第14話_月見合戦

《1》


 時代や地域を問わず、月はひとを魅了する。
 とくに満月には魔力があると信じられ、信仰の対象や犯罪率と結びつけれることもある。
 月はこれまで多くの伝説や物語などのモチーフになってきた。
 竹取物語のかぐや姫は、一五夜に月の世界に帰っていった。
 狼男はいつのころからか、満月を見るとヒトから狼男へと伝えられた。
 日本には陰暦の8月15日に当たる中秋の名月に、団子やススキなどを備えて月見をするという風習がある。実際にやっている家庭は少ないが、その時期になると『月見』という言葉を多く耳にする。もちろん帝都エデンにも残っている風習だ。
 そう――今宵は満月。
 鬱蒼と生い茂る森の中を駆ける少女。まるで小動物のような身の熟しで、月の木漏れ日を頼りに振り返らず逃げていた。
 暗闇の中に光る眼。飢えた獣の眼。ハンターの眼だ。
 その男は獰猛な肉食獣のような荒々しさを振りまきながら、森の中を逃げる少女を追っていた。
「きゃっ!」
 少女が木の根につまずいた。
 地面に倒れた少女を照らす月明かり。少女はなぜかバニーガールの衣装を着ていた。
 むちむちした肉を包み込む黒いレオタード。
 転んだ拍子に地面に手と膝を付き、突き出された尻を飾る愛らしい尻尾。
 脚を包む網タイツも堪らない。
 そして長いウサギの耳は――小刻みに動き、気配を探っていた!
 もう男はすぐそこに全裸で立っていた。
 逞しい体躯。
 股間の剛直は月を犯す言わんばかりに天へ向けられていた。
「もう逃がしはいないぞ。あまえの団子を喰らってやる!」
「我ら月兎団[ツキウサギダン]はお前らには屈しない。逃げて逃げて逃げ延びてやる!
「威勢は口だけだな。脚が震えているぞ」
 少女はまだ立てずにいた。立ち上がりたくとも、男の指摘通りに脚が増えてしまっている。
 荒い網に締め付けられたもも肉が誘っている。今すぐ網の間に指を入れ、ズタズタにタイツを裂きたい。
 涎を拭われた男の手の先で、爪が長く伸びはじめていた。
 近寄ってきた男が踏んだ小枝が折れた。
 少女は眼を見開く。
 すでに剛直だったにも関わらず、それが限界ではなかった。いや、限界だった――その姿では。
 男の筋肉が一回りも二回りも膨らみ、全身を獣の毛が覆いはじめた。
 少女の瞳に映る魔獣の姿。
 ぬらりとした肉の頭が、牡臭を放ちながら伸びてくる。
 先端が少女の頬に落ち着けられた。
 硬い、そして熱い。まるで鉄のバッドを熱したような硬さと熱さ。
「いやっ、やめて……そんなモノを挿入られたら……死んでしまう!」
 少女は濡らした。
 瞳から零れ落ちる涙。
 股間から垂れ流される尿。
「臭ぇしょんべんだ」
 そう言いながら男は鋭い牙を覗かせた。
 もうその姿は人間ではない。
 野性味溢れる筋肉質な躰を覆う長めの毛。醜く歪んだ顔は狗に似ている。
 兎を襲う狼。
 まさに狼男そのものであった。
 そして、少女もただの人間ではない。
 狼男が少女の頭から伸びた長いウサギのような耳を引っ張った。
「やめてっ、痛い、引っ張らないで!」
 それは飾り物などではなかった。少女の頭から生えているものなのだ。
「耳を引っ張られたくらいでうるせーんだよ。〈守り巫女〉になったくらいだ、俺たちに捕ま
ったらどうなるかわかってんだろう、あァ?」
 狼男は舌を長く伸ばして、少女の頬をねっとりと舐めた。
 乾いた唾液がすぐに臭くなる。肉だ、肉食獣の臭いだ。
 少女は最後の勇気を振り絞って逃げ出した。
 四つ足になった狼男が地面を蹴り上げて、少女の背中から襲い掛かった。
 地面に叩きつけられた少女。
 上に乗る狼男。
「狙った獲物は絶対に逃がさねえ。骨の髄までしゃぶりつくしてやるよ」
 少女は四つん這いにされ、胸をもげるほど乱暴に揉まれた。
 尖ってしまった少女の乳首に、狼男の鋭い爪が押し当てられる。
「きゃっ」
 まるで針で刺されたような痛み。
 それはまだ、女の感度を調べる為の小さな痛みに過ぎなかった。
 狼男の手が乳房を鷲掴みにした。
「ああああっ!!」
 少女の悲鳴が森に木霊した。
 柔らかな肉に突き立てられた鋭い爪。ゆっくりと爪が抜かれると、五つの穴から血が滲み出
してきた。
 滴る血は重力に引っ張られる脂肪の丘を伝わり、尖った鴇色の小さな実を紅く染め、滲み出
る乳汁のようにポタポタと地面に零れた。
 雄々しい肉棒が割れ目を擦る。確実に先ほどよりも大きく太くなっている。
「血の臭いだ、最高にハイになってきたぜ!」
 狼男は物のように少女をひっくり返した。
 地面に尻を付けながら少女は膝と膝を合わせて固く脚を閉じた。肉の割れ目も閉じられてい
るが、尿の臭いがまだ残っている。
 肉の臭い。
 血の臭い。
 尿の臭い。
 獣の臭い。
 野生の臭いが混ざり合う。
 少女の脚が狼男によって無理矢理こじ開けられる。
 閉じよう閉じようと抗う少女。
 狼男はその行程すら愉しんでいた。野獣の手に掛かれば、少女など力尽くどうとでもなる。
にも関わらず、徐々に徐々に脚を開いていくのだ。
「その恐怖に歪んだ顔が堪んねえな。震えるその唇にしゃぶりついてやろうか?」
 それは質問ではない。予告だ。
 狼男は一気に少女の脚を開き覆い被さると、勢いを殺さずに柔いふっくらとした唇にしゃぶ
りついた。
 少女の口腔に流れ込んでくる唾液。
 口の中が牡の分泌液で犯されている。
 狼男の舌は少女の顔中を舐め回す。
 臭い唾液と息でも犯されている。
 さらに狼男の舌は顎を通り首へ伸ばされた。
 このまま全身を舐められたら、牡の臭いがたっぷり染みこんだ牝肉になってしまう。
 狼男は少女の耳の後ろ辺りを嗅いだ。
「淫乱そうな女の臭いだ」
「うそっ、そんなのうそっ!」
「こっちはどうかな」
 舌を這わせながら狼男は少女の腋に鼻を埋めた。
「うおっ、強烈な臭いだ。すげえ臭ぇ、臭くて堪んねえな」
「やめてそんなところに臭い嗅がないで!」
「ここより臭いとこがあるぜ。ずっとぷんぷん臭っていて鼻が可笑しくなりそうだ」
 狼男の手が少女の股間へ。
「やめて、触らないで……ああっ、痛い!」
 包皮を向かれた肉芽が乱暴に擦られる。敏感な部分だ。強い快感をもたらすこともあるが、
無理矢理擦られれば痛みもそれだけ強い。
「痛いっ、痛ひぃぃぃぃ!」
「よかったな、もっと痛がっていいんだぜ!」
 狼男は少女の股間をまさぐりながら、血で穢された乳房をしゃぶった。
 口の中に広がる血の味で、狼男はさらなる興奮を覚えた。
「まだだ、まだ俺のファロスは限界に達していない!」
 狼男は自らを高めているのだ。
 ファロスとは古代ギリシャ語で勃起した陰茎を意味する言葉。ファロス、あるいはファルス
は芸術的な分野で多く見られ、陰茎形のオブジェを指す言葉にもなっている。
 狼男は興奮を高めることによって、最高の太さ、大きさ、硬さに達したとき、女の道はこじ
開けるつもりなのだ。
 そうしなければならない理由。
 そうしなければ破れない力がそこにはあるのだ。
 しかし、本能がそれを邪魔する。
 狼男は限界だった。
 女の肉を目の前にして、臭いを散々かがされ、理性では制御仕切れないところまできてい
た。
「もう我慢ならねえ。喰ってやる喰ってやる、内臓を引きずり出して喰ってやる!」
「いやっ、やめて……殺さないで、中ならいくらでも犯していいから、それだけは、それだけ
はイヤーッ!」
 狼男の口から垂れた涎が、少女の腹にどっぷりと落ちた。
 獣の咆吼!
 ブシャァァァッ!!
 鋭い牙に噛み付かれた女の腹が血を噴いた!
「ギャアアアアアッ!」
 肉が引き千切られる。
 乳房も持っていかれた。
 生きたまま喰われる恐怖。
 欲望に負けた狼男だったが、急に我に返った。
「糞ッ、しまった……死ぬ前に早くブチ込んでやらねえと!」
 肉棒を秘裂にあてがい、秘奥まで一気に突き刺そうとしたときだった。
 気配だ!
「興奮しててぜんぜん気づかなかった……糞野郎どこにいやがる!」
 木の陰から学生服姿の少女が顔を見せた。
 月明かりに照らされたその顔は――華艶だ!
「その子からすぐ離れないとヌッコロス。離れなくても、女の子にそんな酷いことする野郎は
人間だと怪物だろうと容赦しないけど」
「キサマ何者だ、なんでこんな場所にいるんだ答えろ!」
「……それは飲み会の帰りに、近道だと思って森を抜けようとしたら、ぜんぜん近道じゃなく
て迷ったみたな」
「そんなウソを通用するか! おまえのことは今すぐ喰らってやる!」
「いや、ウソじゃないんだけど……」
 嘘かどうかなど、もう狼男には関係ないだろう。その眼は飢えている、襲う理由などどうでもいい。ただ若い女の柔らかい肉を喰らいたいだけだ。
 飛び掛かってきた狼男。躍動感の溢れる素早い動きだ。
 華艶は少し反応が遅れたが、躱すつもりのないので関係ないことだ。
 それは狼男に向かう力。
「炎翔破!」
 闇を照ら炎の玉が放たれた!
 猪突猛進で華艶に襲い掛かっていた狼男は躱すことができない。まるで自ら炎に飛び込むような格好だ。
「グォォォォォォッ!」
 炎の直撃を喰らった狼男は地面を転げ回った。早く消さなければ次々と毛に引火してしまう。
 しかし、華艶の放った炎は燃え移りながら毛だけではなく、肉をも焼いた。
 焼け焦げた異臭。
 ところどころに火傷を負った狼男は、足下をふらつかせながら立った。
「人間風情が……覚えてろ、次に合ったときは生きたまま内臓を引きずり出し、おまえの目の前で喰ってやる!」
 狼男が四つ足で疾走する。
 宿る炎。
「炎翔破!」
 逃がすものかと華艶は炎を放った。
「ギャアッ!」
 火は狼男の尻に火を付けた。
 だが、火はどんどんと遠ざかって行ってしまった。
 逃げられた。
 華艶は深追いせずに、地面で倒れている少女に駆け寄った。
「だいじょぶ?」
「……もう……わたしは……」
「ちょっと待ってて救急車呼ぶから!」
「わたしは……人間ではありませんから……救急車は不要です……」
 少女のまぶたが閉じそうだ。
 このとき華艶も少女に訪れるモノを悟っていたが、あきらめることはできなかった。
「あなた人間じゃないの!? そんなことどうでもいいや、とにかくそれならそれでいいから、診てもらえるとこあるでしょ教えて!」
「……それも不要です……もう長くはありません……」
「そんなこと言わないで!」
「初対面の方に……これを託すのは……しかし、わたしはもう守りきれない……ならあなたに……これを……」
 なんと少女は自らの股間から玉を産み落とすように出した!
 大きさはピンポン球程度。白く艶やかな玉だ。
 少女はその玉を手のひらに乗せ、華艶に差し出した。
「受け取ってください」
「えっ、な、なにこれ!? あたしどうしたらいいわけ!?」
 股間から出した謎の玉。華艶は明らかに混乱していた。
 少女はとても真面目な顔をしていた。その眼はすでに閉じられている。
「これを……届けて……」
「届けるってどこのだれに!?」
 少女の手から玉が滑り落ちた。
 力が抜けた少女。
 華艶は少女の躰を抱きかかえた。服が血まみれになろうが構わない。
「死んじゃダメ!」
 しかし、息がない。
 少女は息絶えたのだ。
 そっと華艶は少女を地面に寝かせ、落ちていた玉を拾い上げた。
 土などで汚れてしまった玉を服で拭いた。
「不思議な……宝石?」
 宝石のようだが、ただの鉱石ではなさそうだ。
「人肌みたいな温かさ」
 ずっと体内に収められていたからだけではない。それ自体が熱を発しているのだ。
 華艶は玉をポケットに入れて立ち上がった。
 そのときだった!
「捕らえろ!」
 夜の森に響き渡った勇ましい女の声!?
 物陰から二人のバニーガールが飛び出してきた。どう見ても死んだ少女の関係者だ。
 華艶は攻撃することもできず慌てた。
「ちょっと、待って、なにすんの、あっ!」
 左右の二人に片方ずつの腕を拘束され、三人目によって首には刀の切っ先を突き付けられた。
 三人目はほかの者とは異なり白い十二単[ジュウニヒトエ]の和風少女だった。
「此奴を連行しろ!」
 和風少女がほかの二人に命令した。
 華艶はなにがなんだかわからず混乱した。今さっきあった出来事ですら、整理がついていないというのに、あっという間に捕まり連行されそうになっている。
「あたしの話を聞いてってば!」
「月狼団[ツキオオカミダン]の話など聞く耳もたぬ!」
 和風少女は頑として聞かず、そのまま華艶は連行されてしまったのだった。

