第10話_ブックエンド

《1》

 図書館の奥の部屋で、司書である神宮司モニカは眼鏡を輝かせ笑っていた。
「ふふふ、ついに手に入れたわ……アーティエ断章」
 手袋をした両手でモニカはその古めかしい本を持ち上げた。
「アーティエ断章――名も知れない異世界の歴史書。この世界に現存する物は英訳のみで、どうのような経由で訳された物なのかは不明。さらにオリジナルがあるのかも不明。一説には憑かれた子供が自動筆記で記したともされているけれど、真偽は不明。そもそもこれに記された世界が存在しているかも疑わしく、創作物じゃなかとすら言われている……けれど、これに描かれた魔術体系の一部は、この世界でも通用するものであり、少なくとも魔術の知識を持った者が記したことには間違いない。そう言った意味では、魔導書と言っても差し支えない」
 目の前にある魔導書が何物であるか、それを再確認して喜びを実感するために、あえて口に出して説明した。
「あぁン、ファッキングッド!」
 モニカは魔導書を抱きしめ、身悶えて打ち震えた。
「まさかヤプオクで見つけるなんて。あんまり価値のない魔導書で、安いと言っても大金で競り落としたことには違いないわ。よかった学園の経費で落ちて」
 神原女学園は普通科の女子校である。その図書館には魔導に関する蔵書が数多存在している。しかし、それらの本は生徒らたちの目の届かないところに保管されており、神宮司モニカも普段は普通の司書としてここに勤めている。
「今の時代、魔導なんてそこら中に溢れかえっているもの。普通の魔導書なんていくらでもあるし、素人でも書けるわ。それに比べてアーティエ断章にはロマンがある。知られざる異世界のことを記してあるなんて、なんてファッキングレートなの!」
 嬉しさのあまりモニカは厚い表紙に何度もキスをした。
 このときモニカは有頂天で気づいていなかった。皮の表紙が汗を掻き、火照るように微かな湯気を立ち昇らせていたことを――。
 モニカは魔導書を机に置き、その表紙に手を掛けた。
 この瞬間がモニカは堪らなく好きだった。
 まるで初物を頂くような感覚。新品に掛けられた包装ラップをビリビリに感覚。
 本を開くという行為は、何かを暗示するようで、堪らなく嫌らしい……とモニカは個人的に思い抱いている。
 古書は優しく扱う。
 愛でるようにモニカは表紙を開き、さらにもう1ページ、さらにもう1ページ。どんどん加速しながらページをめくり、だんだんと雑にページをめくって叫んだ。
「ファック!!」
 いったい何が起きたのか?
 眼も剥いたモニカが見たものは白紙のページ。めくってもめくっても、何も書かれていないのだ。
「騙された……金返せファック!」
 その後も呪詛のようにファックファックと連呼して狂乱した。
 やがて怒りを治めるためか、モニカは床に尻をつけ、スカートの中をまさぐりはじめた。
「オーファック!!」
 激しい叫び声は治めるどころか、さらにボルテージが上がっているような気がする。
 M字開脚で腰を浮かせ、ショーツの割れ目にグイグイ指を押し込める。
「オーイエス!」
 熱気が部屋に立ち込める。
 その熱気はモニカから発せられているものではなかった。
 机に置かれた白紙の魔導書。開かれたページの中で渦巻く黒い靄。やがてそれは本の中から具現化して噴出すると、生ゴミのような臭いが部屋中に広がった。
 そこでやっとモニカは気づいた。
「なにっ!?」
 目の前には悪鬼のような顔。
 青黒い靄で模られた顔は下卑た笑いを浮かべていた。
「我が名はヴォベルキード」
 威厳たっぷりの低音ボイスだったが、モニカはまったく動じなかった。
「は? ヴォッキード? 聞いたことないわ。どこの低級霊?」
「ったく低級霊と一緒にするな、俺様は神だ、ちょっとは畏怖しやがれ!」
 急にヴォベルキードは態度をコロッと軟化させた。
 相手が自称神だろうと、モニカは相手にする気などさらさらなかった。
「はいはい、どこのマイナー神か知らないけど、邪魔だから消えて。アタシはオナニーの途中なの、空気読んでくれない?」
 まったくだ。オナニーの途中で妨害が入るなんて許し難い。
 邪険にされたヴォベルキードは靄を煮えたぎらせるように渦巻かせた。
「このメス豚がッ、俺様の実力を見せてやるぞーッ!」
 次の瞬間、巨大な手に足首をつかまれた。
 身体が引きずられる。巨大な手はあの魔導書の中から伸びている。本の中に引きずり込もうとしているのは確実だ。
 モニカは巨大な手を蹴り飛ばした。
「ファックユー!」
 だが、抵抗も虚しくモニカは本の中へ呑み込まれた。
 次の瞬間、モニカは落ち葉の上に尻から落下していた。
「アウチッ!」
 黒土の上に敷かれた落ち葉のベッド。辺りを見回せば生い茂る森。空を見上げるとどこまでも続く青空。
「ファック! なにが実力よ、瞬間移送しただけじゃないのよブタ野郎!」
 しかし、ここはいったいどこなのか?
