第7話_バーニング少女

《1》

 燃えさかる火炎。
 火の手は瞬く間に部屋中を包み込み、サイレンの音が遠くから聞こえる。
「ふぁ~、よく寝た」
 華艶は呑気にあくびなんかしながら、すでに原形を留めていないベッドの跡地で目を覚ました。
 そして……。
「ぎゃぁぁぁぁぁいったい何が起きたのーーーっ!?」
 炎に包まれすっぽんぽんの華艶が飛び起きた。
 生まれてからもっとも目覚めの良くて悪い朝になってしまった。目は冴えまくっているが、起きたら業火の中だなんて、最悪の1日のはじまりだ。
 〈不死鳥〉の華艶の通り名を持つ彼女の特技は炎を躰から放出させること。それに伴い、炎に対する耐久や治癒能力の高さという驚異の身体能力も備わっている。
 そのため、このくらいの炎の中にいてもどうってことはないのだが、問題は――。
「うわぁ~っ火事!? どうしよ火事じゃん! 消さなきゃ火事!」
 本人が平気でも周りがダメだった。
 辺りは火の海。オレンジ色の光と濃い煙が視界すらも奪う。もう華艶一人の力ではどうしようもなかった。
 慌てるばかりの華艶。
「消化器……って今さら遅いか。そうだ、賠償金払わなきゃ……イヤ……そんなの……いやぁン!」
 突然、華艶は絶頂を迎えた。
 股間から立ち昇った湯煙がすぐに消え、華艶の全身から紅蓮の炎が放出された。
「ダメ……イっちゃう……ああっ!」
 躰が激しく震え、再び華艶は絶頂を迎えた。
 脚が震えが治まらない。
 下腹部がヒクヒクと痙攣し、立っていられなくなった華艶は床に崩れてしまった。
 膝を抱えるようにしながら華艶は断続的に全身を痙攣させた。
 脳が蕩け頭が真っ白になり、快感の波が次から次へと押し寄せる。
「ハァハァ……ヒィィィィィッ!」
 目が白黒して、だらしなく舌が出てしまう。
 気持ち良さに溺れ、もはや自由の利かなくなった躰を悦楽に委ねてしまう。
 まるで坩堝で炎が渦巻いているようだ。
 華艶は躰を仰け反らせ、すでに芽の出た花芯を指で触れようとするが、腕が重くて持ち上がらない。
 貪欲に求めてしまう。
 もっと欲しい。そう思えば思うほど炎はさらに燃えさかる。まさにそれは命の炎。
「ひゃあ……こんなの……はじめてーっ!」
 華艶は数えきれぬ絶頂に溺れた。
 この朝のことを華艶は決して忘れないだろう。
 ――こうして華艶は18歳の誕生日の朝を迎えたのだった。

