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紡がれる因縁 第4章《過去の亡霊》 |
……時として偽りは 人々を恐怖させるのね 嘘……それが始まり どんな者にも役割があるってこと? そう、だから出会えたのさ 偶然ではない必然 第4章 過去の亡霊 アンネから馬を借りたゼロは手綱を確りと握り締め、朝もやの中を馬を走らせて行った――。 村から北東に馬を跳ばして約2時間、小高い丘の上にイドゥン男爵の屋敷はあった。 イドゥン男爵の屋敷の前には門番と思われる貴族の創りだしたアンドロイド兵が壁のようにそびえ立っていた。 ゼロは門番に向かってこう言った。 「門を開けろ」 と、しかし、門番が応じるはずもなく、いきなりゼロに向かって襲い掛かってきた! ゼロはそれを交わすと、相手の背後に回り剣を振り下ろした。 「ギゴォオオーー」 アンドロイド兵は不気味な音を上げ、そのまま地にひれ伏し動かなくなった。 ゼロが剣を鞘に収めると何処からともなく、声が聞こえてきた。 「いやー、おみごと、あの門番を倒すとは……しかし、門番は飾りにすぎん」 この声はスピーカーから発せられているものだろう。 この屋敷のいたる所に監視カメラ、レーザー銃など色々なものが備え付けてある。 「馬鹿に厳重だな……」 「ハンターごときがこの屋敷に入れるものか、そこを一歩でも動いてみろ、レーザー銃で丸焦げだ」 「やってみなくてはわからん」 そう言うとゼロは自分を映し出している監視カメラを叩き斬った! 別のカメラに切り替わった時には、そこにはゼロの姿はもうなかった。 「あいつ、どこに行きやがった」 屋敷の警報がけたたましく鳴り響いた。ゼロは瞬時のうちに屋敷の中に忍び込んだのだ。しかし、監視カメラでいくら探してもゼロの姿は見つけることはできなかった。ゼロはいったいどこに行ってしまったのだろうか? ゼロは屋敷の地下洞窟の中にいた。どうやら、ここまでは監視の手が行き届いていないようだ。 「やはり、この洞窟の中までは知らんとみえる」 と、ゼロは呟いた。 どういうことだろうか? ゼロは以前にもここに来たことがあるのだろうか? ゼロは洞窟の中を歩き続けた。すると、ゼロの目の前に全長30メートルを優に越える地竜が、ゼロの行く手を待ち受けていた。 地竜というのは太古の昔から存在する魔物の一種で、竜族というのは皆知能が高く中には神として崇められ、そして、恐れられるモノもいる。 地竜が人の気配を感じ、身を起こし気配のほうへと目を向けた。 「……ゼロか」 どうやら、この地竜は人間の言葉が話せるらし。しかし、なぜゼロの名を? 地竜はゼロに問う。 「ゼロよ、何をしに来た?」 「少し立ち寄っただけだ」 「そうか……以前ここに来た時も同じ事を言っていたな……あれ依頼、人間の言葉をしゃべるのは久しぶりだ……はて、以前お前がここに来たのは、いつの事だったか……?」 「300年ほど前だ」 300年!? いったい、どういうことなのか、今、確かにゼロの口から放たれた言葉は300年と聞こえた。 「そうか……300年しか、経っていないか、お前も以前とちっとも変わらん、さすがは、半分だけ妖魔のことはある」 なんということであろうか、ゼロは人間ではなかったのだ。確かにそうだ、人間離れした能力の数々がそれを物語っている。しかし『半分だけ』とはどういうことなのか? 「ゼロよ、どうだ、またあのときのように一戦交えてみぬか?」 それに対してゼロは、 「断る、今日は、お前と戦っている暇などない」 それを聞いた地竜は少し肩をすくめ元気のない声で、 「そうか……確かに、お前とやり合っても、わしに勝ち目はないが……」 「質問がある」 ゼロが話を突然切り出した。 「なんだ、言ってみろ」 「イドゥン男爵はどうした?」 「あ奴か……あ奴なら、お前との戦いに敗れた直後に、この屋敷を後にした、今は何処で何をしているのか……?」 