 本の中に吸い込まれたわけだから、本の中と考えるべきか、それとも地球上のどこかか、別次元ということも考えられる。
 どこにせよ、帰ることが目的だ。
 森を散策しようと足を一歩動かしたところで、モニカは気配を感じて身動きが止めた。
 落ち葉や小枝を踏みしめる音。
 1人……2人……3人……まだいるかもしれない。
 木の陰から姿を見せたのは筋肉質の親父たち。それもリトルオヤジ――小人のオッサンと言ったほうがいいだろうか。
 親父たちの数は7人。黄ばんだ歯を覗かせながら下卑た笑いを浮かべている。その表情も最悪だが、もっと最悪なのは小人に似合わないフル勃起状態の巨根だ。
 思わずモニカは叫んだ。
「ファック!」
 まだ距離があるというのに、雄の臭いが漂ってくる。
 ぎらつく眼をした小人たち。
 この空気は明らかにそーゆーことになりそうだ。
 円を描くように囲まれたモニカ。一瞬の隙を突き、地面を蹴り上げ駆けだそうとした。だが、小人は瞬発力は予想以上だった。
 モニカは腕を掴まれ、振り払おうにも小人のくせに豪腕で離れない。
 あっという間にモニカは羽交い締めにされ、四肢の自由を奪われ枯れ葉のベッドに押し倒されてしまった。
「ブタ野郎ども! アタシから主導権を奪おうなんて100万年早いのよ!!」
 ブチ切れながらジタバタするが、すぐに小人たちに押さえつけられ、体中を睨め回された。
 臭くて臭くて堪らない。
 ねっとりとした唾液がローションのように塗りたくられる。
「ファックユー!」
 叫んだモニカの口の中に分厚い舌が無理矢理押し込まれた。
 貪る小人の舌に犯され、臭さのあまり鼻が麻痺してきた。
「うぐっ……ブタはブタらしく……ブタとヤってな!」
 犯されながらも罵るモニカ。威勢はいいが、身体の動きは封じられたままだ。どうしようもない。
 遙か天から声が響く。
《そのブタがおまえだ。メス豚が、思い知ったかこれが神の力だ!》
 それはヴォベルキードの声だった。
 モニカは顔すら見せない野郎に怒り心頭だった。
「顔ぐらい見せなさいよブタ野郎! 神? 笑わせるんじゃないわよ、ただのブックデビルの類でしょう、それもちょー低級の!!」
《うるさい! 俺様は神だ、この世界は俺様の物だ。なんでも俺様の自由になるんだぞ、7人の坑夫も思うがままだ!》
 モニカのショーツが剥ぎ取られ、雄々しい巨根がブチ込まれた。
「ヒィッ!」
 いきなり突っ込まれたことで、思わず短い悲鳴が漏れてしまった。
 だが、モニカはすぐに気を取り直した。
「なにが神よ、ただの淫魔じゃないの!」
《……うっ》
 図星か?
 ヴォベルキードは口ごもってしまった。
 そして、ガソゴソっという音が天から聞こえたかと思うと、ディスプレイの電源が落とされたような、プシューンっという音を最後に天から何も聞こえなくなってしまった。
 完全に逃げたのだ。言葉に詰まって逃げたのだ。
「ファックユー!」
 モニカの怒りの叫びが天まで木霊した。
 だが、実際にファックされてしまっているのはモニカだった。
 7人の坑夫に体中をまさぐられ、胸をもみくちゃにされ、秘所に弾丸を撃たれ続ける。
 雄臭にまみれながら、もっと濃い雄を口の中に押し込まれる。
 ゴツゴツした坑夫の手に触れられるたびに、身体が跳ね上がってしまう。
 乱暴にされてるのに感じてしまう。いや、乱暴にされているから感じてしまうのかもしれない。
 気の強さとは裏腹に、無理矢理されることにモニカは快感を覚えていた。
 両方の乳首が痛いほど吸われている。
「そんなに強く……ヒィッ……痛い……もっと……強く吸って!」
 このまま強く吸われ続けたら、形が変わってしまうのではないか、それほどまでに強く吸われながら、モニカは歓喜して感じているのだ。
 もう何度ナカに注がれただろうか。
 モノが抜かれると、ナカからたっぷりの白汁が溢れ出してくる。
 そして、また別のモノが突っ込まれるのだ。
 モニカは自ら腰を振っていた。自分の意思でありながら自分の意思ではない。腰が自然と動いてしまうのだ。
 全身の至るところから快感が走る。
 小人の数は7人でも、手や口やアレの数を合わせれば、モニカの身体は快感で埋め尽くされてしまう。
「すごひ……狂っちゃう……アタシ頭がおかしくなっちゃうぅ!」
 痙攣が止まらない。
 やがて頭の中が白濁し、意識が飛ぶ。
 だが、すぐに快感で目覚め身体に鞭が打たれる。
 身体は限界だというのに、感じ続けてしまう。
 苦痛と快楽が交差する。
 倒錯によって苦痛すらも快楽のように感じてしまう。
「んぁぁぁぁっ! ひぐっ……ひぐぅぅぅっ!!」
 肌に触れられただけなのに、それだけでイッてしまう。
 叫んで大きく開けたモニカの口腔にどぷどぷと白濁液が注がれる。ほとんどが入りきらず、だらしなく口から垂れ流される。
 白濁液を垂れ流していたのは口だけではなかった。拡張されて元に戻らずぽっかりと開いたままのケツからもどろりと垂れる。
 咥えられる場所は三カ所しかない。なのに小人は7人もいるのだ。順番待ちに耐えられなくなった小人たちが強行に打って出た。
 穴の中に1本だけでなく、2本3本と挿れて来ようとしたのだ。
「無理……避ける……壊れちゃう……うぐっ」
 口の中にも2本挿れられそうになる。1本ですら太くてきついのに、2本なんてゴッツイ男の拳を口の中に入れられるようなものだ。顎が砕けてしまいそうだ。
 しかし、口の中に2本は無理だった。
 ケツも無理だったらしく、残った穴にはかろうじて入りはしたが、動かすことはできなかったようだ。
 苛立つ小人たちはところ構わず突っ込んで来ようとした。
 穴ならどこでもいい。
 鼻の穴、耳の穴にヌメヌメした海綿体が擦りつけられる。
 卑猥なヌチャヌチャという音が大音量で聞こえる。
 鼻を犯していた先端が動きを止めた。
 目を剥くモニカ。
 次の瞬間、鼻の中へ大量の雄汁が注ぎ込まれた。
 息ができない。
 ただですら口を巨大なモノで塞がれているのに、鼻まで塞がれたら窒息死してしまう。
 咳き込もうにも口から漏れるのは嗚咽だけ。
 鼻からは鼻水よりもさらに濃くてどろっとした白濁液が噴き出される。それでも鼻腔にこびりついた雄汁は取れなかった。
