第7話_永久に眠れ・・・
「どこだここ!?」
それがルーファスの第一声だった。
 そして彼はすぐに身体のあいこちに激痛を感んじた。
「(いたたた、かなり、飛ばされたみたいだけど……)」
 ルーファスは目を見開き辺りをぐるっと見渡すと、そこは……。
「噴水広場か……(どうりで身体が濡れてると思った)」
ルーファスの身体は噴水の池にどっぷり浸かっていてびしょ濡れだ。
 人々の姿も気配も無い……どうやらもう非難した後らしい。
人々の姿も見当たらないが……カーシャの姿もどこにも見当たらない。どうやらカーシャはルーファスとは別の場所に飛ばされてしまったらしい。
「(カーシャは自分でなんとかするだろうから……)」 
 ルーファスが大気のマナを身体に取り入れると、彼の身体だけがそよ風に包まれたように衣服かゆらゆらと揺れ、その力を増幅させてレビテーションを使い空を飛んで再び戦場へとルーファスは独り向かって行った。

 魔導士たちは皆、地面に横になり身動き一つしていない。そんな中ただ一人遠く彼方を見つめていたのは大魔王ハルカその者であった。
 大魔王の視線はある一点に注がれている。遠く空彼方からこちらに向かってくる人影を……。
「あの男か……」
魔王は右手を目線の先に突き出し、魔弾を連続して撃ち放った。
 魔弾は人影に向かって風を切りながら飛んで行く。
「ぎゃあっ!」
魔弾がルーファスの頭ギリギリをかすめ、思わず彼はあられもない奇声を発してしまった。
「(遠くから撃ってくるなんて反則だ!!)」
 ルーファスも負けじと魔王に向かって、魔法を放った。
「メガフレア!!」
ルーファスの手から紅蓮の炎が渦を巻きながら、全てのモノを焼き尽くす勢いで魔王目掛けて飛んで行く。
それを見た魔王の表情が少し変わり、小さくこう呟いた。
「メガフレアか……大神の詩を詠えるとは何者なのだ?」
 紅蓮の炎が『ごうぉ』っと音を立て、渦を巻きながら魔王の身体に当たる刹那、魔王は瞬時に漆黒の翼で自らの身体を包み込んだ。
 魔王の身体が紅蓮の業火に包まれる、……が魔王が翼を勢いを付けて大きく広げると、炎はシュウーという音を立て、煙を上げながら消えてしまった。
 それを見たルーファスは思った。
「(反則だ、絶対勝てないよ)」
などと考えているとルーファスの横から不意に声が、
「こんばんわ」
「わっ!(……カーシャか)」
ルーファスの横には何時の間にかカーシャが飛んでいた。
「いつから居たの?」
「今から」
カーシャはいつでも神出鬼没だったりした。
 魔王の眼前に二人の魔導士が降り立った。
「人間風情がいくら増えようが変わらんがな」
カーシャが鼻で笑う。
「考えが甘いな魔王、だからお前は滅びたのだ」
「カーシャ、そんなこと言っていいの?(ケンカ売ってるの!?)」
カーシャの発言に魔王は怒りをあらわにして翼を大きく動かし突風を起こす。
「私を滅したのは太古の神々であって人間ではない」
「そうか、ならば魔王、私の魔法を受け止めてみるがいい」
カーシャはビシッと魔王を指差し『予告倒すぞ宣言』をした。
「よかろう、私は逃げも隠れもしない、撃ってみよ」
魔王には相当な自信があるのか、それとも人間の放つ魔法など取るに足らないものなのか。確かにあの魔導砲ですら倒すことのできなかった強敵だ、カーシャひとりの力ではどうにも成らない相手だ……だがしかしカーシャには作戦があった。
「ルーファス、魔王は逃げも隠れもしないそうだ(じつに紳士的だ)。そこで作戦だ」
カーシャの顔が不敵な笑みを浮かべた。続いてルーファスは不安の笑みを浮かべた。
「作戦って?(カーシャの作戦はろくな事が無い)」
確かにカーシャの作戦及び思いつきの被害者は数知れない。もうすぐ『被害の会』ができるという噂さえある。
 「名づけて、『反則魔法氷炎爆華散[ハンソクマホウヒョウエンバッカサン]』で魔王なんて恐くない作戦……ルーファス、メガフレアだ!!」
「OK!」
ルーファスはカーシャの作戦を瞬時に理解したらしく、目を瞑り両手を魔王に向けた。……しかし、メガフレアは先ほど魔王によって防がれてしまっている筈では……?