「そうか、やはりな……」 イドゥン男爵は、この屋敷には、もういない? では、今、この屋敷にいるのは誰なのか? 村の人々をさらったのは誰の仕業なのか? 謎は深まるばかりだ。しかし、ゼロは最初から全てを知っていたかのように表情一つ変えない。 「では、この屋敷の今の主は誰だ?」 「わからん、わしは、この洞窟でひっそり暮らしているだけの忘れられた存在だ」 「たまには外に出たらどうだ?」 「わしの時代はもう終わった、出る幕もなかろう」 「そうか、また会おう」 「もう行ってしまうのか?」 「この仕事が全て終わったら、また、ここに来る。今度は本気で一戦交えよう」 「バレておったか」 ゼロは地竜のもとを後にした。 洞窟を抜けると、そこは屋敷の主の部屋につながっていた。 この洞窟は、万が一に備えて、敵が攻めてきた時に外への脱出口として造られたものだった。ゼロは以前この屋敷に潜入したとき、あの洞窟を見つけたのだ。 主の部屋には生物の気配は一つもなかった。ゼロが他の部屋に移動しようと部屋を出ると、そこはすでにアンドロイド兵によって取り囲まれていた。 「探したぞハンター、まさかハンターごときがこの屋敷に侵入する事ができるとは」 「隠し通路を知らんのか、ここの主は?」 「隠し通路……? そうか、そんなものがあったのか、後で塞がなくては――、さてハンターよ、もう逃げ場はない、どうする?」 「こうするまでだ――」 ゼロは剣を抜き、アンドロイド兵達に斬りかかった。しかし、アンドロイド兵の数は一向に減らない、むしろ増えているくらいだ。 ゼロは走った、アンドロイド兵を切り倒しながら、屋敷中を走り回った。しかし、ゼロはいつの間にか廊下の隅へと追いやられていた。逃げ場はもうない、どうするゼロ! その時突然、ゼロの手から剣が滑り落ちた。そして――ゼロの全身から力が抜け、ゼロはそのまま床に倒れこんでしまった。 ゼロの身にいったい何が起きたのか!? ゼロが目を覚ました時には、辺りはアンドロイド兵の残骸がガレキの山を作り上げていた。いったい、セロが気を失っている間に何が起きたというのか? ゼロは身体をゆっくりと起き上げ、こう呟いた。 「また、発病したか……」 また? 以前にも、これと同じようなことがあったのか? ゼロは自分が気を失っている間に起こった出来事を全て把握しているように思えた。 辺りは静けさに満ちていていた。どうやらアンドロイド兵は全て破壊されたようだ。 「やはり、残るは監視部屋か……」 先ほどから、敵はゼロの行動を監視カメラによって監視しつづけている。そんなことができるのは主の部屋か監視部屋のみ。主の部屋には誰もいなかった……。 となると残るは監視部屋のみ。しかし、これは300年前の話だが……。 ゼロは監視部屋へと向かった。 ゼロの感は的中した、敵は監視部屋にいた。 「ハンターよ、よく来た」 部屋の中は暗闇に包まれ、声は聞こえるが姿は見えない。 「村人を返してもらおう」 「それは出来ぬ相談だな」 「しかたあるまい」 と言ってゼロは剣が抜くと、暗闇の中の声が、 「ま、待て、私に向かって剣を抜くとはいい度胸だ、私をイドゥン男爵と知っての事か?」 これを聞いたゼロは苦笑を浮かべた。 「……フッ、この道化が、イドゥン男爵は300年前に屋敷を出たと聞くが?」 そう言ってゼロは、闇に向かって剣を突き刺した。 「……グフッ……やはりバレていたか……アンドロイド兵がやられた時に逃げておけばよかった……グフッ」 呆気ない幕切れであった。 ゼロはこの屋敷の偽者の主を倒し、囚われた人々のもとへと向かった。 村人たちは、屋敷の地下牢に閉じ込められていた。そこには、屋敷の近隣にある村から集められた大勢の人たちがいた。 そこの人々の話を聞き、まとめると、この人たちは妖魔による人間売買のために、ここに連れて来られたことがわかった。 