 苦しくて頭が真っ白になって、今にも死にそうだというのに、身体は感じ続けている。
 まだ犯され続けている。
「ぐがっ……ぐぐ……ふぐ……ううっ」
 毛穴を含めた穴という穴から汁が噴き出す。
 涙が止まらない。
 身体のどこにも力が入らない。
 どこに注がれているのか、どこにぶっかけられているのかもわからない。
 音もよく聞こえない。
 臭いも感じなくなってしまった。
 なのにイクときは勝手に力が入って、深い絶頂に呑まれてしまう。
「ウヒィィィィィッ!」
 もはや人とは思えない絶叫。
 世界が黒く落ちた。
 ついに意識を完全に失ったモニカ。
 しかし、小人たちは貪り犯し続ける。
 気絶していようと、そんなこと構わないのだろう。
 そこに女の肉があり続ける限り、欲という腹を満たすために貪り喰うのだ。
 天から声が聞こえた。
「ヒャハハハハハ、ざまぁ見ろメス豚が。神である俺様に楯突くからだ。楯突かなくてもたっぷり犯してやったがな。これかもだ、死なない程度にずっとこの世界で犯し続けてやるぜ、ヒャーッハハハハッ!」
 下卑た笑い声が空を覆うようにどこまでも木霊した。

《2》

 かったるい授業も終わり――と言っても、授業中はずっとマンガを読んでいた華艶は、放課後になって図書館を訪れた。
「マンガ返しに来ましたーっと」
 何十冊にも及ぶマンガ本をカウンターにドスンと置いた。
 このカウンターに図書館のお姉さんこと、司書の神宮司モニカがいることは稀だ。だいたい奥の部屋で本を読み漁っている。
 奥の部屋にいてもすぐ来館者がわかるように、部屋の側面は硝子張りになっていて、カウンターが見渡せるようになっている。逆に言えばカウンターからも奥の部屋を見ることができる。
「いない?」
 華艶はカウンターから身を乗り出して奥の部屋を見るが、人影はない。
 生徒の間でモニカが仕事熱心じゃないのは知れ渡っている。が、奥の部屋から出てサボっているのではなく、奥の部屋で悠々自適に時間を過ごしているのだ。そのため、奥の部屋にいないことは稀なのだが?
 カウンターには呼び鈴もある。奥の部屋にいなければ無意味だが、とりあえず華艶は押してみる。
 1度押したくらいじゃ気づかれないことがあるのも、生徒の間では知れ渡っている。
 2度、3度と華艶は呼び鈴を押してみたが、やはり反応がない。
 たとえ部屋の奥にいたとしても、時折こういうことがある。そういうときは部屋まで押しかけるしかない。
 ドアを開け華艶は奥の部屋に乗り込んだ。
 やはりいない。
 しかし、華艶は微弱な気配を感じた。
 嫌な感じ。
 肌に纏わり付くような不快さがこの部屋にはある。
 それから臭いだ。
 生ゴミが腐ったような異臭が微かにしている。
 華艶の直感はこれが事件だと訴えていた。
 ――が、
「うん、気づかなかったことにしよう!」
 巻き込まれるのがごめんだった。
 学校とオフと仕事の3つは分けることにしている。
 それに基本的にタダ働きはしない主義だ。
 そんな主義を持っている華艶だが、それと好奇心は別問題だった。
 たしかにタダ働きもしないし、事件に巻き込まれるのも嫌に違いないが、目の前で何かが起きているのを放置したら、気になって今夜も眠れなくなって夜遊びに走ってしまう。
「それはイカンイカン」
 オッサンみたく言って、華艶はとりあえず事件のさわりくらいは調べようと思った。
「題して美人司書失踪事件……自分で言ったのもなんだけどセンスない。サブタイも考えよう……異臭漂う司書室、巨乳も揺れれば学園も揺れる、生徒たちを震撼させる凶悪犯罪! 密室じゃない部屋から跡形もなく消えた失踪トリックの謎を解け!」
 言い終えてからしばらく無言で立ち尽くす華艶。
 そして、再び動き出し時にはなかったことにされていた。
「アレー、おかしいナー、どーして図書館のお姉さんがいないんダロー」
 棒読み。しかも展開が巻き戻し。
 さっそく部屋を調べはじめる華艶。
 この部屋に残されているのは微弱の嫌な感じと異臭。
 そして、読みかけの本。
 首を傾げる華艶。
 見開かれた本はその半分のページが白紙で、残りの半分には絵が描かれていた。
「エロ本?」
 そこに描かれている絵は肉欲的なお姉さんが、7人の男たちに犯されている絵だった。
「……あれ」
 何かが頭に引っかかる。
 華艶は本に顔を寄せてそこに描かれたお姉さんをマジマジと観察した。
「どこかで……って、もしかしてモニカさん?」
 見れば見るほど似ている。
 そこで恥辱されている女の絵は、神宮司モニカに瓜二つだった。
「あー、なんかただの失踪じゃなくて、もっと厄介なことになってるぽい」
 この本と神宮司モニカ失踪の因果関係は、結びつけない方が不自然だ。
「1、本の中に閉じ込められた。この絵は本の中でモニカさんが体験してること」
 さらに続けて、
「2、本の中じゃないにしても、どこかでこの絵と同じ体験をしていて、それが絵になった投影されている」
 最後にもう1つ、
「3、モニカさんが自分の願望を絵にした。そして別に失踪なんてしてないで、ちょっと出掛けているだけ」
 できれば3であって欲しいのが華艶の切なる願いだ。
「うん、とりあえずセンセーに連絡だけしよう。それがあたしにできる〝精一杯〟のことだもんね!」
 本当はもっとできることがあると言わんばかりの強調。でもしたくない、みたいな。
「本はそのままにして、とりあえず職員室に行こっと」
 クルッと半回転した華艶は背中に迫る気配を感じた。
 完全に華艶のミスだった。
 それが何であるかわからないうちから警戒を解いてしまったのだから。
 華艶は巨大な手によって胴体を掴まれ本の中へ引きずられそうになった。
「ウソっ、マジ!?」
 華艶の最大の武器は火炎。
 見渡せなくてもそこは本だらけ。机の上にも、壁際の本棚にも、部屋を出れば図書館でもっといっぱいの本がある。
「とってもよく燃えそう♪」
 苦笑する火炎。
「って、命と本……違う、命と金のどっちが、どっちも大事。ここの図書館レア本も多いし、噂によるとお金じゃ買えない本も隠してあるって言うし。てゆか、本に引火して燃え広がったら学園も火の海になるし!」
 どうする華艶!?
