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第4話_大暴れしちゃいました |
緊迫、そして沈黙――。 カーシャVSファウストの構図がわかりやす~く出来上がっている。 その二人に挟まれてしまったルーファス+ネコ一匹。彼らの方が明らかに焦っている。特に冷や汗をかいているルーファス、焦りすぎ。 「カ、カーシャもファウスト先生も仲良くしてください(巻き添えで殺される!)」 空気がキン! と冷えた。カーシャの瞳は妖々と冷たく輝いていた。 「ふふ、まだ……(まだ、何にもしてない)」 ファウストの周りの空気が圧縮され、一気に解き放たれることにより風が巻き起こった。教室に吹き荒れる強風にルーファスは反射的に顔を腕で覆った。 強風で筆記用具が空を飛び、椅子がガタガタ揺れ動き、備え付けの机までが軋む中、カーシャとファウストだけは平然と立っていた。しかも、ファウストは不適な笑みを浮かべている。 「私たちはまだ何もしていませんよルーファス。ねえ、カーシャ"先生"?」 その場で身動きできないルーファスは思った。 「(思いっきりしてんじゃん!)」 ルーファスのそんな思いなんてどうでもよく、新たな波が押し寄せようとしていた。そっちの方が大事だ。 無表情でファウストを見ていたカーシャの眉がピクッと動いた。 「ファウスト先生。私はもう”先生”ではない(……ワザとだな……ふふ、おもしろい)」 「なるほど、そうか今は先生ではなくて、”ただの”一般人だった、これは失礼。カーシャはここを”クビ”になってから非合法の魔導ショップをやっていらしたそうですが、今は営業停止らしいですね。困ったことがあるならいつでも相談に乗りますよ」 そう言いながらファウストは鼻で笑った。完全のカーシャを見下していた。 だが、ルーファスにしてみれば、二人は同じ穴のムジナ。どっちもどっちだった。 今ここにいるムジナは互いのことを見下している。自分の方が格が上だと思っている、そーゆー人種だった。 部屋の空気が一層冷たくなったような気がする。――気のせいではないようだ。ここにいる巻き込まれちゃったルーファスはそれに気付いた。 「あ、あの~……教室に霜が……(気温が0度切ってるってことでしょ?)」 ガタガタと寒さと”何か”で振るえ始めたルーファスの言うとおり、教室の壁や床には霜が発生していた。その発生源は言うまでも無いカーシャを中心にしてだ。 カーシャの眉がぴくっと動いた。その瞬間、床、壁、そして天井から巨大な氷針が幾本も突き出した。 「はぶっ!!(な、なに!?)」 ルーファスはあられもない声を上げて、紙一重で氷の刃を『つ」』や『大』の字になったりして避ける。そして、氷に挟まれて『と』の字になって動けなってしまった。冷や汗も凍ってしまっている。 カーシャとファウストは氷の刃が顔すれすれ数ミリのところを通るが、顔色ひとつ変えず身動きも全くしていなかった。 氷が少しづつ溶け始めた。この現象の中心はファウストだ。彼の身体から漆黒の炎がオーラとして放たれているのだ。 嫌な戦い方だ。微妙でネチネチしているし、直接攻撃は微妙だがまだない。だが、ファウストがついに仕掛けた。 「そうだ、カーシャに貸した1000ラウル返して貰ってないのですが、返済期限が切れているのはご存知でしたか?(契約の名のもとにカーシャを冥府に送ってさしあげますよ……クク)」 ちなみにラウルとはこの国で使われているお金の単位で、1000ラウルを日本円に換算すると1万3000円になる。 「1000ラウル、知らんな(……ちっ、覚えていたのか)」 カーシャは確信犯だった。確実に借りたお金を踏み倒す気だったらしい。 「シラを切っても意味はありませんよ。ここにちゃんと契約書があります(シラを切るのは予想済みだ)」 そう言ってファウストは、どこからともなく契約書を出し、カーシャに見せ付けた。それの一節にはこう書かれている、『契約を破った場合は魂を持って償う』と。