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第1話_雪鬼 |
湯煙薫、乳白色の温泉に浸かる女性の後姿。 髪の毛を頭の上で結わき、うなじから伸びる後れ毛が色気を醸し出している。 湯の中で女性が立ち上がり、腰からヒップに掛けての柔らかな曲線の上を水玉が滑る。 少女が振り返った。 桜色に火照った肌に乗った豊かな胸が揺れ、股間の茂みから滴が零れ落ちている。 大きく黒い瞳の奥に炎が宿る。 その視線の先にいたのは白い化け物。全身が白く長い毛で包まれた霊長類のような生物。プロレスラーのような大きな体躯[タイク]を持ち、手や足は人間の比率よりも大きいようだ。簡単にたとえてしまえば雪男と言うのが早いだろう。 雪男の股間に付いた赤黒いモノはすでに限界まで張り詰め、太っとい血管がありありと浮き出ている。 まだ完全に二足歩行に適応していないのか、雪男はがに股でゴリラのように少女に突進してきた。このまま押し倒されでもしたら、華奢な少女の身体はひとたまりもない。 だが、少女はただの少女にあらず。〈不死鳥〉の通り名を持つトラブルシューター華艶[カエン]なのだ。 猪突猛進してくる雪男の身体を軽やかに躱し、華艶は手のひらに意識を集中させる。 「炎翔破![エンショウハ]」 華艶の手のひらから野球ボールほどの炎の玉が投げられた。 〈不死鳥〉華艶の必殺技だ。 炎を投げつけられ、毛に覆われている雪男の身体は一瞬にして火だるまと化した。 灼熱に身を焦がされ、雪男は耐えかねて温泉の中に飛び込んだ。 水しぶきが火山のように噴出し、焼け落ちた黒い灰が乳白色の湯に浮かぶ。 スレンダーに伸びた脚の先で、裸体を露にする華艶は湯に逃げ込んだ雪男を冷ややかに見下していた。 「早く出てきてくれない?」 「グォォォォォン!」 牙を剥き出しにして雪男が雄叫びをあげた。 生臭い口臭が辺りに漂い、華艶は顔をしかめて鼻をつまんだ。 「くっさー、なに喰ってんの……って女か」 日本の東北に位置するとある温泉町で、雪男騒ぎが出たのは1ヶ月ほど前。話を聞くと昔からこの地方では雪男の目撃談や伝説があるらしく、若い女が姿を消したり死骸となって発見されたりする事件が過去にも起きていたらしい。それでも近年ではそういったこともなく、平穏と住民たちは毎日を過ごしていたとも華艶に話してくれた。 今回の事件は、野外露天風呂で若い女が姿を消すところからはじまり、次に雪男の目撃者が現れた。 温泉協会は雪男の生け捕りをして、観光に役立てようとも考えたらしいが、すでに被害者が出てしまっていることから隠蔽に勤める道を選び、警察も連続誘拐事件として動いているらしい。年寄りの多い経営者たちに伝説や迷信を畏れる者が多いのも、生け捕りではなく抹殺を選んだのかもしれない。 田舎町の温泉協会はプロではなく、アマのトラブルシューターに依頼をした。それが女子高生の華艶だったのだ。理由は依頼料が格安な上に、小さな町にわざわざ来てくれる〝腕利き〟が他にいなかったのも理由だろう。 華艶は温泉に浸かる雪男を睨みつけ、石床に胡坐をかいて座った。 「寒いんだけど、早くお湯から出てきて、あたしに殺されてくれない?」 「グアァァァン!」 雪男が咆えた。しかし、温泉から上がろうとは決してしない。身を焼かれた恐怖が脳に根付いてしまったのだろう。 「寒い……仕方ない」 華艶は脚をM字に開き秘所を露にすると、中指と人差し指で秘裂を広げた。 飢えている雪男の濁った眼が、オナニーをはじめた華艶の秘所に釘付けにされる。 鼻から吐息を漏らす華艶は舌舐めずりをして雪男を誘う。 「寒いから、あなたのモノで中から温めて……」 すっかり萎縮していた雪男の男根はすでに猛っていた。 瑞々しく肉付きもいい女を犯したくてうずうずしている。 ついに雪男は堪らなくなり湯船から飛び出し華艶に襲い掛かった。 細い指先で華艶は雪男を抱いた。 前戯もなしに雪男は巨大な男根を狭い入り口から、一気に奥まで突き入れた。 険しい顔を一瞬見せた華艶だったが、すぐに妖艶とした笑みを浮かべ、雪男の首元に顔を沈めた。 