第9話_ぼくのメイドさん

《1》

「ギャーーーッ!!」
 パソコンの前で絶叫した華艶。
 帝都にあるツインタワー。地上100階建てのビルが対になって建てられていることから、その通称で呼ばれているが、正式名称はあまり知られていない。
 ウェストビルが主にショッピング、イーストビルが企業のオフィスなどが入っている。
 そのウェストビルにあった帝都銀行ミナト区ツインタワービル支店から、現金や証券などが盗まれるという大事件が起きた。犯人は金庫の中身を根こそぎ奪い去ったのだ。
 その煽りを受けて華艶が持っていた株価が大暴落。
「嗚呼、あたしの夢が……お金が……」
 ガクっと華艶は机に突っ伏した。
「うるさいぞ火斑![ホムラ]」
 教師が怒鳴った。
 そう、今は授業中だったのだ。
 前の席に座っていた友人の碧流[アイル]が振り向いた。
「もしかして株で失敗したの? ダッサ」
「…………」
 放心状態の華艶は返事すらしなかった。
「わざわざ授業中も株やってたみたいだけど、初心者が下手に手出すからそゆことになるんだよ。で、いくら損したの?」
 尋ねる碧流に華艶は突っ伏したまま、十本の指を開いて見せた。
 首を傾げながら碧流が答える。
「10万?」
「ちがう~」
 呻き声が返ってきた。
「じゃあ100万?」
「ちがう~」
「まさか1000万ってことは……」
「10億」
「……じゅうおくーっ!?」
 驚きのあまり碧流は声をあげて席まで立ってしまった。
 すぐに教師が注意する。
「おまえら授業中だぞわかってんのか?」
 だが、その声も右から入って左へ抜ける。碧流も放心状態になってしまった。
 近くの席の生徒たちもみんな唖然としている。
 華艶がTSの仕事をしているのは有名だったが、まさか10億円も稼いでいたとは誰も知らなかったのだ。
 この事件は瞬く間に学園中に広がり、株で大損した女として一躍有名になるのだった。

 学校を早退しようとも考えたが、目下進級がいつも危うい身だ。華艶は魂の抜け殻と化しながらも授業を受け、やっと下校時間になった。
 席から自分の力で立ち上がることもできない華艶に碧流が肩を貸す。
「ほら立って。ねえカラオケ行こうよ、こーゆーときはカラオケでガンガン歌うのがいいって!」
「パス……そんな気分じゃない」
「カラオケ代あたしがおごるからさ-。って、10億損してもあたしよりまだお金持ってるんでしょ、ならいいじゃん?」
「そーゆー問題じゃないし。10億損したことには代わりないの」
 独りでは何もできそうもない華艶は碧流に連れられ、行きつけの店に向かうことにした。
 店のドアが開くと共にベルが鳴り響く。
「いらっしゃい」
 店のマスター京吾が二人を出迎えた。
 碧流は元気よく手を上げた。
「どもどもー久っしぶりでーす!」
 一方の華艶は半死状態で引きずられるまま歩いている。
 二人はカウンター席に座った。華艶は座ったというより、そこに置かれた感じだ。
 カウンターに突っ伏して身動き一つしない華艶を、京吾が心配そうに覗き込んでから碧流に顔を向けた。
「どうしたの華艶ちゃん?」
「株で損したんだって、10億」
「それはご愁傷さま。これは僕からのおごりだよ」
 華艶の前に置かれたコーヒーカップ。
 薫りに誘われて華艶が手を伸ばす。
 ずるずる~。
 背中を丸めながら華艶はコーヒーを飲んだ。
 そして、ブツブツつぶやくように話しはじめた。