――つまり、契約を破ったカーシャは殺されるということだった。 契約書を見たカーシャはしばし沈黙。 「…………(焼くか)」 沈黙して考えた結論はわかりやすかった。『焼く』、つまり、契約をなかったことにする気だった。 カーシャの右手がスゴイスピードで動いた。 「ルーファス避けろ!」 「えっ!?」 行き成り避けろと言われても、そう避けられるものでもない。 カーシャは声と同時に炎の玉を放っていた。それは契約書の向かって放たれたものだったのだが、途中の障害物に見事ヒット! 「あちぃ~っ!!」 ルーファスが炎上。炎の玉はルーファスの服に引火してしまった。すぐさま彼は床にへばりついた。それはなぜか? 床は氷が溶けて水浸しになっていたからだ。 シュ~っという音を服から立てながら立ち上がるルーファスを見てカーシャが小さく呟いた。 「ちっ……外したか(契約書を燃やしてしまおうと思ったのだが)」 言うまでもないが、カーシャは自己中である。 「契約書を燃やそうとしましたねカーシャ? そういうことをする子はお仕置きですね(クク……悪魔でも呼び出しましょう)」 悪魔の笑みを浮かべるファストの持つ契約書が風も無いのに揺れた。それも激しく、激しく揺れ、中から巨大な影がこの世界に召喚された。 契約書の中から現れた悪魔は、赤黒い身体を持ち、丸まった背中から漆黒の翼を生やし、金色の目でカーシャをギロギロと見ていた。 危険を察知したルーファスはしゃがんだ。彼の判断は正しかった。カーシャの口元が歪んだ。 「ホワイトブレス!!」 氷系の高位魔法をぶっ放した。カーシャは教室内で強力呪文をぶっ放したのだ。 ブォォォッッッ!! 濃縮された吹雪が悪魔に直撃! 悪魔凍る。おまけにルーファスの心も凍る。 「カ、カーシャ!! なにすんだよ!!(死ぬかと思ったぁ~!!)」 だが、ルーファスに言葉にはカーシャは何の反応も示さず、その場から消えた。次にカーシャが現れたのは凍ってしまって身動き一つしない悪魔の目の前だった。 「ふふ、儚く散れ!」 カーシャの回し蹴りが悪魔に炸裂! 粉々に砕け散る悪魔。砕け散った氷が煌くその先でファウストは微笑していた。 「なかなかやりますね。ですが、カーシャが死ぬまで悪魔はいくらでもでますよ。早く1000ラウル返したほうが身のためですよ(私としては、このほうがおもしろいですがね……クク)」 「1000ラウルなんて借りた覚えは無い!!」 カーシャはきっぱりはっきり断言した。『嘘は認めたが最後』これがカーシャの信条だ。 契約書が激しく揺れ、中からたくさんの影が召喚された。 「覚悟なさいカーシャ!!」 「ヤダ」 室内は只今、ホラーハウス状態。悪魔で満員だった。 カーシャ逃げる準備OK。 「逃げるぞルーファス!!(流れ解散~っ!!)」 カーシャは自らに運動能力を一時的に2倍にするクイックという呪文をかけて走り出した。ルーファスも逃げる必要はないように思えるが、クイックで逃走。 廊下を走り抜けるカーシャとルーファス。 ルーファスが走ると、持っているペットハウスが激しく揺れる。中にいるハルカは当然ご立腹。 「ルーファス!! もっと丁重に運んでよ!!(……ったく、何が起きてるのよ?)」 「ハルカごめん、追われてるから」 「(追われてる?)」 廊下を走る二人の後方からは大勢の悪魔が追いかけてきていた。 カーシャは後ろの悪魔に向けて魔法を連発。廊下の壁や床は大変なことになるが、悪魔の数はいっこうに減らない。 外の大騒ぎに気付いて教室にいる生徒たちは廊下の外を見るが、皆直ぐに見なかったことにする。なぜなら、悪魔たちを従え先頭を走っているのがファウスト先生だったからだ。この先生がすることに関わってはいけない。これがこの学校を”無事”に卒業するための暗黙のルールだった。 ルーファスたちを捕まえようとしているのはファウストだけではなかった。彼らの名は風紀委員、学校の風紀を乱す者を罰するのが役目である、生徒たちの集まりだ。 