雪男の男根は華艶がこれまで経験した誰よりも大きく太く、まるで拳を出し入れされているようだ。 愛の欠片もない性欲を満たすための行為に雪男は耽っている。 乱暴に腰を動かし、華艶の膣が掻き回される。決して上手とはいえないが、デカイだけあって、どんな下手糞なヤリ方でも刺激的な部分を突いてくれる。 湯から上がり濡れていた雪男の身体から蒸気を噴出す。 華艶の指の爪が雪男の背中に喰い込んだ。 膣が男根を吸いだすように動き、雪男の白濁した汁が大量に噴出した。 刹那、絡み合う二人の身体が激しく燃え上がった。 比喩ではない、紅蓮の炎が突如として二人を包み込んだのだ。 「ギャァァァァァッ!!」 雪男の咆哮が木霊する。 炎の中で揺らめく華艶は妖々と微笑を湛え、雪男の背中に喰い込ませた爪によりいっそう力を込めた。 「逃がさないから」 「ガァァァァッ!!」 「もっと激しく、もっと!」 業火に包まれながら、華艶はよがりオーガニズムに達していた。 熱い炎に包まれながら、華艶は常人では達し得ない快楽に酔いしれる。 高温で焼かれた雪男の身体はすでに灰と化し、抱きしめていた華艶の腕の中で崩壊し、熱によって灰は天に舞い上がった。 身体を包み込んでいた炎は徐々に消え、無傷で瑞々しい華艶の肌が露になる。その顔は快楽に溺れ、目が甘く蕩けた表情をしていた。 「あー気持ちよかった」 火が消えた華艶は冷めてしまっていた。まるで男のような変わり身だ。 「さてと、もう一度湯船に浸かってから出よっと」 乳白色の湯に浸かる華艶の頭上に灰色の雪が降ってきた。 石の床には怨念を描いたように灰が模様を象っていた。 ――雪男を退治したその日の夜。 宴会場から部屋に戻った華艶は上機嫌で床に就いた。 報酬は安かったが、趣味でこの仕事をしている華艶には関係ない。もともと土日の休日を利用して、静養目的でこの依頼を引き受けたのだ。 雪男を殺し、報酬は明日もらうことになり、ついでこの温泉町で仕える旅館のタダ券ももらえることになった。タダと言っても二人一組一週間分のケチ臭いものだが、それでも華艶はウキウキ気分で誰と来ようかと胸を弾ませていた。 布団の中で目をつぶりニヤニヤしていた華艶に表情が、徐々に曇り不機嫌そうな顔に変化していく。 脳裏に次々と浮かぶ男の顔。 ホストばっかり頭に浮かぶ。 彼氏がいない。 中学生の時代の淡い恋愛以来、華艶には彼氏がいなかった。 遊び相手ならいくらでもいるが、温泉町でしっぽり静養旅行なんてしてくれる彼がいなかったのだ。 落ち込みを通り越し、怒りも通り越し、笑えて来た華艶は、枕に顔をうずめて無理やり寝ようとした。 しばらく静かにしていると、部屋のドアが強烈に連続して叩かれた。 ふとんから起きた華艶は裸体で、近くに掛けてあった浴衣を羽織り、帯を締めながらドアに向かっていった。 覗き穴から廊下の様子を伺うと、そこにはこの旅館の仲居が血相を変えてドアを叩いていた。緊急事態なのはすぐにわかった。問題はなにが起きたのかだ。 ロックを解除しドアを開けてやると、仲居は華艶の両肩に掴みかかり、口をパクパクさせた。 「あが……あの……たたた、大変なんです……だから呼んで来いって!」 「落ち着いて話してくれる?」 「だから、あの、怪物が仕返しに来たんです!」 「どこにいるの案内して!」 「正面ロビーから……」 「あっ!?」 仲居は極度の緊張のためか、失神して倒れてしまった。 「正面ロビーって礼儀正しい客人だこと」 気を失った仲居をその場に残し、華艶は廊下を駆けた。 怪物が仕返しに来たということは、単純に考えててあの雪男の仲間がやって来たに違いない。 不測の事態に備えてエレベーターを素通りし、階段を駆け下りる途中で華艶の耳に女性に悲鳴が届いた。 1階のロビーに着く前に華艶は2階のフロアに飛び出した。 最初に眼に入ってきたのは、浴衣姿で全身氷付けになっていた女性客の姿。人間が一瞬にして凍らされてしまっていたのだ。 廊下の先を見ると、そこには白い着物を着た女の後姿が見えた。