「……はぁ、マジ最悪。前に稼いだ10億円でパーッと遊んで、高級マンション買ったのに、そのマンションは燃えるし、賠償金は払わせられるし。でさ、遊ぶお金もなくなっちゃって、夏休み一生懸命補習授業とバイトに明け暮れてさ、今後のことも考えて資産運用しようと思ったのに……へへへっ、今住んでるとこの家賃払えないかも、うへへ」
 自嘲気味に笑う華艶。
 だが急に華艶は覇気を取り戻し、コーヒーを一気飲みするとカップを叩きつけるように置き、目と鼻の距離まで京吾に詰め寄った。
「だからさ! 楽して稼げる仕事ない?」
「楽して稼げる仕事なんて、そんな美味しい話あるわけないでしょ」
 キッパリと諭そうとする京吾。
 だが華艶は引かない。
「ある、絶対にある! そんな仕事も客に紹介できないようで、よく仲介屋なんてやってんのね!!」
 表向きは寂れた喫茶店のマスターだが、裏の顔はモグリのTSたちに仕事を紹介する仲介屋。だからと言ってそんな楽に稼げる仕事など紹介できるはずが……。
「ああ、そう言えばウチに回って来た仕事じゃなければ……」
「あるの!?」
 すぐに華艶は京吾の話に飛び掛かって食い付いた。
「ちょっと待ってて」
 そう言い残して京吾はカウンターの奥へ消えた。
 ――しばらく経ったが京吾は戻ってこない。
 マスターが不在でも客が来ないので問題ないが、待っている華艶はじれったくて仕方がない。
「あぁ~もぉ~なにしてんの!」
 いくら待っても帰ってこない。
「まさか仕事紹介したくなくてバックれた!?」
 けれど華艶の不安も取り越し苦労で、ちゃんと京吾は戻ってきた。その手にはなにやらチラシが?
「こないだ妹がもらって来たんだけど……」
「早く貸して!」
 京吾の手からチラシを奪い取った華艶。
「なになに……コスプレ撮影会のモデル募集。日当100万円!?」
 チラシを握り締める華艶の手に力が入る。
 横でチラシを覗き込んでいた碧流は信用してない顔つきだ。
「1万円の間違いじゃないのぉ?」
「あたしは信じる!! だってよく見ると『中高生歓迎10万円~100万円』って書いてあるし、何カ所も間違えないでしょふつー」
「もし100万円だったとして、怪しくない?」
「怪しくない! 100万円♪ 100万円♪ 100万円!!」
 もう華艶の頭の中は100万円のことしかなかった。
 さっそく連絡先に電話をしようとケータイを取り出す華艶の手を碧流がつかんだ。
「ちょっとマジでやる気?」
「いっしょにやる?」
「やらない」
「だって日当100万だよ、TSのバイトより楽して稼げるし、写真撮られればいいだけでしょ、ぼろい!」
 果たして本当にぼろ儲けなバイトなのだろうか?

 教えられた住所を頼りにとある場所までやって来た華艶。
 その隣には碧流の姿が――。
「なんであたしまで……」
 結局、強引に華艶に引きずられて来てしまったのだ。
「だって100万だよ、100万!」
 華艶はずっとそれしか口にしていない。
 二人がやって来たのはマンションの一室だった。
 碧流は不快感をあらわにした嫌そうな顔をしている。
「やっぱやめようよぉ。絶対キモオタとかにエッチな写真とか撮られるんだよ?」
「大丈夫、あたしがついてるんだし。変なことされたらヌッコロスもん」
 たしかに華艶に変なことしたら返り討ち間違いなしだ。
 意気揚々と華艶は部屋の前にあるインターフォンを押した。
 すると、ドアを開けて顔を出したのは、清潔そうで爽やかな青年だった。
 一目見て碧流は、