妖魔による人間売買とは、労働力や吸血貴族の食事などに用いられる人間を確保することを目的としている。 先ほどの偽主はここを拠点として人間売買をしていた下級妖魔だったらしい。 その下級妖魔は自分をこの屋敷の主、イドゥン男爵に偽って人間達に恐怖を与え仕事を円滑に進めていたらしい。 たしかにイドゥン男爵の名を語ることは、効果絶大だったと言えよう。イドゥン男爵の名を聞いたものは、その名を聞いただけで恐怖すると言われている貴族である。イドゥン男爵に仕返しをしようなんて者は、まず、いないだろう。そこに下級妖魔は目をつけたのだ。 下級妖魔はチカラこそ、余りないものの、その分、頭の切れる奴が多いと言われている。このようなケースは、よくある事と言えよう。 ゼロはアンネの妹を探したが何処にもいない。アンネの妹は何処に行ってしまったのか? アンネの妹のことを詳しく聞いてみると、なんと、アンネの妹だけは、他の者よりも早く売りに出され貴族に買われていったらしい。 アンネの妹を買っていった貴族の名は、ゼメキスという貴族の使いの者らしい。 ゼロはゼメキスと言う名を聞いた瞬間なんとも言えぬ表情を浮かべ、そして、空を見上げこう呟いた。 「ゼメキス・ヴィリジィア伯爵……おもしろい」 ゼロが村に戻ったのは翌日のこと夕方だった。 他の村の人たちを送り届け、最後にアンネの待つこの村へと戻って来たのだ。 それを見た門番の若者はそのことを村中駆け回りの人に伝えると、人々は村の入り口に集まって来た。しかし、ゼロは、そんな人々のことなど目もくれず、真っ先にアンネの元へと足を向かわせた。 アンネもゼロの帰還を聞き、家を飛び出しゼロの元へ向かった。そして、村の入り口に向かう途中でゼロと出合った。 「村の人たちが帰ってきたって、本当?」 「あぁ……」 「ねぇ、私の妹は?」 アンネはうれしそうにゼロに聞く。しかし、ゼロは、 「君の妹さんは……」 ゼロは言葉に詰まった。 それを察したアンネは、 「……そう…ミネアは死んでしまっていたのね…いろいろ、ありがとう」 「君の妹さんは死んだと決まった訳ではない、ただあの屋敷から、別の場所に移されたらしい」 「えっ……そうなの、よかった、まだ死んだわけじゃないのね」 この言葉にはうれしさが込められていた。 「ああ……これから俺は君の妹さんを探しに行く。まだ、君との約束は果たしていないからな」 ゼロがそう言うと、アンネの目には涙が溢れていた。 そして、アンネはゼロに抱きつき、こう言った。 「やっぱりあなた、良い人ね」 そう言い終えるとアンネはゼロの身体を離れ、涙を拭った。 「後の涙は、妹が帰って来た時のために、残しておくわ」 「そうだな」 そう言ってゼロは、アンネのもとを後にしようとした。 「待って、もう行っちゃうの?」 「ああ、場所は知っている、一刻も早いほうがいいだろう」 そう言ってゼロの姿は夕日に溶けていった。 村を出て3日、ゼロはアニムの村の近くにいた。 ゼロは、この村の近くにある屋敷にアンネの妹がいることを知っていたのだ。 ゼロの足が不意に止まった。ゼロの目の前には大量の霧が発生していて、一寸先も見ることができない。 その霧は何かに覆われているように、ある一定の範囲から外に広がらない。これは、どういうことなのであろうか? 「霧の結界か……以前も、これと同じ事があったな……」 以前にもあった? それはどういうことなのか? 「この結界は侵入者を拒むためのものではなく、内にいる者を閉じ込めるためのもの……」 ゼロはこの結界についてよく知っているらしい。 「以前は内側からでびくともしなかったが、外からの攻撃には弱いはず」 そう言ってゼロは剣を抜き、霧に向かって斬り掛かった。 すると、形をもたぬはずの霧が真っ二つに別れ、向こう側の景色を見ることが出来た。 ゼロは霧の裂け目から中に入った。ゼロが中に入ると霧はすぐに元通りに戻ってしまった。 