 ジリジリと華艶は本の中へ引きずり込まれようとしている。足を踏ん張るが、徐々に床を滑っている。少しでも足を浮かせた瞬間、その先はあっという間だろう。
 自分の胴を掴んでいる巨大な手は、大きさに見合った馬鹿力で、外そうにも外れない。
 華艶は意を決した。
 もしここで本の中に引きずり込まれても死ぬことはないだろう。それは本に描かれた絵を見れば推測できる。ただし、ああならないための自己防衛は必要になってくるだろう。
「自分で乗っちゃった船だし」
 ふっと華艶は足を浮かせた。
 一瞬にして華艶が本の中へ呑み込まれたのだった。
 自分から呑み込まれたこともあって、華艶は見事に地面……がない!
 足下にあったのは大海原だった。これでは着地なんかできない、着水だ。
 ジャポーン!
 水しぶきを上げながら華艶は海に沈んだ。
「うっぷ……げふっ!」
 口の中に塩水が入った。
 服がズブ濡れになり、パンツの中まで濡れ濡れだ。
 しかし、そんなことなど構ってはいられない。
 目の前には高波が迫っていたのだ。
 頭から覆い被さってくる波。
 必死に藻掻く華艶。
 泳ぐことはおろか浮くことさえ困難だった。
 さらに服が水を吸ってさらに水泳を困難にしていた。
「ごふっ……マジ……死ぬ……」
 次の波が華艶を呑み込んだ。
 足下に見える海面がキラキラと光っていた。
 波に揉まれ身体が回転する。
 さすがに死を覚悟して安らかに沈もうとしていたのだが、その気が変わった。
 華艶の瞳に映った黒い影。
「……ザベェ!!(サメ!?)」
 思わず空気を吐き出してしまった。状況悪化。
 黒い影は尾びれを動かしながら華艶に迫ってくる。
 窒息の上に生きたまま喰われるなんて、サイテー以外の何物でもない。
 生きる活力が突然漲った華艶は海面に向かって泳ぎ出す。
 が、息が持たない。
 苦しい……苦しくて……意識が飛びそうだ。
 華艶は足下に迫ってくる影を見た。
 そして、ぎょっとした。
「ドゥンボォォォォ!!(人魚ォ!!)
 たしかにそれはヒトの形をしているような気がするが、意識が朦朧としてたしかなことはわからなかった。
 次の瞬間には華艶の意識は完全にブラックアウトしてた。

 なにやら辺りが騒がしい。
 まるで近所でお祭りをやっているような歌え踊れの大騒ぎのような……。
 でも、なにを言っているのかまったくわからない。
 ポタッと落ちた雫がおでこで弾け、華艶はゆっくりと目を開いた。
 洞窟の天井。
 海草で縛られた自分の足首。ついでに手首も縛られてしまっているようだった。
 台座の上に載せられ、周りでは円を描いて不気味な影が踊っていた。
「人魚……の逆……」
 最後に見た光景を思い出し、すっかり人魚に助けられたものだと思ったのだが、どうやらちょっと違ったらしい。
 人魚の逆――つまり魚人というわけだ。
 縛られている状況を考えるとあまり良いとは言えない。
 とりあえず状況を見守っていると、二人?の魚人がこちらに近付いてくる。
 顔はまさに魚そのもの。そこから繋がる身体は爬虫類や両生類を二足歩行させた感じだ。足や手にはヒレがついており、両足を閉じて泳げば魚の尾に早変わりってとこだろう。
 魚人たちは口をくぱくぱさせて何を言っている。まるでシャボン玉が弾けるような声で、何を言っているのかよくわからない。
 突然、洞窟の中にスピーカーを通したような大声が響き渡った。
《我が名はヴォベルキード。魚人の言葉がわからずお困りのようだな。神である俺様が世界を造り替えてやろう!》
 もちろん華艶はヴォベルキードのことなど知る由もない。
 華艶が唖然としていると魚人がいきなり日本語で話しはじめた。
「というわけでありまして、魚人王子が溺れかかっていたあなたを助けたわけでございます」
 オッサンぽい声の魚人がそう言った。よく見ると隣にいる魚人は、真珠や珊瑚で着飾っている。きっとこっちが魚人王子だろう。
 華艶が魚人王子に顔を向けると、彼?は顔を赤らめ視線を外した。
 ま・さ・か、恥じらっているのか?