 真夏の日差し。
 店のドアを開けると鳴り響く涼しい鐘の音。
 冷房の効いた喫茶店のボックス席でカレーを喰う客を尻目に、華艶はカウンター席に腰掛けた。
 この店のマスター京吾は、ゲッソリとした華艶の顔を心配そうに見つめた。
「どうしたの華艶ちゃん、ダイエットでもしてるの?」
「うう……とりあえずビール」
「昼間はお酒出してないっているも言ってるでしょう」
 喫茶店モモンガは日中は寂れた店だが、夜になればBARへと早変わり。夜の住人や闇の住人たちの溜まり場になる。
 京吾はアイスコーヒーを差し出した。
「まあコーヒーでも飲んで気持ちを落ち着かせて」
「……うん」
 と小さく頷いた華艶の頬は少し赤らんでいた。
 そして、太ももの付け根から垂れる愛液。それも尋常ではない量が、濡れると言うより漏れていた。
 常連の華艶の顔をいつも見てきた京吾は、急に深刻そうな顔をした。
「顔が赤いけど……まさか病気じゃないよね?」
 華艶はその得意な体質から、病気などになることはまずない。
「ううん、ちょっと調子が悪いってゆか、朝からツイてないってゆか……」
「何があったの?」
「事件を隠蔽してくれるような人紹介してくんない?」
「だから何があったのさ?」
 正直に言うべきか、華艶は口をもごもごさせている。
「いや、その……帰る場所がなくなっちゃって、良い物件知らない?」
「華艶ちゃん何隠してるの?」
「……朝起きたら部屋が全焼してた、みたいな。でもねでもね、マンション全部が燃えたわけじゃないの。ちょっと焦げちゃったかなぁ~、みたいな」
「ちょっとじゃなくて最初に全焼って言ったでしょ」
 実を言うと、燃やしたのは自分の部屋だけじゃなかったりする。
「たしかに自分の部屋は全焼しちゃいましたゴメンナサイ。あと部屋を飛び出すとき爆発しちゃって2次災害なんかになっちゃったりして、ほかの部屋もだいぶ燃えちゃったんだよねー、あはは。でもね、死人は出てないからね! 煙吸って病院運ばれた人はいたみたいだけど」
 故意に事件を引き起こしたわけではないが、大事故である。刑法に問われるかは別として、賠償金は多額になりそうだ。
 華艶は副業――と言ってもモグリだが、トラブルシューターとしてそれなりに稼いでいる。浪費癖があるにはあるが、それなりに多額の蓄えもある。それを使えば賠償金を払えないこともないだろう。
 にも拘わらず。
「それでさ、現場から逃げて来ちゃったんだけど、どうにかして警察にしょっ引かれない方法ないかなぁって」
「この街の火災原因調査員や科学捜査官は優秀だからね。出火場所をすぐに突き止めて、華艶ちゃんに辿り着くだろうね」
「そこをどーにか!」
「ならないね」
 キッパリと言い切られてしまった。
 華艶は京吾に手を合わせて拝み倒した。
「お願い! 今日って何の日か知ってる? あたしの誕生日なの、誕生日プレゼントだと思ってどうにかして、京吾様! 一生のお願いだからね、ね、ね、ねッ!」
 必死に華艶はお願いしながら京吾に顔を近づける。その額からは汗が迸り、顔は先ほどよりも赤くなっていた。さらにチューブトップが汗で滲み、突起した乳首が擦れる。
 その異変に華艶よりも京吾が真っ先に気づいた。
「華艶ちゃん……頭から湯気が……」
 後退る京吾。
「え? あたしの?」
 きょとん華艶がした次の瞬間、その躰は火炎に包まれた。
 すぐさま京吾はカウンターの奥に置いてあった消化器を手に取り、華艶に向けて一気に噴射した。
 しかし、白い煙は瞬く間に炎に呑み込まれ、消化器など無意味に等しかった。
 京吾が叫ぶ。
「華艶ちゃん早く店の外に出て!」
 もはや消すのは不可能。引火する物がない場所に行くしかない。それが被害を最小限に抑える方法だった。
 言われたとおり、華艶は店を飛びだそうと走ったが、途中でその躰が大きく跳ね上がった。
「あぅン!」
 足がもつれバランスを崩すが、その勢いに任せてドアをぶち破って外に飛び出した。
 歩道路を歩いていた主婦が叫び声をあげる。
「きゃーっ!」
 火だるまになった若い全裸の女性が突然目の前に現れたら驚くのは当然だ。しかも、藻掻き方が尋常ではない。
「ひぃっ、あああっ……あああああン!」
 感じすぎて藻掻き苦しんでいた。
 しかし、他人から見れば極度の快楽に覚える者は苦しんでいるように見える。
 というか、実際気持ちよすぎて苦しい。
 アスファルトの焼け焦げた臭いが辺りに立ち込める。
 自力では炎の力を制御できない華艶。
 騒ぎは拡大して人が集まってきた。
「人が燃えてる!」
「早く消防車!」
 華艶を包み込んでいた炎はやがて鎮火しはじめた。
 身動き一つしないで横たわる華艶。その躰は煤で黒こげになり、生きているのか死んでいるのもかもわからない。
 近くに寄ってきた若者が、
「こりゃダメだな」
 誰が見ても死んでいる。普通ならそう思うのが当然だろう。
 が、にょきっと華艶が立ち上がる。
 そして……。
