■ サイトトップ > ノベル > トゥプラス > 第10話_楓 | ノベルトップ |
第10話_楓 |
みんなよりも早く起きて、輝はダイニングでテレビをゴロゴロしながら見ていた。すると、未空がダイニングにやって来た。ちなみに服は洗って乾いた自分の物を着ている。 「おはよう、輝クン」 未空に輝≠ニ言われてドキッとした。昨晩から未空≠ノ下の名前で呼ばれるようになって、輝はドキドキしっぱなしだ。 輝は素っ裸の未空を見てしまって以来、未空のことを妙に意識してしまうようになっていた。昨晩もそれでよく眠れず、今朝は早く起きてきてしまった。 未空はソファーで横になっている輝の頭の横に座った。未空の太ももが目の前に来てドキッとした輝は飛び起きて背筋をピンと伸ばしてしまった。 輝はソファーの端に寄って未空と距離を置くが、未空は輝との距離を詰めて来る。 「な、なんで、オレのことからかって楽しいですか!?」 「別にからかっているわけじゃないのよ、輝クンに興味があるだけ……」 「興味って何ですか!?」 この瞬間善からぬ想像が輝の脳内を駆け巡ったが、すぐに首を横に振って掻き消した。「実験台――もとい、あなたは特別な心の持ち主だわ。だから、輝クンのことを知りたいの」 再びこの瞬間善からぬ想像が輝の脳内を駆け巡ったが、すぐに首を横に振って掻き消した。 「ど、どういうことっスか、それ!?」 「普通の人の心は眺めているだけでもわかるわ、でもあなたの心は接してみないとわからないの。――きっと、あなたもあたしと同じ力を持っているのでしょうね」 「同じ力?」 「人間はその力のことを魔力とか霊力とか言ったりするわね。きっと、自分では気づいていないかもしれないけれど、輝クンは潜在的にその能力を持っているわ」 「オレが!?」 「そう。同じ力を持った者同士は惹かれあうことが多いの、その真逆もあるけれど。あたしと輝クンは惹かれあう方なのかしらね、ふふ……」 最後の意味深な笑いが気になるが、輝の頭の中はパニック状態でそんなことにも気づかなかった。 ダイニングのドアが開けられたかと思うと、椛が元気よく飛び入って来た。 「おはよー!」 最初にここに来た時よりも椛は明らかに元気になっている。それに伴い椛の存在も強くなっていた。 椛に少し遅れて悠樹もダイニングに入って来た。 「二人とも早いな。――すぐ、食事の準備をする」 悠樹はすぐにキッチンに消えた。 ダイニングに残された輝と未空と椛。椛が二人の間に入って来て、輝は少しほっとした。未空とふたりっきりの状況は輝の心臓にかなりの負担を与えていたのだ。 ――朝食を食べ終わり、ひと段落ついたころ、食事の間黙して語らなかった未空が口を開いた。 「実はあたし、尊が人間でないことを最初から知っていて付き合っていたの」 この言葉を聞いた一同は誰も驚かなかった。未空なら、それもありえることだろうと納得させられたのだ。 誰も口を挟むことなく未空は話を続けた。 「それに琥珀のことも最初に会った時に気づいたわ。あたしは最初から全てに気づいていた。だから、独りで解決しようと思ったのだけれど、失敗しちゃったわね。あたしにも頼れる人がいればよかったのに……」 学校では未空は尊といることもあったが、それでも独りでいることの方が多かった。周りが彼女の噂≠気味悪がって近づかなかったこともあるが、それよりも彼女自身が周りを寄せつけない雰囲気を強烈に出していた。 椛は未空の前に来ると、大きな動作をして自分の胸を叩いた。 