「はじめましてこんにちは、いくらでもあたしのこと撮ってください!」
 見た目に騙されやすいタイプだった。しかもなんだか瞳にハートが映っている。
 青年は二人を部屋の中に進めた。
「華艶さんと碧流さんだね、どうぞ中へ上がって」
 なんの躊躇いもなく華艶を差し置いて男の部屋にガツガツ上がる碧流。
 リビングまで通され、ソファの座ると飲み物が出された。
 青年はさっそく話を進める。
「学生証は持って来てくれたかな、見せて欲しいんだけど?」
 ここに来る前に学生証を持ってくるように言われていたのだ。学生だということが証明できれば、バイト代がアップするらしい。
 華艶よりも先に碧流が神速で学生証のカードを青年に手渡した。
「どうぞ、あたしたち二人とも2年生です!」
「神原女学園じゃないか。いいね、有名校の可愛い子が二人もモデルになってくれるなんて」
 青年は爽やかな笑みを浮かべていた。
 そして、華艶も学生証を渡そうとするのだが、その手は遠慮しがちにゆっく~りと動いている。
 学生証を受け取った青年も、少しだけその表情が疑問に変わった。
「もしかして留年してる?」
 生年月日の記載を見られたのだ。
 すぐに華艶は取り繕う。
「でもでも1年しか留年してない18歳ですから!」
 〝しか〟と言いつつ、まだ2学期もはじまったばかりだというのに、3年生への進級が危ういらしい。
 華艶のヤル気満々で、碧流のノリノリだったため、話はとんとん拍子に進んだ。
 バイト代は二人合わせて60万円から、撮影中のオプションで報酬が増えることになった。
 さっそく別室で着替えることになった二人。
 渡された衣装は、メイド服だった。
 服を脱ぎ、下着姿になった華艶の胸をマジマジと見る碧流。
「ちっとも大きくならないね」
「うっさい、別にあんただって巨乳ってわけじゃないじゃん!」
「巨乳なんて肩凝るし将来垂れるんだよ。それにくらべてあたしの胸はほどよい大きさの美乳だも~ん」
 碧流はブラを取っておっぱいを露わにした。
 自分で言うだけのことはあって、形の良いお椀型のバスト。おそらくCカップくらいだろう。
 カチンと来た華艶は碧流を押し倒し、その胸をこねくり回した。
「うえっへへ、こんな胸こーしてやるぅ!」
「いやっ、ちょっとぉ!」
「揉んで揉んで大きくなってしまえ~っ」
「揉むんだったら自分の揉んで大きくすればいいでしょ~、ああっン!」
 乳首に指が当たった途端、碧流は背中をビクンと弓なりにさせた。どうやら乳首が感じやすい体質らしい。
 薄いピンク色をした小さな乳輪の真ん中で、乳首がツンと上を向いて硬くなる。
 指の腹が触れるか触れないかくらいの感度を保ち、優しく乳首を愛撫する。
「んんっ……だめだってば……」
 碧流は吐息を漏らしながら、目をとろんとしはじめていた。
 華艶は調子にノって碧流の耳元に息を吹きかける。
「あうンっ!」
「感じちゃってるの碧流ぅ?」
「いじわるぅ~……そんなにされたら……わかるでしょ?」
「そんなにされたらなんのぉ?」
 イタズラな表情で華艶は笑っている。
 碧流は顔を真っ赤にして、華艶から目線を外した。
「パンツが……」
「パンツがどうしたのぉ?」
「……汚れちゃうから……だめだってば……」
「ちょっと乳首触られただけで、あそこがもうグショグショなのぉ?」
 イジワルな華艶の問いかけに碧流は小さくコクリとうなずいた。
 そんないじらしい表情を目の前で見せられたら、華艶のハートに火かつかないわけがない!
