第13章 夢のおわり
 あれから一年の時が過ぎ去った。
 忘れてしまいたい辛い出来事であったと共に、忘れてはならない記憶でもあった。だから僕はこうして手記にまとめた。しかし、この本を他人に見せることや社会に発表することはない。もう二度とこの本を開くことはないだろう。
 人によってはこの本に大きな価値を見いだす者もいるだろう。それほどまでに、あの事件には多くの有力者が絡んでいた。あの時あの場所にいなかった者も含めれば、その数は計り知れず、政治にも何らかの問題を巻き起こすだろう。
 全ての元凶はマダム・ヴィーであるかのように思われるが、その後の調べで全ては領主Xが蒔いた種であると僕は思っている。
 はじめからマダム・ヴィーはあのような性格や嗜好を持っていたわけではなかった。
 当時、多くの愛人に過ぎなかったマダム・ヴィーの脚を切断したのは、領主Xの嗜好によるものだったのだ。
 マダム・ヴィーの望みはいったい何だったのだろうか?
 元は領主Xへの復讐からはじまったことだったのだろうか?
 そうだとしたら、復讐は新たな復讐を生むことになった。
 今回の事件の発端は僕の復讐だ。
 父と母の謎の死――実際には失踪であったが、孤児となりやがて大人になった僕は社会に出て事件を調べはじめた。自分の力だけではどうにもならず、その当時どこから話を聞きつけてきたのか、僕に近付いて来た探偵に事件の調査依頼をした。そして、辿り着いたのが謎の女主人マダム・ヴィー。
 ある程度調査が進み、僕自らも屋敷を調べようとした矢先だったと思う。未だにそのあたりの記憶は戻らないのだが、おそらく二人ともマダム・ヴィーに捕らえられ、何らかの処置を施されたのだろう。
 彼も危険を承知の上、大金になると踏んでこの事件に首を突っ込んだのだろうが、それでも死という結果は悔やまれる。
 今、僕は彼の事務所を引き継いだ。彼には身よりもなく、探偵事務所もどうなるかわからなかった。特に行く場所のない僕たちが、この事務所を引き継いでも、誰も文句は言わないだろう。
「紅茶をお持ちしました」
 少女の声がして、僕は振り返った。
 そこに立っている可憐な少女。
 僕はその少女にある人物の面影を見た。
 その少女はとても母に似ていたのだ。

 (完)



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