 そう考えると華艶はゾッとした。
 さらに次のオッサン魚人の発言で疑惑は確証へと変わる。
「魚人王子はあなたに一目惚れをしたそうで、ぜひ結婚したいと申しております」
 ぎょっと眼を剥きながら華艶が魚人王子を見ると、彼はギザギザの歯を覗かせ笑うと、すぐにまた顔を赤らめ視線を外してしまった。
 さらに華艶はあるモノを見て青ざめ現実逃避しかけた。
 魚人王子の腹にある筒っぽいナニかが、ぴょんぴょんと跳ねるように動いている。明らかに人間のソレとは形状が異なっているが、たぶんナニだ。
 急に魚人王子が興奮して暴れ出した。
「ウォォォォォン!」
「王子、王子、おやめください!」
 慌ててオッサン魚人が止めに入ったが、すでに遅かった。
 太いホースのようなナニから、白色のレーザービームが発射された。
 信じられない量だった。まるで生クリームの放水を全身に浴びているようだ。
 全身をドロドロにされた華艶がボソッと。
「……妊娠しそう」
 ぶっかけられただけだというのに、妊娠しちゃうかもと思わせるほどの量だった。
 しかし、本当に妊娠したと思うと……。
「うぇぇっ!」
 華艶は想像してしまった。魚人と人間を足して2で割ったらどんなクリーチャーが生まれてくるか。しかも自分似の。
 相手に悪意はないようだが、これは逃げなきゃマズイ。
 華艶は手足を縛られ芋虫状態で逃げようとした。そんな跳ねる姿が同族に見えたのか、魚人王子はさらに興奮して、四つ這いの華艶に覆い被さってきた。
 再びホースのナニから白濁液が発射された。
 しかも運が悪いことにナニはスカートの中だった。
 ドビュビュビュビュビュビュ!!
 水圧の連続刺激が華艶の股間に直撃した。
「あうっ!」
 思わず鼻から声が漏れてしまった。
 気持ちいい、気持ちいいけど酷い自己嫌悪に陥る。
 魚に犯されてるだけでも人には言えない秘密なのに、感じてしまったなんて墓場まで持って行くしかない。
「ひぃっ、あふあ!」
 また声が出てしまった。
 ホースからの発射も続いている。
 ショーツの中に染みてくる。
 魚人の子種が突撃してくるのだ。
 想像するだけで死にたくなるのに、身体は気持ちよさに嘘がつけない。
 振動の強いバイブで刺激されているような快感。
「んっ……んんん……うん……あっ!」
 このままではイかされてしまう――魚人のちんぽで!!
 そんなことは絶対にあってはならないと華艶は逃走を図るが、すでに足は快感でまともに動かない。やっとの思いで動かしても、足下はドロドロで滑って自由を奪われる。
 魚人に犯されるという常識を逸脱した状況で、すっかり思考が振り切れてしまっていた華艶だったが、ふと我に返った。
 すぐに華艶は身体を回転されて仰向けになると……さらに刺激がピンポイントでヒットした。
「あン!」
 なんて快感に浸っているわけにもいかず、華艶はすぐさま全神経を集中させた。
「爆烈火![バクレッカ]」
 華艶の身体を中心にして炎の小爆発が起き、上に乗っていた魚人王子が吹っ飛ばされた。
 魚の焼ける良い匂いも、今は食欲を掻き立てられるどこか減退させる。
 丸焼けかと思われた魚人王子だったが、どうやら生焼けだったらしくのたうち回って藻掻いている。
 突然、洞窟内に怒号が響いた。
《炎術士だったのか!? そいつは危険だ殺せ、今すぐ殺すんだ!》
 それはヴォベルキードの声だった。
 魚人たちが華艶に襲い掛かってくる。
 だが、もう華艶の敵ではない。
 全身から放出した炎で手足を拘束していた縄も灰と化した。ただ問題があるとしたら、素っ裸なことだ。
「炎翔破![エンショウハ]」
 華艶の手から繰り出された炎の玉が翔る。
 魚人が燃え上がる。
 が、一匹始末したところで、洞窟の奥からはワラワラと沸いてくる。
「ダブル炎翔破!」
 両手から2つの炎玉[エンギョク]が飛ばされた。
 さらに続けて、
「4は……ええい、よっつ炎翔破!」
 両手から2つずつ立て続けに炎玉が飛ばされた。
 ちなみにダブル・トリプルの次はクアドラプルだったりする。
 まだまだ魚人軍団の数は減らない。
 このまま戦い続ければ華艶は勝てる自信があった。でも、勝負に負けて試合に勝つ気がした。このまま魚人を丸焼きにし続けたら、これから一生魚が食べられなくなりそうなトラウマを抱えそうだった。
 こういうときの戦法はこれに限る。
「逃げるが勝ち!」
 逃走を図った華艶だったが、突然地面から壁がせり上がり、道が塞がれてしまった。
 唖然とする華艶の耳にまたあの声が届く。
《ヒャハハハ、俺様はこの世界の神だ。いくらでも自由に造り替えることができるのだ!》
 顔の見えない相手に華艶はイライラした。
「キーキーうっさい。神だかなんか知んないけど、なんでも自由になんだったら今すぐあたしの心臓止めたらいいでしょ!」
 挑発して華艶はハッとした。マジで止められたら最悪どころじゃない。
 が、いっこうに華艶の心臓は止まる気配を見せなかった。
 なぜか黙ってしまったヴォベルキード。
 華艶は再びハッとした。
「できないんでしょあんた!!」
《……うっ》
 図星か?
