそのことを発表した結果、こんなところに追いやられたわけだが、それはいいとして。その話を大勢の前でした次の日にひとりの男が現れたんだ。その男は自分が嘘の伝説を流した張本人で、歴史から名を消した七英雄のひとりだと言った」 「どうして、その英雄はそんなことをしたんですか?」 「詳しくは教えてもらえんかったが、その英雄は大罪を犯してしまったらしい、だから歴史を改ざんしたそうだ」 「その英雄の名は聞きましたか?」 その時突然回りの空気の質が変わった。 アルティエル戦記専用掲示板【別窓】 |
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