「メガフレア!!」
「ホワイトブレス!!」
ルーファスが魔法を放つと同時にカーシャも続けざまに魔法を放った。がしかし、メガフレアは炎系の高位魔法であり、ホワイトブレスは氷系の高位魔法であり、互いは相反する魔法で相殺してしまうのが普通の筈なのだが……。
 魔王の顔が驚愕の色へと見る見るうちに変化していく。
「太古の神々でさえ成しえなかった魔法を人間が何故?」
 二人の放った魔法は互いに轟音と共にとぐろを巻きながら魔王に襲い掛かる。それを見たカーシャが不適な笑みを浮かべた。
 魔王は魔法でシールドを張ったものの二人の放った、(カーシャちゃんネーミング)氷炎爆華散に当たった刹那シールドはガラスの割れるような音を立てて粉々に砕け、炎と氷が魔王の身体を包み込んだ。
「人間は神々の失敗作ではないらしい」
魔王は膝を付き、そのまま地面に平伏した。それを見たカーシャの瞳は氷のように冷たい。
「所詮は過去の亡霊だ」
この時言葉を発したカーシャはいつになくシリアスモードで、ちょっとカッコよかった。だがすぐにカーシャの表情は驚愕の色に変わり、ルーファスも開いた口が閉まらなくなった。
「神々が守ろうとした人間は……今や神も恐れる存在になりつつあるな」
ゆっくりと立ち上がった魔王の身体はボロボロに傷つき、漆黒の翼の片方は身体から離れ地面に落ちている。しかし、魔王の表情からは余裕と自信が感じられる。
「マスタードラゴンですら、一発で消滅させた合体魔法が破れるなんて……(もう笑うしかないわ……ふふ)」
「マスタードラゴンを……私に重症を負わしたことはある……だが堕ちた神であるマスタードラゴンごときと私を一緒にしてもらっては困る」
 魔王が全身に力を込めるとすぐさま身体の傷が癒え新たな翼が生え現われた。
 カーシャは思った。
「(反則だ、絶対勝てない)」
そう、今の二人には勝てる見込みは無いと言える。
 魔王がさらに力を込めると、魔王の肉体が徐々に変化し始めた。手足が伸び、異型な顔つきに飛び出した牙と二本のツノ。
 ルーファスのアゴががぼーんと外れた。
「(変身し過ぎだ、ドラ○エのラスボスか!?)」
カーシャの顔が引きつる。
「(グロイな……ハルカの見る影も無い)」
 魔王は大口を開け鋭い牙を見せながら笑った。
「グハハ、これが俺の真の姿だ」
声の質も変わっている。なんていうか下卑ている。そして口も臭そうだ(ややウケ)。
 すでにこの時カーシャはとても遠い目をしていた。
「(見た目と共に品性までも落ちたか……ふふ、青い鳥が見える)」
 魔王は姿、人格ともにまるで別人に変身を遂げ、その力も……。
 魔王の腕が大きく横に振られ、ルーファスの身体をかすめただけだというのにルーファスの身体は5m後方まで吹き飛ばされた。
「(当たってたら、全身打撲だ、笑えない)」
「(品性は無いが……強いな)」
カーシャの言葉どおり大魔王ハルカの力はハンパなく、すっげぇと言える。
「ククク、人間など全て消し去ってくれる」
そう言った魔王が両手を天高く上げると、魔王の身体が激しく輝き出した。マナが魔王の全身に凄い勢いで吸収されていくのが見て取れる。
 カーシャは明らかにイヤな顔をした。
「(不吉な予感……ふふ)」
それに続いてルーファスの背筋に寒気が走った。
「(魔導砲と同じ位のマナの波動!?)」
 魔王の手の上に紅蓮の業火が渦を巻きどんどん大きくなっていく。
「グハハ、これで終わりだ……ギガフレア!!」
カーシャは悟った。
「(死んだな……ふふ……儚い)」
魔王が魔法を放とうとした刹那、それを止める声が……。
「やめてぇーーーっ!!!」
その言葉に魔王の放ったギガフレアの軌道が狙いから反れ、エビ反りをしたルーファスの上を飛んで行き、空の彼方へ飛んで行った。
 魔王は自らの身体を抱きかかえ、地面を転げ周り暴れ始めた。
「ルーファス、魔王の様子がおかしいぞ」
「(今度こそは死んだと思った)えっ何?」
 魔王は苦しそうだった。しかし、その身体から発せられた声には苦しさの微塵も……いや、別人の声が!