「あはは、特撮ヒーローの撮影でしたー。みんな見てね-!」
 すっぽんぽんで猛ダッシュしてモモンガに逃げ込む華艶。特撮ヒーローじゃなくて、特撮AVの間違いじゃないだろうか。
 店内に入った華艶がまた燃えだしでもしたら大変だ。けれど、店の中は平然としていた。客の一人はカレーを食べ続けている。
 常連のトミー爺さんが新聞から目を離して華艶を見た。
「裸でおると風邪を引くぞ」
「……あ、うん。ってみんなもっとあたしに興味持ってよくない? 裸の美少女がここにいるのに……てゆか、風邪じゃなくて人体発火のほう心配しない普通?」
 当たり散らすように華艶はまくし立てたが、し~んっと店内はしていた。
 店の奥から京吾が戻ってきた。
「華艶ちゃん妹の服だけど入るよね、胸もないから」
「胸なくて悪かったですねー。最近の中学生は発育がいいもんねー、特にどっかの誰かさんの妹は」
「燃さないように気をつけてね」
「……なるべく気をつけます」
 自身はあまりなかった。制御できるくらいなとっくにしているからだ。
 キャミソールとミニスカートに着替え、華艶は再びカウンター席に座った。
 華艶はチラッとカウンターの上を見ると、これ見よがしに水を溜めたバケツが置いてある。
「あたしに店を出ろって言ってる?」
「うちの店はちゃんと客を選ぶ店だよ。出て行って欲しいならもっと直接的な方法を取るよ」
「ならいいけど……」
 ここの住人たちは理解のある方なので、まだかろうじて出入り禁止されていないが、別の場所で同じような騒ぎを起こせば完全にアウトだろう。早めに対処しなければどこにも居場所がなくなってしまう。
「今日から夏休みで本当によかった」
 しみじみ華艶は呟いた。
 もしも学校で発火なんてしまくったら、完全に友達をなくしてしまう。ただでさえ留年のせいで浮いているというのに。
 京吾は床の焦げ痕をモップで掃除している。
「ダメだね完全に焼けちゃってるよ。補修が終わったら請求書渡すから」
「は~い」
 華艶は気のない返事をした。
 床と壊したドアくらいならいいが、マンションのほうがどうなることやら。これからだって被害が拡大しないとは限らない。やはり早めに対処しなくては。
「やっぱ常識的に考えて病院かな」
 この街の病院は魔導関係の疾患や症状も多い。
 さっそく華艶は病院に電話をかけた。
「もしもし~、火斑華艶ですけど緊急の用件でチアナ先生に繋いでくださぁ~い」
《少々お待ちください》
 保留音のメロディーが流れてしばらくして、電話の向こうからガサガサという激しい音がした。
《ったく、これから手術で忙しいのよ!》
 魔女医チアナの声だ。
「今すぐ診察して欲しいんだけど」
《耳鼻科に行きなさいよ耳鼻科に! 忙しいって言ってるでしょ!!》
「別にいつも忙しそうじゃないじゃん。かなり緊急事態なんだけど」
《どうしたのよ?》
「身体が自然発火しちゃって、そこら中のもの燃やして歩いてるんだけど?」
《あなた生理前はいつもそうでしょ! そんなことで電話かけないでちょうだい!!》
 ブチッと一方的に電話を切られた。
「……ほかの医者探すのめんどくさいなぁ」
 魔導病気はその原因を突き止めるのが難しく、原因がわかったとしても対処の仕様は千差万別。患者そのものに原因がないことも多く、手術や薬でなるというわけではない。場合によっては病院の仲介でトラブルシューターを雇い、妖物退治や呪物を見つけ出すこともある。
 華艶のような魔導的体質を持った者は、一般の患者よりも主治医の必要性があり、ほかの魔導医に看てもらっていては埒の明かないことが多い。
 掃除をあきらめてカウンターの中に戻ってきた京吾。
「華艶ちゃんの力って血筋でしょ。家族に相談したら?」
 一族で同じ体質を持っている場合、すでに一族の中で多くの対処法が体系化されていることが多い。
「身内は姉貴しかいないし。どっかに親類いるかもしんないけど、あたしそういうのよくわかんないし」
「だったらお姉さんに相談したら?」
「連絡先知らない……3年近く顔合わせてないし」
「仲悪いの?」
「違うし、姉貴って昔からほんっと自由人でさ。同じ場所に長くいるってことないし、連絡先もすぐ変わるし、今もどこで何やってんだか」
 この数ヶ月後、華艶は衝撃的な出来事を携えた姉の麗華と再会することになる。
 再び華艶はケータイで電話をかけた。
「もしもし、魔導疾患の急患がいるんですけど、救急車1台寄越してくれますー?」
 横でそれを聞いていた京吾は、
「救急車をタクシー代わりに使うのやめようよ」
 電話を終えた華艶は京吾のほうを振り向いた。
「だって実際にいつ発火するかわかんない急患だし、救急車呼んだ方がすぐに診察してもらえるじゃん?」
 しばらくして救急車の音が近付いてきた。
 華艶は床に寝そべりぐったりとして、京吾をチラッと見た。
「あとはよろしく」
 華艶はいかにも病人ですという表情をして、救急隊員が店に駆け込んでくるのを待つのだった。

