紡がれる因縁 第1章《迷いの森》
 旅に出る
 旅の目的?
 ただ飽きた、そんだけ
 自分の未来は自分で築け……?
 俺は今の事で手一杯だ

 俺の名前はジェイク、プロのハンターだ(自称だが)。
 そんで、俺は相棒のクィンってのと一緒に旅をしてるんだが、俺は剣、そのクィンは主に魔法を担当している。そのためクィンは古代文明にも精通している……らしい。実際どのくらい詳しいのか知らない。
 ハンターってのは簡単に説明すると、人間に害を及ぼす奴らをやっつけたり捕獲したりする仕事だ。数ある仕事の中でも、5本、いや3本の指に入る危険な仕事と されている。
 ハンターってのはふつーは、狩る相手によって専門のハンターがいるもんだが、俺らは依頼さえあれば何でも狩る、時にはハンター家業とは関係ない仕事もやる。要するに金さえ貰えれば、なんでもやる。
 まぁ最近じゃあ、俺らみたいになんでもこなすハンターが増えてきている。時代の流れってやつか?
 で、まぁ、今は何してるかっていうと……実は……まぁその……なんだ……相棒にはデカイ声じゃ言えないんだが……迷った……道に迷っちまった。

 第1章 迷いの森

 二人の若者は森の中にいた。
 アニスの村まではあと、どのくらいだろうか? この森に入ってから、どのくらい歩いたのだろうか?
 2時間、いや3時間くらいか――実を言うと1日以上この森の中にいる。本来であれば1時間とかからずに抜けることのできる森なのだが……?
 そのためであろうか、二人の若者は少し疲れた足取りで無言のまま歩いている。
 そして最初に話を切り出したのはジェイクだ。
「よし、休憩にしよう」
「また……ですか? さっき休んだばっかりですよ」
 とクィンがジェイクを上目遣いで見つめ、少し呆れた口調で言う。
「…………。(こいつ気づいてる……俺が道に迷ったことを)」
「……正直に言ってください、それがあなたのためになるということですよ」
 クィンは不適な笑みを浮かべ目線を落とした。
「……っ何が? (絶対気付いてる……ヤバッ!)」
「とぼけないでください!」
 クィンが怒るのも当然だ。なぜなら、この森に入るきっかけを作ったのはジェイクの『近道をしよう』という言葉が原因だからだ。
「そーいえば、さっきっから、同じような景色が続くなぁ……ははは (これ以上はヤバイ!)」
 と、わざとらしく言ったのがまずかった――。
「……フッ、とぼけないでください! 道に迷ったなら、迷ったとはっきり言ったらどうですか!!」
 クィンはそーとー頭にきているらしく、それに押されたジェイクは、申し訳なさそうに頭を下げた。
「……すまん……迷った。でもなぁー、分かってんだったら早くフォローしろよ! オマエの役目だろそーゆーの」
 と、言って食って掛かったが、それに対してクィンは少し皮肉を込めてこう言った。
「だって、ジェイクが言ったんですよ、『この森なら前に来た事がある、黙って俺に付いて来い』って、僕はクィンが『黙って』って言ったから、そうしたまでです」
「はぁ! そんなの言葉の綾だろ!!」
「わかってました」
「性格悪いぞ……オマエ」
「あなたと付き合うようになってからです」
 沈黙が二人を包み込んだ――。
「……ふ、はははは!」
「……フッ」
 沈黙によって冷静さを取り戻した二人は、今のケンカが莫迦らしく思えて思わず笑ってしまった。
 少しはにかんだ表情をするクィン。そして、何事もなかったかのようにジェイクが、
「……で、どーする?」
「……どうしましょうか?」
 そのとき、遠くのほうで女性の悲鳴が!
「きゃぁぁーーーっ!!」
「…………!!」
「行きましょう!」
「そうだな、道に迷ってるよりましだ、行くぞ!」
 二人は悲鳴が聞こえた方向へと森の中を駆け抜けて行った――。
 二人の前に現れた女性は女性というより、まだ、少しあどけなさを残す少女と言ったほうがいいだろう。
 少女は少し安堵の表情を浮かべ、
「あ、あの、助けてください。あなたたち、あの、強そうだし魔物に追われていて、あの、お願いします」
 少女の言葉からは焦りと動揺の色が見受けられる。
 ジェイクはまぁまぁ落ち着けって感じで少女に歩みより尋ねた。
「で、その魔物ってのは?」