その女の取り巻く白い吹雪が、人外の気迫を放っている。 謎の女の姿を確認した華艶はすぐに階段に引き返し身を隠した。 「……なにアレ。てゆか、だから今日は客は入れるなって忠告したのに」 氷付けにされた旅館客を哀れに思ったのも刹那、思考を巡らせあの怪女の対策を練る。 仕返しだとしたら、雪男を殺したのが誰か知られていなくても、華艶も報復を受けるひとりだ。 ――殺られる前に殺れ。 華艶は2階廊下を走り怪女のあとを全速力で追うことにした。 T字路に差し掛かったところで、華艶は危険を感知し瞬時に床に伏せた。 頭上を通り抜ける吹雪。 床に伏せながら顔を上げた先に立つ白装束の女。顔色は蒼白く、切れ長の目の奥の眼差しは氷のように冷たい。 焦りながらも華艶は爽やかに笑った。 「あー、雪女さんで?」 「そうよ。わたしの子供を殺した人間を探しているの」 「息子さんって、どんな方ですか?」 「雪だまのように可愛らしい子よ」 この雪の結晶のように端整な顔立ちをした雪女から、あの毛の長いゴリラのような生物が生まれるだろうか? そんなことを考えている場合じゃない。 腕立て伏せの状態から一気に立ち上がり、華艶は拳に炎を宿してアッパーカットを炸裂させる。 「昇焔拳![ショウエンケン]」 炎の拳で顎を抉られた雪女の顔は氷が溶解したように溶け、鼻から下の顔が消失し水を滴らせた。 全身を襲う痛烈な悪寒。 華艶は敵に背を向け全速力で逃げ出した。その背中に襲い掛かる吹雪は、廊下を凍らせ館内を氷の世界へと変貌させる。 「冗談じゃない、あんな理不尽な攻撃されたら近づけやしない!」 愚痴をこぼした華艶の前方で客室のドアが開かれた。 すぐさま華艶は客室の中に飛び込み、男を押し飛ばしてドアを閉めた。 廊下を凍らす吹雪がドアの前を抜けていく。 間一髪で身を凍らせずに済んだ。 華艶に押し飛ばされて尻餅をついた男はきょとんとしてなにも言わない。 「ごめんね、緊急事態なの」 「あ、ああ」 目が点になった男の視線は、華艶の着崩れた浴衣からこぼれた片方の乳房しか見てなかった。 男の視線に気づき華艶はすぐに衿を直し、男の顔面を蹴り上げた。 最後に男の見たものは裾の奥に垣間見た華艶の秘所だった。華艶のヌードを見て顔面を蹴られ気を失うのは、相当な対価と言えるだろうか? その上、新たな悲劇に見舞われたら不幸中の不幸だ。 客室のドアが開けられた。と同時に、猛烈な吹雪が部屋の中に吹き込んだ。 ドア先で男はそのまま氷付けにされてしまった。 華艶の姿はすでにない。 部屋の奥から吹き込む冷たい夜風。 いち早く華艶は窓から逃げ出していたのだ。 2階の窓から飛び降りた華艶は難なく黒土の上に着地し、止まることなく走って逃げた。 旅館の裏手を進み、華艶はいつの間にか照明が照らす露天風呂に来ていた。 すでに後ろからはすでに顔を再生させた雪女の影が迫ってきている。 逃げることを止め、替わりに華艶は物陰に身を潜めた。 露天風呂までたどり着いた雪女は急に足を止めて辺りを見回しはじめた。微かに華艶の気配を感じ取ったのかもしれない。 刹那、華艶は物陰から飛び出し手に炎を宿した。 「炎翔破![エンショウハ]」 炎の玉が雪女に向かって飛ばされた。 ――しまった外れた。 炎の玉は雪女に躱され、虚しく遠く闇の中に消えた。 焦る華艶と冷たい雪女の目が合ってしまった。 雪女が手のひらを華艶に向け、そこから渦巻く吹雪が発生する。 扇状に広がる吹雪に逃げ場を失った華艶は瞬時に防壁を張る。 「炎壁![エンヘキ]」 地面から巨大な炎壁が天に伸びた。 吹雪は燃え揺る炎壁に相殺され、水と水蒸気になって掻き消された。 照明効果と相まって大量の水蒸気に映る華艶の影。 「焔龍昇華![エンリュウショウカ]」 華艶の両手から渦巻く龍のような炎が飛び出し、それはまるで龍の鳴き声のような風の音を立てて、巨大な口を開けて雪女の身体を丸呑みした。 「キャアアアアアアアアッ!」 悲痛な叫びをあげ、雪女の身体が炎の中で溶解していく。氷の身体とはいえ、肉体が溶ける光景はおぞましい。 