《2》

「ここから出しなさいよーッ!」
 華艶は頑丈なドアを力一杯蹴っ飛ばした。
「痛っ!」
 華艶は足を押さえるが、ドアはビクともしない。
 四方を壁で囲まれた灰色の部屋。窓もなければ、外の様子を窺うことも出来ない。家具もなく、そこにある物といったら2台の監視カメラ。
 部屋の角天井に設置されている監視カメラを華艶は覗き込むように見上げた。
「てゆか、なんで留置場なんか入れられなきゃいけないわけ?」
 カメラに向かって話しかけるが、出力のスピーカーがないので返事があるわけがない。
 救急車を呼んで病院に行くはずが、なぜか連れてこられたのは警察署。
 しかも凶悪犯用の特別房。
 この部屋は対魔導用でもあり、並大抵の攻撃系魔導ではビクともしない。
 もちろん華艶の炎でもだ。
 なぜこんなとこに入れられたのか、それは警官から聞いている。
 もちろんマンション放火の容疑者だ。
 華艶にしてみれば事故なのだが、完全に犯罪者扱いだった。
 ここに放り込まれてからだいぶ時間が経ったような気がする。なのに警察側は音沙汰無だ。
 部屋は空調によって気温が一定に保たれているのだが、華艶は少し汗ばんでいた。
 華艶はベッドに横になり、落ち着かない様子で寝返りを何度もしはじめた。
 いつしか手は股間を押さえ、息もだんだんと荒くなってきた。
 もう蜜が溢れている。
 監視カメラで見られているのに、手が止められない。
「はぁ……ンふ……はぁ……はぁ……」
 こんな恥ずかしい姿をカメラで視姦されているなんて、顔も知らない男どもはどんな気持ちで見ているのだろうか。考えれば考えるほど恥ずかしさが増すのに、手はより激しく動いてしまう。
 濡れたショーツの生地が擦れる。もうその上からでも肉芽[ニクメ]が大きくなっているのがわかる。花弁を剥かれ芽を出したいと切に願っている。
「うぐっ……」
 口から涎れがシーツに染みをつくる。
 もう我慢の限界だった。
 華艶はショーツの中に手を入れ、激しく恥丘[チキュウ]の谷間をまさぐった。
 何が何だかわからず、ひたすら激しく、全身を使い、ついにはベッドから転げ落ちた。それでも止まらない。ベッドから落ちたことすら気づかない。
 指が吸い込まれる――燃え上がる坩堝の中へ。
 もっともっと熱いものが欲しい。
 次の瞬間、華艶の全身から炎が上がった。
「ひゃあぁぁぁぁン!」
 業火が一気に部屋中を包み込んだ。
 炎に抱[イダ]かれる華艶。
 激情する欲望。
 まだ満たされない。
 もっと熱く、もっと激しく。
 求めても求めても止まない感情。
 腰を振り、目を白黒させ、舌を垂らす。
 もはや見られていることさえも忘却された。
 目はかろうじて開かれているが、もうなにも見えてはいない。
 そこには自分すらもいない。
 あるのは女の奥深くにある――秘奥のみ。
「ひぃ、ひぃィィィィィィィッ!」
 華艶の身体が激しく痙攣する。
 陸に上げられた魚のように何度も床で跳ねてしまう。
 もう力が入らない。
 今は何も逆らうことができない。
 部屋を丸呑みしていた炎が徐々に治まっていく。
 煤だらけになった華艶から立ち昇る湯気。
 余韻に浸りながら、時間だけが過ぎていく。
 意識がしっかりしてきて、思考能力も回復してきたが、身体が重くて起き上がる気にもなれない。
 しばらくそのままじっとしていると、ドアの開く音が聞こえた。
 中に入ってきた防火服を着た二人の人物。通常の防火服ではなく、宇宙服のように顔すらも覆っている。
「話を聞く余裕はあるかね、華艶君」
 若い男の声。顔は見えないが、声だけなら色男。
 声を発した男が華艶にバスタオルを投げた。
 華艶はそれを受け取る余裕もなく、かけ直す余裕すらもなく、ただ身体の上に乗せられただけ。
 どうやら口を利いている男がゲストで、電磁ロッドを携帯しているもう一人は護衛らしい。
 どのような用件で客人が尋ねてきたのか?
「君は火斑麗華の妹らしいな」
 男が口にした名前を聞いて、疲れ切っていた華艶が微かに反応して顔を上げた。
 まさかこんな場所で姉の名を聞くとは思ってもみなかった。
 男は軽く鼻で笑うと話を続けた。
「まあ君のお姉さんのことは今は関係のないことだ。まずは自己紹介をして置こう。私の名は水鏡刃[ミカガミジン]、検事をしている」
「で……検事さんが……何の用?」
 細い声で華艶は尋ねた。
「君のことは調べさせてもらった。モグリのTSらしいじゃないか。事件もだいぶ起こしていて、大きな事件では起訴されたことはないが、小さな物はいくつかあるようだ。それも氷山の一角――おそらく上手く我々の目を欺いてきたのだろうが」
「もしかしてあたしのこと捕まえる気満々なわけ――放火犯で?」
 強気な口調で言った。
 水鏡は鼻で笑った。
「そう、君にはマンション放火の疑いが掛けられている。死亡者は出ていないが、放火の罪は重い」
「あたしが犯人って証拠あるわけ?」
「出火場所が君の部屋だという調査結果は出ている。加えて君は炎術士だ。君にとってはとても不利な状況だと言える」
 自分に辿り着くことくらい華艶も予想していた。しかし、身体を治す方が先決で、手を打っているヒマがなかったのだ。
 今はまだ容疑の段階だが、起訴されるのは時間の問題だった。
 華艶としては、ここまで来てしまっては賠償金は払うつもりだったが、あくまで事故扱いで放火の罪で問われたくはなかった。賠償金だけで済むか、刑罰が下るかは大きな差だ。
「じゃあ、例えばあたしが火災の原因だったとして、実はちょっとした事故で故意に火を付けたわけじゃないって証言したら?」
「起訴はする。そこで事故だったかどうかは明らかになることだ」
 いざ裁判になれば、検察側は放火犯として華艶に争いを挑んでくる。その時点で華艶は不利だった。
 しかし、水鏡は急に態度を変えた。
「君一人を有罪にしたところで、誰が得をするだろうか。そこで、我々と取引をしないかね?」
「司法取引ってやつ?」
 華艶は好機が訪れたと少し笑みを浮かべた。なるべく良い条件を吹っかけてやらねば。
 深く頷く水鏡。
「そういうことだ。君がこちらの条件を呑み、ある仕事を片づけてくれさえすれば、起訴はしない」
「起訴はしないだけ? それなら普通に裁判であたしが勝てばいい話だし」
「私はこれまで……1度だけしか裁判に負けたことはないぞ。それでも私に裁判で勝とうと言うのか?」
「ふ~ん、1度でも負けちゃうとカッコつかないね」