「うえっへへ、オジサンがかわいがってあげるよぉ~」
 すっかり華艶は変態オヤジの気分だった。
 もう十分感度の上がってきた乳首への刺激を少しずつ強くしていく。ソフトタッチするだけではなく、軽く弾くような刺激を連続して与える。
「んっ……んっ……あんっ……んっ」
 碧流の息が小さく破裂する。
 たった一カ所を責められているだけなのに、こそばゆい痺れが全身に奔る。
 華艶の指先が碧流の太股に伸びる。
 太股を撫でられるだけで感じてしまう。
「だ……めぇ……」
 膝や膝の裏も、普段ならくすぐっただけなのに、今は気持ちよくて身体が跳ねてしまう。
 華艶の指は焦らしながら脚の付け根へと這っていく。
 脚の付け根の筋でくぼんだ部分から先に進まない。指はそのあたりで円を描くように弄んでいる。決してショーツとの境界線を侵して進もうとはしないのだ。
 それは碧流には耐えられなかった。
「ねぇ……ちょっとだけ……」
「ちょっとだけなぁに?」
 わかってるクセに華艶は惚けた。
 碧流は口を結んだ。おねだりするのは恥ずかしかった。でも身体が熱くて、あそこも疼いてしまっている。
 それがわかっている華艶は、
「かわいいなぁ、碧流かわいいよぉ~!」
 大はしゃぎで碧流の身体を強く抱きしめた。
 ここまで来てヤラねば男が廃る!
 華艶は女だが。
 ご要望にお応えして、ついに華艶の指がショーツの食い込みへと。
 じゅわぁっとした。
「碧流のここ濡れてるよぉ~」
「んもぉ……言わないでよ……」
 温かい湿り気が指先で感じられる。指で少しだけ摩ると、わかるかわからないくらいのヌメりけが感じられた。きっと中はもっと指に絡みついてくるヌメり気でいっぱい溢れているのだろう。
 指でショーツを押し、秘裂へとグイグイ押し込む。
 碧流は華艶の背中に手を回しすがりつく。
「気持ちいい……気持ちいいよ……はぅん!」
 そしてついに華艶の手は碧流の腹を滑り下り、ショーツのゴムヒモの境界線を越えようとした。
 寸前だった!
 部屋のドアがノックされ、
「まだかな?」
 催促する青年の声が。
 慌てて華艶は碧流の身体から離れて立ち上がった。
「もうすぐ行きま~す!」
 切り替えが早かった。
 が、されていたほうの碧流は、きょとんと目を丸くしている。
「あたしイケてないけど」
 男でなくてもこの寸止めはありえない。
 なんたる肩すかし!
 この盛り上がった気分をどうしてくれるんだと、暴動が起こるかもしれない事態にも関わらず、華艶は何事もなかったようにさっさと着替えを再開している。
「100万円、100万円、目指せ日当100万円!」
 華艶はエロより金だった。

《2》

 部屋の1つがミニスタジオになっていて、ホワイトのバックに照明も完備されていた。
 まず部屋に乗り込んできたのは華艶。
「よろしくお願いしま~す♪」
 次に身体をモジモジさせながら、少し顔を赤らめ入ってきた碧流。
「よろしくお願いします」
 寸止めを喰らったせいで、身体が疼いて仕方ない。スカートの中のショーツも濡れたままだ。
 メイド服はよくある白と黒を基調にしたもの。オプションで皮のチョーカーとリストバンドも装備済み。ちょっぴり奴隷チックなメイドさんだ。
 青年は一眼レフを構えて口元に笑みを浮かべた。
「じゃあ、はじめようか」
 次の瞬間、華艶と碧流の身に思わぬことが起きた。
 手足が自分の意思に関係なく動きはじめたのだ。
 華艶はまさかと思った。
「このバンド!」
 そうリストバンドが腕の自由を奪っていた。さらに実は脚にも同様のバンドを装着するように言われていたのだ。
 バンドの力に刃向かえず、華艶と碧流はM字開脚にされてしまった。
 フラッシュが焚かれ激写される。
 嫌がる碧流の表情やその股間がカメラに納めらてしまう。