「早く、今のうちにコイツを倒して!」
「ハルカ!」
ルーファスは思わず叫んだ。そして、カーシャの顔つきも変わる。
「ハルカの声だな(幽霊か?)」
 二人の耳には確かにハルカの声が……そして、
「早く、私の意識があるうちに……邪魔をするな女……早く殺して……」
二つの声が交互に発せられていく。これを聴いたカーシャは、
「(腹話術!?)」
と思った。
「グググ……邪魔をするな女!!」
魔王は尚も地面の上でもがき苦しんでいる。
 カーシャの怒号がルーファスに浴びせられる。
「何をしているルーファス! 身体の持つ限り魔王を打て!」
カーシャは魔法を身体の持つ限り打ちまくった。ルーファスもそれに続いて魔法を打ちまくる。
「ホワイトブレス(カーシャ)&メガフレア(ルーファス)」
(カーシャちゃんネーミング)氷炎爆華散が魔王の身体に何発も何発も打ち込まれ、辺りを砂煙が覆い隠す。
「はぁ……はぁ……」
肩を大きく揺らすルーファスの息は上がり、彼は地面に倒れるように座り込んだ。
「ルーファス、生きてるか?」
ルーファスがカーシャの方を見ると、彼女もまた地面に座り込み息を切らしていた。
 カーシャは極度の疲れで血走った目で魔王を見て言った。
「あれだけやれば……魔王も……!?」
カーシャの顔色が蒼ざめて行った。
「グゲゲ……その程度で死ぬものか!」
魔王の身体は無傷とは言えないもののその足で立ち上がり、狂気の目で二人を睨みつけていた。
「「あははは……」」(ルーファス&カーシャ)
二人の乾いた笑いが辺りに鳴り響く……。
 魔王の身体の各部は失われており、蒼い血が地面に滴り落ちる。
 それを見ているルーファスとカーシャは以前、不気味な笑いを発していた。
「グゲゲ……俺は体内の核ごと消し飛ばさない限り死ぬことは無い」
そう言って、魔王は手を大きく振り上げ、その鋭い爪をルーファスに振り下ろそうとする。
「逃げてルーファス!!」
ハルカの声が辺りに鳴り響くが魔王の手は無常にもルーファスに振り下ろされた。
 極度の疲労によってルーファスは逃げことが出来ない! そして……地面を血しぶきが紅く彩る。……世界から音が消えた。
 ルーファスの身体がバタンと地面に転がった。生命を持たない人形のように……。
「ルーファス!!」
カーシャの叫びで世界に音が戻った。
「ククク……次はおまえだ」
カーシャが不敵な笑みを浮かべ魔王を見上げる。
「これだけはしたくなかったが……」
カーシャはそう言って自分の両耳にしていたイヤリングを外した、その途端カーシャの身体が蒼白く輝きはじめた。その輝きは冷たく辺りを包み込んだ。
 そして、カーシャの身体に変化が起きた。彼女の瞳は黒から蒼に変わり、唇は赤から紫に変り、髪は漆黒から白銀に……。
 魔王の瞳が見開かれ、驚愕の表情を浮かべこう言った。
「おまえ……まさか氷の女王か!? ……しかし、あいつは……?」
「ほう……私のことを知っているのか?」
カーシャの声は冷たく澄んでいるが重たく威圧感が矛盾に満ちた声であった。
「なぜだ? 氷の女王は……!?」
「そうだ……だから、このチカラを使えば私の命は無いだろう……ふふ」
立ち上がることすらできないほど疲労困憊していた筈のカーシャはゆっくり立ち上がり、魔王にジリジリと近づいていく。
 魔王は近づいてくるカーシャに鋭い爪を振り下ろそうとしたがハルカがそれを止めた。
「カーシャさん……今のうちに……」
「ふっ……ありがとうハルカ……」
「グググ……身体が動かせなくとも……おまえの魔法などでは俺は……」
「これならどうだ?」
カーシャは魔王の口の中に手を突っ込む同時に魔法を唱えた。
「ギガブリザード!!」
 カーシャは魔王のさっき言った言葉『体内の核ごと消し飛ばさない限り死ぬことは無い』という言葉をヒントを得て、魔王の体内に直接魔法を打ち込んでやったのだ。
 魔王の身体は一瞬のうちに氷つき、鋭い音を立てて砕け散った。そのときハルカの声が……。
「みんな……さよなら……」
 そして、全てのチカラを使ったカーシャの身体は水と化し大地に染み込まれていった。
 魔王との戦いは終わりを迎え、そして……。

 数日の時が経った。魔王によって破壊された街は国民全員の協力により、元どおりに再建されつつあった。
 ルーファスは再建された自宅の裏庭にいた。
「(あれから、どの位たったのか……昨日のことのようだな)」
 ルーファスは裏庭に立てられた墓に綺麗な花を捧げると、その場で泣き崩れた。
 墓石には『ルーファス』と刻み込まれている……あれ? ……ルーファス?