「うぐっ……」
 一番突っ込まれたくない場所だったらしい。水鏡は胸を押さえて怯んだ。
 だが、すぐに気を取り直し、
「まあいい、報酬も出そう。君が燃やしたマンションの修繕費だ」
「マジで!? 太っ腹過ぎ……ううん、まあ当然かな。あたしほどのTSを雇いたいなら、そのくらい出してもらわなきゃ。なんせ1度の仕事で10億稼ぐ若手のホープだもんね!」
「10億だと?」
「そうそう、く……守秘義務です!」
 依頼人の名前を出しそうになってすぐにやめた。あの依頼人の秘密を華艶は握っている。仕事自体は失敗だったが、10億の報酬は口止め料も入っているのだろう。もしも他言したら、自分の命が危ないことを華艶はわかっていた。
 俄然やる気の出てきた華艶は力強く立ち上がり、バスタオルをキュッと体に巻いた。
「で、あたしに片付けて欲しい仕事って?」
「引き受けるのか受けないのか?」
「内容は?」
「君が契約書にサインするまで依頼内容は話せない」
 華艶はここでわざと渋って見せようとも思ったが、変に仕掛けて話がなかったことにされるのは困ると思った。
「じゃあ受けてあげる」
「では契約書にサインしてもらおう」
 水鏡が独房の外にいた者に合図を送り、すぐに契約書とペンを持って来させた。
 その2つを受け取った華艶は、眉間にしわを寄せて目を細めた。
「何語?」
 契約書は日本語で書かれていなかった。
 嫌な予感がする。字が読めないことをいいことに、よからぬ契約にサインさせる気かもしれない。
 華艶が迷っていると、水鏡が契約書を取り上げようとした。
「サインをしないのならば、この話はなかったことにしよう」
「ちょ、待った!」
 慌てて華艶は契約書を奪い返し、そのまま勢いでサインをしてしまった。
 次の瞬間、華艶は目を剥いた。
 目の前で契約書が生き物のように動き出し、その形を紐のように長くして、華艶に襲い掛かってきたのだ。
 すぐに華艶は躱そうとするが、この至近距離では無理だ。
 華艶のバスタオルがはだけ、契約書が躰に蛇のように巻き付き、胸や尻や秘裂までも締め上げた。
「あぅっ!」
 あの場所を擦られ感じてしまう。
 躰が熱い。
 また……燃えてしまう。
 しかし、躰はこんなにも火照って求めているというのに、欲求ばかりが増幅するだけで、華艶の躰からは炎が上がらなかったのだ。
「君の炎の力は封じさせてもらった」
 と、水鏡は鼻で笑った。
 まるで包帯のように華艶の躰に巻き付いた契約書。この契約書自体が呪符であり、華艶の枷となったのだ。
「ちょっとこんなの聞いてないし!」
 声をあげる華艶。
 だが、契約書にサインしてしまったが最後。あの契約書が魔導を帯びていたことは明らか。一筋縄ではその力を打ち破ることはできない。
「……ハメられた」
 苦笑する華艶。
 こうなってしまっては、仕事を片付けるしか華艶には手がない。
 ただ1つ、華艶にはどーしても納得にいかないことがあった。
「せめてシャワー浴びてからにして欲しかったし」
 煤だらけの躰の上から呪符を巻かれて、気持ち悪いったらしょうがなかったのだ。
 華艶の力が封じられ、水鏡は防護服のマスクを取った。
 明らかになった顔は秀麗そうだが、どこか嫌みったらしい。
 水鏡は刃のように鋭い瞳で自分をまじまじと見ている華艶を睨んだ。
「私の顔に何か?」
「イケメンだけど、彼女とかいないでしょ?」
「恋人は裁判だ」
「うわっ、マジ引く……一生恋人できないよ」
 思ったことをハッキリ口にしてしまう華艶。
 水鏡はこめかみに青筋を立てながらも聞き流した。
「仕事の話をしよう」
「彼女とかいたことあるの? もしかしていい歳してどーてーじゃないよね?」
「仕事内容は君ならばおそらく簡単なものだろう」
「もしかして童貞を奪って欲しいとか?」
「私は童貞じゃない!!」
 ぶち切れた水鏡が指で印を結ぶと、急に呪符の締め付けが激しく華艶の躰に食い込んだ。
「ううっ!」
 肉を握りつぶされるように呪符が食い込んでくる。それだけではない、締め付けに合わせて乳首や秘裂が擦られる。
 膝をガクガク言わせながら華艶は口から垂れそうになった涎れを手で拭った。だが、秘所からは愛液がたっぷりと垂れ、床の上に雨のようにポツリポツリと染みをつくってしまう。
 ついに華艶は持ちこたえられなくなって、床に手と膝を付いてしまった。
 すぐに水鏡が印を切った。
 呪符から力が抜け、締め付けが治まった。
 華艶は唇を噛む。
「マジ……最悪……」
 そして、顔を上げ水鏡を上目遣いで見ると、
「炎を封じて、逆らえば体罰ってわけ。ほかには何もないでしょうね?」
「ほかにも君が魔導の力を持っていれば、それも封じられていることになる」
 華艶がほかに持つ特殊な能力は、驚異的な治癒能力と炎の耐性。炎の耐性は魔導によるものだと華艶は知っていたが、治癒能力については身体的なものなのか魔導に関係するものなのか、自分自身でも知らなかった。
 もしもすべての能力が失われていたら……。
「悲惨過ぎる……今のあたしってか弱いただの女子校生じゃん」
 か弱いかは別として、今まで普通に存在していた能力が失われれば、苦難を強いられることは間違いない。
 ここである疑問が浮かび、華艶が尋ねる。
「力を封じられたら仕事のしようがないじゃん、あんたバカ?」
「必要なときが来たら炎の力は解放する」
 すぐに華艶は言葉を拾った。
「ふ~ん、ってことは仕事には〝炎〟の力が必要ってわけ?」
「そういうことだ。詳しい話は別の場所でしよう。シャワーを浴びて着替えを済ませて来たまえ」
「シャワー浴びても浴びた気しないんだけど」
「そんなみっともない顔で人前に出るつもりか? 最近の女子校生ときたら、恥じらいの気持ちもないのだな」
 言われて華艶は自分の頬を指でなぞり、煤だらけで顔が真っ黒になっていることに気づいた。
「恥じらいの気持ちくらいありますー! このどーてー!!」
 華艶は床に落ちていたバスタオルを拾い上げ躰に巻いたが、
「あぅン!」
 急に躰がビクッとなり、またバスタオルがはだけてしまった。
 床に膝をついた華艶が水鏡を見ると、彼は鼻で笑いながら印を結んでいた。
 華艶は必死で耐えながら拳を握り、水鏡を睨み付けた。
「覚えとけよ、この早漏童貞!」
 吠えた華艶だったが、すぐにまた躰が――。
「ひゃン!」
 子犬のような鳴き声をあげながら、華艶は床で悶えることしかできなかった。