《2》

 目隠しと猿ぐつわをされたまま歩かされ、どこに連れて行かれるのかわからない。
 足を止められた場所で、立てた丸太のような物に背の方へ腕を回され、後ろ手に縄で結ばれた。両足も同じく結ばれる。
 華艶の力を使えば、いつでもすべてを燃やし尽くして逃げることができた。けれど、事を荒立てれば誤解は深まるばかり。抵抗もせず相手にされるがままここまでやって来た。
 そして、ついに目隠しと猿ぐつわが取られた。
 華艶は目をまん丸にした。
 満月に照らされる野外会場で、酒を酌み交わしながら、団子を食べているバニーちゃんたち。
 宴だ。
 月見の宴[エン]。
 団子に芋に女郎花[オミナエシ]などを供えられ、詩歌や俳句を呼んで楽しんでいる。
 日本の月見の風景なのだが、バニースーツはちょっと場違いだ。
 ただ一人、この中で浮かずにいるのは十二単の少女。先ほど華艶に刀を突き付けた手練[テダ]れだ。
 やっと猿ぐつわも外され、しゃべれるようになった華艶は、リーダーっぽい十二単の少女に話かけることにした。
「あのぉ、なんであたし捕まってるんでしょうか?」
「白々しい、妾たちの仲間を殺しておいて!」
「それをやったのは変な狼男みたいな奴で、あたしはあの子を助けようとしただけなんですけど」
「嘘をつくでない! お主の服についている血がなによりの証拠じゃ!」
 それは血まみれになった彼女を抱きかかえたときのものなのだが、説明したところで今は聞いてもらえそうにない。端っから疑われてしまっている。別の方向から無実を証明しなくてはならない。
 華艶は良い方法が思い付かず黙り込んでしまった。
 バニーの一人が十二単の少女に耳打ちする。
「かぐや姫様、こやつの格好もどう見てもおなごなのですが?」
「それがなんじゃ?」
「月狼団には男しかないは筈では?」
「な、なにーっ!?」
 驚くかぐや。
 ここでかぐやは考えを改めるのかと思いきや、考えを改めたのはバニーのほうだった。主君の間違いを正すのではなく、主君の間違いを正当化する。
「す、すみませんかぐや姫様! きっとこやつは、そう、えっと、今流行りの女装っ娘というやつなのでは?」
「女装っ娘じゃと?」
「そうです、おなごの格好をした男子のことです!」
「そうじゃったのか!」
 かぐや納得。
 その会話を呆気に取られ聞いていた華艶。
「あのぉ、あたし正真正銘の女子なんだけど?」
 そんな発言認めませんとばかりにバニーが再び猿ぐつわを嵌めた。
「騙されてはなりませんかぐや姫様! 今のは罪を逃れようとしたこやつの嘘です!!」
「う~ん、じゃがどう見てもおなごじゃ。うむ、脱がしてみよ」
 その命令に戸惑うバニー。ここで脱がしてしまったら男でないことがわかったしまう。けれど、姫の命令には逆らえなかった。
 縛ったままのため、服を短刀で切り裂いて無理矢理脱がす。
「ふぐっ……むぐぐ…むぐーッ!」
 華艶は謎の奇声を発して抵抗するが、制服が切られ、ブラが切られ、ついにはショーツまで切られてしまった。
 露わになった華艶の裸体を眺めながら、かぐやは明らかな疑惑を持った。
「う~む、妾よりは小振りじゃが、それはおなごの胸じゃろう?」
「いえ、違いますかぐや様! これは鍛えられた筋肉です!」
 明らかに無理な言い訳だった。
 かぐやは華艶の胸をつかんで揉んだ。
「筋肉にしては柔らかい」
「んっ……んふっ……」
 華艶の鼻から漏れる熱い吐息。
「それについている筈のものがついておらぬではないか?」
 かぐやの手が華艶の股間に伸びる。
 指は秘裂に触れるだけではなく、柔らかい穴の入り口に伸びてきた。
「あうっ」
「やはりおなごではないか」
 第二関節まで侵入してきた。
 漏れ出す愛液。
 無理矢理ではあるが、華艶は少し火照りを感じてしまっていた。犯されているというよりは、戯れに近い。
 バニーは『ニューハーフです!』と言いかけたが、やっぱりやめることにした。
「そのようで、本物のおなごでしたね」
「だとするならば、一つ疑問がある」
 と、かぐや。
 先ほどの疑問が振り出しに戻ったのだ。
 月狼団には男しかいないらしい。団員のひとりはあの狼男のことだろう。
「ニュ――」
 と、バニーが言いかけたとき、ほかのバニーがやって来た。
「大変です、ミナの躰から〈満珠〉が失われていました!」
 その発言を受けてこの場の視線が華艶に向けられた。
「ふぐっ、ふぐううぅ!」
 華艶は必死になにかを訴えようとしたが、猿ぐつわで話ができない。だが、おおよそ予想はつく。
 十二単を着ながら、その身の熟しは素早い。かぐやが抜いた刀の切っ先が、華艶の喉元に突き付けられた。
「〈満珠〉はどこじゃ!」
「ふぐぐぐふぐ!」
「言わぬなら拷問で吐かせてくれる!」
「ふぐーッ!」
 口を塞がれてては答えられない。
 バニーがそ~っとかぐやに気づかれないように、華艶の猿ぐつわを外した。
 一気に華艶が叫ぶ。
「〈満珠〉かどうかわかんないけど、あの子に託された玉なら服のポケットに入ってるし、あたし無実だし!!」
 すぐにバニーが地面に落ちていた華艶の服を調べた。
「ありました〈満珠〉です、無事です!」
 そこにまた別のバニーがやって来た。
「狼を一匹始末してまいりました!」
 かぐやは驚いた顔をした。
「なんと狼を! 褒美を取らそう」
「ありがたき幸せ。ですが、わたしが仕留めたときには、すでに狼は手負いで……まるで火で焼かれたように……」
 すぐに華艶がその話に割ってはいる。
「あたし、あたし、それやったのあたしーっ!」
 無実の罪を晴らすチャンスがやっと来た。
 華艶の肌が熱を発した。
「ちょっとみんな下がってくれる、危ないから」
 注意を促した華艶が炎を発した。
 全身から昇る炎。
 かぐやは微笑んだ。
「なんと美しい」
 宴を盛り上げるに相応しい炎。
 縄と丸太を燃やし、華艶は自由の身になった。
「この炎で狼男を追い払ったの。あの子は助けられなかったけど……」
 これでやっと無実が――証明されなかった。
 バニーたちは華艶を取り囲んで警戒している。
「こんな怖ろしい妖しい術を使うとは、絶対に敵に決まっております姫様!」
 あきらかに敵意を向けられている。またちゃんと話を聞いてもらえずに、振り出しに戻ることもありそうだ。
 しかし、かぐやは違った。
「そのおなごから離れよ。あんな美しい炎を操れる者が穢れているはずがなかろう。少なくとも、月狼の手の者ではない」
 かぐやは華艶の手を握って話を続ける。
「そちにはすまぬことをした。仲間があんな惨い仕打ちを受けて、冷静さに欠いておったのじゃ」
「誤解が解けたならそれでいいから、服弁償してくれる?」
 ニッコリ笑顔の華艶ちゃん。
「すぐに代わりの服を用意しよう」
 かぐやはバニーに服を持ってこさせた。
 バニーが持って来たのは、もちろんバニースーツ。
 とりえず華艶は差し出されたので受け取ってしまったが……。
「こんなの着て帰れないんだけどぉ。お金で解決でいんだけど、でも服ないと帰れないか」
 しぶしぶ華艶はバニースーツを来た。
 が、胸布と胸の間に隙間が!
「あのぉ、パッドあります?」
「ありません」
 と、バニーに断言されてしまった。
 華艶は周りのバニーたちの胸元を観察した。みんな巨乳だった。
 憂鬱な気分になった華艶はうつむきながら歩き出した。
「じゃ、あたし帰るんで、さよならお元気で」
 帰ろうとした華艶の背中にかぐやが手を伸ばした。
「待つのじゃ!」
「まだなにか?」
「狼を退ける力を持つそちに頼みがある!」
「断ります!」
 森で襲われたバニーは成り行きで助けたが、これ以上は関わりたくない。
「礼を弾むぞ?」
 そのかぐやの言葉で華艶の眼の色が変わった。
「報酬をいただけるなら、トラブルシューター華艶になんでもお任せ!」
 眼の中は完全に$マークだった。
 そして、華艶は宴の席に連れられて、酒を勧められた。
 周りは全部女だが、接待は悪い気がしない。
 愉しげな宴に見えるが、バニーたちの顔は少し暗い。
 落ち着いたところでかぐやが話しはじめる。
「今宵は中秋の名月。一年一度、この晩だけ、我ら月兎と月狼が戦う定めになっておる。我らは〈満珠〉を守り、狼はそれを奪おうと襲ってくるのじゃ」
 ちょうど華艶はその場面に居合わせたのだ。狼男は華艶の活躍にとって、〈満珠〉を奪えずに退散したが、あの娘の命は救えなかった。
 娘が命をかけてまで守る〈満珠〉とはいったいなんなのか?
 あの娘が持っていた〈満珠〉はかぐやの手のひらの上にあった。
「これは〈満珠〉という。月の力が蓄えてある我らの秘宝じゃ。〈満珠〉は我ら月兎だけが育てることができ、100年育てた暁には我らが女神を召喚できると云われておる」
 華艶が首を傾げた。
「育てるって?」
「〈満珠〉は入れ物ようなもので、そこに月の力を挿入してやるためには、我らの膣の中で育てる必要があるのじゃ」
「んじゃ、狼たちがそれを狙う理由は?」
「女神を召喚させんがため。それともう一つ、奴らはこの力を手に入れることにより、いつでも本来の姿に戻ることができるのじゃ。狼どもは普段人間の世界で人間として暮らしておる、それは本来の力が封じられておるからじゃ。狼どもが本来の姿を取り戻すためには月の力が必要で、弱い者ほど満月に近くなければ元の姿には戻れん」
「人間が狼男に変身するんじゃなくて、人間になっちゃてるのは呪いみたいなもんなの?」
「そういうことじゃ」
 話を聞いた華艶は依頼内容を察した。
「つまりあなたたちの護衛をしろってこと?」
「否、〈満珠〉その物を守って欲しいのじゃ」
「でも、え~っと、それって普段……ナカに入れてるわけでしょ?」
「そうじゃ」
「やっぱあなたたちごと守らなきゃいけないんじゃないの?」
「ここに一つ〈宝珠〉がある。これをそちの膣の中で守って欲しいのじゃ」
「はぁ~~~っ?」
 さっきの説明では、月兎の者だけが育てることができると言っていた。華艶までナカに入れる必要はないのではないか?
 華艶は両手を自分の前で広げて突き出した。
「ちょっと待った。守るのはいいけど、肌身離さず持ってればいいんじゃないの?」
「落とされたり、無くされては困る。膣の中がもっとも安全なのじゃ」
「異物挿入とかダメだって、そんなのただのプレイだし、入ったままなんて気持ち悪いじゃん!」
「まあそう言うな」
 かぐやが妖しい顔をして華艶を押し倒した。
 レオタードの隙間から股間に指が侵入してきた。
「あン」
「妾も入れておるが気持ちよいぞ」
「入れちゃ……だめぇン」
 口では拒んでいるが、積極的に逃げようとはしなかった。
 かぐやの指が肉芽に触れた。
「やぁン」
「少しほぐしてやらんとな。皆の者も手伝うのじゃ」
 バニーたちの瞳がギラっと輝いた。こちらは小動物なんかじゃない、肉食獣だ!
 慣れた手つきだった。バニーたちは華艶の肌を優しく摩り、緊張をほぐしながらマッサージをする。
 華艶の指がだれかに咥えられた。
「舐めちゃだめっ……あ……」
 指が舐められている。柔らかくて熱い舌が絡んでくる。
「やめて……指の間とか……手のひらもだめだって……ば……あふン」
 どうしてもいやらしい声が漏れてしまう。
 かぐやは華艶の股間から引き抜いた指を愉しげに見せた。
「こんなに糸を引いておる。そちも相当な好き者じゃな」
「そんなこと……ない……あうっ」
 浮いた胸の隙間から柔らかい手が侵入してきた。
 いくつもの手が華艶の肌を火照らせる。
 いつの間にか華艶のバニースーツは脱がされていた。
 バニーのぷっくりとした唇から、どろり唾液が華艶の躰に垂らされた。
 粘り気のある唾液をローション代わりに肌に練り込まれる。
 そのネメヌメした感触が華艶の感度を高めてくれる。
「あっ……あふ……ああっ……気持ちいい」
 ついにはっきりと口にしてしまった。
 かぐやは艶やかに笑った。
「もっと気持ちよくなるがよいぞ」
 かぐやの指が華艶の中に挿入ってきた。
 指は屈伸運動をしながら、淫らな壁を刺激してくる。
「あっ……あぅ……」
「今宵は年の一度の宴じゃ……そちも呑むが酔い」
 かぐやの言葉を察してバニーたちが華艶の躰に酒を流した。
 強い酒なのか、かけられた肌が熱い。
「これ以上は……あっ……炎の力が……抑えられなくなっちゃ…うっ」
「あの力か……ならば仕方あるまい」
 かぐやは少し名残惜しそうな笑みを浮かべた。
 そして、〈満珠〉を口に咥えたのだ。
 華艶の秘裂がバニーたちによって広げられた。
「ちょ……なに……だから……いれ……だっ」
 華艶は息を呑んだ。
 口移しされた〈満珠〉がぬるりと吸いこまれる。
 さらにかぐやの指で奥の奥まで秘奥まで……。
 満月は艶やかに妖しく輝いている。
 〈満珠〉は女の海に満たされたのだった。

