■ サイトトップ > ノベル > 魔本物語 > 第2章 第4話「勃発!」 | ノベルトップ |
勃発! |
人生で二度もこんな経験をするとは思っても見なかった。セイは牢屋の中で頭を抱えていた。 「なんで僕が牢屋に入れられなきゃいけないの。僕なにも悪いことしてないのに」 「俺もしてない」 「ボクもなにもしてないよぉ」 「ううあのううんうっ!」 『あなたのせいでしょ!』と言ったつもりのクラウディア。ここにいる全員が足や手を縛られている中、クラウディアだけは口に布を噛まされ縛られていた。魔法を使う彼女は口を塞がれることによって魔法を封じられていた。 魔法を唱えられない魔導師はただの人と変わらない。しかし、クロウディアは魔法を封じられる前に大きな功績を残していた。彼女は治安官が家に入って来てすぐに、セイのバッグを自分のローブの中に入れて隠していたのだ。身体検査をされなかったために、運良く押収されずに済んだのだ。 セイは芋虫みたいに動いて口でバッグを開けると中からナイフを取り出した。 「いちようナイフ持ってるんけど?」 そのナイフをセイは背中の後ろで縛られている手で持ち、ウィンデイの手を縛っていたロープを切った。その後はウィンディが全員のロープを切って、すんなりと全員は身動きの自由を得た。しかし、真の自由はまだ先だ。 ウィンディは辺りを見回しながら歩きはじめ頭を掻いた。 「さて、どうやって出るかな。周りに部屋がなかったから壁は破れるほど薄くない。クラウディア、鉄格子破壊できるか?」 「鉄を破壊できる魔法は使えないわね。でも――」 とクラウディアは天井を見上げて静かに微笑んだ。 「天井なら壊せるわね。少し下がっていてくれるかしら?」 セイたちが壁に背をつけて離れると、クラウディアのローブが風もないのに揺れた。クラウディアに力が集まってくる。 「風よ火よ、爆炎を巻き起こし障壁を破壊せよ――ファイアーボール!」 クラウディアの掌(てのひら)から紅蓮(ぐれん)の炎が飛び出し、爆音とともに天井を打ち破った。硝煙に紛れて天井から石の破片が落ちてくる。そして、煙が晴れてくると、天井にポッカリと空いた穴が顔を見せた。 「俺がセイを運ぶから、クラウディアがファティマな」 ウィンディはセイを後ろから抱きかかえると、翼をはためかせて天井に空いた穴に向かって飛び上がった。そのあとをファティマを抱きかかえたクラウディアが追う。 あれほどの爆発を起こしたというのに騒ぎを駆けつけて来る者はいなかった。 薄暗い石造りの廊下は静かなもので、セイたちは慌てずにゆっくりと足音を立てないように歩いた。 静かな廊下に大勢の足音が響いた。セイたちがT字路で物陰に隠れると、向こうの廊下を重装備に銃火器と言ったいでたちの男たちが走り抜けて行った。それを見たウィンディが静かに声を出す。 「王宮の兵士たちだな。大きな事件でも起こったのか……?」 セイたちが連れて来られたのは町にある治安所の牢屋ではなく、王宮の地下にある牢屋であった。 物陰を飛び出したファティマがはしゃぎながら兵士たちのことを追って行く。 「事件だ、事件だ!」 しかも声をあげながら。 すぐにセイがファティマに飛び掛かり口を押さえる。 「静かにして……」 セイたちの目の前を兵士たちは遠ざかって行った。どうやら気づかれなかったらしい。そして、セイの目に映った兵士たちは大変緊迫していたように映った。 急に後ろを振り向いたウィンディが呟く。 「また兵士たちが来るぞ」 慌てたセイたちは思わず近くにあった扉を開けて中に入った。 荘厳(そうごん)華美(かび)な広い部屋。人目で位の高いに者の部屋であることがわかるその部屋に、白い薄手のドレスを纏ったうら若き乙女が驚いた顔をして立っていた。 声にならない声を漏らす乙女に対してウィンディが膝を突いて頭を下げた。 「ナディール皇女様、我々は決して怪しい者ではありません」 目の前にいる乙女はこの国の皇女であったのだ。 ナディールは未だに驚いた顔をしている。その視線は目の前に跪(ひざまづ)くウィンディではなく、その後ろに立っているクラウディアの羽を見ていた――漆黒の翼を。そして、声を出そうとしたナディールはクラウディアに睨みつけられて言葉を呑んだ。その一瞬をセイは見逃さなかった。 気を取り直したナディールは凛とした表情をして、静かに重みのある声で話しはじめた。 「そなたたちのような者がなぜわたくしの部屋に入って来たのですか? わたくしはこの国の第一皇女ナディールなのですよ。わたくしの許可なくして部屋に侵入してくるなど、大罪にあたりますよ」 皇女と言われてもセイはピンとこない。