《3》

 和風庭園の一角にある池。
 真夏だというのに、その池は水底から凍り付いてしまっていた。
 華艶は氷を足で踏んで割ろうとしたが、ヒビすらも入らず振動だけが足に伝わった。
「別にあたしがやんなくても、重機とか爆弾とかで壊せば?」
 華艶が振り返った先に立っていたのは水鏡だった。
「すでに多くの方法を試したが無駄だった。物理的な衝撃ではひびすらも入らない。唯一有効だったのは熱で氷を溶かすことだったが、それでも並の熱源では逆に冷やされ、少しばかり溶かせたところでまたすぐに凍り付いてしまう」
 そこで華艶の出番というわけなのだろう。
 この場所がどこで、なぜ氷を溶かさなくてはならないのか、華艶はまだ知らされてしない。近くには古い日本の屋敷があり、ここが良家であるということと、もう1つ華艶は気づいていた。
「ここあなたの家でしょ?」
「なぜそう思う?」
 水鏡は興味深そうに訊いた。
「だってさっき表札見たもん」
「いかにも、ここは私の実家だ」
「司法取引とか言って、プライベートな依頼するなんて、職権濫用じゃない?」
「私の仕事に関わることなので、決してプライベートなことではない」
 しかし、ここは水鏡の実家なのだという。仕事とどのような関係があるのか?
 華艶は水鏡の言葉を信用していないようすだった。
「ふ~ん、だったらどんな風に仕事と関係あるのか教えてよ」
「それは仕事に関わることだ。言うことはできない」
「あ~やっぱりプライベートなことなんだ。もしかして報酬も税金から出す気じゃないでしょうね?」
「違うと言っているだろう」
「ウソばっか」
 ふふん、と華艶が笑った次の瞬間、水鏡の指が印を結んだ。
 呪符が華艶の首を絞め、声も出せず息すらもできない。
 苦しむ華艶の姿を見ながら、水鏡は鼻で笑っていた。
「無駄口を叩くな」
 解放の印が切られる。
「ゲホッ、ゲホゲホッ!」
 地面に両手を突いて咳き込んだ華艶。絶対に仕返ししてやると心に誓った。
 そのためにも早く仕事を片付け、この忌々しい呪符を解かなくては。
 さっそく華艶は凍り付いた池の真ん中に立った。
「封印解いてよ」
「わかった」
 頷いた水鏡は印を切った瞬間、華艶が手から炎を放った。
「炎翔破![エンショウハ]」
 炎の玉は水鏡の真横を通り過ぎ、華艶はわざとらしく、
「あっ、ごっめ~ん、間違っちゃった」
 悪戯っぽく笑った。
 一方の水鏡は冷たい視線を華艶に送っていた。
「今の一件、殺人未遂で訴えてもいいのだぞ?」
「ごめんなさい、もうしませ~ん」
 と、別に悪びれたふうもなく、気のない返事をしたのがまずかった。
 水鏡のこめかみに青筋が浮いた。
「言葉で言ってもわからないようだな。ならば躰に教えてやる」
 印が結ばれ、呪符が華艶の躰を締め付ける。
 呪符が秘裂に食い込み、肉芽や花弁を擦り刺激してくる。
「だめ……そんなにされたら……この変態どーてー! あぁン!!」
 華艶は藻掻き苦しみ氷の上に倒れてしまった。
 花弁の中から蜜が溢れてくる。もう止まらない。溢れ出した蜜は氷の上に垂れ、瞬く間に凍り付いてしまう。恥ずかしい蜜が凍り付き、その場にずっと残ってしまうのだ。
 呪符はまるで蛸の足のように動き、華艶の躰をまさぐる。
 硬く尖った乳首が擦られ、脇の下や膝の裏を呪符が擦りながら通り抜ける。
 太ももに絡みついた呪符が秘所へと伸びていく。
「あふン、だめ……そんなの……挿入[イレ]ないで」
 口では嫌がりながらも、華艶は股の力を抜き、呪符の侵入を受け入れた。
「あぁン!」
 秘奥へと続く道の中で、呪符が蠢いている。何本も何本も入ってくる。幾重ものヒダと呪符が絡み合い、出し入れされるたびに大量の愛液が掻き出される。
「こんなのはじめてぇぇぇぇン!!」
 まるでお腹の中でたくさんの生き物が蠢いているような。次から次へと刺激を押し寄せてくる。
 氷の上だというのに、こんなにも躰が熱い。
 目をとつぶると、躰が舐め回されているいるような気がする。何本もの長い舌が、躰の隅々まで舐め回してくる。
 華艶の意識は朦朧としていた。
 近くには水鏡がいて、全部見られてしまっている。こんな恥ずかしい姿をあんなヤツに見られてるなんて……。
 しかし、もうそんなことすらも考えられない。
 快感の波が何度も押し寄せ、頭が真っ白になって意識が遠のく。
「はぁ……はぁ……あァァァァァァンンン!!」
 こんな気持ちいいのに、なぜか満たされない。
 まるで不完全燃焼。
 感じるほどに欲求が溜まっていく。
 気が狂いそうだ。
 躰の芯から込み上げてくるものが爆発しそうだ。外に、外に出さなくては可笑しくなってしまう。熱い、躰が熱くて爆発しそうだ。
「ヒィィィ~!」
 白目を剥いて痙攣する華艶。
 もう限界だった。
 水鏡が鼻で笑った。
「これまでか……」
 印が切られ、呪符が華艶の躰を解放した。
 業火が辺りを呑み込んだ。
「アアアアアアアアアァァァァァァッ!!」
 絶叫する華艶。
 一気に融解した氷が水蒸気爆発を起こす。
 上記が視界を奪い、辺りは乳白色に包まれた。
 どこからか聞こえてくる熱く激しい吐息。
 しかし、辺りの気温は夏とは思えぬほど、急激に下がりはじめていた。
 水蒸気が生き物のように集合する。それは雲となり、やがて巨大な〈氷の結晶〉となった。
 クリスタルのような〈氷の結晶〉は、宙に浮かびながらその場で回転して、まるで辺りの様子を窺っているようだ。
 爆発に巻き込まれて、ようやくその場から立ち上がった水鏡が、中に浮かぶ奇妙な結晶を見て、表情を硬くして口を開いた。
「あれがどこからから来て、池に棲み着いてしまったというわけか。おそらく地霊のようなもで、この場の魔力に引き寄せられたのだと思うが……」
 正体をあぶり出すことはできたが、これからどうするかが問題だ。業火によって〈氷の結晶〉は消滅せず、まだそこに存在している。おそらく意思の疎通もできないだろう。向こうの出方もわからない。
 回転し続けていた〈氷の結晶〉が止まった。
 仕掛けてくると思った水鏡が身構えたが、〈氷の結晶〉が向かったのはまだ涸れた池の底で息をあげている華艶だった。
 投石と化して襲い来る〈氷の結晶〉。
 華艶は気づいているが、疲れ切った躰が言う事を利かない。
 しかし、躰の奥底からは熱い力が漲ってくる。
「華艶鳳凰波!![カエンホウオウハ]」
 甲高い鳴き声をあげて、炎の鳳凰が火の粉を煌めかせながら舞った。
 絵画の世界から飛び出してきたような鳳凰は、威厳と華やかさを纏い艶やかに翼をはためかせる。
 炎の鳳凰と〈氷の結晶〉が激突する!
 一瞬にして水蒸気が世界を包み込んだ。そこに〈氷の結晶〉の姿は見えない。