風紀委員がルーファスたちの前に立ちはだかる。その数10人ほど。 「止まりなさい!!」 風紀委員が叫ぶが、当然カーシャの性格を考えればわかるが、止まるわけが無い。しかも、今日のカーシャはご機嫌だった。 「ふふ、おもしろい……今度はピンクのうさぎしゃんだ!!」 カーシャは風紀委員たちを”視た”。魔力のこもった瞳で見つめられた風紀委員は次々にうさぎしゃんのぬいぐるみにその姿を変えていった。しかも、このうさぎしゃんのお人形、動いてしゃべることもできるらしい。 「うわぁ~、にげろぉ~!!」 プリティなピンクうさぎしゃん人形は、ピョコピョコ歩いているのだが走っているのだがわからないような動きで逃げていった。 「ふふ、可愛い」 カーシャはうさぎしゃん好きである。自分より魔力の弱い者であれば簡単にうさぎしゃんに変えられてしまうのだ。 後ろからはファウストが引き連れる悪魔たちが追いかけて来ている。その数は明らかに増えていた。 カーシャが突然立ち止まり後ろを振り向いた。ルーファスもちょっと先で立ち止まりカーシャを見つめた。 「どうしたの?(聞くまでもないような気がするけど……)」 「逃げていてもラチがあかない……ふふ、殺るぞ(力を使う時が来たな)」 「やるって、手荒なマネは止めたほうがいいと思うけどなぁ~(って言っても無理だよね)」 「ふふ……(滅却)」 滅却ってカーシャちゃん、何する気ですか!! カーシャは自分の両耳にしていたイヤリングを外した、刹那、カーシャの身体が蒼白き光を発し始めた。その輝きは冷たく辺りを包み込み気温をぐっと下げた。 そして、カーシャの瞳は黒から蒼に変わり、唇は赤から紫に変り、髪は漆黒から白銀に……。ルーファスは驚愕した。 「なんで、その力を使えるの!?(だって、その力を使ったら、カーシャは……)」 「ふふ、魔王のマナを喰らってやったのだ。私はチカラを取り戻した!!」 カーシャは大魔王ハルカとの戦いにおいて、魔王のマナを吸収し自らのチカラとしていたのだ。そのためカーシャは、”以前”のチカラを取り戻すとともに水と化してもなお生き残ることができたのだった。 走るようにして廊下が凍り付いていった。カーシャを追いかけてきていた悪魔たちも次々と凍り付いていく。その中でファウストだけが漆黒の炎を身にまとい平然と立っている。 「ほう、カーシャの真のチカラですか、それは?(……少々厄介だ)」 カーシャ砲撃準備OK! マナがカーシャの身体に集められていく――。もう誰も止められないのか? 「カーシャいい加減にしてよ!!」 ドゴ! 「あうっ!」 「ぐっ!」 ゴォォォッッッーーー!! 説明しよう。まず、カーシャは学院ごとふっ飛ばすぐらいのマナを貯めて撃とうとした。それをルーファスが止めた。その止め方というのが、持っていた物でカーシャをぶん殴ったわけなのだが……持っていた”物”、そうペットハウス。ルーファスペットハウスでカーシャ殴る。その時の効果音が『ドゴ!』、そして、ペットハウスの中にいたハルカが『あうっ!』と叫んで気絶。殴られたカーシャは『ぐっ!』と言ってバランスを崩しバタンと床に倒れた。撃とうとしていた魔法を中途半端なまま、天井を突き破り上空に放たれた。以上説明でした。 床に大の字で倒れたカーシャの髪の毛の色は元に戻っていた。打ち震えるカーシャは何かを小声で言っている。 「……ル……ファス……(死!)」 気迫とともに立ちがるカーシャ。その目はキレていた。 氷ついた廊下に残されたファウスト&ルーファス&一匹。緊張が張り巡らされる。 無言でお得意の不適な笑みを浮かべるカーシャの手が動いた。動いた! 動いた! そしてまた動いた!! カーシャの手から放たれる氷の刃がそこら中に突き刺さる。ルーファスは紙一重で避けるが、明らかに刃はルーファスに向けて放たれている。 「カ、カーシャ、落ち着いて!!(殺されるぅ~)」 「ふふ……(死!!)」 