《3》

 バニーのひとりが急いで買ってきたウサミミを装着した華艶。
 ちなみに購入店はラ・マンチャという深夜まで、もしくは終日営業のディスカウントストアで買ってきた。マスコットはペンギンだ。
 華艶の姿を見たかぐやは感嘆した。
「どこからどう見ても月兎団の団員じゃ、素晴らしい」
 胸には結局パッドを入れましたが。ちなみにこれも買ってきてもらった。
「……やっぱり恥ずかしいんですけどぉ?」
 華艶はぜんぜん乗り気じゃない。引き受けた仕事とはいえ、一般人にこの格好はキツイ。ちょっと勇気にいる格好だ。
 周りもかぐやを除いてこの格好をしているとはいえ、必要性がよくわからない。
 華艶は人指し指を立てた
「一つだけ聞きたいんだけど、こんな格好しなきゃいけない理由があるわけ?」
「趣味じゃ」
 かぐやが放った衝撃の一言。
「しゅ、しゅみって!」
 華艶は口ごもりながら突っ込んだ。
「嗚呼、妾の眼にはテレビで見たバニーちゃんの姿が、今も焼き付いておる。これほどまでに魅惑的な衣装があるか……否。まさにこれぞ我が月兎団に相応しい衣装じゃ」
 バニー姿でお月見は一般人のセンスではないだろう。
 しかも、本人はなぜか十二単。
 そこには突っ込まないことにした華艶。
「まっいいや。周りみんな着てるんだし、カムフラージュのためにあたしも同じ格好じゃないと……あれ、逆に同じ格好じゃないほうがいいんじゃない? 同じ格好してたら、〈満珠〉を持ってますって言ってるようなもんだし。あたし耳生えてない普通の人間だから、普段通りにしてたらわからないんじゃない?」
 たしかに。
 かぐやは首を横に振った。
「狼どもは〈満珠〉を嗅ぎ分けることができるのじゃ。どんな格好をしていても騙すことはできぬ。ならば同じ仲間として、そちにも格好をしてもらいたい」
「ならお姫様も着たら?」
「妾まで着たら、長としての格好がつかぬ。なによりバニースーツは着るより見るに限る……うふふっ」
「……もしかしてお姫様ってそっち系?」
「そっちとはどちらじゃ?」
「いや、いいです。今のは忘れてください」
 でも華艶はかぐやをそっち系だと認識した。たぶん周りもそっち系だ。だってあのテクニックは……。華艶は思い出しただけで濡れそうだった。
 急に場の空気が変わった。空気を変えたのは宴に会場に飛び込んできたバニーだった。
「姫様っ! 狼どもがすぐそこまで!」
「ついにここも嗅ぎつけられてしもうたか」
 かぐやは眉をひそめた。
 そしてすぐに、
「敵は何匹じゃ?」
 と尋ねた。
「二匹です、あれはおそらく悪名高い金狼と銀狼」
「よしっ、逃げるぞよ!」
 かぐやが大声で命令した。
 驚いたのは華艶。
「えっ、戦わないで逃げんの?」
 すぐにかぐやが答える。
「我らは戦いには慣れておらん。ましてや金銀兄弟となればなおのこと」
「でもお姫様はあんなすごい剣士なのに?」
 重く動き辛い十二単を着ていてもあの身の熟し。
 華艶の疑問にバニーがビシっと言う。
「もっとも守るべきかぐや姫様を戦わせるバカがいるかバカ!」
「あたしバカじゃなし、バカ! だってあたしを捕まえたときも刀抜かれたし!」
「それはかぐや姫様がちょっとお転婆なだけで、ちょっと目を離すとすぐに刀を抜いて自ら戦おうとして」
 そう言ったバニーの首筋には刀の刃が突き付けられていた。
「だれがお転婆なのじゃ?」
 かぐやは笑顔だが、その笑顔が怖い。
 こんなやり取りをしてもたもたしているうちに、ついに二匹の狼が宴に飛び込んできた。
 月明かりに照らされ、金と銀の毛が輝いた。
 金色の毛を持つ金狼。
 銀色の毛を持つ銀狼。
 兄弟の狼男が姿を見せた!
 逃げ惑うバニーの腕を金狼が捕まえた。
「旨そうな兎だ。俺様の魔羅で串焼きにしてやるぜ」
 毛に覆われ全裸の狼男の股間は、猛々しく満月に向いていた。
 同じく銀狼もすでに固く尖らせている。
「こっちの兎も旨そうだぜ兄じゃ」
 銀狼に捕まったバニーは網タイツを破かれてしまっている。
 仲間が捕まってもほかのバニーは逃げることに必死で、だれも立ち向こうとはしない。
 そんな状況になってしまうからこそ、かぐやは自ら戦いに向かう性分になってしまったのだろう。
 長として、守られるよりも、守りたい。
 刀を抜こうとしたかぐやの前に華艶が腕を伸ばして制止させた。
「ここはあたしが……ほかのみんなを守って逃げて。今度は絶対に助けるから!」
 思い出される森での出来事。
 駆けつけたときには手遅れだった。そうだとしても許せない。敵も、そして……。
 今なら救える、今なら間に合うのだ!
「双龍炎![ソウリュウエン]」
 華艶の両手から放たれた炎は、渦巻く二匹の龍と化して、尾を引きながら金狼と銀狼を呑み込もうとした。
「「ウォォォォォン!!」」
 二匹の猛獣が吠えた。
 金狼と銀狼の咆吼は共鳴し、巨大な振動を巻き起こす。
 それは月をも震撼させる強大な氣だった。
 華艶は自分の眼を疑った。
「炎が……掻き消された」
 振動波によって炎が跡形もなく消されたのだ。
 たしかに攻撃は無効化されたが、捕まっていた二人のバニーはどうにか逃げたようだ。
 金狼のギラついた眼が華艶を射貫く。
「おうおう、獲物に逃げられちまったじゃねェか」
 同じく銀狼もギラギラと眼を輝かせて華艶を見て舌なめずりをした。
「団子を喰い損ねちまった。兄じゃよ、どちらがあのメスの団子を喰らうか勝負しねェえか?」
「乗ったぜ弟よ。早い者勝ちだ!」
 金狼が股間を滾らせ華艶に襲い掛かってきた。
 銀狼の股間も負けてはいない。
 一対二の戦い。華艶は同時に対処しなければ、片方にヤられる!
「爆炎![バクエン]」
 華艶の手から放たれた――正確には10本の指から放たれた炎は、火山から噴き出した岩石のように、いくつもの炎の塊となって無差別攻撃をした。
 一つの炎を躱せば済む話ではない。これを防ぐのは至難の業である筈。
 金狼の肉棒が風船のように膨れ上がった。
「俺様のスペルマシャワーを浴びろ!」
 消防車の放水のように白濁液が噴射された。
 次々と消されていく炎。
 それだけではない華艶をも白濁液の塊が襲った。
「あっ!」
 華艶に当たった量は尋常ではなかった。その一撃で華艶の顔は隠されたのだ。
 べっとりと顔についた白濁液を振り払った華艶は見た。
 すでに銀狼がすぐそこまで迫っている!
「兄じゃのおかげで俺様が団子を頂くぜ!」
「なにィ、俺様が炎をすべて消してやったんだぞ!」
「そんなこと頼んでねェよ」
「そうはさせるか!」
 華艶の目と鼻の先で、銀狼が金狼に飛び掛かられ視界から消えた。
 敵が仲間割れしてくれたおかげで、華艶はピンチを切り抜けることが出来たのだ。
 すでにバニーたちの姿はない。無理をして華艶が戦う理由もなくなったのだ。仲間割れに乗じて、攻撃を仕掛ける理由もない。なぜなら、守ることが目的であって、戦うことは手段に過ぎない。
 華艶は全速力で逃げた。まだ狼男どもに気づかれていない。
 金狼と銀狼の鋭い視線が華艶に向けられた。
 気づかれた!
 華艶と狼男どもの距離はだいぶあった。華艶が必死に伸ばした距離だ。その距離が瞬く間に縮められていく。
 疾い。
 そのスピードは犬すらも凌駕する。