 この世界の神を自称して、地形を瞬く間に変えて見せても、できないこととできることがあるのだ。一見して全知全能に思えても、ルールに縛られるのが摂理。相変わらず魚人たちが華艶に襲い掛かるの見れば、それが華艶を殺せる手段なのだろう。
 背中はさっき現れた壁。目の前から魚人の軍勢。もう殺るしかないだろう。
「寿司……もう無理かな……。爆炎![バクエン]」
 火山が怒るように、いくつもの炎の塊が華艶の手から放たれ、さらにそれは宙で弾け飛んで拡散して爆発した。
 炎の特大霰を喰らった魚人たちがのたうち回る。やはり火に弱いのか、ピチピチと暴れ狂っている。
 そして、やっぱり漂ってきた焼き魚の香ばしい匂い。
 でも目の前で繰り広げられているのは、生焼け魚人たちがのたうち回る地獄絵図。
 奇声が洞窟に木霊する。
 蒼ざめる華艶。
「……うっぷ」
 やっぱりトラウマになりそうだ。

《3》

 天を突く巨塔。
 その最上階で7人の坑夫に恥辱され続けるモニカ。
 執拗な責めの連続。
「ひぃ……ひっ……ひぃぃぃぃ」
 白濁液の海に沈む躰。
 滲む視界の先には背を向けた小柄な少年のような悪鬼の姿があった。腰布だけを巻いた姿で、体つきは人間に似ているが、肌の色は紫で骨格はゴツゴツしていた。
「くそぉ~炎術士めぇ~~~!」
 セミの鳴いているような甲高い声。
「俺様は神だ、この世界の神なんだぞ!」
 この口調は……ヴォベルキード?
 モニカはさらに屈辱を覚えた。
 こんなガキのデビルにいいようにされて、手籠めにされてアンアンよがるなんてプライドがズタズタだ。
 しかも、どうやらコイツは本に取り憑いたブックデビルらしい。
 書を司る司書が書に支配されるなんて、魔導書を扱う司書として失格だ。
 絶対にこの事件は隠蔽しなければならない!
 ふとモニカが気づくと、7人の坑夫たちがまるで石像のように動きを止めていた。
 相手の正体を把握しはじめているモニカにはすぐわかった。おそらくヴォベルキードはほかのことに集中しているのだ。この世界は自分の物だなんて大口を叩いていても、世界を常に監視して動かすことは不可能なのだろう。
「やっぱり低級ってことね!」
 隙を突いてモニカはヴォベルキードに飛び掛かった。
 すぐに気づいたヴォベルキードは振り返るが、身構えることすらできない。
 モニカが叫ぶ。
「アンタのケツ穴を拳でファックしてやんよ!」
「メス豚めーッ!」
 鬼の形相でヴォベルキードは雄叫びをあげた。

《メス豚めーッ!》
 洞窟に響き渡ったヴォベルキードの怒声。
 すぐさま華艶は言い返した。
「豚はあんたでしょ!!」
《ゴベバッ!》
 謎の奇声が聞こえた。
 何が起こったのかわからず、華艶は呆然としてしまった。
 向こうからの反応がなくなった。
 今まで戦っていた岩巨人たちも動きを止めてしまっている。
 魚人を焼いたあと、この岩巨人たちが現れて華艶は苦戦を強いられた。華艶の身体能力は常人よりは良いとしても人間レベル。炎の効かない相手には歯が立たない。
 そんな絶体絶命な展開だったのだが、なんだか知らないが岩巨人が動きを止めた。
「……なんだか知らないけど、ラッキー」
 小さく呟いて華艶は駆けだした。
 洞窟を抜けると、そこは真っ白な空間だった。後ろを振り向くと、そこには洞窟なんて存在しなかったかのように、跡形もなく消えていた。
「どこまでも白い空間……酔ってくるし」
 もしかしたら状況が悪化したかもしれない。
 本当に何もない白い空間に放り出されてしまった。歩き続けて何かが見つかる可能生はなんとも言えない。むしろ華艶は低いと思っていた。
 白い世界――つまり本の白紙を意味しているのではないかと華艶は考えたのだ。
「……ヤバイじゃん!」
 そんな声も白い世界に呑み込まれていってしまった。
 とりあえず華艶は目をつぶった。こんな白だけの世界を眺めていたら気が狂いそうだ。
 手詰まりの状況では、相手の出方を待ったほうが良さそうだ。
 しばらくじっとしていると、天から声が響いてきた。
《手こずらせ……もう…・・ぞ!》
《ファックユー!》
 二人の声だ。一つ目はヴォベルキード。二つ目の女性の声に華艶は聞き覚えがあったし、状況的にモニカしかいない。
「あーやっぱ、モニカさんこの世界にいるんだ。しかもベーコンエッグと」
 ベーコンエッグではなく、本当はヴォベルキードと言いたかったに違いない。耳慣れない言葉は覚えづらいと言っても、ひと文字も合っていないのひどい。
 また天から声が聞こえてきた。
《この短小ち…ぽ野郎!》
《んだと……肉…所女!》
《チ…カスがここまで臭ってくるんだよ!》
《そっちこそマ…カスがプンプンするぜ!》
 目をつぶって二人の会話を聞いていた華艶は自然と溜息が漏れていた。
 低レベル過ぎる。
 禁句ワードを覚えたばかりのガキか……。
 情けない、仮にも司書と名乗る者が使うボキャブラリーじゃない。
 思わず華艶は口を挟んでしまった。
「あのぉ~、お二人さん?」
 たぶんこの時ふたりはハッとして華艶の声に気づいたに違いない。だが、今は華艶のことなど二の次だった。
 再びヴォベルキードの声が聞こえてくる。
《うるさい取り込み中だメス豚!》
《そうよ、誰だか知らないけど邪魔しないでくれるアバズレ!》
 酷い言われようだが、今は呆れが先行して怒る気にもなれない。冷静な華艶はワザと茶化してみることにした。
「え~っと、2年A組の火斑華艶ですけどー。マンガ返しに来ましたー」
《…………ッ!?》