 しかし、これで終わりとは思えない。
 同じだ。
 一気に温度が奪われ、水蒸気は雲となり、再び〈氷の結晶〉になってしまった。
 この〈氷の結晶〉に弱点はないのか!?
 大地に宿るエレメンツ――地霊は、世界そのものと言っても良い。世界を構成する物質の根源に近い存在を滅ぼすことが華艶にできるのか。
 巡り廻る水の旅。
 雲となり、雨となり、水が溜まりて、また空へと昇り雲となる。
 立ち上がった華艶が身構える。
「焔龍昇華![エンリュウショウカ」」
 渦巻く炎の龍が華艶から放たれ、咆吼をあげながら巨大な口を開けて〈氷の結晶〉を呑み込んだ。
 刹那にして水蒸気と化した〈氷の結晶〉。
 いや、しかしまた〈氷の結晶〉は異様の動きを見せている。切りがない、炎の力ではやはり太刀打ちできないのか!?
 華艶の周りの空気がキンと氷結した。
 驚き眼を剥く華艶。
 指が動かない、それだけではない足すらも動かない。躰が、躰の先から徐々に氷を覆っていく。
 まさか炎術士――〈不死鳥〉の華艶が凍りづけにされようとは!
「マジ評判落ちて仕事来なくなるし!」
 死活問題だ!
 闘志に火を付け、華艶は炎の力を呼び起こす。
 徐々に凍り付いていた氷が、巻き戻されて溶けていく。
 全身から立ち昇る湯気。
 しかし、凍る力も負けていない。
「しまっ……ゴボッ!」
 華艶の口から吐き出された気泡の塊。
 なんと水の塊が華艶の躰を呑み込んでいたのだ。
「ゴボボボ(窒息)……ボボッ!(する!)」
 水を掻き出そうとするが、流動しながら纏わり付いて離れない。
「ゴボ(死ぬ)ゴボ(マジ)ゴボッ(死ぬ)……ゴボボボッ!(どーてー!)」
 水鏡の名(?)を叫ぶが、このその姿はなかった。
 自力で華艶はどうにかするしかない。
 華艶の皮膚から小さな気泡が沸き立つ。やがてそれは大きな泡となり、水全体を沸騰させていく。
 もっと、もっと熱く!
 華艶は秘奥から漲る力を感じた。
 それこそが炎の源。
 決して男子が産まれぬ女系の一族。
 女の秘奥に炎は宿る。
 炎とは生命。
 世界を構成する1つのエレメンツ。
 華艶を覆っていた水が徐々に減っていく。
 だが、華艶は安堵どころか、逆に驚き眼を剥いた。
 水が股間を突き上げ、中に侵入して来たのだ。
 秘奥へ続く道に生命の水が流れ込んでくる。
 炎と水がぶつかり合う。
 激しい衝撃が腹の奥底から込み上げてきた。
「あふぅッ!」
 躰の内で2つの生命が衝突し、爆発して腹を押し上げてくる。
「苦しい……」
 地面に倒れた華艶が何度も何度も跳ね上がる。
「ヒィッ!」
 秘奥が揺さぶられる。
 熱い、躰が熱い。
 苦しさとは裏腹に、快感が全身を包み込む。
 火照った体から蒸気が昇る。
 強大な生命を華艶は内なる宇宙で感じていた。
 力が制御できない。このままでは躰が持たない。相対する力によって華艶の躰は引き裂かれる寸前だった。
「アァァァァァァァァァァァッ!!」
 絶叫が木霊した瞬間、華艶の坩堝から渦巻く炎が天に昇った。
 炎はその姿を不死鳥へと変え、太陽よりも燦然と激しく灼熱の輝きを放った。
 華艶の秘所が間欠泉のように噴水して飛沫をあげた。
 止まることなく噴き上げられる水が陽を浴びて煌めく。
 天に昇った不死鳥が急降下して、華艶の秘所に飛び込んだ。
「ヒャァァァァァァァァンンン!!」
 大きく跳ね上がった華艶の躰。
 力が漲ってくる。
 華艶は力強く立ち上がった。
 宙を見上げると、そこには雲が様子を窺うように蠢いていた。
「今ならイケる!」
 自信に満ちあふれた笑みを口元に浮かべ、華艶は秘奥から漲る力を制御しようとしていた。
 世界を構成するエレメンツを今、華艶は破壊しようとしていた。
 身構える華艶。
「喰らえ、究極の必殺――にゃぬーッ!?」
 あられもない声を上げた華艶。
 宙に浮いていた雲が何かに吸い込まれていく。
 華艶が振り返った先にいたのは水鏡。
 彼の足下に置かれた壺の中に雲が吸い込まれて行くではないか!?
 抵抗すら見せずに雲は小さな壺の中に収まってしまった。
 華艶は訳がわからなかった。
「は? 意味わかんない。もしもしていいとこ取りされた!?」
「なにがいいとこ取りだ。君がグズグズしているから手を貸したまでだ」
 冷たく言い放つ水鏡。
 華艶はカチンと来た。
「今から華麗に美しく止め刺すとこだったのに!」
「君にそれができたとは思えんがな」
「このどーてー野郎!」
「まだわからんようだな」
 水鏡が印を結ぶと、どこからか現れた呪符が華艶の躰を拘束した。
 驚く華艶。
「えっ、もう仕事は終わったんじゃ……こんなのアリ!?」
「君が仕事を片付けたわけではない。私が片付けたのだ。だからまだ契約は解除されない、私が解放するまでな」
「ズッルーイ!」
 力さえ封じられていなければ丸焦げにしてやるところだ。
 水鏡は壺にふたをして、御札を貼り付け封をした。
「しかし、君の功労は認めよう。起訴はしないであげよう」
「報酬は?」
「先ほども言ったが、仕事を最終的に片付けたのはこの私だ」
「この悪徳検事! 訴えてやる絶対に訴えてやる、てかそのツボ割ってやる!」
 水鏡に飛び掛かる華艶。
 だが、印が結ばれた瞬間、全身をきつく締め上げられ、その場で芋虫のようにされてしまった。
 躰をモジモジさせながら華艶が喚く。
「絶対にそのツボ割ってやる!」
「今さら壺を割っても意味がない。もうあの地霊は別次元だ」
「じゃあ、家中のツボ割ってやる!」
「……バカか君は?」
 あきれたようすの水鏡。
 華艶は魚のように飛び跳ねながらまだ喚いている。
「ウキーッ! なんなのそのツボ! ツボツボツボーッ、ツボのバカーッ!」
 怒りすぎてもう何を言っているか意味がわからなかった。
 理解できないといったふうに水鏡は溜息を吐いて首を横に振った。
「バカは君のほうだろう。この壺は代々我が家に伝わる魔導具だ。強大な魔力を秘めた物なので、もしやと思って持ってきたら、ごらんの通り地霊は魔力に引き寄せられて壺の中へ」
 この庭にあった池について、水鏡は魔力があり、それによって地霊が棲み着いたと先ほど推測していた。つまり、その読み通り、地霊は強い魔力に引き寄せられる特性を持っていたのだ。華艶の秘奥に向かったのも同じ理由だ。
 しかし、華艶にはそんなことどーでもいいことだった。
「この変態早漏童貞野郎! 早く封印解きなさいよ!!」
「……まったく、君は学習能力がなくて困る」
 水鏡は印を結び、華艶を残してその場から立ち去ってしまった。
「アァァァァァン!!」
 炎に抱かれながら華艶の喘ぎ声がいつまでも木霊した。