 人間は犬にも徒競走で勝てぬというのに、それ以上に疾い狼男が開いてでは絶望的だ。
 金狼は華艶に追いついただけではない。抜かして前に立ちはだかったのだ。後ろには銀狼、挟み撃ちをされた。
 やはり二対一は不利だ。その不利を跳ね返すほどの力が今の華艶にあるのか!?
 月光を反射した刃の煌めき。
「ギャアアァァッ!」
 叫び声をあげた金狼の背が血しぶきを上げた。
「兄じゃ!」
 銀狼が見せたその一瞬の隙を華艶は見逃さない。
 華艶は金狼から眼を離し、銀狼に向かって炎を放った。
「炎翔破!」
 隙を突かれた銀狼は反応が遅れた。
「グォッ!」
 直撃は避けられたが、腕と脇腹だ燃えた。
「今のうちじゃ!」
 そう叫んだのは物陰から現れ、金狼を斬ったかぐやだった。
 怯んだ狼どもを尻目に華艶とかぐやは共に逃げた。
 すぐに体勢を立て直した狼どもが追ってくる。
 駄目だ、すぐにまた追いつかれそうだ。
 かぐやが華艶の腕を引いた。
「抜けるぞ!」
「抜ける?」
 次の瞬間、景色が一変した。
 宴の舞台もなにもかも消えたそこは高架下だった。頭上には高速道路が通っている。
「どこここ?」
 華艶のそれは尋ねたと言うより、独り言に近い呟きだった。
「おぬしらがマドウ区と呼んでおる区域じゃ」
「ウソっ、いつの間に?」
「説明している暇はない、狼どもがすぐに追ってくる」
 すぐに目の前には深夜だというのに、交通量がそこそこある道路があった。
 華艶はタクシーを見つけて手をあげた。
「ツイてる!」
 すぐに華艶の前でタクシーは停車したが、明らかに運転手の目は呆気に取られている。
 華艶は十二単のかぐやを後部座席に押し込め、自分は助手席に乗り込んだ。
「とりあえずこのまま走らせて」
 タクシーが走り出す。
「お客さん、どこまで行きましょうか?」
 運転手はバックミラーや横目を使って、チラチラと華艶とかぐやのことを確認している。バニー姿と十二単の組み合わせはミスマッチだし、そんな格好をして時点で怪しく思われるの当然だ。
 華艶は少し顔を紅くしながら、『衣装には触れるなよ』オーラを出した。
「行き先はどこでもいいから、とにかくこの場所から離れて」
 こんな注文をしたら余計に怪しまれる。
 タクシーの運転手はバックミラーを見た。
「このまま行くと駅……なんだあれ?」
 かぐやを見ていた運転手は、そのずっと後方にほかのモノを見た。
 すぐに華艶もサイドミラーで確認した。
「マジで……運転手さん速度上げて!」
 四つ足の魔獣が車の速度に追いついてくる。金狼と銀狼だ。
 運転手はすぐに察した。華艶の言葉にあった『この場所を離れて』と、後ろから追ってくる謎の影を見た途端に『速度上げて』ときたら、明らかに追われているとしか考えられない。
「お客さん厄介事に巻き込まれるのはごめんですよ。降りてくれませんか?」
「べつにいいけど、車止めたとたん運転手さんも奴らに喰われるけどいい?」
 ニッコリ笑顔の華艶ちゃん。凄まじいプレッシャーを放っている。
「なら警察を呼ぶのは……?」
「それは困る」
 と、口を挟んだのはかぐやだった。
「妾たちの抗争に帝都政府は介入せぬことになっておる。じゃが、末端の警察組織に事情を説明して、事を口外するのはあまり好ましくない」
 それは華艶とっても新情報だった。
「帝都政府公認なの?」
「公認ではない、黙認じゃ。あまり事を騒ぎ立てると、さすがに介入してくるじゃろうな」
 と言われましても、すでにタクシーの後方では騒ぎになっている。
 金狼が飛び乗った車が急ブレーキを踏み、後続車がそれに激突した。
 その様子をサイドミラーで確認した華艶は、溜め息を漏らした。
 騒ぎが大きくなると、かぐやたちも困るだろうが、華艶も困る。警察に捕まれば、当然のこととして法的に罰せられるからだ。
「騒ぎが大きくなると、困るのは狼男たちも同じはずだよね? なんであいつら遣りたい放題なの?」
「本来の姿に戻ると凶暴性が増すのじゃ。さらに今宵は中秋の名月、もっとも一年で力が増すときなのじゃ」
 ドスン!
 華艶たちの乗るタクシーの屋根が音を立てた。
 何かが屋根を歩いている。そしてフロントガラスの前に姿を現した銀狼!
 驚いた運転手がハンドル操作を誤り、タクシーが蛇行した。
「ちゃんとハンドル握って!」
 華艶の叱咤が飛んだ。
 反対車線に飛び込んでしまったタクシーの前方から、ヘッドライトが急速に近付いてくる。
 運転手はブレーキを踏んだ。パニック状態による明らかな判断ミスだった。
 豪快な音を立てて車が正面衝突した。
 車内を襲う激しい揺れ、華艶の顔面に激突したエアバッグ。
 完全に沈黙した車。
「マジサイテ~……かなり痛かったし」
 華艶は打ち身や首の捻挫を負ったが、その程度は怪我がすぐに治る。問題は残る二人だった。
 運転手は側頭部から血を流して気絶している。
 かぐやは後部座席でぐったりしていた。
「うう……死ぬかと思ったわ」
 弱々しい言葉だがまだ生きているらしい。
「お姫様、後部座席でもちゃんとシートベルトしましょうね」
「シートベルトとはなんじゃ?」
「まさかはじめて車に乗ったとか?」
「この形の車は初めてじゃ」
 ではどんな形の車なら?
 まさか牛車なんてことは?
 突然、後部座席ガラスに衝撃音と共にヒビが入った。
 銀狼だ!
 砕けずヒビだけで留まっていたガラスが、二度目のパンチによって穴が開いた。銀狼は穴の縁を両手で引っ張りこじ開ける。
「まさか姫さんの団子を喰えるとはな!」
「うぬに喰わせる団子などない!」
 かぐやは刀を抜こうとしたが、狭い車内では素早く抜けない。抜けたとしても振るえないだろう。
 すでにシートベルトを外していた華艶が後部座席にダイブした。
「火拳![ヒケン]」
 かぐやの上を飛び越えて華艶の炎を宿した拳が銀狼の顔面にヒットした。
「ギィヤァァァァッ!!」
 顔面を押さえながら銀狼が後方に吹っ飛んだ。
 この隙に早く車内から出なければ!
 後部座席のドアを開けようとしたが開かない。すぐに明らめ華艶は銀狼が割ったガラスから外に出た。
「お姫様も早く!」
 華艶は車内のかぐやに手を伸ばした。
 その手を掴んで車内から引っ張り出されながら、かぐやは華艶の後方に目をやった。
「狼が立ち上がるぞ!」
 華艶は敵に背を向けている。
 銀狼がアスファルトを蹴り上げようとしたそのとき!
「弟よ引け、引け引けーッ!」
 金狼の声が木霊した。
 狂気を浮かべながら銀狼が金狼を睨む。
「なぜ止める!」
「サイレンの音が聞こえないのかバカめッ! これ以上騒ぎを起こせば帝都政府に狩られるぞ!」
「うるさい、目の前の獲物を捨てられるか! 帝都政府だろうとなんだろうと、狩って喰らってやる!!」
「餓狼様のお言葉を忘れたのか!」
 その言葉で銀狼は躰を打ち震えさせながらも、戦闘態勢を解いた。
 すぐに銀狼は無言でこの場から姿を消した。
 そして、金狼が遠吠えをあげる。
 二匹の狼男は姿を消した。
 ただの獲物ではない。姫を目の前にして引かざるを得ないとは、餓狼とはいったいどのような存在なのか?
 遠くからやってくるパトランプ。
「あたしたちも警察の厄介になる前に逃げなきゃ。行こお姫様!」
 華艶はかぐやの手を取って走り出した。