 なんだか言葉に詰まったのが雰囲気で伝わってきた。
 そして、慌てた裏返った声が返ってくる。
《あ、華艶ちゃん!? ファックにしてる? そうそう、マンガ返しに来たんだっけ、テキトーにカウンターに置いといて》
「いえ、あの……あたしも同じ世界にいるんですけど」
《オゥーッファック!!》
 衝撃的だったらしい。
 モニカはこの事件を隠蔽する気だった。それが華艶に知られるところになってしまったのだ。悠々自適な司書生命が危うい。
 ヴォベルキードの声が聞こえる。
《感じすぎて動けなくなったか全身クリ…リス!》
 なんだか電波状況が悪いのか、肝心なところの音声がいつも途切れる。
《ファックファックファックファックファックファック!!》
 だが1秒間に6回ものファックはハッキリ聞こえてしまった。もう身も心もズダズダにファックされた陰鬱な気分になる。
 教師じゃないにしても、あんなのが学校関係者で本当にいいのかと、今さらながら華艶は思った。
 いったい向う側で何が行われているのか、華艶は音でしかそれを知ることができない。本当に音だけに頼るなら、ファックが行われているのだろう。
《ゴベバッ!》
 謎の奇声が聞こえた直後、華艶は重力の変化を感じた。
 まるで躰が左右に引っ張られる感覚。
 目を開けると、引き延ばされたような景色。まるで早送りのように世界が流れていた。
 急に世界の動きが止まり、華艶はバランスを崩して片足を浮かせた。
「おうっと」
 短く漏らして大地に両足をつける。
 視線の先には巨大な塔。
 天を突く塔は茨に包まれ、来る者を拒んでいるかのようだった。
 華艶は慎重に塔へと近付いた。
 塔にも茨にも動きはない。
 ただし、茨は門まで覆い隠し、これをどうにかしなければ中へは入れそうもなかった。
 ここで華艶は立ち止まって考える。
「中に入る必用あんの?」
 それは一理ある。中に何があるかわからない状況で、無意味に足を踏み入れる必用もあるまい。ただ現状、ほかにやることがないのも事実。
「昔から高いとこ好きだし、登るだけ登ってみーっよおっと!」
 なんだかかる~いノリだった。というのも、敵の正体がどうやらど~しょーもないらしいことに気づいたからだ。もっと緊迫した雰囲気だったら華艶も真面目にやるが、あの罵り合いを聞いた限りは軽いノリで平気そうだ。
「炎翔破![エンショウハ]」
 一瞬にして燃え尽くされる茨。
「はい、炎で燃やして楽勝っと♪」
 炎はついでに頑丈そうな木製の扉も燃やしていた。
 焦げてもろくなった扉を蹴りでぶち壊し、華艶は塔の中へと侵入した。
 螺旋階段が遙か天井まで伸びている。登るのに一苦労しそうだ。
 ハイキング気分で螺旋階段を登りはじめる華艶。
 急ぐ気もなく鼻唄交りに階段を登り続ける。音はよく響くせいで、それなりの鼻歌に聞こえるが、実はかなりの音痴だった。
 階段の中腹まで来て華艶は下を覗き込んだ。吹き抜けになっている階段は、足を踏み外せば真っ逆さまだ。ある程度の高さなら華艶は許容範囲だが、そろそろ危ない高さになってきた。階数にして10階くらいか。
 しばらく足を止めていた華艶の耳に、淫猥な声が響いてきた。
「ひぃぃぃぃあああああン!!」
 塔の上から聞こえた。
 急に表情を硬くして華艶が全速力で階段を登りはじめた。
 目が回る螺旋階段。
 まるで同じ場所を延々と進んでいる錯覚に陥る。
「まだ着かないの!」
 華艶は叱咤しながら先を急いだ。
 天井が急速に迫ってくる。
 そして、ついに華艶は最上階へと到達したのだ。
「ファックミー!!」
 性欲に狂った女の叫び。
 7人の坑夫に犯されるモニカ。
 そして、下卑た笑いを浮かべるヴォベルキード。
「俺様がこのメス豚に気を取られてる間にここまで来やがったか」
 すぐ背後でモニカが白濁液に溺れよがっている。
 華艶は目を伏せた。その拳は震えている。
「モニカさんのこと放してくんない?」
「ヒャハハハハ、そう言うなよ。あのメス豚は自分で腰振って楽しんでんだぜ。おまえも一緒に混ざってブンブン腰を振れよ」
「混ざりたいならあんたが混ざれば? あ、そっか短小だから恥ずかしくてロクにセックスもできないんだっけ?」
「なんだとアバズレ!」
 ヴォベルキードが華艶を指差すと、手の空いていた小人が華艶に襲い掛かってきた。
 華艶は目を伏せたまま。
「……なんかこういうの目の当たりにすると、ほんっとムカツクよね」
 飛び掛かってきた小人の顔面を鷲掴みして華艶は、
「紅蓮掌![グレンショウ]」
 手のひらから噴出した地獄の業火が刹那に小人を灰に還した。
 ヴォベルキードは怯えていた。後退り、冷たい汗を全身から流す。脳裏にちらつく地獄の業火にヴォベルキードは心底恐怖した。
「ま、待て……俺様が悪かった。俺様はしがない低級淫魔だ。ちょっと粋がってみただけなんだ。そのメス豚……じゃなかった、女は解放するから、命だけは助けてくれよぉ~」
「ふ~ん、で?」
 冷たく華艶はあしらった。
 しかし、ヴォベルキードは一変して笑っていた。
「チッ、血も涙もねぇメス豚だな。オイオイ、わかってんだろうな、あのメス豚が人質だってこと?」
「…………ッ!?」
 華艶は絶句した。
 怒りのあまり失念していた。
 モニカはただ恥辱を受けている快楽の捌け口ではない。奴にとっては人質としての重要な意味もあるのだ。
 華艶の目の前で犯され続けるモニカ。表情は快楽で彩られ、自ら腰を振って男を受け入れている。たとえそうだとしても、誘惑に負けた人の心が本当に望んでいることなのだろうか?