 一眼レフのレンズが、熱気を浴びそうなほど股間に近付く。
「もう濡れてるじゃないか」
 イヤらしい青年の口調。
「それは……」
 碧流は口ごもった。まさか華艶の悪ふざけで感じてしまったなんて言えない。言わなければ言わないで、青年は勘違いするのだ。
「恥ずかしい姿を写真に撮られて興奮するなんて、君マゾだろ?」
「そんなこと……」
 ショーツがジュゥっとした。
 無理矢理躰の自由を奪われ、こんな目に遭っているのに……。
「マゾはマゾらしくしないとね」
 カメラのレンズを通された瞬間、碧流の腕は無理矢理動かされ、その手は股間に伸びてしまっていた。
「いやっ……やめて……」
「口では嫌がっていても、本当はご主人様に見てもらいたいんだろ?」
 濡れたショーツの上を碧流の指がなぞる。
 もう布地の上からでもあそこが大きくなってしまうのがわかる。
 恥ずかしい。
 さっき会ったばかりの男の前でこんな恥ずかしいことをしてしまっているなんて……。
 一方の華艶はM字開脚のまま放置プレイだった。
 バンドは単純に腕や脚を引っ張るだけでなく、全身の運動を奪う力を持っていた。そのため指一本も自分の自由にならない。それでも炎の力は使えそうだった。
 しかし、華艶も自由に炎が出せるわけではない。
 細かく狙いを定めるためには手に神経を集中させ、そこから炎を繰り出す。その手が今は床に押しつけられてしまっている。全身から炎を発することもできるが、今この状況でそれをすれば、青年だけでなく碧流まで丸焦げだ。
 しかもここは室内。2ヶ月前の事件が華艶の脳裏を過ぎる。賠償金――耳を塞ぎたくなる呪文だ。
 華艶は唯一自由になる口を開いた。
「絶対ヌッコロス!」
 それ聞いて青年は明らかに怪訝な表情をした。
「主従関係がわかっていないようだね?」
「ううっ!」
 急に華艶が呻いた。その首に付けられたチョーカーがのどにギシギシ食い込む。息が止まり声も出せない。
「華艶!」
 碧流が叫んだ。
 そして、首を解放される華艶。
「ゲホゲホッ……まず……そのカメラをあんたの目の前で……叩き壊してやる!」
「あれ、まだわからないの?」
 感情のこもってない声を青年が吐く。
 再び首を絞められると思ったが、そうはならなかった。
「君みたいな子は、直接本人に言ってもわからないみたいだから……」
 レンズが向けられたのは手淫をさせられている碧流だった。
 碧流の顔を強ばり、華艶は牙を剥く。
「碧流に何する気!」
 叫ぶ華艶を見て笑った青年は、年は靴下を脱ぎそれを華艶の口の中に押し込めた。
 奥までつめられた靴下は、自力では履き出せない。
 吐き出そうと舌を動かすが、こんな男の靴下を舐めなきゃいけないなんて、屈辱でしかなかった。なのにいくら舌や口を動かしても靴下が履き出せないのだ。
 青年は素足を碧流の前に差し出した。
「舐めろよ。アレを舐めるみたいに丁寧にだぞ。噛んだりしたらお仕置きだからな!」
 おそらく華艶で後先考えずにあれば指を噛み千切っていたところだろう。
 けれど碧流はそれに従った。
 顔は意思に関係なく素足の目の前まで動かされ、戸惑いながら口を開くとその中に指が突っ込まれた。
 舌が親指に纏わり付く。
 大切な恋人のモノをそうするように、舌で優しく包み込みながら愛撫する。
 ここでもし噛み付こうものなら、どうなるか碧流はわかっていた。それは自分だけとは限らない、華艶まで何かされるかもしれない。そう考えると、この男の言いなりになるしかなかった。
 指全体を舐めるときは舌の全体で柔らかく包み、指の間を舐めるときは舌を尖らせて刺激する。
 足を舐め続ける碧流の口から涎れが垂れる。それは涎れを飲むことを忘れるほど夢中なのか、それともこんな男の足を舐めた涎れを呑み込みたくないのか。