《4》

 バニースーツと十二単で街をうろつくわけにも行かず、目立つ行為も控えたいことから、華艶はかぐやを連れてビジネスホテルにやって来た。
 部屋に入った華艶はベッドに飛び込んだ。
「あ~っ、疲れた」
「すまぬな、巻き込んでしまって」
 かぐやは少し苦しげな表情をしていた。
「だいじょぶ巻き込まれたなんて思ってないし。だってこれ仕事だし!」
 キャッシュマークを瞳に浮かべる華艶。すべては金のため!
 華艶は起き上がってあぐらをかいた。
「でもこれからどうしようかな。着替え調達する暇もなかったし、やっぱ目立っちゃうから着替えないと……」
「バニースーツを脱ぐのかえ? 本当に脱いでしまうのかえ?」
「ちょ、ちょっと、そんな哀しそうなウサギみたいな目で見ないでよ!」
 非常に着替え辛い。
 それに今はまだ着替えがないので、しばらくはこのままだ。
 せめて外す機会が今までなかったウサミミを取ろうと、手を掛けたのだが――やはり同じような瞳をされた。
「外すのかえ? 我らは仲間ではなのかえ?」
 潤んだまん丸な瞳を向けられた華艶は折れた。
 仕方が無く華艶は何もせずに、ベッドに仰向けで寝転がった。
 華艶は仰向けになった。
「疲れたから10分くらい休憩。そのあとでこれからのこと考えよう?」
「そんなに疲れたと申すなら、妾がそちの躰を丹念に揉みほぐしてしんぜよう」
「ちょ……」
 慌てる華艶。
 かぐやの眼が妖しく光った。
 ただのマッサージとは思えない。
「よいよい、遠慮するでない。妾とそちの仲ではないか?」
「いつからそーゆー仲になったんでしょうか?」
「今宵は宴じゃ、存分に楽しもうぞ」
「ダメだって、マジでダメだから、あたし感じ過ぎちゃうと炎の力が制御できなくなっちゃうの!!」
 叫んだ華艶を見ながら、かぐやは子供のように唇を尖らせた。
「つまらん。妾は退屈じゃ、退屈じゃ退屈じゃ~」
「すねないでよ」
「なら触らせてくれるか?」
「だからそれはダメだって」
「危なくなったらやめればよかろう?」
「途中で……あたしのほうがやめれるかどうか……」
 自信がない。
「つまらん。妾も寝る!」
 かぐやがベッドに飛び込んで来た。
「えっ、あたしの横に、そんなに接近にしないで……」
「妾に床で寝ろというのかえ?」
「そーゆーわけじゃないけど」
 近すぎる。身の危険を感じる近さだ。
 華艶はかぐやに背を向けて横になった。
 そして、ボソッとつぶやく。
「女子相手にドキドキさせられるなんて……」
「なにか言ったかえ?」
「いえ、なにも!」
 例え手を出して来なくても、かぐやがこんな近くにいたら気が休まらない。
 華艶は仕方なくベッドから起き上がろうとしたとき、股間に手が伸びてきた。
「ちょっ、だから!」
「よいではないか、よいではないか、うふふ」
「あんたは悪代官かっ!」
「ほかにすることもないのじゃから、よいではないか」
 華艶は一気にベッドから飛び降りた。
「やることならほかにあるから! たとえばこれからどうするかとか!」
 もう華艶は必死だ。狼から身を守るだけはなく、かぐやからも身を守らなくてならない。
 またかぐやは拗ねた。プイッと華艶に背を向けてしまった。
 華艶はおでこを押さえて溜め息をもらした。
「だからさぁ、すねないでってば」
「妾はそちと淫らなことがしたいのじゃ」
「なっ……直球。べつにあたしとじゃなくても……」
「妾は勇敢で強いおなごが好きなのじゃ……そちのような」
 惚れられた!
 すぐに華艶は窓まで後退して身構えた。
「べつにあなたのこと嫌いなわけじゃないんだけど、ノーマルだからダメ!」
「接吻だけでよい。唇を交わしてくれさえすれば、もうわがままは言わぬ」
 華艶は悩む。
「ほ、本当にもうわがまま言わない?」
「嘘は言わぬ」
「じゃあキスだけだからね。本当にキスだけだからね!」
 言った瞬間、飛び起きたかぐやが目にも留まらぬ早さで、華艶に抱きつき唇を奪った。
 舌が這入ってきた。華艶がオーケーを出したものとはちょっと違う。こんな濃厚なことをされるなんて。
 柔らかい舌が動きながら淫らな音を立てる。
 華艶の舌が吸われた。
 硬直していた華艶の躰から力が抜けた。
 華艶は受け入れてしまったのだ。
 舌と舌が絡み合う。
 華艶はかぐやの背に手を回した。優しく抱きしめる。
 もう華艶はうっとりと目をつぶって、流れに身を任せてしまっていた。
 かぐやの手は華艶の髪を優しく撫でながら、耳やその後ろを巧みに触ってくる。
「んっ……」
 華艶の鼻から熱い息が漏れた。
 そして、かぐやは約束を破った。
 かぐやの手によって華艶の尻が揉まれた。
 驚いた華艶は目を開いて口を離そうとしたが、そのまま強引に後ろに押されて唇を奪われた。
 激しい舌遣い。
 華艶は窓際に押しつけられて、股間にまで手を添えられた。
「……んっ……だめ……」
「本当に嫌ならもっと抵抗すればよかろう?」
「あっ……だ……」
 華艶は抵抗しなかった。
 レオタードの上から指が股間に食い込んでくる。
「あっ……そんな……んっ……」
 唇で唇を塞がれ、言葉もしゃべられてもらえない。
 割れ目をなぞる指。レオタードの上からなので、力を入れてなぞられている。そのため、グイグイと割れ目に食い込んでしまう。
「んっ!」
 華艶は躰を振るわせた。少し漏らしたような、濡れてしまった感覚があったのだ。
 火照った躰は愛液を漏らしてしまう。
 華艶の躰は最後まで受け入れる準備ができてしまった。
 布地を挟んで肉芽が強く引っかかれた。
「あうっ」
 躰がビクッと震えた。
 続けざまに何度も何度も肉芽が布越し弾かれる。
「んっ……んっ……んんっ……」
 華艶の太股が痙攣した。立っていられいられない。かぐやに抱きつき身を任せた。
「好きなときに昇天してよいのじゃぞ」
 耳元で囁き、かぐやはそのまま耳を舐め回した。
 華艶の躰のゾクゾクが止まらない。
 これ以上は駄目だと思った華艶はかぐやを押し離そうとした。
 だが、かぐやは力強く離さない。
 もっと抵抗できた筈だ。思いっきり押し飛ばすこともできた筈だ。
 華艶は快楽に負けた。
「あっ……はっ!」
 ビクっと躰を硬直させた華艶は、そのまま力が抜けかぐやにもたれ掛かった。
 イカされてしまった。
 呼吸が乱れて言葉も出ない。
 かぐやは微笑んでいた。
「今の表情、とても好かったぞ」
「はぁはぁ……ばかぁ」
「気が強く見えるのに、その実はまことに可愛いのぉ」
「……炎が暴走しなかったらいいものを……マジでヤバイと思ったんだから」
「おそらく大丈夫だと思うておった。そちの体温があまり上がっておらぬかったからな」
「え?」
 華艶も気づいた。火照りは感じるが、熱いというほどではない。
 かぐやは軽く華艶の唇を奪い、顔を離すと話をはじめた。
「〈満珠〉を入れる前の行為では、そちの体温が急激に上昇して危険を感じたが、今はそのようなことは起こらなかった。おそらく〈満珠〉によって、そちの炎の力が幾分か抑えられておるのじゃろう」
「えっマジ!? だったらえっちし放題じゃん、やった、これで心置きなくえっちができる!」
「ならば続きでもするかの?」
「えっ……いや……あたしノーマルだし。それとえっちできるのは嬉しいけど、炎の力が抑えられてるのってマズくない?」
 今は狼男どもに狙われている身。超人的な奴らに対抗するには、相応の力が必要だ。
 華艶は戦いを思い出した。双龍炎は掻き消され、ほかの炎も致命傷を与えるまでには至らなかった。それに華艶の予想が正しければ――。
「狼男たちってもしかしてスゴイ再生力持ってる?」
「その通りじゃ、傷はたちどころに癒える。力ある狼であればあるほど、その力は絶大じゃ」
「やっぱり」
 たとえ炎の力が抑えられていても、顔面に火拳を喰らった銀狼がすぐに立ち直ったのは、気合いだけの問題ではないと思っていたのだ。
 華艶は悩んだ。
 えっちを取るか炎を取るか!
 気持ちが高ぶると炎が制御できなくなるのは、華艶にとって最大の悩みと言ってもいい重大な問題だった。けれど、いつかは返さなくてはいけない秘宝だ。
「やっぱ中に入れないで戦ったほうが……」
「なにをじゃ?」
「〈満珠〉だっけ? あのタマタマ」
「そちには言うておらんかったが、実は膣の中がもっとも安全だという理由のほかに、体内に入れる収めることによって、月の加護を得ることができるのじゃ」
「月の加護?」
「狼どもを滅する力じゃ」
「でも炎の力は抑えられちゃうわけで」
「月の加護がなければ、どんな致命傷を与えようとも狼は復活するのじゃ」
 つまり〈満珠〉を守ることが第一だが、狼男を倒す助けにもなるということだ。
 ここで華艶は今まで忘れていたことに気づいた。
「あたしはいつまで〈満珠〉を守り抜けばいいの?」
「日が昇るまでじゃ。陽光を浴びた狼どもは再び呪いで人間の姿となる」
「でもさ、そのあとも狙ってくるわけでしょ?」
 人間の姿でも襲ったり、捕まえたりすることはできるだろう。それにまた夜になれば狼男に戻れる。
 しかし、かぐやは、
「それはない」
 と断言した。
「なんで?」
「年に一度だけ、狼が我らを襲ってよいのは、この晩だけと協定が結ばれておるのじゃ」
「そんなの破られるかもしんないじゃん?」
「ただの口約束ではない。妖術によって結ばれた協定じゃ、奴らとて破るのは容易ではない」
 人間社会の戦争にもルールがある。兵器の使用制限や、捕虜の扱いなど。それを守るのは戦争はあくまで殺し合いではなく、正統な主張があるということになっているから。けれど、他国の眼を気にしなければ、そのルールも必ずしも守られるものではない。
 あの凶暴な狼男どもが、倫理によって協定を結んでいるとは考えづらい。抑止となる力があるに違いないだろう。
 妖術の力か、帝都政府か、それとも餓狼と呼ばれた者の存在か?
 いずれにせよ、協定は有効なのであれば、華艶の仕事は日の出と共に終わる。
 この時期の日の出はおよそ5時半。まだ4時間以上ある。
「んじゃ、あたしとお姫様はここでじっと身を潜めてるか、もっと遠くまで逃げちゃえばいいとして、ほかの仲間と連絡取れないの?」
「妾はケータイを持っておらぬ」
 ケータイとは、十二単の純和風の少女の口から出るとミスマッチな言葉だ。
 華艶は胸の間からケータイを出した。ポケットがないので、仕方なくここに入れていた。サイフもいっしょだ。
「仲間の連絡先は?」
「知らぬ」
「ですよねー」
 あきらめて華艶はケータイを再び胸の間に入れた。
 華艶はベッドに腰掛けた。
「じゃあ、敵のこととか、お姫様たちのこととか聞かせて」
「帝都はこのような都じゃ、全世界から狼が集まってくる。じゃが、我ら月兎団と争っておる月狼団はそのごく一部。ざっと二〇匹ほどではないかの?」
「……全世界からって、この街に狼男ってそんなにいたんだ。友達の友達の友達くらいにならいそう」
「やつらは昼は人間と変わらぬ姿をしておるからな、知らぬ間にすれ違っておるかもしれぬぞ?」
 冗談ではなく、この街ではそんなこともあるだろう。
 華艶はかぐやのウサミミを指差した。
「すっごい気になってたんだけど、その耳って本物?」
「本物じゃ、触ってみるかえ?」
「やっぱりお姫様たちも人間じゃないんだ。じゃ、ちょっとだけ」
 優しく華艶はウサミミに触れた。すると、かぐやが躰をビクッとさせた。
「あぁン」
「変な声出さないでよ」
「繊細な器官じゃからな、感度もよいのじゃ」
「てか、本当に耳なの?」
「いや、耳ではない」
 かぐやは髪をかき上げ、側頭部についた人間と同じ耳を見せ、そのまま言葉を続ける。
「ほれ、耳ならここにある。こちらは触覚じゃ、僅かな音や気配を感知することができる……何か来るぞ!」
 ウサミミが小刻みに動いた。
 次の瞬間!
 激しく砕け散った窓ガラス!
 本能で華艶は瞬時に伏せていた。
 野生の気配。
 部屋に飛び込んできた二匹の魔獣。
 執拗な狩人は金狼と銀狼だった。
 銀狼の血はすでに滾っている。
「今度は逃がさねぇぜ」
 ドロリとした唾液を落とした銀狼。
 華艶は硝子片から守るために伏せていた顔を上げた。その瞳には危機が映し出された。
「お姫様!」
 かぐやを捕らえている金狼。その牙が白い首筋に突き付けられている。
「動くな、姫さんが死ぬぜ?」
 言われなくても華艶は動けない。
 ピンチに追い込まれた華艶は、為す術もなく唇を噛みしめた。