 ルーファスは後ろから女性に声をかけられた。
「まだ、恨んでるの?」
ルーファスが後ろを振り向くと、そこには何とハルカの姿が!? ……あれ? ……ハルカ?
「あたりまえだろ!」
そう言ってルーファスは墓に書かれてる文字を指差した。そこにはやっぱり『ルーファス』の文字が?
 ハルカは惚けた顔しながら上を見上げた。
「いや、だから……それは(あはは)」
「私が死んだとと思って埋めようとしたって、どういうこと!?」
「(だからって、そんなお墓立てなくても、それって当てつけでしょ)でも、いいじゃないルーファスはそれだけど、私の身体はこれなんだから」
ハルカはルーファスの身体を指して、そして自分を指さした。
 ハルカの身体はルーファスとは明らかに違った。どう見てもハルカの身体は半透明だった……しかし、足はある……だからと言って幽霊ではないとは言い切れないが、彼女はとりあえず幽霊ではない。
「家には帰れないし、こんな身体になっちゃうし、どうしてくれるのよ!」
「確かに家に帰れないのは謝るけど……その身体になったのはカーシャのせいでしょ?」
「そのカーシャさんは今どこに居るの?」
「ここだ」
「わっ! ……ビックリさせないでくださいよ(なんでいつもこの人幽霊みたいなあらわれかたするんだろ?)」
 あれ? ……なんで? ……どうやら全員とりあえず生きていたらしい?
 どうして全員生きていたのだろうか……?
 それを順番にルーファスから説明していくと。まず彼は出血多量ではあったが戦闘終了後に駆けつけたアステア兵によって一命を取りとめ、その他その場に倒れていた多くの兵士やエルザ元帥、ついでにヴァガ将軍も救われたらしい。
 次にカーシャだが、彼女はある日突然ルーファスが入院していた病院に姿を現し、ルーファスが『なんで生きてたの』と聞くと『……冬だからな……ふふ』と言って不適な笑みを浮かべるとそれ以上何も語らなかったらしい。
 そして最後にハルカだが、彼女は魔王が滅びた後自由の身になったのだが、身体が滅びてしまったためにハルカのマナだけがこの世界に残ってしまったらしい。つまり今の彼女は幽霊と同じようなものらしい(カーシャちゃん曰くだが)。
「あの、カーシャさん」
ハルカはちょっと不満たらたらな顔をしてカーシャを見つめている。
「何だ?」
「カーシャさんが『死者の召喚』なんてしなかったらこんなことにならなかったんじゃないですか?」
「……終わったことだ気にするな(……ふっ……真実は言えない)」
真実って何だカーシャ! 隠し事か!!
 ハルカは自ら堪忍袋の緒を切った。
「『気にするな』って、この身体どうしてくれるんですか!(無責任)」
「みんな生きていたんだ細かいことは気にするな」
ルーファスもそれに腕組みながら、うんうんと同意する。
「そうそう」
”バッシーン!!”という音が辺りに鳴り響いた。ルーファスの頬が真っ赤に染まった。
 でもまぁ、カーシャの言うとおりみんな生きていたのだからいいじゃないの? これで大団円といきましょう♪
「よくなーい!!」
ハルカの声だけが虚しく辺りに響き渡った……。

 魔王は滅び国は徐々に平和を取り戻し、全てが終わった……のだろうか?
 ハルカの運命は、身体は、家にはいつ帰れるのか、それとももう帰れないのか?
 数多くの謎はどうなった、あまりにも物語の終わり方が安直過ぎるのでは、物語は続くのか?
 それは誰にもわからない……?

 Fin……?


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