「未空お姉ちゃんには椛がついてるから平気だよ! いつでも椛のこと頼りにしてね」 未空はやさしい笑みを浮かべた。 「ありがとう椛ちゃん」 目の前にいる少女は幼児化してしまっている椛だ。少し心もとない感じもするが、未空にはそれでも十分過ぎるほどに心が満たされた。 玄関のドアが勝手に開けられ、誰かが家の中に侵入して来た。こんなことをするのは綾乃しかいないが、ダイニングの中に駆け込んで来たのは椛≠セった。 誰もが瞬時に理解した。もうひとりの椛だ! 「みんなの力を貸して欲しいの!」 第一声に突然こんなことを言われても何がなんだかわからない。 慌てたようすのもうひとりの椛を悠樹はとりあえずソファーに座らせて話を聞いた。 「君はもうひとりの椛だろ? 琥珀たちに捕まっていたのではないのか?」 「隙を見て逃げ出して来たの。それよりも大変なことになったの!」 「大変なこと?」 輝は聞いた。 「大変なことって何だよ? 琥珀たちがここに攻め込んで来るとか?」 「ううん、琥珀たちは力を蓄える為に隠れて外に出てこれないの。でも、その代わりに使い魔たちを何匹か呼んだみたいなの」 「使い魔!?」 大きな声をあげて驚いたのは真物の椛だった。それほどまでに驚くべきことなのか? 輝は突然立ち上がると奇怪な行動を取り始めた。 「ギャオー! ガオー! うにょら〜! って感じのが使い魔だろ?」 身振り手振りによる熱演ではあったが、輝の説明では使い魔がなんであるか理解しがたい。 「今の輝クンはかわいかったけど、少し誤解があるみたいね。使い魔というのは動物及び低級悪魔などを、 一定の魔法法則によって束縛して自分に従わせるものよ。中世の魔女たちの間では、フクロウやオオカミ、そして、黒猫が使い魔として使われていたようね。日本では陰陽師が使っていた式神も使い魔の一種と言えるわね。尊たちが呼んだ使い魔たちは妖怪の一種だと思うわ、きっと」 「なんだ、怪獣とかじゃないのか……」 今の未空の説明を聞く限りでは、怪獣とは違うものに思える。だいぶ輝は誤解をしていたようだ。 一通りの話を聞いて悠樹が口を開く。いつも彼は一通りの話を聞いた後に結論や意見を述べる。 まず、悠樹を人差し指を立てた。 「ひとつ、その使い魔という奴らがここに二人の椛を捕まえに来る可能性が高い」 悠樹は人差し指に続いて中指を立てた。 「ふたつ、そこにいる椛は琥珀たちの隠れ家から逃げて来たのだから、当然その場所を知っている」 悠樹は最後に薬指を立てた。 「みっつ、先程、琥珀たちは『力を蓄えている為に外に出れない』ともうひとりの椛が言ったが、つまり、俺たちが動く絶好のチャンスと言える」 「叩くなら今がチャンスってことだな?」 「そうだ。しかし、その方法をどうするかが問題だ」 「そうだな、ものすっごい問題だな」 何時になく真剣に考え込む輝。しかし、ちょっと的の外れていることを考えていた。 「もうひとりの椛のこと呼ぶ時、困るよな……。やっぱ、もうひとりの椛の名前は楓って呼んで区別するようにしよう」 言葉と同時にバシッと輝の後頭部に悠樹の平手打ちが炸裂した。 そんな光景を見た椛&楓はお腹を抱えて大きな口で笑い転げた。こんな光景前にもあったような気がする。 悠樹は咳払いをするような格好をした。 「こほん、話を元に戻すぞ。ここにいるみんなが止めても琥珀たちのもとにいこうとすることはわかっている。だが、闇雲に奴らに向かっていくわけにはいかないだろう?」 椛と楓がソファーの上に乗ってジャンプした。 「椛がいるから大丈夫だよ」 「楓もいるよ」 ここにいる中では今のところ、琥珀たちと同じ存在であるこの二人が最大の戦力となる。