「あ、あの、後ろに……」
 少女はジェイクとクィンの後ろを指差した。ジェイクとクィンが驚いた表情をして後ろを振り向くとそこにはモンスターが!!
 モンスターは緑色のゴツゴツした筋肉質の巨体を上下に揺らし3人を睨みつけている。
 クィンはモンスターを一瞥し、そのモンスターが何なのかを瞬時に判断した。
「ゴブリンのようですね、それも変種のような。僕の魔法を使えば楽勝です……と言いたいところなんですけど、実は、昨日から変だなぁと思っていたんですけど……その、なんですかね……」
「早く言えよ」
「この森、結界が張っているらしくって……魔法が封じられていて、でも1回くらいなら使えるかも……ははは」
 モンスターを前にして魔導士が魔法を使えないとはただの人同然、もしくはそれ以下の戦力にしかならない。
「使えねぇーなんだよそれ。わかった、ここは俺にまかせろ!」
 ジェイクは腰に掛けてある鞘から剣を抜きモンスターにその刃を向けた。
 モンスターは動じる様子を全く見せずジェイクを獣のような目つきで睨み舌なめずりをした。
「ソコノ、オンナヲワタセ」
「こいつ、人間の言葉をしゃべれるのか!?」
 ジェイクはゴブリンを指差し肩越しに後ろを見てクィンに聞いてみた。
「普通のゴブリンより知能が高いみたいです。気をつけてください!」
「ハヤクシロ! サモナイト……」
「さもないと何だってんだ!」
「ウゴォーーーッ!!」
 ゴブリンの拳がジェイクの顔面に近づいて来た。ジェイクの顔面に拳が当たる刹那、彼は不適の笑みを浮かべ、そしてゴブリンの視界から姿を消した。
 ゴブリンは辺りを見回したがジェイクの姿は無い!!
「こっちだデカブツ!」
 ジェイクの身体は木の上にあった。そして地上へ切っ先を向け落下し、ゴブリンの身体を突き刺す。モンスターの雄たけびが静かな森に木霊する。
「ウゴォーーーッ」
「ジェイク離れて下さい!!」
「OK」
 ジェイクは剣を抜きながら後ろにジャンプした。すると、間を空けずゴブリンの身体に大地に轟く雷光が落ちた。
「グフッ!」
 モンスターの身体は地面に大きな音を立て土煙を上げながら倒れ込み、そのまま動かなくなった。
 それを見た少女は安堵感から地面にへたり込んでしまった。
 クィンは少女に近づき手を差し伸べた。少女はその手に掴まり身体を起こされながらこう言った。
「命を助けていただき、ありがとうございました」
「どういたしまして」
「いいとこばっか持ってきやがってちゃかり最後止め刺してんじゃねぇよ」
「まぁいいじゃないですか」
 ジェイクはまだ少し不満だったが、そのことよりも少女のことが気になった。
「で、何でモンスターに追われてたわけ?」
「そ、それが……」
 ジェイクの質問に少女の顔は血の気を失い凍りついた。そしてまた地面にへたり込んでしまった。
「どうしたんですか!?」
 少女の目からは涙が止め処なく流れ地面を濡らす。
「お父さんもお母さんも……殺されて……」
「殺された? 誰にだ?」
「……わからない……でも、みんな殺されて、それで私逃げて……」
「落ち着いて話してみて下さい」
「……覚えてないの」
 ジェイクはクィンを後ろに引っ張り少女の聴こえない所で、
「どう思う?」
「たぶん、ショックのあまり一時的な記憶喪失になってしまったのでは?」
「取り合えず近くの村まで連れてくしかないだろ?」
「でも、僕たち道に迷ってるんですよ」
「だいじょぶだ」
 クィンはこの言葉を何度聞いて何度だまされたことかと思ったがここはあえて何も言わなかった。
 ジェイクは少女に近づきこう言った。
「立てるか?」
 少女は小さく頷くと身体をゆっくりと持ち上げた。
「取り合えず村まで行こう、話はそれからだ。村の位置はわかるか?」
「……はい」
「(自然な誘導の仕方だ)」
「じゃあ、村まで一緒に行こう」
 トラブルには見舞われたが二人の若者は少女の案内によって、どうにか目的地であるアニスの村まで行けることとなった。
 アニスの村への道すがら少女は気を持ち直し元気を取り戻し三人は軽い自己紹介をした。少女の名前はソフィアというらしい。
 いろいろなことを話すうちに時は流れ、三人の前方に村の入り口が見えてきた……。