 友達が自分の目の前でこんな仕打ちを受けることが華艶には耐えられなかった。
 靴下を加えながら華艶が叫んだ。
 男がニタっと笑い、華艶の涎れがたっぷり染みこんだ靴下を抜いた。
「なにか言いたいことがあるのか?」
「もうやめて!」
「だったらおまえも舐めろ」
 碧流の口から抜かれた足の指が、そのまま華艶の鼻先に突きつけられた。
 足の指から碧流の涎れが滴り落ちる。
 華艶は横目で碧流を見た。
 友達をこんな目に遭わせてしまうなんて……もとはと言えば全部自分のせいだ。
 華艶はプライドをかなぐり捨てて、乾いた口を開いた。
 すぐに指が口の中に突っ込まれる。
 靴下に吸われ乾いていた口の中に涎れが沸いてくる。
 男の指を舌で奉仕しながら、華艶の涎れと碧流の涎れがいやらしい音を立てながら混ざり合う。
 そのようすが激写される。
 フラッシュで目が眩む。
 溢れ出す涎れが糸を引きながらボトボトと零れ落ちる。
 何度も歯を立てようとしてはそれを堪えるので必死だった。
 片方の足を十分舐めると、今度はもう片方の足も鼻の先に突きつけられた。
 1本も2本も同じと言えば同じかもしれない。それでも華艶は躊躇わずにいられなかった。こんな屈辱を浴びつづけたら気が狂いそうだ。
 男はなかなか足を舐めない華艶に苛立ちを覚えた。
「なんだよ、まだ自分の立場がわかってないのかよ……このメス豚!」
 足の親指が華艶の鼻の中にねじこまれた。
「そんなのに入らない!」
 叫ぶ華艶を無視して、親指はグリグリと鼻の穴を犯す。
 鼻の穴を無理矢理拡張された挙句、まるでSMの鼻フックのように鼻孔を引っ張られて顔を上向きにさせられる。
 男が腹を抱えて笑う。
「アハハハ! マジでブタみたいな顔だな!」
「うぐ……あううう……」
 無様な醜態を晒す華艶の顔。
 そのすべてがカメラに撮られてしまう。
 碧流が涙を滲ませた。
「やめてもう許してあげてください!」
「だったらお前が代わりになるか?」
 男がニタリと笑う。
 華艶は碧流を庇おうと必死だった。
「大丈夫、あたしが!」
 もう男の思うつぼだった。
「だったら……こっちにやってもらわないとな」
 華艶の鼻から抜かれた指が碧流の鼻先へ。それは華艶の胸を締め付けた。自分が名乗り出たというのに、それを裏切り友達が仕打ちを受ける。
 碧流の小さな鼻の穴に太い足の親指グリグリと押し込められる。
「ううっ……痛い……あああっ!」
「こっちもブッサイクなメス豚だな。ほらカメラのレンズをしっかり見ろよ、自分が映ってるの見えるだよ?」
 湾曲したレンズの先で、歪んだ顔をした自分。
「いや……こんな……ううっ……もう許して……」
 大粒の涙が零れる。
 なのに鼻の中をさらに犯してくる親指。
「泣いたらもっと醜い顔になるぞ。俺はそっちのほうが撮りがいがあるけどな」
 連続してシャッターが切られる。もはやのそのシャッター音ですら恐怖の対象だ。シャッターが切られるたびに胸をつぶされそうになる。
 華艶は必死で涙を堪えていた。
「もう許してあげて、あたしが、あたしが代わりになるから!」
「いいの華艶、あたしが受けるから……」
 庇い合う2人。
 お互いを思いやる友情も男にとってはエサでしかなかった。
「いいねぇ、くだらない女の友情。でも言葉だけじゃ絵になんないんだよな」
 碧流の鼻から親指が抜かれた。そこについている血の痕。碧流の鼻からつーっと鼻血が流れていた。
 それを見た華艶は我慢の限界だった。理性を吹き飛ばし、すべてを焼き尽くしてやりたい。でもそれはできない。
 微かに焦げた臭いがして、床に付けられた華艶の手から少しの煙が昇っていた。
 それにまったく気づかない男はさらなる要求を2人に突きつける。
「次はレズプレイでも見せてもらおうか?」