そして、彼女も戦力になってくれるに違いない。 「大丈夫、あたしもいるわ。あたしは学校の噂£ハりの人間よ」 ぞっとするような未空の声だった。その声を聞いた者は誰も震え上がり凍りついてしまうに違いない。現にここにいる者たちは皆、蒼ざめた顔をしている。 未空は冷笑を浮かべて輝を見た。 「それに、輝クンの力もきっと役に立つわ。一番危ないのはあなたよ、悠樹クン」 まさかこんな展開で自分の名を呼ばれるとは思ってもみなかった悠樹は、大声を張り上げた。 「なぜ輝は力になれるのに俺は駄目なんだ!」 「駄目とは言っていないわ。ただ、あなたは普通の人間だから、琥珀たちと戦うのは無理だわ」 「輝だって普通の人間だろ!」 「輝クンは特別なのよ。彼はあたしと同じで強い力を持っている。だから琥珀たちと戦える――あたしはそう信じてるわ」 未空は立ち上がると誰もがそうだにしなかった行動をとった。 「ごめんなさい、悠樹クン」 そう言うと同時に未空はすばやい動きで悠樹の前に移動して、悠樹を気絶させた。 誰もが一瞬何が起きたのかわからなかった。未空の手が悠樹の首元に動いたようにも見えたが、手の動きが早すぎて断言はできない。しかし、悠樹はその直後に意識を失いソファーにもたれるように倒れた。 輝はすぐさま悠樹に駆け寄り、悠樹の意識を確かめると、びっくりした表情をしながら未空のことを見た。 「マジですんげぇ! 未空さんどうやったの? てゆーか、未空さんが体育苦手なの有名な話じゃ!?」 学校一の運動オンチと言われる未空があんなすばやい動きで、それもあんなことをしてしまうとは輝にとってそれは、悠樹が鼻からスパゲティーを食べながら逆立ちをして町内一周するくらいの驚きだった。 「学校の体育は、だるいだけ……」 未空はだるいだけで、マラソンの途中で学校の横を流れる川を眺めたり、ハードルを全て足で明らかに蹴飛ばしてゴールまで行ったり、バレーボールのボールを顔面で受けたり、テニスのボールを打ち返そうとしてラケットを相手の顔面に当ててみたり、その他にもいろいろとあるが、全てだるい≠ゥら……なのか? 未空はソファーに再び座ると一息ついた。 「ふぅ、疲れた、悠樹クンは三〇分は目覚めないと思うわ。それよりも、椛ちゃんと楓ちゃんは一人には戻れないの?」 困った顔をして首を傾げる椛と楓であったが、とりあえず互いの両手を合わせて何かをしようとした。 「「無理みたい」」 双子のような息のぴったりさで二人が同時に言った。 「そう、仕方がないわね。それじゃあ悠樹クンが起きる前に琥珀たちのもとへいきましょう。楓ちゃん、案内できるわね?」 「うん!」 自宅マンションに戻ってきた綾乃は自分の部屋には戻らず、そのまま輝の部屋に入ろうとした。 いつも通り勝手に入ろうとしたが、今日は玄関の鍵がかかっていた。 「出かけたのかな?」 ピンポーンとチャイムを鳴らすが人が出て来る気配はない。 それでも綾乃はあきらめずチャイムを連打して押した。せっかく弓矢を持ち帰ったのにこのままでは苦労が水の泡になってしまう。 そろそろ指も疲れてきたのであきらめて帰ろうとした時だった。男の声とともに玄関のドアが開かれた。 「うるさいぞ綾乃!」 玄関を開けたのは首を痛そうに擦っている悠樹だった。 「どうしたの? もしかして寝起き?」 普通の人が見たら、寝起きで首を寝違えた人みたいな光景だった。しかし、その想像は近からず遠からずと言ったところだ。 