《5》

 金狼はかぐやの首に牙を突き付けながら銀狼に目を向けた。
「姫の団子は俺がもらうぜ?」
 すぐに銀狼が噛み付く。
「なに言ってやがる、姫の団子は俺が喰う!」
「てめェこそなに言ってやがる。今姫を捕まえてるんの俺だろ!」
「そういう作戦だっただけだろうが。俺がガラスを割って、兄じゃ姫を捕らえるって」
「ならジャンケンで決めるぞ」
「おうよ、望むところだ」
 そして二人は声を合わせて!
「「最初はグー、ジャンケンポン!」」
 金狼が出したのはチョキ。
 銀狼が出したのはパー。
「……負けた」
「バカだなてめェいつもパーばっか出しやがって、頭もパーだな!」
「んだとォ!」
「やるかコラ!」
 2匹が揉めはじめたことによって、金狼の牙がかぐやから離れた。
 その隙を突いてかぐやの肘鉄が金狼の脇腹に炸裂!
 が、金狼は余裕の笑み。
「痛くも痒くもねェな」
 逆に痛みを覚えたのはかぐやのほうだった。まるで鉄板に肘を打ったような感覚だった。金狼の全身は硬い筋肉によって守られているのだ。
 銀狼が華艶の腕を掴んだ。
「兄じゃの顔を立てて姫さんは譲ってやるよ。代わりにこっちを貰うぜ」
「好きにしろ、おまえが終わるまで待っててやるよ」
 金狼は下卑た笑みを浮かべた。
 人質を取られていては、抵抗することもできなかった。華艶は躰を強ばらせて、唇をきつく結んだ。
 銀狼の股間は信じられないほど滾っている。
 ドクドクと脈っている肉棒は華艶の腕ほどもある。鈴口からドボドボと先走り汁が漏れ出し、その量は挿入られただけで妊娠しそうだ。
 華艶が一歩後ろに逃げた瞬間、銀狼の巨体が覆い被さってきた。
 押し倒されてしまった華艶は、全身を押さえられて躰をよじらすことしかできない。
「マジ死ね! その汚い粗チンをあたしの中に入れたら、絶対にあとで切り刻んでやるから!」
「威勢のいい兎だ……この耳作り物か?」
「今ごろ気づいたのバーカ!」
「団子の臭いに気を取られてたが、臭いも人間のメスだな。どうして人間が団子を入れてやがる?」
「ペッ!」
 華艶は答えずにツバを吐きかけた。
 銀狼は口の端についた華艶のツバを舐め取った。
「てめェみたいなメスを犯すときが1番興奮するぜ!」
 鋭い爪で銀狼は網タイツを残しバニースーツをビリビリに破いた。ジワジワと切り刻み、恐怖心を徐々に煽るような真似をしなかった。一瞬にして見るも無残に切り裂いたのは、圧倒的な力を誇示するためだ。
 形の良い胸を揺らしながら華艶が身をよじった。
「やめて!」
「うるせーな!」
 銀狼は華艶の髪の毛を掴み上げ、顔を上に向かせると、巨大な舌を伸ばしてきた。
 口を結んだ華艶だったが、銀狼は舌までも筋肉質で、無理矢理口をこじ開けられて舌の侵入を許してしまった。
 生臭さが口いっぱいに広がり、鼻から抜ける。
 舌を絡めるなんて生やさしいものではなかった。まるで軟体動物が口の中で暴れ回っているみたいだ。
 華艶は銀狼の舌を噛み切ってやりたい気分だった。けれど、かぐやに目をやると、なにもできなくなってしまう。
 かぐやもまた辱めを受けていた。
 首筋を舐められ、背中では硬い肉棒が擦られている。なによりも辛いのは、自分事よりも華艶の辱めを見なくてはいけないことだ。
 かぐやは顔を背けようとした。けれど、金狼の手がそれを許さないのだ。強引に華艶のほうに顔を向けられてしまう。目をつぶろうとすると、まぶたを無理矢理こじ開けられる。
 拷問だった。
 たとえ目をつぶることができても、この部屋にはすでに牡の臭いと、熱気が充満してしまっている。
「やめて、退いてってば!」
 華艶の悲痛な声も聞こえてくる。
 かぐやは逃げられなかった。華艶を通して己を責め続けなくてはならないのだ。
 責められる華艶。
 体中を舐められても抵抗することができない。
 顔や耳や首を唾液でグショグショに濡らされる。まるで料理の下ごしらえをされているみたいだ。
 初々しい華艶の肌は、普段ならば水を弾くが、このネットリした唾液は、体中に纏わり付いて悪臭を放つ。
 銀狼は脈打ちながら反り返る肉棒をしごきながら、若く柔らかい肉に舌を這わせ続ける。
 堪らず華艶は目を閉じて顔を横に向けた。目の前の銀狼だけではない。自分を見つめるかぐやの顔を見たくなかった。
 目をつぶると肌が敏感に舌を感じてしまう。
 そして、ときおり肌に当たる硬いモノ。見なくてもそれを感じてしまう。それはドス黒い悪意と欲望の塊だ。
 今それは腹のあたりを押している。硬くて熱い。臍のくぼみに当たった。
 華艶は唇を噛みしめた。
 恐怖や悲しさはない。ただ華艶の胸の中で渦巻いているのは悔しさ。
 華艶の躰を這うのは舌や肉棒だけではない。獣の全身に生えた長めの毛が、肌をくすぐるのだ。
 執拗な舌の責めで敏感になってしまっている肌は、普段ならこそばいはずなのに、今は毛で触れられるとゾクゾクと感じてしまう。
 抵抗も出来ず、最悪なことに感じてしまっていること、それが華艶は悔しく堪らなかった。
 鍛えられているが、柔らかさも残した華艶の二の腕が舐められる。そこから腋の方へと舌が動く。
「そんなとこ舐めないで!」
 銀狼はニタッと笑った。
 相手が恥ずかしがるほど感情が高ぶる。
 舐めるなと言われたら、丹念に舐める回す。
 腋のくぼみに舌が這入った。
「すげェしょっぱいな」
 感想まで言われては華艶は耐えられない。屈辱と恥辱で顔が真っ赤になる、
 華艶の腋は銀狼の言葉の通り。じっとりと汗をかいてしまっていた。
 目をつぶっていた華艶の頬が突然殴られた。殴ったモノは手などではない。硬く太く棒のようなモノだった。
 ペシッ! ペシッ!
 弾みを付けながら銀狼は肉棒で華艶の頬を嬲っていたのだ。
 叩かれる度に臭いがそこに残る。イカ臭いあの臭い。
 銀狼は腰を振って肉棒で華艶を嬲りながら、腹や臍に舌を這わせ、一度離したかと思うと、足の指を咥えてきた。
 親指がしゃぶられる。指と指の間や爪の間まで、汚れを落とすように綺麗に舐められた。
 そして、足の裏。
「あうっ」
 華艶の躰は跳ねた。くすぐったさとはまた違う感覚。
 足の裏からふくらはぎ、太股の裏を舐められ、向かうところは容易に想像できた。
 華艶は脚を閉じようとした。けれど、強い力で無理矢理こじ開けられてしまう。
 股の間に銀狼に顔が埋まった。
 恥毛が引っ張られた。
「痛いっ」
 思わず声が出てしまうほど、強く上に引っ張られたのだ。毛根から根こそぎ抜かれそうだ。もう何本かは抜けてしまっただろう。
 毛ごと恥丘の皮を引っ張られて、秘裂を伸ばされる。
 さらに銀狼は両手を使って恥毛を左右に引っ張ったのだ。
「やめて!」
 悲痛な叫びも虚しく、秘裂が口を開けた。
 粘液の糸が引いている。
 華艶はそれを見られて狂いそうになった。
 開かれて丸見えになった肉の穴から、透明でとろりとした愛液が漏れてしまっている。
 銀狼は歓喜した。
「すげェ力だ、今まで喰ったことがないすげェ力を感じるぞ!」
 愛液を漏らしながらも、まだ入り口は窄まって閉じている。その奥に銀狼は強大な力を感じたのだ。
 銀狼は華艶の躰を無理矢理裏返して、腰を引き上げて四つん這いにさせた。
 華艶は固く目を閉じた。
 尻の谷間に肉棒を擦りつけられているのがわかる。もう寸前だ。挿入られる寸前なのだ。
 自分の腕を同じ太さのモノが挿入るわけがない。
「やめて……入れたら……入れたら……」
 言葉が出ない。
 肉棒の先端が入り口に当てられた。
 華艶は必死に力を入れて最後の抵抗をする。
 グイグイと肉棒が押される。それでも侵入を許さない。
 しかし、その攻防は長く続かなかった。
 そんな場所に長く力を込めたことの華艶は、すぐに限界を迎えてしまったのだ。
 一気に吐き出された息と共に入り口が揺るんだ。
「ぎゃっ!」
 華艶は眼を剥いた。
 ギチギチと肉棒が体内に押し込まれてくる。
 入り口は避けてしまったに違いない。酷い痛みだ。はじめてのときですら、こんなには痛くなかった。
 銀狼は強引に腰を振りはじめた。
「どうだ、俺のファロスの味は格別だろ!」
「痛いっ……痛いっ……早く抜いて……お願いだから」
「そうか、抜いて欲しいのか……なら」
 ズブズブと肉棒がゆっくりと抜かれていく。
 カリが入り口に引っかかった瞬間――一気に突いた!
「ぎゃっ!」
 激しい裏切り。
 抜かれる寸前から、奥の奥の地獄まで突かれたのだ。
 突かれる度に中の〈満珠〉が子宮を突き上げる。
 華艶はぐったりと頬を床につけ、口から涎を垂らした。
 痛くて堪らない。
 肉棒が引かれる度に肉壁が引きずりだされて、捲れ上がるんじゃないかと思うほど、きつくて痛い。
「もう……やめて……」
「まだだ、まだ俺のファロスは限界に達していない!」
「死んじゃう……いや……ああ……」
「俺のファロスで団子を喰らってやる!」
 無理矢理拡張された華艶の穴は、だんだんと緩く滑りがよくなっている。このまま責められたら、穴が元に戻らず開いたままになりそうだ。
 銀狼は自分の両手に涎を垂らし、華艶の胸を鷲掴みにして揉みはじめた。
 唾液を練り込まれる胸は、柔らかそうに動き、そのまま蕩けてしまいそうだ。
「あっ……んっ……」
 苦しいのに甘い声が出てしまう。
 胸を溶かされながら桃色の乳首がコリコリッと指で弄ばれている。
「んっ……んっ……」
 口を必死に結ぶが、鼻から漏れる息は止められない。
 華艶は手で口と鼻を押さえた。
「ん……ん……」
 音は小さくなったが、それでも漏れてしまう。
「もうやめてくれ!」
 叫んだのはかぐやだった。
 華艶の代わりにかぐやは泣きながら訴えた。
 しかし、銀狼はさらに腰を動きを早めたのだ。
「うるせーな、兄じゃそっちもヤッちまえよ!」
「そうだな、俺も限界だ」
 金狼は肉棒をしごいたいた手で、今度は十二単を脱がそうとしてきた。
 かぐやは必死に身をくねられて抵抗する。
「妾に触れるな穢らわしい!」
 悲痛なかぐやの叫び。
 その声も今の華艶には届かなかった。
「あっ……あぅ……あぁン……」
 だんだんと声が大きくなってしまっている。
 肉棒の滑りもよく、愛液が止めどなく溢れてしまう。
 華艶の躰から玉の汗が滲み出す。
 躰が熱い。
 秘奥が熱い。
 熱は外に放出されるのではなく、どんどん内にこもっていく。そうだ、膣口の辺りに熱が集まっていくのだ。
 銀狼の爪が華艶の胸に食い込んだ。
 滲み出す血。
 その血は驚くべきことに、床に落ちて一瞬にして煙を昇らせ蒸発したのだ。
 華艶の異変にも気づかない銀狼は、狂ったように腰を振った。
「イクぞ、イクぞ、イクイクイクイクーッ、この力もらったぞ!」
 ドボボボボボボッ!!
 より硬くなった肉棒が一気に噴き出した!
 刹那に砕け散る〈満珠〉。
 邪悪な力を浴びて〈満珠〉の封印が破られたのだ。
「ウォォォォォォォォォッッッン!!」
 響き渡る魔獣の咆吼。
「力が漲って来るぜ、俺は喰らってやったぜ、このメスの団子を喰らってやった!」
 ヌポッ!
 抜かれた肉棒はまだ白濁液を噴いていた。
 ドビュビュビュッ、ドビュビュビュビュビュビュッ!!
 部屋中にまき散らされる白濁液が牡の臭いを放つ。
「すげェ力だ、俺は最高の力を手に入れたんだ。今なら餓狼にも勝てる、だれにも負ける気がしねェえ!」
 まだまだ噴きだし続ける白濁液。
 弟に白濁液をかけられた金狼は怒りを滾らせた。
「糞野郎! 汚ねェもん俺にまでかけてんじゃねェよ!」
「糞兄じゃ! これでも喰って口閉じてろや!」
 銀狼はあろうことか金狼の口目掛けて、白濁液を飛ばそうとした。
 が、しかし!
 急に銀狼が肉棒を握って苦しみはじめた。
「ううっおおおぉぉぉっ!」
 白濁液の放射もピタッと止まった。
 1秒ほど間を置いた次の瞬間!
「ギャァアアアアアアッ!」
 絶叫と共に銀狼の肉棒が、白濁液の替わりに炎を噴いたのだ!
 肉棒を向けられてた金狼にまでその炎を及んだ。
「ギャアアガガアアアッ!」
 顔が焼かれる。
 弟の肉棒が放った炎によって顔が焼かれたのだ。
 金狼は急いで顔を叩いて炎を消しながら、痛みと混乱で床を転がり回った。
 その隙にかぐやが逃げた。いや、逃げたのではない。武器を手に取ったのだ。
 壁に立てかけてあった刀を取ると、抜くと当時に床に転がる金狼の腹に振り下ろした。
「ギィヤアアアアァッッ!」
 刀は脇腹から臍まで食い込んだ。背骨で止まったのだ。
 これほどまでの深手を負いながら、金狼は立ち上がったと同時に走った。
 そして、そのまま窓の外へと飛び出したのだ。
 逃げられた。
 かぐやはすぐに華艶を抱き起こした。
「無事か!」
「どう……にか。てかさ、さっきも思ったんだけど、ここ3階なんだけど」
 入ってくるときも、出て行くときも、その窓からだった。
 銀狼は白目を剥きながら床に倒れ、躰をビクビクッと痙攣させている。意識はないのかもしれない。舌は自分で噛み切ったようで、半ばまで裂けてしまっている。そして、その股間からは肉棒が消失していた。
 かぐやは華艶を一度床に寝かせ、銀狼を見下して立った。
「灰となるがよい」
 振り下ろされた切っ先は床ごと銀狼の心臓をひと突きにした。
 それが〈満珠〉の――月の力なのか。
 銀狼の躰が石化していく。
 そして、やがて石にはヒビが入り、脆くも崩れて灰と化した。
 かぐやは刀を置いて華艶の上に跨るように覆い被さった。
「すまぬ、こんな酷い目に遭わせてしまって」
「お姫様のせいじゃないし……でも、なにこの体勢?」
「詫びの印じゃ」
 かぐやは華艶と接吻した。
 驚きはしたが、華艶はそれを受け入れた。
 かぐやの唇はとても優しい。狼とは比べものにならないほど、優しく温かかった。