 カメラのレンズを向けられると、操り人形のように身体が動き、碧流の開かれた股間に華艶の顔を埋められた。
 あの匂いが華艶の鼻の奥まで入ってくる。
 碧流の手が無理矢理動き、自らのショーツを脱ぎはじめた。
 露わにされた秘所。
 閉じられた秘裂から大量の蜜が溢れ出している。
「今度は友達のアソコを舐めて綺麗にしてやれよ」
 男に言われ、華艶は舌を伸ばした。
 秘所を顔面に押しつけられ、割れ目の中に舌が入る。
「ごめん……碧流」
「…………」
 碧流はなにも言わなかった。
 女同士の悪ふざけとはわけが違う。
 碧流が囁く。
「だいじょうぶ……華艶になら……」
 でも、こんな男に見られ、写真を撮られるなんて。
 華艶も同じ気持ちだった。碧流とならエッチなことをしても不快に思わなくても、こんな男に見られながらなんて屈辱だ。
 それでも今は男の言いなり。
 もしも一人だったら状況も違っただろう。
 操られた碧流は割れ目を両手で開いて見せた。顔は背けられ、目は閉じられている。
 華艶は顔を背けるわけにはいなかった。
 四つん這いになって溢れてくる友達の蜜を舐め取る。
 ビクッと碧流の身体が震えた。
 男が華艶のケツを足で押し、さらに碧流の秘所に顔を近づけさせようとする。
「オラッ! もっとご奉仕してやれよ!!」
「うぐっ」
 息ができないほど鼻まで押しつけられる。
 鼻が肉芽に当たっているのがお互いわかった。
 碧流は恥ずかしさで目をギュッとつぶる。なのに口からは声が漏れてしまう。
「んっ……うんっ……んんっ……」
 鼻の先で勃起した肉芽が擦られる。
 華艶は優しく舌を這わせる。
 その姿を激写する男。
「いいねぇ~、いい絵だ」
 あまりにも急に玄関が激しく開かれた音がした。
 次の瞬間、部屋の中に雪崩れ込んできた強面の男たち。
 すぐに男の一人が手帳を見せた。それは警察手帳。男たちは刑事だったのだ。
「ちょうどいい、婦女暴行の現行犯で逮捕だ!」
 男と刑事が揉み合いになった。
 そして、宙に投げられた一眼レフのカメラ。
 ガン!
 カメラは激しく床に叩きつけられた。
「オレのカメラーーーッ!!」
 獣のような叫びをあげた男。きっと男にとってカメラは命と同等か、その次くらいに大切な物だったに違いない。
 暴れ狂う男が床に叩きつけられ抑えられる。
 一方、華艶はあることに気づいた。
「……身体が動く」
 そう、カメラが床に叩きつけられた瞬間、身体は自由を取り戻していたのだ。
 華艶は急いでカメラを盗み、さらに強烈な蹴りを男の顔面に喰らわせた。
「ンガッ!」
 鼻の骨が粉砕され、ブタっ鼻になった男が鼻血ブーして気絶した。
 まだまだ気が済まない華艶だったが、碧流の手を引いて逃亡。
「全速力!」
 こんなところで警察の厄介になっては困る。
 なんせ華艶は進級の危うい身だ。
 メイド服を着たまま二人はマンションから飛び出した。
 刑事たちが追ってくるが、すぐに諦めてくれたようだった。おそらく華艶たちの証言が無くても起訴は決まっていたのだろう。だからこそ部屋に踏み込んだのだろうから。
 ようやく華艶は足を止め、額の変な汗を拭った。
「ふぅ~……危なかった」
 そして、華艶は気づくのだった。
「アアーーーッ!」
 不思議な顔をして碧流が尋ねる。
「どうしたの?」
「バイト代もらってない!!」
「……そ、そうだね」
 碧流はすっかりあきれ顔だ。
 だが、華艶はマジだった。
「ちょっと今から戻ってもらってくる!」
 激走する華艶。
 独り残された碧流は溜息を吐いた。
「なんであたし……華艶の友達やってるんだろ」
 でもすぐに笑みを浮かべて華艶を追いかけはじめたのだった。

 ぼくのメイドさん(完)


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