「これでもう、後戻りはできんな……」 ゼロの言う通り、もう、外の世界に出ることはできない。この霧の元凶を断つまでは……。 ゼロはとりあえずこの村の村長に会いに行くことにした。ゼロは村長に会って何をしようというのか、そこにこの霧の手がかりがあるというのか? 村長の家の着くと村長自らがゼロを厚く持て成した。 「ゼロよ、久しぶりじゃな、また、お主に会う事ができるとは……依然と同じ状況で」 この村長も以前という言葉を使った。以前この村で何があったというのか? 「やはり、この霧は奴の仕業か?」 ゼロはこの元凶の正体を知っているのか? 「そうじゃ、おそらくゼメキスの仕業じゃろう」 「そうか、それだけ聞ければ、もう、ここには用はない」 そう言って部屋を出て行こうとしたゼロを村長が呼び止めた。 「待ってくれ、依頼を受けてくれんか?」 「断る」 「そうか、なら仕方あるまい」 「今回はやけにあっさりしてるな」 「今回はもう別のハンターに依頼をしてある。聞いて驚くな、依頼を受けたのはハーディックの息子のジェイクだ」 「何っ!!」 ゼロをこれほどまでに驚かせることはそう滅多にない。 「フッ……運命の悪戯か……いや、それにしては今回は偶然が多すぎる」 ゼロは村長に何も言わずこの場を後にした。 妖魔貴族ゼメキス・ヴィリジィア伯爵、歳は1000を優に越える大貴族だ。 そのチカラは絶大で、片手で竜巻を起こし、その息は鋼鉄をも溶かすと言われている。超一級の上級妖魔であり、その実力は妖魔の君と同等であるとも噂されている。 しかし、彼は数年前に人間との間に協定を結び、それ以降人間に害を及ぼすことはなかった。その協定を結んだ伝説のハンターこそがゼロ、そして、当時の相棒ハーディックであった。この二人のハンターの名を知らぬ者は、この世界にいないと言われるほどの超一流のハンターである。 ゼメキス伯爵の屋敷は森の奥にある。その屋敷は薔薇の花に覆われ、外部からの一切の進入を拒んでいることから通称『薔薇の城』と呼ばれている。 深き森を抜けゼロが屋敷の近くに来ると、なにやら二人の若者が薔薇の城の前で何かをもめていた。 「実は、さっきから変だなぁと思っていたんですけど……」 と、髪の毛の長いほうが言うと、それに対して金髪のほうが、 「もういい、それ以上言うな……」 「 あっ! 今、村に置いてくればよかったって思ったでしょう、もう、いいですよ、どーせ僕は、魔法が使えなきゃただの人ですから」 「…そんなこと、これっぽっちも思ってない」 「やっぱり、思ってるんだ、だって今、少し間がありましたもん」 この二人の話はこの後も続き、ようするにこの二人はこの屋敷に入る方法を模索しているということらしい。 ゼロには片方の若者に見覚えがあった。金髪の若者の方だ。 そう、その金髪の若者こそが、ハーディックの息子のジェイクだ。 以前に比べ大きくはなったがジェイクの面影、そして、父親であるハーディックの面影がある。 以前は三人で旅をしていたこともある。その時アニスの村に立ち寄り事件に巻き込まれた。そう、今回と同じような霧が村を覆っていたのだ。 ゼロは二人の若者を少しの間見守っていたが、二人の若者は館に入る方法を断たれて成す術もないといった感じだ。それを見たゼロは仕方なく、姿を現すことにした。 「フッ……二人揃って使えんな、そこをどけ、俺がやる」 「あっ……ゼ…ゼロ!!」 「えぇっ!!」 今ここに運命の歯車が、2つ噛み合う事となった。 ゼロ、そして、二人の若者の行く末には何が待ち受けているのだろうか? ゼメキス伯爵は、なぜ今になって協定を破るようなことをしたのか? 全ての歯車が揃った時、その時初めて時間[トキ]は刻みだす……。 LIBRE専用掲示板【別窓】 |
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