 アニスの村――。
「大きな村ですね」
 クィンがそう言うのは当然だ。都と呼ばれる世界各地にある巨大都市を少しでも外れたとたん、文明のレベルは著しく下がり、大地は荒れ果てた土地となる。そこに存在する村は、自然災害や魔物の襲撃などにより大抵は大きくなることはない。しかし、例外もある。
「はい! この村は古代文明の研究をしていて、産業が発展したんです」
 古代文明とは主に古代人の残した遺跡のことと機械、そして、魔導のことを指す。
「懐かしいなぁー、前に来たときは5歳くらいの時だからな」
 懐かしそうに辺りを見回すジェイクに対して、クィンは少し驚いた表情をして、
「えっ! 今、何て言いました?」
「『 懐かしいなぁー、前に来たときは5歳くらいの時だからな』って、言ったんだけど……それが、どうかしたか?」
 その言葉に対してクィンは、もう、うんざりといった表情で、
「……5歳。『近道しよう』って言ったときはもちろん道を覚えてたから言ったんですよね?」
「いや、しかも実を言うとあの森に入ったのは今回が初めてで前に来たときは街道を馬車に乗ってこの村に来た」
「……はぁ」
 クィンは、もう、どうでもいいといった感じだ。
「あ、あの……」
 ジェイクとクィンは同時にソフィアに振り向き、クィンが尋ねた。
「何ですか?」
「あ、あの、この村におばさまの家があるんですけど」
「そうだな、まずはそこに行くか」
 程なくして三人はソフィアの伯母の家の前にいた。
「あのさぁー、ここがソフィアのあばさんの家?」
 ジェイクが指を差す先には宿屋を書かれて看板があった。
「はい、おばさまは宿屋の経営をしていて」
「クィン、ちょうど良かったな宿屋探す手間が省けて」
「そうですね」
 ソフィアは家のドアを開け中に入って行く、それに続いて二人も家の中へ。
「こんにちはおばさま」
 家に入ってきたソフィアの声を聞いて、部屋の奥から出て来たのは中年の女性だ。
「まぁ、どうしたんだいソフィアちゃん?」
 少女は中年の女性の顔を見た途端、何かが弾けたように突然目に涙をいっぱいためて中年女性の胸に抱きついた。
 涙をいっぱいに浮かべたソフィアはおばさんのことを見上げて言葉を精一杯紡ぎ出した。
「家にモンスターがいきなり入って来て……お父さんもお母さんも殺されて……」
「本当かい? ……あたしには何て言っていいのかわからないけど、できるだけのことはしてあげるよ」
「ありがとう、おばさま」
 ソフィアは涙を拭き取りすぐに笑顔を作った。
 こうでなければ今の世をを生き抜くことはできない、強く生きなければこの世界を生き抜いていくことはできないのだ。
 中年の女性はソフィアの身体を強く抱きしめ少しの間そのままで時間が過ぎていった。
 ややあって――。
「んっ、後ろの人たちは誰だい?」
 どうやらやっと、この中年の女性は後ろの二人に気付いたらしい。
 それに対して、ソフィアは簡潔にことのあらましを説明をした。
「あ、あの、この人たちは、私が森でゴブリンに襲われていたときに助けてくれたんです」
「そうかい、私からもお礼を言うよ。今日は家に泊まっていくといい、もちろんタダでいいよ」
「サンキューおばさん!」
「ありがとうございます」
 クィンは最高笑顔を浮かべ中年女性を見つめた。その笑顔を見た中年女性の頬が桃色に染まった。これはクィンの必殺技の営業スマイルだ。
「二人は二階の奥の部屋を使っておくれ、ソフィアはいつもの部屋でいいね」
「じゃあ、俺は休むわ」
 ジェイクは足早に2階に上がろうとしのだが、その足が不意に止まった。
「モンスターだ! モンスターが出たぞー!!」
 外から男の大声が家の中まで鳴り響いた。
「……何っ!」
 ジェイクの手が直ぐに鞘にかかった。
「はぁ、僕らに休息の時間[トキ]はないんですかね」
「ぐずぐず言ってねぇで行くぞっ!!」
 二人が宿の外に駆け出して行くと、
「あ、待って下さい」
 と言ってソフィアが続いて外に飛び出して行った――。