その地位にいる人が偉いということを頭では理解していても、横にいるウィンディのように、すぐさま膝を突くような考えは浮かばなかった。 この国の者であるクラウディアも膝をついていなかった。 「皇女様にお聞きしたいことがございます」 静かなクラウディアの口調。その口調はナディールの表情を一瞬怯ませたが、すぐに彼女は威厳のある表情に戻った。 「なにでしょうか、言ってみなさい」 「兵士たちが慌ただしい動きを見せていましたが、何か事件でも?」 「ええ、地上に住むセイレーンたちが攻め入ってきました。敵の狙いは恐らく蒼風石でしょう」 この場にいた中で一番驚いたのはウィンディだった。 「なんだって、下の者たちが攻め入って来ただって!?」 地上に住むセイレーンとラピュータに住むセイレーンたちは仲が悪いことで有名だった。今は二つの部族として分かれてしまったセイレーンたちだが、以前は一緒に暮らしていたのだ。それが数百年前の内戦により、二つの部族に分かれたのだ。その内乱を〈蒼風の戦い〉と歴史の中では呼んでいる。 今、地上で暮らしているセイレーンたちが〈蒼風の戦い〉に勝利を治めることとなったのだが、負けたセイレーンたちはセイレーンの宝であった蒼風石を持ち去って天空に逃げてしまったのだ。それが今の天空都市ラピュータである。 長い間、地上と天空に住むセイレーンたちは、細かい衝突は頻発していたが、大きな衝突はなく、冷戦状態を保っていた。それが今回、地上のセイレーンたちがラピュータに直接攻め入ってきたのだ。 突然、鈴のような電話のベルが鳴り、ナディールは急いで受話器を取った。そして、少し黙り込み電話を切った。 「宮殿内に敵が侵入し、わたくしに早く国外に逃げるようにと連絡が入りました。あなたたちも早くお逃げなさい」 この言葉を聞いてクラウディアが冷たく言う。 「王族が国を捨てて逃げるということは、情勢はそれほど悪いと?」 「わたくしは逃げるように言われただけです」 ドアの向こうで男の声がした。 「失礼いたします!」 ドアが開かれ慌てたようすの兵士が入って来た。 「皇女様の護衛に……貴様ら何者だ!?」 兵士の目に飛び込んで来た見知らぬ者たち。彼はすぐさま剣を抜いて構えた。そして、すぐにナディールが兵士の元へ歩み寄る。 「この者たちはわたくしの友人です。剣を収めなさい」 「はっ、失礼いたしました」 剣を鞘に収めた兵士はそのまま話を続けた。 「自分は皇女様の護衛に参りました。早く隠し通路を使って外に逃げ出しましょう」 「俺も皇女様の護衛をする」 声をあげたのはウィンディだった。 ナディールはウィンディを見た後、他の者たちも見回した。 「護衛の話は別として、みなさんもわたくしたちと隠し通路を使って逃げましょう。わたくしにはひとりでも多くの国民を守る義務があります」 どこからか重いものが動く音がして、ファティマが声をあげた。 「隠し通路ってこれでしょ?」 壁に開いた闇の中を指差したファティマはそのまま闇の中に飛び込んで行った。そのファティマを追って歩き出したナディールが途中で後ろを振り返って言う。 「あれが隠し通路です。わたくしたちも急ぎましょう」 隠し通路の中は壁そのものが淡く輝いていた。 長く真っ直ぐだった道が途中で二手に分かれていた。 ナディールが右手の道を指差す。 「あちら側に向かえば町の外れに出ることが来ます。あなた方は早くそちらにお逃げなさい」 セイたちにあちらに行けと言うことは、ナディールは逆の方向に行くと言うこと。セイはそのことについて質問した。 「皇女様はあちらに行くんですか、あっちになにが?」 「蒼風石が心配なので、わたくしは蒼風石の安置所に向かいます」 「僕らも行きます」 「俺も行くぜ」 セイとウィンディが同伴を申し出ると、ナディールは首を横に振った。 「あなた方はお逃げなさい。聞いてもらえぬというのなら、皇女としての命令で言います」 命令と言われてはウィンディはそれに従うしかなかった。 皇女と兵士の背中を見送りながら、セイたちは皇女たちとは逆の方向に足を運んだ。 しばらくセイたちは走り、出口の扉が見えてきたところでセイが突然足を止めた。 「あ、あのさ、一人足りないと思うんだけど?」 ウィンディが辺りを見回し、クラウディアが呟いた。 「ファティマがいないわね」 セイは唸りながら頭を抱えてうずくまった。 「あ〜っ、皇女様について行っちゃったんですよ、きっと」 「早く探しに行こうぜ」 すぐにウィンディが道を引き返して走り出し、慌て顔のセイと呆れ顔のクラウディアがそれを追った。 魔本物語専用掲示板【別窓】 |
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