「星川さんに気絶されられて、おまえのチャイムで起きた」 「星川さんに気絶させれたってどういうことよ!?」 一瞬綾乃は、未空が自分たちを裏切って敵の仲間になったのかと思ったが話を聞くとそうではないらしい。 「俺がおまえを学校に行けと言ったのと同じ理由で、俺も星川さんたちに気絶までさせられて置いていかれた……おまえ学校はどうしたんだ?」 「えっと、武と一緒にこの弓矢を取りにいって……」 綾乃は袋の中から弓矢を取り出して悠樹に見せた。 「その弓矢は?」 「妖怪退治とかに強力な力を発揮する霊力を秘めた弓矢なんだって」 「……琥珀たちと戦うためにそれを取りに……もしかして武に今回のこと全部話したのか!?」 「ええ、ぜ〜んぶ話したわよ。悠樹と輝が自分にそんなすごいこと黙ってたなんて許せないって怒ってたわよ」 「そうか、話してしまったことは仕様がない……。それで武は?」 「この弓矢を借りるのと交換条件で神社で働かされてるから、たぶん明日も帰ってこれないかな?」 「まあいい、とにかく家の中に入れ、輝たちがどこに向かったのか考えよう」 玄関で靴を脱ごうと綾乃がしている時だった。ベランダの窓ガラスが叩き割られるような音が聞こえてきた。 悠樹はすぐさま現場へ向かい、綾乃も靴をは履いたまま悠樹に後を追った。 窓ガラスが割られ、室内にガラスの破片が散乱していた。そして、部屋の中には見るからに恐ろしい顔の子鬼がうろついていた。 言葉を出せないで立ちすくんでいる悠樹と綾乃に気がついた小鬼は、睨みつけながら話しかけてきた。 「椛ハ、ドコ行ッタ?」 たどたどしい日本語であったが、低く重い声は恐怖感をさらにあおった。 後ろに一歩下がろうとした悠樹に小鬼が蛙のように飛びかかって来た。 小鬼は悠樹を押し倒し、抵抗していた悠樹をおとなしくさせるために自分の息を大きく吹きかけた。するとどうだろう、悠樹はすぐに気を失ってしまったではないか! 小鬼はすぐさま綾乃にも飛びかかろうとした。 「来ないでよ!」 どうにか小鬼を振りきった綾乃は部屋中を見回した。何か武器になるものはないか? 必死の抵抗をして綾乃は逃げ回りながら、そこら中にある小物を小鬼に投げつけるが、小鬼にはびくともしない。 パニックに陥っていた綾乃はやっとあることに気がついた。武器は最初から手に持っているではないか。 「アタシってホントバカ、どうして気づかなかったんだろ」 袋から急いで弓矢を取り出し、綾乃は鬼に向けてその弓矢を構えた。弓道などをやったことのない綾乃の弓の構え方は様にはなっていないが、鬼はそれを見て怯んだ。弓矢の発する霊気に恐怖を覚えたのだ。 綾乃は矢を弦にかけて後ろに引こうとした。 「あれ、どうして?」 矢が引けない。綾乃に力がないからという単純な理由ではなく、この弓矢は霊力の強いものしか使えないようになっているのだ。 先ほどまで恐れをなして動けなかった小鬼であったが、綾乃の右往左往するようすを見て蛙のように飛びかかって来た。 「きゃーっ! ヤダ、放してよ」 綾乃は両腕を掴まれ上に乗られて自由を奪われてしまった。暴れようとするがそれもできない。 小鬼は大きく息を綾乃に吹きかけた。すると、綾乃も悠樹のように深い眠りに落ちてしまった。 小鬼は床に転がる弓矢を恐る恐る拾い上げて、気を失っている二人を軽々と持ち上げて抱きかかえると、ベランダに待たせてあった全長三メートルを超える大鷲に乗って空へと消えていった。 トゥプラス専用掲示板【別窓】 |
■ サイトトップ > ノベル > トゥプラス > 第10話_楓 | ▲ページトップ |