 わからない。
 華艶にはわからなかったが、目の前で同性が恥辱を受けているのを、怒りや悲しみを覚えずに見ていることはできなかった。
 身動きも出来ず歯を食いしばる華艶にヴォベルキードが躙り寄ってくる。
「わかってるだろうな、こっちには人質がいるんだぞ?」
 華艶は返事をしなかったが、十分わかっている。
 枯れた皮と骨の手でヴォベルキードが華艶の胸をまさぐった。
「かわいい胸してんな。ちっこくて揉んでるのにどこ行ったかわかんねーよ」
 華艶は顔を背けながら何も言わなかった。
 図に乗るヴォベルキードはさらに華艶の秘所へと手を伸ばした。
「ぜんぜん濡れてねーじゃねえか。今から俺様のおちんぽ様を咥えんだ、しっかり濡らしておけよな」
 肉芽を弄られ、花から蜜が溢れてきた。
 華艶の躰が熱気を帯びる。
 火照り震える肌。
 黄色い歯を見せヴォベルキードが嗤う。
「怒った顔して濡らしてんじゃねーよ。感じてるならもっと色っぽい顔しろよな!」
 華艶はなにも言わない。
 ヴォベルキードは自らの腰布を剥ぎ捨て、親指ほどのモノを露わにした。しっかりとモノは立っている。やはり短小だ。
「短小短小ってバカにしてんじゃねーぞ。俺様は淫魔のエリート中のエリートだ、この世界の神は俺様なんだぞ!!」
 怒りにまかせてヴォベルキードは華艶を押し倒した。
 ヴォベルキードは覆い被さるような正常位で挿れようとしたが、短いためかうまく狙いが定まらず、荒々しく華艶の両太股を持ち上げM字開脚にさせ、やっとの思いで先っぽを挿れると、そこからは一気に突いて突いて突きまくった。
「どうだ、俺様のおちんぽ様の味はよォッ!」
 言葉は返さず華艶はヴォベルキードの背中に両腕を回し強く抱きしめると、さらに両足も腰に回して雁字搦めにした。
 ヴォベルキードは歓喜した。
「そうかそんなに俺様と一つになりたいのか!」
 一心不乱でヴォベルキードは腰を振った。
 ずっと顔を背けていた華艶が、ヴォベルキードと視線を合わせ微笑んだ。
「あんたバカでしょ?」
「なにぃ!?」
 刹那、二人を業火が包み込んだ。
「ギャァァァァァァッ!!」
 絶叫。
 華艶は炎のゆりかごの中で冷たい視線をヴォベルキードに送り続けた。
「カミサマが死んだら元も子もないでしょ?」
 その華艶の言葉の正しさを証明するかのように、小人たちはその動きを石像のように止めていた。
 華艶はゆっくり立ち上がり、哀れな雄が焼け死ぬ様を見下した。
「炎術士の女は怒りを子宮で感じんの、覚えといて」
 灰が舞い上がった。
 華艶はモニカの躰を抱きかかえた。
 すぐに小人たちや塔までも崩れて灰になる。
 自称神の世界はただの真っ白な紙の世界に還った。
 そして、灰と化す。

 司書室のソファで目を覚ましたモニカ。
「…………」
 机の上には灰になった魔導書。
「ファック!! アタシの魔導書がァァァァァァッ!!」
 学園の経費で落とした図書館の蔵書だ。
 ショックを受けたモニカが肩を落とし、部屋の隅に目を遣ると、そこには体育座りをした華艶がいた。
「マンガ返しに来ましたー」
「か、華艶ちゃん!?」
「あとマンガ返す代わりに服貸してもらえません?」
 と言われて、自らも素っ裸なことに気づいたモニカ。しかも、全身灰だらけだ。
 モニカは辺りを見回した。図書館のカウンターを見通せる窓はブラインドが下ろされている。この部屋には自分と華艶しかいない(共に素っ裸)。
「華艶ちゃん、今から緊急集会するわよ!」
「は?」
「とりあえず今回の事件のことは他言無用だから」
「はい?」
「でないとファックするわよファック!」
「あ、はい……」
「なにその気のない返事、ファックして欲しいわけ?」
「それはぁ……」
「ファックするわよ、ファックファック!」
 なんだかよくわからないが、その後小一時間ほど華艶はモニカのファックな会話に付き合わされることになった。
 モニカの叫び声は廊下まで木霊し、翌日美人司書が誰かとファックしていたとの噂が広がることになった。
 さらに廊下を素っ裸で走るモニカと華艶の姿が当日目撃されており、レズファック疑惑がこの先七十五日尾を引くことになるのだった。

 ブックエンド(完)


華艶乱舞専用掲示板【別窓】
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