《6》

 華艶はブルーな気分でベッドの上に体育座りしていた。
「あ~ぁ、変な空気に呑まれてキスだけじゃなくて……許しちゃったし。マジで落ち込む、あたしノーマルなのに」
 かぐやは今、華艶と交代してシャワールームを使っている。こっちまで歌声が聞こえてくる感じだと、かなり上機嫌らしい。
 あっちが上機嫌だと、こっちは余計にへこむ。
「女子同士でじゃれ合ってジョーダン程度ならアリだけど、キスくらいなら友達とならぜんぜんオッケーだけど……はぁ」
 さらに問題はほかにもあった。
 割れた窓ガラスと、そこでシーツにくるまれて放置されているアレ。シーツの中身は灰の塊だ。
「屍体が残ってないだけマシだけど、血痕とセーシはそこら中に残ってるし。チェックアウトしないで逃げるべきか……でもそれだとマジで犯罪者だし。プロの掃除屋呼ぶしかないかなぁ、高いんだけどなぁ」
 掃除屋とは裏社会の掃除屋だ。裏社会で掃除屋と聞くと、ヒットマンを思い浮かべるかも知れないが、こちらは部屋を綺麗にしてくれる正真正銘の掃除屋である。ただ、今呼ぼうとしているのは、証拠隠滅を専門にした掃除屋だ。
 客が要望する隠滅度合いによって料金は変わり、掃除場所などの難易度も料金に反映される。帝都には神の掃除師と呼ばれる者もいるらしく、迷宮入りどころか、発覚すらしてない事件が大事件があるらしいと囁かれている。
「狼男が失踪したら捜索願い出るのかな? そもそも国籍とか持ってるわけ?」
 あとから事件沙汰にならないのであれば、とりあえず表面的にだけ綺麗にしてしまえば、事件にはならない。
 仕方がなく華艶はケータイを取り出した。やはり知り合いの掃除屋に呼ぶことにしたのだ。
 通話とメールでのやり取り、写メなどを送り、最後に前払いの出張費をケータイから相手の口座に振り込んだ。
 これでしばらくしたら掃除屋が来るだろう。
 一仕事終えて華艶がぼーっとしていると、やっとかぐやがシャワールームから戻ってきた。身なりは完璧に整っている。
 整っていないのは華艶のほうだ。まだすっぽんぽんだった。
 パジャマが用意してあったのだが、いざっというときは着たまま逃げることになるので、窃盗になってしまう。事件沙汰をよく起こす華艶だが、なるべく法に引っかかって捕まらないようには気をつけているのだ。グレーゾーンを渡っていると、小さな罪でも足下を掬われてしまう。
 とは言っても、ピンチのときは細かいことなど気にしてられないが。
 かぐやは自分の着ていた一枚を華艶に差し出した。
「着るがよい、寒かろう」
「ありがと!」
 はじめからそうするつもりだったが、華艶は相手から言ってくれると嬉しい。
 華艶は十二単の一枚を着ると、長い裾が邪魔だったのでそれを捲り上げて短く縛った。帯もなかったので、縛ると固定されて丁度良い。リボン付きのワンピースのようだ。
「さてと……じゃあ、行こっか?」
「これは付けぬのかえ?」
 ちょっと寂しそうな瞳をして、かぐやが差し出したのはウサミミだった。
「……つけます」
 仕方なくウサミミも装着した華艶。ずっとかぐやのペースだ。
 これで準備は整った。
「さてと、改めて行こう」
「どこにじゃ?」
「決めてないけど、ここにずっといるわけにも行かなくなっちゃったし」
「そうじゃな。では参るとしよう」
 ドアに向かって歩き出すかぐやの腕を華艶が掴んだ。
「ちょっと待って、そっちはダメ」
「ん?」
「え~と、あたしにおんぶされてくれる?」
「妾は一人で歩けるぞよ?」
「いいから、すぐ終わるから」
「よかろう」
 首を傾げながらかぐやは華艶に背負われた。
 華艶はそのまま屈伸運動をして、深く呼吸をして覚悟を決めた。
「しっかり掴まっててね。絶対離しちゃダメだからね」
「そちから離れはせぬ」
「なんか言い方が……まあとにかく行くからね!」
 華艶は一気に助走をつけて窓枠を飛び越えた。
 落ちる落ちる、3階からアスファルトの地面まで落ちた。
 地面に足をつけた華艶は、衝撃に耐えきれず膝と手を付いた。
「イッターッ! マジ死ぬ、マジ死ぬし、痛いし、死ぬし、マジで痛いし、マジで絶対何本もイッタてか、粉砕したし」
 苦痛に耐える華艶。
 心配そうにかぐやが顔を覗き込んだ。
「大丈夫かえ?」
「大丈夫です。まだ快感の余韻が残ってて力が……じゃなくて、とにかく治りは早いんでだいじょぶですから」
 華艶はかぐやを下ろして立ち上がった。
 そして、歩き出した。
「行こっ、お姫様」
 ニッコリと笑みを浮かべた華艶。額の脂汗が拭えていなかった。それでも問題なく歩くことはできる。
 その様子を見ながらかぐやは心配そうだ。
「本当に大丈夫かえ?」
「治癒能力の高さは狼男の専売特許じゃないんで」
「そちもそうだと申すのか?」
「ちまたじゃ〈不死鳥〉の華艶なんて呼ばれてたり。治癒力の高さと炎があたしの売りなの」
「益々そちが気に入った」
「あ……りがとう」
 気に入られるのは嬉しいが、ちょっと……これ以上は……。
 二人は駅に向かって歩いていた。電車はもうないが、タクシーならいるはずだ。
「あのさ」
 と華艶がかぐやに顔を向けて話しはじめた。
「さっきどうやって助かったのか、ちょっと記憶が曖昧だったりするんだけど。なんかいつの間にか銀色のほう燃えたし、金色逃げたし」
「おそらく〈満珠〉の力じゃろう」
「あっ、ごめんねあたしの守れなくて」
「気にするでない、そちが殺されずに済んでよかった。妾もこのとおり、〈満珠〉と共に無事なのはそちのおかげじゃ」
「おかげって言われても、とくになにもしてないんけど~……」
「いや、そちのおかげじゃ。〈満珠〉がそちの炎の力を吸って、あのような現象が起こったのじゃろう」
 銀狼が男根から噴き上げた炎は、華艶の力だったと言うのだ。
 ということは、〈満珠〉とは特定のエネルギーを溜める器ではなく、様々な力や能力を奪い放出するということになる。
 そこで華艶はある心配事に行き着いた。
「あたしの力が……ってことは、〈満珠〉に不純物が混ざっちゃったってことだよね」
「そういう言い方もできるな」
「問題ないわけ? 別の力が混ざっちゃったらダメじゃないの?」
「わからぬ。そういう例を聞いたことがなかったのでな」
「だって……さっき一回お姫様の〈満珠〉をあたしに……」
 思い出して華艶はへこんだ。
 多くは語らないが、じつはさきほど、一時的にかぐやの〈満珠〉を華艶に入れたのだ。
「妾はそちの生命を子宮で感じておるぞ。幸せじゃ、幸せじゃ」
「だからそれがマズイんじゃ? だってやっぱ不純物が混ざっちゃダメでしょ?」
「気にするな。熟成の期間は100年ある。100年熟成できぬから、今も我らは〈満珠〉を育てておるのだ」
 その言葉は彼女たちの生存率の低さを意味していた。
 華艶は悲痛な顔をした。
「あたしが守ってあげるから」
 真剣な眼差しを向けられ、かぐやは目を伏せてしまった。
「そちはよくしてくれた。もうよい、巻き込んで悪かった」
「まさかここでお別れとか言わないよね?」
 華艶はかぐやの顔を覗き込んだが、かぐやはまた別の方向に顔を向けてしまう。
「協定には外部の力を借りてはいかんという事項はなかったが、おそらく今回のことで向こうもなにか言ってくるかもしれぬな。来年からは新しい事項は加えられるかもしれん」
「でも今年はまだ違うんでしょ? 絶対守るから、せめて今年だけでもお姫様のこと守らせて、お願い」
「お願いするのは妾のほうじゃ。しかし、そちのことをもう巻き込みとおない」
「あたしの躰奪っといてやり逃げするつもり? 責任取ってよ!」
「なっ!」
 かぐやは思わず言葉を失った。
 そして、かぐやはふっと微笑んだ。
「今宵が明けるまで共に過ごそう」
「そうと決まれば愛の逃避行!」
 スキップしてどんどん前に進んだ華艶の背に、かぐやが声を投げかける。
「あまり遠くにはゆけぬぞ」
「え?」
 振り返った華艶にかぐやは言う。
「協定で帝都政府の監視の目が行き届くところ、つまりこの街からは出られぬのじゃ」
「協定協定ってなんなの?」
「古くからある協定じゃ。時代と共に事項は変化しておるが、根底にあるのは互いの種の存続。協定は月兎団と月狼団との間で結ばれておるが、時代と共にその間に帝都政府が介入してくるようになった。我らも奴らも、生きるためには介入を許さざるを得ない状況じゃった。我れはそれで助かる面も多いが、狼どもの中には反発しておる者も多いらしいな」
「ヤルかヤラれるかって感じなのにルールがあるなんて変な感じ」
「我らを犯し〈満珠〉の力を奪おうとする奴らとて、その力を得ようとする限り、我らをすべて根絶やしにするわけにはゆかぬのじゃ。そのために、熟成期間の短い〈満珠〉は狙われにくく、逆に長いものは次から次へと狼どもが嗅ぎ分けてくる。合戦がこの日だけと決まっておるのもそのためじゃ」
 話ながら歩いていると駅が見えてきた。すでに改札口はシャッターが閉まっているが、近くのタクシー乗り場には1台だけ停まっていた。
 すぐに華艶たちはタクシーに乗り込んだ。
 華艶は行き先をまだ決めていなかった。
「できるだけ遠くに行ったほうがいいのかな?」
「行った先に狼がいるやもしれぬ。どこに逃げても同じじゃ」
「なら運転手さん、ホウジュ駅までお願い」
 ホウジュステーションは、帝都に3つあるギガステーションの1つだ。普通電車のほかに、リニアモーターカーの乗車駅でもある。
 走り出した車内で華艶はかぐやに説明する。
「あの辺りは24時間眠らない街だから、ひともいっぱいいるとこなら奴らも迂闊に襲ってこないでしょ?」
「たしかにそうじゃが、我らは人間にとって異種族、あまり人間の目に触れるのは好ましくない」
 十二単にウサミミ。かなり人間の目を引くだろう。
 すでに運転手からは変な目で見られていた。ハッとした華艶はすかさずフォローした。
「ただのコスプレですから! ほら、耳だって取れるんですよ、ねっ、ねっ!」
 華艶は自分のウサミミを付けたり外したりしてみた。そしてさらに畳み掛ける。
「キャラになりきってトークしてるだけですから! 別に変な人とかじゃないですから、ただのコスプレイヤーですから!」
 あまりに必死過ぎる。その必死な剣幕に恐れて運転手はなにも言えなくなった。
 そして、華艶たちも言葉を控えることにした。

 だいぶ夜明けも近くなって来た。
 24時間眠らない街と言えど、ショッピングモールなどは閉まっている。服を調達したかった華艶としては、どうするか悩むところだ。
「この格好だと目立っちゃうしなぁ」
「なら人の少ないところにゆけばよい」
「ここに来た意味ないし。あっ、そうだ」
 華艶はビル街脇の歩道を歩き出した。
 駅前から少し離れ、やがてやって来たのは、ディスカウントストアのラ・マンチャだ。
「ここならなんでもあるし」
 ――と、時間をかけて選んだ服を買い、同じ店内で着替えるのはマズイので、近くのゲーセンのトイレで着替えた。
 そして、着替え終わった華艶の姿は?
「……正真正銘の学生なのに、学生コスって」
 華艶が選んだのは学生服だった。選んだと言うより、選ばれたというほうが正しい。
 まったく同じ制服姿のかぐやはニコニコとして上機嫌だ。
「これでそちと妾は学友じゃ、うふふ」
 かぐやは学生服のほかに、大きめの帽子を被っている。これでウサミミを隠した。かぐやのウサミミが隠されると、華艶のウサミミも外すことが許された。
 夜明けまでの時間は1時間強。服を買うほかに、あの店でだいぶ時間を費やした。かぐやがアレコレと店を見て回った結果だ。
 華艶たちは残りの時間をゲーセンで過ごすことにした。
 帝都エデンは〝あくまで〟日本国内ということになっており、その法律は基本的には日本国に準ずる。だが、特別行政自治区という扱いになっているため、型破りな条例なども多い。
 この街は欲望に忠実だ。
 そのため、24時間営業のゲームセンターも多い。けれど、18差未満や学生にたいして、深夜の利用を禁止していることになっているが、それもこの街ではあまり意味のないものだ。
 華艶は店員とすれ違ったが特になにも言われない。
 かぐやは華艶の腕を引いた。
「妾はあれがやりたい」
「プリクラ?」
「そうじゃ、テレビや噂では聞いておったが、この目で見るのははじめてじゃ」
「もしかしてゲーセンもはじめて?」
「そうじゃ」
 二人はプリクラを撮ることにした。
 はじめてのプリクラにかぐやは、何枚か視線が合わなかったが、よく撮れた1枚の表情は無邪気な子供のような笑みで写っていた。
 そして、かぐやはその1枚を過多なの鞘に貼った。
 楽しい時間はあっという間の過ぎていく。
 二人はその後もいろいろなゲームを楽しんだ。
 かぐやの鞘にはUFOキャッチャーのぬいぐるみが結びつけられた。
 このまま何事もなく過ぎ去れば、夜が明ける。
 敵に狙われていることすら忘れかけていたときだった。
 店内のどこかで悲鳴があがった!
 すぐに華艶は身構えて辺りを見回した。
「こんなとこにまで……違うよねきっと?」
 かぐやは帽子を脱ぎ捨てウサミミを立てた。
「感じるぞ、狼の気配だ。じゃが、まさかこんな人間の多い場所に姿を現すとは信じられん」
 どこからか悲鳴にも似た女の声が聞こえてくる。
「いきなり男の人が怪物に!」
 人間の姿から、おそらく狼男に変わったのだろう。
 華艶がUFOキャッチャーの上を指差した。
「あそこ!」
 まさにそれは狼男の姿。
 血塗られた黄金の毛を逆立てている金狼。その腹の傷は痕を残して塞がっていた。
「探したぞ炎術士と兎姫。弟の仇は伐たせてもらうぞ!」
 執念深い狼は、人で溢れるこの街にまで追ってきたのだ。
 巨大な口からドロリと涎が落ちた。