だが、雪女を包んでいた炎は勢いを失い、静かに鎮火していく。雪女の身体を構成する物質に引火物がなかったのが大きな要因だろう。 辺りの冷気を吸収し、身体を再生させていく雪女の顔が恐ろしい般若の形相に変貌した。 大きく開けた口の奥で鋭い牙が光る。 華艶が突発的にダッシュし、雪女の身体に猛烈なタックルを喰らわせ、そのまま雪女の身体を押しながら走った。 雪女の身体に触れた部分が凍傷を起こすが、それでも華艶は雪女の身体を押し続け、一気に力を込めて再度雪女にタックルをした。 押し飛ばされた雪女の身体は背後にあった温泉に落とされ、上がった水しぶきはすぐに凍り付いてしまった。 「……やった」 深いため息を吐いた華艶の全身からどっと力が抜ける。 目の前にはスケートリンクのように凍ってしまった温泉。そして、そこから突き出た雪女の手首がもがくように動いている。 雪女の落ちた温泉は瞬時に凍りつき、雪女の身体を呑み込み封じ込めてしまったのだ。 氷の上に突き出た手はまだ動いている。だが、雪女自身が冷気を発し続ける限り、自分の力では出られないらしい。生きたまま氷の中で一生を過ごすのだ。 華艶が床に座り込んで休んでいると、騒ぎで駆けつけた旅館のマネージャーが姿を現した。 「大丈夫ですか!」 「ぜんぜんへーきでーす」 凍傷を受けた華艶の身体はすでに驚異的な復元力で再生をはじめていた。これが〈不死鳥〉――不死身の華艶の由来だ。 雪女はすでに氷の牢に入れられたが、マネージャーはそんなことは知らずに取り乱している。 「怪物が出たらしく、私は見てないのですが、氷付けにされたお客様や従業員を目の当たりにして、もうどうしていいのか」 「あー、その怪物てゆか、雪女はすぐそこに」 華艶は凍る付けになった温泉を指差した。 そこから突き出た動く手を見たマネージャーは眼をぎょっとさせて腰を抜かした。 「あ、あああ、あ、あれは、なんですか!?」 「雪女はそこで氷付け。たぶん、出て来れないと思うけど。雪女があんな目に合わされるなんて、屈辱でしょうね」 冷笑を浮かべた華艶の表情は、雪女よりも冷ややかだ。 「本当に出て来られないんでしょうね!」 「だから、観光とかに役立てたらどう? 世界初、氷付けになった雪女」 「えっ?」 「ほら、氷から突き出て動いてる手なんて、臨場感たっぷりだと思うけど」 「そ、そうですね、それいい考えですよ!!」 商魂に火が点いたのか、怯えていたマネージャーは覇気を出して立ち上がった。 疲れた華艶は部屋に戻ろうと歩き出したが、ふと足を止めてマネージャーに顔を向けた。 「ギャラの上乗せしてね」 「ぜんぜんオッケーです」 「あと、旅館のタダ券三人一組にして」 「わかりました」 こうして、温泉町の怪物騒動に終止符が打たれた。 そして、華艶は自分の部屋に戻りながら、女友達二人の顔を思い浮かべるのだった。 雪鬼(完) ~あとがく~ えっと、まず、この作品は18禁作品じゃありませんよ!! 小説ってその辺のラインがあいまいで、この程度なら市販の本でもっと凄い描写なのがあります。もちろん18禁じゃない小説で。 はい、えーっと、この作品は都市型アクションファンタジーです。 今回の舞台は東北の温泉町ですが、本当は帝都エデンで繰り広げられるお話です。 てゆーか、本当はこの作品を書き上げる前に、華艶が主人公の『華艶乱舞』という中篇を書いていて、半分くらい書き終えたところでこっちの作品を先に書き上げました。 そっちの中篇は再来月に連載開始です。たぶんタイトルも変更になるかと。 予定表を無理やり埋めるために間に合わせで書いた短編というのはここだけの話です。 本当はもっと物語として膨らみを持たせる話を、無理やり短くしました(笑) 次回の中篇はこう期待です。 その中篇もじつは予定表埋める間に合わせの短編だったのですが、やっぱり中篇に路線変更というのもここだけの話。 ・・・>>>秋月あきらでした o 華艶乱舞専用掲示板【別窓】 |
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