 バーニング少女(完)


 ▽ あとがく ▽

 久しぶりのあとがくのコーナーです。
 華艶ちゃんシリーズでは、実に不老孵化以来の1年半ぶりくらい?

 今回の作品は現在公開中の話ではアメ玉と食人婆の間のエピソードになります。
 なので作中でまだ姉と再会していない記述が出ていたりします。

 ナイフキリングとアメ玉と、内容の一部濃い作品が続いていたので、今回は普通な感じで。
 18歳の誕生日を迎えたということで、華艶ちゃんがエロエロでした。
 新キャラの水鏡検事も登場。ってだいたいの話に新キャラ出てくるんですが。
 華艶ちゃんは基本的に何度も登場するキャラがいませんよね。
 そのうち過去のキャラが再登場のパターンが増えてくると思いますけど。
 サブレギュラーくらいの地位にいるのが京吾クンくらいです。
 女性キャラのレギュラーとか欲しいですよね、エロなんだし。

 エロエロと言いながら、かなりギリギリの線で書いています。
 とりあえず1話の3分の1ないし、5分の1以上のエロシーンは書きません(ちょいエロくらいならオッケーだけど)。
 規制があるんですよ規制が。
 あと、激しいシーンは直接的な単語を使いません。
 俗語や隠語は知らない人は知らないですし、言い逃れができますから。
 侮辱罪って、意味不明な言葉で相手を罵っても罰せられないんですよね。それと同じです(?)。
 映像にしなければ、ギリギリセーフ。

 完全18禁版はまだ雪鬼しかありませんが、徐々に増やしていく予定です。
 第2話の不老孵化が長すぎて、手を付けたくないというか。
 1000円でもいいからくれればやる気でるんですけど。

 次回はほかのページで公開している夢の館の華艶ちゃん版です。
 乞う御期待。

 ・・・>>>秋月あきらでした o


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