《7》

 金狼の狙いはかぐやよりも華艶だ!
 鋭い牙で襲い掛かってきた。
 華艶は一先ず逃げた。
 炎は高い攻撃力を誇るが、場所を選ぶ。店内で炎を使うことは躊躇われた。
 しかし、かぐやの刀は違う。
 金狼が間合いに入った刹那にかぐやは刀を抜いた。
 抜刀による一撃は金狼の腹の毛を斬った。だが避けられた。
 格ゲーのアーケード機の上に乗った金狼。それを追ってかぐやは横の機に乗った。
 刀を薙ぎ、金狼が躱したと同時に振り下ろす!
 また避けられた!
 肉を断てなかった刃は、代わりにディスプレイを断った。25センチは刃は入っている。凄まじい切れ味だ。
 それを見ていた華艶は、
「やりたい放題だなぁ」
 法律の下にいちよういる華艶はやりたくでもできない暴れっぷりだ。
 今度は金狼が攻めた。
「てめェはあとで可愛がってやるから大人しくしてな!」
 金狼はかぐやの懐に飛び込んだ。
 近すぎて間合いが取れず刀が振るえない!
 そのまま金狼はかぐやを押し倒して床に叩きつけた!
 馬乗りになった金狼の牙の間から落ちた涎がかぐやの顔を穢した。
 かぐやは手首も床に押さえつけられ、刀を持ち手がまったく動かせない。
 ついに華艶が動いた!
「火拳――」
 力の強い相手に接近戦は危険だ。だが、店や、なによりかぐやに当たる可能性を考えると、炎を飛ばすことはできなかった。
 華艶は片手に炎を宿して拳を喰らわすのではなく、炎を宿した両手の指を組んで金狼の背中に落とした!
「落とし!!」
 強い衝撃を喰らった金狼はかぐやに覆い被さり、その背中を燃やした。
「グォォォォ、炎術士め喰らってやる!」
 金狼は背中で華艶を押し飛ばして立ち上がった。
 同時にかぐやの手首も解放されていた。
 頭に血の昇った金狼はかぐやの動きに気づいていない。
 鞘を両手で握ったかぐやは目の前の肉に突き刺した!
 しかし、野生の本能が働いた金狼は身をよじらせて急所をずらした。
「グググググ……よくも刺しやがって、二度も二度も俺の肉を許さねェぞ!」
 刃は胸から背中を突き抜け、肋骨の間に引っかかっていた。
 かぐやは刀を動かそうとするが動かない。
 なんと、金狼が刀を素手で握ってへし折った。
 折れた刃を抜いた金狼は、そのままかぐやの太股に突き刺した。
「大人しくしてろ!」
「ぎゃぁぁぁっ!」
 眼を剥いて刃を食いしばったかぐや。激しい激痛と負傷でその場に倒れたまま動けなくなった。
「お姫様!」
 叫んだ華艶が金狼に飛び掛かった。
 靴を気にしている場合でもなく、華艶は足に炎を宿した。
「火炎蹴り!」
 カートを巻き上げながら蹴りを放った。
 が、その高く上げられた足は金狼によって捕まってしまった!
 金狼の下卑た視線はスカートの中を覗いている。華艶はその中に何も穿いていなかった。
「ノーパンとは気が利くな。そんなに俺の棍棒をブチ込んで欲しいのか?」
「うっさい、パンツ買い忘れただけ!」
 華艶は軸となっている片足を浮かせ、躰を捻りながら蹴りを放とうとした。
「火炎蹴り!」
 しかし、その足までも捕らえられてしまった!
 巨体の金狼に両足首を掴まれ、吊された華艶はY字開脚をさせられてしまった。
 完全に捲れてしまったスカート。脚を広げられ、割れ目までくっきりと見られてしまう。
「いい眺めだ」
 開かれた股を視姦された。
 すぐさま華艶は片手で股間を押さえ、もう片手に炎を宿した。
「炎翔破!」
 近距離から放たれた炎の球はもろに金狼の顔面を焼いた。
「ウォォォォッ、この程度の炎に俺が負けるかッ!!」
 金狼は炎が消えるまで耐え抜いた。
 頭は禿げ上がり、顔に生えていた毛も一本たりとも残っていない。無惨な醜いケロイドを晒しながら、金狼は狂気の笑みを浮かべたのだ。
 華艶は言葉を失った。逃げることや、動くことさえも忘却させられた。
 肉棒から垂れた汁が華艶の股間に落ちた。
 金狼は掴んでいた脚を引っ張り、華艶の股間に顔を埋めた。
「しょんべんの臭いだ。おまえさっきしょんべんしただろ?」
「う、うるさい!」
 学生服に着替えるとき、ついに用を足していたのだ。そんな臭いを嗅ぎ分けられてしまった。
 恥辱で華艶は顔を赤くした。
 華艶は炎を繰り出そうとしたが、股間をひと舐めされて躰が震えて忘却してしまった。
 秘裂の間に舌が割って入ってくる。太くて硬い舌だ。それで嬲られてるのだ。
 さらに硬く細くされた舌の先端で肉芽を弾かれる。
「あっ……あっ……」
 その度に震える華艶の肉体。じっとりとした汗が滲む。
 硬く長い舌は淡いピンクの花弁の中にまで侵入してきた。人間の舌の長さでは到底ありえない、奥の奥まで舌が這入ってくる。そして、敏感な部分を舌の先で突かれるのだ。
「あぁン!」
 愛液と唾液が大量に混ざり合い、華艶の腹や尻の谷間を這い落ちる。
 その混合汁はナメクジが通ったあとのように糸を引きながら、華艶の腹を穢し、胸の谷間を通ってのど仏まで来た。
 顎を少しずつ登ってくる汁。華艶は口をキュッと結んだ。混合汁は下唇に軽く振れ、鼻の頭を擦りながら床にボトボトと落ちた。
 一度落ちはじめると、その勢いは止まらない。
 華艶の躰を這った混合汁が玉をつくりながらボトボトと落ち、床に汁溜まりをつくる。
 恥ずかしさで華艶は悶えた。
 その汁溜まりはすべて自分の愛液ではないとわかっている。そのほとんどは金狼の淫らな涎に決まっている。しかし混ざってしまえばわからない。まるで自分が漏らしたような錯覚に陥るのだ。
 肉壁を舌で執拗に舐め回され、さらには獣の鼻で肉芽を刺激されていた。
 熱い鼻息が肉芽に吹き掛かっているのだ。
 どれほどまでにその魔獣が興奮しているか、その吹き掛かる鼻息で華艶は感じてしまう。嫌でも感じてしまうのだ。
 その鼻息は嵐のような鼻息だった。
 猛風と共に荒々しく動かされる鼻先。
「あっ……あン……いっ……だ…だめ……鼻で……」
 充血しきった肉芽は実を晒し、臭いを嗅がれながら嬲られている。
 華艶は耐えられなかった。
「いやっ……だめ……いっ……いっ……」
 絶頂をひたすら我慢している。
 苦しくて苦しくて堪らない。
 イッてしまえばどんなに楽だろうか?
 この苦しみが大きな快楽へと変わるのだ。
「あっ……いっ……うっ……あああっ……クリで……イカされ……だっ……めぇン!!」
 内臓にキューンと衝撃が襲い、華艶は躰を強ばらせた。
 イカされてしまった。イカされて、まだ嬲られてる。
「やっ……あぅ……もう……ああっ……」
 肉芽でイカされたばかりだというのに、中を荒々しく責められている。
 躰の震えが止まらない。快感が止まらない。
「うっ……おかしく……おかしくなっちゃ……うぅぅぅ!」
 華艶は宙づりにされながら、何度も何度も身をよじらせた。
 胸が揺れ踊り、汁か汗か、なんだかわからないものを飛び散らせる。
「いっ……く……またイッ……ちゃう!!」
 ビシャーッ!
 咲き乱れる花を彩る噴水。
 またイカされ華艶はぐったりとしたが、これで終わりの筈がない。
 金狼は華艶の躰をグルッと持ち上げて、顔と顔が向き合う形に抱いた。
「咽まで突き刺してやるよ!」
 華艶の躰が叩き落とされた。
 そう、魔獣の肉棒に叩き落とされたのだ。
 グサッ!
「ぎゃああああっ!」
 華艶の絶叫。
 ズーンと奥の奥まで轟いた衝撃。
 その激しい衝撃と痛みは、金狼の言葉通り咽まで突き刺されたのかと、錯覚するほどだった。
 華艶は腰を掴まれ、まるでオナホールのように扱われる。肉の塊――生きた人間を相手にしている行為ではない。金狼に肉棒を突き刺しているのは、ただの肉玩具なのだ。
 苦しみ悶えながら華艶は自分を取り戻そうとしていた。
 魂の炎を灯せ。
 快楽による炎ではなく、魂の炎を燃やすのだ!
 熱を帯びる秘奥。
「ギャアアッ!」
 肉棒に強烈な熱さを感じた金狼は、華艶の躰を抜こうとした。
 しかし、華艶は力強く金狼の背に腕を回していた。指は毛を掻き分け、肉に食い込んでいる。決して華艶は放さないつもりだった。
「爆烈火![バクレッカ]」
 華艶の全身が炎を出して小爆発を起こした。
 飛び散る炎。
 金狼の身を焼いた。
「この程度の炎で俺の魂を焼けると思うなーーーッ!!」
 絶叫しながら金狼は華艶を手放し床に膝をついた。
 鳴り響く火災警報。
 ぐったりとした華艶は這いながらその場から逃げた。
 火はやがて治まり、金狼は黒こげになって膝を付いたまま動かない。
 華艶は金狼に目を呉れることもなく、かぐやの元へ向かおうとしていた。
「はぁ……はぁ……だいじょぶ、お姫様?」
「駄目じゃ……歩くこともできず、意識も朦朧としておる」
「早く病院に……ッ!?」
 凄まじい鬼気で華艶は身を強ばらせた。
 カッと見開かれた金狼の眼。
 魔獣はまだ死んでいなかったのだ。
「喰らってやる……骨まで喰らってやる……」
 なんと全身を焼かれながら、金狼は灰を溢しながら立ち上がったのだ。
 華艶はなんとか立ち上がった。
 だが、膝が震えてしまっている。
 華艶が手に炎を宿そうとしたときだった。二人の警察が銃を構えて突入してきた!
「動くな!」
 野生の獣が人間の言葉に耳を傾けるのか?
 答えはその牙で表した。
 華艶をその場に残して瞬時に動いた金狼は警察官の首を噛み千切った。
 横にいた警官は顔に返り血を浴び、銃を撃とうとしたが指が振るえて引き金が引けなかった。
「ギャアアアア!」
 悲鳴をあげたその警官も銃を撃てずに首を噛み千切られた。
 この隙に華艶は我を取り戻し、かぐやを背負って店外へ逃げようしていた。
 すぐに金狼が気づいた。
「飯の途中に席を離れやがって!」
 金狼が四つ足で床を蹴り上げた。
 ひとっ跳びで華艶の真後ろまで迫ってきた。
 華艶は一瞬振り返ったが、足を止めることなく開いた自動ドアの外に飛び出した。
 空がエメラルドに輝いている。蒼い夜が明けようとしているのだ。
 道路を横切ろうとした華艶たちに金狼が飛び掛かる。
「逃げられると思ってやがるのかッ!」
 飛び掛かってきた金狼の鋭い爪がかぐやの背を裂いた。
「キャアアアアッ!!」
 苦悶な叫び。
 飛び掛かられた反動で華艶もろとも地面に倒れてしまっていた。
 肉棒が涎を滴らせた。
 華艶はすぐにかぐやを道路に寝かせ、立ち上がると同時に金狼に飛び掛かった。
「昇焔拳![ショウエンケン]」
 拳に炎を宿してアッパーカットを放った。
 華艶は息を呑んだ。
 燃える拳を金狼は躊躇なく鷲掴みにしていた。手や腕が燃えることを厭わない。華艶を逃がさないとする執念だ。
 絶望しかけた華艶だったが、天は彼女に味方した。
 まさにそれは天の助けだった。
 金狼の背に伸びる影。
 陽に照らされた金狼の躰が縮んでいく。
 筋肉が収縮し、肉棒までも萎え、人間の姿へ変貌していく!
 華艶は勝ちを確信した。
「喰らえ!」
 それはただの拳だった。
 たかが人間に華艶は炎を使わなかった。
 華艶の拳を喰らった金狼は、掴んでいた華艶のもう片方の拳を離してぶっ飛んだ。
 人間の姿に戻っても体躯はよかった。けれど、今までのダメージはすべて蓄積され、脆弱になった肉体はそれに耐えきれなかった。拳ひとつで勝ったわけではなかったのだ。
 金狼は意識があったも立ち上がることも、腕一本動かすこともできなかった。
 かぐやはアスファルトに手を付いて上半身を起こした。
「終わったのじゃな、長い夜が……ッ!?」
 しかし、その眼が見開かれ、ウサミミが震えた。
 黒いコートを羽織った人影。
 だが、その顔は人に非ず。
「餓狼!」
 かぐやが叫んだ。
 陽の下では狼男の姿ではいられないはず!
 華艶はパニックに陥った。
「せっかく助かったのに、なんであいつ狼男の姿なの!?」
 かぐやは重々しい口を開く。
「餓狼はこれまで幾度となく〈満珠〉を喰らった狼。その力はほかの狼どもとは比べものにならず、日下ですら本来の姿でいられるのじゃ」
 やっとの思いで金狼を倒したというのに、それよりも強大な魔獣が現れるとは……。
 もう華艶は笑うしかなかった。
「あ~あ、疲れた。もうウチ帰って寝たいんですけど、てかガッコーなんですけどー」
 戦意は喪失された。
 そして、かぐやも覚悟を決めていた。
「妾の〈満珠〉もこれまでか……」
「まだだ」
 低い声が響き渡った。口を開いたのは餓狼だ。
「まだ、貴様の〈満珠〉は喰らわん、もっと熟してからだ。それにもう夜は明けた、俺は宴の始末をしに来たに過ぎん」
 王者の風格は鬼気となって辺りに風を吹かせた。
 餓狼は虫の息の金狼を見下した。
「貴様は我が一族の面汚しだ」
 刹那!
 餓狼の手が金狼の心臓をえぐり出した。
 眼と剥いて金狼は死んだ。
 握りつぶした心臓が血を飛び散らせたと同時に、金狼の肉体は灰と化して散った。
 無言で立ち去る餓狼。
 その背中をかぐやと華艶は見えていることしかできなかった。
 朝日が目に染みる。
 月見の夜は終わったのだ。

 事件から数日後、華艶のマンションに宅配便が届いた。
 大きな段ボール箱だ。
「通販とかしてないし……だれからだろ?」
 差出人の記入欄には〝卯佐美かぐや〟と書かれていた。
「まさかお姫様から!?」
 夜が明けて事件が解決したあと、警察のお世話になりかけて大変で、バタバタしているうちにかぐやと別れてしまった。
「報酬も貰い損ねたし……もしかして宅配便で報酬を? この段ボール箱が金銀財宝の入った宝箱に見えてきた!」
 ウキウキしながら華艶はさっそく段ボールを開けた。
「なっ!」
 なんと中身は大量のニンジンだった。
「い、嫌がらせ……?」
 手紙も添えてあった。
 ――先日は世話になった。あの恩は一生忘れぬ、これは礼の気持ちだ受け取ってくれ。生で食しても美味いが、熱を通すとさらに美味いぞ。かぐや
「……あたしニンジン嫌いなんですけどー」
 この後、華艶はニンジンを食べることも捨てることもできず、全部腐らせて掃除屋を呼ぶハメになったのだった。

 月見合戦(完)


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