 二人が宿を出るといきなり足元に男が降って来た。
「何だ?」
 そう言いながらジェイクが男の飛んで来た方向に目を向けるとそこには、またゴブリンが!!
「また、ゴブリンかよ」
「オレノ、ナカマヲコロシタ、ヤツラヲダセ!!」
「僕らのことですかね?」
「たぶんな……。来やがれ、オレが相手になってやる」
 ジェイクは剣を抜き構えた。ジェイクが戦闘態勢を取ると横から水を差す言葉が聞こえた。
「実は、さっきから変だなぁと思っていたんですけど……ここも、結界が張っているらしくって……」
「またかよ」
「でも、さっきよりはマシで初歩魔法ならいくらでも」
「もういいよ、ここも俺に任せろ!」
「……申し訳ない」
 地面に切っ先を擦るようにジェイクはゴブリンに走りより剣を振るった。そのスピードは驚異的でありゴブリンは避ける暇も無く左腕を切り落とされた。
 腕を失ったゴブリンは半狂乱になり、残った腕を振り回してジェイクを殴ろうとするが一発も当たらない。
「なんだそのパンチは親父のパンチに比べりゃー、止まってみえるぜ!」
 相手をからかうようにパンチを紙一重で避けている。そして、ゴブリンの一瞬の隙をついて剣を地面から上に斬り上げた。
「ウゴォーーー!」
 モンスターの身体は雄叫びとともに二つに割れ地面に倒れた。
「ふぅ、さすがに今日はもう疲れた、俺は宿に帰って寝るぞ!」
 剣を鞘に戻すジェイクの額からは汗が少しだが滲んでいた。
「そうですね、今日はもう宿に帰ってゆっくり休みましょう」
 二人が宿に帰ろうとすると、何者かに後ろから呼び止められた。
「待ってくれ」
 ジェイクはもの凄い不機嫌な顔をしながら首だけを動かし後ろを振り向くとそこにはハゲ頭の中年男性が立っていた。
「何だよ、おっさん」
 近くにいたソフィアが突然口を開いた。
「あっ、村長さん」
「そ、村長!(どう見てもパンチョって感じだよな)」
 ジェイクの顔色が少し変わった。
「そうだ、村長だ」
「で、その村長さんが何の用ですか?」
 クィンは結構冷静であった。
「君らの強さを見込んで頼みたいことがある」
「頼みごと? ……高くつくぜ」
「僕たちハンターなんです」
「それなら話が早い、後で家に来てくれないか?」
「わかった、気が向いたら後で行く」
「では、気が向いたら来てくれ」
「宿に帰るぞ」
「そうですね」
 宿に戻ろうとする二人をまたソフィアは追いかけて行った。

 宿に戻ったジェイクは、
「もう、俺は寝るぞ、絶対起こすなよ!」
 と言って直ぐに二階の部屋に上がって行ってしまった。
「あ、あの、どうしたんですか、ジェイクさん?」
 ソフィアは目を丸くして驚いている。
「今日は、ほとんど一人で戦ってましたから、疲れたんですよ(僕のせいですかね)」
「あ、あの、まだ昼ですよ?」
「あの人、一度寝たら絶対に起きませんから。あっ、それより、この町の古代文明について詳しく聞かせてくれませんか?」
 魔導を極めんとするクィンは目を輝かせながらソフィアに聞いた。
 二人は椅子に腰掛けゆっくり話すことにした。
「えーとまず、あ、あの、この村の近くに遺跡があります。あ、でも、遺跡と言っても、りっぱなお屋敷で、今でもゼメキスという妖魔貴族が住んでいます。この辺りは、その妖魔貴族の支配下にあって、あ、でも、その貴族とは十数年前、協定を結んで人間に危害を加えることはなくなりました。それで、あ、あの、この村ではその妖魔貴族の研究をしています。妖魔貴族の研究をしている施設は数が少ないので、この村は都から援助を受けることができて」
「それでこの村は都から離れているのにこんなに発展してるんですね」
 クィンは真剣な眼差しでソフィアの話に聞き入っている。
「どうですか、あ、あの、何かお役に立てましたか?」
「どうもありがとうございました、いろいろと参考になりました」
 そういうとクィンは席を突然立ち上がった。
「どうしたんですか?」
「僕も疲れたので部屋に戻りますね」
 そう言ってクィンは笑顔で軽く会釈をして二階に上がって行ってしまった。
 クィンも疲れているらしく、部屋に戻ったとたんベットに倒れこんだ――。


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