キレちゃったカーシャの容赦ない攻撃は続く。狙われているのはルーファス。ファウストはただ見ているだけで何もしようとしない。 「(クク……おもしろい光景だ)」 この人は心の中で楽しんでいるようだ。 氷の刃に追われ逃げるルーファスは、凍りついた廊下をツーッと滑りファウストの前まで来て助けを請う。 「ファウスト先生助けて!!」 「私に助けを請うか……契約を交わすならよかろう」 「ええ、助けてくれるならなんでも(……いや、何でもはマズイ、この先生と契約を交わすのはマズイかも)」 「よかろう、私がおまえを助ける代わりに、ハーピーの羽を代償とする。これが契約書だ」 ファストはどこからともなく契約書と羽ペンを出し、ルーファスに突きつけた。 「(ハーピーの羽か……)」 ハーピーとは海に棲む鳥人で、その美しい歌声で船乗りたちを惑わす怪物だ。この羽を取って来るのはなかなかの至難の業である。だが、カーシャから身を守ると考えると安い物だった。 ルーファスは羽ペンを受け取り、契約書にサインをした。 「クク……契約成立だ。契約を破った場合は命を代償とするから覚えておけよ」 実際はルーファスの寿命は少し伸びただけかもしれない。だがルーファスには選択の余地はなかった。 カーシャが口元だけ笑っていて、あとは無表情というカーシャスマイルを浮かべながら、ゆっくりとルーファスの元へ歩み寄ってくる。 「ルーファス、私を殴った罪は重いぞ(……ふふ、こ~んなことや、あ~んなこと、そ~んなことをした挙句にピンクのクマしゃんに変えてやる!)」 善からぬことを考えるカーシャの口元はいつも以上に歪んでいた。だが、ルーファスがあの時カーシャをぶん殴っていなければ、死傷者が多数出たことは明白な事実だった。 ルーファスをさっと押しのけファウストが前に出た。 「契約の名の元にカーシャ、あなたを冥府に送って差し上げますよ(THE END)」 「ふふ、なかなか言うなファウスト。おもしろい……私に勝てる気なのか?(こいつはピンクのチンパンジーの刑だ)」 「勝てない勝負はしませんよ(歳を誤魔化しているような、おばさんには負けはしない)」 「それは奇遇だ。私も勝てない勝負はしない主義だ(黒尽くめの服から心の中まで真っ白に凍らせてやる)」 先手必勝、いつでもカーシャは最初に仕掛ける。彼女の身体から、レイビームと呼ばれる魔法が放たれた。 レイビームは白く長い帯のように幾本も発射され、蛇が身体をくねらせるようにしてファウストに喰らいつくが如く襲い掛かる。 ファウストは魔法で防護壁を作りそれを難なく防ぐ。この時点では互いに本気を出していない。レイラとアイラと呼ばれる簡単な魔法しか使っていない。 だが、今度はファウストが仕掛けた。しかも、ライラと呼ばれる強力魔法で――。 「ダークフレイム!(魂をも焼き尽くせ)」 漆黒の炎が渦を巻きカーシャに襲い掛かる! カーシャはそれを魔法を放って打ち返そうとする。 「ライトクロス!(小癪な!)」 雷光が漆黒の炎を突き抜けかき消し、そのままファウストに襲い掛かる! だが、ファウストは臆すること無く呪文を唱える。 「デュラハンの盾!(甘いですよ)」 雷光は魔法壁に弾かれ廊下の壁を突き抜けどこかに飛んでいってしまった。きっと、どこかで被害者が出たに違いない。 二人の戦いは終わりそうになかった。――だからルーファスはそーっと逃げることにした。この時ばかりはカーシャ以上の忍び足で……。 後ろから爆発音が聴こえ、爆風が背中を押すがルーファスは決して振り返らなかった。何が起ころうとルーファスはもう他人のフリ、巻き込まれるのはごめんだった。 ルーファスがいなくなったことにも気付かず二人の戦いは加熱し続く。だが、ルーファスには関係ないことだ。彼はもう自由と言う世界に羽ばたいたのだから。 つづく 大魔王ハルカ総合掲示板【別窓】 |
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